説明

眼用レンズ材料

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はコンタクトレンズ、眼内レンズ等に用いられる眼用レンズ材料に関する。さらに詳しくは、ピリジン環を末端に有する重合性ポリオルガノシロキサンを必須単量体成分とし重合して得られる重合体からなる酸素透過性および水濡れ性に優れた眼用レンズ材料に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、コンタクトレンズとしては、2−ヒドロキシエチルメタクリレートあるいはビニルピロリドンを主成分とする含水性の軟質コンタクトレンズと、メチルメタクリレート(MMA)、フッ化アルキルメタクリレートまたはシリコーンメタクリレートを主成分とする非含水性の硬質コンタクトレンズが市販されている。
【0003】しかしながら、上記従来の含水性の軟質コンタクトレンズは酸素透過性が低いために長時間の装用が困難であるか、強度が低く、必ずしも実用性に優れたものであるとはいいがたいものであった。
【0004】また、従来のMMAを主成分とする非含水性の硬質コンタクトレンズは、酸素透過性が殆どないため角膜生理上、長時間の連続装用が困難であるという大きな欠点を有している。従来のシリコーンメタクリレートを主成分とする硬質コンタクトレンズは、MMAを主成分とするものに比べると酸素透過性に優れているものの、まだ連続装用を行うには不十分であり、また水濡れ性に劣り、さらに脂質などにより汚染されやすいという欠点がみられる。
【0005】近年、上記のような問題を解決する目的でシリコーンメタクリレートの含有量を増加させたり、フッ素原子を含有させたものが提案されている。例えば、特開昭62−8769号公報および特開昭59−28127号公報には、フッ化アルキル(メタ)アクリレートとシロキサニルアルキル(グリセロール)(メタ)アクリレートからなる酸素透過性硬質コンタクトレンズが提案されている。また、特開昭60−131518号公報、特開昭61−57612号公報、特開昭61−281116号公報、特開昭61−281216号公報、特開昭61−285426号公報および特開昭62−54220号公報には、シロキサニルプロピロキエチル(メタ)アクリレートとアルキル(メタ)アクリレートまたはアルキルイタコネートからなる酸素透過性硬質コンタクトレンズが提案されている。さらに、特開昭61−87102号公報及び特開昭62−38419号公報には、フッ化アルキルシロキサニルアルキル(グリセロール)(メタ)アクリレートからなる酸素透過性硬質コンタクトレンズが開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、酸素透過性を高めるため前記のシリコーンメタクリレートの含有量を増加させたり、シリコーンメタクリレートとフッ素含有単量体を共重合させたもののいずれにおいても酸素透過性を高めると水濡れ性が低下し、装用中にレンズが曇ったり、脂質などにより汚染されやすくなる。従って、水濡れ性をあげるため親水性単量体を共重合させたり、出来上がったレンズに、例えばプラズマ処理等の表面処理を行う必要がある。
【0007】しかし、親水性単量体を共重合させる場合は、親水性単量体は疎水性単量体であるシリコーンメタクリレートやフッ素含有単量体との相容性が悪く、共重合体が不均質となり良好な光学的性質(透明性、可視光透過率等)が得られにくい。また、プラズマ処理等の表面処理をレンズに施すと、実施初期には充分な水濡れ性が得られるが、レンズ洗浄時の手擦りやクリニックにおけるレンズの再作時の研摩などの物理的作用によりその効果が消失する。
【0008】従って、本発明の目的は酸素透過性に優れ、かつ水濡れ性にも優れた眼用レンズ材料を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、高酸素透過性および良好な水濡れ性を同時に併せ持つ眼用レンズ材料を得るべく鋭意検討を重ねた結果、ピリジン環を末端に有する重合性ポリオルガノシロキサンを必須単量体成分とし重合して得られる重合体を用いることにより、前述の目的を達成することができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】すなわち、本発明は一般式(1)で示されるピリジン環を末端に有する重合性ポリオルガノシロキサンを必須単量体成分とし重合して得られる重合体からなることを特徴とする眼用レンズ材料である。
【0011】
【化2】


【0012】[式中、Rは炭素数4以上のアルキル基またはフェニル基を表わし、R1〜R6は同一もしくは相異なり、それぞれ置換もしくは非置換アルキル基、または置換もしくは非置換フェニル基を表わし、Yは重合性基を表わし、mは0〜2の整数であり、pは1〜6の整数であり、nは3〜10である。]本発明の眼用レンズ材料は、前記一般式(1)で示される重合性ポリオルガノシロキサンを必須単量体成分とし重合して得られる重合体からなるものであるが、このような一般式(1)で示される重合性ポリオルガノシロキサンはいずれも新規化合物であり、たとえば以下に述べる方法により合成することができる。
【0013】下記一般式(2)で示されるピリジン環を有するシラノール化合物を強塩基と反応させた後、下記一般式(3)で示されるシクロシロキサンと反応させ、下記一般式(4)で示されるハロシラン化合物を用いて反応を停止させることにより、前記一般式(1)で示されるピリジン環を末端に有する重合性ポリオルガノシロキサンを製造することができる。
【0014】
【化3】


【0015】[式中、R、R、R、pおよびmは前記定義のとおりである。]
【0016】
【化4】


【0017】[式中、およびRは前記定義のとおりであり、qは3〜6の整数である。]
【0018】
【化5】


前記一般式(2)で示されるシラール化合物は、例えば以下に述べる方法により合成することができる。
【0019】下記一般式(5)で示される置換ピリジン誘導体を強塩基と反応させた後、下記一般式(6)で示されるハロシランまたは、ハロアルキルシラン化合物と反応させることにより、下記一般式(7)で示されるヒドロシラン化合物を合成する。
【0020】
【化6】


【0021】[式中、Rおよびmは前記定義のとおりである。]
【0022】
【化7】


【0023】[式中、R、R、Xおよびpは前記定義のとおりである。]
【0024】
【化8】


【0025】[式中、R、R、mおよびpは前記定義のとおりである。]次いで、前記一般式(7)で示されるヒドロシラン化合物をナトリウムアルコラートと反応させた後、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムなどの塩基を含む水溶液と反応させることにより、前記一般式(2)で示されるシラノール化合物を合成することができる。
【0026】前記一般式(2)で示されるシラノール化合物を製造する際に原料として用いられる前記一般式(5)で示される置換ピリジン誘導体は、ピリジン環上にメチル基を有することが必須であり、例えば以下の式で示される化合物が挙げられる。
【0027】
【化9】




【0028】また、前記一般式(5)で示される置換ピリジン誘導体と反応させる強塩基としては、例えばメチルリチウム、n−プチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、フェニルリチウムなどの有機リチウム化合物が好適に用いられる。ただし、前記一般式(5)中のmが0であるアルキル置換ピリジン誘導体、すなわちピコリン類を原料として用いる場合には、収率の点でフェニルリチウムを用いるのが最適である。反応は約−90℃ないし約0℃の低温で行うことが好ましい。また、この反応は有機溶媒中で行うのが好ましく、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、四塩化炭素などを用いることができる。さらにこの反応はアルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0029】次に試薬として用いられる前記一般式(6)で示されるハロシランまたは、ハロアルキルシラン化合物としては、次のものを例示することができる。
【0030】
【化10】




【0031】これらの化合物の一部は市販されており、またハロアルキルシラン化合物については下記一般式(8)で示される市販のハロシラン化合物を還元することにより容易に合成することができる。
【0032】
【化11】


【0033】[式中、XおよびX′は同一もしくは相異なり、それぞれハロゲン原子を表わし、RおよびRは前記定義のとおりであり、p′は2〜6の整数である。]前記一般式(3)で示されるシクロシロキサン化合物としては、次のものを例示することができる。
【0034】
【化12】




【0035】これらのシクロシロキサン化合物は、1種又は2種以上の混合物を用いてもよく、その量を調整することにより、一般式(1)で示される単量体のシロキサン単位nをコントロールすることができる。
【0036】停止剤として用いる前記一般式(4)で示されるハロシラン化合物としては、次のものを例示することができる。
【0037】
【化13】




【0038】前記一般式(1)におけるYとしては例えば(メタ)アクリロキシプロピル残基、またはスチリル残基が好ましい。
【0039】また、R〜Rはメチル基又はフッ素換アルキル基が好ましく、nは3〜10が好ましく、10を越えると重合体が柔軟になりレンズ加工が困難になる。
【0040】本発明で使用される前記一般式(1)で示される単量体は片末端にピリジン環を結合しているため、親水性、酸素透過性および高い極性等の物性を活かして本発明の効果を充分発揮することができる。
【0041】本発明に用いる一般式(1)の単量体は単独で重合させてもよく、一般式(1)の単量体の2種以上を混合して重合させてもよく、また、一般式(1)の単量体を他の疎水性単量体と共重合させてもよい。
【0042】共重合しうる疎水性単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、t‐ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t‐アミル(メタ)アクリレート、2エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のC1〜C12のアルキルエステル;スチレン、メチルスチレンなどのビニル芳香族化合物;酢酸ビニルなどの脂肪族カルボン酸のビニルエステル;イタコン酸メチル、クロトン酸メチルなどのイタコン酸またはクロトン酸のアルキルエステル;2,2,2‐トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3‐テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3‐ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,2‐トリフルオロ‐1‐トリフルオロメチルエチル(メタ)アクリレート、2‐ヒドロキシ‐4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,11,11,11‐ヘキサデカフルオロ‐10‐トリフルオロメチルウンデシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のC1〜C12のフッ素置換アルキルエステルなどをあげることができ、これらのうちから1種または2種以上を混合して使用してもよい。なかでも、上記疎水性単量体のうち(メタ)アクリル酸のアルキルエステルおよびフッ素置換アルキルエステルを用いるのが本発明の目的に対して特に有効である。
【0043】更に、形状安定性を向上させる目的でエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングルコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−へキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2,2′−ビス[p−(γ−メタクリロキシ−β−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパンなどの架橋剤を1種または2種以上混合して使用してもよい。
【0044】本発明の眼用レンズ材料を構成する重合体は、前述したように、一般式(1)の単量体の単独重合体であってもよいが一般式(1)の単量体30〜70重量%と、疎水性単量体(2種以上の場合はその合計)70〜30重量%との共重合体であるのが好ましい。また、前記架橋剤は通常、上記単量体(混合物)の全量に対して0〜20重量%、好ましくは1〜15重量%の割合で用いることができる。
【0045】重合方法として、重合開始剤を使用する場合には例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,2,−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビスメチルイソブチレート、2,2′−アゾビスジメチルバレロニトリルなどを使用することができる。重合開始剤の割合は単量体(の混合物)の全量に対して0.01〜5重量%の範囲内が好ましい。また、これ以外に光重合、放射線重合などの重合方法を採用してもよい。
【0046】また、上記単量体(混合物)には必要に応じて色素を添加し、着色した眼用レンズ材料とすることもできる。
【0047】上記の単量体(混合物)より得られる眼用レンズ材料からコンタクトレンズを作成する方法としては、切削、研摩によるレースカット法や、モールドのなかで上記単量体(混合物)を直接重合するモールド法などの方法を採用することができる。
【0048】これらの方法により、高い酸素透過性を有し、同時に水濡れ性に優れたコンタクトレンズを得ることができる。
【0049】
【実施例】次に参考例、実施例、比較例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。実施例中、「部」はすべて重量部を表わし、各物性の測定は下記の要領で測定した。
【0050】酸素透過係数(DK):理化精機工業(株)製の製科研式フィルム酸素透過率計を使用し、電極法にてフィルム状の試験片(厚み0.2mm)について35℃での酸素透過係数を測定する。
【0051】接触角:エルマ光学(株)製のゴニオメーター式接触角測定装置(G−1型)を使用し、気泡法により円柱状の試験片(厚み4mm)の接触角を5回測定し、その平均値を接触角とする接触角の数値は水濡れ性の尺度であり、数値の小さい方が水濡れ性が良好であること示す。
【0052】参考例1: シラノール化合物の合成 14−メチル−2,6−ジ−t−ブチルピリジン10.0g(49.8mmol)をテトラヒドロフラン100mlに溶解し、アルゴンガス雰囲気下−78℃に冷した後、sec−ブチルリチウム (1.4mol/1n−ヘキサン溶液)100ml(140mmol)を加え、1.5時間撹拌した。この時、反応溶液は黄色を呈した。
【0053】次に、この溶液にクロロメチルジメチルシラン20.0ml(164mmo)を加え、さらに室温にて12時間撹拌したところ溶液は消色し白濁した。反応溶液中の溶媒を留去し、生成した塩を濾過しジエチルエーテルで洗浄した後、カラム精製を行い、13.3gの無色透明液体が得られた。
【0054】得られた生成物について、H−NMR、IR、およびMassスペクトル分析ならびに元素分析を行い、目的物の4−(2−ジメチルシリルエチル)2,6−ジ−t−ブチルピリジンであることを確認した。(収率;96%)それらの結果を以下に示す。
【0055】H−NMRスペクトル、δ(CDCl.ppm);0.11(d、6H、シリル基上のメチル基のプトンピーク)、0.96 (m、2H, エチレン鎖のプロトンピーク)、1.35(s、18H、t−ブチル基のプロトンピーク)、2.63(m、2H、エチレン鎖のプロトンピーク)、3.93(m,1H、Si−H基のプロトンピーク)、6.94(s、2H、ピリジン環のプロトンピーク)。
【0056】IRスペクトル(cm-1);3100(w)、2990(s)、2900(s)、2130(s、Si‐H結合による特性吸収)、1600(s、ピリジン環の特性吸収)1562(s)、1480(s)、1450(s)、1415(s)、1360(s)、1310(w)、1250(s、Si―C結合による特性吸収)、1220(m)、1205(m)、1165(m)、1050(w)、1000(w)、925(s、Si―C結合による特性吸収)、880(s)、835(s)、770(s)、700(w)。
【0057】Massスペクトル(m/e);277(M)、276(M―H)、262(M−CH)、59(HSi(CH)。
【0058】元素分析値(%);C:73.07、H:11.42、N:4.83)。
【0059】(計算値;C:73.65、H:11.19、N:5.05)。
【0060】エタノール40ml中に触媒量の金属ナトリウムを溶解しアルゴンガス雰囲気下還流させ、その溶液に上記の反応で得られた4−(2−ジメチルシリルエチル)2,6−ジ−t−ブチルピリジン10.0g(36.0mmol)をゆっくりと滴下しさらに1時間還流を続けた。その後、反応溶液を水酸化ナトリウム4.2g(107mmol)および水10mlを含むメタノール溶液100mlに注ぎ込み、さらに水酸化ナトリウム4.2gを含む水溶液100mlを加え約30分間撹拌した。
【0061】次に、その溶液をリン酸水素カリウム36.7gを含む大量の氷水に注ぎ込むと白濁した。ジエチルエーテルで抽出し、乾燥後減圧蒸留を行ったところ150−155℃/0.05mmHgの沸点範囲で無色透明液体7.9gが得られた。
【0062】得られた生成物について、H−NMR、IR、およびMassスペクトル分析並びに元素分析を行い、目的物の4−(2−ジメチルヒドロキシエチル)2,6−ジ−t−ブチルピリジンであることを確認した。(収率;76%)それらの結果を以下に示す。
【0063】H−NMRスペクトル、δ(CDCl、ppm);0.15(s、6H、シリル基上のメチル基のプロトンピーク)、1.06(m、2H,エチレン鎖のプロトンピーク)、1.35(s、18H、t−ブチル基のプロトンピーク)、2.18(s、1H、水酸基のプロトンピーク)、2.70(m、2H、エチレン鎖のプロトンピーク)、6.95(s、2H、ピリジン環のプロトンピーク)。
【0064】IRスペクトル(cm−1);3300(m、水酸基による特性吸収)、3100(w)、2980(s)、2890(s)、1600(s、ピリジン環の特性吸収)、1562(s)、1480(s)、1450(m)、1415(s)、1360(s)、1310(w)、1255(s、Si−C結合による特性吸収)、1220(w)、1200(w)、1165(m)、1050(s、Si−O結合による特性吸収)、1000(w)、925(m、Si−C結合による特性吸収)、900、(m)、840(s)、790(s)、680(w)。
【0065】Massスペクトル(m/e);293(M)、292(M−H)、278(M−CH)、218(M−HOSi(CH、75(HOSi(CH)。
【0066】元素分析値(%);C:69.24、H:10.11、N:4.55(計算値;C:69.55、H:10.67、N:4.77)。
【0067】参考例2: シラノール化合物の合成 24−メチルピリジン12.0g(129mmol)をテトラヒドロフラン200mlに溶解し、アルゴンガス雰囲気下−78℃に冷却した後、フェニルリチウム(2.0mol/ln.ヘキサン溶液)97ml(194mmol)を加え40分間撹拌した。この時、反応溶液は赤色を呈した。
【0068】次に、この溶液にクロロメチルジメチルシラン31.4m1(258mmol)を加え、さらに室温にて12時間撹拌したところ溶液は消色し白濁した。反溶液中の溶媒を留去し、生成した塩を濾過しジエチルエーテルで洗浄した後、減圧蒸留を行い60−70℃/0.8mmHgの沸点範囲で17.0gの無色透明液体が得られた。
【0069】得られた生成物について、H−NMR、IR、およびMassスペクトル分析ならびに元素分析を行い、目的物の4−(2−ジメチルシリルエチル)ピリジンであることを確認した。(収率;80%)それらの結果を以下に示す。
【0070】H−NMRスペクトル、δ(CDCl、ppm);0.09(d、6H、シリル基上のメチル基のプロトンピーク)、0.90(m、2H、エチレン鎖のプロトンピーク)、3.07(m、2H、エチレン鎖のプロトンピーク)、3.80(m、1H、Si−H基のプロトンピーク)、6.98(dd、2H、ピリジン環のプロトンピーク)、8.34(dd、2H、ピリジン環のプロトンピーク)。
【0071】IRスペクトル(cm−1);3100(m)、3050(m)、2980(s)、2950(m)、2120(s、Si−H結合による特性吸収)、1600(s、ピリジン環の特性吸収)、1560(w)、1500(w)、1420(s)、1315(w)、1255(s、Si−C結合による特性吸収)、1220(w)、1175(w)、1120(m)、1070(w)、925(m、Si−C結合による特性吸収)、920(s)、880(s)、840(s)、800(s)、765(s)、740、700(s)。
【0072】Massスペクトル(m/e);165(M)、164(M−H)、150(M−CH)、106(M−HSi(CH)、59(HSi(CH)。
【0073】
元素分析値(%);C:65.11、H:8.98、N:8.33 (計算値;C:65.39、H:9.17、N:9.47)。
【0074】エタノール80ml中に触媒量の金属ナトリウムを溶解しアルゴンガス雰囲気下還流させ、その溶液に上記の反応で得られた4−(2−ジメチルシリルエチル)ピリジン17.0g (93.8mmol)をゆっくりと滴下しさらに1時間還流を続けた。
【0075】その後、反応溶液を水酸化ナトリウム11.0g(280mmol)および水16mlを含むメタノール溶液160mlに注ぎ込み、さらに水酸化ナトリウム11.0gを含む水溶液160mlを加え約30分間撹拌した。
【0076】次に、その溶液をリン酸水素カリウム95.7gを含む大量の氷水に注ぎ込むと白濁した。ジエチルエーテルで抽出し、乾燥後減圧蒸留を行ったところ39−40℃/0.015mmHgの沸点範囲で無色透明液体15.5gが得られた。
【0077】得られた生成物について、H−NMR、IR、およびMassスペクトル分析ならびに元素分析を行い、目的物の4−(2−ジメチルヒドロキシシリルエチル)ピリジンであることを確認した。(収率;83%)それらの結果を以下に示す。
【0078】H−NMRスペクトル、δ(CDCl)ppm);0.08(s、6H、シリル基上のメチル基のプロトンピーク)、0.85(m、2Hエチレン鎖のプロトンピーク)、2.30(s、1H、水酸基のプロトンピ−ク)、2.61(m、2H、エチレン基のプロトンピーク)、707(dd、2H、ピリジン環のプロトンピーク)、8.45(dd、2H、ピリジン環のプロトンピーク)、IRスペクトル(cm−1);3400(s、水酸基による特性吸収)、3100(m)、3050(m)、2980(s)、2950(m)、1600(S、ピリジン環の特性吸収)、1560(w)、1500(w)、1420(s)、1315(w)、1255(s、Si−C結合による特性吸収)、1220(w)、1175(w)、1055(s、Si−O結合による特性吸収)、995(m)、910(m、Si−C結合による特性吸収)、840(s)、800(s)、780(s)、740(w)、700(w)。
【0079】Massスペクトル(m/e);181(M)、180(M−H)、166(M−CH)、106(MHOSi(CH)、75(HOSi(CH)。
【0080】
元素分析値(%);C:59.52、H:8.16、N:7.65 (計算値;C:59.62、H:8.36、N:7.72)。
【0081】参考例3参考例1で得られた4−(2−ジメチルヒドロキシシリルエチル)2,6−ジ−t−ブチルピリジン5.0g(17.0mmol)をアルゴンガス雰囲気下テトラヒドロフラン10mlに溶解し、−10℃に冷却した後、n−ブチルリチウムヘキサン溶液(1.6mol/l)10.6ml(17.0mmol)を加え1時間撹拌した。
【0082】この溶液に、ヘキサメチルシクロトリシロキサン7.58g(34.0mmol)をテトラヒドロフラン40mlに溶解した溶液を加え、さらに室温にて12時間撹拌した。
【0083】次に、3−メタクリロキシプロピルジメチルクロロシラン8.83g(40.0mmol)を加えて反応を停止させた。溶媒を留去した後生成した塩を濾別し、さらに減圧下100℃にて2時間撹拌したところ無色透明な粘性のあるオイル11.9gが得られた。H−NMRスペクトル、IRスペクトルおよび元素分析の結果から、この生成物は、下記式(9)で示される構造のピリジン環を片末端に、もう一方の末端に3−メタクリロキシプロピル基を有するポリジメチルシロキサン(以下、TPSMAという)であることがわかった。
【0084】
【化14】


【0085】なお、上記の構造において、ポリジメチルシロキサン鎖の平均重合度nはH−NMRスペクトルにおけるシリル基上のメチル基のプロトンピーク(0.15ppm)とピリジン環のプロトンピーク(6.90ppm)の積分比から求めた。それらの結果を以下に示す。
【0086】H−NMRスペクトル、δ(CDCl、ppm);0.15(s、シリル基上のメチル基のプロトンピーク)、0.90(m、エチレン鎖およびプロピレン鎖のプロトンピーク)、1.33(s、t−ブチル基のプロトンピーク)、1.55(m、エチレン鎖のプロトンピーク)、1.80(m、プロピレン鎖のプロトンピーク)、2.03(s、メタクリロキシ基のメチル基のプロトンピーク)、4.21(t、プロピレン鎖のプロトンピーク)、5.63および6.20(m、メタクリロキシ基のメチレン基のプロトンピーク)、6.90(s、ピリジン環のプロトンピーク)、IRスペクトル(cm−1);3100(w)、2960(s),2890(s)、1720(s、カルボニル基による特性吸収)、1640(m)、1600(s、ピリジン環の特性吸収)、1562(s)、1480(m)、1450(m)、1415(s)、1360(s)、1310(w)、1255(s、Si−C結合による特性吸収)、1220(w)、1200(w)、1165(m)、1040(s、Si−O結合による特性吸収)、925(m、Si−C結合による特性吸収)、900(m)、840(s)、800(s)、700(w)。
【0087】
元素分析値(%);C:47.42、H:9.00、N:1.44 (計算値;C:47.48、H:9.28、N:1.50)。
【0088】参考例4参考例2で得られた4−(2−ジメチルヒドロキシシリルエチル)ピリジン12.2g(67.4mmol)をテトラヒドロフラン110mlに溶解しアルゴンガス雰囲気下室温にて水素化ナトリウム2.9g(72.5mmol)を加え2時間撹拌した。
【0089】この溶液にヘキサメチルシクロトリシロキサン、53.1g(251.4mmol)をテトラヒドロフラン360mlに溶解した溶液を加え、さらに室温にて17時間撹拌した。
【0090】次に、3−メタクリロキシプロピルジメチルクロロシラン35g(158mmol)を加えて反応を停止させた。溶媒を留去した後生成した塩を濾別し、減圧下120℃にて2時間加熱撹拌しさらにカラム精製したところ無色透明な粘性のあるオイル40.6gが得られた。H−NMRスペクトルおよびIRスペクトルから、この生成物は、下記式(10)で示される構造のピリジン環を片末端に、もう一方の末端に3−メタクリロキシプロピル基を有するポリジメチルシロキサン(以下、PsMAという)であることがわかった。
【0091】
【化15】


【0092】なお、上記の構造において、ポリジメチルシロキサン鎖の平均重合度nはH−NMRスペクトルにおけるシリル基上のメチル基のプロトンピーク(0.2ppm)とピリジン環のプロトンピーク(7.15および8.48ppm)の積分比から求めた。それ等の結果を以下に示す。
【0093】1H‐NMRスペクトル、δ(CDCl3ppm);0.20(s、シリル基上のメチル基のプロトンピーク)、0.90(m、エチレン鎖およびプロピレン鎖のプロトンピーク)、1.70(m,エチレン鎖のプロトンピーク)、1.95(m、プロピレン鎖のプロトンピーク)、2.03(s、メタクリロキシ基のメチル基のプロトンピーク)、4.18(t、プロピレン鎖のプロトンピーク)、5.52および6.09(m、メタクリロキシ基のメチレン基のプロトンピーク)、7.15(dd、ピリジン環のプロトンピーク)、8.48(dd、ピリジン環のプロトンピーク)。
【0094】IRスペクトル(cm−1);3100(w)、2960(s)、2950(m)、2890(s)、1720(s,カルボニル基による特性吸収)、1600(s、ピリジン環の特性吸収)、1560(s)、1410(s)、1320(s)、1255(s、Si−C結合による特性吸収)、1160(m)、1050(s、Si−O結合による特性吸収)、935(m、Si−C結合による特性吸収)、840(s)、800(s)。
【0095】
【実施例】実施例 1参考例3で得られた重合性ポリオルガノシロキサンTPSMA35部、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート45部およびメチルメタクリレート20部を混合し、これに重合触媒として2,2′−アゾビスメチルイソブチレート(以下、V−601という)0.15部を加え、これらの混合物を試験管にとり気相部を窒素置換した、密栓した。
【0096】これを循環式恒温水槽に入れ、50℃で18時間、60℃で6時間重合を行ない、更にこの試験管を循環式乾燥器に移して100℃で2時間、120℃で1時間加熱した。得られた重合体は無色透明であった。得られた重合体を裁断し、切削研磨による機械的加工を施し、直径13mmの円筒状の試験片を作製した。得られた試験片は透明であり、光学歪みもなく好ましいレンズ材料であった。また、この経験片を更に切削研摩加工し、コンタクトレンズを作製した。そのレンズの切削面及び研磨面はともに良好であり、装用した時、くもりもなく良好な装用感を得た。
【0097】実施例 2〜3実施例1で用いた各単量体の量を表1のように変える以外は実施例1と同様の方法により重合し、得られた重合体を切削研磨加工してコンタクトレンズを作製した。
【0098】実施例 4〜6実施例1で用いた単量体の内、重合性ポリオルガノシロキサンにPSMAを用いた以外は実施例1と同様に重合し、得られた重合体を切削研摩加工してコンタクトレンズを作製した。
【0099】実施例 7単量体としてPSMA55部及びメチルメタクリレート45部を用いた以外実施例1と同様の方法で重合を行ない、同様にしてコンタクトレンズを作製した。
比較例 1〜3重合性ポリオルガノシロキサンに3−メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シランを用いた以外は実施例1〜3と同様の組成および重合方法で重合した。
【0100】以上の実施例1〜7および比較例1〜3の重合組成と得られた重合体のレンズ物性値を表1に示す。
【0101】
【表1】


【0102】
【発明の効果】本発明によれば、ピリジン環を末端に有する重合性ポリオルガノシロキサンを必須単量体成分とし重合して得られる重合体からなる眼用レンズ材料を提供することができる。
【0103】このような眼用レンズ材料よりえられるコンタクトレンズは、高い酸素透過性を有するので角膜の代謝機能を損なうことなく長期間装用することができ、しかも優れた水濡れ性をも併せもつため、装用中のレンズのくもりおよび、脂質などによる汚れが少ない。
【0104】また、本発明の眼用レンズ材料から得られるコンタクトレンズは、プラズマ処理のような表面処理を行う必要がないので、レンズ製造工程上も大きなメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】参考例3で合成した重合性ポリジメチルシロキサン(TPSMA)のIRチャート。
【図2】参考例3で合成した重合性ポリジメチルシロキサン(TPSMA)のNMRチャート。
【図3】参考例4で合成した重合性ポリジメチルシロキサン(PSMA)のIRチャート。
【図4】参考例4で合成した重合性ポリジメチルシロキサン(PSMA)のNMRチャート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記の一般式で示されるピリジン環を末端に有する重合性ポリオルガノシロキサンを必須単量体成分とし重合して得られる重合体からなることを特徴とする眼用レンズ材料。
【化1】


[式中、Rは炭素数4以上のアルキル基またはフェニル基を表わし、R1〜R6は同一もしくは相異なり、それぞれ置換もしくは非置換アルキル基または置換もしくは非置換フェニル基を表わし、Yは重合性基を表わし、mは0〜2の整数であり、pは1〜6の整数であり、nは3〜10である。]

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【特許番号】特許第3073247号(P3073247)
【登録日】平成12年6月2日(2000.6.2)
【発行日】平成12年8月7日(2000.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−44142
【出願日】平成3年2月16日(1991.2.16)
【公開番号】特開平4−261514
【公開日】平成4年9月17日(1992.9.17)
【審査請求日】平成10年1月27日(1998.1.27)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【参考文献】
【文献】特開 昭60−156706(JP,A)