説明

着色ステンレス製グレーチングの製造方法及びこの製造方法により得られる着色ステンレス製グレーチング

【課題】均一な光沢を有し高級感にあふれると共に、防錆効果の高い着色ステンレス製グレーチングの製造方法及びこの製造方法で得られる着色ステンレス製グレーチングを提供する。
【解決手段】本発明の着色ステンレス製グレーチングの製造方法は、ステンレスからなるグレーチングを電解研磨する電解研磨工程と、電解研磨されたグレーチングを陽極酸化し、それによりグレーチングの表面部上に着色皮膜を形成させる陽極酸化工程と、を順次備える。電解研磨工程は、グレーチングの表面部を内部方向へ5〜15μm溶解して、表面粗度が、0.5〜3nmの平滑面を形成させることができる。陽極酸化工程における陽極の上昇電位は、5〜35mVとし、電位の上昇速度が1〜2mV/分とすることができる。陽極酸化工程は、0.025〜0.25A/dmの電流密度で行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色ステンレス製グレーチングの製造方法及びこの製造方法により得られる着色ステンレス製グレーチングに関する。更に詳しくは、本発明は、均一な光沢を有し高級感にあふれると共に、防錆効果の高い着色ステンレス製グレーチングの製造方法及びこの製造方法により得られる着色ステンレス製グレーチングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物内部においては、美観を維持するため防錆効果を高いステンレス製のグレーチングが多く用いられている。通常、グレーチングは、外枠部材と、この外枠部材に対して嵌着固定した縦部材と横部材とを格子状に組み合わせて形成されている。
また、グレーチングは、人又は車両の通路に設けられていることが多く、これらの部材同士が、がたついたり、外れることなく堅固に固定されている必要がある。特に、ビルの駐車場では、車両の通行に伴い車両のタイヤの押圧によりグレーチングに大きな負荷がかかるため、一層堅固に固定する必要がある。
そこで、通常これらの部材の接合部分を溶接で固定することが行われている。
しかし、溶接による加熱から溶接部分周辺は、溶接焼けとよばれる変色が生じ、美観を維持する要求には十分に応えられないのが実情である。
【0003】
上記の問題を解決するため、グレーチングの溶接焼け部分を機械研磨により平滑面を得ようとしても、1〜10μm程度の表面粗度しか得ることができない。また、機械研磨による場合、グレーチングは圧縮応力を受け、それにより金属疲労の原因ともなりうる。
一方、ステンレス表面を酸化して、着色皮膜を得る表面処理方法が提案されている(例えば特許文献1参照。)。この方法によれば、多様な色の着色皮膜を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭52−25817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の表面処理方法では、下地となるステンレス表面が平滑でないと着色皮膜を得られにくく、機械研磨した表面にこの表面処理方法を適用しても、美観に優れた着色皮膜を得ることはできない。
【0006】
本発明は、上記の従来の問題を解決するものであり、均一な光沢及び優れた発色性を有し、意匠性に優れ、高級感にあふれる着色ステンレス製グレーチングの製造方法及びこの製造方法により得られる着色ステンレス製グレーチングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のとおりである。
1.ステンレスからなるグレーチングを電解研磨する電解研磨工程と、該電解研磨されたグレーチングを陽極酸化し、それにより該グレーチングの表面部上に着色皮膜を形成させる陽極酸化工程と、を順次備えることを特徴とする着色ステンレス製グレーチングの製造方法。
2.上記電解研磨工程は、上記グレーチングの表面部を5〜15μm溶解し、平滑面を形成させる上記1.に記載の着色ステンレス製グレーチングの製造方法。
3.上記平滑面の表面粗度が、0.5〜3nmである上記1.又は上記2.に記載の着色ステンレス製グレーチングの製造方法。
4.上記陽極酸化工程における陽極の上昇電位が、5〜35mVである上記1.乃至3.のいずれか1項に記載の着色ステンレス製グレーチングの製造方法。
5.上記電位の上昇速度が、1〜2mV/分である上記4.に記載の着色ステンレス製グレーチングの製造方法。
6.上記陽極酸化工程が、0.025〜0.25A/dmの電流密度で行う上記1.乃至5.のいずれか1項に記載の着色ステンレス製グレーチングの製造方法。
7.上記1.乃至6.のいずれか1項に記載の製造方法により得られたことを特徴とする着色ステンレス製グレーチング。
【発明の効果】
【0008】
本発明の着色ステンレス製グレーチングの製造方法によれば、ステンレスからなるグレーチングを電解研磨する電解研磨工程と、電解研磨されたグレーチングを陽極酸化し、それによりグレーチングの表面部上に着色皮膜を形成させる陽極酸化工程と、を順次備えるため、均一な光沢及び優れた発色性を有し、意匠性に優れ、高級感にあふれると共に、着色皮膜の形成による防錆効果の高い着色ステンレス製グレーチングを製造することができる。
電解研磨工程が、グレーチングの表面部を5〜15μm溶解し、平滑面を形成させる場合は、機械加工に伴う加工変質層や初期酸化物質を取り除くことができ、ステンレス表面の物性を特に改善させることができる。
また、上記平滑面の表面粗度が、0.5〜3nmである場合は、更に、均一な光沢及び優れた発色性を有するグレーチング表面を得ることができる。
更に、陽極酸化工程における陽極の上昇電位が、5〜35mVである場合には、種々の着色酸化被膜を得ることができる。
上記電位の上昇速度が、1〜2mV/分である場合には、特に均一な光沢及びより優れた発色性を有するグレーチング表面を得ることができる。
陽極酸化工程が、0.025〜0.25A/dmの電流密度で行う場合は、特に効率よく均一な光沢及び優れた発色性を有するグレーチング表面を得ることができる。
そして、上記の製造方法により得られた着色ステンレス製グレーチングであれば、均一な光沢及び優れた発色性を有し、意匠性に優れ、高級感にあふれると共に、防錆効果の高いグレーチングとして利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施例に用いるグレーチングの模式図である
【図2】本実施例に係る着色ステンレス製グレーチングの模式図である。
【図3】電解研磨工程及び陽極酸化工程後の本実施例に係る着色ステンレス製グレーチングである。
【図4】縦部材20のA−A部の断面摸式図である。
【図5】縦部材20のA−A部の要部拡大断面摸式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1〜5を参照しながら本発明を詳しく説明する。
本発明の着色ステンレス製グレーチングの製造方法は、ステンレスからなるグレーチングを電解研磨する電解研磨工程と、該電解研磨されたグレーチングを陽極酸化し、それにより該グレーチングの表面部上に着色皮膜を形成させる陽極酸化工程と、を順次備えることを特徴とする。
【0011】
[1]電解研磨工程
上記「電解研磨工程」は、ステンレスからなるグレーチングを電解研磨する工程である。
上記「ステンレス」とは、鉄をベースとし、クロム又はクロムとニッケルを基本成分として含有する合金鋼をいう。
ステンレス全体を100質量%とした場合に、11質量%以上のクロムを含有する。
鉄は空気中で酸化し、錆びやすいが、11質量%以上のクロムを添加すると、クロム元素が空気中の酸素と結合して、ステンレス表面に強固で、ち密な不動態化皮膜(酸化皮膜ともいう)を形成し、この皮膜が酸化作用を防ぎ、表面を保護すると共に、耐食性が向上し、さびにくくなる。
ステンレスであれば特に限定はなく、マルテンサイト系ステンレス、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、オーステナイト・フェライト系ステンレス、析出硬化系ステンレスを用いることができる。
【0012】
この内、フェライト系およびマルテンサイト系のステンレスは一般に鉄−クロム合金(クロム鋼)であり、オーステナイト系ステンレス鋼は鉄−クロム−ニッケル合金(クロム−ニッケル鋼)である。また、オーステナイト・フェライト系ステンレスは、オーステナイトとフェライトの二相組織を持つ二相ステンレスであり、析出硬化系ステンレスは、析出硬化を利用して生成されるステンレスである。
【0013】
マルテンサイト系ステンレスとしては、SUS403(ステンレス全体を100質量%とした場合に(「以下同じ。」)、Cr11.5〜13質量%含有)、SUS420(Cr12〜14質量%含有)が挙げられる。
また、フェライト系ステンレスとしては、SUS405(Cr11.5〜14.5質量%、Al0.1〜0.3質量%)、SUS430(Cr16〜18質量%)、SUS430LX(Cr16?19質量%、TiまたはNb0.1?1.0質量%)が挙げられる。
【0014】
更に、オーステナイト系ステンレスとしては、SUS201(Ni3.5〜5.5質量%、Cr16〜18質量%、Mn5.5〜7質量%、N0.25質量%以下含有)、SUS202(Ni4〜6質量%、Cr17〜19質量%、Mn7.5〜10質量%、N0.25質量%以下含有)、SUS301(Ni6〜8質量%、Cr16〜18質量%含有)、SUS302(Ni8〜10質量%、Cr17〜19質量%)、SUS303(Ni8〜10質量%、Cr17〜19質量%、Mo0.60質量%以下含有)、SUS304(Ni8〜10.5質量%、Cr18〜20質量%含有)、SUS305(Ni10.5〜13質量%、Cr17〜19質量%含有)、SUS316(Ni10〜14質量%、Cr16〜18質量%、Mo2〜3質量%含有)、SUS317(Ni11〜15質量%、Cr18〜20質量%、Mo3〜4質量%含有)が挙げられる。
【0015】
また、オーステナイト・フェライト系ステンレスとしては、SUS329J1(Ni3〜6質量%、Cr23〜28質量%、Mo1〜3質量%含有)が挙げられる。
更に、析出硬化系ステンレスとしては、SUS630(Ni3〜5質量%、Cr15〜17.5質量%、Cu3〜5質量%、Nb(0.15〜0.45質量%)が挙げられる。
【0016】
これらの中でも特に、グレーチングの材質としては加工性、耐食性に特に優れているオーステナイト系ステンレスが好ましく、SUS304であることが特に好ましい。
【0017】
本発明に用いるグレーチングは、図1に示されるステンレス製のグレーチング100である。本発明の着色ステンレス製グレーチングの製造方法により図2及び図3に示される着色グレーチング1が得られる。このグレーチング100は、外枠部材110と、外枠部材110に対して嵌着した縦部材120及び横部材130と、を格子状に組み合わされている。更に、グレーチング100は、図1に示されるように、外枠部材110と、縦部材の端部120a及び横部材の端部130aとが溶接により固定されている。
また、「グレーチング」とは、鋼材を格子状に組んだ溝蓋である。グレーチングであれば特に限定はなく、道路、ビル、船舶、プラント、階段、駐車場など排水溝があるところに使用するあらゆるグレーチングを含む。
また、このグレーチングは、格子状のスクリーンとして、建築分野にも好適に使用される。即ち、フェンス及び建造物(建物)等における、壁、目隠しスクリーン、天井、天井スクリーン等に使用することができる。
これらの中でも、道路、ビル及び駐車場に使用するものであることが好ましい。道路、ビル及び駐車場に使用させるものであれば、光沢及び優れた発色性を有し高級感にあふれると共に、防錆効果の高いグレーチングとして利用価値が高いからである。
【0018】
上記「電解研磨」とは、グレーチングをプラス側にして電解液を介して直流電流を流し、グレーチングの金属表面を溶解させることで研磨効果を得る方法である。
すなわち、グレーチングをプラス側にして電解液を介して直流電流を流し、グレーチングの表面部を溶解させることにより、グレーチングの表面を研磨する。
上記のように通電させた場合、グレーチングの表面の金属がイオンとして電解液中に溶け出しグレーチングの表面上に粘液層を形成する。この粘液層は電解液より電気抵抗が大きく、粘液層の成長とともに電気抵抗がより大きくなり、電流の低下が生じると考えられる。
そして、グレーチング表面の凸凹の頂上に当たる部分においては粘液層が薄くなり、凸凹の谷部においては粘液層が厚くなる。粘液層が薄い頂上部分は電気抵抗が小さく、谷部においては電気抵抗が大きくなり、電流は頂上部分で流れやすく、谷部分においては流れにくくなる。それにより、頂上部分では溶解が急速に進み、一方、谷部分では溶解があまり進まない。その結果、表面の凸凹が、なだらかになり平滑化が進行する。
グレーチング表面では溶解が進行する一方、同じところで不動態皮膜の生成が同時に進行する。ステンレスの主要な成分としてのFeとCrは溶解とともに溶け出し、Crは直ちに酸素と結合し、グレーチング表面に新たな酸化皮膜が生成される。それが繰り返されることでCrが濃縮され、よりCrに富んだ不動態皮膜が再生されていく。
更に、不働態皮膜はステンレスより電気抵抗が大きいため、皮膜の薄いところでは、厚いところに比べ電流が流れ易くなり、不働態皮膜の厚みの均一化が進む。
【0019】
すなわち、上記電解研磨により、グレーチング表面を光沢化及び平滑化することができ、不純物の再付着を減少させることができる。グレーチング表面を溶解することで、機械加工にともなう加工変質層や初期酸化物質を取り除くことができ、グレーチング表面の物性を改善する。さらに研磨された最上層には、Crが濃縮された強力な不動態被膜が形成されるため、耐食性も格段に向上する。
特に、溶接箇所を有するグレーチングであって、電解研磨工程処理前のグレーチングでは、図1に示される溶接部分周辺140に、溶接焼けとよばれる変色部分があるが、この電解研磨によりその溶接焼けの変色部分を除去し、光沢化することができる。
【0020】
グレーチングの表面部は、最表面から内部方向に1〜30μm溶解されることが好ましく、より好ましくは5〜15μmであり、更に好ましくは8〜12μm溶解されることである。1μm未満の溶解では、機械加工にともなう加工変質層や初期酸化物質を取り除くことができない恐れがあり、30μmを超えて溶解しても、それ以上の光沢化及び平滑化をすることが困難な場合があるからである。
【0021】
上記電解研磨工程により、グレーチングの表面が滑らかにされることが好ましい。この電解研磨工程により滑らかにされた面(以下、「平滑面」という。)の表面粗度は、好ましくは0.5〜5nmであり、より好ましくは0.5〜3nmであり、更に好ましくは0.5〜2である。表面粗度が0.5未満まで平滑にしても、それ以上の光沢化及び平滑化をすることができないからである。また、表面粗度が5nmを超えている場合には、十分な平滑化を得られていない恐れがある。
【0022】
電解研磨の電解液は、特に限定はなく、硫酸、リン酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、リンゴ酸、酢酸、グルコン酸、グリコール酸、コハク酸、フッ化水素酸もしくはそれらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩の一種もしくは二種以上を配合したものを電解液として利用することができる。例えば、リン酸と硫酸を配合したものを用いることができる。
この配合の比率も特に限定はなく、例えば、85質量%リン酸と98質量%硫酸であれば、質量比で、好ましくは、85質量%リン酸:98質量%硫酸=(60:40)〜(90:10)であり、より好ましくは、85質量%リン酸:98質量%硫酸=(70:30)〜(80:20)である。配合比率が上記範囲内にあると電解研磨が効率よく行われる。
【0023】
電解研磨の電流密度は、特に限定はないが、好ましくは3〜20A/mであり、より好ましくは5〜15A/mであり、更に好ましくは8〜12A/mである。電流密度が上記範囲内にあると電解研磨が効率よく行われる。
電解研磨の温度条件は、特に限定はないが、好ましくは20〜100℃であり、より好ましくは40〜60℃である。この温度範囲が上記範囲にあると、より光沢のある表面を得ることができる。
【0024】
[前処理工程]
上記電解研磨工程の前に、前処理工程を備えることが好ましい。前処理を行うことにより、電解研磨を効果的に行うことができる。この前処理工程としては、脱脂工程、水洗工程を順次備えることが好ましい。
上記脱脂工程は、グレーチングに付着した油脂類を除去する工程である。ステンレスからなる材料を機械加工して形成されたグレーチングは、加工の際に使用された油脂類が付着している場合が多い。油脂類が付着したまま電解研磨を行っても、効率が悪く表面を平滑化することは困難であり、また電解液の汚れを招くことになる。
脱脂処理は、油脂類の除去ができれば特に限定はないが、アルカリ脱脂剤水溶液に浸漬することにより行うことができる。アルカリ脱脂剤水溶液を用いれば、ステンレス表面の油脂分を除去するだけでなく、グレーチングのステンレス表面の酸化皮膜を化学的に溶解、清浄化する効果もあるため好ましい。また、浸漬する方法であれば簡便で、効率的である。
【0025】
アルカリ脱脂剤としては、特に限定されない。例えば、一般的に使用されるアルカリ脱脂剤が挙げられる。具体的には、水酸化ナトリウム、ケイ酸ナトリウム及びこれらを含有する組成物等が挙げられる。
アルカリ脱脂剤の濃度は特に限定はないが、例えば、70〜90g/lとすることができる。
浸漬時間は特に限定はなく、脱脂が完全に終わるまで行う。通常3〜10分である。また、浸漬中は、脱脂の効果を高めるため、70〜90℃に加熱して行うことが好ましい。
【0026】
上記水洗工程は、上記脱脂工程による脱脂を補完する工程である。アルカリ脱脂液に浸漬後は、残留油脂分を完全に除去するために、水洗を行うことが好ましい。水洗方法は特に限定はなく、浸漬、シャワー等グレーチング表面を水で洗浄する種々の方法を採ることができる。水洗工程は、第1水洗工程、第2水洗工程の2回に分けて行うことができる。
例えば、第1水洗工程は、グレーチングを水中に浸漬、陽動させて、すすぎ洗浄を行い、清浄化させる。第2水洗工程は、シャワーにより行い、表面の残留油脂分が完全に除去されるようにする。
水洗に用いる水は、工業用水、水道水を問わないが、特に第2水洗工程では清浄化を高めるため、水道水であることが好ましい。
ただし、油脂類の付着が軽微である場合には、研磨布による溶接部の部分的な研磨、又は、有機溶剤により、油脂類の除去を行うことにより、水洗を省略することもできる。
【0027】
[後処理工程]
電解研磨工程後、陽極酸化工程前に、後処理工程を備えることが好ましい。この後処理工程としては、洗浄工程、中和工程、不働化処理工程、水洗工程、乾燥工程を順次備えることが好ましい。
上記洗浄工程は、グレーチングの表面に付着した電解液を除去する工程である。電解液を除去することができればその方法は特に限定はなく、水への浸漬、水のシャワー、ブラシによる掃拭、エアー吹き付け等の方法を取ることができる。
【0028】
上記中和工程は、上記洗浄工程で完全には除去されずにグレーチングに残留した電解液を中和処理する工程である。
この中和工程により、グレーチングの隙間などに侵入した電解液を、薬剤で中和することにより除去することができる。使用する薬剤は特に限定はなく、例えば、SUSニュートライザーN8(商品名)等を使用することができる。
【0029】
上記不働化処理工程は、グレーチング表面に酸化不働態被膜を形成させる工程である。
不働態被膜を形成させることにより、表面が緻密化し、強度を大きく、防錆効果を高めることができる。
酸化不働態被膜を形成する方法は特に限定はないが、硝酸水溶液に浸漬する方法が簡便である。硝酸水溶液の濃度は8〜12質量%で行うことが好ましい。
【0030】
上記水洗工程は、上記不働化処理工程で付着した硝酸水溶液等を除去し表面を清浄にする工程である。水洗方法は特に限定はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、浸漬、シャワー等グレーチング表面を水で洗浄する種々の方法が挙げられる。
水洗に用いる水は、工業用水、水道水を問わないが、清浄化を高めるため、水道水であることが好ましく、上水道水であることが更に好ましい。
【0031】
上記乾燥工程は、水洗工程で付着した水分を乾燥させる工程であり、乾燥方法は特に限定はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、自然乾燥又は、エアードライヤーを用いて乾燥させる方法が挙げられる。
【0032】
[2]陽極酸化工程
上記「陽極酸化工程」は、電解研磨されたグレーチングを陽極酸化し、それにより該グレーチングの表面部上に着色皮膜を形成させる工程である。
この陽極酸化工程において、グレーチングの表面部上に着色皮膜を形成させる方法としては、所謂インコ法等の公知の方法を用いることができる。具体的には、着色水溶液中にグレーチングを浸漬し、このグレーチングを陽極として直流の電解にかけ、グレーチングの表面部上に着色皮膜を形成させる方法である。この場合、被着色グレーチングの表面は、酸化反応に伴い、着色皮膜が形成させる。そして、皮膜形成されたグレーチングと着色水溶液中に浸漬した参照電極(飽和甘汞電極又は白金電極)との間との電位差を測定し、この電位差が所望した着色色調と関連した予め測定された値に到達した時点で、グレーチングを着色水溶液より取り出して着色したグレーチングを製造することができる。
また、着色水溶液中でグレーチングをアノード電解処理して、上記のように着色水溶液中に浸漬した参照電極に対して、着色水溶液中のグレーチングの示す電位が、目標の着色色調と関連した予め測定された値に到達する時に通電を停止する方法により、着色したグレーチングを製造することができる。
【0033】
上記「表面部」とは、グレーチング全体の表面部である。
上記「着色被膜」とは、上記表面部上に形成される酸化被膜であり、陽極酸化によりこの酸化皮膜の厚さが0.05〜0.2μmに成長するとグレーチングは着色される。
その原理は、グレーチングに対する入射光は酸化皮膜表面で反射する光とステンレス表面部の最表面から反射する光に分かれ、この反射した2種類の光が波の性質で干渉し合い、酸化皮膜の厚みに応じて様々な色に発色することによる。
通常、酸化被膜の厚さは、100〜300μmであり、その酸化被膜の厚さを可変することで種々の干渉色が得られる。その色は、酸化被膜の厚さを厚くするに従って、ブロンズ色、ブラック色、ブルー色、ゴールド色、レッド色又はグリーン色への特定の色とすることができる。これにより、グレーチングは、均一な光沢及び優れた発色性を有する。
また、着色被膜が、グレーチング表面に形成されるため、この着色被膜がグレーチングを保護する保護膜となり、本発明により得られた着色ステンレス製グレーチングは防錆効果に優れるものとなる。
【0034】
上記「着色水溶液」は、グレーチングの表面部上に着色皮膜を形成させることができれば、特に限定はないが、通常、硫酸とクロム酸、クロム酸塩又は重クロム酸塩との混合水溶液を使用することができる。
濃度も特に限定はされないが、硫酸とクロム酸との混合水溶液である場合、混合水溶液全体を1lとした場合に、硫酸450〜550g/l、及びクロム酸200〜300g/lを含有させることが好ましい。濃度が上記範囲である場合には、効率的に着色皮膜を形成させることができる。
【0035】
上記陽極酸化工程における陽極の上昇電位が、5〜35mVであれば、上昇電位に応じて、様々な色に着色したグレーチングを製造することができる。
「上昇電位」とは、陽極であるグレーチングの電位が、陽極酸化開始電位からの上昇分いい、参照電極を基準に測定される。
ここで、上記電位の上昇速度が、1〜2mV/分である場合は特に、均一で光沢のある着色酸化皮膜を得ることができる。
【0036】
上記陽極酸化工程は、上述のように着色水溶液に浸漬することによって行うこともできるが、陰極を用いて、電極間に直流を通電することによって行うこともできる。すなわち、通電することにより、反応を促進させることができる。
通電する場合、0.025〜0.25A/dmの電流密度で行うことが好ましい。0.025A/dm未満の電流密度では、通電の効果が希薄であり、0.25A/dmの電流密度を超えると、電位が急速に上昇するため、上昇電位の制御が困難となる。
【0037】
上記陽極酸化工程後、グレーチングに付着した着色水溶液を除去するため、水洗工程、乾燥工程を順次備えることが好ましい。水洗工程、乾燥工程については、上記電解研磨工程の後処理工程における内容と同様であるため、その説明を省略する。
【0038】
[3]着色ステンレス製グレーチング
本発明の着色ステンレス製グレーチングは、上述の本発明の製造方法により得られたことを特徴とする。本発明の着色ステンレス製グレーチングは、上記電解研磨工程と、上記陽極酸化工程と、を備える着色ステンレス製グレーチングの製造方法により得られる。
【0039】
本発明の着色ステンレス製グレーチングの形状は、特に限定されない。通常、図2及び図3に示される格子状の形状である。
また、本発明の着色ステンレス製グレーチングの大きさは、特に限定さない。通常、側溝等に用いられる大きさである。具体的には、高さが0.5〜5cm、横方向が10〜300cmであり、縦方向が10〜300cmである。好ましくは高さが1.5〜10cmであり、横方向が10〜100cmであり、縦方向が10〜200cmである。
【0040】
図2に示される本発明の着色ステンレス製グレーチング1の縦部材20は、縦部材20のA−A部の断面摸式図の図4に示すように縦部材の上部に凹凸形状が設けられている。この凹凸形状により、滑り止め効果を有し、歩行者等の転倒を防止することができる。
【0041】
また、本発明の着色ステンレス製グレーチング1は、縦部材20のA−A部の要部拡大断面摸式図の図5に示すように、該グレーチング全体の表面部上に着色被膜50が形成されている。この着色被膜の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.05〜500μmであり、より好ましくは10〜400μmであり、更に好ましくは100〜300μmである。着色被膜の厚さが上記範囲内にあると、優れた干渉色が得られる。
【0042】
本発明の着色ステンレス製グレーチング1は、表面部上に着色被膜が形成されていることにより、種々の干渉色を有する。その色は、着色被膜の厚さにより変化させることができ、ブロンズ色、ブラック色、ブルー色、ゴールド色、レッド色及びグリーン色への特定の色とすることができる。この着色被膜の厚さは、着色ステンレス製グレーチング全体を一様の厚さとすることができるが、そのグレーチングを構成する部材、又はグレーチングの特定の場所について、厚さを変化させることができる。従って、着色ステンレス製グレーチンの色は、1色単独で、又は2色以上の多様な色とすることができる。
また、この着色ステンレス製グレーチングは、着色被膜による干渉色を有することから、光の向き、角度、明るさ及び見る方向等によりグレーチングの色が変化して見え、均一な光沢及び優れた発色性を有する。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
[グレーチングの成形]
図1に示すように、縦部材120と横部材130を格子状に組み合わせて固定し、更に、外枠部材110に対して縦部材の端部120a及び横部材の端部130aを嵌着固定した。
次いで、外枠部材110と、縦部材の端部120a及び横部材の端部130aが溶接により固定してグレーチング100を成形した。
ここで、外枠部材110、縦部材120、横部材130は、すべてステンレスSUS304材を使用した。
【0044】
[1]電解研磨工程
(1)前処理工程
成形したグレーチング100は、成形で付着した油脂類を除去するため、アルカリ脱脂剤(水酸化ナトリウム)水溶液(80g/l)中に、80℃で5分間浸漬して脱脂処理を行った(脱脂工程)。
次いで、工業用水中に1回浸漬、陽動させて、すすぎ洗浄を行った(第1水洗工程)。
更に、上水道水でシャワーによる水洗を行った(第2水洗工程)。そして、グレーチングの表面に油脂分がないことを確認した。
【0045】
(2)電解研磨工程
電解液として、85質量%リン酸:98質量%硫酸=75:25(質量比)の混合水溶液を使用し、電流密度10A/m、浴温50℃の条件で、グレーチング表面部の電解研磨を行った。なお、処理槽の大きさは、幅2750mm×奥行き1500mm×高さ1500mmである。ただし、電極を除いた有効寸法は、幅2500mm×奥行き1200mm×高さ1200mmである。
電圧・電流は接点の取り方等で変動するため、上記電流密度は、実際には電圧で管理することにより維持した(最大電圧DC15V、電流2000A)。
通電後、グレーチング表面から内部方向に約10μm溶解したところで、電解研磨を終えた。
電解研磨後のグレーチング表面の平均粗度を測定したところ、1.5nmであった。表面は平滑で光沢があり、溶接焼けが略消失していた。
【0046】
(3)後処理工程
電解研磨を終えたグレーチングは、上水道水のシャワーにより、電解液を略除去した(洗浄工程)。次いで、SUSニュートライザーN8(商品名)水溶液中に浸漬して、残留している電解液を中和処理して除去した(中和工程)。
更に、10質量%硝酸水溶液に浸漬して、グレーチング表面に酸化不働態被膜を形成させた(不働化処理工程)。
次いで、上水道水からなるシャワーで硝酸水溶液等を除去し(水洗工程)、エアードライヤーを用いて乾燥させた(乾燥工程)。
【0047】
[2]陽極酸化工程
上記[1]の工程を終えたグレーチングを、硫酸500g/l、クロム酸250g/lからなる70℃に加熱した混合水溶液(着色水溶液)に浸漬した。
そして、白金を参照電極として、電位の上昇を測定した。電位の上昇速度は、1.0mV/分であった。
開始電位から14mVの上昇でゴールドブロンズ色(金色を帯びた銅色)に着色したところで、着色水溶液から取りだした。電位の上昇速度は、1.0mV/分であった。
その後、シャワーで着色水溶液等を除去し(水洗工程)、エアードライヤーを用いて乾燥させた(乾燥工程)。
得られた、図2及び図3に示されるグレーチング1は、ゴールドブロンズ色で均一な光沢及び優れた発色性を有し、意匠性に優れ、高級感にあふれるものであった。
【0048】
[実施例2]
上記実施例1における陽極酸化工程において、浴槽に陰極として鉛電極を浸漬し、グレーチングを陽極として通電し、電流密度0.025A/m、電位の上昇速度2.0mV/分で電解を行った。
その他の条件はすべて実施例1と同一とした。
開始電位から10mVの上昇でパープル色に着色したところで、着色水溶液から取りだした。
その後、水洗、乾燥させて、得られた、図2及び図3に示されるグレーチング1は、パープル色で均一な光沢及び優れた発色性を有し、意匠性に優れ、高級感にあふれるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、均一な光沢及び優れた発色性を有し、高級感にあふれると共に、防錆効果の高い着色ステンレス製グレーチングの製品分野において有用である。
【符号の説明】
【0050】
1;着色ステンレス製グレーチング、10;外枠部材、20;縦部材、30;横部材、20a;縦部材の端部、30a;横部材の端部、50;着色被膜(酸化被膜)、100;グレーチング、110;外枠部材、120;縦部材、130;横部材、140;溶接部分周辺、120a;縦部材の端部、130a;横部材の端部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレスからなるグレーチングを電解研磨する電解研磨工程と、
該電解研磨されたグレーチングを陽極酸化し、それにより該グレーチングの表面部上に着色皮膜を形成させる陽極酸化工程と、を順次備えることを特徴とする着色ステンレス製グレーチングの製造方法。
【請求項2】
上記電解研磨工程は、上記グレーチングの表面部を5〜15μm溶解し、平滑面を形成させる請求項1に記載の着色ステンレス製グレーチングの製造方法。
【請求項3】
上記平滑面の表面粗度が、0.5〜3nmである請求項1又は2に記載の着色ステンレス製グレーチングの製造方法。
【請求項4】
上記陽極酸化工程における陽極の上昇電位が、5〜35mVである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の着色ステンレス製グレーチングの製造方法。
【請求項5】
上記電位の上昇速度が、1〜2mV/分である請求項4に記載の着色ステンレス製グレーチングの製造方法。
【請求項6】
上記陽極酸化工程が、0.025〜0.25A/dmの電流密度で行う請求項1乃至5のいずれか1項に記載の着色ステンレス製グレーチングの製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製造方法により得られたことを特徴とする着色ステンレス製グレーチング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−255039(P2010−255039A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105660(P2009−105660)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(599147218)東北岡島工業株式会社 (17)