説明

眼底撮影装置

【課題】 被検者にフォーカス指標を認識させずフォーカス合わせを行える眼底撮影装置を提供できる。
【解決手段】
眼底撮影装置は、眼底を赤外光で照明する赤外光源を備える照明光学系と、赤外域に感度を有する撮像素子と、眼底に可視の視標を呈示する視標呈示部を備える視標呈示光学系と、照明光学系の赤外光の照射光路中で,眼に向かう赤外光の一部を遮光することで眼底に所定形状のフォーカス視標を形成するフォーカスチャートと、フォーカスチャートと連動して光軸に移動されるフォーカシングレンズと、眼底に投影されたフォーカス指標の輝度情報に基づきフォーカス合わせを行うためのフォーカス調節手段と、フォーカス調節手段によるフォーカス合わせ時に、眼底に投影されるフォーカス指標を被検者に知覚させないために眼底上のフォーカス指標の形成位置に可視光による照明光を重畳させる可視光照明手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者眼の眼底の観察及び撮影をする眼底撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の眼底撮影装置は、液晶ディスプレイ等の視標呈示部を用いて可視光にて固視標などの視標を被検者眼に呈示させる。また、赤外光で被検者眼の眼底を照明し、赤外域に感度を有する撮像素子にて眼底を撮影することで眼底観察が行われている。また、眼底と撮影装置とのフォーカス合わせを行うために、上記の赤外光源からの赤外光の一部を遮光することで形成されるフォーカス指標を用いるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/062527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、赤外光源から照射される赤外光の中心波長が900nmより長い場合、撮像素子の受光感度が低く、精度の良い検出が行い難い。一方、700nm以上900nm以下程度の近赤外域の光を用いる場合、必要とされる撮像素子の受光感度が得られるものの、被検者によっては近赤外域の照明光が知覚されてしまい、その結果フォーカス指標が被検者に認識されてしまう場合がある。このように被検者にフォーカス視標が認識されてしまうと眼の調節力が働いてしまい、適正な状態で眼底撮影及び各種検査が行い難くなってしまう可能性がある。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、被検者にフォーカス指標を認識されることなく適正な状態で眼底撮影及び各種検査を行うことができる眼底撮影装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0007】
(1) 被検者眼の眼底を赤外光で照明するための赤外光源を備える照明光学系と、前記赤外光で照明された前記眼底を撮影するために少なくとも赤外域に感度を有する撮像素子と、前記眼底に可視の視標を呈示するための視標呈示部を備える視標呈示光学系と、前記照明光学系の前記赤外光の照射光路中であって前記眼底と共役位置に置かれ,被検者眼に向かう前記赤外光の一部を遮光することにより前記眼底に所定の形状のフォーカス視標を形成するフォーカスチャートと、該フォーカスチャートと連動して光軸方向に移動可能に設けられたフォーカシングレンズとを有し、前記フォーカスチャートにて前記眼底に投影される前記フォーカス指標の輝度情報に基づき前記フォーカシングレンズを移動させてフォーカス合わせを行うためのフォーカス調節手段と、を備える眼底撮影装置において、前記赤外光源としての中心波長が700nm以上900nm以下の近赤外域の光を発する光源を用いるものとし、さらに、前記フォーカス調節手段によるフォーカス合わせ時に、前記眼底に投影される前記フォーカス指標を被検者に知覚させないようにするために、少なくとも前記眼底上における前記フォーカス指標の形成位置に可視光による照明光を重畳させる可視光照明手段を備えることを特徴とする。
(2) (1)の眼底撮影装置において、前記フォーカス合わせ時に点灯される前記可視光照明手段の光量は、前記被検者眼に所定の縮瞳を生じさせない光量であることを特徴とする。
(3) (2)の眼底撮影装置において、前記フォーカスチャートは、前記可視光を前記フォーカスチャート全域において透過させ、前記赤外光を前記フォーカス指標の形成領域で遮光すると共にそれ以外の領域で透過させる特性を有することを特徴とする。
(4) (3)の眼底撮影装置は、前記眼底から反射された前記赤外光及び前記可視光のうち、前記赤外光のみを前記撮像素子に導くための光束制限部材を備え、該光束制限部材により前記撮像素子に導かれた前記赤外光を受光することで前記フォーカス合わせを行うことを特徴とする。
(5) (4)の眼底撮影装置において、前記可視光照明手段は、前記視標呈示部であることを特徴とする。
(6) (5)の眼底撮影装置において、前記視標呈示部は、前記視標として被検者眼の眼底に視野検査を行うための検査視標を投影するための部材であることを特徴とする。
(7) (6)の眼底撮影装置において、前記視標呈示部は液晶ディスプレイであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被検者にフォーカス指標を認識されることなく適正な状態で眼底撮影及び各種検査を行える眼底撮影装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では被検者眼の視野(視覚の感度分布)を測定する機能と、眼底を観察・撮影する機能とを備える眼底撮影装置を例に挙げて説明する。
【0010】
図1は眼底撮影装置の外観構成図である。眼底撮影装置1は、基台1aと、基台1aに対して水平方向(XZ方向)移動可能に設けられた移動台2と、移動台2に対して三次元方向(XYZ方向)に移動可能に設けられた撮影部3と、被検者の顔を支持するために基台1aに設けられた顔支持ユニッと5とを備える。撮影部3には後述する光学系が収納されており、移動台2に設けられた電動駆動部6によって移動される。
【0011】
撮影部3の検者側には、被検者眼Eに対して撮影部3を相対移動させるためのジョイスティック4、コントロール部7a、モニタ8が設けられている。ジョイスティック4は、移動台2と撮影部3の位置調節に用いられる。ジョイスティック4が傾倒されると図示を略す摺動機構によって移動台2が基台1a上を水平方向に摺動する。また、ジョイスティック4の回転ノブ(図番号を略す)が回転されると、駆動部6の駆動によって撮影部3が垂直方向に移動される。コントロール部7aは各種検査条件などの入力手段として用いられる。コントロール部7aには、マウス、キーボード、タッチパネル等の周知の構成が使用される。モニタ8には、各種検査画面が表示されると共に、撮影部3で撮影された眼底像などが表示される。撮影部3の被検者側には、撮影窓9と応答ボタン7bが設けられている。撮影窓9は検査時に被検者が装置内部を覗き込むために用いられる。応答ボタン7bは視野検査の際に被検者が応答信号を入力するために用いられる。
【0012】
次に、図2を用いて眼底撮影装置1の光学系及び制御系を説明する。眼底を照明するための眼底照明光学系10は、赤外光を発する光源11、眼底撮影時に可視のフラッシュ光を発する光源12、コリメータレンズ13、全反射ミラー14、フォーカスチャート15、集光レンズ16、リング状の開口を有するリングスリット17、リレーレンズ18、穴あきミラー19、対物レンズ21を備える。なお、本実施形態で用いられる光源11は中心波長が840nmの近赤外の光を発する光源としているが、これに限るものではない。700nm以上900nm以下の近赤外域の光を発する光源であればよい。なお、被検者に赤外光知覚させないためには、できるだけ900nmに近い(波長が長い)赤外光を発する光源を使用することが好ましい。
【0013】
リングスリット17はリレーレンズ18を介して眼Eの瞳と共役位置に置かれる。フォーカスチャート15は、可視光及び赤外光を透過するフィルタ15aと、可視光を透過し赤外光を遮光する特性を有するコーティング処理でフィルタ15a上に形成されるフォーカス指標15bとから構成される。図3はフォーカスチャートの例である。ここでは、フィルタ15a上にリング状のフォーカス視標15bが形成されている。なお、本実施形態ではリング状のフォーカス視標15bを用いるものとしているが、これに限るものではなく、フォーカス指標として使用可能な形状であればよい。
【0014】
眼底の観察時、光源11からの赤外光はコリメータレンズ13、全反射ミラー14を経てフォーカスチャート15を背後から照明する。フォーカス視標15bの形成位置を除くフィルタ15aを通過した赤外光は、集光レンズ16から対物レンズ21を経て眼Eの瞳にて結像し、これにより眼底が照明される。一方、フォーカス視標15bの形成位置で赤外光の一部が遮光されることで、眼底上に暗い輝度のフォーカス視標15bが投影される。なお、フォーカス指標15bは血管の太さとよりも十分に太い幅のラインにて形成されることによって、血管等と好適に区別される。
【0015】
また、眼底の撮影時に光源12の点灯により照射された可視光は、上記の赤外光と同じ光路を辿り眼底を照明する。なお、フィルタ15a及びフォーカス視標15bは可視光を透過する為、リング状のフォーカス指標が形成されることなく、光源12から照射された可視光によって眼底が一様に照明される。また、フォーカスチャート15は、駆動手段24aにてフォーカシングレンズ24と共に光軸上を移動される。これにより、眼底に影として投影されたフォーカス指標を用いたフォーカス合わせが行われる。
【0016】
眼底観察・撮影光学系20は、対物レンズ21、撮影絞り23、フォーカシングレンズ24、リレーレンズ25、全反射ミラー26、リレーレンズ27、光学分岐部材としてのビームスプリッタ33a、結像レンズ28、二次元撮像素子29を備える。絞り23は対物レンズ21を介して瞳と共役置に置かれる。フォーカシングレンズ24は駆動手段24aによってフォーカシングチャート15と共に光軸L2に沿って移動される。二次元撮像素子29は眼底と共役位置に置かれ、赤外光から可視光までの波長帯域に感度を有する。光束制限部材としてのビームスプリッタ33aは、赤外光(光源11、後述の前眼部照明光学系30の赤外光源35a、35bからの光束)を反射し、可視光(光源12、後述する視標呈示光学系40からの光束)を透過する特性を有する。
【0017】
これにより、眼底の観察時には、眼底からの赤外光及び可視光による反射光が、対物レンズ21からリレーレンズ27を経て、ビームスプリッタ33aに入射されることで、可視光が透過され赤外光が反射される。これにより、撮像素子29に受光された赤外光によってフォーカス指標を用いたフォーカス合わせが好適に行われる。
【0018】
なお、ビームスプリッタ33aは、眼底の撮影時には、赤外光透過・可視光反射の特性を有するビームスプリッタ33bに切換えられる。これにより、可視光で照明された眼底からの反射光が、対物レンズ21から結像レンズ18までを経て撮像素子29で好適に受光されるようになる。
【0019】
なお、上記では一つの撮像素子29を用いて赤外光による眼底観察と、可視光による眼底撮影の両方を行える構成とした。これ以外にも、赤外光の波長帯域に感度を有する二次元撮像素子と、可視光の波長帯域に感度を有する二次元撮像素子とを別々に設け、赤外光による眼底観察と可視光による眼底撮影とが異なる撮像素子で行われるようにしても良い。
【0020】
また、上記では、眼底からの赤外光及び可視光による反射光をビームスプリッタにて分岐することにより、撮像素子29に赤外光を導くようにしている。これ以外にも、眼底の観察時に、赤外光を透過し可視光を遮光する特性を有するフィルタを眼底観察・撮影光学系20の光路上に設けることによって、撮像素子29に赤外光が好適に導かれるようにしてもよい。一方、このようなフィルタを設ける場合には、眼底の撮影時には、周知の駆動機構を用いてフィルタを光路上から退避させる。これにより可視光が撮像素子29で受光されるようになり眼底が撮影される。
【0021】
前眼部観察光学系30は、赤外光を発する光源35a、35bと、対物レンズ21、前眼部観察補助レンズ22を備え、眼底観察・撮影光学系20の穴あきミラー19から撮像素子29までの光学系を共有する。赤外光源35a,35bは撮影光軸L1を挟んで対称的に配置された一対の矩形状のLEDで構成される。眼Eの角膜に向けて所定の投影角度で発散光束による有限遠の指標(被検者眼に対して垂直方向に延びる矩形状の指標)が投影されることで、眼Eと撮影部3との三次元方向のアライメント状態が示される。また、前眼部全体が照明される。なお、前眼部観察補助レンズ22は駆動手段22aの駆動によって光路に対して挿脱可能に配置される。前眼部観察光学系30による前眼部像の観察時にはモータ等からなる駆動手段22aの駆動によって前眼部観察補助レンズ22が光軸L2上に置かれ、眼Eの前眼部と撮像素子29とが略共役関係とされる。一方、眼底観察・撮影時には、前眼部観察補助レンズ22は光路から外されることで、眼底と撮像素子29とが略共役関係とされる。
【0022】
視標呈示光学系40は、眼底観察・撮影光学系20の対物レンズ21からリレーレンズ27までを共有し、更に結像レンズ42、可視光にて視標を形成する視標呈示部である周知のLCDディスプレイ(以下、ディスプレイと記す)41を備える。ディスプレイ41は眼底と共役位置に置かれ、後述する制御部50によって固視標や視野検査視標などの各種視標の表示状態が制御される。また、眼底のフォーカス合わせ時に、ディスプレイ41の所定領域が可視光で点灯されることで、眼底に投影されるフォーカス指標に可視光を重畳させフォーカス指標を被検者に知覚させないようにする。ディスプレイ41に表示された各種視標は、結像レンズ42、レンズ27、ミラー26、レンズ25、フォーカシングレンズ24、穴あきミラー19を通過した後、対物レンズ21を経て眼底に投影される。
【0023】
なお、本実施形態では、リレーレンズ25及び27、結像レンズ42により両側テレセントリックが構成される。これにより、ディスプレイ41から照射された光束が被検者眼の眼底に均一に投影されるようになっている。
【0024】
なお、視標呈示部としては、上述のディスプレイ以外にも、可視光にて眼底に視標を投影する周知の構成のものが使用される。例えば、可視のレーザ光源から照射されるレーザ光を眼底上で二次元的に走査することで各種視標を形成するプロジェクター等が用いられても良い。
【0025】
また、上記の説明では、各種視標を呈示するためのディスプレイを、フォーカスチャートの影を被検者に知覚させないための可視光照明部として用いているが、これに限られるものでは無い。例えば、眼底観察・撮影光学系の瞳共役面に十分な発散角の可視の点光源を設け、眼底のフォーカス合わせ時に眼底上に投影された赤外光の影により形成されるフォーカス指標を照明するようにしても良い。これ以外にもフォーカスチャートを用いて投影されたフォーカス指標が被検者に知覚されないように、フォーカス指標に可視光を重畳することができる可視光照明部が、眼底観察・撮影光学系の光路中に設けられれば良い。
【0026】
制御部50は、眼底撮影装置1全体の動作制御を行う。例えば、制御部50は、前眼部の観察時に、撮像素子29で撮像された前眼部画像からアライメント指標を検出処理する。また、眼底の観察時に、眼底に投影されたフォーカス指標から眼底のフォーカス状態を検出し、駆動手段24aの駆動でフォーカシングレンズ24を光軸L2上で移動させる。これにより撮像素子29で撮像された眼底像のフォーカスを調節する。また、制御部50には記憶手段51としてのメモリ51が接続されている。メモリ51には各種検査条件が予め記憶されていると共に、各種検査結果の情報が記憶される。
【0027】
ところで、以上のような構成の眼底撮影装置1において、検出精度の観点から赤外光源11は周知の撮像素子29の赤外感度特性に合わせ、可能な限り撮像素子29における受光感度が高いとされる赤外域(近赤外)の光を発するものが選択されることが好ましいとされる。しかし、赤外光源11から照射される赤外光の波長によっては、被検者に知覚されてしまう場合があり、その結果フォーカス指標が認識される場合がある。このような場合、被検者がフォーカス指標を見てしまうことで眼の調節力が働いてしまう。このように眼に調節力が働いている状態は変動し易く(不安定であり)、検査を正確に行えなくなる可能性が高くなる。また、眼底撮影を行う場合にも撮影画像の精度が低下する可能性が高くなる。
【0028】
そこで、本発明では、撮像素子の受光感度が好適に得られるような赤外域の波長(700nm以上900nm以下)の光を中心波長として発する光源を使用するとともに、眼底に影としてのフォーカス指標を投影する際に、視標呈示装置40のディスプレイ41全体(少なくともフォーカス指標の投影領域)において可視光にて一様に点灯させ、被検者にフォーカス指標を認識させないようにする。さらに、このような可視光の照射を固視標や視野検査用の視標を呈示する視標呈示部(本実施形態ではLCDディスプレイ)にて行うことにより、従来技術の眼科撮影装置に新たな構成を追加することなく、より好適に眼底のフォーカス合わせを行い、各種撮影及び検査をより正確に行えるようにする。
【0029】
なお、このときのディスプレイ41の可視光は、被検者眼に所定の縮瞳を生じさせない光量であって、影として投影されるフォーカス指標が認識されない程度の光量に設定される。なお、本実施形態で言う所定の縮瞳とは、被検者眼の瞳孔に入射する光量が不足することで所定の精度の眼底画像が得られなくなる状態、所定の検査視標が眼底に投影できなくなる状態、極端にフレアが発生しやすくなる状態等、眼底撮影装置1を用いた各種撮影及び検査が所定の精度で行えなくなる程度に瞳孔が縮瞳してしまうことを示す。
【0030】
なお、本実施形態ではディスプレイ41全体を一様に点灯させているが、眼底に投影されたフォーカス指標が被検者に認識されないように、フォーカス指標に可視光を重畳して照射すれば良く、例えば、眼底のフォーカス指標の投影位置に対応するディスプレイ41の所定領域のみを可視光にて一様に点灯しても良い。また、フォーカス指標の投影位置に対応するディスプレイ41の所定領域のみを比較的大きい光量で点灯させ、その周囲の光量を減少させるようにディスプレイ41を点灯させても良い。ただし、この場合にはディスプレイ41全体から照射される可視光によって被検者眼に所定の縮瞳を生じさせないようにする。
【0031】
次に、以上のような構成を備える眼底撮影装置の動作を説明する。なお、ここでは眼底のフォーカス合わせを行った後、被検者の応答による視野検査を行う例を説明する。まず、被検者の顔を装置に近づけ、撮影窓9を介して装置内部を覗き込ませる。これにより撮像素子29によって眼Eが撮影されるようになる。まず、前眼部像を用いた装置と眼Eとの位置合わせ(アライメント)が行われる。
【0032】
制御部50は、駆動手段22aの駆動により前眼部観察補助レンズ22を光軸L2上に位置させると共に、光源35a、35bを点灯させる。これにより、眼Eの前眼部が照明されて角膜上に矩形状のアライメント指標が投影されるようになる。また、制御部50は、光軸L2上に対応するディスプレイ41の中心位置を点灯させる(ここでは十字型に点灯されるとする)。ディスプレイ41からの光束は、結像レンズ42、ビームスプリッタ33、リレーレンズ27から対物レンズ21を経て眼底に投影される。検者は被検者に固視標を見るように指示する。
【0033】
図4にモニタ8に表示される前眼部像Aの例を示す。撮像素子29で撮像された前眼部像A上に光源35a,35bにより形成される矩形状のアライメント指標M1、M2が現れると、制御部50は、アライメント指標M1、M2の受光結果に基づき撮影部3と眼Eとの位置合わせ(アライメント)を行う。制御部50は、アライメント指標M1、M2の中間位置と、前眼部像Aから求められる瞳孔中心とが一致するように、駆動部6の駆動を制御して、撮影部3を眼Eに対して上下左右(XY)方向に移動させる。また、制御部50は、アライメント指標M1、M2の間隔が所定の間隔となるように、撮影部3を眼Eに対して前後(Z)方向に移動させて位置合わせを行う。
【0034】
三次元方向のアライメントが許容範囲に入ると、制御部50はアライメントの完了を判断する。そして、眼底のフォーカス合わせを開始する。制御部50は光源35a,35bを消灯させ、駆動手段22aの駆動で前眼部観察補助レンズ22を光路L2上から退避させる。そして、赤外光源11を点灯させる。これにより、赤外光がフォーカスチャート15を通過して眼底に投影されるようになる。一方、赤外光の一部がフォーカス指標15bの位置で遮光されることで、眼底には影としてのリング状のフォーカス指標が形成されるようになる。一方、制御部50は、眼底に投影されたフォーカス指標が被検者に知覚されないようにする為、ディスプレイ41全体を一様の光量で点灯させて眼底に投影されたフォーカス指標に可視光を重畳させるようにする。なお、上述したようにディスプレイ41の光量は、被検者に所定の縮瞳を生じさせない光量であって、影として投影されるフォーカス指標が被検者に認識されない光量とされる。これにより、眼底(網膜)に可視光により刺激が与えられることによる縮瞳を抑えつつ、フォーカス指標が被検者に認識させないようにする。一方、制御部50は、被検者眼に固視標を呈示するため、ディスプレイ41の中心(光軸L2に対応する位置)を、被検者が認識可能な光量で点灯させる。これにより、被検者はディスプレイ41に呈示された固視標のみを認識するようになる。
【0035】
眼底からの反射光(赤外光及び反射光)は、対物レンズ21からリレーレンズ27を経てビームスプリッタ33aに入射される。ビームスプリッタ33aは可視光透過・赤外光反射の特性を有するので、眼底からの反射光のうち可視光成分が透過されると共に、赤外光成分のみが反射されて撮像素子29で撮像される。これにより、撮像素子29で受光された赤外光によって眼底観察及びフォーカス合わせが行われるようになる。
【0036】
図5にモニタ8に表示される眼底像の例を示す。ここでは、モニタ8にフォーカス視標R、眼底像F、固視標Tが現れた状態が示されている。制御部50は、撮像素子29で検出されたフォーカス指標Rの受光状態から、フォーカス指標Rのピントが合うように(指標Rの幅が最も狭くなるように)、駆動手段24aの制御にてフォーカシングレンズ24を移動させる。
【0037】
なお、フォーカス合わせの際に、フォーカス指標Rが被検者に知覚される状態であると、被検者がフォーカス指標Rを認識することで、眼の調節力が働いた状態でのフォーカス合わせが行われるようになり、正確な眼底撮影及び各種検査が行えなくなる。一方、本実施形態では、ディスプレイ41の点灯によりフォーカス指標Rに可視光が重畳される。これにより、フォーカス指標Rは被検者に知覚されず、精度良くフォーカス合わせが行える。
【0038】
次に、視野検査を行うために、眼底像Fが鮮明に写った状態で眼の回旋により生じる眼底上での視標の呈示位置のずれを補正するトラッキングの設定を行う。これにより、検査中に眼が回旋したとしても、眼底の各部位での視機能を正しく記録できるようになる。
【0039】
なお、以上のようなアライメント動作、フォーカス合わせ、トラッキングについての詳細な説明は国際公開2008/062527号公報を参照されたい。
【0040】
次に、制御部50は、図示を略す駆動手段を用いてフォーカスチャートを光路から退避させ、光源11からの赤外光にて眼底を一様に照明する。つまり、視野検査時にはフォーカス合わせは行われないため、モニタ8にはフォーカス指標を形成せずに眼底像全体を表示させる。また、ディスプレイ41全体が視野計側の基準となる所定の輝度値で点灯された状態で、固視標を点灯させる。そして、制御部50はメモリ51に予め記憶されている視野計測プログラムに従い、ディスプレイ41の駆動制御で検査視標の呈示位置を順次切り変えると共に、輝度値を変更する。なお、検査視標の呈示位置及び輝度値は検者のマニュアル操作で設定されてもよい。
【0041】
被検者は固視を維持した状態で、検査視標を認識したら応答ボタン7bを押す。制御部50は応答ボタン7bからの入力信号に基づき、そのときの検査視標の輝度値を、計測点での被検者の認識可能な感度の応答情報としてメモリ51に記憶させる。一方、呈示視標に対して被検者の応答が無い場合には、そのときの検査視標の輝度値を計測点での認識不能な感度の応答情報としてメモリ51に記憶させる。
【0042】
すべての計測点での感度の計測が終了すると、制御部50は、図6に示すように全計測点に対する感度の分布状態を眼底像に対応させてモニタ8に表示させる。なお、視野検査結果は、ディスプレイ41の背景輝度と呈示視標の輝度との差分に基づき求められる。例えば、眼底の各測定部位での網膜感度Sは、例えば、周知の演算式(1)に基づき求めることができる。
【0043】
【数1】

なお、式(1)において、Lmaxはディスプレイの最大輝度、Ltは被検者が認識可能な輝度値(閾値)、Lbはディスプレイの背景輝度である。
以上のようにすることで、眼底撮影装置と眼Eとのフォーカス合わせをより簡単な構成で精度良く行えるようになる。これにより、鮮明な眼底撮影像を好適に得ることが出来ると共に、各種検査をより正確に行えるようになる。
【0044】
なお、本発明は上記の構成に限られるものではない。赤外光源からの赤外光の一部を遮光することで形成される影としてのフォーカス指標を眼底上に投影するフォーカス指標呈示光学系と、眼底に可視光を照明する可視光照明部とを備える眼底撮影装置に本発明の構成を適用可能である。
【0045】
例えば、眼底撮影光学系で観察された眼底像を観察しながら治療用のレーザ光を眼底に照射することで光凝固による治療を行うレーザ治療装置と眼底撮影装置との複合機において本発明の構成を適用可能である。また、照明光となるレーザ光を眼底の観察面に集光させた状態で、眼底に対してレーザ光を二次元的に走査することで、眼底像を細胞レベルで観察できる撮影装置と上述したような眼底撮影装置との複合機において本発明の構成が適用可能である。更には、スペクトル干渉を用いた光コヒーレンストモグラフィー(OCT)にて被検者眼の光学断面像撮影を行う撮影装置と眼底撮影装置との複合機において本発明の構成が適用されることで、より簡単な構成で精度良くフォーカス合わせを行えるようになり、眼底観察及び撮影の他、各種検査を好適に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】眼底撮影装置の外観構成図である。
【図2】眼底撮影装置の光学系及び制御系の説明図である。
【図3】フォーカスチャートの例である。
【図4】モニタに表示される前眼部像の例である。
【図5】モニタに表示される眼底像の例である。
【図6】モニタに表示される網膜感度の測定結果の例である。
【符号の説明】
【0047】
1 眼底撮影装置
10 眼底照明光学系
11 赤外光源
15 フォーカスチャート
24 フォーカシングレンズ
24a 駆動手段
33a、33b ビームスプリッタ
40 視標呈示光学系
41 LCDディスプレイ
50 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者眼の眼底を赤外光で照明するための赤外光源を備える照明光学系と、
前記赤外光で照明された前記眼底を撮影するために少なくとも赤外域に感度を有する撮像素子と、
前記眼底に可視の視標を呈示するための視標呈示部を備える視標呈示光学系と、
前記照明光学系の前記赤外光の照射光路中であって前記眼底と共役位置に置かれ,被検者眼に向かう前記赤外光の一部を遮光することにより前記眼底に所定の形状のフォーカス視標を形成するフォーカスチャートと、該フォーカスチャートと連動して光軸方向に移動可能に設けられたフォーカシングレンズとを有し、前記フォーカスチャートにて前記眼底に投影される前記フォーカス指標の輝度情報に基づき前記フォーカシングレンズを移動させてフォーカス合わせを行うためのフォーカス調節手段と、
を備える眼底撮影装置において、
前記赤外光源としての中心波長が700nm以上900nm以下の近赤外域の光を発する光源を用いるものとし、
さらに、前記フォーカス調節手段によるフォーカス合わせ時に、前記眼底に投影される前記フォーカス指標を被検者に知覚させないようにするために、少なくとも前記眼底上における前記フォーカス指標の形成位置に可視光による照明光を重畳させる可視光照明手段を備えることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項2】
請求項1の眼底撮影装置において、
前記フォーカス合わせ時に点灯される前記可視光照明手段の光量は、前記被検者眼に所定の縮瞳を生じさせない光量であることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項3】
請求項2の眼底撮影装置において、
前記フォーカスチャートは、前記可視光を前記フォーカスチャート全域において透過させ、前記赤外光を前記フォーカス指標の形成領域で遮光すると共にそれ以外の領域で透過させる特性を有することを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項4】
請求項3の眼底撮影装置は、
前記眼底から反射された前記赤外光及び前記可視光のうち、前記赤外光のみを前記撮像素子に導くための光束制限部材を備え、該光束制限部材により前記撮像素子に導かれた前記赤外光を受光することで前記フォーカス合わせを行うことを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項5】
請求項4の眼底撮影装置において、
前記可視光照明手段は、前記視標呈示部であることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項6】
請求項5の眼底撮影装置において、
前記視標呈示部は、前記視標として被検者眼の眼底に視野検査を行うための検査視標を投影するための部材であることを特徴とする眼底撮影装置。
【請求項7】
請求項6の眼底撮影装置において、
前記視標呈示部は液晶ディスプレイであることを特徴とする眼底撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−27672(P2013−27672A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167626(P2011−167626)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)