説明

眼科用組成物

【課題】優れた乾き目改善効果を有する眼科用組成物を提供する。
【解決手段】(A)ヒマシ油0.5〜2.5W/V%及び(B)ポリオキシエチレンヒマシ油1〜5W/V%を含有し、(B)/(A)で表される質量比が2以上である眼科用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾き目改善効果に優れた眼科用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
角膜表面に存在する涙液には、ビタミンA、ビタミンE等の脂溶性ビタミンや脂質等から構成される油層が存在し、前記油層が減少すると乾燥を感じる。従って、乾燥眼(ドライアイ)にとって、油成分を補給することは重要である。従来、ビタミンAやビタミンEを含有し乾き目に効果を奏する点眼剤が知られている。しかしながら、油成分に関しては、これまで、水性点眼剤中に0.1質量%程度配合された例があるものの、目の乾燥感を改善するには至らないものであった。以上のことから、優れた乾き目改善効果を有する眼科用組成物が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−222638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、優れた乾き目改善効果を有する眼科用組成物を提供することを目的とする。
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、油成分として(A)ヒマシ油0.5W/V%以上配合し、これに対して2倍以上の(B)ポリオキシエチレンヒマシ油を特定量配合することで、顕著な乾き目改善効果が得られることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0006】
従って、本発明は下記眼科用組成物を提供する。
[1].(A)ヒマシ油0.5〜2.5W/V%及び(B)ポリオキシエチレンヒマシ油1〜5W/V%を含有し、(B)/(A)で表される質量比が2以上である眼科用組成物。
[2].波長600nmの透過率が75%以上の半澄明〜澄明であることを特徴とする[1]記載の眼科用組成物。
[3].コンタクトレンズ用である[1]又は[2]記載の眼科用組成物。
[4].防腐剤が無配合である[1]、[2]又は[3]記載の眼科用組成物。
[5].乾き目改善剤である[1]〜[4]のいずれかに記載の眼科用組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、顕著な乾き目改善効果を有する眼科用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の眼科用組成物は、(A)ヒマシ油0.5〜2.5W/V%及び(B)ポリオキシエチレンヒマシ油1〜5W/V%を含有し、(B)/(A)で表される質量比が2以上であるものである。
【0009】
(A)ヒマシ油
ヒマシ油は油性成分である。その含有量は眼科用組成物中0.5〜2.5W/V%(質量/体積%(g/100mL、以下同様)であり、より好ましくは1〜2.5W/V%、さらに好ましくは2〜2.5W/V%である。配合量が少なすぎると乾き改善効果が不十分となり、2.5W/V%を超えるとべたつくことがある。
【0010】
(B)ポリオキシエチレンヒマシ油
ポリオキシエチレンヒマシ油のエチレンオキシド付加モル数は、3〜60が好ましく、より好ましくは10〜50、さらに好ましくは20〜40である。エチレンオキシド付加モル数が少ない場合、製剤が困難になる場合があり、多すぎる場合眼刺激を感じることがある。なお、ポリオキシエチレンヒマシ油とポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とは異なる成分である。
【0011】
(B)成分は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができ、その含有量は、眼科用組成物中1〜5W/V%であり、より好ましくは3〜5W/V%である。また、(B)/(A)で表される含有質量比が、つまり(A)成分に対する(B)成分の含有量が2以上である。このような質量比とすることで、白濁を抑制し、澄明な眼科用組成物を得ることができる。この点から、上記比率は、2.5以上が好ましく、3以上がさらに好ましい。上限は特に制限されるものではなく、10以下としてもよく、5以下が好ましい。
【0012】
なお、本発明における「半澄明〜澄明な組成物」とは、後述する実施例において波長600nmの透過率が75%以上のものをいう。
【0013】
防腐剤は、本発明の効果を損なわない範囲で配合することもできるが、本発明の眼科用組成物は、眼刺激の点から防腐剤を含有しない防腐剤無配合とすることが好ましい。防腐剤無配合にした場合の防腐力は、エデト酸ナトリウム、ホウ酸及びトロメタモールから1種以上、好適には2種以上組合せて配合するとよい。その含有量はそれぞれ、0.01〜3W/V%である。また、ユニットドーズ容器、フィルター付き容器にした場合にも、防腐剤無配合とすることができる。
【0014】
防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ソルビン酸又はその塩、パラオキシ安息香酸エステル(メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン等)、グルコン酸クロルヘキシジン等のクロルヘキシジン、チメロサール、フェニルエチルアルコール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、塩酸ポリヘキサニド、塩化ポリドロニウム等が挙げられる。
【0015】
本発明の眼科用組成物には本発明の効果を損なわない範囲で、下記に示すような任意成分を1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて、適量配合することができる。例えば、(A)ヒマシ油以外の油性成分としては、ヒマシ油、ダイズ油、ゴマ油、ラッカセイ油、オリーブ油、アルモンド油、小麦胚芽油、コーン油、ナタネ油、ヒマワリ油、精製ラノリン等が挙げられる。これらの含有量は、眼科用組成物中0.001〜1W/V%である。
【0016】
(B)成分以外の界面活性剤としては、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルジアミノエチルグリシン等のグリシン型両性界面活性剤、アルキル4級アンモニウム塩(具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等の陽イオン界面活性剤等が挙げられる。これらの含有量は、眼科用組成物中0.0001〜10W/V%が好ましく、より好ましくは0.005〜5W/V%である。
【0017】
多価アルコールとしては、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。多価アルコールの含有量は、眼科用組成物中0.01〜5W/V%が好ましく、より好ましくは0.05〜3W/V%である。
【0018】
粘稠剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。これらを配合することにより、滞留性が高まり角膜・結膜損傷治癒効果がより向上する。粘稠化剤の配合量は、例えば、0.001〜10W/V%、好ましくは0.001〜5W/V%、さらに好ましくは0.01〜3W/V%である。
【0019】
糖類としては、グルコース、シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等が挙げられる。なお、これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよい。糖類の配合量は、例えば、0.001〜10W/V%、好ましくは0.005〜5W/V%、さらに好ましくは0.01〜3W/V%である。
【0020】
pH調整剤としては、無機酸又は無機アルカリ剤を使用することが好ましい。例えば、無機酸としては(希)塩酸が挙げられる。無機アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。この中でも、塩酸、水酸化ナトリウムが好ましい。本発明の眼科用組成物のpH(20℃)は、3.8〜8.0が好ましく、より好ましくは5.0〜7.5である。なお、pHの測定は20℃でpH浸透圧計(例えば、HOSM−1,東亜ディーケーケー(株))を用いて行う。pH調整剤の配合量は、例えば、0.00001〜10W/V%、好ましくは0.0001〜5W/V%、さらに好ましくは0.001〜3W/V%である。
【0021】
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられる。等張化剤の配合量は、例えば、0.001〜5W/V%、好ましくは0.01〜3W/V%、さらに好ましくは0.1〜2W/V%である。
【0022】
安定化剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、シクロデキストリン、亜硫酸塩、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。安定化剤の配合量は、例えば、0.001〜5W/V%、好ましくは0.01〜3W/V%、さらに好ましくは0.1〜2W/V%である。
【0023】
清涼化剤としては、例えば、メントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、リナロール等が挙げられる。清涼化剤の含有量は、眼科用組成物中、化合物の総量として、0.0001〜5W/V%が好ましく、0.001〜2W/V%がより好ましく、0.005〜1W/V%がさらに好ましく、0.007〜0.8W/V%が特に好ましい。
【0024】
薬物(薬学的有効成分)としては、例えば、充血除去剤(例えば、塩酸ナファゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸フェニレフリン、エピネフリン、塩酸エフェドリン、dl−塩酸メチルエフェドリン、硝酸テトラヒドロゾリン、硝酸ナファゾリン等)、消炎・収斂剤(例えば、メチル硫酸ネオスチグミン、ε−アミノカプロン酸、アラントイン、塩化ベルベリン、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、塩化リゾチーム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸アンモニウム、グリチルレチン酸、サリチル酸メチル、トラネキサム酸、アズレンスルホン酸ナトリウム等)、抗ヒスタミン剤(例えば、塩酸イプロヘプチン、塩酸ジフェンヒドラミン、ジフェンヒドラミン、塩酸イソチペンジル、マレイン酸クロルフェニラミン等)、抗アレルギー剤(例えば、クロモグリク酸ナトリウム等)、水溶性ビタミン(活性型ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12等)、脂溶性ビタミン(ビタミンE、ビタミンA等)、アミノ酸(例えば、L−アスパラギン酸カリウム、L−アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、グルタチオン等)、サルファ剤、殺菌剤(例えば、イオウ、イソプロピルメチルフェノール、ヒノキチオール等)、局所麻酔剤(例えば、リドカイン、塩酸リドカイン、塩酸プロカイン、塩酸ジブカイン等)、散瞳剤(例えば、トロピカミド等)を適宜配合することができる。
【0025】
本発明の眼科用組成物は、顕著な乾き目改善効果を有するため、乾き目改善剤、ドライアイ治療剤として好適である。なお、ドライアイとは、涙液の質的又は量的異常により、眼球表面上の角結膜が障害を受けた状態のことをいう。乾き目改善剤、ドライアイ治療剤として用いる場合は、1回30〜60μL、1日3〜6回を点眼することにより、その効果をより発揮することができる。
【0026】
また、コンタクトレンズ使用者は目が乾きやすく、ドライアイになりやすいため、本発明の眼科用組成物はコンタクトレンズ用としても好適である。なお、本発明において「コンタクトレンズ用」とは、コンタクトレンズ装用中に使用するものをいう。より具体的には、点眼剤(コンタクトレンズ装用中に点眼可能なコンタクトレンズ用点眼剤を含む)、洗眼剤(コンタクトレンズ装用中に洗眼可能なコンタクトレンズ用洗眼剤を含む)、コンタクトレンズ装着液(コンタクトレンズ装着時に使用される)等が挙げられ、点眼剤、特にコンタクトレンズ用点眼剤が好ましい。コンタクトレンズとしては特に制限されず、ハードコンタクトレンズ、酸素透過性ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズ、使い捨てコンタクトレンズ、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ等が挙げられる。
【0027】
本発明の眼科用組成物は液状であって、その粘度は、点眼剤の場合、1〜50mPa・sが好ましく、1〜20mPa・sがより好ましく、1〜5mPa・sがさらに好ましい。なお、粘度測定は20℃でE型粘度計(例えば、VISCONIC ELD−R,東京計器(株))を用いて行う。
【0028】
本発明の眼科用組成物は、その調製方法については特に制限されるものではないが、例えば、水に有効成分と添加物を混合し、そこに(A)と(B)成分の予備混合物、清涼化剤を配合し、pHを調整して得ることができ、無菌ろ過後、適当な容器に充填する。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において特に明記のない場合は、組成の「%」はW(質量)/V(体積)%(g/100mL)、比率は質量比を示す。
【0030】
[実施例1〜10、比較例1〜6]
下記表に示す組成の眼科用組成物(点眼剤)を常法により調製した。得られた眼科用組成物(点眼剤)について、下記に示す評価を行った。結果を表中に併記する。また、眼科用組成物のpH(20℃)を、pH浸透圧計(HOSM−1,東亜ディーケーケー(株))を用いて行い、結果を表中に示す。
【0031】
[澄明さ]
サンプルを分光光度計(日立 U−3310)により、600nmの透過率を測定した。澄明さを下記評価基準に基づいて示す。
<評価基準>
○:透過率が75%以上
×:透過率が65%以上75%未満
××:透過率が65%未満
【0032】
[乾き改善効果−1]
ドライアイ症状(重症度レベル1:The Ocular Surface, Vol5, No.2, 2007参照)を訴える者に対し、眼科用組成物を50μL点眼し(2時間間隔で3回)、3回目点眼30分後のドライアイ改善の程度(目の乾燥感)を下記の評価基準に従い評価した。結果は、3名の平均値(小数点第1位を四捨五入)を示す。
<評価基準>
5:非常に改善
4:改善
3:やや改善
2:どちらともいえない
1:改善しない
【0033】
[乾き改善効果−2]
ソフトコンタクトレンズ装用者で、ドライアイ症状(重症度レベル1:The Ocular Surface, Vol5, No.2, 2007参照))を訴える者(3名)に対し、眼科用組成物を50μL点眼し(2時間間隔で3回)、3回目点眼30分後のドライアイ改善の程度(目の乾燥感)を下記の評価基準に従い評価した。
結果は、3名の平均値(小数点第1位を四捨五入)を示す。
<評価基準>
5:非常に改善
4:改善
3:やや改善
2:どちらともいえない
1:改善しない
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】


ヒプロメロース:メトローズ 60SH−4000(信越化学工業(株))

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ヒマシ油0.5〜2.5W/V%及び(B)ポリオキシエチレンヒマシ油1〜5W/V%を含有し、(B)/(A)で表される含有質量比が2以上である眼科用組成物。
【請求項2】
波長600nmの透過率が75%以上の半澄明〜澄明であることを特徴とする請求項1記載の眼科用組成物。
【請求項3】
コンタクトレンズ用である請求項1又は2記載の眼科用組成物。
【請求項4】
防腐剤が無配合である請求項1、2又は3記載の眼科用組成物。
【請求項5】
乾き目改善剤である請求項1〜4のいずれか1項記載の眼科用組成物。

【公開番号】特開2012−144527(P2012−144527A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−276714(P2011−276714)
【出願日】平成23年12月19日(2011.12.19)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】