説明

真空蒸着源のためのインジェクター

【課題】酸化された材料によるノズルの閉塞を防止することのできるインジェクターを提供する。
【解決手段】ノズル3は、インジェクション・ダクト1の外側に開口する主流路6およびインジェクション・ダクト1の内部を前記主流路6に連通する少なくとも1つの横方向供給流路7を備え、この横方向供給流路7が、酸化された材料による前記ノズル3の閉塞を防止するため、ノズル3の側面4を介して前記インジェクション・ダクト1の内部に開口する横方向オリフィス8を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着室内の材料の蒸発または昇華を意図する真空蒸着源のためのインジェクターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような真空蒸着室は、例えばCIGS(銅、インジウム、ガリウム、セレン)太陽電池またはOLED(有機発光デバイス)ダイオードの製造に使用される。
【0003】
この真空蒸着源は、特に水平型トップダウンまたはボトムアップ並行システムにおけるガラスパネルのセレン化のためのセレンの蒸発に使用される。
【0004】
WO2008/079209公報は、OLEDダイオードの製造のための有機材料または無機材料の蒸発を意図した公知の真空蒸着源を開示している。
【0005】
この真空蒸着源は、真空蒸着システムに取り付け可能な本体を備えている。この本体は、互いに分離可能な第1および第2本体部分を備えている。バルブには、縦長な形状をし、蒸発された材料を拡散するための幾つかの出口オリフィスを有するインジェクターが接続されている。このインジェクターは、その外面に配置された加熱手段に加熱される。
【0006】
インジェクターが水平型ボトムアップ構造に使用される場合には、複数のノズルはインジェクターの底部に配置される。
【0007】
各ノズルは、インジェクターの内部と外部に連通した流路を備えている。この流路は、ノズルの上面を介してインジェクターの内部に開口している。
【0008】
蒸着工程の間、蒸発された材料の一部は、インジェクターの内面に吸着されて、酸化される。温度の変動のために、酸化された材料にクラックが生ずる。酸化された材料の幾つかの破片がインジェクターから剥がれ、ノズルの頂面に落下し、複数のノズルの一部の閉塞を引き起こす。
【0009】
このノズルの閉塞は、材料によって被覆されるべきパネル上への蒸発された材料の不均一な散布を引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2008/079209公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、酸化された材料によるノズルの閉塞を防止することのできるインジェクターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的のために、前記インジェクターは、縦方向軸を有し、かつ真空蒸着源に接続可能な入口および蒸発された材料を拡散するための少なくとも1つのノズルを備えたインジェクション・ダクトを備え、該ノズルは側面および上面を持つ。
【0013】
本発明によると、前記ノズルは、該インジェクション・ダクトの外側に開口する主流路およびインジェクション・ダクトの内部を前記主流路に連通する少なくとも1つの横方向供給流路を備え、該横方向供給流路は、酸化された材料による前記ノズルの閉塞を防止するため、ノズルの側面を介して前記インジェクション・ダクトの内部に開口する横方向オリフィスを有する。
【0014】
本発明は、酸化された材料によるノズルの閉塞を防止するインジェクターを提供する。
【0015】
ノズルの主流路の上部開口が酸化された材料の破片で覆われている場合、側面供給流路を介して、蒸発された材料を散布できる。
【0016】
それは、酸化された材料の破片の有無にかかわらず、水平型ボトムアップ並行真空工程室にある太陽電池パネルの表面に蒸発された材料の均一散布を保証することを可能にする。
【0017】
インジェクターを洗浄する2つの工程の間の間隔が長くなることにより、低コストをもたらす。
【0018】
インジェクターは、これを洗浄するため真空工程室から離脱されるので、蒸着工程が中断されることが減り、生産性を増加させる。
【0019】
さまざまな実施形態によると、本発明はまた、単独で、あるいは、技術的に可能な組み合わせのすべてが考えられる、以下の特性と関係がある:
−横方向供給流路の横方向オリフィスは、該ノズルの上面の近傍に位置付けられる;
これは、インジェクターの底で凝縮してしまった材料がノズルに流れ込むのを防止することを可能にする。
−前記ノズルは、該主流路に垂直な2つの横方向供給流路を備え、該主流路と該横方向供給流路は、縦方向軸に垂直である;
−該主流路は、上部開口により該ノズルの上面を介して該インジェクション・ダクトの内部に開口した上方部分を備える;
−該ノズルの上面は、円錐形状またはとがった形状をしている。
【0020】
この形状は、前記ノズルの上面にとどまる酸化された材料の破片による前記ノズルの主流路の上部開口の閉塞を防止することを可能にする。
【0021】
本発明の説明は、以下の図により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例による、インジェクターを立体的に示す。
【図2】このインジェクターを縦断面図により示す。
【図3】前記インジェクターをA−A断面図により示す。
【図4】前記インジェクターの細部を縦断面図により示す。
【0023】
図1および2に示されるように、インジェクターは、第1の真空容積10を区切るインジェクション・ダクト1を備える。前記インジェクション・ダクト1は、縦方向に伸び、円形断面を持つ管状形状を有する。
【0024】
前記インジェクション・ダクト1は、真空蒸着源に接続可能な入口2および蒸発された材料を真空蒸着室(図示せず)に拡散するための少なくとも1つのノズル3を備える。
【0025】
図4の実施例では、前記インジェクション・ダクト1は、縦方向軸11に従って、等間隔で一列に並べられた複数のノズル3を備える。
【0026】
好ましくは、前記ノズル3は、該ノズル3が支えられるブロックを形成する直線ノズルアセンブリ12に組み込まれている。
【0027】
それぞれのノズル3は、インジェクション・ダクト1の外側に開口する主流路6と、前記インジェクション・ダクトを前記主流路6に連通する少なくとも1つの横方向供給流路7を備える。
【0028】
前記横方向供給流路7は、インジェクション・ダクト1の第1の真空容積10の内部にノズル3の側面4を介して開口する横方向オリフィス8を有する。このオリフィス8の横方向への位置調整は、酸化された材料によるノズル3の閉塞を防止するためにある。
【0029】
好ましくは、前記主流路6および前記横方向供給流路7は、円形断面を有する。該断面は卵形のように違っていてもよい。
【0030】
前記主流路6および前記横方向供給流路7の直径は、同一または異なっていてもよい。
【0031】
好ましくは、前記主流路6の直径は、前記横方向供給流路7の直径より大きい。
各主流路6の直径は、異なっていてもよい。
前記横方向供給流路7は、前記主流路6から上流に位置する。
【0032】
インジェクターの第1の真空容積10の気相にある材料は、前記横方向供給流路7次いで前記主流路6を通過し、真空工程室の中へ散布される。
【0033】
図1から4の実施例において、各ノズル3は、主流路6に対し反対に位置し、主流路6および縦方向軸11に垂直である2つの横方向流路7を備えている。前記主流路6は前記縦方向軸11に垂直である。
【0034】
他の構造も可能である。たとえば、前記主流路6は、前記縦方向軸11に対し傾いていてもよい。主流路6はすべて、整列していてもしていなくてもよい。
【0035】
あるいは、前記横方向供給流路7は、前記主流路6に垂直とは異なる方向に配向されていてもよい。
【0036】
前記横方向供給流路7と前記主流路6を整列させ、前記縦方向軸11に対し傾く固有の流路を形成してもよい。
【0037】
あるいは、各ノズル3が、2つ以上の横方向供給流路7を備えていてもよい。
【0038】
好ましくは、前記横方向供給流路7の前記横方向オリフィス8は、前記ノズル3の上面5の近傍に位置している。
【0039】
可能性のある実施形態では、前記主流路6は、インジェクション・ダクト1の内部にノズル3の上面5を介して開口する上部開口29を有する上方部分9を備える。
【0040】
あるいは、前記主流路6は、前記インジェクターに開口しない。
【0041】
可能性のある実施形態では、前記ノズル3の前記上面5は、円錐形状をしているか、傾いている。
前記ノズル3の前記上面5は、角度を形成するために連結された2つの斜面を備えていてもよい。
【0042】
インジェクション・ダクト1は、直径の大きい第1の部分13aと直径の小さい第2の部分13bを備える。
【0043】
前記ノズルアセンブリ12は、前記第1の部分13aに位置する。
【0044】
前記インジェクション・ダクト1の前記第1の部分13aと前記第2の部分13bは、円錐部分14で連結している。
【0045】
前記インジェクター1は、前記インジェクション・ダクト1の壁を囲む加熱装置15、15’を備える。
【0046】
前記インジェクター1は、前記インジェクション・ダクト1を少なくとも部分的に囲む付加壁16を備える。前記付加壁16と前記インジェクション・ダクト1は、第1の真空容積10と前記インジェクター1の外側とは区別できる、密閉して分離される第2の真空容積17を画定する。
【0047】
前記加熱装置15、15’は、前記第2の真空容積17内に位置し、前記加熱装置15、15’と蒸発された材料との接触を防ぐ。
【0048】
前記第2の真空容積17における圧力は、10−2トール〜10−4トールで構成され、好ましくは、10−3で構成される。
【0049】
前記第1の真空容積10の圧力は、10−6に達し得る。
【0050】
前記加熱装置15、15’はコネクタ18により給電される。前記インジェクター1は、前記加熱装置15、15’の温度を管理する温度センサー19を備える。
【0051】
前記付加壁16は、前記インジェクション・ダクト1が組み込まれる追加の覆いを形成する。その追加の覆いは管状形状である。
【0052】
前記付加壁16は、ノズルアセンブリ12の前に開口部20を備えていてもよい。前記ノズル3は前記付加壁16を通して現れる。
【0053】
図3に示すように、各ノズル3は、前記インジェクション・ダクト1の内側面から突き出る上部26と、前記インジェクション・ダクト1の外面から突き出る下部27を備える。前記下部27は、インジェクション・ダクト1と前記付加壁16の間に位置し、カートリッジのような加熱素子28に囲まれている。
【0054】
前記ノズル3の上部26は、前記インジェクション・ダクト1の第1の真空容積10中に位置し、2つの前記横方向供給流路7を備える。
【0055】
前記主流路6は、前記ノズル3を垂直に貫通している。前記主流路6は、前記付加壁16を介し、前記インジェクターの外側に開口する。
【0056】
前記付加壁16は、前記インジェクション・ダクト1の入口2の近傍まで伸びる。
【0057】
前記付加壁16は、前記インジェクター1の入口2とノズル3との間に位置する中間部21を有する。
【0058】
前記中間部21は、前記インジェクション・ダクト1を囲む少なくとも1つのベロー22、22’を含有する。前記ベローは、インジェクション・ダクト1が加熱されたとき、前記インジェクション・ダクト1の縦方向膨張を相殺するため伸延することができる。
【0059】
前記インジェクション・ダクトは、例えば、450℃から550℃の間の温度で加熱される。
【0060】
好ましくは、前記中間部21は、金属製の2つのベロー22、22’を備える。
【0061】
前記中間部21は、部分的に前記インジェクション・ダクト1の第2の部分13bを囲む。前記中間部21は、前記インジェクション・ダクトの入口2の近くに位置する。
【0062】
前記加熱装置15、15’は、少なくとも前記中間部21までのインジェクション・ダクト1の第1の部分13aを囲む第1の加熱手段15を有する。
前記第1の加熱手段15は、前記付加壁16に沿って配置され、縦方向に配置されるいくつかのカートリッジを備えてもよい。
【0063】
前記加熱装置15、15’は、前記インジェクション・ダクト1の第2の部分13bを囲む第2の加熱手段15’を有する。
前記第2の加熱手段15’は、前記インジェクション・ダクト1の入口2から円錐部分14まで伸びる。
【0064】
前記中間部21は、該中間部21を真空蒸着源に連結する第1のフランジ23と、前記中間部21を真空蒸着室に連結する第2のフランジ24を備える。前記第1のフランジ23と前記第2のフランジ24は、向かい合って配置される。各フランジは、前記中間部21の壁と一体になったプレートを備える。
【0065】
前記第1と第2のベロー22、22’は、温度の機能で変動する前記インジェクション・ダクト1の長さに従って、前記インジェクション・ダクト1に沿って縦方向に伸張および圧縮することができる。
【0066】
前記インジェクターは、前記加熱装置15、15’を保護する絶縁素子25を備える。
【0067】
前記インジェクターは、300℃から500℃の間の温度で加熱されるとき、10−3トールよりも高い蒸気圧を有する材料を散布するのに使用される。
【0068】
好ましくは、前記材料は、例えば、セレニウムか蛍光体である。
【0069】
例えば、前記蒸着室の内部に設置される前記インジェクターの部分は、2200から2600mmの長さを有し、該インジェクターは、全長3000から3500mm、直径100から130mm、長さ500から1800mmに沿って配置される少なくとも100個のノズルを有してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦方向軸(11)を有し、かつ真空蒸着源に接続可能な入口(2)および蒸発された材料を拡散するための少なくとも1つのノズル(3)を備えたインジェクション・ダクト(1)を備え、このノズル(3)が側面(4)および上面(5)を持っている
真空蒸着源のためのインジェクターにおいて、
前記ノズル(3)は、インジェクション・ダクト(1)の外側に開口した主流路(6)およびインジェクション・ダクト(1)の内部を前記主流路(6)に連通する少なくとも1つの横方向供給流路(7)を備え、この横方向供給流路(7)が、酸化された材料による前記ノズル(3)の閉塞を防止するため、ノズル(3)の側面(4)を介して前記インジェクション・ダクト(1)の内部に開口する横方向オリフィス(8)を有することを特徴とする真空蒸着源のためのインジェクター。
【請求項2】
前記横方向供給流路(7)の横方向オリフィス(8)は、前記ノズル(3)の上面(5)の近傍に位置していることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着源のためのインジェクター。
【請求項3】
前記ノズル(3)は、前記主流路(6)に垂直な2つの横方向供給流路(7)を備え、前記主流路(6)と2つの横方向供給流路(7)が前記縦方向軸(11)に垂直であることを特徴とする請求項1または2に記載の真空蒸着源のためのインジェクター。
【請求項4】
前記主流路(6)は、前記ノズル(3)の上面(5)を介して前記インジェクション・ダクト(1)の内部に開口した上部開口(29)を有する上方部分(9)を備えている請求項1〜3のいずれか1項に記載の真空蒸着源のためのインジェクター。
【請求項5】
前記ノズル(3)の上面(5)が、円錐形状またはとがった形状をしていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の真空蒸着源のためのインジェクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−136777(P2012−136777A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−281040(P2011−281040)
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【出願人】(511312698)
【Fターム(参考)】