説明

真菌病罹病性作物を処置するためのケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤の使用

【課題】真菌病罹病性作物を処置するためのアセトヒドロキシ酸イソメロレダクターゼの使用方法を提供する。
【解決手段】マグナポルテ・グリセアケトール酸レダクトイソメラーゼ、サッカロミセス・セレビシエケトール酸レダクトイソメラーゼおよび/またはニューロスポラ・クラッサケトール酸レダクトイソメラーゼの阻害剤、例えばジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテート、N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートの有効量を含む殺真菌組成物により、ケトール酸レダクトイソメラーゼをコードしているILV5遺伝子を不活性化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真菌病罹病性作物を処置するためのケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
真菌は、様々な植物種の作物の相当な損失を招く破壊的な流行病の原因である。病原性真菌からの酵素の阻害剤を利用する原理およびこれらの真菌に対して有効な新規分子を特定するための試験におけるこれらの酵素を使用する原理は、それ自体知られている。しかし、真菌酵素の単純な特性付けでは、目的−潜在的な殺真菌分子の対象として選択される酵素が、真菌の生存に不可欠なものでもあり、その殺真菌分子による阻害の結果、真菌の死がもたらされねばならない、または真菌の病理発生に不可欠でもあり、その阻害が、真菌にとって致命的ではなく、その発病能力を単に阻害するものでなければならない−を達成するために充分ではない。従って、代謝経路の特定ならびに病理発生および真菌の生存に不可欠な酵素の特定が、新規殺真菌製品の開発には必要である。
【0003】
ケトール酸レダクトイソメラーゼは、植物ならびに細菌および酵母菌などの微生物においてよく特性付けされている酵素である。この酵素は、分枝鎖アミノ酸についての生合成経路の第二酵素であり、基質2S−2−アセト乳酸(AL)または2S−2−アセト−2−ヒドロキシ酪酸(AHB)から、それぞれ、2,3−ジヒドロキシ−3−イソ吉草酸(DHIV)または2,3−ジヒドロキシ−3−メチル吉草酸(DHIM)への転化を触媒する。この反応は、マグネシウムイオン(Mg2+)の存在を必要とし、また、メチルまたはエチル基の異性化、その後のNADPHによる還元という2段階で発生する。除草剤の対象としての植物イソメロリダクターゼ(isomeroredactase)については膨大な知識が得られており(Wittenbachら,Plant Physiol.96,No.1,Suppl.,94,1991;Schulzら,FEBS Lett.,238:375−378,1998)、また、ケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤は、除草剤として記載されている(欧州特許第106114号;米国特許第4,594,098号、欧州特許第196026号、欧州特許第481407号、国際公開公報第94/23063号、カナダ特許第2002021号)。しかし、これらの化合物は、植物に対して有効な除草作用を示さなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第106114号明細書
【特許文献2】米国特許第4,594,098号明細書
【特許文献3】欧州特許第196026号明細書
【特許文献4】欧州特許第481407号明細書
【特許文献5】国際公開第94/23063号
【特許文献6】カナダ特許第2002021号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Wittenbachら,Plant Physiol.96,No.1,Suppl.,94,1991
【非特許文献2】Schulzら,FEBS Lett.,238:375−378,1998
【発明の概要】
【0006】
本発明の主題は、ケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤を施用することを含む、真菌病に対して作物を処置する方法である。マグナポルテ・グリセア(Magnaporthe grisea)(イネいもち病菌)においてケトール酸レダクトイソメラーゼをコードしているILV5遺伝子を不活性化することによって、真菌の成長が阻害されるということがわかった。この真菌の成長の阻害は、ケトール酸レダクトイソメラーゼに特異的な阻害剤の存在下、インビボでも観察される。M.グリセア(M.grisea)は、米などの多くの作物植物種に対して病原性である。
【0007】
(配列表の説明)
配列番号1 マグナポルテ・グリセア(Magnaporthe grisea)ケトール酸レダクトイソメラーゼ。
【0008】
配列番号2 サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)ケトール酸レダクトイソメラーゼ。
【0009】
配列番号3 ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)ケトール酸レダクトイソメラーゼ。
【0010】
配列番号4 マグナポルテ・グリセア(Magnaporthe grisea)ケトール酸レダクトイソメラーゼ遺伝子cDNA。
【0011】
配列番号5 マグナポルテ・グリセア(Magnaporthe grisea)ケトール酸レダクトイソメラーゼ。
【0012】
配列番号6 マグナポルテ・グリセア(Magnaporthe grisea)ケトール酸レダクトイソメラーゼ遺伝子。
【0013】
配列番号7から18 PCRのためのプライマー。
【0014】
本発明の主題は、有効量のケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤を施用することによる、真菌病に対して作物を処置するための方法である。
【0015】
本発明の主題は、有効(耕種学的に有効)且つ非植物毒性量のケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤を、植物が生育しているまたは生育しそうな土壌に、植物の葉および/もしくは果実に、または植物の種子に施用することを特徴とする、植物病原性真菌罹病性作物を治療的または予防的立場で退治するための方法である。「有効且つ非植物毒性量」という表現は、作物に存在するまたは出現しがちな真菌を防除または駆除するために充分であり、はっきりと感知できるいかなる植物毒性症状も前記作物に生じさせない阻害剤の量を意味するものと解釈する。そうした量は、退治すべき真菌、作物のタイプ、気候条件、および本発明の殺真菌組成物に含まれる化合物に依存して、広範に変化しうる。この量は、当業者の範囲内である系統的な現地試験によって決定することができる。
【0016】
本発明の方法は、穀類(特に、コムギ、ライムギ、ライコムギおよびオオムギ)、バレイショ、綿、エンドウ、ナタネ、トウモロコシもしくはアマの種子、または他に森林の木の種子、または他にこれらの植物の遺伝修飾を受けた種子の処理に有用である。本発明は、農作植物への塗布、すなわち、該当植物の葉、花、果実および/または幹への経葉塗布にも関する。本発明の方法の対象となる植物の中で、米、トウモロコシ、綿、穀類(コムギ、オオムギまたはライコムギなど)、果樹(特に、リンゴの木、西洋ナシの木、モモの木、ブドウの木、バナナの木、オレンジの木、レモンの木など)、油生産作物、例えば、ナタネまたはヒマワリ、市場向けの農園および野菜作物、トマト、サラダ用野菜、蛋白質生産作物、エンドウ、ナス科植物、例えば、バレイショ、ビートの根、アマ、および森林の木、およびまた、これらの作物の遺伝修飾相同体を挙げることができる。
【0017】
本発明の方法の対象となる植物の中で、
−次の種子の病気:赤かび病[ミクロドキウム・ニバレ(Microdochium nivale)およびフザリウム・ロゼウム(Fusarium roseum)]、黒穂病[チルレチア・カリエス(Tilletia caries)、チルレチア・コントロベルサ(Tilletia controversa)またはチルレチア・インディカ(Tilletia indica)]、セプトリア病[セプトリア・ノドラム(Septoria nodorum)]、裸黒穂病[ウスチラゴ・トリチシ(Ustilago tritici)]、と闘うことに関して、コムギ;
−地上の植物の部分の次の病気:穀物眼紋病[タペシア・ヤルンダ(Tapesia yallundae)、タペシア・アクイフォルミス(Tapesia acuiformis)]、立枯病[ガエウマンノミセス・グラミニス(Gaeumannomyces graminis)]、フットブライト病[フザリウム・セルモラム(F.culmorum)、フザリウム・グラミネアラム(F.graminearum)]、ヘッドブライト病[フザリウム・セルモラム(F.culmorum)、フザリウム・グラミネアラム(F.graminearum)、ミクロドキウム・ニバル(Microdochium nivale)]、黒斑点病[リゾクトニア・セレアリス(Rhizoctonia cerealis)]、うどんこ病[エリシペ・グラミニス;以前種名トリチシ(Erysiphe graminis forma specie tritici)]、さび[プッシニア・ストリフォルミス(Puccinia striformis)、プッシニア・レコンデイタ(Puccinia recondita)]、およびセプトリア病[セプトリア・トリチシ(Septoria tritici)およびセプトリア・ノドラム(Septoria nodorum)]、と闘うことに関して、コムギ;
−次の種子の病気:網斑病[ピレノホラ・グラミニア(Pyrenophora graminea)、ピレノホラ・トレス(Pyrenophora teres)およびコクリオボラス・サティバス(Cochliobolus sativus)]、裸黒穂病[ウスチラゴ・ヌダ(Ustilago nuda)]および赤かび病[ミクロドキウム・ニバレ(Microdochium nivale)およびフザリウム・ロゼウム(Fusarium roseum)]、と戦うことに関して、オオムギ;
−地上の植物の部分の次の病気:穀物眼紋病[タペシア・ヤルンダ(Tapesia yallundae)]、網斑病[ピレノホラ・テレス(Pyrenophora teres)およびコクリオボラス・サティバス(Cochliobolus sativus)]、うどんこ病[エリシペ・グラミニス;以前種名ホルデイ(Erysiphe graminis forma specie hordei)]、小さび病[プクシニア・ホルデリ(Puccinia hordei)]および汚斑病[リンコスポリウム・セカリス(Rhynchosporium secalis)]、と闘うことに関して、オオムギ;
−塊茎の病気[特に、ヘルミントスポリウム・ソラニ(Helminthosporium solani)、フォーマ・チューベローサ(Phoma tuberosa)、リゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani)]およびベト病[フィトプソラ・インフェスタンス(Phytopthora infestans)]と戦うことに関して、バレイショ;
−次の葉の病気:夏疫病[アルテルナリア・ソラニ(Alternaria solani)]、ベト病[フィトプソラ・インフェスタンス(Phytopthora infestans)]、と闘うことに関して、バレイショ;
−種子から成長した若い植物の次の病気:立枯病および頚領腐れ[リゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)]、黒根病[シエラビオプシス・バシコーラ(Thielaviopsis basicola)]、と闘うことに関して、綿;
−次の種子の病気:炭疽病[アスコチタ・ピシ(Ascochyta pisi)、ミコスフェレラ・ピノデス(Mycosphaerella pinodes)]、赤かび病[フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)]、灰色かび病[ボトリチス・シネレア(Botrytis cinerea)]、ベト病[ヘロノスポラ・ピシ(Peronospora pisi)]、と闘うことに関して、蛋白質生産穀物、例えば、エンドウ;
−次の種子の病気:フォーマ・リンガム(Phoma lingam)、アルテルナリア・ブラッシカエ(Alternaria brassicae)およびスクレロチニア・スクレロイオルム(Sclerotinia sclerotiorum)と闘うことに関して、油生産作物、例えば、ナタネ;
−種子の病気:[リゾプス属種(Rhizopus sp.)、ペネシリウム属種(Penicillium sp.)、アスペルギウス属種(Aspergillus sp.)およびギビレラ・フジクロイ(Gibberella fujikuroi)]と闘うことに関して、トウモロコシ;
−種子の病気:アルテルナリア・リニコラ(Alternaria linicola)と闘うことに関して、アマ;
−立枯病[フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)、リゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)]、と闘うことに関して、森林の木;
−地上部分の次の病気:いもち病[マグナポルテ・グリセア(Magnaporthe grisea)]、黒斑点病[リゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)]、と闘うことに関して、米;
−次の実生の病気または種子から成長した若い植物の病気:立枯病および頚領腐れ[フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)、リゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)、ピシウム属種(Pythium sp.)]、と闘うことに関して、作物野菜;
−地上部分の次の病気:灰色かび病[ボトリチス属種(Botrytis sp.)]、うどんこ病[特に、エリシフェ・シコラセアラム(Erysiphe cichoracearum)、スフェロセカ・フリギネア(Sphaerotheca fuliginea)、レベイルラ・タウリカ(Leveillula taurica)]、赤かび病[フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)、フザリウム・ロゼウム(Fusarium roseum)]、斑点病[クラドスポリウム属種(Cladosporium sp.)]、アルテルナリア斑点病[アルテルナリア属種(Alternaria sp.)]、炭疽病[コレトトリチューム属種(Colletotrichum sp.)]、セプトリア斑点病[セプトリア属種(Septoria sp.)]、黒斑点病[リゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)]、べと病[例えばブレミア・ラクツカエ(Bremia lactucae)、ペロノスポラ属種(Peronospora sp.)、シュードペロノスポラ属名(Pseudoperonospora sp.)、フィトソラ属名(Phytopthora sp.)]、と闘うことに関して、作物野菜;
−地上部分の病気:モニリア病[モニリア・フルクティガーナ(Monilia fructigenae)、モニリア・ラクサ(M.laxa)]、黒星病[ベンツリア・イナエクアリス(Venturia inaequalis)]、うどんこ病[ポドスフェラ・リューコトリカ(Podosphaera leucotricha)]、に関して、果樹;
−葉の病気:特に、ボトリチス・シネレア(Botrytis cinerea)]、うどんこ病[ウンシヌラ・ネカトール(Uncinula necator)]、黒腐病[グイニャーディア・ビウェリ(Guignardia viwelli)]、べと病[プラスモパラ・ビチコラ(Plasmopara viticola)]、に関して、ブドウの木;
−地上部分の次の病気:サーコスポラ葉枯病[サーコスポラ・ベチコラ(Cercospora beticola)]、うどんこ病[エリシフェ・ベチコラ(Erysiphe beticola)]、斑点病[ラムラリア・ベチコラ(Ramularia beticola)]、に関して、ビートの根
を挙げることができる。
【0018】
ケトール酸レダクトイソメラーゼは、植物および微生物(細菌、酵母菌、真菌)において見出される、よく特性付けされた酵素である。本発明の方法は、ケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤を使用する。本実施形態において、本発明は、真菌病罹病性作物を処置するための、真菌ケトール酸レダクトイソメラーゼの阻害剤の使用、さらに好ましくは、植物病原性真菌のケトール酸レダクトイソメラーゼの阻害剤の使用に関する。本発明の特定の実施形態において、ケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤は、マグナポルテ・グリセア(Magnaporthe grisea)および/またはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)および/またはニユーロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)のケトール酸レダクトイソメラーゼを阻害する。もう一つの特定の実施形態において、ケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤は、配列番号1、配列番号2、配列番号3および/または配列番号5のケトール酸レダクトイソメラーゼの酵素活性の阻害剤である。
【0019】
あらゆるケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤を本発明の方法において使用することができる。ケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤は、当業者によく知られており、これらの阻害剤は、特に、欧州特許第106114号、米国特許第4,594,098号、欧州特許第196026号、欧州特許第481407号、国際公開公報第94/23063号、カナダ特許第2002021号および国際公開公報第97/37660号に記載されている。
【0020】
本発明の特定の実施形態において、ケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤は、ケトール酸レダクトイソメラーゼの活性部位に結合している反応中間類似体である。
【0021】
好ましくは、ケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤は、ジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートである。
【0022】
さらに好ましくは、ケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤は、N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートである。
【0023】
本発明の好ましい実施形態において、ケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤は、殺真菌組成物の形態である。本発明は、有効量の少なくとも一つのケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤を含む殺真菌組成物にも関する。本発明の殺真菌組成物は、前記阻害剤に加えて、農業上許容可能な固体もしくは液体担体および/または界面活性剤(これも、農業上許容可能なものである)を含む。詳細には、通常の不活性担体および通常の界面活性剤を使用することができる。本発明のこれらの殺真菌組成物は、例えば、保護コロイド、粘着剤、増粘剤、チキソトロープ剤、浸透剤、安定剤、金属イオン封鎖剤などの、あらゆるタイプの他の成分も含有することができる。さらに一般的には、ケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤は、通常の調合法に対応するすべての固体または液体添加剤と併用することができる。
【0024】
本発明の主題は、ケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤および別の殺真菌化合物を含む殺真菌組成物でもある。他の殺真菌剤との混合物、詳細には、アシベンゾラ−S−メチル;アゾキシストロビン;ベナラキシル;ベノミル;ブラスチシジン−S、ブロムコナゾール;カプタホール;カプタン;カルベンダジム;カルボキシン;カルプロパミド;クロロサロニル;銅、または水酸化銅もしくはオキシ塩化銅などの銅誘導体をベースにした殺真菌組成物;シアゾファミド;シモキサニル;シクプロコナゾール;シプロジニル;ジクロラン;ジクロシメット;ジクロラン;ジエトフェンカルブ;ジフェノコナゾール;ジフルメトリム;ジメトモルフ;ジニコナゾール;ジスコストロビン;ドデモルフ;ドジン;エジフェンフォス;エポキシコナゾール;エタボキサム;エチリモール;ファモキサドン;フェナミドン;フェナリモール;フェンブコナゾール;フェンヘキサミド;フェンピクロニル;フェンプロピジン;フェンプロピモルフ;フェリムゾン;フルアジナム;フルジオキソニル;フルメトーバー;フルキノコナゾール;フルシラゾール;フルスルファミド;フルトラニル;フルトリアホール;ホルペット;フララキシル;フラメトピル;グアザチン;ヘキサコナゾール;ヒメキサゾール;イマザリル;イプロベンホス;イプロジオン;イソプロチオラン;カスガマイシン;クレゾキシム−メチル;マンコゼブ;マネブ;メフェノキサム;メパニピリム;メタラキシル、およびメタラキシル−Mなどのその誘導体;メタコナゾール;メチラム−亜鉛;メトミノストロビン;オキサジキシル;ペフラゾエート;ペンコナゾール;ペンシクロン;リン酸およびホセチル−Alなどのその誘導体;フタリド、ピコオキシストロビン;プロベナゾール;プロクロラズ;プロシミドン;プロパモカルブ;プロピコナゾール;ピラクロストロビン;ピリメタニル;ピロキロン;キノキシフェン;シルチオファム;シメコナゾール;スピロキサミン;テブコナゾール;テトラコナゾール;チアベンダゾール;チフルザミド;チオファナート、例えば、チオファナート−メチル;チラム;トリジメホン;トリアジメノール;トリシクラゾール;トリデモルフ;トリフロキシストロビン;トリチコナゾール;例えば、イプロバリカルブなどのバリンアミド誘導体;ビンクロゾリン;ジネブおよびゾキサミドとの混合物は、特に有利である。こうして得られた混合物は、より広い活性範囲を有する。本発明の組成物は、一つ以上の殺虫剤、殺菌剤または殺ダニ剤またはフェロモンまたは生物活性を有する他の化合物も含むことができる。
【0025】
本発明の主題は、ケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤を使用する殺真菌組成物の製造法でもある。
【0026】
本発明の主題は、ケトール酸レダクトイソメラーゼの酵素活性を阻害する化合物を特定することを含む殺真菌化合物の調製法でもある。
【0027】
そのケトール酸レダクトイソメラーゼの酵素活性の阻害を測定するために、試験化合物の存在下で酵素反応を行う。ケトール酸レダクトイソメラーゼの酵素活性を測定するための、従って、この酵素活性を阻害する化合物を特定するためのすべての生化学的アッセイを、本発明の方法に使用することができる。前記生化学的アッセイは、当業者によく知られている(Dumasら,Biochem.J.288:865−874,1992;Dumasら,Biochem.J.301:813−820,1994;Dumasら,Febs Letters 408:156−160,1997;Halgandら,Biochemistry 37:4773−4781,1998;Wesselら,Biochemistry 37:12753−12760,1998;Halgandら,Biochemistry 38:6025−6034,1999)。
【0028】
その酵素反応は、適するバッファ中の溶液中で行うと有利である。このタイプの反応媒体の使用によって、多数の反応を並行して行うことが可能となり、従って、例えば、マイクロプレートフォーマットで多数の化合物を試験することが可能となる。
【0029】
好ましくは、ケトール酸レダクトイソメラーゼの酵素活性を阻害する化合物を特定するための方法は、これらの化合物を、マグネシウムの存在下、基質中のNADPHの存在下で、ケトール酸レダクトイソメラーゼと接触させるし、この酵素活性を測定することを含む。
【0030】
有利には、本発明の方法における酵素活性の測定は,340nmでのNADPHの吸収の低下を測定することを含み、その酵素反応に使用される基質は、2−アセト酪酸(ALまたは2−アセト−2−ヒドロキシ酪酸(AHB)である。当業者には公知の他の酵素活性測定法を本発明の方法に使用できることは理解される。
【0031】
あらゆるケトール酸レダクトイソメラーゼを本発明の方法において使用することができる。ケトール酸レダクトイソメラーゼは、植物、細菌、酵母菌および真菌などの一部の微生物において特性付けされている。対応する遺伝子をクローン化することによって、この酵素の蛋白質の配列を決定することが可能となる(Dumasら,Biochem.J.277:69−475,1991;Curienら,Plant Mol.Biol.21:717−722,1993;Dumasら,Biochem.J.294:821−828,1993;Biouら,EMBO J.16:3405−3415,1997;Dumasら,Biochemistry 34:6026−6036,1995;Dumasら,Accounts of Chemical Research 34:399−408,2001;Sistaら,Gene,120:115−118,1992;Zelenaya−Troitskayaら,EMBO J.14:3268−3276,1995)。
【0032】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の方法において使用されるケトール酸レダクトイソメラーゼは、配列番号1、配列番号2、配列番号3および/または配列番号5で表される。
【0033】
好ましくは、ケトール酸レダクトイソメラーゼは、その自然環境から単離され、精製または不完全精製される。ケトール酸レダクトイソメラーゼは、様々な方法を利用して調製することができる。これらの方法は、詳細には、これらのポリペプチドを自然発現する細胞などの天然供給源からの精製;適切な宿主細胞による組換えポリペプチドの生産およびその後のそれらの精製;化学合成による製造であり、または最終的にはこれらの様々なアプローチの組合せである。これらの様々な製造法は、当業者によく知られている。
【0034】
本発明の第一の実施形態において、ケトール酸レダクトイソメラーゼは、例えば、E.コリ菌などの細菌、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)などの酵母菌、またはN.クラッサ(N.crassa)もしくはM.グリセア(M.grisea)などの真菌のようなこの酵素を自然生産する生物から精製される。
【0035】
本発明の好ましい実施形態において、ケトール酸レダクトイソメラーゼは、組換え宿主生物において過発現される。DNAフラグメントを設計するための方法および宿主細胞内でポリペプチドを発現させるための方法は、当業者によく知られており、例えば、Greene Publishing Associates and Wiley−Interscienceにより出版(1989)された「分子生物学における最新プロトコル(Current Protocol in Molecular Biology)」の1巻および2巻、F.M.Ausubelら著、またはMolecular Cloning,T.Maniatis,E.F.Fritsch,J.Sambrook(1982)に記載されている。
【0036】
好ましくは、ケトール酸レダクトイソメラーゼの酵素活性を阻害する化合物を特定するための方法は、宿主生物においてケトール酸レダクトイソメラーゼを発現させること、その宿主生物によって生産されたケトール酸レダクトイソメラーゼを精製すること、これらの化合物と精製されたケトール酸レダクトイソメラーゼとをマグネシウム、NADPHおよび基質の存在下で接触させること、ならびに酵素活性を測定することを含む。
【0037】
好ましい実施形態において、これらの方法はすべて、ケトール酸レダクトイソメラーゼの酵素活性を阻害する前記化合物が真菌の成長および/または病理発生を阻害するかどうかを判定する追加段階を含む。
【0038】
従って、本発明は、ケトール酸レダクトイソメラーゼの酵素活性を阻害することによって真菌の成長および/または病理発生を阻害する化合物を特定するための方法に関する。これらの方法は、ケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害化合物の特定に適するアッセイに化合物または化合物の混合物を付すし、前記アッセイに対して正に反応する化合物を選択すること、適切な場合にはそれらを単離するし、その後、それらを特定することに存する。
【0039】
好ましくは、前記の適するアッセイとは、上で定義したようなケトール酸レダクトイソメラーゼの酵素活性についてのアッセイである。
【0040】
好ましくは、これらの方法に従って特定した化合物を、その後、当業者には公知の方法に従って、その抗真菌特性について、ならびに植物に対する真菌の病理発生および/または成長を阻害するその能力について試験する。好ましくは、葉または植物全体に対する病理発生分析を利用して化合物を評価する。
【0041】
本発明によると、用語「化合物」は、ペプチドおよび蛋白質を含むあらゆる化学化合物または化学化合物の混合物を意味するものと解釈される。
【0042】
本発明によると、用語「化合物の混合物」は、例えば、分子の立体異性体(ジアステレオ異性体)、生物材料(植物、植物組織、細菌培養物、酵母菌培養物もしくは真菌培養物、昆虫、動物組織など)の抽出物由来の天然起源の混合物、または未精製、完全精製もしくは不完全精製反応混合物、または他にコンビナトリアルケミストリーによって誘導された生成物の混合物などの、少なくとも二つの異なる化合物を意味するものと理解される。
【0043】
最後に、本発明は、ケトール酸レダクトイソメラーゼの酵素活性を阻害する新規真菌病発生阻害化合物、詳細には、本発明の方法によって特定された化合物および/または本発明の方法によって特定された化合物から誘導された化合物に関する。
【0044】
好ましくは、ケトール酸レダクトイソメラーゼの酵素活性を阻害する真菌病発生阻害化合物は、一般的な酵素阻害剤ではない。また、好ましくは、本発明の化合物は、殺真菌活性および/または真菌の病理発生に対して活性を有することが既に知られている化合物ではない。
【0045】
本発明の主題は、植物病原性真菌に備えて植物を処理する方法でもあり、この方法は、本発明の方法によって特定された化合物で前記植物を処理することを含むことを特徴とする。
【0046】
本発明は、本発明の特定法によって、ケトール酸レダクトイソメラーゼの酵素活性を阻害する真菌病発生阻害化合物を特定することに存する段階、およびその後、通常の化学合成法、酵素的合成法および/または生物材料の抽出法によって前記特定化合物を調製することに存する段階を含む、真菌病発生阻害化合物を調製するための方法にも関する。化合物を調製する段階を進めて、適切な場合には、本発明の特定法により特定された化合物から誘導された化合物を特定し、その後、前記誘導化合物を通常の方法により調製する「最適化」段階を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】M.グリセア(M.grisea)、N.クラッサ(N.crassa)およびS.セレビシエ(S.cerevisiae)のイソメロレダクターゼの蛋白質配列の比較を示す図である。CLUSTAL W(1.4)ソフトウェアを使用して配列したもの。 .:類似のアミノ酸 :同じアミノ酸
【図2】N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメート(IpOHA)の存在下、様々な培養条件下でのM.グリセア(M.grisea)についての成長アッセイを示す図である。 病原性真菌M.グリセア(M.grisea)に対する阻害剤IpOHAの効果を、様々な濃度の阻害剤の存在下、様々な培地中で7日間にわたってこの真菌の成長変化を追跡することによって、試験する。200μLの培地、最小培地(MN)、または最小培地+0.3mMのロイシン、バリンおよびイソロイシン(MN+ILV)、に胞子数10/mLの最終濃度でM.グリセア(M.grisea)P1.2の胞子の浮遊液を接種する。そのマイクロプレートを周囲温度でインキュベートし、0、3、4、5、6および7日(D0、D3、D4、D5、D6およびD7)目に、630nmでの光学密度(OD630)を測定する。この光学密度によって、菌糸の成長寸法が提供される。
【図3】酵母菌イソメロレクターゼの酵素活性に対するNADPHの濃度の影響を示す図である。酵素活性の測定は、1mLの反応培地(10mMのMgCl、0〜175μMのNADPH、0.48mMのAHB)、および50mMのナトリウムHepesバッファー(pH7.5)中、25℃で行う。曲線は、メカエリス−メンテンモデルで調整する。NADPHについてのKは、1.6μMである。
【図4】酵母菌イソメロレクターゼの酵素活性に対する基質AHB[A]およびAL[B]の濃度の影響を示す図である。酵素活性の測定は、反応培地(10mMのMgCl、250μMのNADP)、および1mLの50mMナトリウムHepesバッファー(pH7.5)中、AHB[A]およびAL[B]の存在下、25℃で行う。曲線は、メカエリス−メンテンモデルで調整する。A:AHBのKは、1.04μMである。B:ALのKは、266μMである。
【図5】酵母菌イソメロレクターゼの酵素活性に対するマグネシウムの濃度の影響を示す図である。酵素活性の測定は、1mLの反応培地(0〜40mMのMgCl、250μMのNADPH、0.48mMのAHB)、および50mMのナトリウムHepesバッファー(pH7.5)中、25℃で行う。 曲線は、メカエリス−メンテンモデルで調整する。Mg2+についてのKは、968μMである。
【図6】阻害剤ジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートおよびN−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートの結合についての化学量論比を示す図である。阻害剤Hoe 704[A]およびIpOHA[B](0.1nmol)を、酵素の量を変化させて(0〜0.4nmol)20分間25℃で10μL量のNADPH(25nmol)およびMg2+(0.25μmol)と共にインキュベートする。酵素活性の測定は、1mLの反応培地(10mMのMgCl、250μMのNADPH、0.48mMのAHB)、および50mMのナトリウムHepesバッファー(pH7.5)中、25℃で行う。
【図7】阻害剤ジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテート[A]およびN−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメート[B]の存在下での酵母菌イソメロレダクターゼの阻害の動態を示す図である。酵素活性の測定は、50mMのナトリウムHepesバッファー(pH7.5)中の反応培地(10mMのMgCl、250μMのNADPH、0.48mMのAHB)1mL中、110nMの酵素の存在下、25℃で行う。 反応は、様々な量の阻害剤ジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテート[A]およびN−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメート[B](2μM〜30μM)を前記反応培地に同時に添加することによって開始する。方程式(1)に従って曲線をプロットし、それによって、Kobs(酵素−阻害剤複合体の生成の見掛けの速度)の値を決定することが可能となる。
【図8】阻害剤ジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテート[A]およびN−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメート[B]の存在下での酵母菌イソメロレダクターゼの阻害の動態を示す図である。酵素活性の測定は、50mMのナトリウムHepesバッファー(pH7.5)中の反応培地(10mMのMgCl、250μMのNADPH、0.48mMのAHB)1mL中、110nMの酵素の存在下、25℃で行う。 反応は、様々な量の阻害剤[A]および[B](2μM〜50μM)を前記反応培地に同時に添加することによって開始する。
【図9】基質AHBの濃度の関数としての式1/Kobsの使用による、酵母イソメロレダクターゼに対するジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテート[A]およびN−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメート[B]の結合定数kの決定を示す図である。酵素活性の測定は、1mLの反応培地(10mMのMgCl、250μMのNADPH、125μM〜2.375mMのAHB)、および50mMのナトリウムHepesバッファー(pH7.5)中、110nMの酵素の存在下、25℃で行う。前記反応は、様々な量の基質AHB(125μM〜2.375mM)および阻害剤[A](10μM)および[B](15μM)を前記反応培地に同時に添加することによって開始する。 方程式(3)に従って曲線をプロットし、それによって、K(阻害と酵素の結合速度)の値を決定することが可能となる。
【0048】
(実施例)
【実施例1】
【0049】
マグナポルテ・グリセア(Magnaporthe grisea)(イネいもち病菌)ILV5遺伝子のクローニング
M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の内部フラグメントを、真菌イソメロレダクターゼ間に保存されている蛋白質ドメインに対応する対の縮重プライマーを使用して、この真菌のゲノムDNAからPCRにより増幅した。得られたPCR生成物を、その後、プラスミドpGEM−T−East(Promega)にクローニングし、配列して、新たな対のプライマーでPCRにより増幅した。後者のPCR生成物を、M.グリセア(M.grisea)コスミドDNAライブラリをスクリーニングするための相同プローブとして使用した。その後、正のクローンのうちの一つと、既に得られているPCR生成物の配列から誘導したオリゴヌクレオチドとを使用して、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の配列を製作した。
【0050】
1.1.縮重オリゴヌクレオチドを使用する増幅によるM.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の内部フラグメントの分離
1.1.1.縮重オリゴヌクレオチドの選択
M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の内部フラグメントの増幅は、縮重オリゴヌクレオチドを使用するPCRによって行った。これらの縮重オリゴヌクレオチドは、N.クラツサ(N.crassa)およびサッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)のイソメロレダクターゼの蛋白質配列の比較に基づいて選択した。この比較によって、M.グリセア(M.grisea)のイソメロレダクターゼ中に存在するはずである、これら二つの真菌イソメロレダクターゼ配列間に保存されている4つのドメインを示すことができた。これら4つの保存ドメインは、連続した少なくとも7つの保存アミノ酸から成る。縮重オリゴヌクレオチドのこの配列は、遺伝子コードに従って翻訳された保存ドメインのアミノ酸のものから決定した。縮重度(所定のアミノ酸についてのコドンの数)をできるだけ低くするために、アルギニン、ロイシンまたはセリンなどのアミノ酸は、6つのコドンがそれらに対応するので、避けなければならない。そうしたものとしては、アミノ酸メチオニンおよびトリプトファンが望ましい。たった一つのコドンがそれらに対応するからである。縮重度は、増幅の特異性を増すために、そのオリゴヌクレオチドの3’末端では低くあらねばならない。本発明者らは、M.グリセア(M.grisea)DNAの(+)鎖上のオリゴヌクレオチド1(+)および3(+)ならびに(−)鎖上のオリゴヌクレオチド2(−)および4(−)という4つのオリゴヌクレオチドを規定することができた。従って、PCR増幅は、1(+)と2(−)、1(+)と4(−)、3(+)と2(−)、3(+)と4(−)という縮重オリゴヌクレオチドの4つの異なる対を使用して行うことができる。
【0051】
1.1.2.縮重オリゴヌクレオチドを使用するM.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の内部フラグメントの増幅
M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子のの増幅に最適な条件は、プライマーの対およびそれらのハイブリダイゼーション温度を変化させることによって決定した。最初の3増幅サイクルは、可変的なハイブリダイゼーション温度(42℃、50℃または55℃)で行ったのに対して、他のサイクルのハイブリダイゼーション温度は、55℃である。正の対照は、N.クラッサ(N.crassa)およびS.セレビシエ(S.cerevisiae)のゲノムDNAを用い、M.グリセア(M.grisea)のゲノムDNAについてのものと同じ条件下で行った。ハイブリダイゼーション温度42℃で、プライマー対(1−4)、(1−2)、(3−4)および(3−2)をそれぞれ用いてS.セレビシエ(S.cerevisiae)DNAフラグメントを期待サイズ、すなわち590bp、610bp、440bpおよび470bp、で増幅した。しかし、プライマー対(1−4)および(3−2)でのS.セレビシエ(S.cerevisiae)ゲノムDNAの増幅プロフィールは、複合している。ハイブリダイゼーション温度50℃については、プライマー対(1−4)、(1−2)、(3−4)および(3−2)をそれぞれ使用してN.クラッサ(N.crassa)DNAフラグメントを期待サイズ、すなわち660bp、685bp、523bpおよび544bp、で増幅したが、プライマー対(1−4)および(3−4)での増幅プロフィールは、複合している。様々な縮重オリゴヌクレオチド対によって、酵母菌ゲノムDNAおよびN.クラッサ(N.crassa)ゲノムDNAから期待サイズのフラグメントを増幅することができた。そのため、これらの縮重オリゴヌクレオチドを、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子を増幅するために、使用することができた。ハイブリダイゼーション温度42℃で試験した、オリゴヌクレオチドの使用量は、M.グリセア(M.grisea)ゲノムDNAの増幅に対してなんらかの影響を及ぼすようには見えない。最初のPCRでのハイブリダイゼーション温度42℃で、様々なプライマー対を用いて得られたM.グリセア(M.grisea)ゲノムDNAの増幅プロフィールは、かなり複合している。ハイブリダイゼーション温度50℃で、M.グリセア(M.grisea)ゲノムDNAの増幅プロフィールの単純化が、殆どのプライマー対について、特に、プライマー対(1−2)(期待サイズ(685bp)での単一のDNAフラグメントの増幅を可能にする)について観察された。最初のPCRサイクルでのハイブリダイゼーション温度が55℃では、プライマー対(1−2)および(3−2)での増幅の特異性を上昇させることおよびその収率を低下させることが可能とならない。従って、M.グリセア(M.grisea)ゲノムDNAからの増幅についての最良の条件は、オリゴヌクレオチド対(1−2)を使用して、最初のPCRサイクルでのプライマーハイブリダイゼーション温度50℃で得られた。
【0052】
1.1.3.プラスミドpGEM−T−easyにおける、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子のPCR増幅内部フラグメントのクローニング
プライマー対(1−2)を使用し、3サイクルはプライマーハイブリダイゼーション温度50℃、その後、他の増幅サイクルは55℃でM.グリセア(M.grisea)ゲノムDNAからPCRによりM.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の内部フラグメントを増幅した。約680pbのこのPCR生成物を、アガロースゲル電気泳動のよって分離した後、精製し、その後、プラスミドpGEM−T−easyにクローニングする。形質転換後、ホワイト/ブルー選択システム(X−Gal)を使用して得られた細菌コロニーは、ホワイト、ブルー、およびコロニーの中心がブルーであるホワイト(ホワイト/ブルーコロニーと呼ばれる)という3つの異なる表現型を示した。プラスミドpGEM−T−easyのクローニング部位のいずれかの側にハイブリダイズする万能プライマーSp6およびT7を使用するPCRによって、様々な表現型の30のコロニーを分析した。20のホワイトコロニーおよび10のホワイト/ブルーコロニーが正である。実際、これらのコロニーから、挿入体のサイズ(680bp)+プライマーSp6およびT7各々と挿入体とを分かつ距離(120bp)に対応する期待サイズ(810bp)で、DNAフラグメントを増幅した。その後、異なる表現型の二つのクローン、ホワイトおよびホワイト/ブルー、を選択して、配列した。これらが、クローン番号4(ホワイト)および番号20(ホワイト/ブルー)である。
【0053】
1.1.4.M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子のクローン化内部フラグメントの配列の分析
二つのクローン、番号4および番号20、のヌクレオチド配列の比較は、それらが、プラスミドpGEM−T−easyに異なる配向でクローニングした同じDNAフラグメントに対応することを示し、それによって、それらの表現型の違い(ホワイトおよびホワイト/ブルー)を説明することができた。このクローン化フラグメントの二本鎖ヌクレオチド配列は、このようにして得られた。既知蛋白質をコードしているものとこのヌクレオチド配列との相同性を、NCBI(National Center for Biotechnology Information:(米国)バイオテクノロジー情報センター)からのBlastxプログラムを使用して探索した。このプログラムは、ヌクレオチド配列の6つのリーディングフレームの翻訳配列を、そのデータベースに収容されているすべてのたんぱく質配列と比較する。前記クローン化フラグメントのヌクレオチド配列とN.クラッサ(N.crassa)イソメロレダクターゼの蛋白質配列(e−102のエラー)の間に有意な相同性が確認された。これら2つの配列と比較するために前記ソフトウェアにより規定された領域内でのアミノ酸の同一度は、94%である。従って、プラスミドpGEM−T−easyにクローニングしたフラグメントは、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の内部フラグメントに対応する。M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の内部フラグメントの配列とN.クラッサ(N.crassa)ILV5遺伝子のものは、強い相同性を示すが、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の配列の中心に違いが存在する。N.クラッサ(N.crassa)ではこの位置に77bpのイントロンが存在するので、この違いは、M.グリセア(M.grisea)配列内のイントロンの存在に対応しうる。このイントロンの配列中での位置を探索した。5’スプライシングコンセンサスモチーフと共に、3’スプライシングコンセンサスモチーフおよび投げ縄型配列を、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の内部フラグメントのヌクレオチド配列において特定した。従って、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の内部フラグメントの推定イントロン(86bp)を特定した。M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の内部フラグメントの配列のイントロンのスプライシングによって、「理論上の」cDNAフラグメントを得ることが可能となる。その後、この「理論上の」cDNAから理論的に導き出したM.グリセア(M.grisea)イソメロレダクターゼの蛋白質配列のフラグメントをN.クラッサ(N.crassa)イソメロレダクターゼのものと比較すると、それは、これら二つの酵素の主配列の間の非常に強い同一性を示した(図1)。
【0054】
1.2.M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子用のプローブでのM.グリセア(M.grisea)コスミドライブラリのスクリーニング
1.2.1M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子用の相同プローブの構築
プラスミドpGEM−T−easyにクローニングしたM.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の配列に基づき規定したプライマー13Uおよび549Lを使用して、クローン番号4からM.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の内部フラグメントをPCRにより増幅した。アガロースゲルで精製した後、このフラグメントを、ILV5遺伝子用の標識プローブを作成するためのマトリックスとして使用した。
【0055】
1.2.2.M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子に特異的なプライマーを使用するPCRによるM.グリセア(M.grisea)Guy11コスミドライブラリのスクリーニング
Guy11コスミドライブラリは、96ウエルプレート内に存在する96の異なるコスミドに対応する96のDNAミニ作成体の28のプール(2688クローン)の形で表される。M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の既知配列に基づいて規定したプライマー300Uおよび549Lを使用し、これらのDNAミニ作成体プールに対してPCR増幅を行うことによって、このコスミドライブラリにおいて、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子を探索した。プール番号17、19、20、21、27、28および29から、期待サイズ(249bp)のフラグメントを増幅した。前記ILV5遺伝子についての検索は、前記ILV5遺伝子用のプローブと、前記プレート番号17、19、20、21、27、28および29からのコスミドをハイブリダイズさせることにより継続した。
【0056】
1.2.3.M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子用の相同プローブでのハイブリダイゼーションによるM.グリセア(M.grisea)Guy11コスミドライブラリのスクリーニング
プレート番号17、19、20、21、27、28および29由来の細菌コロニーをナイロン膜上に複製し、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子用のプローブでハイブリダイズした。このハイブリダイゼーションによって、プレート番号20および27からそれぞれコスミドG6およびG7を、ならびにプレート29からコスミドB5およびB6を選択することができた。
【0057】
1.2.4.コスミド20/G6を使用するM.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の特性付け
a)コスミド20/G6を使用するM.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の配列
前記ILV5遺伝子の配列を段階的に行った。第一の配列反応は、PCRによって得られたM.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の内部フラグメントの既知配列から選択した分岐プライマーを使用して行った。この新たなILV遺伝子配列に基づき、さらなるプライマーを規定して、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子が完全に配列されるまで、他の配列反応を行った。6つのリーディングフレームのILV5遺伝子の全ヌクレオチド配列から翻訳された配列をN.クラッサ(N.crassa)イソメロレダクターゼの蛋白質配列と比較して、翻訳開始ATG、翻訳停止の停止コドン、および様々な可能なイントロンの位置を確認した。このようにして、翻訳開始ATGをILV5遺伝子のヌクレオチド配列上で特定した。これは、前記配列の他の要素を位置決めするリフェレンス(+1)として役立つ。3つの推定イントロンが、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子のヌクレオチド配列内にあった。第一のイントロンは、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の位置199と280(単位:bp)の間、第二のイントロンは、位置314〜390にあると考えられ、第三のイントロンは、位置670と755の間にあると考えられる。翻訳停止の停止コドンは、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の配列の位置1449にあると考えられる。M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子のcDNAの単離を行って、M.グリセア(M.grisea)およびN.クラッサ(N.crassa)の蛋白質配列の比較により、推測イントロンの位置を確認した。
【0058】
b)M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子のcDNAの単離およびM.グリセア(M.grisea)遺伝子のイントロンについての検索
M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子のcDNAは、ILV5遺伝子配列に基づき規定したオリゴヌクレオチド(オリゴヌクレオチド22Uおよび1063L)を使用して、cDNAライブラリから分離体P1.2(完全培地中で培養した菌糸のRNA)のPCR増幅を行うことによって単離した。オリゴヌクレオチド22Uは、翻訳開始ATGの前にあり、オリゴヌクレオチド1603Lは、翻訳停止STOPコドンの後、93bpにある。二つのフラグメント(サイズ500bp未満のフラグメントおよび期待サイズ、すなわち1.6kb、で増幅したフラグメント)をこのプライマー対で増幅する。期待サイズで増幅したフラグメントを、アガロースゲル電気泳動により分離した後、精製し、プラスミドpGEM−T−easyにクローニングする。形質転換後に得られた24の細菌クローンを、プライマー22Uと1603Lの対を使用するPCRによって分析する。DNAフラグメントが、期待サイズ(1.6kb)で実際に増幅されたので、これら24のクローンは、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子のcDNAを有する。クローン番号18を選択して、万能プライマーSp6およびT7を使用して配列した。ILV5遺伝子のcDNAのヌクレオチド配列の比較によって、イントロンの正確な位置を決定することができた。3つのイントロンは、N.クラッサ(N.crassa)イソメロレダクターゼの蛋白質配列とM.グリセア(M.grisea)の翻訳体の蛋白質配列の比較によって予測される位置にある。N.クラッサ(N.crassa)では、前記ILV5遺伝子は、4つのイントロンを有し、それらは、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子と比較して異なる位置にあり、長さが異なる。
【0059】
c)M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子を使用して得られたすべてのデータから導き出されたM.グリセア(M.grisea)イソメロレダクターゼの蛋白質配列
M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の蛋白質配列をこの遺伝子のcDNA配列から導き出した。M.グリセア(M.grisea)、アカバンカビ(N.crassa)およびS.セレビシエ(S.cerevisiae)のイソメロレダクターゼの蛋白質配列の比較は、これら3種のイソメロレダクターゼの非常に強い同一性を示す。実際、M.グリセア(M.grisea)イソメロレダクターゼの配列とN.クラッサ(N.crassa)イソメロレダクターゼの配列の間の同一度は、86%である。M.グリセア(M.grisea)イソメロレダクターゼと酵母菌イソメロレダクターゼの間の同一度は、70%であり、N.クラッサ(N.crassa)イソメロレダクターゼと酵母菌イソメロレダクターゼの間の同一度は、72%である(図1)。N.クラッサ(N.crassa)とM.グリセア(M.grisea)は、非常に類似した真菌種(核菌類)であり、そのことによってこれら二つの種のイソメロレダクターゼの間の高い同一度が説明できる。
【0060】
d)様々なストレス条件に付したM.グリセア(M.grisea)におけるM.グリセア(M.grisea)イソメロレダクターゼの発現の研究
様々なストレス条件に付した菌糸から発生させたM.グリセア(M.grisea)全RNAを抽出して、膜に転移させ、その後、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子用の相同プローブとハイブリダイズさせた。ILV5遺伝子は、構成的に発現される。それ故、cAMPによる導入のための高浸透ストレスもしくは窒素系栄養欠乏、熱ショックまたは酸化ストレス中に同じレベルで発現される。しかし、炭素系栄養欠乏中には発現されない。
【実施例2】
【0061】
M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の分解
ILV5遺伝子の単離および特性付けに次ぐ目的は、病原性能力を試験するためにM.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子の突然変異体を得ることであった。ILV5遺伝子を分解するために使用した手法は、インビトロでの転置による挿入突然変異誘発である。
【0062】
2.1.プラスミドpBC SK+におけるM.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子のサブクローニング
前記ILV5遺伝子のサブクローニングをプラスミドpBC SK+において行い、その後、トランスポゾンに基づく挿入突然変異誘発を行う。ILV5遺伝子を含むコスミド20/G6は、アンピシリンに対する耐性に関する遺伝子を有し、そのため、この挿入突然変異誘発のターゲットとして直接使用することはできない。実際、カナマイシンとアンプリシンの二重選択は、トランスポゾン供与プラスミド(pGPS Hygro(登録商標))もカナマイシンおよびアンピシリンに対して耐性であるので、トランスポゾンが組み込まれたターゲットプラスミドに対して充分に選択的ではない。そのため、クロラムフェニコールに対する耐性に関する遺伝子を有するプラスミド、プラスミドpBC SK+、にILV5遺伝子をサブクローニングした。ターゲットプラスミドにトランスポゾンが組み込まれたクローン(ILV5遺伝子を有するpBC SK+)は、カナマイシンおよびクロラムフェニコールに対する二重の耐性のために、選択することができる。加えて、コスミド挿入体のサイズが、あまりにも大きい(40kb)。プラスミドpBC SK+にサブクローニングした、ILV5遺伝子を含む約15kbのフラグメントを選択した。実際、トランスポゾンがILV5遺伝子に組み込まれる確立は、ILV5遺伝子を有するフラグメントのサイズを低下させると大きくなる。ILV5遺伝子は、長さ約3kbであり、トランスポゾンがコスミド(46kb)中に存在する遺伝子に組み込まれる確立は、6.5%であるのに対し、プラスミドpBC SK+(18kb)にサブクローンニングしたILV5遺伝子にトランスポゾンが組み込まれる確立は、約3倍高い、すなわち、約17%である。ILV5遺伝子を有するゲノムDNAフラグメントのサブクローニングは、挿入体の中心にこの遺伝子を配置することによって行った。このタイプの構築体は、相同組換えによるM.グリセア(M.grisea)ゲノムへの突然変異ILV5遺伝子の組み込みを促進する。ILV5を有するコスミド20/G6の領域をマッピングすることによって、ILV5遺伝子が比較的よく中心に配置されている15kbのClaI−ClaIフラグメントを選択することが可能になる。実際、ILV5遺伝子は、前記ゲノム配列の5kbによって5’位に、および5.5kbによって3’位に配列される。ClaIでコスミド20/G6を消化した後、ILV5遺伝子を含む15kbのフラグメントをアガロースゲルで分離し、その後、精製して、プラスミドpBC SK+にサブクローニングした。形質転換後に得られた24のコロニーを、ILV5遺伝子に特異的なプライマー22Uと1603Lの対を使用するPCRによって分析した。5つのクローンが、ILV5遺伝子を有する期待サイズ(1.6kb)のフラグメントを増幅する。ILV5遺伝子のインビトロでの転置に基づく挿入突然変異誘発を行うために、クローン番号19を選択した。
【0063】
2.2.M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子のインビトロでの転位に基づく挿入突然変異誘発
M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子のインビトロでの転置に基づく挿入突然変異誘発は、クローン番号19を使用して、GPS(商標)(New England Biolabs)で行った。プラスミドpGPS Hygro(登録商標)(このトランスプライマー中にカナマイシンおよびヒグロマイシンに対する耐性に関する遺伝子を有する)をトランスポゾン供与体として使用する。ILV5遺伝子およびクロラムフェニコールに対する耐性に関する遺伝子を有するプラスミドpBC SK+は、ターゲットプラスミドに相当する。挿入突然変異誘発を行ったら、熱反応性細菌DH5αまたは電気反応性細菌DH10Bを「突然変異誘発混合物」で形質転換する。形質転換後、ターゲットプラスミドpBC SK+へのトランスポゾンの組み込みがある細菌クローンを、カナマイシンとクロラムフェニコールの両方に対する耐性によって選択する。この二重耐性は、ターゲットプラスミドと無損傷の供与体プラスミドを両方有する細菌クローンに対しても付与されている可能性がある。P1−SceIでの消化による供与体プラスミドの分解によって、この問題を克服することが可能となる。トランスポゾンがM.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子に組み込まれているかどうか判定するために、選択した細菌クローンを、ILV5遺伝子のコード領域の両側に位置するプライマー22Uと1603Lの対を使用するPCRによって分析する。具体的には、トランスポゾンTn7がILV5遺伝子に挿入されると、プライマー22Uと1603Lの対での増幅はない。これら二つのプライマーの間にあるDNAフラグメントのサイズが大きすぎて(4.3kb)、増幅できないからである。このサイズは、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子(1.6kb)のコード領域のサイズと2.7kbのTn7トランスポゾンのコード領域のサイズの合計に相当する。熱反応性細胞DH5の形質転換後、試験した32のコロニーのうち、4つのコロニー(クローン番号3、4、8および18)について、増幅の不在が観察された(12.5%)。従って、これらの細菌クローンには、ILV5遺伝子への前記トランスプライマーの挿入がある。電気反応性細胞DH10Bの形質転換後、PCRによって試験した38のコロニーのうち、1つだけ(2.6%)が、増幅の不在を示す(クローン番号29)。トランスポゾンの各末端に位置する縮重プライマーTn7LおよびTn7Rを使用して細菌クローン番号3、8、18および29を配列して、ILV5遺伝子の配列内のTn7トランスポゾンの挿入部位の正確な位置を確認した。トランスポゾンは、クローン番号18についてはATGの前21bp、クローン番号8についてはATGの後9bp、クローン番号3についてはATGの後809bpおよびクローン番号29についてはATGの後1176bpに組み込まれることとなった。本発明者らは、M.グリセア(M.grisea)の形質転換のためにクローン番号8を選択した。実際、このクローンでは、トランスポゾンが、M.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子のコード領域の開始点(ATGの後+9bp)に組み込まれ、その結果、ILV5遺伝子の不活性化が生じた。
【0064】
2.3.そのコード領域において分解されたM.グリセア(M.grisea)ILV5遺伝子でのM.グリセア(M.grisea)株P1.2の形質転換
そのコード領域(ATGの後9bp)において分解されたネいもち病菌(M.grisea)ILV5遺伝子を有するクローン番号8の挿入体を、ClaI酵素での消化により、プラスミドから再び切り出し、アガロースゲルで精製する。それは、線状化された構築体に該当する。未消化のクローン番号8から生じたプラスミドpBC SK+は、「環状」構築体に該当する。前記線状化構築体5μgまたは前記「環状」構築体4μgのいずれかで、M.グリセア(M.grisea)株P1.2プロトプラストの形質転換を行う。形質転換の正の対照は、ヒグロマイシンに対する耐性に関する遺伝子を有するプラスミドpCB1003を3μg使用して行い、負の対照は、DNAを使用せずに行う。線状化構築体については62の形質転換体が得られ、「環状」構築体については24の形質転換体が得られる。これら86の形質転換体を、120g/Lのヒグロマイシンを補充した完全培地および120mg/Lまたは60mg/Lのヒグロマイシンを補充した最小培地で二次培養した。このタイプの二次培養によって、ロイシン、バリンおよびイソロイシンについて栄養要求性であり、それ故、最小培地では成長しないilv5を特定することが可能となる。線状化構築体で得られた62のうち8の形質転換体(13%)は、栄養要求性であると考えられ、これに対して、「環状」構築体で得られた24のうち2つの形質転換体(8.3%)が栄養要求性であると考えられた。「環状」構築体と比較して、線状化構築体でのilv5突然変異体の良好な獲得効率は、相同組換えが線状化構築体で促進されることによって説明できる。これらの形質転換体を「米粉」培地で二次培養して、それらを胞子にし、その後、その胞子をTNKYEグルコース完全培地にプレーティングし、放置して発芽させて、単一胞子の単離を行う。120mg/Lのヒグロマイシンを補充したTNKYEグルコース培地で前記単一胞子を二次培養して、前記形質転換体を精製する。栄養要求性形質転換体の特定は、これらの単一胞子由来のこれらのコロニーを、最小培地または0.3mMのロイシン、バリンおよびイソロイシンを補充した最小培地で、ならびにTNKYEグルコース完全培地で二次培養することによって行う。このようにして、遺伝子的に精製された安定な形質転換体を得た。ロイシン、バリンおよびイソロイシンについて栄養要求性の潜在的形質転換体10のうち8(80%)は、有効に栄養要求性であることがわかった。2つの非栄養要求性形質転換体は、単一胞子精製前の非選択培地での形質転換体の成長中に大部分のilv5に進化した遺伝子的に異なる集団(ilv5およびilv5)の混合物に該当したはずである。
【実施例3】
【0065】
ロイシン、バリンおよびイソロイシンについて栄養要求性のマグナポルテ・グリセア(Magnaporthe grisea)ilv5形質転換体の表現型の特性付けならびにそれらの病原性能力の研究
3.1.M.グリセア(M.grisea)形質転換体の成長および発育に対するILV5遺伝子の分解の影響
様々な培地でilv5形質転換体の発育を試験した。例えば、硝酸塩最小培地ではilv5形質転換体を成長させることができず、これに対して、0.3mMのバリン、ロイシンおよびイソロイシンを補充した最小培地ではそれらの成長が可能である。しかし、最小培地+0.3mMのバリン、ロイシンおよびイソロイシンでのilv5形質転換体の発育は、野生型M.グリセア(M.grisea)株P1.2のものとは異なる。それらの成長は、実際、遅速し、それらの菌糸は、灰色/緑色で、低く、扁平で、胞子形成性であり、野生型株のように気生ではない。0.3mMのイソロイシンおよびバリンを補充した最小培地で得られた結果は、0.3mMのロイシン、バリンおよびイソロイシンを補充した最小培地で得られたものと同じであるので、ロイシンの存在は、ilv5形質転換体の成長には必要でない。0.3mMのバリンおよびイソロイシンを補充した最小培地でのilv5形質転換体の発育は、最終濃度1mMのバリンおよびイソロイシンをその最小培地に補充することによって改善することができる。完全培地では、ilv5形質転換体は、野生型株に比較的類似した表現型を示し、それらの菌糸は、灰色/白色であり、多少気生(野生型株よりは劣った気生)である。1mg/Lのパントテイン(ロイシンの生合成に必要なパントテン酸塩の酸化形)を最小培地+0.3mMのバリンおよびイソロイシンに添加しても、ilv5形質転換体の発育は改善されない。ilv5形質転換体の胞子形成は、「米粉」寒天培地では野生型と比較して遅く、10倍少ない。最終濃度1mMのバリンおよびイソロイシンをその「米粉」寒天培地に添加すると、ilv5形質転換体の胞子形成は、野生型株とほぼ同じである。
【0066】
3.2.人工的な生残条件下でオオムギの葉を切り刻むことに基づくilv5栄養要求突然変異体の病原性能力についての試験
M.グリセア(M.grisea)ilv5形質転換体の病原性能力の試験は、試験形質転換体胞子浮遊液のブロックを、切り刻んだオオムギの葉に綿棒で塗布するか、切り刻んだオオムギの葉の上に堆積させることによって行った。ある接種は、湿潤Qチップを使用して行われ、この湿潤Qチップは、胞子の浮遊液(一般に、胞子数3×10/mL)に浸漬されたもでであり、また、人工的な生残条件(水中に寒天1%の培地、2mg/カイネチン1L)下でのオオムギの葉の断片に綿棒で塗布するために用いられるものである。他のタイプの接種は、オオムギの葉の表面の異なる場所3箇所に30μLの液滴を堆積させることに存する。26℃で5日から9日間インキュベートした後、症状が観察される。
【0067】
これらの突然変異体によって生じる病変は、野生型株についてのものよりサイズが小さく、数が75%少ない(下の表1参照)。
【0068】
表1:人工的な生残条件下でのオオムギの葉に対するilv5形質転換体の病原性能力についての試験
接種後5日目(L41およびL21)および接種後7日目(L57、L64、L71、L85)にオオムギの葉の上のM.グリセア(M.grisea)によって、または綿棒塗布試験において生じた病変の数。
【0069】
A)胞子数3×10・mL−1で調製した形質転換体の胞子の浮遊液
【0070】
【表1】

【0071】
B)胞子数10・mL−1で調製した形質転換体の胞子の浮遊液
【0072】
【表2】

【0073】
ilv5突然変異体によって生じる病変は、非定型的でもあり、それらは、より遅く現れる。それらは、野生型株での4日から9日に対し、6日から9日間、26℃でインキュベートした後、現れる(下の表2参照)。
【0074】
ilv5形質転換体によって生じる幾つかの病変は、オオムギの葉の端に現れる(表2)。葉の端の損傷は、真菌の浸透を促進しうるので、これらの病変を説明することができる。それ故、植物全体の病原性能力についての試験を行って、先ず、ilv5形質転換体の病原性能力の低下の存在を確認し、次に、ilv5突然変異体の病理発生の低下およびilv5真菌の浸透のための損傷の重要性を統計的に予測した。
【0075】
表2:人工的な生残条件下でオオムギの葉の上のM.グリセア(M.grisea)形質転換体によって生じた症状の進展
【0076】
【表3】

【0077】
3.3.植物全体に対するilv5栄養要求突然変異体の病原性能力についての試験
ilv5形質転換体の病原性能力についての試験は、これらの形質転換体の胞子の浮遊液(胞子数10および3×10・mL−1)をオオムギの葉に噴霧することによって行った。最終濃度0.5%(重量/容積)のゼラチンをこの胞子浮遊液に添加して、葉の表面へ胞子の良好な付着を可能にする。前記植物を、接種後一晩、多湿チャンバ内に置く。症状は、オオムギにとっての周囲温度で5日から10日間インキュベートした後、一般に観察される。
【0078】
ilv5形質転換体と比較して、オオムギのいもち病の症状の顕著な減少が、ilv5形質転換体において観察される。周囲温度で10日間インキュベートした後、葉(約12cm)1枚あたりの病変の数は、ilv5形質転換体L57では平均37であるのに対し、ilv5形質転換体(L87、L74およびC24)では6から9である(表3参照)。従って、ilv5突然変異体によって生じた病変の数は、野生型株で得られるものと比較して、80%減少される。加えて、病変は、ilv5形質転換体についてより、ilv5突然変異体についてのほうが2倍小さく(13mmに対して6mm)、これらの病変は、二倍遅く現れる。具体的には、病変の数は、実験の5日目と10日目の間でilv5突然変異体については二倍になり、これに対して、野生型では同じままだった。人工的な生残条件下でilv5形質転換体によって生じるオオムギの葉の端での一定の病変の出現は、真菌の浸透が、この病理発生試験中にオオムギの葉に加えられた損傷によって促進されたことを示唆していた。しかし、ilv5形質転換体を用いて植物全体に対して行った病理発生試験の結果は、人工的な生残条件下で大麦の葉を用いた場合と同じ程度(80%)のこれらの突然変異体の病原性能力の低下を示している。
【0079】
表3:植物全体(オオムギ)に対するilv5形質転換体の病原性能力についての試験
その病原性能力を試験したい形質転換体の胞子の浮遊液(胞子数3×10・mL−1)を噴霧することによって、オオムギ植物に対する接種を行った。前記植物を、接種後一晩、多湿チャンバ内に置いた。接種後、10日間、周囲温度で症状を観察した。形質転換体L57(ilv5)について得られた値を基準にして計算した葉1枚あたりの病変の数の減少率およびサイズの低下率を、カッコ内に示す。
【0080】
【表4】

【実施例4】
【0081】
アセトヒドロキシイソメロレダクターゼ阻害剤の殺真菌効果
4.1.植物病原性真菌マグナポルテ・グリセア(Magnaporthe grisea)に対するアセトヒドロキシイソメロレダクターゼ阻害剤の殺真菌効果
植物病原性真菌M.グリセア(M.grisea)に対する阻害剤ジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートおよびN−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートの殺真菌効果を、様々な濃度の阻害剤の存在下で7日間にわたってこの真菌の成長び進展を追跡することにより、試験した。例えば、所定の培地(硝酸塩最小培地(MM);MM+0.3mMのロイシン、バリンおよびイソロイシン;TNKYEグルコース完全培地(MC);MC+0.3mMのロイシン、バリンおよびイソロイシン)に、胞子数10/mLの最終濃度でM.グリセア(M.grisea)株P1.2の胞子の浮遊液を接種する。試験生成物、N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメート(pH5)、の一定の範囲の希釈液を、前記生成物が100倍濃縮されるように、水で調製する。接種した培地200μLを96ウエルのマイクロプレートに分配し、それらのウエルに100倍濃縮物2μLを添加する。N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートは、最終用量3、1、0.3、0.1、ならびに最小培地中0.03μM、ならびに完全倍地中0.3μMで試験する。そのマイクロプレートを周囲温度でインキュベートし、このマイクロプレートの630nmでの光学密度を読みとることによって、これらの様々な培養条件下、時間0(試験開始)の時点ならびに3日目、4日目、5日目、6日目および7日目の前記細菌の成長を追跡することが可能となる。
【0082】
この試験は、野生型M.グリセア(M.grisea)株P1.2の胞子の浮遊液を様々な培地に接種することによって行った。第一の実験は、硝酸塩最小培地(MM)中で行い、様々な濃度の阻害剤を試験した。それは、MM培地中での成長の有意な阻害の出現が2mMのジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートの存在下で観察される前、成長の6日目および7日目であった。阻害剤を含まない対照のものと比較して、実際、成長を50%低下させる。阻害剤N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメート(0.3μMから1μM)の存在下、3日目から、約50%の真菌成長阻害が、MM培地では観察される。ジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートと比較してN−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートによるM.グリセア(M.grisea)成長の阻害が大きかったことから、本発明者らは、阻害剤のさらに徹底した研究を行うこととなった。
【0083】
真菌M.グリセア(M.grisea)についての成長アッセイを、阻害剤N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメート(0.03μMから3μMの範囲の濃度で)の存在下、様々な培地(MM、および0.3mMのロイシン、バリンおよびイソロイシンを補充したMM)中で、7日間にわたって行った。最小培地では、N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートは、M.グリセア(M.grisea)の成長を強く阻害する。N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメート(0.3μMから)による成長の阻害は、成長の3日目から観察され、その後の日々も同様のままである(図2)。そのため、本発明者らは、成長の5日目に、ID80(真菌成長の阻害が80%になるような阻害剤濃度)およびID50(真菌成長の阻害が50%になるような阻害剤濃度)を計算することを選択した。例えば、真菌M.グリセア(M.grisea)の成長は、1μMのN−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメート濃度(ID80)で、未処理の対照と比較して80%阻害される。0.3μMのN−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメート濃度(ID50)は、真菌成長を50%阻害する(表4)。
【0084】
表4:真菌M.グリセア(M.grisea)の成長に対する阻害剤N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートの効果の研究
【0085】
【表5】

【0086】
病原性真菌M.グリセア(M.grisea)に対する阻害剤N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートの効果は、様々な濃度の阻害剤の存在下、様々な培地中、7日間にわたってこの真菌の成長の進展を追跡することによって、試験した。表に与えた値は、2つの実験から成長5日目に得られた真菌M.グリセア(M.grisea)の平均成長率に相当する。対照(M.グリセア(M.grisea)の野生型菌株)は、成長率100%に相当する。200μLの培地、最長培地(MM)または最小培地+0.3mMのロイシン、バリンおよびイソロイシン(MM+ILV)、に、胞子数10・mL−1の最終濃度でM.グリセア(M.grisea)株P1.2の胞子の浮遊液を接種した。そのマイクロプレートを周囲温度でインキュベートし、630nm(OD630)での光学密度を0、3、4、5、6および7日目(D0、D3、D4、D5、D6およびD7)に測定した。
【0087】
真菌M.グリセア(M.grisea)の成長に対するN−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートの毒性は、使用されるN−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートの濃度が何であれ、最小培地に0.3mMのロイシン、バリンおよびイソロイシンを補充することによって上昇する。最小培地にバリン、ロイシンおよびイソロイシンを添加することによるN−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメート毒性のこの上昇は、この毒性が、そのイソメロレダクターゼを阻害することによるこれらのアミノ酸の生合成経路の特異的な阻害に起因することを示している。
【0088】
実際、M.グリセア(M.grisea)イソメロレダクターゼに対して特異的に作用するN−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートは、非常に低い濃度でM.グリセア(M.grisea)の成長を強く阻害する。イソメロレダクターゼおよび阻害剤N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートは、非常に良いターゲット/殺真菌剤のカップルであることが判明した。
【0089】
本発明者らは、阻害剤N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートがM.グリセア(M.grisea)胞子の発芽に影響を及ぼすかどうかを判定することにも努めた。0日目および2日目、最小培地中、1および3μMのN−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートの存在下で以前に行った実験中のM.グリセア(M.grisea)胞子の顕微鏡観察は、胞子の発芽が阻止されないことを示した。高濃度ではN−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートが胞子の発芽を阻止できるのかどうかを判定するために、追加試験を行った。例えば、10mMでのN−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートは、24時間および72時間の時点で、水においても、最小培地においても、M.グリセア(M.grisea)の胞子の発芽を阻害しない。N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートによるM.グリセア(M.grisea)の成長の阻害は、それ自体、発芽後、菌糸の成長中にのみ現れる。従って、胞子中に存在する貯蔵アミノ酸(バリンおよびイソロイシン)の使用によって、最初は、発芽することができると考えられる。貯蔵アミノ酸の限界および多少速いその枯渇は、M.グリセア(M.grisea)の成長を制限する因子としての役割を果たす。
【0090】
4.2.他の真菌に対するアセトヒドロキシイソメロレダクターゼ阻害剤の殺真菌効果
ピシウム・ウルチマム(Pythium ultimum)、ボトリチス・シネレア(Botrytis cinerea)、ウスチラゴ・ヌダ(Ustilago nuda)およびミコスフェレラ・グラミニコラ(Mycosphaerella grainicola)などの他の真菌腫に関するIpOHAの毒性を、M.グリセア(M.grisea)と同じ条件(96ウエルのマイクロプレート内、液体最小培地中での培養)下で測定した。ボトリチス・シネレア(Botrytis cinerea)の成長は、使用した最高濃度のIpOHA(30μM)による影響を受けず、このことは、この種が、IpOHAに対して耐性であることを示している。ウスチラゴ・ヌダ(Ustilago nuda)およびピシウム・ウルチマム(Pythium ultimum)の成長は、10μMを始点としてIpOHAによって阻害される。ミコスフェレラ・グラミニコラ(Mycosphaerella grainicola)の成長は、0.3μMから阻害される(表5)。この最小培地(MM−liq)にイソロイシン、ロイシンおよびバリン(1mM)を補充すると、IpOHAの毒性は、すべての感受性真菌種について上昇する。一方、0.3mMの濃度では、阻害は、30μM未満のIpOHA濃度についてのみ、ウスチラゴ・ヌダ(Ustilago nuda)において向上する。
【0091】
表5:様々な真菌種についてのIpOHAの毒性
【0092】
【表6】

【0093】
ID50:真菌成長を50%阻害する濃度
ID80:真菌成長を80%阻害する濃度
【実施例5】
【0094】
S.セレビシエ(S.cerevisiae)のアセトキシイソメロレダクターゼの生化学的研究
トランジットペプチドを含まない酵母菌ILV5遺伝子のコドン配列をE.コリ(E.coli)において過発現させて、大量の酵素を得て、それらの生化学的研究、特に、それらの構造研究を可能した。
【0095】
前記酵母菌イソメロレダクターゼを研究するために利用した戦略は、次のとおりである:最初に、酵母菌イソメロレダクターゼILV5遺伝子を、トランジットペプチドをコードしている蛋白質を用いないPCRによって増幅した。次に、そのPCR反応生成物をIPTG誘導性発現ベクターpETにクローニングした。次に、そのイソメロレダクターゼを大腸菌において過発現させて、精製し、その後、生化学的特性を研究した。
【0096】
5.1.成熟蛋白質をコードしている酵母菌イソメロレダクターゼILV5遺伝子の部分のPCR増幅およびクローニング
酵母菌イソメロレダクターゼをその細胞区画、ミトコンドリウム、に合わせることができるシグナルペプチドは、その蛋白質がそのミトコンドリウムに浸透した時、切断される。そのため、本発明者らは、トランジットペプチドをコードしている領域を含まないILV5遺伝子をクローニングして、E.コリにおいてその成熟ペプチドに対応する酵母菌イソメロレダクターゼを過発現させることを選択した。
【0097】
トランジットペプチドの末端と翻訳停止STOPコドンの間に位置する酵母菌ILV5遺伝子の領域を、プライマー対(1’−3’)および(2’−3’)で、S.セレビシエ(S.cerevisiae)のゲノムDNAからPCRによって増幅した。プライマー対(1’−3’)および(2’−3’)で増幅したDNAフラグメントのサイズは、それぞれ、1079bpおよび1124bpである。これらのDNAフラグメントを、電気泳動によって分離した後、精製し、その後、消化し、SalI/NcoIにおいてベクターPET−23dにクローニングした。酵素NcoIおよびSalIでのクローニングベクターとPCR反応生成物の二重消化によって、酵母菌ILV5遺伝子をベクターPET−23dに正しい配向でクローニングすることが、実際、可能である。アンピシリンに対する耐性に関する遺伝子を有するプラスミドpET−23d(Tebu)を、E.コリにおいて大量の酵母菌イソメロレダクターゼを生産するための誘導性発現ベクターとして使用する。このタイプのベクターは、E.coliのRNAポリメラーゼによってではなく、T7 RNAポリメラーゼによって認識されるT7ファージプロモータを有する。クローン化蛋白質の生産は、菌株BL21 pLysS(クロラムフェニコールに対して耐性)のIPTG導入後に発生する。この菌株において、T7 RNAポリメラーゼ遺伝子は、IPTG誘導性lacプロモータの支配下にある。S.セレビシエ(S.cerevisiae)ILV5遺伝子を有する、プラスミドpET−23dで形質転換された菌株BL21 pLysSは、BL21 pLysS−pET−23d−イソメロレダクターゼと呼ばれる。構築体番号1は、プライマー(1’−3’)で増幅されたフラグメントのクローニングに対応し、構築体番号2は、プライマー(2’−3’)で増幅されたフラグメントのクローニングに対応する。構築体番号1でのDH5細胞の形質転換後に得られた12のクローンおよび構築体番号2で形質転換された6つのクローンのSalI/NcoI二重消化によって、ベクターpETにクローニングされたフラグメントを再び切り出し、従って、様々なクローンにおいてこれら二つの構築体のうちの一方の存在を証明することが可能となる。これらの細菌クローンについての消化プロフィールの分析は、それらが、対応する構築体をすべて有することを示した。
【0098】
二つのクローンを選択した:クローンPET1−4(構築体番号1)およびクローンPET2−1(構築体番号2)。それらを使用してBL21 pLysS細胞を形質転換して、E.コリにおいて酵母菌イソメロレダクターゼを過剰生産させた。
【0099】
5.2.E.コリにおいて過剰生産された酵母菌イソメロレダクターゼの精製
酵母菌イソメロレダクターゼの「短」形(構築体番号1)および「長」形(構築体番号2)の過発現を、E.コリにおいてIPTGで誘導した。トランジットペプチドをコードしている領域を含まない酵母菌ILV5遺伝子を含有するプラスミドpET 23−dで形質転換し菌株BL21 pLysSを、約0.6のOD600と同等の密度が得られるまで、カルベニシリン(100mg/L)およびクロラムフェニコール(30mg/L)を補充したLB培地中で振盪しながら、28℃で培養する。その後、最終濃度0.4mMでIPTGを添加し、その細菌を約15時間振盪しながら28℃の培地中に放置する。この細菌培養物を遠心分離(30分、4500rpm)し、細菌のペレットを15mLのバッファ(10mMのKH−KPO(pH7.5)、1mMのEDTA、1mMのDDTおよびプロテーゼ阻害剤:1mMのベンズアミジンHCl、5mMのアミノカプロン酸)に再び浮遊させ、Vibra−cell disruptor(Sonics and Materials,Danbury,CT,U.S.A.)を使用し、15分間、パワー4、全溶解時間の40%、で超音波処理する。その細胞抽出物を遠心分離(20分、15000rpm)し、その後、可溶性蛋白質を含有する上清を−80℃で保存する。
【0100】
アクリルアミドゲルでの全蛋白質画分および可溶性蛋白質画分の分析は、「短」および「長」形の酵母菌イソメロレダクターゼが、可溶性蛋白質画分に存在するし、それらが、これらの蛋白質の約25%から30%を代表することを示した。酵母菌イソメロレダクターゼトランジットペプチド分解部位に関して最も有望な位置は、この酵素の蛋白質配列のアミノ酸47と48の間である(Petersen,G.L.ら,NAR 14,24:9631−9650,1986)ので、本発明者らは、短形の酵母菌イソメロレダクターゼを用いて研究を継続することを選択した。
【0101】
従って、短形のイソメロレダクターゼの精製は、可溶性蛋白質画分を使用し、先ず、アニオン交換カラム(Q−Sepharose)用い、次にパーミエーションカラム(Superdex 75)を用いて、二段階で行った。酵母菌イソメロレダクターゼ(粗製抽出物)を含有する可溶性蛋白質抽出物(15.5mL;227.8mgの蛋白質)を、10mMのKH−KPOバッファ/1mMのEDTA/1mMのDDTで予め平衡させた、Pharmacia FPLCシステムに連結されたアニオン交換カラム、HiLoad 16/10 Q−Sepharose(Pharmacia)にかけた。その酵素を、このバッファ78mLで溶離する(流量=1mL/分、画分サイズ=3mL)。酵母菌イソメロレダクターゼを含有するクロマトグラフ画分を、macrosep−10 unit(filtron)において5500rpmで遠心分離することにより、1.6mLに濃縮する。その後、この抽出物(27.7mg)を、25mMのHepes−KOHで予め平衡させた、Pharmacia FPLCシステムに連結されたHiLoad 16/60 Superdx 75 column(Pharmacia)にかける。その酵素を、この同じバッファ58mLで溶離する(流量=1mL/分、画分サイズ=1mL)。酵母菌イソメロレダクターゼを含有するクロマトグラフ画分(18.99mg)を、microsep(filtron)において5500rpmで遠心分離することにより、9.7mg/mLに濃縮し、−80℃で保存する。
【0102】
Q−Sepharoseカラムに可溶性蛋白質画分(約230mg)を注入した後、酵母菌イソメロレダクターゼを、10mMのKH−KPOバッファ/1mMのEDTA/1mMのDDTで希釈する。予備実験が、この酵素は前記カラムに保持されないことを示したので、漸増濃度傾斜のリン酸バッファの作用によってこの酵素を溶離する必要は、実際ない。この第一精製段階の後、約30gの蛋白質を回収した。活性に関して、精製からの収率は、55%である(表6)。
【0103】
表6:E.コリ中で過発現された酵母菌イソメロレダクターゼを精製するための段階
【0104】
【表7】

【0105】
活性は、反応培地(50mMのHepesナトリウム(pH7.5)、10mMのMgCl、250μMのNADPHおよび0.48mMのAHB)中で判定した。
【0106】
ブラッドフォード法(Bradford)に従って、または205nmでの吸収を測定すること(205)によって、蛋白質を検定した。n.d.=判定不能

【0107】
アクリルアミドゲルでのQ−Sepharose画分プールの分析は、この第一精製段階後、その酵素が実質的に純粋であることを示す。そのQ−Sepharose画分プールをゲル濾過用カラムに注入し、酵母菌イソメロレダクターゼを25mMのHepes−KOHバッファで溶離する。この第二精製段階後、約20gの純粋な蛋白質が回収される。酵母菌イソメロレダクターゼを精製するためのこれら二つの段階からの最終収率は、約34%である。
【0108】
5.3.E.コリにおいて過剰生産された酵母菌イソメロレダクターゼの動力学的特性の研究
酵母菌イソメロレダクターゼについての動力学的パラメータは、マグネシウム、NADPHおよびAHBまたはAL基質についての飽和条件下、分光光電光度計で酵素反応の進展を追跡することによって決定した。すべての酵素活性測定は、25℃で、最終量1mLのHepesナトリウムバッファ(50mM、pH7.5)、10mMのMgClおよび250μMのNADPHを収容している、光路1cmの石英キュベットで行った。酵素反応は、0.48mMのAHBまたはALの添加によって開始した。この反応の進展を340nmでのNADPHの吸収の低下によって追跡した。
【0109】
5.3.1.精製組換え酵母菌イソメロレダクターゼの活性に最適なpHの判定
酵母菌イソメロレダクターゼに関する動力学的測定の実施に最適な条件を決定するために、様々なpHのバッファ中で精製酵素の活性を測定することによって、この酵素の活性に最適なpHを判定した。複数の研究によって、植物イソメロレダクターゼの活性に最適なpHは、8.2であることが証明されていたが、酵母菌イソメロレダクターゼの活性に最適なpHは、7.5である。イソメロレダクターゼ活性に最適なpHに関する植物と酵母菌の間のこの違いは、これら二つの酵素の細胞の位置によって説明される。植物イソメロレダクターゼは、葉緑体(このpHは、光を受けて8.2である)に位置し、これに対して、酵母菌イソメロレダクターゼは、ミトコンドリウム(このpHは、7.5である)に位置する。従って、イソメロレダクターゼの活性に最適なpHは、それらが見出される細胞環境によく適するものである。
【0110】
5.3.2.精製された組換え酵母菌イソメロレダクターゼについての動力学的パラメータの決定
様々なリガンドに対する酵母菌イソメロレダクターゼの親和性を研究した。
【0111】
a)比活性
AHBおよびAL基質に対する酵母菌イソメロレダクターゼの比活性は、それぞれ、6および1μmolの酸化NADPH・(分)−1・(蛋白質のmg)−1である。従って、AHB基質の存在下での酵素反応の最大速度(V)の、アセト乳酸基質の存在下での酵素反応の最大速度(V)に対する比率は、酵母菌酵素については、植物酵素と比較して変わらない(V AHB/V AL=6)。さらに、AHBおよびAL基質に対する植物イソメロレダクターゼの比活性は、それぞれ、6および1μmolの酸化NADPH・(分)−1・(蛋白質のmg)−1である。
【0112】
b)補助因子NADPHおよびNADHに対する親和性
NADPHに対する酵母菌イソメロレダクターゼの親和性は、非常に高い(図3)。実際、このコファクターについて1.6μMのKmが測定された。このKは、植物酵素について測定されたもの(K=5μM)に比較的類似している。精製酵母菌イソメロレダクターゼについて得られたK NADPH値は、不完全精製酵母菌酵素について得られた値(K<2.5μM;Hawkesら,1989)と一貫性がある。しかし、非常に低い親和性(AHBおよびMg2+の存在下、K NADH=645μM;Dumasら,Biochem.J.,288:865−874,1992)で、NADHを使用することができる植物酵素とは異なり、酵母菌酵素は、NADHを使用することができないようである。AHB基質およびマグネシウムについての飽和条件下、NADH(300μM)の存在下では、いかなる酵素活性も検出されなかった。植物イソメロレダクターゼのものよりいっそう低い、そのNADHに対する親和性のためである。酵母菌イソメロレダクターゼは、植物酵素よりさらにいっそう著しい特異性で水素供与体としてNADPHを使用すると考えられる。
【0113】
c)AHBおよびAL基質に対する親和性
AHB基質に対する酵母菌イソメロレダクターゼの親和性(ラセミ形ではK=104μM)は、植物イソメロレダクターゼのものより約5倍低いのに対し、AL基質に対する酵母菌イソメロレダクターゼの親和性(ラセミ形ではK=266μM)は、植物イソメロレダクターゼのものより約10倍低い(図4)。これらのK値は、N.クラッサ(N.crassa)の不完全精製酵素について得られたものにかなり近い。具体的には、N.クラッサ(N.crassa)イソメロレダクターゼについてのK AHB値およびK AL値は、それぞれ、160μMおよび320μMである。
【0114】
酵母菌イソメロレダクターゼと植物イソメロレダクターゼの間の生化学的特性の最も注目すべき違いは、マグネシウムに対するこの酵素の親和性である。
【0115】
d)マグネシウムに対する親和性
酵母菌イソメロレダクターゼの親和性(K=968μM)は、植物酵素のもの(K=約5μM)より実質的に200倍低い。図5を参照。マグネシウムに対する酵母菌イソメロレダクターゼのこの低い親和性は、真菌イソメロレダクターゼの特徴である。実際、N.クラッサ(N.crassa)イソメロレダクターゼに関して行われた研究により、この酵素がNADPHおよびAHB基質の存在下で580μMのKマグネシウムを有することが示されている(Kritaniら,J.Biological Cheistry,241:2047−2051,1965)。酵母菌、N.クラッサ(N.crassa)および植物イソメロレダクターゼの主配列の比較は、これら三つの酵素の間の主な違いが、植物酵素の二つのモノマー間の相互作用に関わる140のアミノ酸配列の真菌蛋白質における不在であることを示した。しかし、植物酵素におけるMg2+イオンに結合することが知られている二つのドメインが、酵母菌酵素には存在する。前記140のアミノ酸二量化領域における7つのアミノ酸を削除することによって得られた植物イソメロレダクターゼの単量体型突然変異体の研究によって、この酵素が、この酵素の野生型形よりずっと低いマグネシウムに対する親和性を示すことが証明された(Wesselら,Biochemistry,37:12753−12760,1998)。従って、植物イソメロレダクターゼの四次構造は、植物酵素の活性部位およびマグネシウムに対する高親和性部位の安定化に一定の役割を果たすと考えられる。それ故、酵母菌イソメロレダクターゼは、二つのMg2+イオン結合ドメインを明らかに有するが、酵母菌酵素におけるこの140のアミノ酸領域の配列の不在は、植物酵素のものとはおそらく異なるこの酵素の活性部位の空間構成によって、マグネシウムに対する酵母菌イソメロレダクターゼの、より低い親和性を説明することができる。酵母菌イソメロレダクターゼのマグネシウム結合部位は、このカチオンに対してずっと低い親和性を有するが、NADPHに対する酵母菌酵素の親和性は、植物酵素のものと類似している。従って、酵母菌イソメロレダクターゼの立体配座は、NADPHの結合に関わるアミノ末端ドメインが、植物酵素のものに比較的類似しているようなものであり、ならびに二つのマグネシウム原子の結合および基質の結合に責任を負うカルボキシ末端ドメインが、植物酵素のものとは異なるようなものであると考えられる。結晶化による酵母イソメロレダクターゼの四次構造の知識によって、Mg2+イオンに対するこの低い親和性を説明することが可能となる。
【0116】
5.4.酵母菌イソメロレダクターゼに対する阻害剤N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートおよびジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートの効果の研究
5.4.1.酵母菌イソメロレダクターゼに対する阻害剤N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートおよびジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートの結合の化学量論の研究
阻害剤N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートおよびジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートの結合の化学量論の研究は、様々な量の酵素(0.1nmolから0.4nmol)を、最終量10μLの25nmolのNADPHおよび0.25μmolのMgClを含有する一定量の阻害剤と共に20分間インキュベートすることによって行った。この反応は、10mMのMgClを含有する50mMのHepesナトリウムバッファ(pH7.5)中0.48mMのAHBを添加することによって、開始させる。
【0117】
0.1nmolのジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートの存在下、酵素活性は、0.09nmolより多い酵素量でのみ検出される。同様に、0.1nmolのN−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメート存在下、酵素活性は、0.1nmolより多い酵素量でのみ検出される(図6)。加えて、これら二つの阻害剤ついては、酵素が反応培地中の阻害剤に対して過剰に存在する時、酵素活性が、阻害剤を含有しない対照のものと並行して増加する。従って、N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートおよびジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートは、酵母菌イソメロレダクターゼに対して不可逆的阻害剤として作用すると考えられる。実際、不可逆的阻害の場合、低量の酵素の存在下ですべての酵素が阻害剤と複合する。反応培地中にはもはやいずれの遊離酵素も存在しないので、その時、酵素活性はゼロになる。反応培地中に存在する酵素の量が、阻害剤の量より多い時には、その培地中の過剰な遊離酵素は、阻害剤を含有しない対照のような挙動をとる(対照に対して平行な直線)。さらに、0.1nmolの阻害剤(N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートまたはジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテート)が、0.1nmolの酵素を完全に阻害するために必要であり、従って、酵母菌イソメロレダクターゼに対する阻害剤の結合の化学量論比は、酵素1molあたり阻害剤1molである。
【0118】
5.4.2.酵母菌イソメロレダクターゼに対する阻害剤N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートおよびジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートの結合速度の研究
分光光電光度計において340nmでのNADPHの吸収の低下を測定することにより、酵母菌イソメロレダクターゼに対する阻害剤N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートおよびジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートの効果を経時的に追跡した。各測定は、MgCl(10mM)およびNADPH(0.25mM)についての飽和条件下、6分間、所定濃度の阻害剤(N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメート=15μMまたはジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテート=10μM)および酵素(110nM))の存在下で行なう。使用したAHB基質の濃度は、250μMから2375μMの範囲である。酵母菌イソメロレダクターゼに対する阻害剤N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートおよびジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートの結合の化学量論比の研究は、これらの阻害剤が不可逆的阻害剤のような挙動をとることを示した。従って、不可逆的阻害剤に適用することができる下記方程式(1)によって、反応生成物の生成の動態を説明することが可能となる。下記方程式(1)に基づき定義されるパラメータm1、m2およびm3は、これらのパラメータの決定に付随する誤差に加えてKaleidaGraphプログラムを使用し、実験曲線を調整することにより、直接得られる。
【0119】
方程式(1)
OD340=m+(m−m)・e(−m3・t)
この式中のパラメータは、次のとおりである:
● OD340は、分光光電分光形を使用し、340nm、時間「t」で測定した光学密度である。
● mは、「t」が無限大に向かっている時の光学密度である。
● mは、初期光学密度である。
● mは、NADPHの見掛けの消滅定数を掛けた阻害剤の濃度の積である。
【0120】
可逆的阻害剤については、二つのケースがあり得る。一段階で阻害剤が直接酵素に結合するか、可逆的酵素/阻害剤中間複合体を生成して二段階で酵素に結合する。阻害剤濃度の関数としてのグラフ表示mによって、不可逆的阻害のタイプを定義することが可能となる。従って、阻害剤N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートおよびジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートが酵母イソメロレダクターゼに一段で結合するか、2段で結合するかを判定するために、この酵素の酵素活性に対するこれらの阻害剤の効果を、所定の酵素濃度(110nM)およびAHB濃度(0.48mM)に対して阻害剤の濃度を変化させることにより、経時的に(6分間)追跡する(図7)。可逆的酵素/阻害剤中間複合体の生成を伴わない単純な不可逆的阻害については、酵素/阻害剤複合体の見掛けの生成速度(Kobsまたはm)は、阻害剤の濃度の一次関数である。不可逆的阻害が可逆的中間複合体の存在を伴う場合、阻害剤の濃度の関数としてのグラフ表示mは、双曲線である。阻害剤N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートおよびジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートについては、阻害剤の濃度の関数としてのグラフ表示mは、直線であり、これは、これらの生成物による酵母菌イソメロレダクターゼの阻害が、植物イソメロレダクターゼの阻害の場合のように、一段階で発生することを示唆している(図8)。しかし、実験誤差を考慮に入れても、阻害剤の濃度の関数としてのグラフ表示mは、これら二つの阻害剤についての起点を通らない。これら二つの阻害剤、N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートおよびジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテート、は、完全に不可逆的ではない可能性がある。この場合、酵素/阻害剤複合体についての解離定数、K−0、は、無視できない値を有しうる。阻害剤のメカニズム(競合性または非競合性)は、酵素/阻害剤複合体の見掛けの生成速度に対する基質の濃度の影響を研究することによって判定することができる。この判定は、基質の濃度の関数としてグラフ表示1/mを使用して行う。競合性阻害剤については、基質の濃度の関数としてグラフ表示1/mは、直線である。非競合性阻害剤については、パラメータmは、基質の濃度に依存する。阻害剤N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートおよびジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートについては、mの逆数が、AHB基質の濃度の関数のごとく直線的に変化する。従って、N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートおよびジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートは、AHB基質に対して競合性である酵母イソメロレダクターゼの阻害剤のような挙動をとる(図9)。阻害剤/酵母菌酵素結合定数(k)は、下記方程式(2)によって計算する。
【0121】
【数1】

【0122】
obs=m=酵素/阻害剤複合体の見掛けの生成速度
=阻害剤/酵素結合定数
−0=阻害剤/酵素解離定数
KR=AHB基質についてのミカエリス−メンテン定数
[I]=阻害剤の濃度
[S]=基質の濃度
不可逆的阻害剤について、k−0は、無視できると考えられる。そこで、kは、KaleidaGraphプログラムを使用して下記方程式(3)により計算する。
【0123】
【数2】

【0124】
この方程式は、阻害剤N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートに用いることはできるが、ジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートに用いることはできない。ジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートについては、基質の濃度の関数としてのグラフ表示1/mは直線であるが、起点を通らない。N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートについては、基質の濃度の関数としてのグラフ表示1/mは直線であり、y軸上の起点での値は無視できる。この結果を説明することができる仮説は、「阻害剤ジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートは、おそらく完全には不可逆的でない」である。そこで、線形回帰線によって、ジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートについてのkの値を得ることが可能となる。阻害剤N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートおよびジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートに対応するkの値は、それぞれ、12433M−1・s−1および7721M−1・s−1である。従って、植物イソメロレダクターゼ(N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートについてのk=1900M−1・s−1およびジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートについてのk=22000M−1・s−1)とは異なり、N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートは、ジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートより良好な酵母菌酵素阻害剤である。
【0125】
5.5.酵母菌イソメロレダクターゼの構造研究
酵母菌イソメロレダクターゼの四次構造を二つの異なるアプローチ(質量分析法およびゲル濾過)に従って研究した。
【0126】
二つの異なるオリゴマー化状態の存在を非変性条件下で質量分析法によって示した。この方法は、酵母菌イソメロレダクターゼは、主として二量体系で存在するが、少量の単量体形も存在することを示した。二量体は、電荷状態分布[D+18H]18+から[D+21H]21+によって表される。電荷状態[D+12H]12+から[D+14H]14+によって表される酵母菌イソメロレダクターゼの少量の単量体の存在が、この同じ質量スペクトルで示した。従って、酵母菌イソメロレダクターゼは、単量体形と二量体形の平衡状態にある。第一精製段階後に得られた酵母菌イソメロレダクターゼ画分のプールをゲル濾過(Superdex 75)にかけると、このイソメロレダクターゼが、単一ピークで溶離されることおよびその分子量が、67kDaと概算されることが判明する。そこで、非変性条件下で、この酵素の単量体形の予想分子量は、約40kDaであり、二量体形については80kDaである。酵母菌イソメロレダクターゼの単量体形と二量体形の間の中間的な分子量によって、この酵素のこれら二つの形の平衡の存在が確認される。これら二つの形の間の急速な動的平衡によってしか、ゲル濾過において得られる単一の溶離ピークを説明することはできない。具体的には、この平衡が遅かった場合、一方がその酵素の単量体形に対応し、他方がその酵素の二量体系に対応する二つの溶離ピークが、ゲル濾過で観察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号2および/または配列番号3のケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤の有効量を含む殺真菌組成物を施用することを特徴とする、真菌病に対して作物を処置する方法。
【請求項2】
前記ケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤が、ジメチルホスフィノイル−2−ヒドロキシアセテートである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤が、N−ヒドロキシ−N−イソプロピルオキサメートである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
配列番号1、配列番号2および/または配列番号3のケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤および他の殺真菌化合物を含むことを特徴とする、殺真菌組成物。
【請求項5】
配列番号1、配列番号2および/または配列番号3のケトール酸レダクトイソメラーゼ阻害剤を使用することを特徴とする、殺真菌組成物を製造するための方法。
【請求項6】
配列番号1、配列番号2および/または配列番号3のケトール酸レダクトイソメラーゼの酵素活性を阻害する化合物を特定することを含む、殺真菌化合物を特定するための方法。
【請求項7】
配列番号1、配列番号2および/または配列番号3のケトール酸レダクトイソメラーゼの酵素活性を阻害する前記化合物が真菌の成長および病理発生を阻害するかどうかを判定する追加段階を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
配列番号1、配列番号2および/または配列番号3のケトール酸レダクトイソメラーゼの酵素活性を阻害する化合物の前記特定が、
a)前記化合物を、マグネシウム、NADPHおよび基質の存在下で、ケトール酸レダクトイソメラーゼと接触させる段階、および
b)前記酵素の活性を測定する段階
を含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
配列番号1、配列番号2および/または配列番号3のケトール酸レダクトイソメラーゼの酵素活性を阻害する化合物の前記特定が、
a)宿主生物においてケトール酸レダクトイソメラーゼを発現させる段階、
b)前記宿主生物によって生産されたケトール酸レダクトイソメラーゼを精製する段階、
c)前記化合物を、マグネシウム、NADPHおよび基質の存在下で、前記精製ケトール酸レダクトイソメラーゼと接触させる段階、および
d)前記酵素の活性を測定する段階
を含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項10】
前記酵素活性の測定が、340nmでのNADPHの吸収の低下を測定することを含む、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記基質が、2−アセト乳酸(AL)または2−アセト−2−ヒドロキシ酪酸(AHB)である、請求項8から10のうち一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−93909(P2011−93909A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−270135(P2010−270135)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【分割の表示】特願2003−526198(P2003−526198)の分割
【原出願日】平成14年9月10日(2002.9.10)
【出願人】(503325538)バイエル・クロツプサイエンス・エス・アー (73)
【Fターム(参考)】