説明

眼レンズ

【課題】レンズ周縁の厚さを精確に制御する、コンタクトレンズの設計方法で設計された眼レンズを提供する。
【解決手段】a)レンズの周縁の一部に関する厚さマップを生成する工程と、b)前記厚さマップから前記レンズの周縁の一部についての形状を導出する工程とを備え、工程a)がさらに、i)複数の緯線と複数の経線を使用して前記レンズの周縁の一部を区画することにより粗いメッシュを規定する工程と、ii)前記緯線と前記経線の交差点をデカルト座標、円柱座標または極座標で記録する工程と、iii)前記緯線の各々について厚さ変化を規定する工程とを備え、工程b)がさらに、前記複数の点についての座標と厚さを導出することにより前記粗いメッシュを精密に再設定する工程を備え、前記粗いメッシュの交差点の厚さおよび座標は、前記粗いメッシュを精密に再設定する場合に使用される前記複数の点の厚さおよび座標を導出するために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼レンズに関する。特に、本発明は、レンズ周縁の厚さを精確に制御するコンタクトレンズの設計方法で設計された眼レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
視力の補正および美容の目的でコンタクトレンズを使用することは周知である。コンタクトレンズの設計では、良好なレンズの操作、装用感、芯取り(centration)および配向を提供することが重要である。これらのレンズ特性の全ては、レンズ周縁の厚さ特性にかなり依存する。
【0003】
レンズ周縁の厚さを制御する従来の方法では、レンズ領域、ベベル、チャンファーなどのうち一つ以上を利用する。しかし、これらの方法では、レンズ周縁の厚さの相違の精確な制御をしていない。さらに、これらの方法は、非回転対称なレンズを設計する手段を提供しない。そこで、これらの欠点を克服するコンタクトレンズの設計方法の要望が存在する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
発明および好適な実施の形態の詳細な説明
本発明は、レンズ周縁の厚さを精確に制御することができる物品の設計方法、好ましくは眼レンズの設計方法およびこの方法で製造されるレンズを提供する。従って、この方法は、周縁の厚さの相違の精確な制御、および周縁上の相違箇所の精確な制御を提供する。さらに、この方法は、非回転対称なレンズを設計する手段を提供する。
【0005】
好ましい実施の形態では、本発明による眼レンズの設計方法は、a)少なくともレンズの周縁の一部に関する厚さマップを生成することと、b)前記厚さマップから少なくとも前記レンズの周縁の一部についての形状を導出ないし推論することとを備えるか、これらから本質的に構成されるか、これらから構成される。他の好ましい実施の形態では、本発明はこの方法で製造された眼レンズを提供する。
【0006】
「眼レンズ」という用語は、眼鏡レンズ、コンタクトレンズ、眼内レンズなどを意味する。好ましくは、本発明の方法により設計されるレンズはコンタクトレンズである。本発明の意図では、「レンズ周縁」または「レンズの周縁」は、レンズのうち視覚領域の外にある部分を意味する。
【0007】
本発明のレンズについては、そのベースカーブ(基底の湾曲)および視覚領域(optical zones)の光学特性は、従来のいかなる方式で設計してもよい。ベースカーブおよび視覚カーブ(optical curve)は、ベースカーブに関する所定の直径Dに対するレンズ高さ(垂れ下がり量、sag value)が導出できる限り、いかなる形式で表現されていてもよい。
【0008】
好ましい方法によれば、レンズ周縁の少なくとも一部(好ましくは全て)をまず緯線と経線を用いて、図1に示すように粗いメッシュに区画する。このメッシュの交差点の全ての位置は、デカルト座標、円柱座標または極座標で記録され、列ごとに格納する。使用する点が多ければ多いほど、レンズ周縁の厚さの制御の精度は向上するであろう。
【0009】
さらに、これらの交差点を少なくとも三つの列のファミリーに分類する。一つは、視覚領域列の点であり、これらは周縁の最も内側の境界に位置する。二つ目は外側列の点であり、これらは周縁の最も外側の境界に位置する。三つ目は内側列(視覚領域列)の点と外側列の点の間に配置された中間列の点である。図1には、これらの各列の各々をなす点が描写されている。
【0010】
この後、厚さの相違、または好ましくは厚さの変化を、メッシュの緯線の各々について規定する。好ましくは、これは二つの方法のうち一つにより実施する。まず、各緯線に沿った厚さの変化を規定するために、関数セットを使用してもよい。かかる変化は、デカルト座標、円柱座標および極座標のうちいずれかまたは全てを使用した関数として表すことができる。例えば、かかる変化は回転角θの関数で表すことができる。図2には、三つの緯線に沿ったレンズの厚さを示す。関数はいかなる形式でもよい。好ましくは、円滑な表面を形成し、比較的良好なセンタリングのための薄い領域を持つ非回転対称なレンズを提供し、視覚化が合理的な範囲で容易であるように、関数を選択する。適切な関数には、次の形式の関数が挙げられるが、これらには限定されない。
【0011】
レンズ厚=A・Cos(θ)+B
レンズ厚=A・Cos(Bθ+C)+D
ここで、Aは各緯線における厚さの最大相違であり、Dは角度θ−90°での厚さである。
【0012】
レンズ厚=A・Cos2 (Bθ+C)+D・Sin2 (Eθ+C)
レンズ厚=A・|Cos(Bθ+C|+D
ただしθ=[0,Pi]について。
レンズ厚=A・(1+|SinB|)
ただしθ=[Pi,2Pi]について。
【0013】
ここで規定すべき関数の数はNr(緯線の数)に等しい。当業者であれば、三角関数に加えて、いかなる適切な関数を使用してもよいことは理解するであろう。適切な関数には、指数関数、シリーズ関数、対数関数、多項式関数、階段関数などがあるが、これらには限定されない。好ましくは三角関数が使用され、さらに好ましくは階段関数と組み合わせられて三角関数が使用される。あるいは、厚さの変化は、手作業で各点について規定してもよく、この方法によれば、各点でのレンズ厚が特定されるが、この方法は面倒なので不利である。各交差点のために厚さの規定結果が算出されて記録される。経線の数をNθとすると、点の数はNr・Nθである。
【0014】
この方法の第2の工程では、レンズの形状を厚さマップから導出する。この工程は、レンズ周縁をより精確に規定するために所望の精度まで前記の粗いメッシュを精密に再設定することにより、まず実施される。精密化されたメッシュ(精密メッシュ)は、同じレンズ形状を規定するが、前記の粗いメッシュよりも多数の点を使用する。例えば、図1によれば、粗いメッシュはNr・Nθ個の交差点(60個の交差点)を有する。精密化されたメッシュでは、例えば3600個の点がありうる。使用される点の精確な数は、情報の算出時間と格納スペースに対する、良好なレンズを規定するために使用する最大限の点の数のバランスによって決定され、さらにはレンズのための工具を切削加工する旋盤はあまりに多くの点について必要な精度レベルで切削することは不可能かもしれないという事実によっても決定される。
【0015】
粗いメッシュの各点の厚さおよび座標は、精密化されたメッシュの各点の厚さおよびZ座標を導出するのに使用される。一つの緯線上にある精密メッシュの点については、その緯線に対応する前記関数を使用してその点の厚さを導出する。一つの経線上にある精密メッシュの点については、その点のレンズ厚を導出するために近似が使用される。適切な近似は、関数のタイプを選択し、選択されたタイプの関数から最もデータ上の点にフィットする曲線を導出することにより行うことができる。使用できる関数のタイプの例としては、多項式関数、円錐関数、指数関数、有理関数、対数関数、三角関数などがあるが、これらには限定されない。付加的および好適には、三次スプライン近似または一連の特殊多項式を使用してもよい。
【0016】
精密メッシュの点が経線同士および緯線同士の間にある場合には、精密メッシュのその点の特性を決定するためにその付近の経線上、緯線上の複数の点を使用することができる。図3には、精密メッシュの点Pとともに点n1〜n4を示す。点Pからの点n1〜n4の距離は、それぞれd1〜d4である。点Pでの厚さは、双一次補間、双三次補間、双三次スプラインなどを含むいかなる適切な方法でも計算できるが、これらの方法には限定されない。迅速だが大雑把な方法には下記がある。
【0017】
T(P)
=(w1・T(n1)+w2・T(n2)+w3・T(n3)+w4・T(n4))
ここでTは厚さであり、SumD=d1+d2+d3+d4として、
w1=[1−d1/SumD]/3
w2=[1−d2/SumD]/3
w3=[1−d3/SumD]/3
w4=[1−d4/SumD]/3
である。
【0018】
あるいは、三次元三次スプライン近似(three-dimensional cubic spline approximation)を使用して、精密メッシュの点の位置を近似してもよい。三次元三次スプライン近似およびその用途は、Numerical Recipes in Fortran 77, The Art of Scientific Computing, Cambridge Press, 1966に記載されている。
【0019】
精密メッシュの全部の点について厚さを計算したら、Z座標(または極座標でのρ)を導出する。図4には、球状のベースカーブ領域を示す。図4において、Pf(Zf,Rf)はZ座標を導出しようとするレンズ表面上の点であり、Rbcはベースカーブの半径であり、(Zctr,Rctr)はベースカーブの中心の座標であり、Thckは点Pfでの厚さである。Zfは次式により算出される。
【数1】

【0020】
ベースカーブが非球状の場合には、この手順はより複雑になるかもしれないが、以下のように要約することができる。a)厚さThckの分ベースカーブをオフセットする。b)オフセットされたカーブを線r=Rfで二分(intersect)する。r=Rfはデカルト座標系でのY座標Rfを有する全ての点を含む線を表す方程式である。c)一つより多い解が存在する場合には、正しい解を選択する。正しい解はオフセットされたカーブの方程式の形式に依存することを当業者であれば理解するであろう。
【0021】
このようにして、レンズの周縁の形状の全てまたは一部は点の群として完全に表現することができる。本発明の方法により設計されたレンズの周縁は、いかなる眼レンズの種類の設計でも使用することができるが、好ましくはコンタクトレンズの設計で使用することができ、さらに好ましくは、球状、多焦点、トーリックなコンタクトレンズまたはこれらの特徴を兼ね備えたコンタクトレンズの設計に使用することができる。ただし、この方法はトーリックコンタクトレンズの設計で最も便利である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の方法で使用される粗いメッシュを示す図である。
【図2】図1のいくつかの緯線での厚さの変化を示すグラフである。
【図3】図1のメッシュの交差点と、このメッシュの緯線同士と経線同士の間にある点を示す図である。
【図4】本発明の方法で使用されるグラフである。
【符号の説明】
【0023】
P,n1〜n4 点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)レンズの周縁の少なくとも一部に関する厚さマップを生成する工程と、
b)前記厚さマップから少なくとも前記レンズの周縁の一部についての形状を導出する工程とを備え、
工程a)がさらに、
i)複数の緯線と複数の経線を使用して少なくとも前記レンズの周縁の一部を区画することにより粗いメッシュを規定する工程と、
ii)前記緯線と前記経線の交差点をデカルト座標、円柱座標または極座標で記録する工程と、
iii)前記緯線の各々について厚さ変化を規定する工程とを備え、
工程b)がさらに、前記粗いメッシュの交差点に加えて複数の点についての座標と厚さを導出することにより前記粗いメッシュを精密に再設定する工程を備え、前記粗いメッシュの交差点の厚さおよび座標は、前記粗いメッシュを精密に再設定する場合に使用される前記複数の点の厚さおよび座標を導出するために使用されることを特徴とする、眼レンズの設計方法で設計された眼レンズ。
【請求項2】
前記レンズがコンタクトレンズであることを特徴とする請求項1に記載の眼レンズ。
【請求項3】
前記レンズが非回転対称レンズであることを特徴とする請求項2に記載の眼レンズ。
【請求項4】
三角関数、指数関数、シリーズ関数、対数関数、多項式関数、階段関数およびこれらの組合せから構成される群から選択される一つの関数を使用して厚さ変化を規定することにより、工程iii)を実行することを特徴とする請求項1に記載の眼レンズ。
【請求項5】
前記粗いメッシュを精密に再設定するために使用される前記複数の点の内、一つの緯線上にある点について、該緯線に対応する前記関数を使用して、前記点の厚さを導出することを特徴とする請求項4に記載の眼レンズ。
【請求項6】
前記粗いメッシュを精密に再設定するために使用される前記複数の点の内、経線同士および緯線同士の間にある点について、該点の付近の経線上および緯線上の複数の点を使用して、前記点の厚さを導出することを特徴とする請求項1に記載の眼レンズ。
【請求項7】
三角関数を使用して厚さ変化を規定することにより、工程iii)を実行することを特徴とする請求項1に記載の眼レンズ。
【請求項8】
三角関数と階段関数を使用して厚さ変化を規定することにより、工程iii)を実行することを特徴とする請求項1に記載の眼レンズ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−66775(P2010−66775A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257777(P2009−257777)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【分割の表示】特願2002−550029(P2002−550029)の分割
【原出願日】平成13年11月13日(2001.11.13)
【出願人】(500092561)ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド (153)
【氏名又は名称原語表記】Johnson & Johnson Vision Care, Inc.
【Fターム(参考)】