説明

眼底画像解析方法およびその装置とプログラム

【課題】 眼底画像から血管領域を抽出し、血管分岐、交叉などの構造、血管径など血管に関する情報を解析する。
【解決手段】 モノクロ画像作成手段10で、カラーデジタル眼底画像S10からモノクロ眼底画像S20を作成し、血管領域抽出手段20でモノクロ眼底画像S20から血管領域のみを抽出した二値化血管画像S30を作成し、血管構造抽出手段30で二値化血管画像S30を細線化した細線化血管画像S40を作成し、血管径計測手段40で二値化血管画像S30と細線化血管画像S40を併用して血管径を計算した血管径つき細線化血管画像S50を作成し、血管交叉部抽出手段50で細線化血管画像S40もしくは血管径つき細線化血管画像S50から血管の交叉部、分岐部、端点を抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼底画像から血管領域を抽出し血管に関する情報を解析する方法、およびその装置とプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
眼底検査時に取得される眼底写真から眼底の正常/異常の判定、異常部の発見が可能である。最近では、デジタルカメラの性能向上により、眼底写真も電子データであるデジタル画像として取得され、従来、紙媒体の写真上で行われてきた眼底診断もコンピュータ上の画像処理で行うことが可能になった。眼底画像において、網膜血管の解析は交叉などの血管構造や血管径を取得するための重要な項目の一つである。
【0003】
デジタル化された眼底画像における既存の血管解析は、交叉部を抽出するものとしては、特許文献1やそこに引用されている特許文献2、特許文献3、特許文献4等が、血管径を計測するものとしては、特許文献5やそこに引用されている特許文献6、特許文献7等がある。
【0004】
交叉部の抽出に関しては、二値化した血管領域の細線化による中心線抽出を行う方法が特許文献8及び特許文献9に、円形、正方形状のフィルタを用いる方法が、特許文献10に、注目画素の等距離上の各画素における角度−距離曲線の極大値の個数を用いる方法が、特許文献11に記述されている。
【0005】
血管径に関しては、いずれも細線化により中心線を抽出後、中心に直交する線と血管との交差点距離により血管径を計算する方法が記述されている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−97633号公報
【特許文献2】特許第3377446号公報
【特許文献3】特開平10−151114号公報
【特許文献4】特開2001−70247号公報
【特許文献5】特開2007−97740号公報
【特許文献6】特開平10−71125号公報
【特許文献7】特開平10−243924号公報
【特許文献8】特許3377446号公報
【特許文献9】特開平10−151114号公報
【特許文献10】特開2001−70247号公報
【特許文献11】特開2007−210655号公報
【非特許文献1】Frank Y. Shih and Yi-Ta Wu, “Fast Euclidean distance transformation in two scans using a 3 x 3 neighborhood”, Computer Vision and Image Understanding, Vol.93, No.2, pp.195-205, Feb. 2004.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの既存の方法にはいくつかの問題点がある。交叉部の抽出において、細線化による中心線を抽出する特許文献2及び特許文献9は、特許文献1に指摘があるように本来”X”のように観察される交叉部が細線化により、図10に示すような2つの分岐部に分解された”>−<”型としてみなされ、交叉部として検出されない問題がある。円形、正方形状のフィルタを用いる特許文献10も、特許文献1に指摘があるように診断上重要な交叉部で対象となる血管の配置状況によっては抽出されないケースがある。
【0008】
特許文献1は前述の問題は解決しているが、この方式は交叉部、分岐部以外も含めた血管領域全体に対して、周囲の画素の探査と交叉部、分岐部、それ以外の判定を行う必要があるため、非常に計算量が多くなる。さらに、この方法でも誤認識が生じる場合があるため、上記にあげた問題点解決のために行うには効率が悪い。
【0009】
血管径の計測に関しては、細線化により中心線の抽出後、中心線の直交線を逐次計算する方法は計算量が多くなる。直交線は中心線の状態に大きく影響されるため、中心線の状態によっては、中心線抽出精度と正方格子状にならぶデジタル画像の画素配列によって精度面の誤差が大きくなることがある。
【0010】
また、いずれの方法も正確に血管領域が抽出されていることが前提になっているが、眼底画像は光の当たり方によりグラデーションがかかったような画像であるために、安定した血管領域を抽出するためには局所的な画像処理が必要になる。
【0011】
そこで、本発明の目的の一つは、眼底画像から血管領域を抽出することにある。
【0012】
また、本発明の目的のもう一つは、眼底画像から血管の分岐点、交叉点を抽出することにある。
【0013】
さらに、本発明のもう一つの目的は、眼底画像から血管の太さを計測することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、以下によって、達成することができる。
【0015】
本発明によれば、眼底画像解析方法であって、カラー眼底画像からモノクロ眼底画像を作成するモノクロ画像作成段階と、前記モノクロ眼底画像から血管領域のみを抽出した二値化血管画像を作成する血管領域抽出段階と、前記二値化血管画像を細線化した細線化血管画像を作成する血管構造抽出段階と、前記二値化血管画像と前記細線化画像から血管径を計算し、前記細線化画像に血管径を与えた血管径つき細線化血管画像を作成する血管径計測段階と、前記細線化血管画像から血管の交叉部を抽出する血管交叉部抽出段階とを備えることを特徴とする眼底画像解析方法が得られる。
【0016】
ここで、前記眼底画像解析方法において、前記モノクロ画像作成段階で色相と緑成分のモノクロ画像を作成し、前記血管領域抽出段階でそれぞれの抽出結果を併用することが好ましい。
【0017】
また、前記眼底画像解析方法において、前記血管領域抽出段階での二値化の閾値の決定に画像を小領域に分割し各領域での統計的な閾値を決定し、それらの内挿補間により各画素の閾値を計算することが好ましい。
【0018】
また、前記眼底画像解析方法において、前記血管径計測段階で距離変換画像を作成し細線化画像と併用することで血管径を計算することが好ましい。
【0019】
また、前記血管交叉部抽出段階で血管径と細線化血管画像から血管の交叉部を抽出することが好ましい。
【0020】
また、本発明によれば、前記いずれかの眼底画像解析方法を行うように構成したことを特徴とする眼底画像解析装置が得られる。
【0021】
また、本発明によれば、カラー眼底画像からモノクロ眼底画像を作成するモノクロ画像作成手段と、前記モノクロ眼底画像から血管領域のみを抽出した二値化血管画像を作成する血管領域抽出手段と、前記二値化血管画像を細線化した細線化血管画像を作成する血管構造抽出手段と、前記二値化血管画像と前記細線化画像から血管径を計算し、前記細線化画像に血管径を与えた血管径つき細線化血管画像を作成する血管径計測手段と、前記細線化血管画像から血管の交叉部を抽出する血管交叉部抽出手段とを備えることを特徴とする眼底画像解析装置が得られる。
【0022】
ここで、本発明の眼底画像解析装置において、前記モノクロ画像作成手段で色相と緑成分のモノクロ画像を作成し、前記血管領域抽出手段でそれぞれの抽出結果を併用することが好ましい。
【0023】
また、前記血管領域抽出手段での二値化の閾値の決定に画像を小領域に分割し各領域での統計的な閾値を決定し、それらの内挿補間により各画素の閾値を計算することが好ましい。
【0024】
また、前記血管径計測手段で距離変換画像を作成し細線化画像と併用することで血管径を計算することが好ましい。
【0025】
また、前記血管交叉部抽出手段で血管径と細線化血管画像から血管の交叉部を抽出することが好ましい。
【0026】
また、本発明によれば、コンピュータをカラー眼底画像からモノクロ眼底画像を作成するモノクロ画像作成手段、前記モノクロ眼底画像から血管領域のみを抽出した二値化血管画像を作成する血管領域抽出手段、前記二値化血管画像を細線化した細線化血管画像を作成する血管構造抽出手段、前記二値化血管画像と前記細線化画像から血管径を計算し、前記細線化画像に血管径を与えた血管径つき細線化血管画像を作成する血管径計測手段、及び前記細線化血管画像から血管の交叉部を抽出する血管交叉部抽出手段として機能させるためのプログラムが得られる。
【0027】
ここで、本発明のプログラムにおいて、前記モノクロ画像作成手段で色相と緑成分のモノクロ画像を作成し、前記血管領域抽出手段でそれぞれの抽出結果を併用することが好ましい。
【0028】
また、前記血管領域抽出手段での二値化の閾値の決定に画像を小領域に分割し各領域での統計的な閾値を決定し、それらの内挿補間により各画素の閾値を計算することが好ましい。
【0029】
また、前記プログラムにおいて、前記血管径計測手段で距離変換画像を作成し細線化画像と併用することで血管径を計算することが好ましい。
【0030】
さらに、前記プログラムにおいて、前記血管交叉部抽出手段で血管径と細線化血管画像から血管の交叉部を抽出することが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明においては、眼底領域を小領域に分割し、局所的に最適な閾値処理で二値化した血管画像を作成することによって、グラデーションがかかった眼底画像においても安定的に血管領域を抽出することができる眼底画像解析方法およびその装置とプログラムとを提供することができる。
【0032】
また、本発明においては、細線化処理と距離画像作成のみで行うことによって高速に血管径を計算することができる眼底画像解析方法およびその装置とプログラムとを提供することができる。
【0033】
また、本発明においては、距離変換と細線化による血管径計測は血管の状態に影響されやすい血管中心線の接線を計算しないことで、血管の形状に影響されにくい安定的な血管径を計算できる眼底画像解析方法およびその装置とプログラムを提供することができる。
【0034】
また、本発明においては、分岐部の近傍ペアを分岐角等の条件で交叉部であるか判定することによって、細線化により本来”X”のように観察される交叉部が細線化により”>−<”のようになった分岐部の組を交叉部として抽出することができる眼底画像解析方法およびその装置とプログラムとを提供することができる。
【0035】
さらに、本発明においては、細線化により対象画素を減らし、交叉点/分岐点とそれ以外に分け、処理対象を限定することによって、高速に血管の分岐部と交叉部を見つけることができる眼底画像解析方法およびその装置とプログラムとを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態による眼底画像解析装置を示すブロック図である。図1を参照すると、眼底画像解析装置60は、カラーデジタル眼底画像S10からモノクロ眼底画像S20を作成するモノクロ画像作成手段10と、モノクロ眼底画像S20から血管領域のみを抽出した二値化血管画像S30を作成する血管領域抽出手段20と、二値化血管画像S30を細線化した細線化血管画像S40を作成する血管構造抽出手段30と、二値化血管画像S30から距離変換画像を作成し、細線化血管画像S40と併用して血管径を計算して血管径つき細線化血管画像S50を作成する血管径計測手段40と、細線化血管画像S40もしくは血管径つき細線化血管画像S50から血管の交叉部を抽出する血管交叉部抽出手段50とを備えて構成される。
【0037】
以下に、第1の実施の形態による眼底画像解析装置60の各手段の動作についての詳細を説明する。
【0038】
モノクロ画像作成手段10は、カラーデジタル眼底画像S10を入力とする。カラーデジタル眼底画像S10は、デジタルの眼底カメラで撮影される。眼底カメラは、多くの場合で使用されているBMP(ビッドマップ)、TIFF(タグドイメージファイルフォーマット)、JPEGなどR(赤)、G(緑)、B(青)の三原色で表現されるカラーフォーマット画像を前提とする。眼底画像は、背景の黒を除いた眼底領域は、明るく光る視神経乳頭、暗めの黄班、赤い血管、黄色いその他の領域の4つに大別される。このうち、赤が強い血管だけを抽出するには、次の2とおり方法が考えられる。
【0039】
一つは、R(赤)、G(緑)、B(青)で赤(R:大、G:小、B:小)と黄(R:大、G:大、B:小)を区別するのは、G(緑)の値の大小であるのでG(緑)のモノクロ画像を用いて、黄色と赤の部分を分離する方法である。
【0040】
もう一つは、R(赤)、G(緑)、B(青)の三原色で表現されるカラーフォーマット画像を、H(色相)、S(彩度)、V(強度)のHSV表色系に変換し、色相のモノクロ画像を用いて、黄色と赤の部分を分離する方法である。
【0041】
色相はR(赤)、G(緑)、B(青)の最大値に影響されるため、末端の暗い血管の抽出には前者のG(緑)を用いたほうが有効である。逆に、前者を用いると視神経乳頭の境界付近も抽出され、この部分では後者のH(色相)を用いたほうが優れている。このように両者に一長一短があるので、モノクロ画像作成手段10では両者のモノクロ眼底画像を作成し、それらをモノクロ眼底画像S20として血管領域抽出手段20に出力する。
【0042】
血管領域抽出手段20は、モノクロ眼底画像S20が入力されるとその眼底領域を小領域に分割する。この小領域としては正方ブロックなどを用いるが、他の円を含む楕円や多角形状のブロックを用いることもできる。
【0043】
領域サイズは、局所的な統計情報が得られる範囲が望ましい。小さすぎると局所的な情報は反映されるが、統計的な情報はノイズの影響を受けやすく信頼性が乏しくなり、大きすぎると、逆に統計的な情報の信頼性は高くなるが、局所的な情報が反映されなくなる。
【0044】
各領域に関しては、モノクロ画像の値によるヒストグラムを作成し、線形判別分析により基準値を決める。基準値の計算は次のようになる。
【0045】
まず、画素値が取り得る値を{0、1、2、…、L}として、その画素値をもつ画素数のヒストグラム(階調ヒストグラム)を作成し、ある値kによって[0、k]と[k+1、L]の2クラスに分割して、1つめのクラスを0、2つめのクラスを1として2値化するとする。
【0046】
判別分析においては、クラス間分散を下記数1式、クラス内分散を下記数2式とするとき、下記の数3式で示されるフィッシャー判別比が大きいほど、2クラスの分離度が高いことになる。
【0047】
【数1】

【0048】
【数2】

【0049】
【数3】

【0050】
下記数4式で示される分散は、下記数5式のような関係があるので、下記数6式の(1)式のとなり、上記数1式で示されるクラス間分散を下記数4式で示される全体の分散で割った値である下記数7式で示されるFが1に近いほど、2クラスの分離度が高くなることと同等になる。
【0051】
【数4】

【0052】
【数5】

【0053】
【数6】

【0054】
【数7】

【0055】
なお、上記数4式で示される全階調の分散の計算は、下記数8式で示される階調値、下記数9式で示す階調iの画素数、下記数10式の(2)式で示されるものを画像全体の平均階調としたとき、下記数11式の(3)式で表され、クラス間分散を上記数1式、下記数12式を2クラスそれぞれの画素数、下記数13式を2クラスそれぞれの階調平均としたとき、下記数数14式となる、閾値の決定は、kを順次変えたとき、もっとも上記数7式の値が1に近いときのkを基準値として選ぶ。
【0056】
【数8】

【0057】
【数9】

【0058】
【数10】

【0059】
【数11】

【0060】
【数12】

【0061】
【数13】

【0062】
【数14】

【0063】
計算された各小領域の基準値から、各画素の基準値は次のように計算する。
【0064】
図2は本発明の第1の実施の形態による線形内挿による画素の基準値の計算方法を示す図である。図2に示すように、小領域がブロックで示され、注目点の画素(白点1)がブロックの基準値A、B、C、Dのブロック中心2、3、4、5に囲まれた領域にあり、ブロックの基準値Aのブロック中心2から(p、r)右下、ブロックの基準値Dのブロック中心5から(q、s)左上にある場合、注目点の基準値は、周辺ブロックの基準値と各ブロック中心から相対位置を用いた線形内挿により下記数15式となる。これから各画素の基準値を決定する。
【0065】
【数15】

【0066】
各画素に与えられたこの基準値とモノクロ画像の画素値を比較し、画素値が基準値より小さい(緑G、色相Hとも赤側のほうが小さくなる)画素を血管として抽出する。上述のモノクロ画像作成手段10の説明で述べたように、緑Gのモノクロ画像は血管末端で、色相Hのモノクロ画像は、視神経乳頭付近で有効であるので、視神経乳頭付近では色相Hのモノクロ画像の結果を、それ以外では、緑Gの結果を用いて合成した二値化血管画像S30を作成すると良い。視神経乳頭は、他よりも圧倒的に明るいので容易に抽出可能である。このようにして作成された二値化血管画像は、カラーデジタル眼底画像S10の画質によっては、血管部に欠け、バリ、穴空き生じることもあるので、膨張、収縮や特許文献11にあるようなノイズ除去処理が後処理して行われることもある。
【0067】
血管構造抽出手段30は、二値化血管画像S30を入力とし、血管を幅1に細線化した細線化血管画像S40を作成する。ここで、細線化は、Hilditch、 Deutsch、 田村などの既存アルゴリズムを用いることが可能である。
【0068】
図3は二値画像、図4はそのHilditchのアルゴリズムによる細線化の例を示す図である。図3及び図4に示すように、細線化で得られた幅1の血管網は元の二値化血管画像S30における血管の中心線に相当し、元の二値化血管画像S30の血管構造と同一のトポロジーを保つ。
【0069】
血管径計測手段40は、二値化血管画像S30と細線化血管画像S40を入力とする。まず、二値化血管画像S30に距離変換を行った距離変換画像を作成する。距離変換とは、二値画像における前景の画素に対して、背景画素からの最短距離を画素値として与える画像処理である。距離には、4近傍距離、8近傍距離、ユークリッド距離の二乗などが用いられるが、ここでは血管径を測るためユークリッド距離の二乗を用いる。ユークリッド距離による距離変換の方法はいくつか提案されているが、非特許文献1に記載の方法はラスタ走査2回で高速に実行可能である。
【0070】
図5は図3の二値画像のユークリッド距離の二乗による距離変換の例を示す図である。図5に示すように、作成された距離変換画像において、細線化血管画像S40の血管中心線のみを抽出すると、血管中心線の背景までの距離が与えられた細線化血管画像となる。
【0071】
図6は図5の距離変換画像を図4の細線化画像の血管領域に対応する画素のみを残し、その他を0とするマスク処理をした血管中心線の背景までの距離が与えられた細線化血管画像を示す図である。図7は、血管径を血管中心線の距離の2倍で近似したときに生じる誤差を示す図である。
【0072】
図6に示すように、ユークリッド距離による距離変換画像の距離値は、注目点を中心とした背景までの最小内接円の半径値であるため、図7に示すように、血管の太さの変化が小さいところでは距離の2倍が血管径7と一致するが、変化が大きいところでは、血管径7より小さい値になるので、距離値の2倍は正確には血管径と一致しない。ただし、血管領域抽出手段20で膨張、収縮処理などのノイズ除去処理が行われること、デジタル画像での画素は離散的に配列されているなどを考慮すると不一致時の誤差の影響は小さい。また、細線化は必ず幅1にしなければならないため、中心線6が画素の中間にある場合は、半画素分の誤差が生じる。よって、中心線6の距離値の2倍を血管径7とみなす場合、これらの要素の誤差が生じるが、誤差の原因と範囲は一定の小さな範囲で収まり、安定した数値が得られる特徴がある。特に、動脈硬化の診断のなど血管径7そのものよりも血管径7の変化を見たいときは、誤差は小さくなる方向(+半画素)に限られるため効果的である。
【0073】
図8は従来技術による血管径を血管中心線の直交線で計測するときの問題点を示す図である。
【0074】
図8に示すような血管中心線6上の点の接線11に直交する線分(中心線法線12)長を測る従来の血管径計測方法は、理論的には正しい値が計測されるが、離散的に画素が配置されているデジタル画像処理では、中心線6の接線計算において中心線6の湾曲次第では誤差が非常に大きくなり、さらにその直交線12と血管境界8を見つけるときも誤差が生じる。これらの誤差は、中心線6の状態や、中心線6、接線11の抽出アルゴリズムの巧拙に大きく影響されるため、安定して見積もることは困難である。
【0075】
このような観点から、本発明において、血管までの中心線6の距離の2倍の距離を血管径7とみなしても、従来の計測方法で得られる計測量から劣化することないと考えられる。特に、動脈硬化の診断などで用いられる血管径7の変化の計測に関しては、誤差のぶれが小さいので従来方法よりも効果的である。
【0076】
血管径計測手段40は、上記の画像処理で得られた血管中心線の背景までの距離が与えられた細線化血管画像を血管径つき細線化血管画像S50として出力する。
【0077】
血管交叉部抽出手段50は、細線化血管画像S40もしくは血管径つき細線化血管画像S50を入力とする。細線化された血管の各画素は、隣接する血管画素数により交叉点もしくは分岐点、端点、それ以外(線上の点)に分類される。細線化にHilditch細線化アルゴリズム(8連結系)を用いた場合、次のように分類される。
【0078】
図9(a)に示される交叉点:隣接血管画素数4、図9(b)に示される交叉点の隣:隣接血管画素数3以上、図9(c)に示される分岐点:隣接血管画素数3、端点:隣接血管画素数1、その他(線上の点):隣接血管画素数2。なお、図9においた、塗りつぶされた正方形ha、「1」、白の正方形は「0」、斜線を施した正方形は「不定」、黒白の正方形のまだら模様の正方形は「いずれか一つが1である、残りは0」であることを示している。
【0079】
したがって、細線化された血管において、図9の隣接血管画素数4のtype1、2の点を交叉点としてまず見つけ、次にその隣接点以外の隣接血管画素数3の点を分岐点、隣接血管画素数1を端点、それら以外の点(隣接血管画素数2)を線上の点として、細線化血管の点を分類可能である。
【0080】
しかしながら、細線化画像においては、元の血管画像における交叉部が本来の”X”型でなく、図10に示すような2つの分岐部に分解された”>−<”型として抽出されることも多いので、これを見つける必要がある。この型の交叉部は、細線化血管画像において図11で示される以下の特徴を持つ分岐点対となる。
【0081】
(1)分岐点間長pqが短い。
【0082】
(2)分岐点を結ぶ線以外で形成される角度組(図11のθとφ)の大きさが小さい。せいぜい120°である。この角度が大きいことは分岐が直線に近いことを意味し、分岐に該当しないことが多い。
【0083】
(3)分岐点p、qを結ぶ線以外で形成される角度組(図11のθとφ)の大きさが近い。
【0084】
(4)その補角に相当する角度組(図11のαとβもしくはγとδ)の大きさも近い。
【0085】
(5)分岐点p、qからそこに接続する分岐点/交叉点/端点までの血管長(図11のpt、pr、qs、qu)が一定以上ある。
【0086】
そこで、細線化された分岐部の点について、その角度と接続する他の分岐点/交叉点/端点を計測し、分岐点間の距離(図11のpq)が近い組を見つけ、それらの分岐点組を形成する角度(図11のθ、φ、α、β、γ、δ)と、分岐点(交叉点/端点)間長(図11のpt、pr、qs、qu)を計算し、それらから上記の5つの条件を満たす分岐点組を交叉点とみなす。5つの条件の判定基準はあらかじめ与えておく。血管交叉部抽出手段50への入力が、血管径つき細線化血管画像S50の場合は、血管径に応じて多段階の判定基準を用意しておいても良い。
【0087】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
【0088】
図12は本発明の第2の実施の形態による眼底画像解析装置を示すブロック図である。図12を参照すると、第2の実施の形態による眼底画像解析装置は、第1の実施の形態の眼底画像解析装置の各手段を装置化したモノクロ画像作成装置100、血管領域抽出装置200、血管構造抽出装置300、血管径計測装置400、及び血管交叉部抽出装置500によって実施することができる。
【0089】
図12に示すように、モノクロ画像作成装置100、血管領域抽出装置200、血管構造抽出装置300、及び血管径計測装置400は、画像データを蓄積するメモリやディスクなどのストレージ装置17と、モノクロ画像作成、血管抽出、細線化、距離変換等の計算を行うCPUなどの演算装置18で実現可能である。
【0090】
図13は、本発明の第2の実施の形態による血管交叉部抽出装置500を示すブロック図である。図13に示すように、血管交叉部抽出装置500は、図12の装置に表示用のモニタ19を追加した装置で、(血管径つき)細線化血管画像を蓄積するメモリやディスクなどのストレージ装置17と、分岐部、交叉部の抽出時の計算を行うCPUなどの演算装置18と、血管とその交叉点位置など出力結果を表示するモニタで実現可能である。
【0091】
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。本発明の第3の実施の形態は、第1の実施の形態の画像表現方法を計算機上で実行可能なプログラムとして構成し、そのプログラムを計算機で読み取り自在な情報記憶媒体に格納して、その計算機上において図14で示される手順で実行する。
【0092】
図14は、本発明の第3の実施の形態による眼底画像解析装置の動作説明に供せられるフローチャートである。
【0093】
図14を参照すると、最初に、RGBフォーマットカラーの眼底画像を取得し、その画像をRGB表色系の緑(G)とHSV表色系(もしくはHSL表色系)の色相(H)のモノクロ画像を作成する(ステップf02)。それぞれのモノクロ画像を小領域に分割後、小領域で線形判別分析を行い、フィッシャー判別比がもっとも大きくなる値を領域の基準値とし(ステップf03g、f03h)、領域の基準値から各画素の基準値を内挿補間で計算し(ステップf04g、f04h)、それぞれのモノクロ画像において、基準値以下の画素を血管とした血管抽出二値画像を生成し(ステップf05g、f05h)、視神経乳頭付近は色相(H)、その他の部分は緑(G)からの結果を元にした合成した血管抽出二値画像を生成する(ステップf06h)。この血管抽出二値画像を膨張、収縮などのノイズ処理(ステップf07h)を行った後、細線化アルゴリズムで血管中心線(細線化)画像を生成する(ステップf08)。また、血管抽出二値画像から距離変換を行い、その結果の距離変換画像を血管中心線(細線化)画像でマスクする(ステップf09)。最後に、細線化画像から血管の分岐点、交叉点を抽出し血管構造を抽出し(ステップf10)、終了する。
【産業上の利用可能性】
【0094】
以上の説明の通り、本発明によれば、眼底異常や眼底に兆候が生じる病気の診断等に用いられる眼底画像データの収集及び解析に利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の第1の実施の形態による眼底画像解析装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態による線形内挿による画素の基準値の計算方法を示す図である。
【図3】二値画像の一例を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態による二値画像にHilditchのアルゴリズムによる細線化を施した一例を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態による二値画像にユークリッド距離の二乗による距離変換を施した一例を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態による距離変換画像を細線化画像でマスクした一例を示す図である。
【図7】血管径を血管中心線の距離の2倍で近似したときに生じる誤差を示す図である。
【図8】従来技術による血管径を血管中心線の直交線で計測するときの問題点を示す図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態によるHilditchのアルゴリズムで細線化した血管中心線上の点の分類を示す図である。
【図10】細線化された血管中心線において”X”型の交叉部が”>−<”型の2つの分岐点に分解された場合を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施の形態による分岐点の組で交叉点が分解されたものかを調べるための計測項目を示す図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態によるモノクロ画像作成装置、血管領域抽出装置、血管構造抽出装置および血管径計測装置の構成例を示すブロック図である。
【図13】本発明の第2の実施の形態による血管交叉部抽出装置の構成例を示すブロック図である。
【図14】本発明の第3の実施の形態による眼底画像解析装置の動作説明に供せられるフローチャートである。
【符号の説明】
【0096】
1 白点
2 ブロック基準値Aの中心
3 ブロック基準値Bの中心
4 ブロック基準値Cの中心
5 ブロック基準値Dの中心
6 中心線
7 血管径
8 血管境界
10 モノクロ画像作成手段
11 接線
12 法線
13 動脈
14 静脈
15 分岐点
16 細分化を示す矢印
17 ストレージ装置
18 演算装置
19 モニタ
20 血管領域抽出手段
30 血管構造抽出手段
40 血管径計測手段
50 血管交叉部抽出手段
100 モノクロ画像作成装置の構成例
200 血管領域抽出装置の構成例
300 血管構造抽出装置の構成例
400 血管径計測装置の構成例
500 血管交叉部抽出装置の構成例
S10 カラーデジタル眼底画像
S20 モノクロ眼底画像
S30 二値化血管画像
S40 細線化血管画像
S50 血管径つき細線化血管画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼底画像解析方法であって、カラー眼底画像からモノクロ眼底画像を作成するモノクロ画像作成段階と、
前記モノクロ眼底画像から血管領域のみを抽出した二値化血管画像を作成する血管領域抽出段階と、
前記二値化血管画像を細線化した細線化血管画像を作成する血管構造抽出段階と、
前記二値化血管画像と前記細線化画像から血管径を計算し、前記細線化画像に血管径を与えた血管径つき細線化血管画像を作成する血管径計測段階と、
前記細線化血管画像から血管の交叉部を抽出する血管交叉部抽出段階とを備えることを特徴とする眼底画像解析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の眼底画像解析方法において、前記モノクロ画像作成段階で色相と緑成分のモノクロ画像を作成し、前記血管領域抽出段階でそれぞれの抽出結果を併用することを特徴とする眼底画像解析方法。
【請求項3】
請求項1に記載の眼底画像解析方法において、前記血管領域抽出段階での二値化の閾値の決定に画像を小領域に分割し各領域での統計的な閾値を決定し、それらの内挿補間により各画素の閾値を計算することを特徴とする眼底画像解析方法。
【請求項4】
請求項1に記載の眼底画像解析方法において、前記血管径計測段階で距離変換画像を作成し細線化画像と併用することで血管径を計算することを特徴とする眼底画像解析方法。
【請求項5】
請求項1に記載の眼底画像解析方法において、前記血管交叉部抽出段階で血管径と細線化血管画像から血管の交叉部を抽出することを特徴とする眼底画像解析方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の内のいずれか一項に記載の眼底画像解析方法を行うように構成したことを特徴とする眼底画像解析装置。
【請求項7】
眼底画像解析装置であって、カラー眼底画像からモノクロ眼底画像を作成するモノクロ画像作成手段と、
前記モノクロ眼底画像から血管領域のみを抽出した二値化血管画像を作成する血管領域抽出手段と、
前記二値化血管画像を細線化した細線化血管画像を作成する血管構造抽出手段と、
前記二値化血管画像と前記細線化画像から血管径を計算し、前記細線化画像に血管径を与えた血管径つき細線化血管画像を作成する血管径計測手段と、
前記細線化血管画像から血管の交叉部を抽出する血管交叉部抽出手段とを備えることを特徴とする眼底画像解析装置。
【請求項8】
請求項7に記載の眼底画像解析装置において、前記モノクロ画像作成手段で色相と緑成分のモノクロ画像を作成し、前記血管領域抽出手段でそれぞれの抽出結果を併用することを特徴とする眼底画像解析装置。
【請求項9】
請求項7に記載の眼底画像解析装置において、前記血管領域抽出手段での二値化の閾値の決定に画像を小領域に分割し各領域での統計的な閾値を決定し、それらの内挿補間により各画素の閾値を計算することを特徴とする眼底画像解析装置。
【請求項10】
請求項7に記載の眼底画像解析装置において、前記血管径計測手段で距離変換画像を作成し細線化画像と併用することで血管径を計算することを特徴とする眼底画像解析装置。
【請求項11】
請求項7に記載の眼底画像解析装置において、前記血管交叉部抽出手段で血管径と細線化血管画像から血管の交叉部を抽出することを特徴とする眼底画像解析装置。
【請求項12】
コンピュータを、
カラー眼底画像からモノクロ眼底画像を作成するモノクロ画像作成手段、
前記モノクロ眼底画像から血管領域のみを抽出した二値化血管画像を作成する血管領域抽出手段、
前記二値化血管画像を細線化した細線化血管画像を作成する血管構造抽出手段、
前記二値化血管画像と前記細線化画像から血管径を計算し、前記細線化画像に血管径を与えた血管径つき細線化血管画像を作成する血管径計測手段、及び
前記細線化血管画像から血管の交叉部を抽出する血管交叉部抽出手段として機能させるためのプログラム。
【請求項13】
請求項12に記載のプログラムにおいて、前記モノクロ画像作成手段で色相と緑成分のモノクロ画像を作成し、前記血管領域抽出手段でそれぞれの抽出結果を併用することを特徴とするプログラム。
【請求項14】
請求項12に記載のプログラムにおいて、前記血管領域抽出手段での二値化の閾値の決定に画像を小領域に分割し各領域での統計的な閾値を決定し、それらの内挿補間により各画素の閾値を計算することを特徴とするプログラム。
【請求項15】
請求項12に記載のプログラムにおいて、前記血管径計測手段で距離変換画像を作成し細線化画像と併用することで血管径を計算することを特徴とするプログラム。
【請求項16】
請求項12に記載のプログラムにおいて、前記血管交叉部抽出手段で血管径と細線化血管画像から血管の交叉部を抽出することを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−189586(P2009−189586A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33738(P2008−33738)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】