説明

真空浸炭装置及び浸炭ガスの温度調節方法

【課題】ワークにおける浸炭むらや、スーティングの発生を抑制する真空浸炭装置及び浸炭ガスの温度調節方法を提供する。
【解決手段】真空浸炭装置1は、液体炭化水素を気化して真空浸炭炉30内に供給される浸炭ガスを予熱する予熱部40と、予熱部40により予熱された浸炭ガスの温度を測定する温度センサ50と、温度センサ50により測定された温度に基づいて予熱部40を制御して、浸炭ガスの温度を所定範囲に保持する制御部60とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体炭化水素を気化して生成された浸炭ガスが真空浸炭炉内に供給される真空浸炭装置及び浸炭ガスの温度調節方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品、建設機械部品などの製造に用いられる鋼材には、所定の表面硬さを確保するために、浸炭処理が施されている。かかる浸炭処理を行なう方法としては、例えば、浸炭ガス雰囲気中において、減圧条件下でワーク(処理品)に浸炭処理を施す真空浸炭法が挙げられる。
【0003】
前記真空浸炭法は、複雑な形状のワークに対しても高温で短時間の処理が可能であるという利点がある。このような真空浸炭法として、シクロヘキサンなどの液体炭化水素を気化した気化ガスを浸炭ガスとして用いる真空浸炭装置が提案されている(例えば、特許文献1及び2を参照)。これらの装置では、液体炭化水素をパルス供給する際のパルス幅や時間を調節することによって、真空浸炭炉内に供給される浸炭ガスの量を制御するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6991687号明細書
【特許文献2】米国特許第7204952号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の前記真空浸炭装置にあっては、真空浸炭炉内に供給する浸炭ガスの量を制御していても、ワークにおいて浸炭むらが生じたり、スーティング(炉内及びワークにススが折出する現象)が発生するという問題があった。
【0006】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、ワークにおける浸炭むらや、スーティングの発生を抑制する真空浸炭装置及び浸炭ガスの温度調節方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の真空浸炭装置は、液体炭化水素を気化して生成された浸炭ガスが真空浸炭炉内に供給される真空浸炭装置であって、前記真空浸炭炉内に供給される浸炭ガスを予熱する予熱部と、前記予熱部により予熱された浸炭ガスの温度を測定する温度測定部と、前記温度測定部により測定された温度に基づいて前記予熱部を制御して、浸炭ガスの温度を所定範囲に保持する制御部と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の浸炭ガスの温度調節方法は、液体炭化水素を気化して生成された浸炭ガスが真空浸炭炉内に供給される真空浸炭装置における浸炭ガスの温度調節方法であって、前記真空浸炭炉内に供給される浸炭ガスを予熱部により予熱する工程と、予熱された浸炭ガスの温度を測定する工程と、測定された温度に基づいて前記予熱部を制御して、浸炭ガスの温度を所定範囲に保持する工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
このような構成の真空浸炭装置及び浸炭ガスの温度調節方法によれば、真空浸炭炉内に供給される浸炭ガスを予熱部によって予熱するとともに、その予熱された浸炭ガスの測定温度に基づいて予熱部を制御することにより、浸炭ガスの温度を所定範囲に保持するようにした。これにより、ワークにおける浸炭むらや、スーティングの発生を抑制することができる。すなわち、本願発明者は、鋭意研究の結果、真空浸炭炉内に供給された浸炭ガスの温度が低下したときに浸炭むらが生じ、前記浸炭ガスの温度が過剰に上昇したときにスーティングが発生することを見い出し、かかる知見に基づいて本願発明を完成させたものである。
【0010】
また、本発明の真空浸炭装置によれば、前記予熱部は、前記真空浸炭炉内に配設されているとともに浸炭ガスを導入して前記真空浸炭炉内の熱により当該浸炭ガスを予熱する複数の予熱流路を有し、前記各予熱流路は、浸炭ガスをそれぞれ異なる温度に予熱すべく流路長がそれぞれ異なる長さに形成されており、前記制御部は、前記温度測定部により測定された温度に基づいて前記各予熱流路を個別に開閉制御することが好ましい。
【0011】
この場合、複数の予熱流路に導入された浸炭ガスを真空浸炭炉内の熱により予熱するため、予熱専用の加熱手段を設ける必要がない。したがって、真空浸炭装置の製造コストを低減することができる。また、各予熱流路の流路長をそれぞれ異なる長さに形成し、各予熱流路を制御部により開閉制御することにより、浸炭ガスの温度を調整することができるため、簡単な構成で浸炭ガスの温度を所定範囲に保持することができる。
【0012】
前記各予熱流路は、前記真空浸炭炉内に配設された所定長さを有する単一の予熱配管において、その管軸方向にそれぞれ異なる長さに形成されていることが好ましい。
この場合は、単一の予熱配管によって複数の予熱流路が形成されるため、真空浸炭装置の製造コストをさらに低減することができる。
【0013】
前記予熱部は、前記真空浸炭炉内に浸炭ガスを導入する導入管と、この導入管内に設けられたヒータとを有し、前記制御部は、前記温度測定部により測定された温度に基づいて前記ヒータを制御することが好ましい。
この場合は、浸炭ガスを予熱するヒータを制御部により直接制御することができるため、真空浸炭炉に供給される浸炭ガスの温度を効果的に所定範囲に保持することができる。その結果、ワークにおける浸炭むらや、スーティングの発生を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の真空浸炭装置及び浸炭ガスの温度調節方法によれば、浸炭ガスの温度が所定範囲に保持することにより、ワークにおける浸炭むらや、スーティングの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る真空浸炭装置の概略説明図である。
【図2】真空浸炭装置の要部を示す概略説明図である。
【図3】真空浸炭装置の予熱部の第1の予熱流路を示す概略説明図である。
【図4】真空浸炭装置の予熱部の第2の予熱流路を示す概略説明図である。
【図5】真空浸炭装置の予熱部の第3の予熱流路を示す概略説明図である。
【図6】制御部において実行される処理を示すフロー図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る真空浸炭装置の予熱部の概略説明図である。
【図8】真空浸炭装置における浸炭ガスの噴出温度の変動を示すグラフである。
【図9】真空浸炭装置により浸炭処理を行った場合の浸炭深さの平均及びばらつきを示すグラフである。
【図10】真空浸炭装置により浸炭処理を行った場合のスーティング状況を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る真空浸炭装置の概略説明図である。図1に示されるように、真空浸炭装置1は、液体炭化水素流路部10と、浸炭ガス流路部20と、真空浸炭炉30とを備えている。
【0017】
液体炭化水素流路部10は、タンク11と、このタンク11の下流側に設けられている流量計12と、この流量計12の下流側に設けられているバルブ13とを有している。
タンク11には、例えば、シクロヘキサン、ベンゼンなどの液体炭化水素が貯蔵されている。タンク11から排出された液体炭化水素の流量は、流量計12によって逐次計量される。そして、バルブ13の開閉動作によって、所定量の液体炭化水素が浸炭ガス流路部20に搬送される。これにより、浸炭ガス流路部20に搬送される液体炭化水素の量を所定量に制御することができる。
【0018】
浸炭ガス流路部20は、液体炭化水素流路部10により搬送された液体炭化水素を気化させて浸炭ガスを生成する気化室21と、この気化室21から真空浸炭炉30内に浸炭ガスを供給するための第1の供給管22、第2の供給管23及び第3の供給管24と、第1〜第3の供給管22〜24をそれぞれ個別に開閉する開閉部である第1のバルブ25、第2のバルブ26及び第3のバルブ27とを有している。第1〜第3のバルブ25〜27は、それぞれ第1〜第3の供給管22〜24の管路途中に設けられている。
【0019】
図1において、真空浸炭炉30は、ワークを加熱手段(図示省略)により加熱する炉本体31と、この炉本体31に接続された真空ポンプ32とからなる。炉本体31内は、真空ポンプ32によって所定の真空度に減圧される。また、炉本体31内には、第1〜第3の供給管22〜24から後述する予熱部40を介して浸炭ガスが噴出される噴出部33が設けられている。これにより、炉本体31内では浸炭ガス雰囲気が形成される。
【0020】
図2は、真空浸炭装置1の要部を示す概略説明図である。真空浸炭装置1は、炉本体31内に供給される浸炭ガスを予熱する予熱部40と、この予熱部40により予熱された浸炭ガスの温度を測定する温度センサ(温度測定部)50と、この温度センサ50により測定された温度に基づいて予熱部40を制御して、浸炭ガスの温度を所定範囲に保持する制御部60とをさらに備えている。
【0021】
予熱部40は、炉本体31内に配設された単一の予熱配管41を有している。この予熱配管41は、炉本体31内の周壁に沿って配置された配管本体部41aと、この配管本体部41aの一端部(図2の左端部)と前記噴出部33の中央部とを連通する連通部41bとを有している。
【0022】
配管本体部41aには、その管軸方向に所定間隔をあけて前記第1〜第3の供給管22〜24が接続されている。具体的には、配管本体部41aの一端部に第1の供給管22の端部が、中央部に第2の供給管23の端部が、他端部(図2の右端部)に第3の供給管24の端部がそれぞれ接続されている。
【0023】
予熱配管41には、図3に示すように、第1の供給管22から浸炭ガスが導入される第1の予熱流路42が形成されている。この第1の予熱流路42の流路長は、第1の供給管22と配管本体部41aとの接続部から、連通部41bと噴出部33との接続部までの長さに設定されている。
【0024】
また、予熱配管41には、図4に示すように、第2の供給管23から浸炭ガスが導入される第2の予熱流路43が形成されている。この第2の予熱流路43の流路長は、第2の供給管23と配管本体部41aとの接続部から、連通部41bと噴出部33との接続部までの長さに設定されている。これにより、第2の予熱流路43の流路長は、第1の予熱流路42の流路長よりも長く設定されている。
【0025】
さらに、予熱配管41には、図5に示すように、第3の供給管24から浸炭ガスが導入される第3の予熱流路44が形成されている。この第3の予熱流路44の流路長は、第3の供給管24と配管本体部41aの接続部から、連通部41bと噴出部33との接続部までの長さに設定されている。これにより、第3の予熱流路44の流路長は、第2の予熱流路43の流路長よりも長く設定されている。
【0026】
第1〜第3の予熱流路42〜44にそれぞれ導入された浸炭ガスは、炉本体31内の熱によって予熱されるようになっている。その際、第1〜第3の予熱流路42〜44は、それぞれ流路長が異なるため、この流路長の差によって、第1〜第3の予熱流路42〜44に導入された浸炭ガスは、それぞれ異なる温度に予熱されるようになっている。
【0027】
より具体的には、第1の予熱流路42の流路長は、第2及び第3の予熱流路43,44の流路長よりも短いため、第1の予熱流路42に導入された浸炭ガスは、最も低い温度(以下、低温度という)に予熱される。また、第3の予熱流路44の流路長は、第1及び第2の予熱流路42,43の流路長よりも長いため、第3の予熱流路44に導入された浸炭ガスは、最も高い温度(以下、高温度という)に予熱される。さらに、第2の予熱流路43の流路長は、第1の予熱流路42の流路長よりも長く,第3の予熱流路44の流路長よりも短いため、第2の予熱流路43に導入された浸炭ガスは、前記低温度よりも高く前記高温度よりも低い温度(以下、中温度という)に予熱される。
【0028】
図2において、温度センサ50は、予熱配管41の連通部41bにおける噴出部33側の接続端部において浸炭ガスの温度を測定するように設けられている。なお、温度センサ50は、連通部41bから噴出部33までの任意の箇所に設けられていればよい。これにより、第1〜第3の予熱流路42〜44にそれぞれ導入された浸炭ガスの予熱された温度を測定することができる。
【0029】
図2において、制御部60は、温度センサ50により測定された温度に基づいて、前記第1〜第3のバルブ25〜27をそれぞれ開閉制御することにより、第1〜第3の予熱流路42〜44を個別に開閉制御するものである。その際、制御部60は、噴出部33から噴出される浸炭ガスの温度が所定範囲となる低設定温度T1と高設定温度T2との間に保持されるように制御する。本実施形態では、炉本体31内の浸炭温度は例えば980℃に設定されており、低設定温度T1及び高設定温度T2は、例えば970℃及び975℃にそれぞれ設定されている。
【0030】
図6は、制御部60において実行される処理を示すフロー図である。以下、図3〜図6を参照しながら、制御部60による具体的な制御方法について説明する。まず、真空浸炭装置1を停止状態から稼働させたとき、制御部60は、第1のバルブ25を開くとともに他の第2及び第3のバルブ26,27を閉じる(ステップS1)。これにより、気化室21で生成された浸炭ガスは、図3に示すように、第1の供給管22を介して第1の予熱流路42に導入され、低温度に予熱された状態で噴出部33に形成された複数の噴出孔33aから炉本体31内に噴出される。なお、図3〜図5では、開いているバルブは白抜きで表示し、閉じているバルブは黒塗りで表示している。
【0031】
真空浸炭装置1の稼働直後は、温度センサ50は前記浸炭温度(980℃)と略同一の温度を測定するが、浸炭ガスの流量や炉外温度などによって、測定温度が徐々に低下する。このため、制御部60は、温度センサ50による測定温度が高設定温度T2よりも低くなったか否かをモニタリングする(ステップS2)。
【0032】
そして、温度センサ50による測定温度が高設定温度T2よりも低くなると、制御部60は、図4に示すように、第1のバルブ25を閉じるとともに第2のバルブ26を開く(ステップS3)。これにより、気化室21で生成された浸炭ガスは、第2の供給管23を介して第2の予熱流路43に導入され、中温度に予熱された状態で炉本体31内に噴出される。
【0033】
浸炭ガスを中温度で予熱しているとき、制御部60は、温度センサ50による測定温度が低設定温度T1よりも低くなったか否かをモニタリングする(ステップS4)。そして、前記測定温度が低設定温度T1よりも低くなると、制御部60は、図5に示すように、第2のバルブ26を閉じるとともに第3のバルブ27を開く(ステップS5)。これにより、気化室21で生成された浸炭ガスは、第3の供給管24を介して第3の予熱流路44に導入され、高温度に予熱された状態で炉本体31内に噴出される。
【0034】
浸炭ガスを高温度で予熱しているとき、制御部60は、温度センサ50による測定温度が低設定温度T1より高くなったか否かをモニタリングする(ステップS6)。そして、前記測定温度が低設定温度T1よりも高くなると、制御部60は、ステップS3に戻り、図4に示すように、第3のバルブ27を閉じるとともに第2のバルブ26を開く。これにより、気化室21で生成された浸炭ガスは、第2の供給管23を介して第2の予熱流路43に導入され、中温度に予熱された状態で炉本体31内に噴出される。
【0035】
一方、ステップS4において、浸炭ガスを中温度で予熱しているときに、温度センサ50による測定温度が低設定温度T1よりも高い場合には、制御部60は、前記測定温度が高設定温度T2より高くなったか否かをモニタリングする(ステップS7)。そして、前記測定温度が高設定温度T2よりも高くなると、制御部60は、ステップS1に戻り、図3に示すように、第2のバルブ26を閉じるとともに第1のバルブ25を開く。これにより、気化室21で生成された浸炭ガスは、第1の供給管22を介して第1の予熱流路42に導入され、低温度に予熱された状態で炉本体31内に噴出される。このように、制御部60が、前記ステップS1〜S7を繰り返し行うことにより、炉本体31内に噴出される浸炭ガスは、低設定温度T1と高設定温度T2との間の所定範囲に保持される。
【0036】
以上のように構成された本実施形態の真空浸炭装置1及び浸炭ガスの温度調節方法によれば、真空浸炭炉30の炉本体31内に供給される浸炭ガスを予熱部40によって予熱するとともに、温度センサ50により測定された浸炭ガスの予熱温度に基づいて制御部60が予熱部40を制御することにより、浸炭ガスの温度を所定範囲に保持することができる。これにより、ワークにおける浸炭むらや、スーティングの発生を抑制することができる。
【0037】
また、本発明の真空浸炭装置1によれば、複数の予熱流路42〜44に導入された浸炭ガスを炉本体31内の熱により予熱するため、予熱専用の加熱手段を設ける必要がない。したがって、真空浸炭装置1の製造コストを低減することができる。さらに、各予熱流路42〜44をそれぞれ流路長が異なる長さに形成し、各予熱流路42〜44を制御部60により開閉制御することにより、浸炭ガスの温度を調整することができるため、簡単な構成で浸炭ガスの温度を所定範囲に保持することができる。
【0038】
また、単一の予熱配管41によって複数の予熱流路42〜44が形成されるため、真空浸炭装置1の製造コストをさらに低減することができる。
【0039】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る真空浸炭装置の予熱部の概略説明図である。本実施形態の予熱部40は、炉本体31内に浸炭ガスを導入する導入管45と、この導入管45内に設けられたヒータ46とを有している。導入管45は、炉本体31内においてワークWの左右両側方に立設された第1の断熱材34及び第2の断熱材35と、第1及び第2の断熱材34,35の上方に配置された水平方向に延びる第3の断熱材36との間に配置されている。導入管45には、管軸方向に所定間隔をあけて複数の噴出口45aが形成されており、導入管45の一端から、図7の矢印A方向に導入された浸炭ガスは、噴出口45aから炉本体31内に噴出されるようになっている。
【0040】
ヒータ46は、導入管45の内部に設置されており、導入管45内に導入された浸炭ガスを予熱するようになっている。予熱された浸炭ガスは、噴出口45a付近で温度センサ50により測定され、この測定温度に基づいて、制御部60がヒータ46を制御するようになっている。具体的には、制御部60は、温度センサ50による測定温度が低設定温度T1よりも低くなると、ヒータ46により浸炭ガスを高温で予熱し、前記測定温度が高設定温度T2よりも高くなると、ヒータ46により浸炭ガスを低温で予熱する。これにより、炉本体31内に噴出される浸炭ガスは、低設定温度T1と高設定温度T2との間の所定範囲に保持される。
【0041】
本実施形態の真空浸炭装置1によれば、浸炭ガスをヒータ46により予熱し、温度センサ50により測定された浸炭ガスの予熱温度に基づいて制御部60がヒータ46を制御することにより、浸炭ガスの温度を所定範囲に保持するようにした。これにより、ワークWにおける浸炭むらや、スーティングの発生を抑制することができる。
また、浸炭ガスを予熱するヒータ46を制御部60により直接制御することができるため、炉本体31内に供給される浸炭ガスの温度を効果的に所定範囲に保持することができる。その結果、ワークWにおける浸炭むらや、スーティングの発生を効果的に抑制することができる。
【0042】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、第1の実施形態における複数の予熱流路、単一の配管に形成されているが、それぞれ個別の配管によって形成されていてもよい。また、予熱流路の数は、必要に応じて任意に設定することができる。
【0043】
さらに、気化室における浸炭ガスの生成量を調節するために、気化室内の液体炭化水素を加熱する加熱手段を設けるようにしてもよい。この場合には、気化室内の気化熱を、浸炭ガスを予熱する熱源として利用することができるため、予熱部をコンパクトにすることができ、真空浸炭装置の製造コストをさらに低減することができる。
【0044】
図8は、所定の試験条件下において、真空浸炭装置における浸炭ガスの噴出温度の変動を示すグラフである。なお、試験条件は、浸炭温度を980℃、浸炭ガスの流量を10〜20L/minの範囲で「小」・「中」・「大」の三種類を設定し、それぞれ浸炭ガスを予熱制御しながら7分間供給した。浸炭ガスが予熱されていない場合は、図8の破線で示すように、浸炭ガスの噴出温度が大きく低下しているのが分かる。これに対して、図8の実線、一点鎖線及び二点鎖線で示すように、浸炭ガスが予熱制御されている場合は、浸炭ガスの流量が「小」・「中」・「大」のいずれの場合であっても、予熱された浸炭ガスの噴出温度は、970℃〜980℃の所定範囲に保持されているのが分かる。
【0045】
図9は、図8の試験条件下において、真空浸炭装置により浸炭処理を行った場合におけるトレイ内の10測点における浸炭深さ(0.4%C)の平均及びばらつきを示すグラフである。図9において、浸炭ガスが予熱されていない場合は、浸炭深さが浅くなり、浸炭品質が低下していることが分かる。これに対して、浸炭ガスが予熱制御されている場合は、浸炭ガスの流量が「小」・「中」・「大」のいずれの場合においても、浸炭深さは深くなっており、浸炭品質は安定している。これにより、浸炭むらの発生が抑制されていることが分かる。
【0046】
図10は、図8の試験条件下において、真空浸炭装置により20チャージ浸炭処理した場合のスーティング状況を示す表である。図10において、浸炭ガスが予熱制御されている場合は、浸炭ガスの流量が「小」・「中」・「大」のいずれの場合においても、炉本体の内部及び浸炭ガスの排気ラインにスーティングは発生しなかった。
【符号の説明】
【0047】
1 真空浸炭装置
21 気化室
30 真空浸炭炉
40 予熱部
42 第1の予熱流路
43 第2の予熱流路
44 第3の予熱流路
45 導入管
46 ヒータ
50 温度センサ(温度測定部)
60 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体炭化水素を気化して生成された浸炭ガスが真空浸炭炉内に供給される真空浸炭装置であって、
前記真空浸炭炉内に供給される浸炭ガスを予熱する予熱部と、
前記予熱部により予熱された浸炭ガスの温度を測定する温度測定部と、
前記温度測定部により測定された温度に基づいて前記予熱部を制御して、浸炭ガスの温度を所定範囲に保持する制御部と、を備えていることを特徴とする真空浸炭装置。
【請求項2】
前記予熱部は、前記真空浸炭炉内に配設されているとともに浸炭ガスを導入して前記真空浸炭炉内の熱により当該浸炭ガスを予熱する複数の予熱流路を有し、
前記各予熱流路は、浸炭ガスをそれぞれ異なる温度に予熱すべく流路長がそれぞれ異なる長さに形成されており、
前記制御部は、前記温度測定部により測定された温度に基づいて前記各予熱流路を個別に開閉制御する請求項1に記載の真空浸炭装置。
【請求項3】
前記各予熱流路は、前記真空浸炭炉内に配設された所定長さを有する単一の予熱配管において、その管軸方向にそれぞれ異なる長さに形成されている請求項2に記載の真空浸炭装置。
【請求項4】
前記予熱部は、前記真空浸炭炉内に浸炭ガスを導入する導入管と、この導入管内に設けられたヒータとを有し、
前記制御部は、前記温度測定部により測定された温度に基づいて前記ヒータを制御する請求項1に記載の真空浸炭装置。
【請求項5】
液体炭化水素を気化して生成された浸炭ガスが真空浸炭炉内に供給される真空浸炭装置における浸炭ガスの温度調節方法であって、
前記真空浸炭炉内に供給される浸炭ガスを予熱部により予熱する工程と、
予熱された浸炭ガスの温度を測定する工程と、
測定された温度に基づいて前記予熱部を制御して、浸炭ガスの温度を所定範囲に保持する工程とを含むことを特徴とする浸炭ガスの温度調節方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−126962(P2012−126962A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279721(P2010−279721)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000167200)光洋サーモシステム株式会社 (180)
【Fターム(参考)】