説明

眼科分析方法

【課題】角膜の曲率変化を測定できる眼科分析方法を提供する。
【解決手段】分析システムを用いる眼科分析方法であって、分析システムは目の角膜の曲率を測定する。当該分析システムは、測定装置と、分析装置と、を有する。測定装置は、角膜10の形状解析データを算出するために用いられる。分析装置は、角膜の形状解析データから、角膜の曲率r、rを導き出すために用いられる。このように、角膜形状解析データから角膜の曲率勾配を導き出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角膜形状解析データ(corneal topography data、角膜形状データ、角膜トポグラフィーデータ)の判定に用いられる測定装置と、角膜の曲率を角膜形状解析データから導き出すのに用いられる分析装置と、を有する分析システムを用いた目の角膜の曲率を測定する眼科分析方法に関する。
【0002】
従来より、この種の分析システムは広く知られており、それらに使用される測定装置は非常に多様な測定方法に基づく。公知の測定装置を用いれば、少なくとも目の角膜の外側表面の形状解析を判定することが可能である。このような状況で判定される形状解析データは、多くの場合分析システムの分析装置を用いて分析と処理が更に行われ、角膜の曲率とその他の情報が、角膜表面のある点又は領域で形状解析データから判定される。角膜の曲率半径又はその曲率は、角膜に起因する異常等の変形、円錐角膜、または角膜損傷が生じない限りは、基本的に常に角膜の表面に亘って一定である。
【0003】
眼鏡やコンタクトレンズの着用の他に、目の屈折強度や視覚障害の矯正に使用される方法としては、屈折矯正手術(refractive surgery)がある。低レベルの異常(Lower order aberrations)は眼鏡やコンタクトレンズで矯正可能であり、高レベルの異常は外科的、例えば原位置でのレーザーによる角膜曲率形成術(レーシック、LASIK)を用いることで矯正可能である。このレーザー法では、角膜内から組織を取り除くことにより角膜の曲率を修正する。角膜におけるこの組織除去は、角膜の切開により可能である。PRK、LASEK(ラゼック)又はepi-LASEK(エピラゼック)等の他の屈折矯正手術法は、角膜表面の処置に用いられる。これら全ての方法において、角膜は組織の切除により薄くなり、この領域において角膜の曲率も修正される。しかしながら、既に知られているように、このような曲率の修正や曲率の不連続性は、長時間経過すると細胞の成長や入れ替わりを通して補填又は延伸される傾向がある。例えば、眼の視力は、外科的処置から2年の期間が経過すると明らかに変わる。このような状況での視力の変化は、決まって角膜表面の領域での曲率の修正や不連続性によるものである。視力の変化や曲率の修正は、特に、白内障(a cataract)、角膜移植、硝子体切除(vitrectomy)、緑内障(glaucoma)、角膜浮腫(corneal oedema)又は細菌性膿瘍(bacterial abscess)等でも起こる。従って、外科的処置後に起こり得る視力の変化と、将来の角膜の曲率変化をより良く推定することを可能とするためには、目の角膜表面の領域における曲率や不連続性をより正確に定量化可能であることがより好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
すなわち、本発明の根底にある責務は、角膜の曲率変化を測定できる眼科分析方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この責務は、請求項1の構成を有する方法により達成される。
【0006】
目の角膜の曲率測定のための本発明に係る眼科分析方法は分析システムを用いて実行されるものであって、当該分析システムは測定装置と分析装置とを有し、角膜の形状解析データは測定装置を用いて判定され、角膜の曲率は角膜の形状解析データから分析装置を用いて導き出される。そして、角膜の曲率勾配(curvature gradient、曲率傾度)は、角膜の形状解析データから分析装置を用いて導き出される。
【0007】
特に、曲率勾配の判定は、目の角膜表面の曲率における不連続性を、定量化可能、測定可能な値で表現することを可能にする。そして、曲率の不連続な位置(position of a discontinuity)や幾何学的特徴を判定できるような、角膜表面の多様な箇所の曲率勾配も判定可能となる。外科的処置後の将来的な視力の変化やその他の場合に起こる視力の変化は、測定された曲率勾配とその位置から推定される。多様な眼の検査の間、いかなる場合でも算出されるような角膜の形状解析データから曲率勾配を単に導き出すことが特に望ましい。既知の形状解析測定値から、必要であれば角膜の異なる曲率半径が複数算出できることが事実である一方で、曲率半径間の遷移域(a transition zone between the curvature radii)をより正確な測定可能な表現(measurable terms)で表すことは、これまでは可能ではなかった。しかし、特に本出願によれば、曲率変化の大きさについての提示をすることが今や可能となった。同時に、形状解析データから角膜の曲率勾配を導き出す方法は、元来、この方法を実行するためには概して重要ではない。
【0008】
この方法の好適な実施形態では、形状解析データは複数の形状解析データセットを含み、各データセットは角膜表面上の1の点(ポイント)を示す。そのポイントは、三次元座標システムにおける当該ポイントの位置により、空間的モデル(spatial model)という方法で定義可能である。例えば、角膜表面上の各ポイントは、形状解析データセットという形で、単純に座標システムと相関的に表現される。例えば、角膜表面の空間的モデルが形状解析データから導き出せるように、各ポイントのためにX、Y,Z座標が特定される。
【0009】
更なる処理工程では、一次微分係数(a first differential quotient)が複数のポイントから分析装置を用いて算出され、その処理では当該各ポイントの中で勾配が決定される。この方法では、角膜表面の三次元空間的モデルの全てのポイントの勾配を判定可能である。
【0010】
これらのポイントの二次微分係数(a second differential quotient)も分析装置を用いて算出され、各点に対し1の曲率もしくは曲率半径が決定される。この方法では、勾配と類似の方法で、角膜表面の三次元空間的モデルにおける各ポイントに対し曲率半径が決定される。よって、多様な曲率半径間の差を今なお決定することが可能となる。このように、外科的処置が施され、そして角膜変形を示す角膜の領域は、当該方法のこの段階においても特定される。
【0011】
最後に、これらのポイントの三次微分係数が分析装置を用いて算出され、各ポイントについての曲率半径の勾配又は曲率勾配が決定される。このように、曲率勾配の方向性と、その大きさが決まる。この方法では、最大曲率勾配がある角膜の領域と、曲率勾配の大きさが視力の長期変化を起こすようなものか否かを容易に決定できる。特に、曲率勾配と、高度な異常との間の関連を判断することができる。曲率勾配の変化に応じ、治療後の治癒プロセスの進行を評価することができ、治癒プロセスの成果を定量化することができる。曲率勾配は、低度の異常と高度の異常の間の基本的な区別をつけるために使用することも可能であり、好適な治療方法を選択するために考慮してもよい。
【0012】
特に、角膜を表す形状解析データで十分な品質のものが収集された場合、分析装置を介して形状解析データからスカラー(scalar)が生成される。スカラー場(scalar field)は、例えば、角膜表面上の任意のポイントの勾配、曲率半径、又は測定可能な他の特性を表すものである。この方法では、角膜表面上の測定可能な変数の分布の概要を作成することができる。
【0013】
このように、例えば、スカラー場の視覚表現(visual representation)もまた分析装置を介して編集され、出力される。目を検査する専門家は、このように、目のための測定データの概要をとても容易に得ることができる。
【0014】
分析装置は、曲率勾配から勾配場(gradient field)を作成することにも用いることができる。勾配場は、位置による微分(differentiation according to the site)により求められるベクトル場、またはスカラー場の勾配である。例えば、スカラー場の大きさの変化の、変化の方向と速度(rate,割合)は、例えば、曲率半径の詳細と共に示される。この場合では、スカラー場の勾配は角膜の曲率の勾配と同等になる。
【0015】
勾配場の視覚表現もまた分析装置を介して編出され、出力される。この場合でも、この方法で眼を分析する者は、角膜表面上の曲率勾配の分布と、その方向及び大きさの特に良好な概要を得ることができる。
【0016】
分析装置は、データ処理用の手段とデータベースとを有する。データベースは、各曲率勾配に割り当てられた曲率勾配の補正値及び曲率半径のデータセットの含む。算出された曲率勾配は、データベースに収納された曲率勾配と一緒に割り当てられ、算出された形状解析データは、適合する曲率勾配の各補正値で修正される。この場合において、データベースは曲率勾配に割り当てられた補正値を経験値又は対比測定から導き出すためのデータセットを含む。補正値は、角膜上や角膜内での外科的処置後の比較的長期の期間にわたって、視力における変化をこのように表す。適合するまたは類似の曲率勾配が、検査または測定対象の目にある場合、これらの曲率勾配のための、視力における本質的な等価変化(essentially equivalent change)が起こると考えらえる。
【0017】
従って、測定対象の目の将来の視力変化は、修正された形状解析データから決定される。従って、外科的処置後やその処置の間であっても、予期される視力に関してこれを修正することが可能となる。また、視力の起こりうる変化の予測の準備も容易に可能となる。
【0018】
形状解析データが角膜の断面像から算出される場合が特に好ましい。この方法では、角膜の表面だけではなく、角膜の厚さのような、他の角膜描写データをも測定に含めることができる。特に、角膜厚の同時測定により、角膜に通常かかる眼球内の圧力を計算に含めることができる。このように、例えば角膜が通常より薄い領域は眼球内圧力により膨らみを起こし、そして曲率や曲率勾配においても変化を起こす。更に、曲率勾配と角膜厚(パキメトリー)測定との間の関連性も判定することができる。
【0019】
シャインプルーフ配置(a Scheimpflug arrangement)の観察装置及びスリット光装置を有するシャインプルーフシステムを用いて角膜の断面像を得ることが特に好ましい。この方法では、前眼房(an anterior eye chamber)の全領域を、例えば観察装置のカメラを用いて捉え、得た画像データから光学的境界面を算出し、導き出すことが可能である。シャインプルーフシステムは、目の視軸の周りを回転可能なように設計されており、多数の断面像を撮影することができる。視軸に対するシャインプルーフの多様な回転角度で断面像が得られると、それら断面像から前眼房の三次元モデルを導き出すことが可能であり、その三次元モデルから、他の情報の中でも角膜の形状解析データを容易に算出することができる。
【0020】
あるいは、算出すべき形状解析データのために角膜曲率計(keratometer、ケラトメーター)を用いることもできる。角膜曲率計は、例えば、プラチドリングを備えたビデオケラトグラフ(a video-keratograph、ビデオ式形状記録装置)、または、波面分析に基づく形状分析データの計算を行うものである。
【0021】
あるいは、算出すべき形状解析データのために、光干渉断層計(optical coherence tomography、OCT)を用いることもできる。形状解析データを得るのはもちろん、高解像度の三次元顕微鏡検査もまた生態組織で行うことができる。
【0022】
原位置でのレーザーによる角膜曲率形成術(LASIK)、いわゆるレーシックのためのレーザー装置も、決定されたそれぞれの曲率勾配に基づき稼働する。例えば、外科的処置の間、角膜は特に正確に切除可能である。外科的処置は、分析装置を用いて確立されたデータに基づいて、自動化又は一部自動化された方法で実行することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、光軸11に沿った目の角膜10の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照して本発明の一実施形態を詳細に説明する。
【0025】
図面は、光軸11に沿った目の角膜10の断面図を、単純化し、模式化したものであり、詳細は示していない。角膜10の外側表面12は、角膜10の縁部領域13で半径rの曲率を有する。角膜10の組織材料15は図中ハッチング(平行斜線)で示されている。角膜10の中心領域14では角膜10の組織材料15が外科的処置で取り除かれ、その中心領域14で角膜10が半径rの曲率を持つようになる。rはrより大きい。加えて、角膜10の厚さは、その縁部領域13と比較すると中心領域14で著しく減少する。その結果、曲率の不連続性や曲率勾配における著しい変化が、角膜10の外側表面12の曲率半径rとrの間の遷移領域16(a transition area)で起こる。
【0026】
この分析方法によれば、遷移領域16における曲率勾配は、微分係数の算出や遷移領域16での曲率を求めることにより決定される。算出された曲率勾配を基に、外科的処置完了の直後であっても、遷移領域16での細胞の変化の結果としての視力の起こり得る変化を推定し、そして、また曲率勾配における変化も推定することが可能となる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜(10)の形状解析データを算出する測定装置と、
前記角膜の前記形状解析データから、当該角膜の曲率(r、r)を導き出す分析装置と、を有する分析システムを用いて目の角膜の曲率を測定する眼科分析方法であって、
前記分析装置を用い、前記角膜の前記形状解析データから当該角膜の曲率勾配を導き出すことを特徴とする眼科分析方法。
【請求項2】
前記形状解析データは複数の形状解析データセットを含み、前記各データセットは角膜表面(12)上の一のポイントを表し、三次元座標システム内での当該ポイントの位置が決定されることを特徴とする請求項1記載の眼科分析方法。
【請求項3】
前記分析装置を用いて複数のポイントの一次微分係数を計算し、前記各ポイントについて勾配を決定することを特徴とする請求項2記載の眼科分析方法。
【請求項4】
前記分析装置を用いて複数のポイントの二次微分係数を計算し、前記各ポイントの曲率(r、r)を決めることを特徴とする請求項3記載の眼科分析方法。
【請求項5】
前記分析装置を用いて複数のポイントの三次微分係数を計算し、前記各ポイントの曲率勾配を決定することを特徴とする請求項4記載の眼科分析方法。
【請求項6】
前記分析装置を用いて前記形状解析データからスカラー場を形成することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の眼科分析方法。
【請求項7】
前記分析装置を用いて前記スカラー場の視覚表現を編集し、出力することを特徴とする請求項6記載の眼科分析方法。
【請求項8】
前記分析装置を用いて前記曲率勾配から勾配場を生成することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の眼科分析方法。
【請求項9】
前記分析装置を用いて前記勾配場の視覚表現を編集し、出力することを特徴とする請求項8記載の眼科分析方法。
【請求項10】
データベースを含む前記分析装置を用いる眼科分析方法であって、
前記データベースは、複数の曲率勾配と、各曲率勾配にそれぞれ割り当てられた複数の補正値と、のデータセットを有し、
算出された前記形状解析データは、適合する曲率勾配のそれぞれの補正値で補正することを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の眼科分析方法。
【請求項11】
目に対し、視力における将来の変化を、補正された前記形状解析データから決定することを特徴とする請求項10記載の眼科分析方法。
【請求項12】
前記角膜(10)の複数の断面像から、前記形状解析データを決定することを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の眼科分析方法。
【請求項13】
シャインプルーフ配置がされた観察装置及びスリット光装置を有するシャインプルーフシステムを用い、前記角膜(10)の複数の前記断面像を得ることを特徴とする請求項12記載の眼科分析方法。
【請求項14】
前記シャインプルーフシステムは、目の視軸(11)の周りを回転可能なように構築され、複数の断面像を得ることが可能なことを特徴とする請求項13記載の眼科分析方法。
【請求項15】
角膜曲率計を用いて前記形状解析データを決定することを特徴とする請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の眼科分析方法。
【請求項16】
前記形状解析データは光干渉断層計を用いて決定することを特徴とする請求項1乃至請求項15のいずれか1項記載の眼科分析方法。
【請求項17】
決定されたそれぞれの前記曲率勾配に従って、原位置でのレーザーによる角膜曲率形成術(LASIK)用のレーザー装置を動作させることを特徴とする請求項1乃至請求項16のいずれか1項記載の眼科分析方法。


【図1】
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【公開番号】特開2013−75160(P2013−75160A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−206448(P2012−206448)
【出願日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【出願人】(506053618)オクラス オプティクゲレーテ ゲーエムベーハー (19)
【氏名又は名称原語表記】Oculus Optikgeraete GmbH