説明

眼球模型

【課題】正常な状態だけでなく、近視や遠視などの状態を正確に再現することができ、幅広い年齢の学習者に、眼球の機能の学習や光の屈折の初歩的な学習を好適に行うことができる眼球模型を提供する。
【解決手段】光透過性部材であるガラスにより略球形状に形成され、上部に注水または排水可能な開口10aを設けた貯水可能な模型本体10を備え、眼球本体10の前壁面には、所定の曲率とした膨らみを有する球面に形成された角膜部10cが設けられている。近視眼を学習するときには開口10aから受光板を挿入して光を投影する。前壁面への光を角膜部10cのみに制限する光線束調整板11が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、教育機関や、医療機関などで、眼球の機能の学習や光の屈折の学習に使用される眼球模型に関する。
【背景技術】
【0002】
眼球の状態を学習する従来の眼球模型として、例えば、特許文献1および2に記載されたものがある。特許文献1に記載された糖尿病患者のための糖尿病網膜症の学習指導用眼球模型は、糖尿病網膜症の進行状態を5つの眼球模型で示し、眼底の黄班部に穴を設け、そこから覗くことで、糖尿病網膜症の進行状況と、自覚症状が出現していなくても黄班部周囲では病状が進行している可能性があるということを視覚的に体感し、学習することができるようにしたものである。
【0003】
また、特許文献2に記載の水槽式模型眼は、眼内レンズ製造業者や眼科医師が、患者に最も良いと考えられる眼内レンズを選択したり、後眼部の手術の訓練を行ったりするためのもので、開口部のある水槽の外壁に設けた模擬角膜と、水槽の外から模擬角膜を通過する入射光が屈折するよう模擬角膜から水槽内方に設けた眼内レンズと、眼内レンズを通過した入射光が投影される様に設けた模擬網膜とを備えたものである。
このように眼球模型は、学習したり、訓練を行ったりする上で、学習者の理解を助けることができる。
【0004】
【特許文献1】特開2003−195741号公報
【特許文献2】実用新案登録第3024888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、特許文献2に記載された水槽式模型眼を用いて、近視や遠視が起こる仕組みや、眼球においての光の屈折を学習しようとすると、疑似角膜から入射した光は、前後方向に移動可能な疑似網膜に投射されるので、疑似角膜を近視の曲率に調整したとしても、疑似網膜の位置が前過ぎたり、後過ぎたりした状態では、近視が遠視の状態となったり、遠視が近視の状態となったりしてしまう。従って、近視の状態や遠視の状態の観察や、眼球および矯正レンズ(眼鏡)に関する光の屈折の学習を、幾何光学の初等理論に基づく計算と比較しながら学習することには適していないので、特許文献2に記載された水槽式模型眼は、眼球の機能などを学習するには不適当である。
【0006】
また、特許文献2に記載された水槽式模型眼では、水槽の前面に模擬角膜が設けられ、水槽内に半球状の模擬網膜が水に漬かるように配置されているので、実際の眼球のイメージとは大きく異なっている。従って、小学生や中学生などの基礎的な知識が備わっていない学習者に対しては、直感的に眼球の仕組みを理解することが難しいものと思われる。
【0007】
そこで本発明は、正常な状態だけでなく、近視や遠視などの状態を正確に再現することができ、幅広い年齢の学習者に、眼球の機能の学習や光の屈折の初歩的な学習を好適に行うことができる眼球模型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の眼球模型は、光透過性部材により略球形状に形成された貯水可能な模型本体を備え、前記模型本体の前壁面には、所定の曲率とした膨らみを有する球面に形成された角膜部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明の眼球模型は、模型本体が略球形状に形成されているので、学習者には、眼球を象ったものであることが容易に理解でき、周囲から内部の状態を容易に把握できる。本発明の眼球模型への照射光は、模型本体の前壁面に設けられた角膜部を通過して眼底に相当する後壁面に照射される。模型本体に水を貯めることで角膜部は凸レンズとして機能するので、光は角膜部を通過することで屈折する。従って、角膜部の膨らみを、後壁面に焦点が合うような曲率とすることで、正常な眼球の状態(正視眼)が再現でき、後壁面より内側に焦点が合うような曲率とすることで、近視の眼球の状態(近視眼)が再現でき、後壁面より外側に焦点が合うような曲率とすることで、遠視の眼球の状態(遠視眼)が再現できる。このように本発明の眼球模型は、角膜部から後壁面までの距離に応じて角膜部の曲率を設定することで、正視眼、近視眼、および遠視眼を正確に再現することが可能なので、学習者は、照射光の進行状態や、結像の状態を周囲から観察することで、正常な眼球が近視となったり、遠視となったりする仕組みを理解することができる。
【0010】
前記模型本体の上部には、前記角膜部を通過した光を受ける受光板を出し入れできる開口が設けられているのが望ましい。受光板を開口から内部に挿入して配置すれば、近視眼に設定した角膜部からの光が受光板に結像するので、近視とは角膜の焦点が眼球内に位置する状態であることを容易に理解することができる。
【0011】
前記前壁面への光線束を前記角膜部のみに制限する通過光制限部を設けると、角膜部以外の前壁面に照射された光線束が、角膜部とは異なる屈折で模型本体の内部を進行することで、角膜部の焦点以外の焦点の発生を防止することができる。従って、理解の混乱を招くことで、学習の妨げとなることを防止することができる。
【0012】
更に、前記通過光制限部に、レンズホルダーが設けられていると、このレンズホルダーにレンズを配置することで、近視や遠視の矯正の学習を容易に行うことができる。
【0013】
また、前記模型本体の後壁面に、撮像装置が設けられていると、眼底となる後壁面に投影される光の状態を観察することができるので、正視眼、近視眼、および遠視眼のそれぞれの状態での見え方を擬似的に体験することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の眼球模型は、周囲から内部の状態を容易に把握できると共に、正視眼、近視眼、および遠視眼を正確に再現することが可能なので、幅広い年齢の学習者に、眼球の機能の学習や光の屈折の学習を好適に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態に係る眼球模型を、図面に基づいて説明する。図1は、本実施の形態に係る眼球模型を用いた眼球模型実験台を示す斜視図である。図2は、模型本体を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。図3は、角膜部を形成する球面の曲率について説明するための図である。図4は、光線束調整板を示す図であり、(a)はレンズホルダー側から見た斜視図であり、(b)は制限板の取付側から見た斜視図である。図5は、スリット板を示す斜視図である。なお、本明細書においては、詳細には後述する模型本体の角膜に相当する角膜部側を前、眼底部側を後と称す。
【0016】
図1に示すように実験装置Eは、眼球模型1が、光源2、スリット板3およびレンズホルダー板4と共に、実験台100にそれぞれ配置されている。実験装置Eは、白熱電球などで形成された光源2からの光を、眼球模型1に照射することで、学習者が屈折の様子や結像の状態を観察して、眼球の機能の学習や光の屈折の学習などに用いられるものである。眼球模型1は、眼球を象った模型本体10と、光線束調整板11とを備えている。
【0017】
図2(a)および同図(b)に示すように模型本体10は、光透過性部材により略球形状に形成された貯水可能な容器である。本実施の形態では、学習者が周囲から内部の様子を容易に視認できるように、光透過性部材として透明なガラスを用いているが、視認性に支障がない程度に半透明であってもよい。また、模型本体10は、ガラス製とする以外に、光透過性を有していれば樹脂製としてもよい。樹脂で形成する場合には、2つの半球を分割して成形し、貼り合わせることで模型本体10を形成すると、作製が容易である。
【0018】
模型本体10の上部には、水を注入・排出をしたり、受光板を出し入れしたりするための開口10aが設けられている。また、模型本体10の底面10bは、安定して置くことができるように、平面状に形成されている。
【0019】
なお、本実施の形態では、模型本体10の上部に開口10aを設けることで、水の注入や排出を、その開口10aから行うようにしているが、底面10bに円形状の開口を設け、水密性を確保できる円盤状の蓋を備えるようにすることで、底面10b側から水の注入や排出を行うようにしてもよい。模型本体10の底面10b側に蓋を設けるようにすることで、円板状の蓋によって模型本体10を安定して設置できるだけでなく、上部を球面にできるので、模型本体10全体をより球体に近い形状にすることができ、学習者に模型本体10が眼球であることをより強く印象付けることができる。しかし、近視眼の学習を行う場合に、模型本体10の内部へ受光板を入れることで、結像の状態を確認できる方がよいので、本実施の形態に係る模型本体10のように、上部に開口10aを設けるのが望ましい。
【0020】
模型本体10の前壁面Fには、所定の曲率とした膨らみを有する球面に形成された角膜部10cが設けられている。
ここで、角膜部10cを形成する球面の曲率について、図3に基づいて説明する。なお、角膜部10cのガラス厚を可能な限り薄くすることで、ガラスによる屈折の影響を排除できるので、角膜部10cの屈折について説明するにあたり、ガラスの影響は無視できるものとして計算している。
【0021】
図3に示すように、空気の屈折率n0とし、水の屈折率n1とする。また、水を入れることでレンズとなる角膜部10cの球面の半径をrとすると、曲面における屈折力は式(1)によって表される。
【0022】
【数1】

【0023】
空気の屈折率n0は1,水の屈折率n1は1.33である。例えば、角膜部10cを、半径rを0.025mとする曲率の曲面とすると、角膜部10cの球面の屈折力Dは13.2Dとなる。また、この角膜部10cによる結像位置は、式(2)に示すレデュースド バージェンス(reduced vergence)の式より求められる。但し、Uは対象物までの距離の逆数、Vはレンズから結像位置までの距離の逆数を示す。
【0024】
【数2】

角膜部10bに照射される光が平行光線束である場合では、U=0であるから、D=n1Vとなる。ここで、式(1)によりD=(n1−n0)/rであり、角膜部10cから結像位置までの距離bとすると、式(2)から式(3)が導かれる。
【0025】
【数3】

式(3)によりr=0.025mのとき,b=1/9.92=0.10mとなる。つまり、角膜部10cの曲面の半径r(0.025m)としたときに、角膜部10cから後壁面Bまでの距離(眼軸長)bを0.10mとすることで、模型本体10を、後壁面Bに結像させることができる正視眼の模型とすることができる。一般的にr/b=0.25のとき正視眼模型になる。
【0026】
なお、模型本体10の半径Rは、角膜部10cの球面が確保でき、実際の眼球の形状に近い方が望ましいので、本実施の形態では、半径Rを0.0465mとした球体としている。
【0027】
正視眼の場合は角膜部10cの半径rを0.025mとすることで屈折力13.2Dのレンズとしたが、角膜部10cの半径rを0.025mより大きい曲率の球面とすることで屈折力13.2Dより小さい遠視眼となり、角膜部10cの半径rを0.025mより小さい曲率の球面とすることで屈折力13.2Dより大きい近視眼となる。このように、角膜部10cの球面の曲率を、結像される角膜部10cから後壁部Bまでの距離に応じて設定された値に形成することで、正視眼、遠視眼、および近視眼のそれぞれのモデルとすることができる。一般的にr/b>0.25のとき遠視眼模型、r/b<0.25のとき近視眼模型になる。
【0028】
このように眼球模型1の模型本体10は、角膜部10cを所定の曲率とすることで、様々な状態の眼球が再現できるだけでなく、前壁面Fを膨らませ、模型本体10内に水を入れることで角膜部10cをレンズとして機能させているので、板厚のガラスを研磨することで球面が形成されるレンズより安価に作製することができる。また、角膜部11bを含む模型本体10を一体ものとして形成しているので、低廉とすることができる。
【0029】
次に、光線束調整板11について図4に基づいて説明する。図4(a)および同図(b)に示すように、光線束調整板11は、調整板本体11aと、矯正レンズホルダー11bと、制限板11cとを備えている。調整板本体11aは、外形が矩形状に形成されると共に、通過する光の進行幅を制限するための円形状の開口11a1が中央部に設けられている。矯正レンズホルダー11bは、調整板本体11aに固定された2枚のリング板11b1,11b1で構成され、この2枚のリング板11b1,11b1の間に矯正用の凸レンズや凹レンズが収納される。制限板11cは、模型本体10の前壁面Fに設けられた角膜部10c以外に光線束が照射しないように、調整板本体11aの開口11a1より、更に小さい開口11c1が設けられていることで、通過光制限部として機能する。本実施の形態では、調整板本体11aの開口11a1を約40mm、制限板11cの開口11c1を約8mmとしている。この制限板11cは、調整板本体11aの一面側の上部および下部に設けられたガイド11a2をスライドするようにして挿入することで調整板本体11aに配置される。
【0030】
図5に示すようにスリット板3は、模型本体10での光の状態を観察するときに、屈折により倒立像となったことを容易に理解できるように、十字状に重ねた矢印を象ったスリット3aが中央部に形成された板である。
【0031】
レンズホルダー板4は、光源2からの光を、平行光線束とするための凸レンズを保持するもので、矯正レンズホルダー11bが設けられた光線束調整板11を変形することなく、そのまま使用することができる。光線束調整板11をレンズホルダー板4として使用するときには、制限板11cを取り外した状態で使用する。
【0032】
スリット板3とレンズホルダー板4とは、実験台100に配置される間の距離が、レンズホルダー板4に装着される凸レンズの焦点距離と等しい距離となるように配置されていることで、コリメータとして機能する。このように、レンズホルダー板4とスリット板3とを配置することで、既製品のコリメータを使用するより、簡便で、かつ安価に準備できるだけでなく、スリット板3とレンズホルダー板4との間の距離を、学習者に考察させることで、レンズの基礎的な性質の学習をさせることができる。
【0033】
図1に示すように、実験台100は、平行した2本のレール部101と、両端部に設けられた脚部102と、脚部101同士の間に設けられた長さを示す目盛であるスケール部103とを備えている。レール部101上には、模型本体10、光線束調整板11、レンズホルダー板4、スリット板3、および光源2がスタンドS1〜S5によって支持されている。
【0034】
以上のように構成された本発明の実施の形態に係る眼球模型を用いた実験装置Eの使用状態を、更に図6から図8を参照しながら説明する。図6は、正視眼の状態を示す図である。図7は、遠視眼を示す図であり、(a)は裸眼の状態を示す図、(b)は矯正レンズを設けた状態を示す図である。図8は、近視眼を示す図であり、(a)は裸眼の状態を示す図、(b)は矯正レンズを設けた状態を示す図である。
【0035】
図1に示すように、まず、模型本体10として、正視眼をモデルにした曲率の角膜部10cが設けられた眼球模型1を準備する。つまり、角膜部10cは、0.025mを半径rとした曲率で形成された球面に形成されていることで、屈折力Dが13.2Dに設定されている。また、平行光線束とするための凸レンズを準備し、レンズホルダー板4に保持させる。
【0036】
次に、実験装置Eとして、スタンドS1〜S5にそれぞれ支持された、模型本体10、光線束調整板11、レンズホルダー板4、スリット板3、および光源2を、実験台100のレール部101上に配置する。実験台100に、模型本体10、光線束調整板11、レンズホルダー板4、スリット板3、および光源2を配置するときには、レンズホルダー板4に保持される凸レンズの焦点にスリット3を配置する必要がある。また、光線束調整板11は、レンズホルダー板4に備えた凸レンズからの平行光線束が、角膜部10c以外に照射しない程度に離れた位置に配置する。
【0037】
そして、模型本体10に水を入れて、光源2を点灯させることで、事前の準備は完了する。なお、光線束調整板11では、制限板11cが調整板本体11aに取り付けられ、矯正レンズホルダー11bには矯正用レンズは保持されていない状態である。
【0038】
光源2から照射された光は、スリット板3を通過することで十字状の光となる。十字状の光は、レンズホルダー板4に保持された凸レンズを通過することで、十字状を維持したまま平行光線束になって、光線束調整板11へ進行する。光線束調整板11では、制限板11cによって光の進行幅が制限される。例えば、制限板11cを調整板本体11aに取り付けていない状態で、模型本体10を観察すると、角膜部10c以外の模型本体10の球面によってできる結像と、角膜部10cによってできる結像とで、学習者が理解の混乱を招くおそれがある。制限板11cによって光の進行幅を制限して、角膜部10c以外に光が照射しないようにすることで、角膜部10cの焦点以外の焦点の発生を防止することができるので、学習の妨げとなる要因を排除することができる。
【0039】
光線束調整板11を通過した光は、模型本体10の角膜部10cを通過すると、空気と模型本体10に貯留された水との屈折率の違いから屈折する。模型本体10の角膜部10cは、正視眼の状態となるように形成された球面なので、屈折した光は、図6に示すように、模型本体10の後壁面Bの焦点F1で結像する。このとき、指導者が受光板を模型本体10の外側から後壁部Bに押し当てるように配置すると、十字状の光を倒立像の状態でスクリーンとなった受光板に投影することができる。従って、指導者は光が模型本体10の後壁面Bで結像した様子を、学習者に示すことができるので、学習者は、正視眼が正常に像を眼底に結像させることができる眼であることを正確に理解することができる。
【0040】
次に、遠視眼の場合には、角膜部10cを0.025mより大きく、例えば0.030mとした半径rの曲率の球面に形成されていることで、屈折力Dが11Dに設定された模型本体10を準備する。
【0041】
遠視眼の場合には、図7(a)に示すように、後壁面Bの外側で結像する。この結像点の位置は、後壁面Bの外側が、眼球(模型本体10)内と等しい屈折率の場合、屈折力Dが11Dであることから、角膜部10cから0.121m、つまり後壁面Bから0.021mの位置F2となる。しかし実際は、後壁面Bから空気中へ入射するため再度屈折して、位置F2より後壁面Bに近い位置に結像する。この結果に基づいて位置F2を計算により求めることができる。
【0042】
学習者は、位置F2を、この眼球模型10の遠点と誤解することが多い。指導者は、遠視眼とした模型本体10において、網膜に相当する後壁面Bに結像するように、図7(b)に示すように、矯正レンズL1を選ぶ実験を行うことができる。図7(b)では、矯正レンズL1の遠点をFとして示している。この選択された矯正レンズL1を光線束調整板11のレンズホルダー11bに装着することで、この遠点Fへ向かって眼球模型10に入射した光線束のみが後壁面B上に結像する。従って、この実験によって、遠点に関する学習者の誤解を修正させることができる。また、指導者は、受光板を徐々に後壁部Bへ近づけて、受光板に投影された像がぼやけてくることを示すことで、遠視眼の状態での実際の見え方を示すことができる。
【0043】
指導者は、遠視眼とした模型本体10に対して、光線束調整板11の矯正レンズホルダー11bに矯正レンズL1を保持させて、像を結ぶ位置が後壁面Bに一致することを学習者に示すことで、遠視用眼鏡の機能を学習者に認識させることができる。
【0044】
また、やや複雑な計算が可能な学習者に対して、指導者は、まず、後壁面Bの後面での屈折によって観察される結像位置の測定結果と、後壁面Bの後面における屈折力(D=0.33/R)とから、位置F2を計算させ、角膜部10cの屈折力を求めさせる。次に、この遠視を矯正できる凸レンズの屈折力を計算させ、計算で得られた結果に基づいて複数の凸レンズの中から最適なレンズを選択させるようする。そして、選択した凸レンズを矯正レンズL1としてレンズホルダー11bに保持させてその効果を確認させることが望ましい。また、これらの屈折力の計算をコンピュータにさせることも可能である。学習者にいずれかを選択させ、眼球の屈折力を計算により推定して最適な矯正レンズL1を選択する方法と、試行錯誤により最適の矯正レンズL1を求める方法(眼鏡処方のための検眼過程を実験的に経験する)とを併用することで、光の屈折に関する学習を、机上の計算だけでなく実践的なものとすることもでき、理解をより深めることができる。
【0045】
そして、近視眼の場合には、角膜部10cを0.025mより小さい、例えば0.020mとした半径rの曲率の球面に形成されていることで、屈折力Dが16.5Dに設定された模型本体10を準備する。
【0046】
近視眼の場合には、図8(a)に示すように、後壁面Bより内側である模型本体10内に位置する焦点F3で結像する。この焦点F3の位置は、角膜部10cから0.08m、つまり後壁面Bの手前である−0.02mの位置となる。指導者は、模型本体10の上部の開口10aから受光板を水の中に入れ、焦点F3に配置することで、学習者に眼底より前で結像している状態を示すことができる。また、指導者は、受光板を徐々に後壁部Bへ近づけ、受光板に投影された像がぼやけてくることを示すことで、近眼視の状態での実際の見え方を示すことができる。このように、模型本体10が光透過性部材で形成され、上部に開口10bが設けられていることで、近視眼であっても受光板を模型本体10内に配置することができるので、学習者に近視とは角膜の焦点が眼球内に位置する状態であることを容易に理解させることができる。
【0047】
また、遠視眼の場合と同様に、指導者は、近視眼とした模型本体10に対して、矯正レンズホルダー11b(図4参照)に矯正レンズL2である凹レンズを保持させ、図8(b)に示すように焦点F3の位置が後壁面Bに一致することを学習者に示すことで、近視用眼鏡の機能を認識させることができると共に、矯正レンズL2の遠点はFの位置であること、およびこの遠点Fから出たかのように眼球に入射する光線束のみが近視眼(模型)の後壁面Bに結像できることを理解させることができる。
【0048】
指導者が正視眼、近視眼、および遠視眼のそれぞれの状態を学習者に説明するに当たっては、受光板に投影された光の状態を示しながら説明するのが簡便であるが、眼底となる後壁面Bに撮像装置を備えるようにしてもよい。後壁面Bに撮像装置を備え、撮像装置からの映像をモニタなどの表示装置に表示させることで、学習者に正視眼、近視眼、および遠視眼でのそれぞれの見え方を擬似的に体験させることができる。また、高所に設置されたモニタに表示することで、一度に多数の学習者に体験させることも可能である。
【0049】
撮像装置を後壁面Bに備える場合には、後壁面Bの外側面に接着剤、接着テープなどで固定してもよいし、後壁面Bの外側面に撮像装置を装着できる部材を設けてもよい。装着部材を設ける場合には、撮像装置が後壁面Bから着脱自在であるのが望ましい。更に、耐水性を有する撮像装置であれば、後壁面Bの内側面に設けるようにしてもよい。
【0050】
このように、模型本体10が略球形状に形成されているので、学習者には、眼球を象ったものであることが容易に理解でき、周囲から内部の状態を容易に把握できるので、直感的に眼球の仕組みを理解することができる。また、模型本体10に一体的に角膜部10cが形成されているので、角膜部10cから後壁面Bまでの距離に応じて角膜部10cの曲率を設定することで、正視眼、近視眼、および遠視眼を正確に再現することが可能である。従って、眼球模型1は、正常な状態だけでなく、近視や遠視などの状態を正確に再現することができ、幅広い年齢の学習者に、眼球の機能の学習や光の屈折の学習を好適に行うことができる。
【0051】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではない。本実施の形態では、前壁面Fへの光を角膜部10cのみに制限する通過光制限部を光線束調整板11として、模型本体10と別体としているが、模型本体10と一体とすることができる。例えば、模型本体10に遮光性塗料を角膜部10c以外の前壁面Fへ塗装して通過光制限部としたり、模型本体10を形成する部材に遮光剤を含有させたりしても、同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の眼球模型は、教育機関や、医療機関などで、眼球の機能の学習や光の屈折の学習などに使用されるもので、特に、小学生から大学生にいたるまでの理科、物理の授業に好適であり、特に、視機能訓練士を育成するための講義には最適である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本実施の形態に係る眼球模型を用いた眼球模型実験台を示す斜視図である。
【図2】模型本体を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図3】角膜部を形成する球面の曲率について説明するための図である。
【図4】光線束調整板を示す図であり、(a)は矯正レンズホルダー側から見た斜視図であり、(b)は制限板の取付側から見た斜視図である。
【図5】スリット板を示す斜視図である。
【図6】正視眼の状態を示す図である。
【図7】遠視眼を示す図であり、(a)は裸眼の状態を示す図、(b)は矯正レンズを設けた状態を示す図である。
【図8】近視眼を示す図であり、(a)は裸眼の状態を示す図、(b)は矯正レンズを設けた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 眼球模型
10 模型本体
10a 開口
10b 底面
10c 角膜部
11 光線束調整板
11a 調整板本体
11a1 開口
11b レンズホルダー
11b1 リング板
11c 制限板
2 光源
3 スリット板
3a スリット
4 レンズホルダー板
100 実験台
101 レール部
102 脚部
103 スケール部
1〜S5 スタンド
F 前壁面
B 後壁面
1,F3 焦点
2 位置
,F 遠点
1,L2 矯正レンズ
a,b 距離
r,R 半径
0,n1 屈折率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性部材により略球形状に形成された貯水可能な模型本体を備え、
前記模型本体の前壁面には、所定の曲率とした膨らみを有する球面に形成された角膜部が設けられていることを特徴とする眼球模型。
【請求項2】
前記模型本体の上部には、前記角膜部を通過した光を受ける受光板を出し入れできる開口が設けられていることを特徴とする請求項1記載の眼球模型。
【請求項3】
前記前壁面への光線束を前記角膜部のみに制限する通過光制限部を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の眼球模型。
【請求項4】
前記通過光制限部に、レンズホルダーが設けられていることを特徴とする請求項3記載の眼球模型。
【請求項5】
前記模型本体の後壁面に、撮像装置が設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれかの項に記載の眼球模型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−185987(P2008−185987A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21914(P2007−21914)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年8月5日〜6日 日本理科教育学会主催の「第56回全国大会」において文書をもって発表
【出願人】(506178140)学校法人高梁学園 (10)
【Fターム(参考)】