説明

着色藁含有塗材および壁材

【課題】 自然な風合いと深みのある質感とを備えた壁面を構成する際に好適な、塗材および壁材を提供する。
【解決手段】 溶剤、樹脂および顔料を含む着色剤を用いて濃淡が生じるように着色された着色藁と、骨材と、バインダー樹脂とを混合してなることを特徴とする着色藁含有塗材、および斯かる着色藁含有塗材を塗布してなる塗材による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色藁が含有されてなる着色藁含有塗材およびこれを用いた壁材に関し、特に、自然な風合いと深みのある質感とを備えた和風の装飾壁面を構成する際に好適な、着色藁含有塗材および壁材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、やわらかい風合いを表現するための塗材としては、本願出願人によってなされた着色繊維入りの塗材に係る発明(特許文献1)が公知となっている。
【0003】
斯かる従来技術においては、着色繊維として、天然繊維や合成繊維が使用できることが開示されており、中でもアクリル繊維が耐候性に優れる点で好適であることが開示されている。また、繊維の着色には染料や顔料を使用することができ、耐候性に優れるという点では顔料が好ましく、鮮やかな有彩色を表現したい場合には染料が好ましいことが開示されている。
【0004】
そして、このような着色繊維を混合した塗材を用いて壁面を塗装することにより、骨材等では得ることのできない柔らか味のある風合いを表現することが可能となっている。
【0005】
また、日本古来の「わび」「さび」のイメージを再現するべく、数寄屋造の壁材に用いられていた藁を装飾用の塗材に混合することは従来から行なわれており、また、この藁を顔料で着色して用いることも公知となっている(特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−053809号公報
【特許文献2】特開平11−349362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年、例えば日本建築のような建築様式の場合においては、上述のような従来の塗材によって得られる意匠性よりも、より一層自然な風合いと深みのある質感とを備えた壁面に仕上げることが要望されており、このような意匠性を発揮し得る塗材の開発が望まれている。
【0008】
そこで本発明は、このような自然な風合いと深みのある質感とを備えた壁面を構成する際に好適な、塗材および壁材を提供することを一の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決すべく、本発明者らが鋭意研究したところ、藁を着色剤で着色した場合に藁の表面に色の濃淡が生じる場合があり、このような濃淡の生じた着色藁を混合した塗材を用いることによって、自然な風合いと深みのある質感とを備えた壁面に仕上げ得ることを見出した。
即ち、本発明は、溶剤、樹脂および顔料を含む着色剤を用いて濃淡が生じるように着色された着色藁と、骨材と、バインダー樹脂とを混合してなることを特徴とする着色藁含有塗材を提供する。
斯かる構成の着色藁含有塗材によれば、溶剤、樹脂および顔料を含む着色剤を用いて濃淡が生じるように着色された着色藁を、骨材およびバインダー樹脂に混合することにより、これを塗布することによって、その着色藁の濃淡によって自然な風合いと、深みのある質感とを現すことが可能となる。
【0010】
前記着色藁含有塗材において、着色剤は、好ましくは溶剤100質量部に対して、顔料が3〜12質量部配合されたものを使用する。このような配合の着色剤を用いて藁を着色することにより、藁の表面には、より一層濃淡が生じやすくなるという効果がある。
また、該着色剤は、好ましくは溶剤100質量部に対して、樹脂が6〜16質量部配合されたものを使用する。このような配合の着色剤を用いて藁を着色することにより、塗材中に藁を混合した際にも藁の濃淡が色落ちし難く、しかも塗材中に分散されやすいものとなる。
【0011】
また、前記着色藁含有塗材においては、好ましくは、前記着色剤を用いて着色された着色藁が、さらに、溶剤100質量部に対して樹脂12〜38質量部が配合されてなるコーティング剤によって被覆されたものとする。着色藁の表面が上記のようなコーティング剤によって被覆されていれば、該着色藁を塗材中に混合した際の色落ちが抑制され、濃淡を有したままの状態で塗膜を形成することが可能となる。
【0012】
さらに、本発明は、このような着色藁含有塗材が塗布されてなることを特徴とする壁材を提供する。上述のように、濃淡が生じるように着色された着色藁を混合してなる着色藁含有塗材が塗布されてなる壁材は、その濃淡を有する着色藁による独特の視覚効果により、自然な風合いと深みのある質感とを備えたものとなる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明に係る着色藁含有塗材およびこれを用いてなる壁材によれば、自然な風合いと深みのある質感とを備えた壁面を構成することが可能となり、例えば、日本建築のような建築様式において、従来には無い、より一層好適な意匠性を発揮し得るものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明に係る着色藁含有塗材を構成する着色藁は、溶剤、樹脂および顔料を含む着色剤を用いて濃淡が生じるように着色された藁である。
【0015】
藁は、一般に入手しうる天然藁、すなわちイネ、麦などの穀用作物の結実収穫後の茎、葉を乾燥した後、裁断したものを使用することができ、より好ましくは、灰汁抜き処理された天然藁を好適に使用することができる。また、裁断後の藁の寸法は、3〜50mmの長さのものが好適であり、5〜15mmのものがさらに好適である。
【0016】
一方、前記着色剤に添加する顔料としては、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、金属錯塩型顔料、トリフェニルメタン系顔料等の有機顔料や、亜鉛華、、鉛白、リトポン、カーボンブラック、鉛丹、べんがら、黄鉛(クロムイエロー)、群青(ウルトラマリン)、紺青、亜鉛黄(ジンククロメート)、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、二酸化チタン等の無機顔料などを使用することができる。特に、耐候性に優れるという観点から、無機顔料が好適に使用できる。
【0017】
また、藁に濃淡のある着色を施すという観点からは、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、金属錯塩型顔料、トリフェニルメタン系顔料、鉛白、カーボンブラック、鉛丹、べんがら、黄鉛(クロムイエロー)、群青(ウルトラマリン)、紺青、亜鉛黄(ジンククロメート)、二酸化チタンが好適である。
【0018】
着色剤への顔料の配合量は、溶剤100質量部に対して、3〜12質量部とすることが好ましく、4〜8質量部とすることがより好ましい。溶剤100質量部に対して顔料の配合量が3質量部未満であれば、藁の着色が不十分となるおそれがある。また、溶剤100質量部に対して顔料の配合量が12質量部を超えると、藁の表面全体が均一に着色されやすくなり、濃淡のある着色藁が得られにくくなる。
【0019】
また、前記着色剤を構成する樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、およびアクリル変性型の各樹脂等を挙げることができ、中でも、耐候性に優れるという観点から、シリコン樹脂、フッ素樹脂を使用することが好ましい。
【0020】
着色剤への樹脂の配合量は、溶剤100質量部に対して、6〜16質量部とすることが好ましく、8〜12質量部とすることがより好ましい。6質量部未満であれば、色落ちしやすくなる傾向にある。また、16質量部を超えると、藁同士が付着して塊となりやすく、塗材中に均一分散させ難くなる傾向にある。
【0021】
着色剤を構成する溶剤については、特に限定されることなく、使用する樹脂の種類に応じて種々の溶剤を使用することができる。該溶剤としては、例えば、芳香族系やエステル系のものを挙げることができる。
【0022】
着色剤を用いて藁を着色する方法としては、該着色剤の中に破砕された藁を浸漬する方法等、種々の方法を採用することができる。
【0023】
藁は、上述の如く、イネや麦などの茎、葉からなるものであるため、例えば、茎の外側と内側では色の付きやすさが微妙に異なり、また、茎の部分と葉の部分でも色の付きやすさが微妙に異なるという特性を有する。このような特性を有する藁に、上記のような組成および配合からなる着色剤を塗布することにより、その色の付きやすさが作用し、好ましい濃淡を生じさせることができる。
【0024】
上述のような着色剤を用いて着色された着色藁は、その後、好ましくは50〜80℃の温度で乾燥させることにより、表面が濃淡に着色された着色藁となる。
【0025】
得られた着色藁は、さらに、コーティング剤によってその表面を被覆することが好ましい。コーティング剤としては、透明な樹脂塗料であれば特に限定されず、例えば、前記着色剤に用いた樹脂と同様の樹脂を使用することができる。また、溶剤についても、該樹脂に合わせて種々の溶剤を使用することができる。
コーティング剤中に添加する樹脂の量は、溶剤100質量部に対して12〜38質量部とすることが好ましい。12質量部未満であると、塗材に添加して混合した際に藁が色落ちする可能性がある、また、38重量部を超えて添加すると、藁自体が固くなり、また、藁同士が着接して塗材中で均一分散し難くなるおそれがある。
【0026】
上述のようにして得られた着色藁を、骨材および樹脂とともに混合することにより、本発明の着色藁含有塗材を得ることができる。また、該着色藁含有塗材には、異なる色に着色された着色藁が2種以上混合されていることが好ましく、これにより、より一層自然な風合いを表現することができる。
そして、斯かる着色藁含有塗材を合板等の任意の基材上に塗布することにより、本発明に係る壁材を得ることができる。
【0027】
塗材を構成する骨材および樹脂としては、特に限定されず、公知のものの中から適宜選択して使用することができる。
着色藁の添加量は、骨材とバインダー樹脂との合計量100質量部に対して0.1〜1質量部が好ましい。添加量が0.1質量部未満では、該着色藁による意匠性向上の効果が得られにくく、1質量部を超えて添加すると塗布作業性が低下するおそれがある。
【0028】
斯かる着色藁含有塗材を壁面に塗布する方法としては、吹き付けによる施工や、コテによる施工が可能である。特に、コテによって着色藁含有塗材を壁面に押さえつけながら塗布すれば、藁が塗膜表面に露出されやすくなるため、該着色藁による視覚的効果をより効果的に発揮させることができる。
【0029】
着色藁含有塗材を塗布する際の厚みについては特に限定されない。好ましくは、0.1〜2mmの厚みに塗布することにより、自然な風合いと深みのある質感とを備えた意匠性を十分に現すことができ、しかも壁材の軽量化を図ることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の着色藁含有塗材について、実施例および比較例を挙げて更に詳細に説明する。
(着色剤中の顔料の配合量についての試験)
まず、着色剤に加える顔料の添加量を変えた場合に、藁の色合い及び弾力性に及ぼす影響を調べた。
溶剤としては、芳香族系・エステル系混合溶剤(山本窯業化工(株)製、「セラトップシリコーンLシンナー」)、樹脂としてはアクリルシリコン樹脂(山本窯業化工(株)製、「セラトップシリコーンL」)、顔料としては、日本ペイント(株)製、「カラーマックスFA」を使用し、下記表1に示す配合で着色剤を調製した。そして、各着色剤に、灰汁抜きした天然藁をそれぞれ3分間浸漬し、その後50℃の熱風で乾燥させ、得られた着色藁の発色を目視にて観察した。
【0031】
【表1】

【0032】
その結果、着色剤A−1を用いた場合には、藁の外側と内側とで略均一に近い色調となり、殆ど濃淡のない着色藁が得られた。また、藁自体の弾力性が低下した。
これに対し、着色剤A−2、A−3、A−4を用いた場合には、藁の外側は色がうすく、内側は色が濃く着色されて藁全体として不均一に着色されていることが確認された。また、藁自体の弾力性も、殆ど失われていないものであった。
また、着色剤A−5、A−6を用いた場合には、藁自体の弾力性は殆ど失われていないものであったが、藁の着色が少なく、藁自体の色と殆ど変わらない程度にしか着色させることができなかった。
【0033】
さらに、得られた着色藁を混合して塗材を調製し、コテを用いて厚さ1mmで合板上に塗布することによって塗膜を形成し、その意匠性を評価した。
着色剤A−1を用いた着色藁の場合、ある程度柔らかい風合いを有しているが、従来の着色繊維と同程度のものであった。これに対し、着色剤A−2、A−3、A−4を用いた着色藁の場合には、従来の着色繊維では得られなかったような、自然な風合いと深みのある質感とを備えた優れた意匠性を有するものであった。また、着色剤A−5、A−6を用いた着色藁を配合した塗材を塗布した場合には、藁をそのまま添加した従来の装飾壁と同程度の意匠性を有するものであった。
【0034】
(着色剤中の樹脂の配合量についての試験)
次に、着色剤に加える樹脂の添加量を変えた場合の、藁の物性に及ぼす影響を調べた。
溶剤、樹脂および顔料としては、上述と同じものを使用し、下記表2に示す配合で着色剤を調製した。そして、上記と同様にしてそれぞれの着色藁を作製し、得られた着色藁の物性を調べた。
【0035】
【表2】

【0036】
その結果、着色剤B−1を用いた場合には、乾燥後に藁同士が付着する傾向が強く、ばらばらにすることが困難であった。これに対し、着色剤B−2、B−3を用いた場合には、藁同士が付着しないか、或いは付着しても容易にばらすことができるものであった。また、藁を水中に浸漬させた場合にも、色落ちがないことが確認された。また、着色剤B−4を用いた場合には、藁を水中に浸漬させると、色落ちしやすいことが認められた。
【0037】
(コーティング剤中の樹脂の配合量についての試験)
次に、着色藁の表面をコーティング剤で被覆する際の、該コーティング剤中の樹脂量を変えた場合の藁の物性に及ぼす影響を調べた。
溶剤としては芳香族系・エステル系混合溶剤(山本窯業化工(株)製、「セラトップシリコーンLシンナー」)、樹脂としてはアクリルシリコン樹脂(山本窯業化工(株)製、「セラトップシリコーンL」)を使用し、下記表3に示す配合でコーティング剤を調製した。そして、各コーティング剤に、着色藁をそれぞれ3分間浸漬し、その後50℃の熱風で乾燥させ、得られた着色藁の物性を調べた。
【0038】
【表3】

【0039】
その結果、コーティング剤C−1を用いた場合には、藁自体の弾力性が損なわれておらず、藁同士の付着もないものの、塗材との攪拌によって色落ちしやすいものであることがわかった。コーティング剤C−2、C−3、C−4を用いた場合には、藁自体の弾力性は損なわれておらず、藁同士の付着が多少発生するものの容易にばらすことができるものであったが、攪拌時には僅かな色落ちが発生した。
コーティング剤C−5を用いた場合には、藁自体の弾力性が損なわれておらず、藁同士の付着も多少発生するものの容易にばらすことができ、しかも攪拌の際の色落ちが殆ど発生しないものであった。
コーティング剤C−6を用いた場合には、攪拌の際の色落ちが殆ど発生しないものであったが、藁自体の弾力性が損なわれて硬くなりやすく、藁同士の付着も多くばらけにくいものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤、樹脂および顔料を含む着色剤を用いて濃淡が生じるように着色された着色藁と、骨材と、バインダー樹脂とを混合してなることを特徴とする着色藁含有塗材。
【請求項2】
前記着色剤は、溶剤100質量部に対して、顔料が3〜12質量部配合されたものであることを特徴とする請求項1記載の着色藁含有塗材。
【請求項3】
前記着色剤は、溶剤100質量部に対して、樹脂が6〜16質量部配合されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の着色藁含有塗材。
【請求項4】
前記着色剤を用いて着色された着色藁が、さらに、溶剤100質量部に対して樹脂12〜38質量部が配合されてなるコーティング剤によって被覆されてなることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の着色藁含有塗材。
【請求項5】
前記骨材と前記バインダー樹脂との合計量100質量部に対し、前記着色藁が0.1〜1質量部配合されてなることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の着色藁含有塗材。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載された着色藁含有塗材が塗布されてなることを特徴とする壁材。

【公開番号】特開2006−37041(P2006−37041A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223101(P2004−223101)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(391041338)山本窯業化工株式会社 (2)
【Fターム(参考)】