説明

眼鏡用レンズ

【課題】加工性を向上させることができ、防眩効果を有し、可視光線の透過率の減少を抑制することが可能な眼鏡用レンズを提供する。
【解決手段】 第1主面3、及び第1主面3に向かって凹状の第2主面5を有する光透過性の基材10と、第2主面5に設けられ、ピッチが2μm以上、300μm以下の範囲で互いに離間して平行に延伸する導体からなる複数の遮光膜12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
水面、雪面、路面、あるいは窓ガラス面等からの反射光は、ほとんどが横方向の偏光となる。通常の眼鏡用の偏光レンズは、横方光の偏光を除去し縦方向の偏光だけを透過させる。したがって、通常の偏光レンズは、日中の強い日差しの下で、眩しさやぎらつきを和らげて目を保護するために使用される。
【0003】
このような偏光レンズでは、偏光度を90%以上と高くしているため、可視光線透過率が30%以下に低下する。そのため、朝方、夕方や夜間、あるいはオフィス等の室内での使用には適さない。
【0004】
また、通常の偏光レンズは、透光性の基材の間に偏光膜が接着されて挟まれた構造である(例えば、特許文献1参照)。一般的に用いられる偏光膜は、ポリビニールアルコール(PVA)フィルムにヨード分子を塗布したものである。偏光膜は、基材に用いられる材料に比べて耐久性、耐熱性、耐水性が劣るため、通常の眼鏡に比べて手入れや保管等に注意が必要となる。
【0005】
更に、偏光膜は基材に比べて機械的強度が劣り、偏光レンズの加工時において偏光膜を損傷する可能性がある。そのため、加工率が悪く、加工精度も安定性が劣ることから不良率も高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−258220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題点を鑑み、本発明の目的は、加工性を向上させることができ、防眩効果を有し、可視光線の透過率の減少を抑制することが可能な眼鏡用レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、第1主面、及び第1主面に向かって凹状の第2主面を有する光透過性の基材と、第2主面に設けられ、ピッチが2μm以上、300μm以下の範囲で互いに離間して平行に延伸する導体からなる複数の遮光膜とを備える眼鏡用レンズが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加工性を向上させることができ、防眩効果を有し、可視光線の透過率の減少を抑制することが可能な眼鏡用レンズを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態に係る眼鏡用レンズの一例を示す平面概略図である。
【図2】図1に示した眼鏡用レンズのA−A断面を示す概略図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る眼鏡用レンズの製造に用いる蒸着マスクの一例を示す平面概略図である。
【図4】図1に示した蒸着マスクのB−B断面を示す概略図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る眼鏡用レンズの製造方法の一例を示す工程断面図(その1)である。
【図6】本発明の実施の形態に係る眼鏡用レンズの製造方法の一例を示す工程断面図(その2)である。
【図7】本発明の実施の形態に係る眼鏡用レンズの製造に用いる蒸着マスクの他の例を示す平面概略図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る眼鏡用レンズの製造方法の他の例を示す工程断面図(その1)である。
【図9】本発明の実施の形態に係る眼鏡用レンズの製造方法の他の例を示す工程断面図(その2)である。
【図10】本発明の実施の形態に係る眼鏡用レンズの他の例を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図面を参照して、本発明の形態について説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号が付してある。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0012】
又、以下に示す本発明の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
本発明の実施の形態に係る眼鏡用レンズは、図1及び図2に示すように、光透過性の基材10、及び導体からなる複数の遮光膜12を有する。基材10は、凸状の第1主面3、及び第1主面3に向かって凹状の第2主面5を有する。図1に示すように、基材10は円状としたが楕円や多角形であってもよい。
【0014】
第2主面5は、例えば一定の曲率Caを有する球面である。なお、第2主面5を非球面としてもよい。非球面の場合、第2主面5の曲率Caは一定ではなく、例えば基材10の周辺部において曲率Caを浅くしてもよい。
【0015】
複数の遮光膜12は、基材10の第2主面5に設けられる。各遮光膜12は、一定のピッチPaで互いに離間して平行に延伸する。遮光膜12の延伸方向に直交する方向の幅をWa、隣接する遮光膜12間の透光部14の幅をWbとすれば、ピッチPaは、(Wa+Wb)である。
【0016】
図1に示した眼鏡用レンズは、遮光膜12の延伸方向が水平方向となるように眼鏡フレームに合わせて加工される。眼鏡フレームには、基材10の第2主面5が眼球側となるように取り付けられる。
【0017】
基材10として、例えば、ガラスや、アリルジグリコールカーボネート(ADC)、アクリル、及びポリカーボネート等のプラスチックが用いられる。度付きレンズにする場合は、ガラスやADCが好ましい。
【0018】
遮光膜12として、例えば、クロム、チタン、アルミニウム、金、銀、銅等の金属やこれらの金属間合金の単層膜、あるいは多層膜等の導体が用いられる。加工性や化学的安定性等からは、クロム等の金属を遮光膜12として用いることが好ましい。
【0019】
実施の形態に係る眼鏡用レンズでは、基材10の第2主面5にピッチPaで互いに平行に配列された複数の遮光膜12は、グリッド型の偏光子として機能する。例えば、光が第1主面3から基材10の内部に入射する。遮光膜12の延伸方向、即ち横方向の偏光は減衰し、縦方向の偏光は透過する。遮光膜12のピッチPaを可視光線の波長より大きくすることにより、可視光線に対する偏光度を、例えば20%〜40%程度とすることができる。この時、可視光線の透過率は、例えば50%〜60%である。このように、実施の形態に係る眼鏡用レンズでは、従来の偏光レンズに比べて可視光線透過率を大きくすることができる。
【0020】
このように、実施の形態に係る眼鏡用レンズは、横方向に偏光した反射光を適度に減衰させるため、眩しさやぎらつきを和らげることができる。また、十分な可視光線透過率を有するため、朝方、夕方や夜間、あるいはオフィス等の室内での使用に適している。
【0021】
遮光膜12のピッチPaは、2μm以上、300μm以下の範囲、好ましくは10μm以上、150μm以下の範囲、より好ましくは20μm以上、100μm以下の範囲である。ピッチPaが300μmより大きくすると、偏光度が20%より小さくなり防眩効果が低減する。ピッチPaが2μmより小さくすると、遮光膜12の形成が困難になり、製造歩留まりが低下する。
【0022】
遮光膜12の幅Waは、可視光線に対して適度な偏光度と透過率を実現するために、ピッチPの0.3倍以上、0.7倍以下の範囲であることが好ましい。また、遮光膜12の厚さは、十分な遮光、例えば遮光膜12の可視光線透過率が10%以下の範囲となるようにすればよい。
【0023】
また、遮光膜12は、金属等で形成されている。したがって、機械的強度が十分であり、眼鏡用レンズの加工に際して遮光膜12は損傷しにくい。したがって、良好な加工率を実現でき、加工精度も安定させることができる。更に、耐久性、耐熱性、耐水性も優れているため、手入れや保管に際しても通常の眼鏡同様に取り扱うことができる。
【0024】
図1に示した眼鏡用レンズの遮光膜12は、例えば、真空蒸着法等により形成することができる。まず、図3及び図4に示す蒸着マスク20を準備する。蒸着マスク20は、ステンレス鋼等の円形の薄板に、互いに平行に一方向に延伸する複数の開口部22と、隣接する開口部22の間の複数の遮蔽部24とが形成される。蒸着マスク20は、凸状の第1主面7、及び第1主面7に向かって凹状の第2主面9を有する。
【0025】
開口部22の延伸方向に直交する方向の開口部22のピッチPbは、遮光膜12のピッチPaと実質的に等しい。また、開口部22の幅Wc及び遮蔽部24の幅Wdは、それぞれ遮光膜12の幅Wa及び透光部14の幅Wbに実質的に等しい。
【0026】
開口部22は、直径Daの円領域に形成される。第1主面7は、基材10の第2主面5の曲率Caと実質的に等しい曲率Cbを有する。直径Daは、基材10の直径と等しいか、若干大きくする。蒸着マスク20は、周縁部26により、真空蒸着装置の蒸着ステージ(図示省略)に保持される。周縁部26の内径Dbは、蒸着ステージに設けられた蒸着マスク20の保持孔の直径程度である。
【0027】
図5に示すように、蒸着マスク20の第1主面7に基材10の第2主面5が面するように、蒸着マスク及び基材10を真空蒸着装置内の蒸着ステージに設置する。蒸着マスク20の第2主面9は、蒸着方向(図5の矢印の方向)に向かって配置される。なお、図5においては、蒸着マスク20及び基材10は離間して示したが、密着させて設置したほうが望ましい。また、蒸着方向として、上から下へ向かう方向としているが、逆に下から上に向かう方向であってもよい。
【0028】
真空蒸着装置の内部を所定の圧力まで真空排気した後、例えばクロムを載せた抵抗加熱ボート(図示省略)を加熱してクロムを蒸発させる。蒸発したクロムを、蒸着マスク20の開口部22を介して基材10の第2主面5上に所定の厚さまで堆積させる。その結果、図6に示すように、基材10の第2主面5上に、互いに離間して平行に延伸する複数の遮光膜12、及び隣接する遮光膜12間の透光部14が形成される。
【0029】
例えば、ピッチPbが約200μm、開口部22の幅Wcが約100μmの蒸着マスク20を用いて、可視光線透過率が99%以上の基材10の第2主面5上にクロムを約0.5μmの厚さで堆積する。その結果、基材10の第2主面5に、ピッチPaが約200μm、幅Waが約100μmの遮光膜12と、幅Wbが約100μmの透光部14が形成される。このようにして作製した眼鏡用レンズの偏光度は約34.4%、可視光線透過率は約56%である。このように、適度の偏光度、及び十分な透過率を有する眼鏡用レンズを実現できる。なお、偏光度及び透過率は家庭用品品質表示法に基づく偏光度試験により測定している。
【0030】
実施の形態では、遮光膜12は、蒸着マスク20を用いて真空蒸着により形成される。したがって、遮光膜12を簡便且つ高精度に歩留まり良く形成することが可能である。
【0031】
なお、上述の説明では、抵抗加熱真空蒸着を用いているが、真空蒸着法は限定されない。例えば、電子ビーム蒸着法を用いてもよい。また、スパッタリング法等を用いてもよい。
【0032】
また、蒸着マスク20の曲率Cbは、基材10の曲率Caと略同じにしている。しかし、基材10の曲率Caが浅い場合は、図7に示すように、平坦な薄板に複数の開口部22及び遮蔽部24を有する蒸着マスク20aを用いてもよい。
【0033】
また、遮光膜12の形成は、蒸着マスク20を用いる真空蒸着に限定されない。例えば、リフトオフ法による真空蒸着を用いてもよい。図8に示すように、印刷やフォトリソグラフィ等により、基材10の表面に開口部32を有するマスクパターン34を形成する。マスクパターン34が形成された基材10の表面全体に、クロム等の金属を真空蒸着する。図9に示すように、開口部32に露出した基材10の表面に遮光膜12が、マスクパターン34の上には金属膜12aが堆積する。その後、マスクパターン34を除去して金属膜12aをリフトオフする。このようにして、図1及び図2に示した遮光膜12が基材10に形成される。
【0034】
また、図1に示したように、基材10の第1主面3が露出している。通常の眼鏡用レンズと同様に、第1主面3に、ハードコート、反射防止コート等のコーティングを施してもよい。また、図10に示すように、第2主面5において、複数の遮光膜12を覆うように保護膜16を設けてもよい。保護膜16には、可視光線に対して十分な透過率を有する無機膜や有機膜を用いることができる。
【0035】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明の実施の形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者にはさまざまな代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係わる発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0036】
3…第1主面
5…第2主面
10…基材
12…遮光膜
14…透光部
20…蒸着マスク
22…開口部
24…遮蔽部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面、及び前記第1主面に向かって凹状の第2主面を有する光透過性の基材と、
前記第2主面に設けられ、ピッチが2μm以上、300μm以下の範囲で互いに離間して平行に延伸する導体からなる複数の遮光膜
とを備えることを特徴とする眼鏡用レンズ。
【請求項2】
前記複数の遮光膜それぞれの延伸する方向に直交する方向の幅が、前記ピッチの0.3倍以上、0.7倍以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項3】
前記複数の遮光膜が、クロムからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の眼鏡用レンズ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−242582(P2012−242582A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112190(P2011−112190)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(598102889)株式会社サクサン (2)
【Fターム(参考)】