説明

眼科手術システムならびに眼科手術を準備および実行する方法

眼科手術を実行するための方法は、眼内レンズの目標方向、または、眼内レンズの現在の方向と目標方向との差を表すマーカを生成するために、手術前に記録された画像と手術中に記録された画像とを比較することを含む。
眼科手術システムは、手術中に用いられ、カメラ97を有するイメージングシステムと、手術前に用いられ、同様にカメラを有する診断システムとを、夫々含む。手術中に用いられるイメージングシステムは、記録された画像に基いて演算を実行し、各々の方向値を決定するために、画像処理装置115を含む。方向値から、眼内レンズの目標方向を表すマーカの画像が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、眼科手術システム、眼科手術を準備する方法、および眼科手術を実行する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の簡単な説明
眼科手術の一例は、白内障手術である。白内障手術において、白内障が発症した人の眼の水晶体は、人工レンズ(IOL、眼内レンズ)と取り替えられる。この手術は、一般的には、たとえば外科用顕微鏡等の光学装置を外科医が用いることによって行なわれる、顕微鏡を使った手術の介入である。これのために、傷付けることなく薬によって広げられた虹彩の内縁の内側において、水晶体嚢に開口を設けるために、外科手術者は、強膜または角膜に切り込みを入れる。たとえば超音波乳化の後に、この切り込みを通って、体の水晶体が、まず吸引によって取り除かれ、そして次に人工レンズが挿入される。
【0003】
人工レンズの光学特性は手術の前に決定され、人工レンズは、決定された光学データに基いて製造されたり、または、光学レンズの在庫の中から決定された光学データに基いて選択される。たとえば、角膜の表面の曲率、眼の長さおよび別の因子などの、手術が行なわれる眼の特性データが測定される眼の検査に基いて、人工レンズの光学データが決定される。手術が行なわれる眼の形状データから、人工レンズの挿入後に自然な視界が得られ、好ましくは、患者が眼鏡をかけずに、あるいは欠陥のある視界を修正するために低い度数の眼鏡をかければよいようにするように、人工レンズの光学データが決定される。これのために、手術が行なわれる眼に、乱視の性質を有する人工レンズを挿入することが望ましい場合がある。乱視の性質は、たとえば、互いに直交する方向における2つの異なる屈折力と、たとえば水平方向、すなわち頭部の水平軸に対する軸の方向とによって特徴付けられ得る。
【0004】
乱視の人工レンズの患者の眼への挿入において外科医を支援するための装置および方法がDE 10 2004 055 683 A1から知られている。
【0005】
従来から実施されていた方法を、発達した支援器具と組み合わせても、所望の成功に常に到達するとは限らないことが判明している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の概要
本発明の目的は、従来の眼科手術システムおよび眼科手術を準備ならびに実行する方法を改善することである。同様に、発明の目的は、乱視の人工レンズを挿入するのに有用であり得る眼科手術システムを提案することであり、乱視の人工レンズを挿入するのに同様に有用であり得る、眼科手術を準備するための方法ならびに眼科手術を実行する方法を提供することもまた、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
眼科手術システムを提供する発明の実施例は、外科医によって知覚され得、特に、眼に挿入される人工レンズを眼と相対的に位置決めするのに外科医を補助し得るマーカの画像を生成するように構成された表示装置を含む。
【0008】
本発明の実施例によれば、眼科手術システムの表示装置は、眼の画像とマーカの画像とを生成する。マーカは、画像処理装置によって決定された方向値に基いて表される。表示は、眼の表示とマーカの表示とが互いに重ね合わせられるように、表示装置によって生成される。画像処理装置は、第1の画像および第2の画像に基いて方向値を判定するように構成される。判定は、たとえば、第1の画像と第2の画像との比較等、2つの画像を含む演算を特に含み得る。第1の画像は、第2の画像よりも早い時点にて記録される。特に、第2画像は、マーカとともに眼が表示される直前に記録される。一方、第1の画像は、第2の画像の記録の30分前または数時間前あるいは数日前に記録される。したがって、眼科手術システムは、第1の画像を記憶するための画像メモリを含み得る。しかしながら、画像手術システムは、第2の画像を記憶するための画像メモリも含み得る。
【0009】
発明の実施例によると、眼科手術システムは、たとえば、従来の外科用顕微鏡に実際には類似し得るイメージングシステムを含む。イメージングシステムは、方向値のためのデータメモリと、手術の前に記録された、手術下にある眼の第1の画像のためのイメージメモリと、手術下にある眼の第2の画像を手術中に記録するためのカメラと、第1の画像および第2の画像に基いて方向値を決定するように構成された画像処理装置と、眼の画像ならびに決定された方向値に基づくマーカの画像を生成するための表示装置とを含む。
【0010】
眼科手術システムの別の実施例によれば、イメージングシステムは、手術下にある眼から離してカメラを設置するためのスタンドを含む。スタンドは、互いに直行する3つの空間的方向にカメラの配置を可能とする複数の関節を含む。ここで、手術下にある眼の画像を記録するカメラは、外科医にとって都合がよいように、かつ患者の位置に対応しするように、外科医または助手によって位置決めされる。
【0011】
イメージングシステムは、たとえば、1つ以上の対物レンズと、1つ以上の個別の接眼レンズまたは接眼レンズの対とを含み得る。カメラは、外科用顕微鏡のビーム経路内に配置され得、たとえば、眼の画像を生成するために、顕微鏡の対物レンズを横断した光を受け得る。
【0012】
ある実施例によれば、表示装置は、接眼レンズに向かうビーム経路内に、マーカの画像を投射するための画像プロジェクタを含み得る。
【0013】
発明の実施例によれば、表示装置は、ヘッドマウント装置(「ヘッドマウントディスプレイ」)および/または、ブラケットあるいはスタンド上で運ばれるモニタを含み得る。
【0014】
発明の実施例によれば、表示装置は、第1の画像、すなわち、第2の画像よりもいくらか前に記録された画像を受取るためのインターフェースを含み、それによって、画像処理装置が受取られた第1の画像を処理できる。
【0015】
本発明の実施例によると、眼科手術システムは、イメージングシステムとは別個の診断システムを含む。診断システムは、手術される眼の第1の画像を記録するカメラと、入力装置への中間入力および画像処理装置による処理に特に適したフォーマットで第1の画像を出力するためのインターフェースとを含む。
【0016】
ここで、例示の実施例によれば、診断システムは、手術される眼の形状パラメータを計測するとともに、診断システムによって検査された眼への挿入に適した人工レンズの光学データが計算できるように対応する計測データを提供するようにさらに構成される。
【0017】
この計算は、実験的に得られた数式に基き得り、特に、コンピュータ支援された態様で、そのような数式に基いた計算が実行される。人工レンズの光学データを診断システムが直接出力することも可能である。これらのデータは、好ましくは、眼と相対的な人工レンズの好ましい方向を表す方向値を含む。
【0018】
本発明の実施例によると、患者の眼の第1の画像を記録するステップと、眼の第2の画像を記録するステップと、眼の画像を提供するステップと、記録された第1の画像および第2の画像に基いて眼の画像に対する方向を決定するステップと、決定された方向に基くとともに、眼の画像と重ね合わされたマーカの画像を生成するステップとを含む、眼科手術を準備する方法が提供される。
【0019】
ここで、マーカは方向を示し得り、人工レンズが挿入された眼が良好な視力を得ることができるように、この方向に従って、後で眼に挿入される人工レンズが位置決めされる。方向は、とりわけ、第2の画像の前に記録された眼の第1の画像に基いて定められるため、人工レンズは、比較的高い精度で後で位置決めされ得る。第2の画像が記録されたとき、患者の眼窩の中で、通常の位置と相対的に眼が回転することにより、第2の画像だけに基く方向が最適な方向とはならないことが特にあり得る。
【0020】
たとえば、そのような回転は、眼のマニュピュレーションによって起こり得る。また、そのような回転は、「サイクロトーション」と呼ばれる現象によって起こり得る。「サイクロトーション」によれば、人が着座位置から横になると、眼が眼窩内で最大10°回転し得る。しかしながら、この回転の範囲と量は患者毎に異なり、それを予測することは困難である。この現象は、患者の頭部が直立位置にあるときに、手術前の眼の測定が行なわれ、頭部が横になっているときに第2の画像と人工レンズの後の方向との記録が行なわれる場合に、特に重要である。
【0021】
第1の画像と第2の画像とに基いて方向を定めることによって、第1の画像の記録と相対的に第2の画像の画像が記録されるときに、眼窩内での目の回転を補償することが可能である。特に、第1の画像が記録されたときの眼に対する好ましい方向に対応するように方向を定めることが可能である。
【0022】
第1の画像と第2の画像とに基く方向の決定は、例えば、血管の構造のような、眼の強膜の構造に向けられた、画像の比較を特に含み得る。第2の画像を記録する時間において、虹彩はたいてい薬を用いて広げられており、第2の画像において非常に小さい範囲でしか見えないため、眼の虹彩の構造は、しばしば、そのような比較に用いられ得ない。しかしながら、強膜内で見ることができる、血管のような眼の別の構造を、十分な画質で画像内に配置することが可能である。配置されたこれらの構造に基く画像の比較により、第1の画像における眼の方向と相対的な、第2の画像における眼の方向の算出が可能となる。
【0023】
十分な精度で強膜内の構造を検出するために、第1の画像および第2の画像の記録に、高解像度のカメラを使用することが想定される。たとえば、この目的のために、カメラは、たとえば、960×720=691,200画素より多い、または、1,280×720=921,600画素より多い、または200万画素より多い数の、画像要素、すなわち画素の配列を含み得る。特に、診断システムのカメラは、イメージングシステムのカメラよりも多くの数の画素を含み得る。
【0024】
特定の実施例によれば、第1の画像を記録するカメラに向かうビーム経路中および第2の画像を記録するカメラに向かうビーム経路中に、光学フィルタが設けられ得る。フィルタは、画像の生成のために用いられる光のスペクトルに選択的に作用する。たとえば、フィルタは、赤外線光、すなわち、たとえば800nm以上の波長を有する光のみを通す赤外線フィルタであってもよく、蛍光染料の発光スペクトルに適合したバンドパスフィルタであってもよい。同様に、カメラは、赤外線カメラ、または、特定の波長の範囲を選択的に感知でき、カメラに既に内蔵された付随フィルタを有する別のカメラであり得る。
【0025】
上述した眼科手術の準備方法は、外科医によって必ずしも実行されず、外科医によって実行される手術のために患者の準備をする助手によっても実行され得るように、患者の身体の完全性を損なう工程を有さない。
【0026】
本発明の別の実施例によれば、たとえば、眼からの水晶体の除去も含み得る手術を実行する方法が提供される。ある実施例によれば、この方法は、眼への人工レンズの挿入と、眼と相対的な、人工レンズの位置決めとをも含む。
【0027】
発明の別の実施例によれば、たとえば、記録された第1の画像においてマーカを視認でき、少なくとも、第2の画像が記録されるまでの限られた期間は残る、強膜のある領域において、眼にマーカが付けられる。そのようなマーカは、第1の画像と第2の画像の2つの画像における眼の相対的な方向を判定するために、第1の画像と第2の画像との画像比較において用いられる。これは、たとえば、強膜内の血管のような自然の構造が、画像内に高いコントラストで検出できないときに特に有用であり得る。マーカは、たとえばナイフを用いて、溝等として強膜に付けられる。さらに、染料を用いてマーカを眼に付けることが可能であり、染料は、たとえば数時間または数日後に見えなくなるように、生分解可能であり得る。
【0028】
例示の実施例
発明の実施例は、以下の図面を用いてさらに詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】ある実施例に係る眼科手術システムの診断システムの概略図である。
【図2】図1に示される診断システムにおける、眼科手術システムのイメージングシステムの略図である。
【図3】図1の診断システムのカメラを用いて記録された患者の眼の第1の画像の略図である。
【図4】図2のイメージングシステムのカメラを用いて記録された患者の眼の第2の画像の略図である。
【図5】本発明の実施例に係る方法を示すフローチャートである。
【図6】本発明の別の実施例に係る方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施例に係る眼科手術システムは、図1を参照して後で説明される診断システムと、図2を参照して後で説明されるイメージングシステムとを含む。
【0031】
診断システム1は、患者5の眼3を計測する機能を果す。これのために、診断システム1は、患者の眼3が診断システム1の入力オプティクス11に対向するように配置されるために、患者の顎のための台7と、患者の額のためのサポート9とを含む。計測ビーム経路13は、半透明ミラー15で反射され、中間オプティクス17を介して、診断システム1の、模式的に示された計測モジュール19に入る。計測モジュール19は、たとえば眼の角膜の曲率や、眼球の長さ等の、眼の形状データを取得する機能を果す。これに関して、診断システムは、例えば、US5,054,907およびUS5,349,398からの例に対して一例が知られるケラトメータ、または、US5,493,109またはUS6,004,314からの例に対して一例が知られるOCT(光干渉断層法)システム等の従前の診断システムに相当する。診断システムの一例は、IOLマスタの名称で、ドイツ、イェーナのカール ツァイス メディテックによって販売されているシステムである。
【0032】
さらに、本発明の示された実施例によれば、診断システムは、半透明ミラー15を通過した光がカメラオプティクス23を介して供給される、例えば1,280×720画素の高解像度カメラ21を含む。そのような画像の一例が、図3に模式的に示される。そこに示される画像25は、瞼27、強膜29、虹彩33の外縁31、虹彩33の内縁35、および瞳孔の中心37を表す。さらに、血管39が画像25中に見える。
【0033】
診断システム1の計測モジュール19を用いて取得された測定データは、中間メモリ41に伝送され、そこから、例えばデータライン45を介して制御システム43に読み込まれ得る。制御システム43は、例えばモニタ47等の出力装置、例えばキーボード49等の入力装置が接続された、例えばパーソナルコンピュータによって提供される。コントローラ43は、インターフェース51を介して測定データを受取り、それらをさらに処理し、そして、データメモリ53に眼3の測定値の結果を記録し得る。同様に、カメラ21によって所得された、画像データの1つ以上の組が、たとえばデータライン45およびインターフェース51を介してコントローラ43に入力され得、そこでさらに処理され、画像メモリ55内に画像データとして記録され得る。そして、メモリ53からの計測データと、メモリ55からの画像データとは、たとえば、ドライブ57に配置されたコンパクトディスクに書き込まれたり、ネットワーク59に伝送されたりし得る。計測データは、特に、乱視特性を含む人工眼内レンズのための光学データと、したがって、特に、2つの屈折力および方向を含む。
【0034】
図2に示されるイメージングシステム61は、図2において一部のみが模式的に示され、白内障手術を施術するための枕73に頭部5が寝かされた患者5の眼3から離してイメージングシステム61の対物レンズ71を配置するために複数のスタンド部材67と関節69とを含むスタンド65によって運ばれる、ハウジングボディ63を含む。オブジェクティブ71の対物面から発する対物側イメージングビーム束75は、対物レンズ71によって、画像側ビーム束77に変換される。複数のレンズ81を有する一対のズームシステム79は、ビーム束77から2つの平行なビーム束83および84をピックアップする。ビーム束83および84は平行であり、かつイメージングシステムの光学軸85について対称であり、それぞれが、眼3の画像を観察するために外科医が左眼および右眼を用いて覗き込む接眼レンズ87および88に供給される。
【0035】
イメージングシステム61は、眼3の画像がカメラチップ97上で生成されるように、アダプタオプティクス95を介してカメラチップ97にビーム束93を向けるために、一部のビーム束83上に配置された、半透明ミラー91をさらに含む。カメラチップ97により記録された画像は、イメージングシステム61のコントローラ101により読み込まれ、画像メモリ103内に記憶される。
【0036】
繰り返すが、コントローラ101は、たとえばキーボード105等のような入力装置と、たとえばモニタ107等のような出力装置とが接続されるパーソナルコンピュータであり得る。
【0037】
コントローラ101は、診断システム1によって生成されたデータの少なくとも一部を受取るために、たとえばネットワーク59に接続されたインターフェース109をさらに含む。同様に、インターフェース103は、たとえばコンパクトディスクからこれらのデータを読み取るために、データキャリアリーダに接続され得る。
【0038】
コントローラ101は、たとえば診断システム1によって記録された第1の画像25を記憶するための画像メモリ111を含む。
【0039】
コントローラ101は、人工レンズの決定された目標方向を記憶するためのデータメモリ113をさらに含む。ソフトウエアとしてコントローラ101内で実現され得る、コントローラ101の演算および画像処理装置115は、メモリ111内に記憶された眼の第1の画像、メモリ103内に記憶された眼の第2の画像およびメモリ103内に記憶された目標方向に基いて、モニタ107に表示される別の画像を算出する。モニタ107に加えて、この別の画像は、ヘッドマウントディスプレイ121によっても表示され得る。さらに、イメージングシステム61の示された実施例は、たとえば、LCDディスプレイ等の表示装置125と、投射オプティクス127と、半透明ミラー129とを含むプロジェクタ123を含む。半透明ミラー129は、平行ビーム束84内に配置され、表示装置125によって表示されるパターンを投射する。そのパターンは、接眼レンズ26を覗き込んだときに眼3の画像に重ね合わされて視認されるように平行ビーム束84内にオプティクス127によって投射される。
【0040】
図4は、演算および画像処理装置115によってモニタ107上に表示された、模式的な画像141を示す。画像において、乱視用の眼内レンズ143が眼3の水晶体嚢に既に導入されている。乱視用の光学性質のため、乱視用の眼内レンズ143は、水晶体嚢内に正しく位置決めされるべきである。この手術において、瞳孔は薬を用いて広げられており、これが、図3の図面に比べて虹彩の内縁35と虹彩の外縁31との距離が短い理由である。眼内レンズ143は、中央レンズ部145と、それぞれハプティクス147を含む反対側に伸びた周辺部とを含む。図中、ハプティクス147は、眼内レンズの形状的な特徴として明確に視認され、目印としての機能を果たす。しかしながら、たとえば線等の別個の目印が、方向を支援する機能を果たすためにレンズ143に適用されることも可能である。
【0041】
図面141において、瞼27および虹彩31,35等の眼の構成要素ならびに眼内レンズ143は、カメラ97によって記録された眼の画像と対応するように描かれる。眼のこれらの構成要素と重ね合わされて、画像141において示される線、すなわちマーカ151は、画像141において、瞳孔の中心37を通過して伸び、ハプティクス147の中心が線151と一致すれば、眼の目標方向に従って眼の中で眼内レンズ143が正しく位置決めされるように位置決めされる。
【0042】
マーカ151の画像は、演算および画像処理ユニット115により以下のようにして作成される。
【0043】
画像114内において中心37の位置を決定するとともに、中心37を十字または別のマーカで表示するために、演算および画像処理ユニット115は、カメラ97によって記録され、画像メモリ103内に記憶された虹彩の内縁を決定する。さらに、印の正しい位置、そしてシステムの正しい機能を確認できるようにするために、中心37の回りに円152が表示され得る。円は、たとえば、虹彩の内縁35と外縁31との間に拡がる。さらに、画像処理ユニット115は、たとえば血管39等の角膜の構造物に関して、メモリ103とメモリ111とに記憶された画像を比較する。この比較から、演算ユニット115は、画像内に示される眼の相対的回転を算出する。たとえば、カメラ97によって画像化された眼は、サイクロトーションのために、診断システム1のカメラ21によって記録された眼の画像に対して相対的に回転され得る。そして、メモリ113内に記憶された眼内レンズの目標方向に基くとともに、画像の比較から得られた回転に基いて、演算および画像処理ユニット115が、正しく位置決めされるために眼内レンズ143が画像141内で有すべき現在の方向を決定する。この現在の方向は、画像141内において、マーカとしての直線151によって示される。そして、外科医は、マーカ151に従って眼内レンズを調整することが可能である。
【0044】
マーカ151の画像が、実時間に対して少し(たとえば300ms前後)遅れて更新されるように、マーカ151を算出するための説明された処理は、表示装置61によって繰り返され、カメラ97によって記録された、継続的に更新された現在の画像に基いて実行される。
【0045】
マーカの画像および眼の構成要素の画像の両方が出力デバイスモニタ107およびヘッドマウントディスプレイ121に表示される一方で、マーカ151は、接眼レンズ88のビーム経路内の半透明ミラー129によって眼の構成要素との重ね合わせられるため、表示装置125がマーカ151のみを示したとしても十分である。
【0046】
診断システム1のカメラ21を用いて第1の画像を記録する前、眼の強膜29に2つ以上のマーカ155を適用することも、別の可能性としてある。マーカ151は、たとえばインク、または強膜内で特別に作られた小さな傷によって形成され得る。これらのマーカ155は、まさに血管39の構造のように、記録された画像において眼に見えるものであり、画像の回転をより簡単に、かつ、より大きな信頼性を備えて決定するために画像処理において用いられる。
【0047】
図1の図面において、イメージングシステム61は、2つの接眼レンズビーム経路を備えた外科用顕微鏡である。しかしながら、接眼レンズを有さないより簡易なイメージングシステムを用いることも可能である。この場合、表示は、モニタまたはヘッドマウントディスプレイを介して実現されなければならない。
【0048】
眼科手術を準備する方法および眼科手術を実行する方法の実施例が、図5に示されるフローチャートを参照して要約される。従前のケラトメータの機能を有する診断システムを用いることによって、または、OCTシステムを用いることによって、IOLデータ202、すなわち人工眼内レンズの光学データが、たとえば角膜の曲率および眼の長さなどの、手術される眼から得られた測定データに基いて、ステップ201において決定される。たとえば、垂直方向であり得る共通の基準方向に関連して、画像データの方向およびIOLデータに含まれる眼内レンズの目標方向が取得されるように、ステップ203において、眼の画像データ204が、診断システムに内蔵されたカメラによって記録される。診断システムを用いた検査の間、患者の頭部は直立に向けられ得える。
【0049】
IOLデータ202に基き、眼内レンズの製造のための注文が発行されたり、眼内レンズの在庫の中から該当する眼内レンズが選択される。
【0050】
そして、患者は、手術の実行を支援する表示装置の前に眼を位置させる。表示装置は外科手術用の顕微鏡であり得、患者の頭部は仰向けに、すなわち水平にされる。最初に、助手が患者の位置をチェックし、表示装置の必要な調整を行なう。調整は、患者の眼の中の眼内レンズの正しい方向を示すマーカを正しく表示することなどをも含み得る。このために、ステップ205において、表示システムのカメラを用いて画像データ206が取得される。ステップ205において記録された画像内の眼内レンズの方向を決定するために、ステップ207において、画像データ204と、IOLデータ202内に含まれる目標方向とともに、イメージデータが演算処理される。ステップ205において記録された眼の画像に対応する眼の要素および眼の中の眼内レンズの目標方向を表すマーカの両方が、ステップ209において表示される。
【0051】
ステップ201、203、205、207および208は、顕微鏡を使った手術を実行する外科手術者または外科医とは異なる助手により実行され得る。
【0052】
次に、患者の眼から水晶体を取り除くために、外科医がステップ211を実行する。その後、ステップ213において、人工眼レンズが眼の中に挿入される。人工眼レンズの目標方向を表すマーカの画像を更新するために、上述したステップ205、207および209に対応する後のステップ205’、207’および209’が続く。この目的のため、ステップ205’において取得された、更新された画像データ206’、画像データ203、および、IOLデータ202に基いて、ステップ207’において演算が実行され、この演算の結果がステップ209’において表示され、ステップ209’において生成された画像から、外科医は、レンズの方向の修正の必要性を検出し、適用可能であれば、ステップ215において、人工眼レンズの方向を修正する。ステップ205’、207’、209’および215は、人工眼レンズの方向の結果に外科医が納得するまで繰り返され得る。
【0053】
手術の前に実行され、かつ助手により実行され得るステップ201、203、205、207および209とは異なり、ステップ211、213、205’、207’、209’および215は、外科手術者または外科医によって実行される手術内工程として指定される。
【0054】
眼科手術を準備する方法および眼科手術を実行する方法の別の実施例が、図6のフローチャートを参照して説明される。ここで、図5中に用いられた参照番号と同様の参照番号は、図5を参照して説明された実施例のステップに対応している、図6を参照して説明された実施例のステップを指す。これらの類似の参照番号は、番号が同じであり、添字「a」のみが異なる。以下では、重複した記載を避けるために、同様の参照番号によって指し示されたステップの説明のために、図5の記載における対応するステップの説明が参照される。
【0055】
図5を参照して説明された実施例と同様の態様で、眼を計測することにより、ステップ201aにおいて、要求される眼内レンズのデータ、すなわち、IOLデータ202が求められる。ステップ301において、IOLデータ202aに基いて眼内レンズが製造される。ここで、眼内レンズの製造を専門とし,IOLデータ202が、ファクシミリまたはeメール等の電気通信媒体を介して送信され、移植の準備が整った医師、病院または患者に提供されるように、製造された眼内レンズを最終的には送り届ける製造業者によって、生産がなされてもよい。
【0056】
ステップ302において、手術が施される眼にマーカが付けられる。記録された画像において後で確認できるのであれば、任意の所望の態様で眼にマーカが付けられ得る。眼にマーカを付ける例は、硬い物体を用いて窪みまたは溝を設けること、ナイフなどを用いて、へこみまたは窪み等を設けること、ペンまたはスプレー装置を用いて、眼の強膜に、インク等の染料を塗ること等を含む。
【0057】
眼にマーカが付けられた後、ステップ203aにおいて、画像データ204aをもたらす、眼の第1の画像が記録される。図5を参照して前述したように、画像データ204aから、後で、眼の方向と眼内レンズの目標方向とが基準方向に関連して取得される。
【0058】
レンズを製造した後であって、ステップ203aにおける画像の記録の直前に、ステップ302におけるマーカ付けが、図6を参照して説明される実施例において行なわれる。しかしながら、IOLデータを求めた(ステップ201a)後、レンズを製造する(ステップ301)前に、眼のマーキングをすでに実行することが可能であり、IOLデータを求める(ステップ201a)前であっても、眼のマーキング(ステップ302)を実行することも可能である。ステップ302aを実行する時期は、特に、眼に付けられたマーキングがどの程度の時間見えるかに依存する。たとえば、インク、または押下により作られた窪み等による、あるマーカは、時間とともに薄くなったり、減退したりする。レンズの製造には数時間、または数日必要であり、したがって、眼へのマーク付けは、マーカの可視性の耐性に基いて、レンズの製造前または後に実行される。
【0059】
ステップ203aにおいて眼の第1の画像が記録された後、図5を参照して説明された実施例のステップと同様の態様で、後のステップ205a〜215が実行される。繰り返しを避けるために、ここではそれらを別個に説明しない。
【0060】
上述した実施例において、手術が施される眼の画像は眼科手術システムによって生成される。その画像は、外科手術者により挿入される眼内レンズの目標方向を示すマーカの画像と重ね合わされる。
【0061】
これの代わりにもしくは加えて、ウェーブフロントセンサをイメージングシステムに内蔵することも同様に可能である。ウェーブフロントセンサの例は、US 2005/0241653A1、US 2005/0243276A1またはDE102005 031 496 B4から公知であり、これらの文献の全ての開示が参照によって本出願に援用される。加えて、外科用顕微鏡にケラトメータを内蔵したり、外科用顕微鏡にケラトメータを接続したりすることが可能である。ウェーブフロントセンサのような手段によって、手術下にある眼の屈折異常を、特に、乱視の度合いおよび方向に関連させて手術中に判定することができる。同様に、ケラトメータを用いて、または、角膜鏡や角膜曲率計等の類似のシステムを用いて、手術下にある眼の屈折異常を、特に乱視の度合いおよび方向に関連させて手術中に判定できる。
【0062】
したがって、眼内レンズの方向を基準方向から外れて判定し、所望の態様でそのような方向を外科医に示すことも特に可能である。これは、例えば、手術中に外科医によって関しされる眼の画像内にマーカまたは指標を表示することによって実行され得る。この指標は、たとえば、「時計回りにレンズを7°回転数」といった意味を示し得る「+7」のような数値を含み得る。ところで、「−3」の指標は、「反時計回りに3°回転」といった意味を有し得る。加えて、眼内レンズの、実行される回転の方向は、矢印、または、時計回りあるいは反時計回りへの指示等によって示され得る。
【0063】
発明の実施例によれば、眼内レンズの目標方向を表すマーカ、または眼内レンズの現在の方向と目標方向との差を生成するために、手術前に記録された画像と手術中に記録された画像とを比較することを含む方法が、眼科手術を実行するために提供される。
【0064】
さらに、手術中に用いられ、カメラを含むイメージングシステムと、手術前に用いられ、同様にカメラ有する診断システムと含む眼科手術システムが提供される。手術中に用いられるイメージングシステムは、記録された画像に基いて計算を実行し、眼内レンズの目標方向を表すマーカの画像を得るための基準を形成する、夫々の方向値を決定する画像処理装置を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イメージングシステム(61)を含む眼科手術システムであって、前記イメージングシステムは、
方向値(202)を記憶するように構成されたデータメモリ(113)と、
手術前に記録された、手術下にある眼(3)の第1の画像(204)を記憶するように構成された画像メモリ(111)と、
手術下にある前記眼(3)の第2の画像(206)を、手術中に記録するように構成されたカメラ(97)と、
前記第1および第2の画像に基いて方向値を決定するように構成された画像処理装置(115)と、
前記決定された方向値に基いてマーカ(151)の画像を生成するように構成された表示装置(123、107、121)とを含む、眼科手術システム。
【請求項2】
前記イメージングシステム(61)は、手術下にある前記眼(3)から離れて前記カメラ(97,71)を設置するように構成されたスタンド(65)をさらに含み、前記スタンド(65)は、互いに直交する3つの空間方向において前記第1のカメラを配置することを可能にする複数の関節(69)を含む、請求項1に記載の眼科手術システム。
【請求項3】
前記イメージングシステムは、イメージングビーム経路(83)を有する外科用顕微鏡を含み、前記カメラ(97)は、前記カメラ(97)の前記イメージングビーム経路内に位置する、請求項1または2に記載の眼科手術システム。
【請求項4】
前記表示装置は、前記外科用顕微鏡の前記イメージングビーム経路(84)内に位置する接眼レンズ(88)を含む、請求項3に記載の眼科手術システム。
【請求項5】
前記表示装置は、前記接眼レンズ(88)に向かう前記ビーム経路(84)に前記マーカ(151)の前記画像を投射するように構成された画像プロジェクタ(123,127)をさらに含む、請求項4に記載の眼科手術システム。
【請求項6】
前記表示装置は、ヘッドマウントディスプレイ装置(121)およびモニタ(107)のうちの少なくともいずれか1つを含む、請求項1〜5のいずれかに記載の眼科手術システム。
【請求項7】
前記表示装置は、前記第1の画像を前記画像メモリに入力するように構成されたインターフェースを含む、請求項1〜6のいずれかに記載の眼科手術システム。
【請求項8】
前記眼科手術システムは、診断システム(1)をさらに含み、前記診断システムは、
手術の前に、手術下にある前記眼(3)の前記第1の画像(204)を記録するように構成されたカメラ(21)と、
前記第1の画像を出力するように構成されたインターフェースとを含む、請求項1〜7のいずれかに記載の眼科手術システム。
【請求項9】
前記診断システム(1)は、少なくとも前記眼(3)の乱視の方向を判定するように構成され、前記診断システムは、前記判定された前記乱視の方向を表す方向値(202)を出力するように構成されたインターフェースを含む、請求項8に記載の眼科手術システム。
【請求項10】
前記診断システムの前記カメラ(21)は、画素の配列を有する検出器を含み、前記診断システムの前記画素の数は、前記イメージングシステムの前記カメラの前記検出器の画素の数以上である、請求項8または9に記載の眼科手術システム。
【請求項11】
眼の手術を準備する方法であって、
患者の眼の第1の画像(204,311)を記録するステップ(203,309)と、
前記眼の第2の画像(206,315)を記録するステップ(205,313)と、
前記記録された第1の画像(204,311)と前記記録された第2の画像(206,315)とに基いて方向を決定するステップ(207,317)と、
前記決定された方向に基いてマーカの画像を生成するステップ(209,319)とを含む、方法。
【請求項12】
前記眼の前記第1の画像は、患者の頭部が直立位置にあるときに記録される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記眼の前記第2の画像は、患者の頭部が横になっているときに記録される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記眼の画像、特に、前記眼の光学画像を生成するステップ(209,319)をさらに含み、前記マーカは、前記光学画像に重ね合わせられる、請求項11〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記第2の画像を表示することによって前記眼の画像を生成するステップをさらに含む、請求項11〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記第2の画像を記録するステップ、前記方向を判定するステップおよび前記マーカの画像を生成するステップは、前記眼の前記第1の画像が記録された後、繰り返し実行される、請求項11〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記眼の乱視の方向(202,203)を判定するステップ(201,301)をさらに含み、前記マーカの画像を生成するステップは、前記判定された乱視の方向にさらに基く、請求項11〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
請求項11〜17のいずれかに記載の方法を含み、前記第1の画像は手術の前に記録され、前記第2の画像は手術中に記録される、眼科手術を実行する方法。
【請求項19】
前記マーカの画像に基いて前記眼と相対的に眼内レンズを位置決めするステップ(215,325)をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の画像を記録する前に、前記眼上に、少なくとも1つのマーカ(155)を付けるステップをさらに含む、請求項11〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
患者の眼の光学特性を計測するステップと、前記計測された光学特性に基いて眼内レンズを製造するステップとをさらに含む、請求項11〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記第2の画像は、前記眼内レンズの製造後に記録される、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−528592(P2011−528592A)
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519088(P2011−519088)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【国際出願番号】PCT/EP2009/005397
【国際公開番号】WO2010/009897
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(505398000)カール ツァイス サージカル ゲーエムベーハー (25)
【出願人】(503078265)カール ツァイス メディテック アクチエンゲゼルシャフト (51)
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss Meditec AG
【住所又は居所原語表記】Goeschwitzer Strasse 51−52, D−07745 Jena, Germany