説明

眼内レンズ

【課題】縫着タイプ・非縫着タイプのどちらのタイプとしても適切に使用することができる眼内レンズを提供する。
【解決手段】レンズ機能を有するレンズ部22と、このレンズ部22を支持する支持部23とを備える眼内レンズ21の構成として、支持部23は、レンズ部22の外周部から外側に延出する状態で形成されるとともに、レンズ部22の径方向に弾性変形可能な可撓部24と当該可撓部24よりも硬質の材料からなる固定部25とを有する。固定部25には、支持部23を眼球に固定するときに用いる縫合糸の巻き付けを許容し、かつ巻き付けた縫合糸の位置ずれを防止する孔部26が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶体の代替機能として眼内に挿入される眼内レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者人口の増加に伴って白内障の患者が増えている。白内障は、眼球の内部でレンズ機能を果たす水晶体が白く濁ることで、視力の低下等を招く病気である。白内障患者の視力を回復するために白内障手術が行われている。白内障手術は、白く濁った水晶体を取り除き、そこに人工の眼内レンズを挿入する手術である。
【0003】
白内障手術で眼内に移植される眼内レンズは、水晶体に替わって光学的なレンズ機能を有するレンズ部(光学部)と、このレンズ部を支持する支持部とによって構成されている。通常、この種の眼内レンズは、水晶体を摘出した後に残る水晶体嚢の内部に収容される。
【0004】
しかし、例えば、嚢自体が破れてしまっている場合には、支持部によって嚢内に固定できない場合がある。また、嚢が破れていない場合でも、患者によっては、この支持部による支持だけでは十分でなく、術後にレンズ部が動いてしまって光学軸がずれてしまう場合もある。光学軸が予定位置からずれると、予定した矯正効果が得られなくなり、場合によっては、再手術しなければならないことも考えられる。
【0005】
このようなおそれを防止するために、従来から、レンズを眼内に挿入した後、支持部を縫合糸で強膜等に固定する方法が知られている。そして、この方法に用いる眼内レンズとして、支持部を固定する縫合糸が支持部において位置ずれしないように位置ずれ防止手段を支持部に設けたものが種々提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3等参照)。
【0006】
一方、現在では術後乱視や手術侵襲の軽減を目的として、小切開創から挿入可能な眼内レンズ、すなわち、折り畳み可能なシリコーン樹脂、アクリル樹脂、ハイドロゲルなどの軟性材料のレンズ部をもつ眼内レンズが主流である。また、それらの光学部軟性材料のレンズの中でも、眼内への挿入容易性や支持部とレンズ部の接続箇所の強化を目的とし、支持部とレンズ部を同一材料としたワンピースタイプの眼内レンズが広まりつつある(例えば、特許文献4、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−20975号公報
【特許文献2】米国特許第5336262号明細書
【特許文献3】米国特許第4409690号明細書
【特許文献4】特開2008−220863号公報
【特許文献5】特表平10−513099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらのレンズ部が軟性材料からなるワンピースタイプの眼内レンズの利点をいかしつつ、かつ上記のような縫合糸の位置ずれ防止手段を支持部に持った眼内レンズは存在しない。仮に特許文献4や特許文献5に記載のレンズ部が軟質材料からなるワンピースタイプの眼内レンズに、特許文献1、2又は3に記載されている位置ずれ防止手段を適用しようとしても、縫合糸の締める力によって縫合糸が支持部にくいこみ、状況によっては支持部が破断してしまう。
【0009】
本発明の主たる目的は、軟性材料からなるワンピースタイプの眼内レンズの利点を生かし、かつ縫合糸による眼内への縫着が可能な眼内レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、
レンズ機能を有するレンズ部と、このレンズ部を支持する支持部とを備える眼内レンズであって、
前記支持部は、前記レンズ部の外周部から外側に延出する状態で形成されるとともに、前記レンズ部の径方向に弾性変形可能な可撓部と当該可撓部よりも硬質の材料からなる固定部とを有し、
前記固定部には、前記支持部を眼球に固定するときに用いる縫合糸の巻き付けを許容し、かつ巻き付けた縫合糸の位置ずれを防止する係止部が設けられている
ことを特徴とする眼内レンズである。
【0011】
本発明の第2の態様は、
前記支持部は、
前記レンズ部の中心から直径11mmの第1仮想円に対して、前記可撓部を前記レンズ部に近づく方向に弾性変形させて前記支持部の最外部を前記第1仮想円に接するように配置したときに、前記支持部の延出方向において当該支持部の根元に最も近い前記固定部の端部が、前記第1仮想円の直径よりも1.0mm小さい直径の第2仮想円と前記第1仮想円との間に位置するように構成されている
ことを特徴とする上記第1の態様に記載の眼内レンズである。
【0012】
本発明の第3の態様は、
前記係止部は、前記支持部の厚み方向に貫通する状態で前記可撓部と前記固定部との境界に設けられた孔部からなる
ことを特徴とする上記第1又は第2の態様に記載の眼内レンズである。
【0013】
本発明の第4の態様は、
前記係止部は、前記固定部に設けられた溝部からなる
ことを特徴とする上記第1又は第2の態様に記載の眼内レンズである。
【0014】
本発明の第5の態様は、
前記係止部は、前記支持部の延出方向と交差する方向に貫通する状態で前記固定部に設けられた孔部からなる
ことを特徴とする上記第1又は第2の態様に記載の眼内レンズである。
【0015】
本発明の第6の態様は、
前記可撓部は、前記支持部の延出方向において前記係止部よりも当該支持部の根元に近い側で、かつ前記レンズ部に対向する側に、切り欠き部を有する
ことを特徴とする上記第1又は第2の態様に記載の眼内レンズである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、軟性材料からなるワンピースタイプの眼内レンズの利点を生かし、かつ縫合糸による眼内への縫着が可能な眼内レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】眼球の平面的な断面構造を説明する図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る眼内レンズの構造を示すもので、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図3】眼内レンズの製造方法を説明する図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る眼内レンズの構造を示すもので、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る眼内レンズの変形例を示すもので、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係る眼内レンズの構造を示すもので、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る眼内レンズの好適な構成例を説明する図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態に係る眼内レンズの構造を示すもので、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図9】縫合糸の巻き付け方の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の実施の形態においては、次の順序で説明を行う。
1.眼球の構造
2.第1の実施の形態
3.第2の実施の形態
4.第3の実施の形態
5.第4の実施の形態
6.変形例等
【0019】
<1.眼球の構造>
図1は眼球の平面的な断面構造を説明する図である。図示のように、眼球1は、全体に球状をなし、前方の角膜2の部分を除いて強膜3により被覆保護されている。角膜2周囲の強膜3の表面は結膜4で覆われている。角膜2は、眼球保護機能のほかに、外から入ってくる光を屈折させるレンズ機能を果たす。角膜2の内側(裏側)には、房水で満たされた前房5があり、この前房5に面して虹彩6の中央に瞳孔7がある。
【0020】
虹彩6は、瞳孔7の大きさ(開口の寸法)を調節することにより、眼球1の内部に入射する光の量を調整する機能を果たす。瞳孔7には水晶体8の前面が臨んでいる。水晶体8は、凸レンズのような形状をなすもので、焦点を調整する機能を果たす。水晶体8は、透明な薄い膜で構成された水晶体嚢に包まれている。水晶体8には、毛様小帯9を介して毛様体10がつながっている。毛様体10は、水晶体8の厚さを制御して焦点合わせを行う筋肉組織である。
【0021】
水晶体8の裏側には硝子体11がある。硝子体11は、眼球1の内部の大部分を占めている。硝子体11は、ゼリー状の無色透明な組織であり、眼球1の形状と弾性を維持している。また、硝子体11は、水晶体8で屈折された光線を網膜13まで透過する。網膜13は、眼球1の内部で最も内側に位置する膜組織である。網膜13には、瞳孔7を通して眼球1内に入射する光を感じ、その強さ、色、形などを識別する視細胞が存在する。
【0022】
網膜13の外側には脈絡膜14がある。脈絡膜14は、強膜3の内側(つまり、強膜3と網膜13の間)に位置する膜組織である。脈絡膜14は、血管に富んでおり、眼球1の各組織への血流路として、眼球1内に栄養を与える役目も果たす。さらに、眼球1の後側(裏側)には視神経15がつながっている。視神経15は、網膜13が受けた光刺激を脳に伝える神経である。視神経15がつながる部分には盲点16が存在する。盲点16は、中心窩17から4〜5mmほど離れたところにある。
【0023】
<2.第1の実施の形態>
図2は本発明の第1の実施の形態に係る眼内レンズの構造を示すもので、(A)は平面図、(B)は側面図である。眼内レンズ21は、光学的なレンズ機能を有するレンズ部22と、このレンズ部22を支持する支持部23とを備えた構成となっている。レンズ部22と支持部23とは一体化された構造になっている。つまり、眼内レンズ21は、いわゆるワンピースタイプの眼内レンズに相当するものである。
【0024】
(レンズ部)
レンズ部22は、平面視円形の凸レンズ形状に形成されている。レンズ部22の直径は、眼内レンズ21を眼内の水晶体嚢に挿入するのに適した寸法であれば、どのような寸法に設定してもかまわない。具体的な寸法設定例を記述すると、レンズ部22の直径Dは、好ましくは、5mm〜7mmの範囲に設定すればよく、より好ましくは6mmに設定すればよい。レンズ部22の厚みは、所望の屈折率等に合わせて設定すればよい。レンズ部22は、当該レンズ部22を折り畳み可能とする軟質材料によって構成されている。ここで記述する「折り畳み可能」という用語は、レンズ部22を含めて眼内レンズ21を少なくとも二つ折りにできるという意味で使用している。したがって、レンズ部22を構成する軟質材料は、レンズ部22を折り畳める程度の高い柔軟性を有する材料となる。具体的には、例えば、シリコーン樹脂、アクリル系樹脂、ハイドロゲル、ウレタン系樹脂などの軟質材料を用いることができる。
【0025】
(支持部)
支持部23は、レンズ部22の外周部から外側に延出する状態で形成されている。支持部23は、眼内レンズ21を眼内に挿入したときにレンズ部22を支持するものである。支持部23は、一つの眼内レンズ21に2つ形成されている。各々の支持部23は、レンズ部22の中心Cを通る軸線(図中、一点鎖線で示す)がレンズ部22の外周部に交差する部分から、それぞれ図の反時計回り方向に円弧を描くように延出している。各々の支持部23は、以下のような共通の構造を有している。
【0026】
支持部23は、レンズ部22の外周部から外側に腕状に延出している。支持部23は、可撓部24と固定部25とに分かれている。具体的には、支持部23の主たる部分は可撓部24で構成され、これを除く先端部分が固定部25で構成されている。支持部23の外側の面は、可撓部24から固定部25にかけて滑らかに連続した円弧を描いている。また、支持部23の先端側には孔部26が形成されている。可撓部24と固定部25とは、レンズ部22の中心Cから半径Rの円弧線を描いたときに、当該円弧線を境界線として区分されている。すなわち、半径Rの円弧線よりも内側の部分を可撓部24とし、半径Rの円弧線よりも外側の部分を固定部25として、それらが一体的に形成されている。
【0027】
可撓部24は、レンズ部22の径方向に弾性変形可能な構成になっている。可撓部24は、全体的に細長く延びていて、これを構成する材料自体も適度な柔軟性をもっている。具体的には、可撓部24は、前述したレンズ部22と同じ軟質材料によって構成されている。このため、固定部25を通してレンズ部22の中心Cに向かう外力を受けると、この外力にしたがって可撓部24がレンズ部22に近づく方向に弾性変形し得る構成となっている。可撓部24は、その根元部分が山裾状に幅広に形成され、最も幅広の部分でレンズ部22につながっている。また、可撓部24は、上記幅広の根元部分から斜め外向きに円弧を描くように細長く延出している。可撓部24の先端部分(根元部分と反対側の部分)は少し幅広に形成されている。
【0028】
固定部25は、前述したレンズ部22および可撓部24とは硬さの異なる材料によって構成されている。具体的には、可撓部24よりも硬い硬質材料によって固定部25が構成されている。固定部25に適用する硬質材料としては、当該固定部25に縫合糸を縛りつける場合に、多少強く縛りつけてもその部分がちぎれない程度の強度を保証できるものであればよい。具体的には、例えば、PMMA(ポリメチルメタクリレート)などの硬質の樹脂材料を用いることができる。固定部25の末端部は、眼球の組織に接触してもこれにダメージを与えないように、耳たぶ状に丸みを帯びている。また、支持部23を構成する可撓部24と固定部25は、それぞれの部位の材料が異なるだけで、構造的には一体化されている。
【0029】
ここで、眼内レンズの支持部を縫合糸で眼内へ固定する際の好適な支持部23の構成について説明する。
【0030】
たとえば、眼内レンズ21を毛様体溝に収容する場合は、レンズ部22から延出する2つの支持部23の先端部分(固定部25)を、可撓部24の弾性変形に伴う反力を利用して毛様体溝に押し当てることにより、レンズ部22を適正な位置に保持する。一般に、成人の毛様体溝の平均的な直径は11mmであるため、眼内レンズの長径D0はこれよりも大きくなるように、例えば13mmに設定されている。
【0031】
眼内レンズ21を毛様体溝に収容した状態では、各々の支持部23の可撓部24がレンズ部22に近づく方向に弾性変形する。このときの状態を模式的に表すと、図7に示すように、各々の支持部23の最外部に位置する固定部25の一部が直径D1(成人の毛様体溝の平均的な直径に相当する)の第1仮想円Vc1に接することとなる。
【0032】
また、上述のように可撓部24をレンズ部22に近づく方向に弾性変形させて、支持部23の最外部を第1仮想円Vc1に接するように配置した場合、固定部25の端部25aは、第1仮想円Vc1とそれよりも小径の第2仮想円Vc2との間に位置するものとなっている。ここで記述する固定部25の端部25aとは、支持部23の延出方向において、この支持部23の根元に最も近い固定部25の端部(可撓部24との境界部)をいう。また、第2仮想円Vc2とは、レンズ部22の中心Cから直径D2の真円であって、その直径D2が上記第1仮想円Vc1の直径D1よりも1.0mm(より好ましくは、0.5mm)小さい円をいう。
【0033】
上記構成からなる支持部23を備えることにより、次のような効果が得られる。
まず、実際に毛様体溝に眼内レンズ21を収納して使用する場合の比較例として、上述したように可撓部24を弾性変形させたときに、固定部25の端部25aが、第2仮想円Vc2よりも内側(小径側)に位置する構成になっているとする。この比較例の構成を採用した場合は、支持部23の縫着に際して、次のような不具合が生じる。すなわち、支持部23の孔部26に縫合糸を巻き付けて固定する場合に、縫合糸の締め付けに伴う引っ張り力を受けて、上述した固定部25の端部25aが外側(大径側)に引っ張られる。そうすると、固定部25の端部25aは、上述した引っ張り力を受けて第1仮想円Vc1に接する位置までずれる。このとき、固定部25の端部25aが第2仮想円Vc2よりも内側に位置すると、固定部25の端部25aの位置ずれ量は、第1仮想円Vc1と第2仮想円Vc2の直径差(D1−D2)の1/2(0.5mm)超となる。そうすると、固定部25の端部25aの位置ずれにしたがって可撓部24も外側に引っ張られる。その結果、支持部23の根元部分に余計な力が加わり、レンズ部22が適正な位置からずれてしまう。
【0034】
これに対して、上述したように可撓部24を弾性変形させたときに、固定部25の端部25aが、第1仮想円Vc1と第2仮想円Vc2の間に位置する構成になっていると、上述した縫合糸の締め付けに伴う引っ張り力が作用しても、この引っ張り力に伴う固定部25の端部25aの位置ずれ量が小さく抑えられる。具体的には、第1仮想円Vc1と第2仮想円Vc2の直径差(D1−D2)が1.0mm(より好ましくは、0.5mm)であるため、固定部25の端部25aの位置ずれ量は、0.5mm以下(より好ましくは、0.25mm)に抑えられる。そうすると、かりに固定部25の端部25aの位置ずれにしたがって可撓部24が外側に引っ張られたとしても、支持部23の根元部分に加わる力は軽微なものとなる。その理由は、上記の比較例にくらべると、固定部25の端部25aの位置ずれ量が小さくなるほか、可撓部24の長さが長くなって、引っ張りの影響を可撓部24の弾性変形によって十分に吸収可能になるためである。その結果、眼内の適正な位置にレンズ部21を安定的に支持することが可能となる。
【0035】
孔部26は、支持部23を眼球に固定するときに用いる縫合糸の巻き付けを許容し、かつ巻き付けた縫合糸の位置ずれを防止する係止部に相当するものである。孔部26は、可撓部24と固定部25との境界に設けられている。また、孔部26は、可撓部24と固定部25との境界において、上述した半径Rの円弧線を一部分断するように形成されている。つまり、孔部26は、可撓部24と固定部25とに跨るように形成されている。孔部26は、支持部23の延出端側において、この支持部23の厚み方向に貫通する状態で形成されている。また、孔部26は、レンズ部22の中心Cを通る、上記とは異なる軸線(図中、二点鎖線で示す)上に中心をもつ円形の貫通孔として形成されている。また、係止部としての孔部26は、縫合糸を用いないで眼内レンズ21を水晶体嚢に収容する場合には、当該嚢内での眼内レンズの位置決め操作のための引っ掛け部として使用することができる。具体的な位置決め操作の仕方は後段で記述する。
【0036】
(眼内レンズの製造方法)
続いて、本発明の第1の実施の形態に係る眼内レンズの製造方法について説明する。眼内レンズの製造方法は、主に3つの工程に分けて考えることができる。以下、工程の流れにしたがって説明する。
【0037】
(第1工程)
まず、図3(A)に示すように、公知の成形方法により、例えばPMMA(硬質材料)を用いて、円環形状の硬質材料部100を得る。硬質材料部100の中心には円孔110をあけておく。
【0038】
次に、図3(B)に示すように、硬質材料部100の円孔110内に、例えば重合後に軟質アクリル(軟質材料)となる原料液200を注入して重合を完了させる。これにより、平面視円形の軟質材料部250が硬質材料部100の内側に形成される。その結果、硬質材料部100と軟質材料部250とを一体化した構造のレンズ素材300が得られる。
【0039】
(第2工程)
次に、図3(C)に示すように、レンズ素材300の面形状を上記レンズ部22および支持部23の面形状に合わせて整える。具体的には、レンズ素材300の表裏面に精密旋盤装置を用いて面形成加工を施すことにより、レンズ部22の凸状の曲面と支持部23の根元部分の斜面とそれ以外の平坦面に合わせて、レンズ素材300の面形状を整える。これにより、眼内レンズの表裏面形状を反映した円板状の中間部材(レンズ素材の加工品)350が得られる。
【0040】
(第3工程)
次に、中間部材350の外形を上記レンズ部22および支持部23の外形に合わせて整える。具体的には、中間部材350にミーリング加工等の外形加工を施すことにより、眼内レンズ21として不要な部分を中間部材350から取り除く。このとき、支持部23の先端側に孔部26を形成しておく。その後、必要な箇所に研磨加工を施す。
【0041】
(眼内レンズの使用方法)
次に、本発明の第1の実施の形態に係る眼内レンズの使用方法について説明する。眼内レンズ21の使用の形態は2つある。一つは、眼内レンズ21を非縫着タイプとして使用する場合である。もう一つは、眼内レンズ21を縫着タイプとして使用する場合である。以下、タイプごとに眼内レンズ21の使用方法を説明する。
【0042】
まず、眼内レンズ21を非縫着タイプとして使用する場合の一例について説明する。
眼内レンズ21を眼内に挿入するにあたっては、それに先立って眼球の表面に創口を形成し、この創口を通して水晶体(水晶体皮質、水晶体核)を摘出しておく。これにより、眼内には空になった水晶体嚢が残るため、この水晶体嚢に以下の手順で眼内レンズ21を挿入する。
【0043】
まず、眼内レンズ21を小さく折り畳む。このとき、2つの支持部23が互いに重ならないように、レンズ部22を二つ折りするかたちで、眼内レンズ21を折り畳む。この折り畳みを考慮して、レンズ部22全体を軟質材料によって構成してある。
【0044】
次に、眼内レンズ21を折り畳んだまま、これをインジェクター(不図示)に挿入する。インジェクターは、眼内レンズ21を眼内に挿入するために使用する手術器具である。
【0045】
次に、眼内レンズ21が装着されたインジェクターの先端部を眼球の創口に臨ませ、その状態でインジェクターから眼内レンズ21を押し出すことにより、創口を通して眼内レンズ21を眼内(水晶体嚢)に挿入する。
【0046】
こうして眼内に挿入された眼内レンズ21は、時間の経過とともに元の形状に展開する。このとき、水晶体嚢に収容された眼内レンズ21の位置が不適切な場合は、前述した位置決め操作として、例えば、手術用のフック等を孔部26(係止部)に引っ掛けて、眼内レンズ21の位置を調整する。眼内レンズ21が元の形状に展開した状態では、レンズ部22から延びる各支持部23の固定部25が水晶体嚢に適度な圧力で接触し、この接触圧を利用してレンズ部22が適正な位置に支持される。
以上が、非縫着タイプとして眼内レンズ21を使用する場合の説明である。
【0047】
次に、眼内レンズ21を縫着タイプとして使用する場合について説明する。
まず、水晶体の摘出と創口の形成は、非縫着タイプの場合と同様に行われる。
【0048】
次に、縫着に用いる縫合糸を2箇所(2方向)から眼内に挿入するとともに、各々の縫合糸を創口から眼球の外に引き出す。
【0049】
次に、レンズ部22から延びる2つの支持部23のうち、一方の支持部23に対して一方の縫合糸を縛りつける。このとき、支持部23の先端側に設けた孔部26に縫合糸を通し、かつ当該縫合糸を固定部25に巻き付けるかたちで、支持部23に縫合糸を縛りつける。具体的には、カウヒッチと呼ばれる結び方で縫合糸を縛りつけるとよい。
【0050】
次に、眼内レンズ21を折り畳んで小さくし、その状態を維持しながら、先に縫合糸を縛りつけた方の支持部23を奥側、まだ縫合糸を縛りつけていない方の支持部23を手前側にして、眼球の創口から眼内レンズ21を挿入する。このとき、眼内レンズ21を眼内に完全に挿入せずに、縫合糸を縛りつけていない方の支持部23を創口の外側に出しておく。
【0051】
次に、上述のように創口の外側に出しておいた支持部23に上記同様の手法で縫合糸を縛りつけた後、鑷子等を使って眼内レンズ21全体を眼内に押し込む。
【0052】
次に、2つの支持部23につながっている2本の縫合糸を眼球の外側から軽く引っ張って眼内レンズ21を元の形状に展開させる。その後、各々の縫合糸を眼球の所定部位(例えば、水晶体嚢、毛様体、強膜等)に縫合する。これにより、各々の支持部23の固定部25が眼球に固定され、その状態でレンズ部22が適正な位置に支持される。
以上が、縫着タイプとして眼内レンズ21を使用する場合の説明である。
【0053】
(第1の実施の形態の効果)
本発明の第1の実施の形態に係る眼内レンズによれば、軟質材料からなるワンピースタイプの眼内レンズの利点を生かし、かつ眼内への縫着も可能となる。また、上述した支持部23の構成を採用した場合は、眼内でのレンズの安定性をさらに向上させることができる。このような効果は、後述する他の実施の形態に係る眼内レンズでも同様に得られる。さらに、本発明の第1の実施の形態によれば、次のような効果も得られる。
【0054】
すなわち、レンズ部22を支持部23で支持する眼内レンズ21の構成として、軟質材料からなる可撓部24と硬質材料からなる固定部25とによって支持部23を構成するとともに、支持部23の先端側に設けた孔部26を利用して縫合糸を固定部25に固定可能な構成を採用している。このため、眼内レンズ21を使用する場合は、縫着タイプ・非縫着タイプのどちらのタイプとしても適切に使用することが可能となる。具体的には、水晶体嚢が弱い患者や水晶体嚢が破れた患者には縫着タイプの眼内レンズとして使用し、それ以外の患者には非縫着タイプの眼内レンズとして使用するなど、患者の水晶体嚢の状態に応じて眼内レンズ21を使い分けることができる。したがって、汎用性の高い眼内レンズを提供することが可能となる。
【0055】
また、従来の縫着タイプの眼内レンズの場合は、レンズ全体が硬質材料で構成されているため、眼内レンズをそのまま挿入し得る大きさで創口を形成する必要がある。これに対して、本実施の形態に係る眼内レンズ21の場合は、これを小さく折り畳んで挿入することができる。このため、従来の縫着タイプ(折り畳み不可)の眼内レンズと比較して、創口の大きさを小さくすることができる。したがって、水晶体嚢が弱い患者や水晶体嚢が破れた患者に対しても、低侵襲で白内障手術等を行うことが可能となる。
【0056】
また、眼内レンズ21を縫着タイプとして使用する場合は、硬質材料からなる固定部25に縫合糸を巻き付けて固定することができる。このため、縫合糸を強く縛りつけても、支持部23がちぎれるおそれがない。また、縫合糸を孔部26に通して固定部25に縛りつける構成になっているため、手術後に縫合糸の位置ずれが生じるおそれもない。したがって、眼内レンズ21を眼内に挿入した後も、長期にわたってレンズ部22を適正な位置に支持することができる。
【0057】
<3.第2の実施の形態>
図4は本発明の第2の実施の形態に係る眼内レンズの構造を示すもので、(A)は平面図、(B)は側面図である。第2の実施の形態に係る眼内レンズ21は、上記第1の実施の形態と比較して、支持部23の構成だけが異なる。すなわち、上記第1の実施の形態においては、支持部23の先端側に孔部26を設け、この孔部26を利用して固定部25に縫合糸を固定し得る構成になっている。これに対して、第2の実施の形態においては、支持部23の先端側に溝部27を設け、この溝部27を利用して固定部25に縫合糸を固定し得る構成になっている。
【0058】
溝部27は、上述した係止部に相当するものであって、可撓部24と固定部25との境界に設けられている。また、溝部27は、可撓部24と固定部25との境界において、固定部25の一部を平面視略U字形に切り欠くように形成されている。そして、支持部23に縫合糸を縛りつける際には、溝部27の形成によって細くなった部分に縫合糸を巻き付けて固定し得るようになっている。
【0059】
なお、第2の実施の形態に係る眼内レンズの変形例として、図5に示すように、第1の溝部27に加えて、厚み方向に凹状にへこむ第2の溝部28を形成してもよい。この構成を採用した場合は、支持部23に縫合糸を縛りつけるときに、2つの溝部27,28を利用して縫合糸を固定部25に巻き付けて固定することができる。
【0060】
<4.第3の実施の形態>
図6は本発明の第3の実施の形態に係る眼内レンズの構造を示すもので、(A)は平面図、(B)は側面図である。第3の実施の形態に係る眼内レンズ21は、上記第1の実施の形態と比較して、支持部23の構成だけが異なる。すなわち、上記第1の実施の形態においては、支持部23の先端側に孔部26を設け、この孔部26を利用して固定部25に縫合糸を固定し得る構成になっている。これに対して、第3の実施の形態においては、支持部23の先端側に2つの小孔部29を設け、これらの小孔部29を利用して固定部25に縫合糸を巻き付けて固定し得る構成になっている。
【0061】
2つの小孔部29は、上述した係止部に相当するものであって、互いに近接する位置関係で固定部25に設けられている。また、2つの小孔部29は、支持部23の延出方向に位置をずらすかたちで一列に並べて設けられている。各々の小孔部29は、支持部23の延出方向と交差する方向(図例ではレンズ部22の径方向に沿う方向)に貫通する状態で設けられている。小孔部29の一方の開口はレンズ部22側を向いて配置され、同他方の開口は外向きに配置されている。そして、支持部23に縫合糸を縛りつける場合は、前述したカウヒッチの結び方ではなく、2つの小孔部29に縫合糸を順に通すようにして固定部25に縫合糸を巻き付け、固定し得るようになっている。
【0062】
上記第2、第3の実施の形態に係る眼内レンズ21においても、軟質材料からなる可撓部24と硬質材料からなる固定部25とによって支持部23を構成し、かつ支持部23の先端側に設けた溝部27,28や小孔部29を利用して縫合糸を固定部25に固定可能な構成を採用している。このため、上記第1の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0063】
<5.第4の実施の形態>
図8は本発明の第4の実施の形態に係る眼内レンズの構造を示すもので、(A)は平面図、(B)は側面図である。第4の実施の形態に係る眼内レンズ21は、上記第1の実施の形態と比較して、支持部23の構成だけが異なる。すなわち、上記第1の実施の形態においては、支持部23の先端側に孔部26を設け、この孔部26を利用して固定部25に縫合糸を固定し得る構成になっている。これに対して、第4の実施の形態においては、支持部23の先端側に、上記第1の実施の形態と同様の孔部26に加えて、切り欠き部31を設けた構成になっている。
【0064】
切り欠き部31は、支持部23の延出方向において孔部26よりも支持部23の根元に近い側で、かつレンズ部22に対向する側に設けられている。また、切り欠き部31は、可撓部24の一部を略U字形に切り欠いた状態で形成されている。このような切り欠き部31を支持部23に設けた場合は、当該切り欠き部31を設けない場合にくらべて、可撓部24がより柔軟に変形するようになる。このため、上述した毛様体溝に眼内レンズ21を収容して使用する場合に、この毛様体溝の孔形状に沿って支持部23全体を無理なく自然に曲げることができる。
【0065】
さらに、支持部23の孔部26に縫合糸を巻き付ける場合に、切り欠き部31の存在によって次のような効果が得られる。すなわち、図9(A)〜(D)に示すように、二重にした縫合糸32の端を孔部26に通してループ状に引き出した後、支持部23の先端部をループ部分にくぐらせて孔部26に縫合糸32を縛りつける場合に、縫合糸32のループ部分を切り欠き部31に巻き付けて固定することができる。このため、支持部23に切り欠き部31を設けない場合にくらべて、縫合糸32の位置が安定したものとなる。
【0066】
<6.変形例等>
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0067】
たとえば、眼内レンズ21が備える支持部23の個数は2つに限らず、3つ以上であってもよい。また、複数の支持部23を備える場合に、そのうちの一つだけに上記実施の形態と同様の構成(可撓部24と固定部25からなる構成)を採用してもよい。
【0068】
また、上記図6に例示する眼内レンズ21では、一つの支持部23(固定部25)につき、小孔部29を2つずつ設けているが、これに限らず、1つだけ設けてもよいし、3つ以上設けてもよい。また、1つの支持部23に小孔部29を3つ以上設けた場合は、そのうちの一つの小孔部29を利用して縫合糸を縛りつけてもよいし、相互に隣り合う2つの小孔部29を利用して縫合糸を縛りつけてもよい。
【0069】
また、レンズ部22を支持する支持部23の形態としては、前述したように一端部だけがレンズ部22につながる形態に限らず、両端部がレンズ部22につながるように閉ループを形成し、その中間部を固定部25とした形態であってもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…眼球、8…水晶体、21…眼内レンズ、22…レンズ部、23…支持部、24…可撓部、25…固定部、26…孔部、27,28…溝部、29…小孔部、31…切り欠き部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ機能を有するレンズ部と、このレンズ部を支持する支持部とを備える眼内レンズであって、
前記支持部は、前記レンズ部の外周部から外側に延出する状態で形成されるとともに、前記レンズ部の径方向に弾性変形可能な可撓部と当該可撓部よりも硬質の材料からなる固定部とを有し、
前記固定部には、前記支持部を眼球に固定するときに用いる縫合糸の巻き付けを許容し、かつ巻き付けた縫合糸の位置ずれを防止する係止部が設けられている
ことを特徴とする眼内レンズ。
【請求項2】
前記支持部は、
前記レンズ部の中心から直径11mmの第1仮想円に対して、前記可撓部を前記レンズ部に近づく方向に弾性変形させて前記支持部の最外部を前記第1仮想円に接するように配置したときに、前記支持部の延出方向において当該支持部の根元に最も近い前記固定部の端部が、前記第1仮想円の直径よりも1.0mm小さい直径の第2仮想円と前記第1仮想円との間に位置するように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の眼内レンズ。
【請求項3】
前記係止部は、前記支持部の厚み方向に貫通する状態で前記可撓部と前記固定部との境界に設けられた孔部からなる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の眼内レンズ。
【請求項4】
前記係止部は、前記固定部に設けられた溝部からなる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の眼内レンズ。
【請求項5】
前記係止部は、前記支持部の延出方向と交差する方向に貫通する状態で前記固定部に設けられた孔部からなる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の眼内レンズ。
【請求項6】
前記可撓部は、前記支持部の延出方向において前記係止部よりも当該支持部の根元に近い側で、かつ前記レンズ部に対向する側に、切り欠き部を有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の眼内レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−22273(P2013−22273A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160396(P2011−160396)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第34回日本眼科手術学会総会 講演抄録集
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】