説明

眼内レンズの挿入器具

【課題】眼内レンズの挿入器具の挿入筒部がより小径化、扁平化した際にも、プランジャの変形を抑制し、眼内レンズの挿入動作をより安定化できる技術を提供する。
【解決手段】眼内レンズの挿入器具であって、プランジャが、眼内レンズ本体や眼内レンズの保持部に接触する先端領域と、この先端領域の後端からプランジャの後方に延びる棒状部と、を有しており、棒状部は、眼内レンズの光軸方向については厚み一定とされるとともに、光軸方向と垂直で且つプランジャの進行方向に垂直な方向については、前記先端領域の先端からの距離が所定距離以上の部分の厚みが増加するように構成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内レンズを患者の眼球内に挿入するための眼内レンズの挿入器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、白内障等の手術においては、眼球における角膜(鞏膜)や水晶体前嚢部分などの眼組織に切開創を設け、この切開創を介して、嚢内の水晶体を摘出、除去し、その後に、水晶体に代替する眼内レンズを、前記切開創より眼内に挿入して嚢内に配置させる処置が行われている。
【0003】
特に近年においては、眼内レンズを切開創より眼球内に挿入する際に、以下に示すような挿入器具が用いられる場合が多い。すなわち、器具本体の先端部に設けられた挿入筒部の先端開口を切開創を通じて眼球内に挿し入れると共に、眼内レンズを器具本体内で小さく変形せしめた状態で挿入筒部の先端開口から棒状のプランジャによって押し出すことにより、眼内レンズを眼球内に挿入する(例えば、特許文献1〜3を参照。)。このような挿入器具を用いることにより、水晶体の摘出除去のために形成した切開創を利用して眼内レンズを簡単に眼球内に挿入できるので、手術を簡略化することができ、手術後の乱視の発生や感染症の発生を抑制することができる。
【0004】
ところで、上記の眼内レンズの挿入作業においては、手術時の患者の負担を低減するために、切開創の大きさをより小径化することが求められており、挿入器具における挿入筒部の先端については、より小さくすることが求められている。しかしながら、挿入筒部の先端が小型化すると、プランジャの径も細くせざるを得ない。一方、挿入筒部が小径化すると、眼内レンズが通過時により圧縮されるため、押し出し時にプランジャに作用する抵抗がより強くなる傾向がある。その結果、眼内レンズを挿入器具から押し出す際にプランジャが変形してしまい、眼内レンズの挿入動作が不安定になる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−160153号公報
【特許文献2】特開2009−183367号公報
【特許文献3】特開2009−28223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の従来技術の問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、眼内レンズの挿入器具の挿入筒部がより小型化した場合でも、眼内レンズを挿入器具から押し出す際にプランジャの変形を抑制し、眼内レンズの挿入動作をより安定化できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、眼内レンズの挿入器具であって、プランジャが、眼内レンズ本体や眼内レンズの保持部に接触する先端領域と、この先端領域の後端からプランジャの後方に延びる棒状部と、を有しており、棒状部は、眼内レンズの光軸方向については厚み一定とされるとともに、光軸方向と垂直で且つプランジャの進行方向(眼内レンズの押圧方向)に垂直な方向については、前記先端領域の先端からの距離が所定距離以上の部分の厚みが増加するように構成されたことを最大の特徴とする。
【0008】
より詳しくは、変形可能な眼内レンズを眼球組織に形成された切開創口より眼球内に挿入するための眼内レンズの挿入器具であって、
略筒状に形成されるとともにその先端に前記切開創口に挿入される挿入筒部を有する器具本体と、
前記器具本体に一体または別体に設けられ前記眼内レンズを収納することで前記眼内レンズを前記器具本体の内に配置可能な収納部と、
前記収納部に収納された前記眼内レンズを先端で押圧して前記挿入筒部から眼球内に放出するプランジャと、を備え、
前記プランジャは、前記眼内レンズ本体および/または前記眼内レンズ本体に延設されたヒゲ状のレンズ保持部に接触する先端領域と、該先端領域の後端から前記押圧方向と反対方向に延びる棒状部と、を有し、
前記棒状部は、収納された眼内レンズの光軸方向については厚み一定に構成されるとともに、前記光軸方向と垂直で且つ前記押圧方向に垂直な方向については、前記先端領域の先端からの距離が所定距離以上の部分の厚みが増加するように構成されたことを特徴とする。
【0009】
ここで、器具本体の特に挿入筒部とプランジャの小型化を図った場合には、前述のように眼内レンズを眼球内に押し出す際にプランジャが変形してしまうおそれがある。そして、発明者の鋭意研究により、当該変形は、主に眼内レンズの光軸と垂直な方向にプランジャの棒状部が曲がることで生じることが分かった。これは、眼内レンズの本体が概略円形であり、光軸と垂直方向に回転し易いことによると考えられる。
【0010】
従って、本発明においては、棒状部の寸法を、収納された眼内レンズの光軸方向については厚み一定にするとともに、眼内レンズの光軸方向と垂直で且つ押圧方向に垂直な方向については、先端領域の先端からの距離が所定距離以上の部分の厚みが増加するようにした。すなわち、棒状部において先端領域に近い部分は径を小さくしてもあまり大きな負荷は作用しないが、先端領域から遠い部分は眼内レンズを押圧する際に大きな負荷が作用することがあり得る。これに対応して、先端領域の先端からの距離が所定距離以上の部分についてのみ、眼内レンズの光軸方向と垂直で且つ押圧方向に垂直な方向について厚みが増加するように構成した。
【0011】
これによれば、必要最低限の方向及び部分についてプランジャの厚みを増加させることができるので、プランジャ全体としての寸法増加を最低限に抑えることができる。その結果、器具本体の特に挿入筒部を小型化した上で、プランジャの変形を抑制することが可能となる。その結果、より小さな切開創を通じて、眼内レンズの眼球内への挿入をより安定して行うことが可能となる。
【0012】
また、本発明においては、前記所定距離は、前記挿入筒部において眼球内に入る可能性のある範囲の距離以上としてもよい。眼内レンズの挿入器具においては、少なくとも挿入筒部において眼球内に入る可能性のある範囲は、優先的に小型化を図ることが望ましい。したがって、前記所定距離を、挿入筒部において眼球内に入る可能性のある範囲の距離以上とすれば、眼球内に入る可能性のある範囲においてプランジャの棒状部の厚みは小さいまま維持することができる。このような構成とすることで、眼球内に入る可能性のある範囲において挿入筒部の径も小さく維持することができるので、切開創も可及的に小さくすることが可能である。
【0013】
また、本発明においては、前記プランジャは、所定の露出距離だけ前記挿入筒部の先端より露出可能となっており、前記所定距離は、前記挿入筒部において眼球内に入る可能性のある範囲の距離と前記露出距離との和以上であるようにしてもよい。そうすれば、プラ
ンジャが挿入筒部の先端より露出可能な構成においても、より確実に、眼球内に入る可能性のある範囲において挿入筒部の径も小さく維持することができ、切開創も可及的に小さくすることが可能である。
【0014】
また、本発明においては、前記所定距離は、前記レンズ保持部の長さ以上としてもよい。ここで、眼内レンズの挿入器具において本来は、眼内レンズのレンズ保持部は、プランジャの先端領域に接触するように構成されている。しかしながら、眼内レンズの挿入作業中にレンズ保持部が前記先端領域から外れ、棒状部にも接触してしまうことが考えられる。従って、所定距離をレンズ保持部の長さ以上としておけば、万が一、レンズ保持部が先端領域から外れても、棒状部において厚みが増加する部分にはレンズ保持部が届かないこととなる。これにより、レンズ保持部が棒状部と器具本体との間に挟まり作動不良が生じることを抑制できる。
【0015】
また、本発明においては、前記棒状部は、前記先端領域の先端からの距離が前記所定距離の場所に、前記光軸方向と垂直で且つ前記押圧方向に垂直な方向の厚みが、前記先端領域の先端からの距離に略比例して増加するテ―パ部を有するようにしてもよい。すなわち、前記先端領域の先端からの距離が所定距離以上の部分の厚みを増加させる場合に、階段状に厚みを増加させると、その部分に応力集中が生じ、その部分が集中的に変形する危険性がある。従って、本発明においては、前記先端領域の先端からの距離が所定距離以上の部分の厚みを増加させる場合に、テ―パ部を有することとして徐々に厚みを増加することとした。これによれば、棒状部に不要な応力集中を生じさせることなく厚みを増加させることができるので、棒状部の変形をより確実に抑制することができる。
【0016】
また、本発明においては、前記収納部の底面には、前記プランジャによる押圧方向に平行に設けられた2本の土手状のレールが設けられ、前記プランジャは、前記器具本体内において前記2本のレールにより支持されるようにしてもよい。この構成をとれば、棒状部の厚みが増加した際に、2本のレールに支持された棒状部の高さがより高い方向に移動することとなる。そうすると、例えば棒状部の上側に若干のクリアランスを設けて位置規制のための案内を設けた場合には、プランジャがある程度器具本体の前方に押し込まれた際に棒状部と位置規制のための案内との間のクリアランスを小さくすることができ、プランジャの押し込みのための抵抗を増加させることができる。
【0017】
この構成によれば、眼内レンズを挿入筒部から押し出す前のタイミングでプランジャの押し込み抵抗を徐々に増加させ、眼内レンズが器具本体から不用意に飛び出すことをより確実に抑制することができる。
【0018】
なお、上記した本発明の課題を解決する手段については、可能なかぎり組み合わせて用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、眼内レンズの挿入器具の挿入筒部がより小型化した場合でも、眼内レンズを挿入器具から押し出す際にプランジャの変形を抑制し、眼内レンズの挿入動作をより安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例1における眼内レンズの挿入器具の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例における眼内レンズの概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例1におけるノズル本体の概略構成を示す図である。
【図4】本発明の実施例における位置決め部材の概略構成を示す図である。
【図5】本発明の実施例におけるプランジャの概略構成を示す図である。
【図6】本発明の実施例における貫通孔の左右方向寸法及び、レンズのつぶれ率についてのグラフである。
【図7】本発明の実施例におけるプランジャの先端付近を示す図である。
【図8】本発明の実施例2におけるノズル本体の概略構成を示す図である。
【図9】本発明の実施例2におけるプランジャの位置と高さとの関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
<実施例1>
【0022】
図1には、本実施例における眼内レンズの挿入器具1(以下、単に、挿入器具1ともいう。)の概略構成を示す。図1(a)は平面図、図1(b)は側面図を示している。挿入器具1は、断面略矩形の筒状に形成されており片側は大きく開口し(以下、大きく開口した側を後端部10bという。)、別の片側端部には細く絞られた挿入筒部としてのノズル部15及び斜めに開口した先端部10aを備える器具本体としてのノズル本体10と、ノズル本体10に挿入され往復運動可能なプランジャ30とを備えている。なお、以下において、ノズル本体10の先端部10aから後端部10bへ向かう方向を前後方向、図1において紙面に垂直方向を上下方向、前後方向及び上下方向に垂直な方向を左右方向とする。
【0023】
ノズル本体10の後端部10b付近には、板状に迫り出し、使用者がプランジャ30をノズル本体10の先端側に押し込む際に指を掛けるホールド部11が一体的に設けられている。また、ノズル本体10におけるノズル部15の後端側には、眼内レンズ2をセットする収納部としてのステージ部12が設けられている。このステージ部12は、ステージ蓋部13を開蓋することでノズル本体10の上側(図1(a)における紙面垂直手前側)が開放されるようになっている。また、ステージ部12には、ノズル本体10の下側(図1(a)における紙面垂直奥側)から位置決め部材50が取り付けられている。この位置決め部材50によって、使用前(輸送中)において、ステージ部12内で眼内レンズ2が安定して保持されている。
【0024】
すなわち、挿入器具1においては、製造時に、ステージ蓋部13が開蓋し位置決め部材50がステージ部12に取り付けられた状態で、眼内レンズ2がステージ部12にセットされる。そして、出荷、販売され、使用者はステージ蓋部13を閉蓋したままで位置決め部材50を取り外し、その後プランジャ30をノズル本体10の先端側に押し込むことで、プランジャ30で眼内レンズ2を押圧し、先端部10aより眼内レンズ2を押し出す。
【0025】
図2は、眼内レンズ2の概略構成を示した図である。図2(a)は平面図、図2(b)は側面図を示す。眼内レンズ2は、所定の屈折力を有するレンズ本体2aと、レンズ本体2aに設けられ、レンズ本体2aを眼球内で保持するためのヒゲ状の2本の支持部2b、2bとから形成されている。支持部2b、2bは本実施例においてレンズ保持部に相当する。レンズ本体2aは可撓性の樹脂材料から形成されている。
【0026】
図3にはノズル本体10の平面図を示す。前述のようにノズル本体10においては、眼内レンズ2はステージ部12にセットされる。そして、その状態でプランジャ30によって押圧されて先端部10aから眼内レンズ2が押し出される。なお、ノズル本体10にはノズル本体10の外形の変化に応じて断面形状が変化する貫通孔10cが設けられている。そして、眼内レンズ2が押し出される際は、眼内レンズ2は、ノズル本体10内の貫通孔10cの断面形状の変化に応じて変形し、患者の眼球に形成された切開創に入り易い形
に変形した上で押し出されることになる。
【0027】
ステージ部12には、眼内レンズ2のレンズ本体2aの径より僅かに大きな幅を有するステージ溝12aが形成されている。ステージ溝12aの前後方向の寸法は、眼内レンズ2の両側に延びる支持部2b、2bを含む最大幅寸法よりも大きく設定されている。また、ステージ溝12aの底面によってセット面12bが形成されている。セット面12bの上下方向位置(図3の紙面に垂直方向の位置)は、ノズル本体10の貫通孔10cの底面の高さ位置よりも上方(図3の紙面に垂直方向手前側)に設定されており、セット面12bと貫通孔10cの底面とは底部斜面10dによって連結されている。
【0028】
ステージ部12とステージ蓋部13とは一体に形成されている。ステージ蓋部13はステージ部12と同等の前後方向の寸法を有している。ステージ蓋部13は、ステージ部12の側面がステージ蓋部13側に延出して形成された薄板状の連結部14によって連結されている。連結部14は中央部で屈曲可能に形成されており、ステージ蓋部13は、連結部14を屈曲させることでステージ部12に上側から重なり閉蓋することができるようになっている。
【0029】
ステージ蓋部13において、閉蓋時にセット面12bと対向する面には、ステージ蓋部13を補強し、眼内レンズ2の位置を安定させるためにリブ13a及び13bが設けられている。また、プランジャ30のガイドとして案内突起13cが設けられている。
【0030】
ステージ部12のセット面12bの下側には、位置決め部材50が取外し可能に設けられている。図4に、位置決め部材50の概略構成を示す。図4(a)は平面図を示し、図4(b)は側面図を示している。位置決め部材50はノズル本体10と別体として構成されており、一対の側壁部51、51が連結部52で連結された構造とされている。それぞれの側壁部51の下端には、外側に向けて延出して広がる保持部53、53が形成されている。
【0031】
そして、それぞれの側壁部51、51の上端部には、上方から見た形状が円弧形状であり上側に突出した一対の第一載置部54、54が形成されている。さらに、第一載置部54の上端面における外周側には、第一位置決め部55、55が突出して形成されている。第一位置決め部55の内径どうしの距離は、眼内レンズ1のレンズ本体2aの径寸法よりも僅かに大きく設定されている。
【0032】
また、連結部52の前後方向の両端には、上方から見た形状が矩形状であり上側に突出した一対の第二載置部56、56が形成されている。第二載置部56の上面の高さは、第一載置部54の上面の高さと同等になっている。更に、第二載置部56、56の上面において外側の部分には、第二載置部56の左右方向の全体に亘って上側にさらに突出する第二位置決め部57、57が形成されている。第二位置決め部57内側どうしの離隔は、眼内レンズ2のレンズ本体2aの径寸法よりも僅かに大きく設定されている。加えて、第二載置部56の上端部には左右方向の全体に亘り、前後方向に僅かに突出した係止爪58、58が形成されている。
【0033】
本実施例では、上記の位置決め部材50が、ノズル本体10のセット面12bの下側から組み付けられる。ノズル本体10のセット面12bには、厚さ方向にセット面12bを貫通するセット面貫通孔12cが形成されている。セット面貫通孔12cの外形は、位置決め部材50の第一載置部54および第二載置部56を上側から見た形状に対し僅かに大きな略相似形状とされている。そして、位置決め部材50がノズル本体10に取り付けられる際には、第一載置部54、54および第二載置部56、56が、セット面12bの下側からセット面貫通孔12cに挿入され、セット面12bの上側に突出する。
【0034】
その際、第二載置部56、56に設けられた係止爪58、58がセット面貫通孔12cを介してセット面12bに突出し、セット面12bの上面に係止される。このことによって、位置決め部材50がノズル本体10の下側から組み付けられ、第一載置部54、54および第二載置部56、56がセット面12bから突出した状態で固定される。そして、眼内レンズ2がセット面12bにセットされる際には、レンズ本体2aの外周部底面が、第一載置部54、54および第二載置部56、56の上面に載置される。また、レンズ本体2aは第一位置決め部55、55及び第二位置決め部57、57によって前後左右方向に対して位置規制される。
【0035】
図5にはプランジャ30の概略構成を示す。プランジャ30は、ノズル本体10よりもやや大きな前後方向長さを有している。そして、円柱形状を基本とした先端側の作用部31と、矩形ロッド形状を基本とした後端側の挿通部32とから形成されている。そして、作用部31は、円柱形状とされた円柱部31aと、円柱部31aの左右方向に広がる薄板状の扁平部31bとを含んで構成されている。
【0036】
作用部31の先端部分には、切欠部31cが形成されている。この切欠部31cは、図5から分かるように、作用部31の上方向に開口し左右方向に貫通する溝状に形成されている。また、図5(b)から分かるように、切欠部31cの先端側の端面は作用部31の先端側に行くに連れて上方に向かう傾斜面で形成されている。
【0037】
一方、挿通部32は、は全体的に概略H字状の断面を有しており、その左右方向および上下方向の寸法は、ノズル本体10の貫通孔10cよりも僅かに小さく設定されている。また、挿通部32の後端には、上下左右方向に広がる円板状の押圧板部33が形成されている。
【0038】
挿通部32の前後方向の中央より先端側の部分には、挿通部32の上側に向けて突出し、プランジャ30の素材の弾性により上下に移動可能な爪部32aが形成されている。そして、プランジャ30がノズル本体10に挿入された際には、ノズル本体10の上面において厚さ方向に設けられた図3に示す係止孔10dと爪部32aが係合し、このことにより初期状態におけるノズル本体10とプランジャ30との相対位置が決定される。なお、爪部32aと係止孔10dの形成位置は、係合状態において、作用部31の先端が、ステージ部12にセットされた眼内レンズ2のレンズ本体2aの後方に位置し、レンズ本体2aの後方の支持部2bを切欠部31cが下方から支持可能な場所に位置するよう設定されている。
【0039】
上記のように構成された挿入器具1の使用前においては、プランジャ30がノズル本体10に挿入されて初期位置に配置される。また、位置決め部材50が、前述のように、セット面12bの下方からノズル本体10に取り付けられる。これにより、位置決め部材50の第一載置部54および第二載置部56がセット面12bに突出した状態に保持される。
【0040】
次に、眼内レンズ2のレンズ本体2aが支持部2b、2bをノズル本体10の前後方向に向けた状態で第一載置部54および第二載置部56の上面に載置され位置決めされる。この状態において、眼内レンズ2は、レンズ本体2aの外周部分が第一載置部54および第二載置部56に接触しているので、中央部分は非負荷状態で支持されている。また、この状態において、眼内レンズ2の支持部2bは、プランジャ30の切欠部31cの底面によって支持されている。
【0041】
また、この状態においては、第二載置部56によって、プランジャ30の前進を阻止す
るストッパが構成されており、プランジャ30は、位置決め部材50がノズル本体10から取り外されない限り前進が不可能な状態となっている。
【0042】
挿入器具1を用いて眼内レンズ2を眼球内に挿入する場合には、先ず、位置決め部材50をノズル本体10から取り外す。これにより、眼内レンズ2のレンズ本体2aを支持していた第一載置部54および第二載置部56がセット面12bから後退し、眼内レンズ2がセット面12b上に載置される。セット面12bは平坦面とされていることから、眼内レンズ2を安定して載置せしめることが出来ると共に、ステージ溝12aの幅寸法が眼内レンズ2のレンズ本体2aの径寸法より僅かに大きい程度とされていることから、セット面12b上での眼内レンズ2の周方向の回転も抑制されるようになっている。
【0043】
続いて、眼組織に設けた切開創に、ノズル本体10のノズル部15における先端部10aを挿入する。ここにおいて、先端部10aは斜めの開口形状を有しているので、切開創への挿入を容易に行なうことができる。そして、切開創にノズル部15を挿入した後に、その状態で、プランジャ30の押圧板部33をノズル本体10の先端側に押し込む。これにより、セット面12aにセットされた眼内レンズ2のレンズ本体2a外周にプランジャ30の作用部31の先端が当接し、プランジャ30によって眼内レンズ2が先端部10aに向けて案内される。
【0044】
上記で説明したような眼内レンズの挿入器具1を用いて、患者の眼球内に眼内レンズ2を挿入させる手術に関して、近年は、患者の負担を軽減するために、ノズル本体10の先端部10a付近の寸法をより小型化し、切開創の径をより小径で済むようにする要求がある。具体的には、ノズル部15及び貫通孔10cの左右方向の寸法を、0.1mm程度小さくする試みがなされている。
【0045】
図6には、上記のような改良(寸法の低減)を行った前後における、貫通孔10cの左右方向寸法及び、レンズのつぶれ率についてのグラフを示す。図6(a)は、改良前後における貫通孔10cの、先端部10aからの距離と、貫通孔10cの左右方向寸法との関係の例を示している。横軸は先端部10aからの距離、縦軸は貫通孔10cの左右方向寸法である。また、図6(b)は、改良前後における、先端部10aからの距離と、レンズつぶれ率との関係の例を示している。横軸は先端部10aからの距離、縦軸はレンズつぶれ率である。図6(a)及び(b)からも明確なように、先端部10a近傍では、貫通孔10cの左右方向寸法が小さくなり、レンズつぶれ率が大きくなっている。
【0046】
この改良を行った場合、プランジャ30によって眼内レンズ2が押圧されてノズル本体10内を前方に移動すると、眼内レンズ2のつぶれ率がより高くなるので、プランジャ30の押し込みに対する抵抗がより大きくなる。また、プランジャ30の作用部31自体の径も、貫通孔10cの小型化と合わせて小径化する必要がある。その結果、プランジャ30の作用部31が細いために作用部31自体が曲がるなどの変形を生じるおそれがあった。そうすると、プランジャ30の移動を正確に眼内レンズ2に伝えることが困難となり、眼内レンズ2を患者の眼球内に安定して挿入することが困難となる場合があった。
【0047】
眼内レンズ2がノズル本体10の先端部10aから押し出される際には、変形した状態で押し出されるため、眼内レンズ2の形状が復元する際の弾性力によって眼内レンズ2が飛び出すなどの不都合が生じるおそれがあるため、押し出す際のプランジャ30の制御の安定性が重要となる。従って、プランジャ30の作用部31の変形は可能な限り小さい方が望ましい。
【0048】
なお、眼内レンズ2のレンズ本体2aは概略円板状の形状を有していることから、眼内レンズ2がプランジャ30によって押圧された際には、ノズル本体10内でレンズ本体2
aが光軸まわりに回転し易い状態となる。従って、プランジャ30の作用部31の変形方向は左右方向であることが多い。これに対し、本実施例においては、作用部31の円柱部31aの所定場所よりも後側においては、左右方向幅を上下方向幅に比較して大きくすることで、作用部31の曲がりを抑制することとした。
【0049】
図7には、本実施例におけるプランジャ30の作用部31のより詳しい構成を示す。図7(a)は上側から見た図、図7(b)は左右方向から見た図、図7(c)は先端方向から見た図である。本実施例においては、円柱部31aの前後方向中央部付近においてテーパ部31dを設け、テ―パ部31dの後側については円柱部31aの左右方向幅を増加させ長円柱部31eを設けることとした。
【0050】
換言すると、作用部31における円柱部31a、テ―パ部31d、長円柱部31eの上下方向の寸法は一定とし、左右方向のみ寸法を途中で増加させることとした。これによれば、実際に作用部31の変形が生じ易い方向のみの寸法を増加することで、より効率的に作用部31の変形を抑制できるとともに、寸法の増加量を最低限に抑えることができる。また、作用部31の寸法を増加させる方向を左右方向のみとしたために、上下方向については構造が簡単になり、トータルとしてのプランジャ30の構造を簡略化することができる。さらに、寸法を高精度に管理すべき方向を左右方向に限定することができるので、金型の製作及び、製品の寸法管理を簡略化することができる。なお、図7の作用部31において、切欠部31c及び切欠部31cより先端側の部分は先端領域に相当する。切欠部31cより後端側の円柱部31a、テ―パ部31d、長円柱部31eは棒状部に相当する。
【0051】
ここで、図7において作用部31の先端からテ―パ部31dまでの距離は、ノズル本体10の先端部10aにおいて患者の眼球内に挿入される範囲の前後方向の長さ以上とすることが望ましい。例えば、ノズル本体10のノズル部15に、挿入範囲を示すマークがある場合には、先端部10aからそのマークまでの距離以上としてもよい。そのようにすることで、患者の眼球内に挿入される範囲においては作用部31の寸法を抑えることができ、結果として、ノズル本体10において患者の眼球内に挿入される部分の左右方向寸法を可及的に小さく抑えることができる。これにより、患者の眼組織に設けられる切開創をより小さく抑えることが可能となる。
【0052】
なお、眼内レンズ2の挿入作業において、プランジャ30がノズル本体10の先端部10aより、突出(露出)可能な構成になっている場合には、作用部31の先端からテ―パ部31dまでの距離は、プランジャ30が突出(露出)可能な長さと、ノズル本体10の先端部10aにおいて患者の眼球内に挿入される範囲の長さとの和以上としてもよい。そうすれば、プランジャ30がノズル本体10の先端部10aより突出(露出)可能な構成においても、より確実に、ノズル本体10において患者の眼球内に挿入される部分の左右方向寸法を可及的に小さく抑えることができる。
【0053】
さらに、作用部31の先端からテ―パ部31dまでの距離は、眼内レンズ2の支持部2bの長さ以上としてもよい。ここで、眼内レンズ2の支持部2bは、プランジャ30の切欠部31cの底面によって支持されているが、眼内レンズ2の挿入作業において、プランジャ30によって眼内レンズ2を押圧した際には、支持部2bが、切欠部31cから外れる場合がある。この場合、支持部2bが、プランジャ30とノズル本体10との間に挟まり、プランジャ30の移動が困難になるなどの不都合が生じるおそれがあった。
【0054】
これに対し、作用部31の先端からテ―パ部31dまでの距離を、眼内レンズ2の支持部2bの長さ以上としておけば、万が一、支持部2bが切欠部31cから外れても、支持部2bはテ―パ部31dには届かない。これにより、支持部2bがプランジャ30とノズル本体10との間に挟まり作動不良が生じることを抑制できる。
【0055】
なお、上記の実施例において作用部31の先端からテ―パ部31dまでの距離は所定距離に相当する。また、上記の実施例においては、作用部31にテ―パ部31dを設けることで作用部31の左右方向の寸法を増加させた。しかしながら、作用部31の左右方向の寸法を増加させる方法は上記のものに限られない。例えば、段付き形状、階段形状、曲面形状によって寸法を増加させても略同等の効果を得ることが可能である。
<実施例2>
【0056】
次に、本発明の実施例2について説明する。本実施例においても、実施例1で説明したように、プランジャ30の作用部31にテ―パ部31dを設け、長円柱部31eにおいて左右方向の寸法のみを増加させる構成とする。そして、本実施例においてはそのことに加え、器具本体の貫通孔の底面において、プランジャ30を2本のレールで支持するようにした。以下、この実施例について説明する。
【0057】
図8には、本実施例に係るノズル本体10について示す。本実施例に係るノズル本体10の、実施例1との相違点は、ステージ部12のセット面12bにおいて2本のレール10f、10fで、プランジャ30の作用部31を支持するようにした点である。また、図8に示すように、実施例1のセット面貫通孔12cとは配置の異なるセット面貫通孔12dが設けられている。これは、セット面12bにおいて、レール10f、10fを設けるスペースを確保するためである。
【0058】
図9には、本実施例においてプランジャ30をノズル本体10の先端側に押し込み、眼内レンズ2を押し出す際の作用について示す。図9(a)はプランジャ30が初期位置にある状態、図9(b)はプランジャ30の作用部31の先端がステージ部12を通過し終わった状態、図9(c)は、プランジャ30の扁平部31bがステージ部12に差し掛かり、扁平部31bが2本のレール10f、10fに支持されている状態を示す。また、図9(a)〜図9(c)において、左側の図は上側から見た図を、右側の図は2本のレール10f、10fに支持された作用部31の断面図を示す。
【0059】
なお、図9(a)〜図9(c)の右側の図に示すように、ステージ蓋部13を閉蓋した状態では、プランジャ30の作用部31は下側から2本のレール10f、10fで支持されるとともに、上側については、案内突起13c、13c及び、リブ13bによってその位置が規制されている。なお、図9(a)〜図9(c)の左図においては、プランジャ30の作用を分かりやすくするためにステージ蓋部13の構成については破線の細線で表示している。
【0060】
図9(a)においては、作用部31の円柱部31aがレール10f、10fにおける内側の斜面に支持されている状態である。この場合、円柱部31aの下端部の、セット面12bからの高さはh1となっている。また、円柱部31aの上側については、案内突起13c、13c、リブ13bに位置規制されている状態であるが、円柱部31aの左右方向の寸法は上下方向と同一であるために、円柱部31aとリブ13bとのクリアランスは比較的大きいC1となっている。この状態ではプランジャ30の作動抵抗は非常に少なく、眼内レンズ2の押圧動作を円滑に行うことが可能となっている。
【0061】
図9(b)においては、長円柱部31eの下側がレール10f、10fの内側の斜面に支持されるとともに、長円柱部31eの上側は、案内突起13c、13c、リブ13bに位置規制されている。この状態においては、長円柱部31eの左右方向の寸法は円柱部31aにおける左右方向寸法より長くなっているため、長円柱部31eの下側の、セット面12bからの高さは図b(a)と比較して高いh2となる。長円柱部31eの上下方向寸法は円柱部31aと同一であるので、長円柱部31eの上側とリブ13bとのクリアラン
スは、図9(a)に示した状態と比較して小さいC2となる。その結果、図9(b)の状態においては図9(a)の状態と比較してプランジャ30の作動抵抗が増加する。
【0062】
図9(c)においては、扁平部31bがレール10f、10fの頂点に支持されるとともに、長円柱部31eの上側が案内突起13c、13c、リブ13bに位置規制されている状態である。この状態においては扁平部31bがレール10f、10fに乗り上げた状態となっているため、長円柱部31eの下側のセット面12bからの高さはさらに高いh3となる。この場合、長円柱部31eの上側とリブ13bとのクリアランスはマイナス値C3となり、長円柱部31eとリブ13bとの間に干渉が生じている。従って、この状態ではプランジャ30の作動抵抗がさらに増加する。
【0063】
以上、説明したように、本実施例においては、プランジャ30の作用部31にテ―パ部31dを設け、左右方向の寸法のみを途中で増加させたとともに、ノズル本体10におけるステージ部12において、プランジャ30を2本のレール10f、10fで支持するようにした。従って、プランジャ30をノズル本体10の先端側に押し込むにつれて徐々にプランジャ30の作動抵抗が増加し、眼内レンズ2がノズル本体10から押し出される前のプランジャ30の作動をより安定化させることが可能となった。その結果、眼内レンズ2がノズル本体10から不用意に眼球内に飛び出すといた不都合をより確実に抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1・・・挿入器具
2・・・眼内レンズ
10・・・器具本体
10a・・・先端部
10b・・・後端部
10f・・・レール
12・・・ステージ部
12b・・・セット面
13・・・ステージ蓋部
13a・・・リブ
13b・・・リブ
13c・・・案内突起
30・・・プランジャ
31・・・作用部
31a・・・円柱部
31b・・・扁平部
31d・・・テ―パ部
31e・・・長円柱部
50・・・位置決め部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形可能な眼内レンズを眼球組織に形成された切開創口より眼球内に挿入するための眼内レンズの挿入器具であって、
略筒状に形成されるとともにその先端に前記切開創口に挿入される挿入筒部を有する器具本体と、
前記器具本体に一体または別体に設けられ前記眼内レンズを収納することで前記眼内レンズを前記器具本体の内に配置可能な収納部と、
前記収納部に収納された前記眼内レンズを先端で押圧して前記挿入筒部から眼球内に放出するプランジャと、を備え、
前記プランジャは、前記眼内レンズ本体および/または前記眼内レンズ本体に延設されたヒゲ状のレンズ保持部に接触する先端領域と、該先端領域の後端から前記押圧方向と反対方向に延びる棒状部と、を有し、
前記棒状部は、収納された眼内レンズの光軸方向については厚み一定に構成されるとともに、前記光軸方向と垂直で且つ前記押圧方向に垂直な方向については、前記先端領域の先端からの距離が所定距離以上の部分の厚みが増加するように構成されたことを特徴とする眼内レンズの挿入器具。
【請求項2】
前記所定距離は、前記挿入筒部において眼球内に入る可能性のある範囲の距離以上であることを特徴とする請求項1に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項3】
前記プランジャは、所定の露出距離だけ前記挿入筒部の先端より露出可能となっており、
前記所定距離は、前記挿入筒部において眼球内に入る可能性のある範囲の距離と前記露出距離との和以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項4】
前記所定距離は、前記レンズ保持部の長さ以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項5】
前記棒状部は、前記先端領域の先端からの距離が前記所定距離の場所に、前記光軸方向と垂直で且つ前記押圧方向に垂直な方向の厚みが、前記先端部からの距離に略比例して増加するテ―パ部を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項6】
前記収納部の底面には、前記プランジャによる押圧方向に平行に設けられた2本の土手状のレールが設けられ、
前記プランジャは、前記器具本体内において前記2本のレールにより支持されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の眼内レンズの挿入器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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