説明

着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法、着色用顔料組成物および着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品

【課題】着色工程で電気泳動法を用いることなく、着色前のアルミニウムまたはその合金の基材を基準とする色差が十分に大きく、加熱しても色度の低下のない耐熱性に優れた、着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法を提供する。
【解決手段】(i)アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材をリン酸を含む処理溶液中で陽極酸化を行って前記基材表面に複数の細孔を有する陽極酸化皮膜を形成する工程と、(ii)前記基材を50〜100℃の温水により水洗処理する工程と、(iii)前記基材を顔料、分散剤および水を含む着色用顔料組成物に浸漬して前記基材表面の陽極酸化皮膜の複数の細孔に前記顔料を充填し、着色する工程とを含む着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法、着色用顔料組成物および着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム製品またはアルミニウム合金製品、例えば携帯電話の外装部材などは、表面保護、外観の美麗さを高めるために着色されている。
【0003】
アルミニウムまたはその合金からなる基材の着色は、従来、次のような方法が知られている。まず、アルミニウムまたはその合金からなる基材を例えば硫酸溶液の下で陽極酸化処理する。つづいて、陽極酸化処理した基材を染料溶液に浸漬して基材表面の多孔質陽極酸化皮膜に染料を含浸させて着色する。
【0004】
しかしながら、このような着色方法は着色剤として染料を用いているため、日光に曝したときの堅牢性が低く、かつ加熱されると染料が分解、揮散して脱色する問題がある。
【0005】
このようなことから、特許文献1にはアルミニウムまたはその合金からなる基材を着色する方法が記載されている。すなわち、硫酸溶液の代わりにリン酸溶液を用いて陽極酸化して細孔径が比較的大きな多孔質陽極酸化皮膜を形成する。つづいて、この基材を約1μm前後、好ましくは0.5μm以下の顔料粒子が分散された水性顔料微分散体に浸漬し、前記多孔質陽極酸化皮膜に顔料を吸着させて着色する。
【0006】
しかしながら、本発明者らが前記着色方法を追試した結果、次のような事実が明らかになった。すなわち、得られた着色したアルミニウムまたはその合金の製品は、着色前のアルミニウムまたはその合金からなる基材を基準とする色差が小さく、十分に着色されず、さらに色調に斑が生じることが分かった。これは、顔料粒子が基材の多孔質陽極酸化皮膜の細孔に十分に充填されていないことに起因すると考えられる。
【0007】
一方、特許文献2にはアルミニウムまたはその合金基材からなる50〜250nm酸化皮膜の細孔中に電気泳動法にて顔料を充填して着色するための顔料分散体が開示されている。顔料分散体は、所定の粒子径分布を有する顔料粒子が分散されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭52−5010号公報
【特許文献2】特許第3410548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、着色工程で電気泳動法を用いることなく、着色用顔料組成物に浸漬する単純な工程で、着色前のアルミニウムまたはその合金からなる基材を基準とする色差が十分に大きく、かつ加熱しても色度の低下のない耐熱性に優れた、着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、前記製造方法に好適に利用できる着色用顔料組成物を提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、着色前のアルミニウムまたはその合金の基材を基準とする色差が所定の値を有し、かつ耐熱性に優れた黒色、赤色、青色、黄色、緑色、白色を有する着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の第1側面によると、
(i)アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材をリン酸を含む処理溶液中で陽極酸化を行って前記基材表面に複数の細孔を有する陽極酸化皮膜を形成する工程と、
(ii)前記基材を40〜100℃の温水により処理する工程と、
(iii)前記基材を顔料粒子、分散剤および水を含む着色用顔料組成物に浸漬して前記基材表面の陽極酸化皮膜の複数の細孔に前記顔料粒子を充填し、着色する工程と
を含むことを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の第2側面によると、
(i)アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材をリン酸を含む処理溶液中で陽極酸化を行って前記基材表面に複数の細孔を有する陽極酸化皮膜を形成する工程と、
(ii)前記基材を水洗した後、熱風で乾燥する工程と、
(iii)前記基材を顔料粒子、分散剤および水を含む着色用顔料組成物に浸漬して前記基材表面の陽極酸化皮膜の複数の細孔に前記顔料粒子を充填し、着色する工程と
を含むことを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の第3側面によると、
(i)アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材をリン酸を含む処理溶液中で陽極酸化を行って前記基材表面に複数の細孔を有する陽極酸化皮膜を形成する工程と、
(ii)前記基材をpHが9.0〜10.0のアルカリ水溶液で処理した後、水洗する工程と、
(iii)前記基材を顔料粒子、分散剤および水を含む着色用顔料組成物に浸漬して前記基材表面の陽極酸化皮膜の複数の細孔に前記顔料粒子を充填し、着色する工程と
を含むことを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法が提供される。
【0015】
本発明の第4側面によると、前記第1〜第3の態様の製造方法に使用される着色用顔料組成物であって、顔料粒子、分散剤および水を含むかつ酸化還元電位が200mV以下で、前記顔料粒子は分散剤を含む水に分散した状態で、D80の粒子径が陽極酸化皮膜の複数の細孔のうち、最も小さい細孔の孔径未満である粒子径分布を有することを特徴とする着色用顔料組成物が提供される。
【0016】
本発明の第5側面によると、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、
前記基材表面に形成され、孔径が20〜200nm、表面から厚さ方向の深さが1〜50μmの複数の細孔を有する陽極酸化皮膜と、
前記陽極酸化皮膜の複数の細孔に着色前の前記基材を基準とする色差が44以上になるように充填された、前記細孔の孔径より小さい径を有する黒色の顔料粒子と
を備えることを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品が提供される。
【0017】
本発明の第6側面によると、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、
前記基材表面に形成され、孔径が20〜200nm、表面から厚さ方向の深さが1〜50μmの複数の細孔を有する陽極酸化皮膜と、
前記陽極酸化皮膜の複数の細孔に着色前の前記基材を基準とする色差が40以上になるように充填された、前記細孔の孔径より小さい径を有する赤色の顔料粒子と
を備えることを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品が提供される。
【0018】
本発明の第7側面によると、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、
前記基材表面に形成され、孔径20〜200nm、表面から厚さ方向の深さが1〜50μmの複数の細孔を有する陽極酸化皮膜と、
前記陽極酸化皮膜の複数の細孔に着色前の前記基材を基準とする色差が50以上になるように充填された、前記細孔の孔径より小さい径を有する青色の顔料粒子と
を備えることを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品が提供される。
【0019】
本発明の第8側面によると、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、
前記基材表面に形成され、孔径が20〜200nm、表面から厚さ方向の深さが1〜50μmの複数の細孔を有する陽極酸化皮膜と、
前記陽極酸化皮膜の複数の細孔に着色前の前記基材を基準とする色差が30以上になるように充填された、前記細孔の孔径より小さい径を有する黄色の顔料粒子と
を備えることを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品が提供される。
【0020】
本発明の第9側面によると、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、前記基材表面に形成され、孔径が20〜200nm、表面から厚さ方向の深さが1〜50μmの複数の細孔を有する陽極酸化皮膜と、
前記陽極酸化皮膜の複数の細孔に着色前の前記基材を基準とする色差が45以上になるように充填された、前記細孔の孔径より小さい径を有する緑色の顔料粒子と
を備えることを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品が提供される。
【0021】
本発明の第10側面によると、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、前記基材表面に形成され、孔径が20〜200nm、表面から厚さ方向の深さが1〜50μmの複数の細孔を有する陽極酸化皮膜と、
前記陽極酸化皮膜の複数の細孔に着色前の前記基材を基準とする色差が3.5以上になるように充填された、前記細孔の孔径より小さい径を有する白色の顔料粒子と
を備えることを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、着色工程で電気泳動法を用いることなく、着色用顔料組成物に浸漬する単純な工程で、着色前のアルミニウムまたはその合金からなる基材を基準とする色差が十分に大きく、かつ加熱しても色度の低下のない耐熱性に優れた、着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法を提供できる。
【0023】
本発明によれば、前記製造方法に好適に利用できる着色用顔料組成物を提供できる。
【0024】
本発明によれば、着色前のアルミニウムまたはその合金の基材を基準とする色差が所定の値を有し、かつ耐熱性に優れた黒色、赤色、青色、黄色、緑色、白色を有する着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0026】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法は、
(i)アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材をリン酸を含む処理溶液中で陽極酸化を行って前記基材表面に複数の細孔を有する陽極酸化皮膜を形成する工程と、
(ii)前記基材を40〜100℃の温水により水洗処理する工程と、
(iii)前記基材を顔料粒子、分散剤および水を含む着色用顔料組成物に浸漬して前記基材表面の陽極酸化皮膜の複数の細孔に前記顔料粒子を充填し、着色する工程と
を含む。
【0027】
前記(i)工程で用いられるアルミニウムの例は、純度99.99%以上の高純度アルミニウム、純度99%前後の純アルミニウム(例えばA1050,A1100)を含む。
【0028】
前記(i)工程で用いられるアルミニウム合金の例は、Al−Mn系(例えばA3003,A3004),Al−Mg系(例えばA5005,A5052,A5083),Al−Si系(例えばA4043),Al−Cu系(例えばA2017,A2024),Al−Zn系(例えばA7072),Al−Mg−Si系(例えばA6061,A6063)を含む。
【0029】
前記(i)工程で用いられる基材は、板状、一部が開口した中空状、有底筒状、ブロック状(例えば鋳物、ダイキャスト)等、任意の形状を有する。
【0030】
前記(i)工程で用いられるリン酸を含む処理液は、濃度40〜450g/Lのリン酸を含む水溶液であることが好ましい。処理液は、常温(20℃)でもよいし、20℃を超え、40℃以下に加温してもよい。
【0031】
前記(i)工程での陽極酸化は、直流電圧で電流を一定にしたとき、電圧を例えば60〜150Vにすることが好ましい。時間は、前記電圧値によるが1〜100分間にすることが好ましい。このような条件の陽極酸化によって、孔径が20〜200nm、表面から厚さ方向の深さが1〜50μmの複数の細孔を有する陽極酸化皮膜を基材表面に形成することができる。ここで、深さは陽極酸化皮膜の厚さにほぼ相当する。細孔の孔径は、陽極酸化皮膜の表面に露出した細孔の径である。このような陽極酸化皮膜の厚さおよび細孔の孔径は、陽極酸化皮膜を含む基材の断面電子顕微鏡写真および陽極酸化皮膜の表面電子顕微鏡写真から測定できる。
【0032】
前記(i)工程での陽極酸化によって形成された陽極酸化皮膜の細孔において、細孔の密度、すなわち陽極酸化皮膜表面の一定の面積(25μm2)あたりの細孔の数は、1000〜2200個であることが好ましい。
【0033】
ここで、「面積(25μm2)あたりの細孔の数」は陽極酸化皮膜の表面を電子顕微鏡で撮影し、その電子顕微鏡写真の0.25μm2の領域を目視で観察し、細孔の数をカウントした後にその数値を100倍することにより求めた。
【0034】
細孔の数を前記範囲にすることにより、陽極酸化皮膜自体の強度が維持しながら、陽極酸化皮膜を良好に着色することが可能になる。より好ましい細孔の数は1000〜1600個/25μm2である。
【0035】
前記(ii)工程での温水による水洗処理によって、この後の前記(iii)工程での基材の着色用顔料組成物への浸漬において、顔料粒子を基材の陽極酸化皮膜の複数の細孔に円滑に進入させて、それらの細孔内を十分な量の顔料粒子で充填する、つまり良好に着色する、ことが可能になる。
【0036】
すなわち、本発明者らの実験、研究によると、基材をリン酸を含む処理溶液での陽極酸化後に単に常温の水で水洗処理した場合、水洗した基材を顔料粒子、分散剤および水を含む着色用顔料組成物に浸漬しても、基材表面の陽極酸化皮膜が十分に着色されないことを究明した。これは、常温の水を用いた水洗処理では陽極酸化皮膜の複数の細孔内に残留するリン酸根が除去されず、このリン酸根が着色顔料組成物中の顔料粒子の細孔内への進入を阻害するものと推定される。
【0037】
このようなことから、本発明者らは着色顔料組成物での着色工程前の基材を常温水での水洗処理に替えて40℃〜100℃の温水により水洗処理を行ったところ、驚くべきことに水洗した基材を顔料粒子、分散剤および水を含む着色用顔料組成物に浸漬すると、基材表面の陽極酸化皮膜において着色前の基材を基準とする色差が十分に大きくなって良好に着色できることを究明した。これは、温水による水洗処理によって陽極酸化で複数の細孔内に残留したリン酸根が除去されて、その後に基材を着色用顔料組成物に浸漬すると、組成物中の顔料粒子が複数の細孔内に円滑に進入して十分な量の顔料粒子を細孔内に充填できることに起因するものと推定される。
【0038】
温水の温度を40℃未満にすると、水洗処理後の基材を顔料粒子、分散剤および水を含む着色用顔料組成物に浸漬しても、基材を十分に着色することが困難になる。より好ましい温水の温度は50℃〜100℃、最も好ましい温度は65℃〜100℃である。
【0039】
前記(iii)工程に用いられる着色用顔料組成物中の顔料粒子は、例えば黒色顔料粒子、赤色顔料粒子、緑色顔料粒子、黄色顔料粒子、青色顔料粒子、白色顔料粒子を挙げることができる。顔料粒子は、D80以上の粒子径が複数の細孔のうち、最も小さい細孔の孔径未満である粒子径分布を有することが好ましい。より好ましい顔料粒子は、D90以上の粒子径が複数の細孔のうち、最も小さい細孔の孔径未満である粒子径分布を有する。
【0040】
ここで、「粒子径」とは顔料粒子が真球である場合はその直径を、顔料粒子が扁平形状である場合は最大長さを、意味する。
【0041】
また、「D80」および「D90」とは、次のような方法および計算により得られた値を意味する。すなわち、前記分散剤を含む水に顔料粒子を分散した試料にレーザ光を照射し、顔料粒子によって散乱された光を光散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製:動的光散乱式LB−550)に取込み、同測定装置で演算処理して試料中の顔料粒子の粒子径分布を求める。得られた顔料粒子の粒子径分布、例えば顔料粒子200個の粒子径分布、から顔料粒子の粒子径の値が小さい順に並ぶように処理し、小さい方から160個目(100個を基準にすると80個目)の顔料粒子の粒子径を「D80」、小さい方から180個目(100個を基準にすると90個目)の顔料粒子の粒子径を「D90」と規定する。
【0042】
このようなD80以上の粒子径が複数の細孔のうち、最も小さい細孔の孔径未満である粒子径分布を有する顔料粒子(分散剤を含む水に分散した状態)は、陽極酸化皮膜の複数の細孔の奥(基材との界面側)にそれぞれ円滑に進入し、充填してその皮膜を良好に着色することが可能になる。
【0043】
複数の細孔のうち、最も小さい細孔の孔径未満であるD80以上の粒子径は、前記最も小さい細孔の孔径の80%以下に相当する径、好ましくは70%以下に相当する径、より好ましくは60%以下に相当する径、最も好ましくは50%以下に相当する径を有することが望ましい。D80以上の粒子径の下限は、前記最も小さい細孔の孔径の30%に相当する径を有することが好ましい。
【0044】
前記(iii)工程に用いられる着色用顔料組成物中の分散剤は、種々のものを用いることができる。分散剤は、例えばスチレンアクリル樹脂、アクリル酸樹脂のようなアクリル系樹脂、スチレンマレイン酸樹脂(いずれもアニオン系分散剤)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースを用いていることができる。スチレンアクリル樹脂は、数平均分子量が5,000〜50,000であることが好ましい。アクリル酸樹脂は、数平均分子量が10,000〜50,000であることが好ましい。スチレンマレイン酸樹脂は、数平均分子量が1,000〜30,000であることが好ましい。特に、アクリル系樹脂は基材における陽極酸化皮膜の複数の細孔への顔料粒子の進入促進効果が高いために好ましい。アクリル系樹脂の中でスチレンアクリル樹脂がより好ましい。
【0045】
前記(iii)工程に用いられる着色用顔料組成物は、200mV以下の酸化還元電位を有することが好ましい。着色用顔料組成物の酸化還元電位が200mVを超えると、基材における陽極酸化皮膜の複数の細孔への顔料粒子の進入促進効果を十分に高めることが困難になる。より好ましい酸化還元電位は、150mV以下、さらに好ましい酸化還元電位は100mV以下である。
【0046】
前記(iii)工程に用いられる着色用顔料組成物は、pHが6.5〜11であることが好ましい。また、着色用顔料組成物は常温でもよいし、30〜75℃に加温してもよい。
【0047】
前記(iii)工程に用いられる着色用顔料組成物は、顔料粒子、分散剤および水からなり、それらの総量に対して顔料粒子が3〜30重量%、分散剤が有効成分として1〜10重量%であることが好ましい。このような量の顔料粒子および分散剤を含む前記着色用顔料組成物は、顔料粒子が適切な量で凝集することなく安定的に分散されている。このため、陽極酸化皮膜の複数の細孔に顔料粒子を円滑に進入させて、十分な量を充填できる。その結果、着色前の前記基材を基準とする色差が十分に大きい着色が可能になる。
【0048】
第1実施形態に係る着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法に使用される着色用顔料組成物は、
(a)顔料粒子、分散剤および水を含む;
(b)前記顔料粒子は、前記分散剤を含む水に分散した状態で、D80以上の粒子径が陽極酸化皮膜の複数の細孔のうち、最も小さい細孔の孔径未満である粒子径分布を有する;
(c)酸化還元電位が200mV以下である;および
(d)前記分散剤がアクリル系樹脂である。
【0049】
第1実施形態に係る着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法に使用されるより好ましい着色用顔料組成物は、
(a)顔料粒子、分散剤および水からなる;
(b)前記顔料粒子は、前記分散剤を含む水に分散した状態で、D80以上(より好ましくはD90以上)の粒子径が陽極酸化皮膜の複数の細孔のうち、最も小さい細孔の孔径未満である粒子径分布を有する;
(c)酸化還元電位が100mV以下である;
(d)前記分散剤がスチレンアクリル樹脂である;および
(e)顔料粒子、アクリル系分散剤および水の総量に対して顔料粒子が9〜21重量%、分散剤が3〜7重量%である。
【0050】
第1実施形態において、着色用顔料組成物による陽極酸化皮膜の着色後にイソプロピルアルコールまたは水に浸漬して細孔内の顔料粒子を凝集することを許容する。このような処理により色彩が鮮やかになったり、色の深みを増大させたりすることが可能になる。
【0051】
以上説明した第1実施形態によれば、着色工程で電気泳動法を用いることなく、40〜100℃の温水で水洗した後、着色用顔料組成物に浸漬する単純な工程で、基材上の陽極酸化皮膜における着色前のアルミニウムまたはその合金の基材を基準とする色差が十分に大きく、加熱しても色度の低下のない耐熱性に優れた着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法を提供できる。
【0052】
また、第1実施形態によれば前記着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法に好適に利用可能な着色用顔料組成物を提供できる。
【0053】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法は、
(i)アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材をリン酸を含む処理溶液中で陽極酸化を行って前記基材表面に複数の細孔を有する陽極酸化皮膜を形成する工程と、
(ii)前記基材を水洗した後、熱風で乾燥する工程と、
(iii)前記基材を顔料粒子、分散剤および水を含む着色用顔料組成物に浸漬して前記基材表面の陽極酸化皮膜の複数の細孔に前記顔料粒子を充填し、着色する工程と
を含む。
【0054】
前記(i)工程で用いるアルミニウムまたはその合金は、第1実施形態で説明したのと同様なものを挙げることができる。
【0055】
前記(i)工程の詳細は、前述した第1実施形態と同様である。
【0056】
前記(ii)工程において、水洗した後、熱風で乾燥することによって、この後の前記(iii)工程での基材の着色用顔料組成物への浸漬において、顔料粒子を基材の陽極酸化皮膜の複数の細孔に円滑に進入させて、それらの細孔内を十分な量の顔料粒子で充填する、つまり良好に着色する、ことが可能になる。
【0057】
すなわち、本発明者らの実験、研究によると、基材をリン酸を含む処理溶液での陽極酸化後に常温での水洗のみを施した場合、その後に基材を顔料粒子、分散剤および水を含む着色用顔料組成物に浸漬しても、基材表面の陽極酸化皮膜が十分に着色されないことを究明した。これは、常温での水洗のみでは陽極酸化皮膜の複数の細孔内に残留するリン酸根が除去されず、このリン酸根が着色顔料組成物中の顔料粒子の細孔内への進入を阻害するものと推定される。
【0058】
このようなことから、本発明者らは着色顔料組成物での着色工程前の基材を常温で水洗した後熱風で乾燥を行ったところ、驚くべきことに乾燥後の基材を顔料粒子、分散剤および水を含む着色用顔料組成物に浸漬すると、基材表面の陽極酸化皮膜において着色前の基材を基準とする色差が十分に大きくなって良好に着色できることを究明した。これは、水洗後に熱風で乾燥することによって陽極酸化で複数の細孔内に残留したリン酸根が除去されて、乾燥後の基材を着色用顔料組成物に浸漬すると、組成物中の顔料粒子が複数の細孔内に円滑に進入して十分な量の顔料粒子を細孔内に充填できることに起因するものと推定される。
【0059】
前記(ii)工程での水洗は、例えば浸漬法またはスプレー法を採用することができる。
【0060】
前記(ii)工程での熱風の温度は、50〜150℃、より好ましくは70〜100℃であることが望ましい。
【0061】
前記(iii)工程の詳細は、前述した第1実施形態と同様である。
【0062】
第2実施形態に係る着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法に使用される着色用顔料組成物は、前述した第1実施形態と同様、
(a)顔料粒子、分散剤および水を含む;
(b)前記顔料粒子は、前記分散剤を含む水に分散した状態で、D80以上の粒子径が陽極酸化皮膜の複数の細孔のうち、最も小さい細孔の孔径未満である粒子径分布を有する;
(c)酸化還元電位が200mV以下である;および
(d)前記分散剤がアクリル系樹脂である。
【0063】
第2実施形態に係る着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法に使用されるより好ましい着色用顔料組成物は、前述した第1実施形態と同様、
(a)顔料粒子、分散剤および水からなる;
(b)前記顔料粒子は、前記分散剤を含む水に分散した状態で、D80以上(より好ましくはD90以上)の粒子径が陽極酸化皮膜の複数の細孔のうち、最も小さい細孔の孔径未満である粒子径分布を有する;
(c)酸化還元電位が100mV以下である;
(d)前記分散剤がスチレンアクリル樹脂である;および
(e)顔料粒子、アクリル系分散剤および水の総量に対して顔料粒子が9〜21重量%、分散剤が3〜7重量%である。
【0064】
以上説明した第2実施形態によれば、着色工程で電気泳動法を用いることなく、水洗、熱風乾燥後に、着色用顔料組成物に浸漬する単純な工程で、基材上の陽極酸化皮膜における着色前のアルミニウムまたはその合金の基材を基準とする色差が十分に大きく、加熱しても色度の低下のない耐熱性に優れた、着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法を提供できる。
【0065】
また、第2実施形態によれば前記着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法に好適に利用可能な着色用顔料組成物を提供できる。
【0066】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法は、
(i)アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材をリン酸を含む処理溶液中で陽極酸化を行って前記基材表面に複数の細孔を有する陽極酸化皮膜を形成する工程と、
(ii)前記基材をpHが9.0〜10.0のアルカリ水溶液で処理した後、水洗する工程と、
(iii)前記基材を顔料粒子、分散剤および水を含む着色用顔料組成物に浸漬して前記基材表面の陽極酸化皮膜の複数の細孔に前記顔料粒子を充填し、着色する工程と
を含む。
【0067】
前記(i)工程で用いるアルミニウムまたはその合金は、第1実施形態で説明したのと同様なものを挙げることができる。
【0068】
前記(i)工程の詳細は、前述した第1実施形態と同様である。
【0069】
前記(ii)工程において、基材をpHが9.0〜10.0のアルカリ水溶液で処理した後、水洗することによって、この後の前記(iii)工程での基材の着色用顔料組成物への浸漬において、顔料粒子を基材の陽極酸化皮膜の複数の細孔に円滑に進入させ、それらの細孔内を十分な量の顔料粒子で充填する、つまり良好に着色する、ことが可能になる。
【0070】
すなわち、本発明者らの実験、研究によると、基材をリン酸を含む処理溶液での陽極酸化後に水洗のみを施した場合、その後に基材を顔料粒子、分散剤および水を含む着色用顔料組成物に浸漬しても、基材表面の陽極酸化皮膜が十分に着色されないことを究明した。これは、水洗のみでは陽極酸化皮膜の複数の細孔内に残留するリン酸根が除去されず、このリン酸根が着色顔料組成物中の顔料粒子の細孔内への進入を阻害するものと推定される。
【0071】
このようなことから、本発明者らは着色顔料組成物での着色工程前の基材をpHが9.0〜10.0のアルカリ水溶液で処理した後、水洗を行ったところ、驚くべきことに基材を顔料粒子、分散剤および水を含む着色用顔料組成物に浸漬すると、基材表面の陽極酸化皮膜において着色前の基材を基準とする色差が十分に大きくなって良好に着色できることを究明した。これは、pHが9.0〜10.0のアルカリ水溶液で処理することによって陽極酸化で複数の細孔内に残留したリン酸根がアルカリと中和されて除去され、その後、基材を着色用顔料組成物に浸漬すると、組成物中の顔料粒子が複数の細孔内に円滑に進入して十分な量の顔料粒子を細孔内に充填できることに起因するものと推定される。
【0072】
前記(ii)工程に用いるアルカリ水溶液は、無機アリカリ剤または有機アルカリ剤を水に溶解したpHが9.0〜10.0のものであれば、いかなるものでもよい。無機アリカリ剤の例は、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムを含む。特に、アルカリ水溶液は水酸化アンモニウム水溶液、炭酸ナトリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)水溶液が好ましい。このアルカリ水溶液は、常温(20℃)未満、常温、または常温を超える加温した水溶液を用いることができる。
【0073】
前記(ii)工程で用いるアルカリ水溶液のpHを9.0未満にすると、顔料粒子による基材を着色前の基材を基準とする色差が十分に大きくなるように着色することが困難になる。他方、アルカリ水溶液のpHが10.0を超えると、基材表面に形成された陽極酸化皮膜が溶解するおそれがある。より好ましいアルカリ水溶液のpHは、9.5〜10.0である。
【0074】
前記(ii)工程でのアルカリ水溶液の処理は、例えば基材をこのアルカリ水溶液に浸漬する方法、基材にアルカリ水溶液をスプレーする方法を採用できる。アルカリ水溶液の処理時間は、1秒間〜30分間、より好ましくは30秒間〜5分間にすることが望ましい。
【0075】
前記(ii)工程での水洗は、例えば浸漬法またはスプレー法を採用することができる。水洗水は、常温でも、加温していてもよい。
【0076】
前記(ii)工程において、水洗後に乾燥することが好ましい。乾燥は、陽極酸化皮膜の水分が無くなるまで、例えば常温の空気を吹き付けて行うことが好ましい。
【0077】
前記(iii)工程の詳細は、前述した第1実施形態と同様である。
【0078】
第3実施形態に係る着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法に使用される着色用顔料組成物は、前述した第1実施形態と同様、
(a)顔料粒子、分散剤および水を含む;
(b)前記顔料粒子は、前記分散剤を含む水に分散した状態で、D80以上の粒子径が陽極酸化皮膜の複数の細孔のうち、最も小さい細孔の孔径未満である粒子径分布を有する;
(c)酸化還元電位が200mV以下である;および
(d)前記分散剤がアクリル系樹脂である。
【0079】
第3実施形態に係る着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法に使用されるより好ましい着色用顔料組成物は、前述した第1実施形態と同様、
(a)顔料粒子、分散剤および水からなる;
(b)前記顔料粒子は、前記分散剤を含む水に分散した状態で、D80以上(より好ましくはD90以上)の粒子径が陽極酸化皮膜の複数の細孔のうち、最も小さい細孔の孔径未満である粒子径分布を有する;
(c)酸化還元電位が100mV以下である;
(d)前記分散剤がスチレンアクリル樹脂である;および
(e)顔料粒子、アクリル系分散剤および水の総量に対して顔料粒子が9〜21重量%、分散剤が3〜7重量%である。
【0080】
以上説明した第3実施形態によれば、着色工程で電気泳動法を用いることなく、基材をpHが9.0〜10.0のアルカリ水溶液で処理し、水洗した後に、着色用顔料組成物に浸漬する単純な工程で、基材上の陽極酸化皮膜における着色前のアルミニウムまたはその合金の基材を基準とする色差が十分に大きく、加熱しても色度の低下のない耐熱性に優れた、着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法を提供できる。
【0081】
また、第3実施形態によれば前記着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法に好適に利用可能な着色用顔料組成物を提供できる。
【0082】
(第4実施形態)
第4実施形態に係る着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、前記基材表面に形成され、孔径が20〜200nm、表面から厚さ方向の深さが1〜50μmの複数の細孔を有する陽極酸化皮膜と、前記陽極酸化皮膜の複数の細孔に充填された、前記細孔の孔径より小さい径を有する顔料粒子とを備え、前記顔料粒子の細孔への充填度合は着色前の前記基材を基準とする色差を指標として規定される。規定される色差は、以下のように顔料粒子の色によって異なる。
【0083】
黒色の顔料粒子:着色前の基材を基準とする色差(ΔE)44以上、
赤色の顔料粒子:着色前の基材を基準とする色差(ΔE)40以上、
青色の顔料粒子:着色前の基材を基準とする色差(ΔE)50以上、
黄色の顔料粒子:着色前の基材を基準とする色差(ΔE)30以上、
緑色の顔料粒子:着色前の基材を基準とする色差(ΔE)45以上、
白色の顔料粒子:着色前の基材を基準とする色差(ΔE)3.5以上。
【0084】
基材であるアルミニウムの例は、純度99.99%以上の高純度アルミニウム、純度99%前後の純アルミニウム(例えばA1050,1100)を含む。基材であるアルミニウム合金の例は、Al−Mn系(例えばA3003,A3004),Al−Mg系(例えばA5005,A5052,A5083),Al−Si系(例えばA4043),Al−Cu系(例えばA2017,A2024),Al−Zn系(例えばA7072),Al−Mg−Si系(例えばA6061,A6063)を含む。
【0085】
基材は、板状、一部が開口した中空状、有底筒状、ブロック状(例えば鋳物、ダイキャスト)等、任意の形状を有する。
【0086】
陽極酸化皮膜に形成される複数の細孔の孔径を20nm未満にすると、充填可能な顔料粒子の粒径が微細化し、細孔内への顔料粒子の充填が低下し、着色の指標である色差(ΔE)を目的とする値以上にすることが困難になる。他方、細孔の孔径が200nmを超えると、細孔間の隔壁が薄くなって陽極酸化皮膜自体の強度が低下するおそれがある。より好ましい細孔の孔径は70〜170nmである。
【0087】
表面から厚さ方向の細孔深さを1μm未満にすると、細孔内に充填される顔料粒子の絶対量が低下し、着色の指標である色差(ΔE)を目的とする値以上にすることが困難になる。他方、表面から厚さ方向の細孔深さが50μmを超えると、陽極酸化皮膜自体の強度が低下するおそれがある。より好ましい表面から厚さ方向の細孔深さは、2〜20μmである。
【0088】
前記陽極酸化皮膜の細孔の密度、すなわち陽極酸化皮膜表面の一定の面積(25μm2)あたりの細孔の数は、1000〜2200個であることが好ましい。
【0089】
ここで、「面積(25μm2)あたりの細孔の数」は陽極酸化皮膜の表面を電子顕微鏡で撮影し、その電子顕微鏡写真の0.25μm2の領域を目視で観察し、細孔の数をカウントした後にその数値を100倍することにより求めた。
【0090】
細孔の数を前記範囲にすることにより、陽極酸化皮膜自体の強度が維持しながら、陽極酸化皮膜が良好に着色された着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品を得ることができる。より好ましい細孔の数は1000〜1600個/25μm2である。
【0091】
顔料粒子の粒子径は、陽極酸化皮膜における細孔の孔径の80%以下に相当する径、好ましくは70%以下に相当する径、より好ましくは60%以下に相当する径、最も好ましくは50%以下に相当する径を有することが好ましい。ここで、「粒子径」とは顔料粒子が真球である場合はその直径を、顔料粒子が扁平形状である場合は最大長さを、それぞれ意味する。このような粒子径を有する顔料粒子は、陽極酸化皮膜の細孔内の奥に、かつ密に充填される。このため、着色の指標である色差(ΔE)が目的とする値以上の着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品を得ることが可能になる。なお、顔料粒子の粒子径の下限は細孔の孔径の30%に相当する径であることが好ましい。
【0092】
陽極酸化皮膜の細孔には、顔料粒子と共に分散剤(好ましくはスチレン−アクリル酸(SA)共重合体のようなアクリル系樹脂)が充填されることが好ましい。
【0093】
以上説明した第4実施形態によれば、着色前のアルミニウムまたはその合金の基材を基準とする色差が所定の値を有し、耐熱性に優れた黒色、赤色、青色、黄色、緑色、白色を有する着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品を提供できる。
【0094】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0095】
なお、以下の実施例、比較例において顔料粒子の「D50」および「D80」は、次のような方法および計算により規定した。すなわち、分散剤を含む水に顔料粒子を分散した試料にレーザ光を照射し、顔料粒子によって散乱された光を光散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製:動的光散乱式LB−550)に取込む。この後、同測定装置で演算処理して試料中の顔料粒子の粒子径分布を求める。得られた顔料粒子の粒子径分布、例えば顔料粒子200個の粒子径分布、から顔料粒子の粒子径の値が小さい順に並ぶように処理する。小さい方から100個目(100個を基準にすると50個目)の顔料粒子の粒子径を「D50」、小さい方から160個目(100個を基準にすると80個目)の顔料粒子の粒子径を「D80」と規定した。
【0096】
(実施例1)
幅25mm、長さ50mm、厚さ1mmのAl基材(純アルミニウム:A1050)を用意した。このAl基材の表面を脱脂した後、下記条件で陽極酸化を施した。
【0097】
<陽極酸化条件>
・処理液:リン酸150g/Lの水溶液(常温)、
・電解時の電圧、電流:90V,1A,
・電解時間:50分間。
【0098】
Al基材表面に形成された陽極酸化皮膜は、厚さが9.3μm、表面から基材と陽極酸化皮膜の界面に至る複数の細孔を有する。表面に露出した細孔のうち最も小さい孔径(最小孔径)は、170nmであった。なお、細孔深さは皮膜の厚さに相当する。このような陽極酸化皮膜の厚さおよび細孔の孔径は、陽極酸化皮膜を含む基材の断面電子顕微鏡写真および陽極酸化皮膜の表面電子顕微鏡写真から確認した。
【0099】
また、前述した第1実施形態と同様な方法で陽極酸化皮膜表面の一定の面積(25μm2)あたりの細孔の数を測定した。その結果、1170個/25μm2であった。
【0100】
次いで、陽極酸化皮膜が形成されたAl基材を70℃の温水に30分間浸漬して水洗した。その後、乾燥せずに下記組成の着色用顔料組成物(液温:20℃)中に30分間浸漬してAl基材の陽極酸化皮膜を黒色に着色した。
【0101】
<着色用顔料組成物>
・黒色顔料粒子:カーボンブラック(D50の粒子径が45.3nm,D80の粒子径が60.2nmである粒子分布を有する)30重量部、
・分散剤:スチレンアクリル樹脂(PMC星光化学社製商品名;ハイロス2008L、数平均分子量:20,000)33重量部、
・水:100重量部。
【0102】
・酸化還元電位(ORP):−9mV、
・pH:8.56。
【0103】
(実施例2)
下記組成の着色用顔料組成物を用いた以外、実施例1と同様な方法でAl基材の陽極酸化皮膜を黒色に着色した。
【0104】
<着色用顔料組成物>
・黒色顔料粒子:カーボンブラック(D50の粒子径が90.8nm,D80の粒子径が110nmである粒子分布を有する)30重量部、
・分散剤:アクリル酸樹脂(東亜合成社製商品名;ジュリマーAT−510、数平均分子量:約25,000)33重量部、
・水:100重量部。
【0105】
・酸化還元電位(ORP):167mV、
・pH:7.41。
【0106】
(実施例3)
下記組成の着色用顔料組成物を用いた以外、実施例1と同様な方法でAl基材の陽極酸化皮膜を黒色に着色した。
【0107】
<着色用顔料組成物>
・黒色顔料粒子:カーボンブラック(D50の粒子径が77.2nm,D80の粒子径が98.9nmである粒子分布を有する)30重量部、
・分散剤:スチレンマレイン酸樹脂(SARTOMER社製商品名;SMA−1440H、数平均分子量:7,000)30重量部、
・水:100重量部。
【0108】
・酸化還元電位(ORP):37mV、
・pH:7.97。
【0109】
(実施例4)
実施例1と同様な陽極酸化皮膜が形成されたAl基材を常温(20℃)の水で30分間水洗した。つづいて、100℃の熱風で10分間乾燥した。その後、実施例1と同様な着色用顔料組成物(液温:20℃)中に60分間浸漬してAl基材の陽極酸化皮膜を黒色に着色した。
【0110】
(実施例5)
実施例1と同様な陽極酸化皮膜が形成されたAl基材をpH9.5の水酸化アンモニウム水溶液に1分間浸漬し、常温(20℃)の水で5秒間水洗した。つづいて、陽極酸化皮膜に常温の空気を陽極酸化皮膜の水分が無くなるまで吹き付けて乾燥した。なお、水酸化アンモニウム水溶液は水50mLに38%濃度のアンモニア水を1滴(約0.05mL)滴下することにより調製した。その後、実施例1と同様な着色用顔料組成物(液温:20℃)中に60分間浸漬してAl基材の陽極酸化皮膜を黒色に着色した。
【0111】
(比較例1)
実施例1と同様な方法によりAl基材に陽極酸化皮膜を形成した。つづいて、陽極酸化皮膜が形成されたAl基材を常温(20℃)の水に30分間浸漬して水洗した。その後、乾燥せずに下記組成の着色用顔料組成物(液温:20℃)中に30分間浸漬してAl基材の陽極酸化皮膜を黒色に着色した。
【0112】
<着色用顔料組成物>
・黒色顔料粒子:カーボンブラック(D80の粒子径が115nmである粒子分布を有する)30重量部、
・分散剤:ラウリルアルコール硫酸エステルアンモミウム塩(第一工業製薬社製商品名;モノゲンY−100)7.5重量部、
・水:100重量部。
【0113】
・酸化還元電位(ORP):300mV、
・pH:4.34。
【0114】
(比較例2)
実施例1と同様なAl基材(純アルミニウム:A1050)の表面を脱脂した後、下記条件で陽極酸化を施した。
【0115】
<陽極酸化条件>
・処理液:硫酸180g/Lの水溶液(常温)、
・電解時の電圧、電流密度:16V,1A/cm2
・電解時間:60分間。
【0116】
Al基材表面に形成された陽極酸化皮膜は、厚さが5μm、表面から基材と陽極酸化皮膜の界面に至る複数の細孔を有し、かつ細孔が表面に露出した孔径(最小孔径)が50nmであった。このような陽極酸化皮膜の厚さおよび細孔の孔径は陽極酸化皮膜を含む基材の断面電子顕微鏡写真および陽極酸化皮膜の表面電子顕微鏡写真から確認した。
【0117】
次いで、陽極酸化皮膜が形成されたAl基材を常温(20℃)の水に30分間浸漬して水洗した。その後、乾燥せずに下記組成の染料組成物(液温:20℃)中に30分間浸漬してAl基材の陽極酸化皮膜を黒色に着色した。
【0118】
<染料組成物>
・黒色染料:クロム含金染料(奥野製薬社製商品名:ブラック421)0.7重量部、
・水:100重量部。
【0119】
・pH:5.5。
【0120】
得られた実施例1〜5および比較例1、2の陽極酸化皮膜の着色(染色)度合を陽極酸化前のAl基材を基準とする色差(ΔE)から求めた。色差測定は、Minolta製のCM−2600dを使用した。
【0121】
また、実施例1〜5および比較例1、2のAl基材を温度250℃の雰囲気に6時間曝す耐熱試験を行った後に陽極酸化前のAl基材を基準とする色差(ΔE)を測定した。
【0122】
これらの結果を下記表1に示す。
【表1】

【0123】
前記表1から明らかなように陽極酸化後に温水で水洗した実施例1〜3、陽極酸化後に水洗し、熱風で乾燥した実施例4、陽極酸化後にpH9.5の水酸化アンモニウム水溶液に浸漬し、水洗した実施例5では、陽極酸化皮膜の色差(ΔE)が50以上で濃い黒色に着色されることが分かる。これに対し、陽極酸化後に常温で水洗した比較例1では色差(ΔE)が27で殆ど黒色に着色されなかった。実施例1〜3の中で、着色用顔料組成物中の分散剤としてスチレンアクリル樹脂を用いた実施例1では他の実施例2,3に比べてΔEが高く、より濃い黒色に着色されることが分かる。
【0124】
一方、着色に顔料粒子を用いた実施例1〜5は耐熱試験においてその試験前と殆ど変わらない色差(ΔE)を示したが、着色に染料を用いた比較例2では耐熱試験において色差(ΔE)が著しく低下して脱色された。
【0125】
(実施例6)
実施例1と同様なAl基材の表面を脱脂した後、下記条件で陽極酸化を施した。
【0126】
<陽極酸化条件>
・処理液:リン酸150g/Lの水溶液(常温)、
・電解時の電圧、電流:45V,0.5A,
・電解時間:35分間。
【0127】
Al基材表面に形成された陽極酸化皮膜は、厚さが3.3μm、表面から基材と陽極酸化皮膜の界面に至る複数の細孔を有し、かつ細孔が表面に露出した孔径(最小孔径)が66nmであった。なお、細孔深さは皮膜の厚さに相当する。このような陽極酸化皮膜の厚さおよび細孔の孔径は陽極酸化皮膜を含む基材の断面電子顕微鏡写真および陽極酸化皮膜の表面電子顕微鏡写真から確認した。
【0128】
また、前述した第1実施形態と同様な方法で陽極酸化皮膜表面の一定の面積(25μm2)あたりの細孔の数を測定した。その結果、2170個/25μm2であった。
【0129】
次いで、陽極酸化皮膜が形成されたAl基材を70℃の温水に30分間浸漬して水洗した。その後、乾燥せずに実施例1と同様な着色用顔料組成物[液温:20℃,黒色顔料粒子:カーボンブラック(D50の粒子径が45.3nm,D80の粒子径が60.2nmである粒子分布を有する)]中に30分間浸漬してAl基材の陽極酸化皮膜を黒色に着色した。
【0130】
(実施例7)
実施例1と同様なAl基材の表面を脱脂した後、下記条件で陽極酸化を施した。
【0131】
<陽極酸化条件>
・処理液:リン酸150g/Lの水溶液(常温)、
・電解時の電圧、電流:65V,0.5A,
・電解時間:35分間。
【0132】
Al基材表面に形成された陽極酸化皮膜は、厚さが4μm、表面から基材と陽極酸化皮膜の界面に至る複数の細孔を有し、かつ細孔が表面に露出した孔径(最小孔径)が125nmであった。なお、細孔深さは皮膜の厚さに相当する。このような陽極酸化皮膜の厚さおよび細孔の孔径は陽極酸化皮膜を含む基材の断面電子顕微鏡写真および陽極酸化皮膜の表面電子顕微鏡写真から確認した。
【0133】
また、前述した第1実施形態と同様な方法で陽極酸化皮膜表面の一定の面積(25μm2)あたりの細孔の数を測定した。その結果、1530個/25μm2であった。
【0134】
その後、実施例6と同様な方法で陽極酸化皮膜を黒色に着色した。
【0135】
(実施例8)
実施例1と同様なAl基材の表面を脱脂した後、下記条件で陽極酸化を施した。
【0136】
<陽極酸化条件>
・処理液:リン酸150g/Lの水溶液(常温)、
・電解時の電圧、電流:90V,1A,
・電解時間:35分間。
【0137】
Al基材表面に形成された陽極酸化皮膜は、厚さが5.8μm、表面から基材と陽極酸化皮膜の界面に至る複数の細孔を有し、かつ細孔が表面に露出した孔径(最小孔径)が130nmであった。なお、細孔深さは皮膜の厚さに相当する。このような陽極酸化皮膜の厚さおよび細孔の孔径は陽極酸化皮膜を含む基材の断面電子顕微鏡写真および陽極酸化皮膜の表面電子顕微鏡写真から確認した。
【0138】
また、前述した第1実施形態と同様な方法で陽極酸化皮膜表面の一定の面積(25μm2)あたりの細孔の数を測定した。その結果、1500個/25μm2であった。
【0139】
その後、実施例6と同様な方法で陽極酸化皮膜を黒色に着色した。
【0140】
得られた実施例6〜8の陽極酸化皮膜の色差(ΔE)を実施例1と同様な方法で測定した。その結果を下記表2に示す。
【表2】

【0141】
前記表2から明らかなように孔径が50〜200nm、表面から厚さ方向の深さが3〜10μmの複数の細孔を有する陽極酸化皮膜を水洗し、熱風で乾燥した実施例6〜8では、陽極酸化皮膜の色差(ΔE)が44以上で濃い黒色に着色されることが分かる。
【0142】
なお、前記表2に示さないが、実施例6〜8は耐熱試験後の陽極酸化皮膜の色差(ΔE)が実施例1〜5と同様、その試験前と殆ど変わらない色差(ΔE)を示した。
【0143】
(実施例9)
下記組成の着色用顔料組成物を用いた以外、実施例1と同様な方法でAl基材の陽極酸化皮膜を赤色に着色した。
【0144】
<着色用顔料組成物>
・赤色顔料粒子:Pigment Red 112 (Naphthol Red)(D80の粒子径が150nmである粒子分布を有する)34重量部、
・分散剤:スチレンアクリル樹脂(PMC星光化学社製商品名;ハイロス2008L、数平均分子量:20,000)38重量部、
・水:100重量部。
【0145】
・酸化還元電位(ORP):63mV、
・pH:8.8。
【0146】
(実施例10)
下記組成の着色用顔料組成物を用いた以外、実施例1と同様な方法でAl基材の陽極酸化皮膜を青色に着色した。
【0147】
<着色用顔料組成物>
・青色顔料粒子:Pigment Blue 15 (Cyanine BlueHS-3)(D80の粒子径が150nmである粒子分布を有する)34重量部、
・分散剤:スチレンアクリル樹脂(PMC星光化学社製商品名;ハイロス2008L、数平均分子量:20,000)38重量部、
・水:100重量部。
【0148】
・酸化還元電位(ORP):27mV、
・pH:9.56。
【0149】
(実施例11)
下記組成の着色用顔料組成物を用いた以外、実施例1と同様な方法でAl基材の陽極酸化皮膜を黄色に着色した。
【0150】
<着色用顔料組成物>
・黄色顔料粒子:Pigment Yellow 83 (Diazo Yellow)(D80の粒子径が150nmである粒子分布を有する)34重量部、
・分散剤:スチレンアクリル樹脂(PMC星光化学社製商品名; ハイロス2008L、数平均分子量:5,000)38重量部、
・水:100重量部。
【0151】
・酸化還元電位(ORP):12mV、
・pH:9.66。
【0152】
(実施例12)
下記組成の着色用顔料組成物を用いた以外、実施例1と同様な方法でAl基材の陽極酸化皮膜を緑色に着色した。
【0153】
<着色用顔料組成物>
・緑色顔料粒子:Pigment Green 7 (Cyanine Green 2GN)(D80の粒子径が150nmである粒子分布を有する)34重量部、
・分散剤:スチレンアクリル樹脂(PMC星光化学社製商品名; ハイロス2008L、数平均分子量:5,000)38重量部、
・水:100重量部。
【0154】
・酸化還元電位(ORP):57mV、
・pH:9.03。
【0155】
(実施例13)
下記組成の着色用顔料組成物を用いた以外、実施例1と同様な方法でAl基材の陽極酸化皮膜を白色に着色した。
【0156】
<着色用顔料組成物>
・白色顔料粒子:酸化チタン(D80の粒子径が120nmである粒子分布を有する)75重量部、
・分散剤:スチレンアクリル樹脂(PMC星光化学社製商品名; ハイロス2008L、数平均分子量:5,000)10重量部、
・水:100重量部。
【0157】
・酸化還元電位(ORP):37mV、
・pH:8.88。
【0158】
(比較例3)
実施例1と同様な方法によりAl基材に陽極酸化皮膜を形成した。つづいて、陽極酸化皮膜が形成されたAl基材を常温(20℃)の水に30分間浸漬して水洗した。その後、乾燥せずに下記組成の着色用顔料組成物(液温:20℃)中に30分間浸漬してAl基材の陽極酸化皮膜を赤色に着色した。
【0159】
<着色用顔料組成物>
・赤色顔料粒子:ペリレンレッド(D80の粒子径が1970nmである粒子分布を有する)20重量部、
・分散剤:ポリオキシエチレンステアリルアミン(日油株式会社製商品名;ナイミーンS220)80重量部、
・水:150重量部。
【0160】
・酸化還元電位(ORP):130mV、
・pH:8.02。
【0161】
得られた実施例9〜13および比較例3の陽極酸化皮膜の色差(ΔE)、耐熱試験後の陽極酸化皮膜の色差(ΔE)を実施例1と同様な方法で測定した。その結果を下記表3に示す。
【表3】

【0162】
前記表3から明らかなように陽極酸化後に温水で水洗した実施例9〜12では、陽極酸化皮膜の色差(ΔE)が40以上で濃い色に着色されることが分かる。白色顔料粒子を用いた実施例13では、陽極酸化皮膜の色差(ΔE)が若干低くなる。
【0163】
これに対し、陽極酸化後に常温で水洗し、赤色顔料粒子を用いた比較例3では実施例8(赤色顔料粒子を使用)に比べて色差(ΔE)が1.44で殆ど赤色に着色されなかった。
【0164】
実施例9〜13では、耐熱試験においてその試験前と殆ど変わらない色差(ΔE)を示した。なお、比較例3では着色時の色差(ΔE)が極めて小さいために、耐熱試験において色差(ΔE)測定ができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材をリン酸を含む処理溶液中で陽極酸化を行って前記基材表面に複数の細孔を有する陽極酸化皮膜を形成する工程と、
(ii)前記基材を40〜100℃の温水により処理する工程と、
(iii)前記基材を顔料粒子、分散剤および水を含む着色用顔料組成物に浸漬して前記基材表面の陽極酸化皮膜の複数の細孔に前記顔料粒子を充填し、着色する工程と
を含むことを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法。
【請求項2】
(i)アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材をリン酸を含む処理溶液中で陽極酸化を行って前記基材表面に複数の細孔を有する陽極酸化皮膜を形成する工程と、
(ii)前記基材を水洗した後、熱風で乾燥する工程と、
(iii)前記基材を顔料粒子、分散剤および水を含む着色用顔料組成物に浸漬して前記基材表面の陽極酸化皮膜の複数の細孔に前記顔料粒子を充填し、着色する工程と
を含むことを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法。
【請求項3】
(i)アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材をリン酸を含む処理溶液中で陽極酸化を行って前記基材表面に複数の細孔を有する陽極酸化皮膜を形成する工程と、
(ii)前記基材をpHが9.0〜10.0のアルカリ水溶液で処理した後、水洗する工程と、
(iii)前記基材を顔料粒子、分散剤および水を含む着色用顔料組成物に浸漬して前記基材表面の陽極酸化皮膜の複数の細孔に前記顔料粒子を充填し、着色する工程と
を含むことを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法。
【請求項4】
前記陽極酸化皮膜の細孔は、孔径が20〜200nm、厚さ方向の深さが1〜50μmであることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法。
【請求項5】
前記熱風の温度は、50〜150℃であることを特徴とする請求項2記載の着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法。
【請求項6】
前記(ii)の工程において、基材を温水により処理した後、さらに前記基材を熱風で乾燥することを特徴とする請求項1記載の着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ水溶液が水酸化アンモニア水溶液またはテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液であることを特徴とする請求項3記載の着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7いずれか1項記載の着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品の製造方法に使用される着色用顔料組成物であって、
顔料粒子、分散剤および水を含み、
前記顔料粒子は、前記分散剤を含む水に分散した状態で、D80以上の粒子径が前記複数の細孔のうち、最も小さい細孔の孔径未満である粒子径分布を有し、かつ
酸化還元電位が200mV以下であることを特徴とする着色用顔料組成物。
【請求項9】
前記顔料粒子は、前記分散剤を含む水に分散した状態で、D80以上の粒子径が前記複数の細孔のうち、最も小さい細孔の孔径の80%以下に相当する径を有することを特徴とする請求項8記載の着色用顔料組成物。
【請求項10】
前記分散剤がアクリル系樹脂であることを特徴とする請求項8または9記載の着色用顔料組成物。
【請求項11】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、
前記基材表面に形成され、孔径が20〜200nm、表面から厚さ方向の深さが1〜50μmの複数の細孔を有する陽極酸化皮膜と、
前記陽極酸化皮膜の複数の細孔に着色前の前記基材を基準とする色差が44以上になるように充填された、前記細孔の孔径より小さい粒子径を有する黒色の顔料粒子と
を備えることを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品。
【請求項12】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、
前記基材表面に形成され、孔径が20〜200nm、表面から厚さ方向の深さが1〜50μmの複数の細孔を有する陽極酸化皮膜と、
前記陽極酸化皮膜の複数の細孔に着色前の前記基材を基準とする色差が40以上になるように充填された、前記細孔の孔径より小さい粒子径を有する赤色の顔料粒子と
を備えることを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品。
【請求項13】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、
前記基材表面に形成され、孔径が20〜200nm、表面から厚さ方向の深さが1〜50μmの複数の細孔を有する陽極酸化皮膜と、
前記陽極酸化皮膜の複数の細孔に着色前の前記基材を基準とする色差が50以上になるように充填された、前記細孔の孔径より小さい粒子径を有する青色の顔料粒子と
を備えることを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品。
【請求項14】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、
前記基材表面に形成され、孔径が20〜200nm、表面から厚さ方向の深さが1〜50μmの複数の細孔を有する陽極酸化皮膜と、
前記陽極酸化皮膜の複数の細孔に着色前の前記基材を基準とする色差が30以上になるように充填された、前記細孔の孔径より小さい粒子径を有する黄色の顔料粒子と
を備えることを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品。
【請求項15】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、
前記基材表面に形成され、孔径が20〜200nm、表面から厚さ方向の深さが1〜50μmの複数の細孔を有する陽極酸化皮膜と、
前記陽極酸化皮膜の複数の細孔に着色前の前記基材を基準とする色差が45以上になるように充填された、前記細孔の孔径より小さい粒子径を有する緑色の顔料粒子と
を備えることを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品。
【請求項16】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材と、
前記基材表面に形成され、孔径が20〜200nm、表面から厚さ方向の深さが1〜50μmの複数の細孔を有する陽極酸化皮膜と、
前記陽極酸化皮膜の複数の細孔に着色前の前記基材を基準とする色差が3.5以上になるように充填された、前記細孔の孔径より小さい粒子径を有する白色の顔料粒子と
を備えることを特徴とする着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品。
【請求項17】
前記顔料粒子の粒子径は、前記陽極酸化皮膜の細孔の孔径の80%以下に相当する径を有することを特徴とする請求項11〜16いずれか1項記載の着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品。
【請求項18】
前記陽極酸化皮膜表面の25μm2の面積あたりの細孔の数は、1000〜2200個であることを特徴とする請求項11〜16いずれか1項記載の着色アルミニウム製品または着色アルミニウム合金製品。

【公開番号】特開2013−82994(P2013−82994A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−183547(P2012−183547)
【出願日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【出願人】(598052078)電化皮膜工業株式会社 (3)
【出願人】(000142920)株式会社呉竹 (24)
【出願人】(397039148)株式会社デー・シー (2)