説明

睡眠導入剤及び睡眠導入具

【課題】新規な睡眠導入剤及びその睡眠導入剤を用いた睡眠導入具を提供しようとする。
【解決手段】ヘキサナール、ヘキセノールから選択される少なくとも1種を含む睡眠導入剤であり、該ヘキサナールと該ヘキセノールとの重量比が4:6〜6:4である前記睡眠導入剤である。また、就寝時に身辺またはその近傍に配されていることとなる用具または器具であって、前記睡眠導入剤が大気中へ放出可能に保持された睡眠導入具である。さらに、前記睡眠導入剤が大気中へ放出可能に保持された寝所用の内装材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不眠症の改善に有効な睡眠導入剤及び睡眠導入具に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠に関する問題を抱え困っている人は女性20.3%、男性18.7%、全体で19.6%であるとの厚生労働省の調査結果が発表されている。現代人の5人に1人が睡眠に関する悩みを抱えていることになる。
【0003】
又、睡眠による休養が不十分と感じている人は、特に20〜40歳代の働き盛りの年代に多いという別の調査結果もある。ありとあらゆる所でさまざまなストレスにさらされている現代人にとって、不眠は生活習慣病の一つであるともいわれている。
【0004】
いうまでもなく、睡眠は身体の休息はもちろんのこと、脳が休息するための大切な時間でもある。脳の休息は精神的な疲労の回復に大切である。
【0005】
不眠症とは、睡眠が量的又は質的に不足して日常生活に支障をきたしたり、本人が大きなストレスを抱え込んでいるような状態をいう。なかなか寝付けない入眠障害、夜中に何度も目が覚めてしまう中途覚醒、睡眠時間の割にぐっすり眠った感じがしない熟眠障害、朝早く目覚めてしまう早朝覚醒など、不眠にはいろいろのタイプがある。
【0006】
不眠の原因はさまざまであり、身体的要因、生理学的要因、心理学的要因、精神医学的要因、薬理学的要因に大別されるが、近年、精神的ストレスによる不眠が多くみられる。ストレスが続くと心理的な緊張不安から眠れなくなることがあり、こうした一時的な心理学的不眠がきっかけで不眠恐怖症に陥り、眠ろうと意識すればするほど眠れなくなるという精神医学的不眠を引き起こしてしまうことがある。
【0007】
深刻な睡眠障害は精神科、精神神経科、心療内科などの専門科を受診するのが望ましい。専門科では、生活のアドバイスや、睡眠薬を処方したりされる。ただ、睡眠薬には副作用が伴なうことに留意する必要がある。
【0008】
脳が深い眠りに入ると成長ホルモンが分泌され、この成長ホルモンは細胞の新陳代謝を促して、皮膚や筋肉、骨などを成長させたり、修復する働きがある。心と身体の健康を保つために眠る必要があるのである。
【0009】
睡眠には、浅い眠りのレム睡眠と、深い眠りのノンレム睡眠があり、一晩に4〜5回、一定のリズムで繰り返されている。ノンレム睡眠は入眠直後にあらわれ、眠りが深くなるにしたがって呼吸回数や脈拍も少なくなる。レム睡眠は身体は深く眠っているのに脳が起きているような状態の浅い眠りで、呼吸や脈拍は不規則であり、夢をみるのもレム睡眠のときである。
【0010】
ストレスはノンレム睡眠とレム睡眠の睡眠サイクルの周期を短くし、睡眠のリズムを狂わせるともいわれている。
【0011】
こうした背景の下、快眠のための工夫がいろいろされている。香りを利用した精神のリラクゼーションはその代表的なものであり、エッセンシャルオイルによるアロマテラピーは一般的になりつつある(例えば、特許文献1[0002]参照)。
【0012】
香り剤としては、ラベンダー、オレンジ、カモミルなどが一般的であり、緑葉中に含まれる緑の香りとも呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒドも効果的である(例えば、特許文献2[0003]、[0006]参照)。
【0013】
エッセンシャルオイルによるアロマテラピーを寝装品に応用する開発や(例えば、特許文献1[0001]、特許文献2[0011]参照)、緑の香りを枕シートに応用した製品も販売されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0014】
また、香り成分を徐放させる手段として、香り成分をマイクロカプセルに内包させることも行なわれている(例えば、特許文献1[0019]参照)。
【0015】
緑の香りとしてのヘキサナール及びヘキセノールを利用した製品開発も最近は活発化している(例えば、特許文献3[0009]参照)。
【0016】
緑の香りも含めて、香り剤の効果として期待されるのは、リラクゼーション効果であり、ストレス軽減効果であり、睡眠導入の作用効果を目的とするものではない(例えば、特許文献1[0001]、[0013]、特許文献2[0015]参照)。
【特許文献1】特開2004−244756号公報
【特許文献2】特開2005−299066号公報
【特許文献3】特開2003−201669号公報
【非特許文献1】http://kaihatu.okomari.net/midori−no−kaori/
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、新規な睡眠導入剤及びその睡眠導入剤を用いた睡眠導入具を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の要旨とするところは、ヘキサナール、ヘキセノールから選択される少なくとも1種を含む睡眠導入剤であることにある。
【0019】
前記睡眠導入剤は、ヘキサナールとヘキセノールとを含み得、該ヘキサナールと該ヘキセノールとの重量比が4:6〜6:4であり得る。
【0020】
また、本発明の要旨とするところは、就寝時に身辺またはその近傍に配されていることとなる用具または器具であって、前記睡眠導入剤が大気中へ放出可能に保持された睡眠導入具であることにある。
【0021】
前記睡眠導入剤を大気中へ放出する態様としては前記睡眠導入剤を含有する液体を超音波振動により霧化する機構のほか、この液体または前記睡眠導入剤を自然気化させる機構、またはこの液体または前記睡眠導入剤を含むゲル化からこの液体を自然気化させる機構、さらにはこの液体または前記睡眠導入剤を熱によって気化させる機構などが採用され得る。前記用具または器具には、前記睡眠導入剤またはこの液体が、このように霧化あるいは気化されるように保持される。保持の態様としては、前記睡眠導入剤またはこの液体が所定の容器に収納する態様、前記睡眠導入剤またはこの液体を含浸して保持する吸収材に含浸させて保持する態様、分子を吸着して保持する吸着物質に前記睡眠導入剤またはこの液体を接触させることにより前記睡眠導入剤をこの吸着物質に吸着させて保持する態様が挙げられる。これらの容器、吸収材あるいは吸着物質は、前記用具または器具に付加されるかあるいは前記用具または器具を構成する部材の一部となるようになされる。
【0022】
前記用具または器具は、室内用品、携帯品、愛玩具、寝装用品、家電機器、香材から選択され得る。
【0023】
前記寝装用品としては、枕、枕カバー、掛け布団、敷き布団、布団カバー、毛布、シーツ、ベッドカバー等のほか、浴衣、パジャマ、肌着等就寝用に使用する衣料、及びナイトキャップ、ヘアバンド、マスク、アイマスク、タオル等就寝用に使用する小物、さらには寝所に配置するソファー類やそのカバーが挙げられる。また、就寝用に身辺またはその近傍に配されて使用するものであればこれらに限定されない。
【0024】
前記家電機器としては、空気清浄機、エアコン、加湿器、除湿機、扇風機、電気カーペット、ヒーター類、就眠用スタンド照明器具、ラジオ、テレビが挙げられる。また、家庭で使用する電気機器であればこれらに限定されない。これらの家電機器は就寝時に睡眠導入を目的に身辺またはその近傍に配される。あるいは、予め寝所に配置されて使用される。
【0025】
前記室内用品としては、目覚まし時計、寝所に配置する化粧台、チェスト、タンス等の家具、造花、カーテン、障子、襖、敷物、置物、掛け物、クラフト製品が挙げられる。また、室内で使用する用品であればこれらに限定されない。これらの室内用品は就寝時に睡眠導入を目的に身辺またはその近傍に配されるよう寝所に配置される。あるいは、予め寝所に配置されて使用される。
【0026】
前記愛玩具としてはぬいぐるみ、玩具が挙げられる。また、愛玩される物であればこれらに限定されない。これらの愛玩具は就寝時に睡眠導入を目的に身辺またはその近傍に配される。あるいは、予め寝所に配置されて使用される。
【0027】
前記携帯品としてはハンカチや、前記睡眠導入剤を意識的もしくは無意識に嗅ぐことを目的に携帯する睡眠導入剤嗅収用携帯物が挙げられる。この睡眠導入剤嗅収用携帯物はゲルや繊維シート、紙等を素材としており、前記睡眠導入剤を蒸散可能に保持することができるものである。これらの携帯品は就寝時に睡眠導入を目的に身辺またはその近傍に配されて使用される。
【0028】
さらに、本発明の要旨とするところは、寝所の内装材であって、前記睡眠導入剤が大気中へ放出可能に保持された内装材であることにある。
【0029】
内装材としては、壁紙、パーティション、間仕切り、床材が挙げられる。また、内装用用いられる材料であればこれらに限定されない。
【0030】
香材としては香水、線香、匂い袋が挙げられるが香りを出すための材料や用具であればこれに限定されない。これらの香材は就寝時に睡眠導入を目的に身辺またはその近傍に配されて使用される。
【0031】
前記睡眠導入剤は、徐放性のマイクロカプセルに内包されて前記用具または前記内装材に保持され得る。
【0032】
前記睡眠導入剤は、包接剤に包接されて前記用具または前記内装材に保持され得る。
【0033】
前記包接剤はシクロデキストリンであり得る。
【0034】
前記睡眠導入具においては、前記睡眠導入剤が繊維集合体を主体とする部材に保持され得、該部材が前記用具または器具、あるいは前記内装材を構成する構成部材のうちのひとつであり得る。繊維集合体を主体とする部材は編織物、不織布、カーペット、あるいは布団綿等の綿状体であり得る。
【0035】
さらに、本発明の要旨とするところは、前記睡眠導入剤を動物に該動物の嗅覚系を介して作用させる睡眠導入方法であることにある。動物は人を含む。
【0036】
ここにおいて、前記睡眠導入方法とは睡眠の前に対象となる動物の身辺に設置されている前記睡眠導入具により、気化した前記睡眠導入剤を該動物に嗅がせることをいう。
【0037】
なお、本発明による睡眠導入方法は、前記睡眠導入具を用いる方法に限定されるものではなく、睡眠の前に睡眠導入成分としてヘキサナール、ヘキセノールから選択される少なくとも1種を混入させた入浴剤や化粧料やトリートメントを使用することも本発明による睡眠導入方法である。
【0038】
前記睡眠導入成分は、ヘキサナールとヘキセノールとが、重量比6:4〜4:6で混合されてなり得る。
【発明の効果】
【0039】
本発明の睡眠導入剤、睡眠導入具、睡眠導入方法により就寝時に寝付けない不眠が解消できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明者らは、永年にわたる研究により、青葉に含まれる香気成分(緑の香り、green odor)が、嗅覚系を介して、動物の自律性ストレス応答からの回復を早めることを見出した(Physiology&Behavior80(2004)481−488)
【0041】
睡眠状態と脳波パターンの関係については定説がある。α波(8〜13Hz)、β波(14〜20Hz)は覚醒状態時に現れ、θ波(4〜7Hz)、δ波(0.5〜3.5Hz)は睡眠状態に現れることが分かっている。(「生理学」真島英信著 文光堂 185〜186ページ)β波ははっきりとした目覚め状態に対応し、α波はぼんやりとした目覚め状態に対応する。θ波はうとうと状態に対応し、δ波は深い睡眠状態に対応する。
【0042】
一般にヒノキオイル等はα波の増加に効果があるとされていて、癒しの効果があるといわれているものの、睡眠状態に現れるこのθ波やδ波の増加には寄与が少ない。
【0043】
本発明者らのその後の研究において、青葉に含まれる香気成分が動物の睡眠導入成分として有効であることが見出された。
【0044】
さらには、前記香気成分のうち、ヘキサナール及びヘキセノールが動物の睡眠導入成分として特に有効であり、ヘキサナールとヘキセノールをほぼ等量配合するととくに好ましいとの結論を得るに至った。
【0045】
図1は、本発明による睡眠導入剤を、実験用ラットに嗅がせて、上記脳波を測定し、覚醒率(Rate of Wakefullness)で示したものである。覚醒率は、ある連続した一定時間(T)内におけるα波またはβ波が出現する時間長の合計時間(TA)の比率(TA/T)を%表示したものであり、図1では、Tは30分とした。覚醒率が大きい時間帯はα波またはβ波が出現する率が多く、覚醒率が小さい時間帯はθ波またはδ波が出現する率が多く、睡眠状態あるいは睡眠状態に近い状態であることを意味する。
【0046】
ラットは、図1において「stress」と表示された2時間の時間帯にわたって、ラットに継続してストレス(運動拘束)を与えたものと、「stress」と表示された2時間の時間帯にわたって、ラットに継続して同様のストレスを与えるとともにストレスを与えることを開始してから1時間後に30分にわたってヘキサナールとヘキセノールを等量比配合したものを嗅がせたものとの2種類であり、それぞれについて覚醒率の経時変化を測定した。ヘキサナールとヘキセノールを等量比配合したものはトリエチルシトレート(TEC)を溶媒とする0.03重量%溶液とし、この溶液をろ紙に沁み込ませたシートをラットの傍におくことにより嗅がせた。
【0047】
図1で明らかなように、ストレスを受けた後のラットの睡眠状態は著しく不安定であるが、同様のストレスを受けたにも拘らず、本発明による睡眠導入剤を嗅がせたラットにおいては十分な睡眠状態にあることがわかる。即ち、◇stress onlyのラットと比較して、●stress+green odorのラットは覚醒率が低く、就眠後すぐに安眠状態に入り、その後も安定している。
【0048】
この睡眠導入効果は翌日および翌々日の睡眠開始時間(6時=夜明け時)にも顕われ、●stress+green odorのラットは就眠後安眠状態に入り、その後も一定の期間安定を継続している。
【0049】
なお、図中、*印は◇stress onlyのラットと比較して、●stress+green odorのラットの覚醒率が有為に低く観測された時間帯を表す。
【0050】
このように、本発明の睡眠導入剤がラットに対して睡眠導入の効果があることがわかったが、本発明の睡眠導入剤は人に対しても睡眠導入効果がある。
【0051】
睡眠導入の効果を得るためには、睡眠導入成分として、ヘキサナール又はヘキセノールを単独で、あるいはこれらを重量比略1:1で配合した睡眠導入剤を、あるいはこれらのいずれかを溶媒で希釈した睡眠導入剤を、就寝時に身辺またはその近傍に配されていることとなる用具または器具に、大気中へ放出可能に保持させておくことが有効である。
【0052】
このような用具または器具に睡眠導入剤を大気中へ放出可能に保持させる方法としては、この用具または器具を構成する部材の表面の少なくとも一部に睡眠導入剤を付着させておくことが有効である。付着した睡眠導入剤中のヘキサナール及び/又はヘキセノールはその表面に吸着された状態にあり、吸着されたヘキサナール及び/又はヘキセノールの分子は自身の分子運動や周囲の空気の流れの影響で脱着して大気中へ放出される。
【0053】
部材の表面に睡眠導入剤を付着させる態様としては、睡眠導入剤あるいは睡眠導入剤を含む溶液をこの部材の表面に塗布あるいは噴霧することが挙げられる。また、部材が繊維集合体のように多孔性である場合は睡眠導入剤あるいは睡眠導入剤を含む溶液を部材に含浸させることが挙げられる。
【0054】
さらに、このような用具または器具に睡眠導入剤を大気中へ放出可能に保持させる他の態様としては、この用具または器具を構成する部材の表面の少なくとも一部に、睡眠導入剤を含む樹脂の溶液やエマルジョンを塗布あるいは噴霧し乾燥して樹脂の被膜を形成することが挙げられる。樹脂の被膜中に存在するヘキサナール及び/又はヘキセノールの分子が自身の分子運動や周囲の空気の流れの影響で樹脂から離脱して大気中へ放出される。
【0055】
この樹脂の溶液やエマルジョンとしては、睡眠導入剤あるいは睡眠導入剤を含む溶液を包接させた包接体を含有する溶液やエマルジョンや、睡眠導入剤あるいは睡眠導入剤を含む溶液を内包するマイクロカプセルを含有する溶液やエマルジョンであってもよい。
【0056】
このような用具または器具に睡眠導入剤を大気中へ放出可能に保持させるさらに他の態様としては、睡眠導入剤あるいは睡眠導入剤を含む溶液を収納した、開口部を有する容器を、この用具または器具に取付けて付加しておくことが挙げられる。この開口部を経由して睡眠導入剤あるいは睡眠導入剤を含む溶液中に存在するヘキサナール及び/又はヘキセノールの分子が蒸散して大気中へ放出される。
【0057】
このような用具または器具に睡眠導入剤を大気中へ放出可能に保持させるまたさらに他の態様としては、睡眠導入剤あるいは睡眠導入剤を含有する樹脂体を、この用具または器具に取付けて付加しておくことが挙げられる。樹脂中に存在するヘキサナール及び/又はヘキセノールの分子が自身の分子運動や周囲の空気の流れの影響で樹脂から離脱して大気中へ放出される。この樹脂体としては睡眠導入剤あるいは睡眠導入剤を含む溶液を包接させた包接体を含有する樹脂体や、睡眠導入剤あるいは睡眠導入剤を含む溶液を内包するマイクロカプセルを含有する樹脂体であってもよい。
【0058】
このような用具または器具に睡眠導入剤を大気中へ放出可能に保持させるさらにまた他の態様としては、睡眠導入剤あるいは睡眠導入剤を含む溶液を含浸させた、繊維集合体のような多孔性の部材を、この用具または器具に取付けて付加しておくことが挙げられる。樹脂中に存在するヘキサナール及び/又はヘキセノールの分子が自身の分子運動や周囲の空気の流れの影響でこの部材から離脱して大気中へ放出される。
【0059】
このような用具または器具に睡眠導入剤を大気中へ放出可能に保持させるまた別の態様としては、睡眠導入剤あるいは睡眠導入剤を含む溶液を内包するマイクロカプセルを収納した容器を、この用具または器具に取付けて付加しておくことが挙げられる。マイクロカプセル中に存在するヘキサナール及び/又はヘキセノールの分子がマイクロカプセルの被膜を通過して大気中へ徐放される。
【0060】
マイクロカプセルとしては、密封型のマイクロカプセルではなく、使用中に徐々に分子を放出する多孔質型マイクロカプセルであればどのような素材であってもよく、公知の技術により製造されたものを使用し得る。マイクロカプセルに睡眠導入剤あるいは睡眠導入剤を含む溶液を内包させる方法としては、所定時間浸漬しておく方法など周知技術を利用すればよい。マイクロカプセルにあっては、カプセル(壁膜)の形成と物質の内包とを同時に行なう方法、例えばスプレードライ造粒法によって得られるカプセルも使用可能である。
【0061】
このような用具または器具に睡眠導入剤を大気中へ放出可能に保持させるさらに別の態様としては、睡眠導入剤あるいは睡眠導入剤を含む溶液を包接させた包接体を収納した容器を、この用具または器具に取付けて付加しておくことが挙げられる。包接体中に存在するヘキサナール及び/又はヘキセノールの分子が大気中へ徐放される。
【0062】
このような用具または器具に睡眠導入剤を大気中へ放出可能に保持させる態様の具体的な一例を挙げれば、枕カバーなどの寝装品にスプレーで噴霧することにより添加して用いることが有効である。
【0063】
他の一例を挙げれば、睡眠導入成分として、ヘキサナールとヘキセノールのいずれかを単独で、あるいは両者を配合したものを、あるいはこれらを溶媒で希釈したものを、メラミン系カプセルに内包したスラリー状で寝装品に添加、あるいはシリカパウダーに内包した粉末を例えば寝装品に添加して用いることができる。
【0064】
睡眠導入剤を溶液として用いる場合は、溶液の濃度は0.03重量%以上であることが睡眠導入効果のうえで好ましい。
【0065】
本発明の睡眠導入剤においては、ヘキサナールとヘキセノールとの配合重量比が4:6〜6:4の範囲であることが睡眠導入を得るうえで最も好ましい。
【0066】
睡眠導入成分として、ヘキサナールとヘキセノールのいずれかを単独で、あるいは両者を配合したものを、あるいはこれらを溶媒で希釈したものを、シクロデキストリンのような包接剤と混合、攪拌することにより、包接剤に包接させたものが得られる。これを、用具または内装材に添加できる。包接剤は分子を包接して包接体を形成する物質であり、包接剤としてはシクロデキストリンやその誘導体、他の多糖類が挙げられる。
【0067】
前記シクロデキストリンにおいて、β型シクロデキストリンを選択すると、容易に包接させることができる。これを、枕カバーなどの寝装品に含浸、添加できる。
【0068】
小型の超音波加湿器において、水道水に、睡眠導入成分としてヘキサナール又はヘキセノールを単独で、あるいはこれらを重量比1:1で配合したものを添加し、寝所に睡眠導入成分が漂う簡便型睡眠補助器具とすることができる。
【0069】
空気清浄機のフィルターに、前記マイクロカプセルに内包された睡眠導入成分を添加すれば、寝所用として最適な睡眠導入装置となり、この装置を用いた睡眠導入方法により最適な睡眠導入がなされ得る。
【0070】
以下、本発明の代表的な実施例につき説明するが、例示は当然説明用のものであって発明思想の制限又は限定を意味するものではない。
【実施例1】
【0071】
睡眠導入成分として、ヘキサナールとヘキセノールを重量比1:1で配合し水で1000重量倍に希釈して、スプレーで、枕カバーに10g/m噴霧、添加し、天日で乾燥した。
【実施例2】
【0072】
睡眠導入成分として、ヘキサナールとヘキセノールを重量比1:1で配合し水で2000重量倍に希釈したもの1重量部をシリカパウダー10重量部に内包させたマイクロカプセルを得た。これを、枕に20g/個、添加した。
【実施例3】
【0073】
睡眠導入成分として、ヘキサナールとヘキセノールを重量比1:1で配合し水で2000重量倍に希釈したもの1重量部をβシクロデキストリン5重量部と混合、攪拌し、包接、内包させたマイクロカプセルを得た。このスラリーを、枕カバーに40g/m含浸、添加し、熱風乾燥機で乾燥した。
【実施例4】
【0074】
小型の超音波加湿器を準備し、水道水1リットルに対し、睡眠導入成分としてヘキセノールを20cc添加した混合液を加湿器に投入する。加湿器を運転すると、寝所にヘキセノールが漂う簡便型睡眠補助器具となった。図2は、この超音波加湿器をそのまま利用した簡易型睡眠補助器具2の構造を示す。図2において、簡易型睡眠補助器具2は超音波加湿機本体4と、超音波加湿機本体4内に着脱自在に設けられた給水タンク8と、霧化水槽6と、霧化水槽6と給水タンク8とを連通する給水通路10を設け、霧化水槽底部に設けられた超音波振動子12とを備えている。給水タンク8下側には、給水タンク8の水が一定量以下になると弁が開く給水弁10が設けられている。超音波振動子12は、その直下に設けられた振動の駆動出力源である発振回路14に接続している。混合液20が給水タンク8に投入されて霧化水槽6で超音波振動子12の振動により霧化されて霧化水槽6の上方の霧化室16に放出される。加湿機本体4に設けられた空気吸い込み口22より霧化室16へ風路24を経由して空気を送るファン28が設けられ、加湿機本体4内に固定してある。また、霧化室16の上方には、霧化室16で霧化された水を含む空気、すなわち加湿空気を吹き出すための吹き出し口30が設けられている。
【実施例5】
【0075】
家庭用空気清浄機のフィルターを取り外し、実施例3で使用したシクロデキストリン水溶液を80g/枚含浸、添加し、熱風乾燥機で乾燥した後、空気清浄機に装着、使用した。
【実施例6】
【0076】
睡眠導入成分としてヘキセノールの0.1%水溶液を重量比2.5%配合した寒天ゲルを作製し、睡眠時に枕元に配置してモニターに供した。
【実施例7】
【0077】
睡眠導入成分としてヘキサナールの0.1%水溶液を重量比2.5%配合した寒天ゲルを作製し、睡眠時に枕元に配置してモニターに供した。
【実施例8】
【0078】
ヘキサナールとヘキセノールを重量比1:1で配合した配合物の0.1%エタノール溶液を、βシクロデキストリンに包接させたマイクロカプセル(包接体中に溶液が約20%含有)の粉末を、重量比8%の比率で線香の材料に混合した。これにより得られた線香を、予め睡眠前に寝所で着火し、室内に芳香と共に睡眠導入成分が漂わせた。
【実施例9】
【0079】
市販の自己発熱式の酒カップを購入し、酒の代わりに睡眠導入成分としてヘキセノール2%水溶液を投入、予め、室内で蒸散させた。
【0080】
[比較例1]
実施例1と同様の枕カバーで睡眠導入剤を加工していないものを準備した。
【0081】
[比較例2]
実施例3で使用した小型の超音波加湿器において、水道水1リットルに対し、ラベンダーのエッセンシャルオイルを20cc添加した混合液を使用した。加湿器を運転すると、寝所にラベンダーの香りが漂う簡便型リラクゼーション器具となった。
【0082】
実施例1〜9及び比較例1、2におけるモニター結果を表1に示す。表1によると、本発明における睡眠導入成分としてのヘキサナール及び/又はヘキセノールが、有効であることが分かり、前述のラットによる研究結果を裏付ける結果となった。なお、実施例1〜3と実施例4〜9では、睡眠導入成分の使用形態が異なるため、単純に比較できないが、実施例4、実施例6〜8が、実施例1〜3と比較して若干弱い結果となっている。これは、ヘキサナールとヘキセノールを重量比でほぼ1:1で配合したほうが、効果的であるとの本発明者らのこれまでの研究結果と合致する。
【0083】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、睡眠導入成分としてヘキサナール及び/又はヘキセノールを選択するものであり、特に、ストレスが加わっているときに、あるいはストレスを感じているときほど、これらが如何に有効であるかが検証できた。ありとあらゆる所でさまざまなストレスにさらされている現代人にとって、重症の不眠症になる前に、本発明による睡眠導入具、又は睡眠導入方法はまさに福音となる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明による睡眠導入剤を実験用ラットに嗅がせて脳波を測定した結果を覚醒率の時間推移で示したグラフである。
【図2】本発明に用いられる簡易型睡眠補助器具の構造を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0086】
2:簡易型睡眠補助器具
4:超音波加湿機本体
6:霧化水槽
8:給水タンク
12:超音波振動子
16:霧化室
20:混合液
28:ファン
30:吹き出し口




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサナール、ヘキセノールから選択される少なくとも1種を含む睡眠導入剤。
【請求項2】
ヘキサナールとヘキセノールとを含み、該ヘキサナールと該ヘキセノールとの重量比が4:6〜6:4である睡眠導入剤。
【請求項3】
就寝時に身辺またはその近傍に配されていることとなる用具または器具であって、請求項1又は2に記載の睡眠導入剤が大気中へ放出可能に保持された睡眠導入具。
【請求項4】
前記睡眠導入剤が徐放性のマイクロカプセルに内包されて前記用具または器具に保持された請求項3に記載の睡眠導入具。
【請求項5】
前記睡眠導入剤がシクロデキストリンに包接されて前記用具または器具に保持された請求項3に記載の睡眠導入具。
【請求項6】
寝所用の内装材であって、請求項1又は2に記載の睡眠導入剤が大気中へ放出可能に保持された内装材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−162188(P2007−162188A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363256(P2005−363256)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(503000602)株式会社中央システム技研 (2)
【Fターム(参考)】