説明

真空熱蒸着用のマルチノズル蒸着器

【課題】 材料の使用効率を向上させつつ、蒸着器で蒸発すべき材料を基板に蒸着でき、これによって、面積が大きくて均一な薄膜を形成するマルチノズル蒸着器が開示される。
【解決手段】 蒸着器は、開放上面を有する円筒状のまたは長方形の柱状のるつぼ31または51と、るつぼ31または51の高さよりも低い高さの円筒状または長方形の柱形状を有しかつるつぼの上部に組み立てられる本体部と、本体部の上面と底面との間で本体部を貫通しつつ、ある角度で形成された複数の蒸発管とを備えるノズルユニット32とを有する。蒸発される材料は、傾斜した蒸発管によって基板の周辺領域に向かって噴出し、これによって、蒸着すべき薄膜の均一性と、蒸発される材料の使用効率とが向上し、噴出部における蒸発された材料の凝縮が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空熱蒸着用の蒸着器、より詳しくは、材料の使用効率を向上させつつ、蒸着器で蒸発すべき材料を基板に蒸着でき、これによって、面積が大きくて均一な薄膜を形成するマルチノズル蒸着器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、種々の薄膜形成技術は、半導体装置またはフラットパネル表示装置を製造するために用いられる。上記技術の1つは真空熱蒸着法である。真空熱蒸着法は、基板の下方に配置されかつ蒸発すべき材料を収容する真空容器内の上側に基板を配置し、蒸着器を加熱し、その結果、蒸発される材料を基板に蒸着させることによって薄膜を形成する方法である。
【0003】
図1は、真空熱蒸着法で最も一般的に使用されるポイント式蒸着器を示している。図1に示されているように、ポイント式蒸着器21は、噴出部を有する円筒状容器を備える。蒸発すべき材料が円筒状容器内に充填され、次に、円筒状容器内で、その材料が加熱されて蒸発し、この結果、蒸発された材料が、容器から基板に向かって噴出して薄膜を形成する。しかし、ポイント式蒸着器は、蒸発された材料の大部分をポイント式蒸着器から、噴出部によって方向付けられた方向22に噴出させるので、面積が大きくて均一な薄膜を得ることができないという問題が生じる。この問題を解決するために、図1に示されているように、ポイント式蒸着器が基板1の周辺領域に配置され、基板が回転される蒸着法が用いられてきた。しかし、この蒸着法には、基板を回転させるための装置の付加により、蒸着システムが複雑になり、最終製品で欠陥が生じ、材料の使用効率が低下するという問題がさらに生じる。
【0004】
さらに、噴出部は、従来のポイント式蒸着器の側面の加熱部から離れた中心位置に配置されるので、蒸発された材料が噴出部で容易に凝縮されてしまうという欠点がある。
【0005】
従来のポイント式蒸着器のこの問題を解決するために、本発明者は円錐形ノズル蒸着器を提供した。円錐形ノズルの場合、所望の噴出分布を実現すること、ノズルを加工すること、およびノズルの内部を磨くことが困難である。さらに、蒸発管はノズルの中心に配置されるので、蒸発された材料が、従来のポイント式蒸着器と同様に蒸発管の内部で凝縮されるという欠点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、上記問題を解決するために考え出されたものである。本発明の目的は、基板を回転させることなく、均一な厚さを有する薄膜を面積の大きな基板に形成し、蒸発すべき材料の使用効率を向上させ、蒸発された材料の凝縮を最小限に抑えることができる蒸着器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の側面によれば、真空熱蒸着用のマルチノズル蒸着器が提供され、このマルチノズル蒸着器は、開放上面を有する円筒状るつぼ、ならびに、るつぼの高さよりも低い高さの円筒形状を有しかつルツボの上部に組み立てられる本体部と、本体部の上面と底面との間で本体部を貫通しつつ、ある角度で形成された複数の蒸発管とを備えるノズルユニットを有し、ここで、ノズルユニットの蒸発管の各々の下端開口部の中心は、本体部の中心から所定半径を有する同一の円周に配置され、蒸発管の上端開口部の中心は、下端開口部の中心を通過する円周の接線に配置される。
【0008】
本発明の別の側面によれば、真空熱蒸着用のマルチノズル蒸着器が提供され、このマルチノズル蒸着器は、開放上面を有する長方形の柱状るつぼ、ならびに、るつぼの高さよりも低い高さの長方形の柱形状を有しかつるつぼの上部に組み立てられる本体部と、本体部の上面と底面との間で本体部を貫通する複数の蒸発管とを備えるノズルユニットを有し、ここで、ノズルユニットの蒸発管は2つの群に分割され、この2つの群の蒸発管は、本体部の上面の中心軸線に対して同一の傾斜角で反対方向に傾斜される。
【発明の効果】
【0009】
上記本発明によれば、真空熱蒸着用のマルチノズル蒸着器は、複数の蒸発管が基板の周辺領域に向けられるように配置することによって構成される。従って、均一な薄膜を面積の大きな基板に形成でき、蒸発すべき材料の使用効率を向上させることができ、蒸発された材料が蒸発管で凝縮されることを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態について以下に詳細に説明する。
【0011】
蒸着器のるつぼおよびノズルユニットの構成に従って、本発明のマルチノズル蒸着器を2つの異なる方法で実現できる。1つの種類のマルチノズル蒸着器は、円形るつぼと円形ノズルユニットとを有しかつ本発明の第1および第2の実施形態に対応する円形マルチノズル蒸着器である。他の種類のマルチノズル蒸着器は、長方形るつぼと長方形ノズルユニットとを有しかつ本発明の第3および第4の実施形態に対応する長方形マルチノズル蒸着器である。
【0012】
図2と図3を参照すると、本発明による真空熱蒸着用のマルチノズル蒸着器はるつぼ31とノズルユニット32とを含む。
【0013】
るつぼ31は、開放上面を有し、蒸発すべき材料4を収容できる円筒状容器から形成される。ノズルユニットに結合する際に使用するための結合手段はるつぼ31の上部に形成される。
【0014】
ノズルユニット32は、るつぼ31の高さよりも低い高さの円筒形状でるつぼ31の上部に組み立てられる本体部32aと、本体部32aの上面と底面との間で本体部32aを貫通しつつ、ある角度で形成された複数の蒸発管33とを有する。
【0015】
るつぼ31の上部に結合する際に使用するための結合手段はノズルユニット32の下部に設けられる。
【0016】
ノズルユニットをるつぼに結合するための結合手段は、双方が互いに結合されるるつぼおよびノズルユニットの周辺に設けられたスナップ嵌合突出部から構成され得る。あるいは、結合手段は、るつぼとノズルユニットとにそれぞれ設けられたクランプ等から構成されてもよい。
【0017】
特に、蒸発管33の各々の下端開口部33bの中心は、本体部の中心からの半径Rを有する同一の円周に配置され、蒸発管33の上端開口部33aの中心は、下端開口部33bの中心を通過する円周の接線上に配置される。
【0018】
蒸発管33の各々が、本体部32aの垂直方向に対して約60度未満の角度で形成されることが好ましい。
【0019】
本発明の第1の実施形態を使用して基板1で真空熱蒸着を行うために、本発明のマルチノズル蒸着器は、図4に示されているように基板1の中心の下方に配置される。次に、蒸着器が加熱され、この結果、蒸発すべき材料は、蒸発されて、傾斜した蒸発管33を通って基板の側面に向かって噴出し、最終的に基板に蒸着される。
【0020】
真空熱蒸着が、本発明による真空熱蒸着用のマルチノズル蒸着器を使用して行われた場合、蒸発された材料は、周辺領域に向いて傾斜した蒸発管によって基板の周辺領域に向かって噴出し、この結果、面積の大きな基板の場合でも、均一な厚さを有する薄膜が生成される。蒸着器は基板の中心の下方に配置されるので、基板の外側にとばされることによって無駄になる材料の量を最小限に抑えることが可能である。さらに、薄膜の均一性と材料の使用効率とを最適化するように、工程条件に応じて、蒸発管の構造および傾斜角を最適に調整することが可能である。
【0021】
ノズルユニットの中心線からノズルユニットの外側に向かって(すなわち、ノズルユニットの底面の中心からノズルユニットの上面の外周に向かう方向に)傾斜するように、蒸発管33を構成してもよい。
【0022】
蒸発管を上記のように構成すれば、蒸発管をより密集して配置できる。このようにして、ノズルが連続して配置される場合に得られる効果と同様の効果を得ることが可能である。さらに、蒸発管全体はノズルユニットの外周の近傍に形成されるので、より優れた熱伝導を実現でき、蒸発管内で蒸発された材料の凝縮を防止することが可能である。
【0023】
さらに、蒸発管の各々を通って噴出する材料の噴出分布を適切に制御するために、突出または傾斜面をノズルユニットの本体部32aの上面に形成するようにしてもよい。また、蒸発管の直径は蒸発管の長さに沿って変化させてもよく、また、突出部を蒸発管内に形成してもよい。
【0024】
図5は、本発明の第2の実施形態の斜視図を示している。この実施形態では、中空部35はノズルユニット32およびるつぼ31の中央部に沿って形成され、この結果、中央ヒータを中空部内にさらに設置できる。中央ヒータは、蒸着器の加熱能力を向上させ、さらに、主にノズルユニットを加熱して、蒸発された材料が蒸発管内で凝縮されることを防止する。
【0025】
図6〜図8を参照すると、本発明の第3の実施形態によるマルチノズル蒸着器は長方形るつぼ51と長方形ノズルユニット52とを備える。るつぼ51は、開放上面を有し、蒸発すべき材料を収容できる長方形容器から形成される。ノズルユニットに結合する際に使用するための結合手段はるつぼの上部に形成される。
【0026】
ノズルユニットをるつぼに結合するための結合手段は、双方が互いに結合されるるつぼおよびノズルユニットの周辺に設けられたスナップ嵌合突出部から構成され得る。あるいは、結合手段は、るつぼとノズルユニットとにそれぞれ設けられたクランプ等から構成されてもよい。
【0027】
ノズルユニット52は、ノズルユニットの上面から底面に延びる複数の蒸発管531及び532によって形成される。特に、この実施形態の技術的特徴として、蒸発管は、反対方向に傾斜され、従って、傾斜方向により2つの群531と532に分割され、蒸着される材料を基板の周辺領域に向けることができる。
【0028】
群の各々は、図6に示されているような単一の蒸発管、図7に示されているような1列の蒸発管、または図8に示されているような2列群の蒸発管を含み得る。
【0029】
蒸発管の各々を通って噴出する蒸発された材料の噴出分布を適切に制御するために、突出または傾斜面をノズルユニットの本体部の上面に形成するようにしてもよい。また、蒸発管の直径は蒸発管の長さに沿って変化させてもよく、また、突出部を蒸発管内に形成してもよい。
【0030】
蒸着器の上方に配置された基板に材料を真空熱蒸着するために、第3の実施形態の蒸着器が使用された場合、2つの群の蒸発管は基板の周辺領域に向けられ、従って、2つの群の蒸発管を通って噴出する蒸発された材料の噴出分布の組み合わせにより、蒸着器の長手方向において、均一な分布を実現できる。真空熱蒸着のより優れた均一性と材料のより高い使用効率とを可能にする噴出分布を実現するように、蒸発管の構造および傾斜角を適切に調整することができる。
【0031】
第3の実施形態により、蒸着器の長手方向においてのみ、均一な真空熱蒸着が可能になるので、蒸着器の長さに対して垂直方向に基板または蒸着器を移動させることによって、第3の実施形態の蒸着器を使用した真空熱蒸着を行うことが好ましい。
【0032】
図9〜図11を参照すると、第3の実施形態とは異なり、本発明の第4の実施形態は、蒸発管の4つの群531a、531b、532aおよび532bをノズルユニットに含んでいる。すなわち、蒸発管は2つの主群に分割され、これらの主群の各々は、2つの副群にさらに分割され、これによって、全部で4つの群が形成される。2つの主群531と532は蒸着器の長手方向外側に傾斜され、主群の各々の2つの副群531aと531bまたは532aと532bは、蒸着器の長手方向外側に傾斜されつつ、蒸着器の長手方向に対して垂直方向に基板の周辺領域に向かって傾斜される。
【0033】
真空熱蒸着法を示した図11によってさらに明確に理解されるように、4つの群は、蒸着器の上方に配置された基板1のそれぞれの4つの角部に向かって傾斜される。
【0034】
さらに、図12と図13を参照すると、ノズルユニットの蒸発管の各群は、1列に並んだ複数の蒸発管を含んでいる。あるいは、蒸発管の各群は、図9に示されているように2列群の蒸発管を含んでもよい。他の代替例として、蒸発管を4つの群になるように配置してもよい。
【0035】
蒸発管の各々を通って噴出する蒸発された材料の噴出分布を適切に制御するために、突出または傾斜面をノズルユニットの本体部の上面に形成するようにしてもよい。あるいは、蒸発管の直径は蒸発管の長さに沿って変化させてもよく、または突出部を蒸発管内に形成してもよい。
【0036】
第3の実施形態から展開された第4の実施形態では、蒸着器の長手方向および長手方向に対する垂直方向において、均一な真空熱蒸着を可能にする材料の噴出分布を実現するように、蒸発管の構造および傾斜角が適切に調整される。第3の実施形態とは異なり、蒸着器および基板の両方を所定位置に保持して、真空熱蒸着を行うことができる。さらに、基板は一般に長方形状を有するので、第4の実施形態は、材料の環状噴出分布を提供する第1および第2の実施形態と比較して、材料のより高い使用効率を提供できる。
【0037】
さらに、本発明のそれぞれの実施形態における噴出分布を精密に制御するために、垂直蒸発管の追加の群をさらに設けてもよいし、または異なる傾斜角を有する蒸発管の副群を追加してもよい。
【0038】
これらの実施形態は、本発明の趣旨を具体的に示した例に過ぎない。本発明の範囲はこれらの実施形態または図面に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】従来のポイント式蒸着器を使用した真空熱蒸着法の概略図である。
【図2】本発明の第1の実施形態によるマルチノズル蒸着器の斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態によるマルチノズル蒸着器のノズルユニットの平面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態を使用した真空熱蒸着法の概略図である。
【図5】本発明の第2の実施形態の斜視図である。
【図6】本発明の第3の実施形態の斜視図である。
【図7】本発明の第3の実施形態の別形態の斜視図である。
【図8】本発明の第3の実施形態の別形態の斜視図である。
【図9】本発明の第4の実施形態の斜視図である。
【図10】本発明の第4の実施形態の正面図および側面図である。
【図11】本発明の第4の実施形態を使用した真空熱蒸着法の概略図である。
【図12】本発明の第4の実施形態の別形態の斜視図である。
【図13】本発明の第4の実施形態の別形態の正面図および側面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空熱蒸着用のマルチノズル蒸着器であって、
開放上面を有する円筒状るつぼと、
前記るつぼの高さよりも低い高さの円筒形状を有しかつ前記るつぼの上部に組み立てられる本体部と、前記本体部の上面と底面との間で前記本体部を貫通し、ある角度で形成された複数の蒸発管とを備えるノズルユニットであって、当該ノズルユニットの前記蒸発管の各々の下端開口部の中心が、前記本体部の中心から所定半径を有する同一の円周に配置され、前記蒸発管の上端開口部の中心が、前記下端開口部の前記中心を通過する前記円周の接線に配置されるノズルユニットと、を有するマルチノズル蒸着器。
【請求項2】
前記蒸発管が、前記蒸発管の長手方向において変化する直径を有する、または、前記蒸発管の内周面に突出部が形成される請求項1に記載の蒸着器。
【請求項3】
前記るつぼおよび前記ノズルユニットが、前記るつぼおよび前記ノズルユニットの中心を貫通する円筒状中空部をさらに有する請求項1に記載の蒸着器。
【請求項4】
真空熱蒸着用のマルチノズル蒸着器であって、
開放上面を有する長方形の柱状るつぼと、
前記るつぼの高さよりも低い高さの長方形の柱形状を有し、かつ前記るつぼの上部に組み立てられる本体部と、前記本体部の上面と底面との間で前記本体部を貫通する複数の蒸発管とを備えるノズルユニットであって、当該ノズルユニットの前記蒸発管が2つの群に分割され、当該2つの群の蒸発管が、前記本体部の前記上面の中心軸線に対して同一の傾斜角で反対方向に傾斜されるノズルユニットと、を有するマルチノズル蒸着器。
【請求項5】
前記蒸発管が4つの群に分割され、当該4つの群の蒸発管が前記ノズルユニットの上面のそれぞれの4つの角部に向かって傾斜される請求項4に記載の蒸着器。
【請求項6】
前記蒸発管が、前記蒸発管の長手方向において変化する直径を有する、または、前記蒸発管の内周面に突出部が形成される請求項4または5に記載の蒸着器。
【請求項7】
前記ノズルユニットが、前記蒸発管とは異なる傾斜角を有する少なくとも1つの蒸発管をさらに有する請求項1、4または5に記載の蒸着器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2008−530372(P2008−530372A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523813(P2008−523813)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【国際出願番号】PCT/KR2007/003209
【国際公開番号】WO2008/004792
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(507276438)ワイ・エー・エス カンパニー リミテッド (2)
【Fターム(参考)】