説明

睡眠時無呼吸を治療する経静脈法

睡眠時無呼吸を治療するシステムおよび方法が、患者の身体の中に移植可能パルス発生器を皮下挿入すること、およびパルス発生器にリード線を接続することを含んでいる。リード線を血管系の中に挿入して、リード線の刺激部が舌下神経に最も近い位置に配置されるようになるまで、リード線を経静脈法的に血管系の中を通って前進させる。神経刺激信号がリード線の刺激部を通して舌下神経に印加されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、一般に、患者の軟組織を刺激して監視する移植可能刺激システムに関し、さらに詳細には、本明細書の開示は、睡眠時無呼吸を治療するために刺激リード線の経静脈挿入を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠時無呼吸は、一般に、睡眠中の呼吸の休止を示している。閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と呼ばれる睡眠時無呼吸の1つの種類は、上気道の閉塞および/またはつぶれに起因する睡眠中の反復性呼吸休止を特徴とし、通常、血液酸素化飽和度の低下を伴う。
【発明の概要】
【0003】
閉塞性睡眠時無呼吸の1つの治療法は、顎の下の頸部にある舌下神経への電気刺激の送出を含んでいる。このような刺激療法は上気道開通性を保持するために上気道筋を活性化する。睡眠時無呼吸の治療では、呼吸の吸息相の間、気道を開けておく上気道筋または筋群の同期刺激により、気道閉塞による呼吸困難に起因する呼吸努力の増加が回避される。例えば、睡眠時無呼吸の治療中に、舌下神経の周囲に配置されたカフ電極により頤舌筋を刺激する。
【0004】
本明細書に開示された実施形態は閉塞性睡眠時無呼吸と診断された患者に治療上の解決方法を提供するために移植可能システムを提供する。本システムは吸気時に舌下神経を刺激して、それにより睡眠中の上気道の閉塞を防ぐように設計されている。
【0005】
添付図面に関して検討しながら、本明細書に開示された実施形態の以下の詳細な説明を参照することにより、本明細書の開示が、より良く理解され、本明細書の開示の態様および特徴が理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本明細書に開示された実施形態に係る、移植可能刺激システムの模式図である。
【図2A】本明細書に開示された実施形態に係る、移植可能刺激システムのブロック図の模式図である。
【図2B】本明細書に開示された実施形態に係る、検出監視装置のブロック図の模式図である。
【図3A】本明細書に開示された実施形態に係る、睡眠時無呼吸を治療するための刺激リード線およびセンサの経静脈配置の模式図である。
【図3B】本明細書に開示された実施形態に係る、反応評価ツール配列および神経監視システムの模式図である。
【図4A】本明細書に開示された実施形態に係る、複数の静脈経路を介して、および/または複数の刺激部位を介して、神経を刺激する方法の模式図である。
【図4B】本明細書に開示された実施形態に係る、複数の独立刺激リード線を含む刺激リード線システムの模式図である。
【図5A】本明細書に開示された実施形態に係る、刺激リード線用のオーバー・ザ・ワイヤ挿入システムの側面平面図である。
【図5B】本明細書に開示された実施形態に係る、刺激リード線用のスタイレット駆動挿入機構の側面平面図である。
【図6】本明細書に開示された実施形態に係る、刺激部位を選択する方法の模式図である。
【図7】本明細書に開示された実施形態に係る、睡眠時無呼吸を治療するための刺激リード線およびセンサの経静脈配置の模式図である。
【図8】本明細書に開示された実施形態に係る、刺激リード線の側面平面図である。
【図9】本明細書に開示された実施形態に係る、先端部にコイル構造を含む刺激リード線の側面平面図である。
【図10】本明細書に開示された実施形態に係る、リング電極配列を含む刺激リード線の先端部の斜視図である。
【図11】本明細書に開示された実施形態に係る、複合ステント電極構造を含む刺激リード線の先端部の側面平面図である。
【図12A】本明細書に開示された実施形態に係る、展開構成で示されている選択的に展開可能なつめ状突起の配列を含む刺激リード線の先端部の側面平面図である。
【図12B】本明細書に開示された実施形態に係る、図12Aのリード線のつめ状突起が格納位置で示されている側面平面図である。
【図13】本明細書に開示された実施形態に係る、リード線周囲の円周方向に取り付けられたプログラム可能な電極配列を含む刺激リード線の先端部の斜視図である。
【図14】本明細書に開示された実施形態に係る、プログラム可能なリング電極配列を含む刺激リード線の先端部の斜視図である。
【図15A】本明細書に開示された実施形態に係る、神経刺激システムを模式的に示す側面平面図である。
【図15B】本明細書に開示された実施形態に係る、図15Aのシステムの超小型刺激器具の経静脈配置の模式図である。
【図15C】本明細書に開示された実施形態に係る、図15A〜図15Bのシステムに呼吸検出を提供するように構成された衣服の模式図である。
【図16】本明細書に開示された実施形態に係る、経静脈法的に挿入される超小型刺激器具の固定システムを模式的に示す側面平面図である。
【図17A】本明細書に開示された実施形態に係る、経静脈法的に挿入される超小型刺激器具のステントベースの固定システムを模式的に示す側面平面図である。
【図17B】本明細書に開示された実施形態に係る、図17Aの超小型刺激器具と固定システムのステントとを模式的に示す断面図である。
【図17C】本明細書に開示された実施形態に係る、図17Aの超小型刺激器具と固定システムのステントとを模式的に示す側面平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
下記の詳細な説明は、あくまで本質的に例示的なものに過ぎず、本明細書の開示、または本明細書の開示の適用および使用を限定するものではない。さらに、先行する技術分野、背景、または下記の詳細な説明において示される、表現されまたは暗示されるいかなる理論にも拘束されるものではない。
【0008】
本明細書に開示される実施形態は、閉塞性睡眠時無呼吸を治療する移植可能医療機器を提供し、経静脈リード線システムを介して舌下神経(または他の目標神経)に刺激を与える。検出リード線システムにより検出された呼吸と同期した刺激を提供してもよい。いくつかの実施形態では、単一の経静脈リード線は検出リード線と刺激リード線の両方を含んでおり、検出リード線は刺激リード線と一体になっていたり、または刺激リード線に接続されたりしている。他の実施形態では、検出リード線は、経静脈刺激リード線から分離した経静脈リード線を形成する。さらに他の実施形態では、検出リード線は静脈系の外部にある検出リード線を含んでおり(例えば、患者の体の外部に取り付けられたり、または皮下に移植されたりするような)、一方、刺激リード線は経静脈リード線を含んでいる。
【0009】
図1は、本明細書に開示される実施形態に係る、経静脈法的(transvenously)に配置された刺激電極を含む移植可能刺激システムの模式図である。図1に示すように、本明細書の開示の一実施形態の移植可能刺激システム10の実施例は、患者20の胸部の中に外科的に設置できる移植可能パルス発生器(IPG)55と、IPG55の接続ポートの中に設置されたコネクタ(図示せず)を介してIPG55に電気的に接続された刺激リード線52と、を含んでいる。リード線52は、詳細に後述するように、刺激電極部65を含み、IPG55から延びて、患者10の舌下神経53のような所望の神経に隣接する血管系の一部分の中に刺激電極部65が配置されて、神経53を刺激できるようになっている。例えば、リード線52を利用してもよい例示的移植可能刺激システムは、クリストファーソン他に発行された米国特許第6,572,543号に記載されており、当該米国特許は参照により全体がそのまま本明細書に組み入れられる。一実施形態では、リード線52は、呼吸努力を検出するために患者10内に設置されたセンサ部60(IPG55に電気的に接続され、IPG55から延びている)をさらに含んでいる。
【0010】
いくつかの実施形態では、IPG55が閉塞性睡眠時無呼吸を治療するように構成されていることに加えて、IPG55は、徐脈ペースメーカ、移植可能除細動器、または心臓再同期療法機器のような心臓治療機器としてさらに構成されている。一態様では、心臓治療を施すために1本以上のリード線がIPG55から延びて経静脈法により心臓に接続する。また、一実施形態では、IPG55のこれらの心臓治療構成のうちの1つ以上が、閉塞性睡眠時無呼吸療法を施すのに用いる呼吸信号もまた提供してもよいセンサ(圧力、インピーダンス)を心臓リード線上に有している。リード線の経静脈挿入により心臓治療を施すための移植可能刺激システムの例示的実施形態は、ヒル他の米国特許第6,006,134号、およびチョー他の米国特許第6,641,542号に記載されており、当該米国特許は両方とも参照により全体がそのまま本明細書に組み入れられる。
【0011】
IPG55が心臓治療と睡眠時無呼吸の両方を取り扱うように構成されている一実施形態では、第1のリード線(または一組のリード線)がIPG55から延びて心臓活動を検出して心イベントを検出し、他方、第2のリード線(または一組のリード線)がIPG55から延びて呼吸活動を検出して呼吸イベントを検出する。しかしながら、他の実施形態では、一組のリード線だけを使用して呼吸活動と心臓活動の両方を検出する。したがって、この後者の実施形態では、1つの構成で、心臓検出リード線により得られる呼吸信号が、閉塞性睡眠時無呼吸療法を施すときの刺激信号の印加を誘発するためにも使用され、また、必要に応じて無呼吸を監視して検出するためにも使用される。
【0012】
いくつかの実施形態では、心臓治療と睡眠時無呼吸療法の両方を施すために単一のIPGを使用するのではなく、第2の移植可能パルス発生器(IPG55)を移植して(第1のIPGに加えて)、一方のIPG55が心臓治療を施し、もう一方のIPG55が閉塞性睡眠時無呼吸療法を施すようになっている。
【0013】
図2Aは、本明細書に開示される一実施形態に係る、移植可能刺激システム100を模式的に示すブロック図である。一実施形態では、システム100は図1のシステム10と少なくとも実質的に同じ機能および属性を含んでいる。図2Aに示すように、システム100は検出モジュール102、刺激モジュール104、治療モジュール106、および患者管理モジュール108を含んでいる。一実施形態では、治療モジュール106のIPG109は図1のIPG55と少なくとも実質的に同じ機能および属性を含んでいる。
【0014】
パラメータ配列を介して、検出モジュール102は、患者が就寝中か覚醒中かにかかわらず患者の呼吸状態を決定するために、さまざまな生理学的センサ(圧力センサ、血液酸素化センサ、音響センサ、心電図(ECG)センサ、またはインピーダンスセンサなど)からの信号、および他の呼吸関連指示計などからの信号を受信して追跡する。このような呼吸検出は、単一のセンサ、もしくは任意の多様なセンサのどちらから受信されてもよく、またはより信頼できより正確な信号を提供する可能性があるさまざまな生理学的センサの組み合わせから受信されてもよい。
【0015】
例えば、一実施形態では、検出モジュール102は図2Bに示すように検出監視装置120を含んでいる。検出監視装置120は、位置検出構成要素132または動作検出構成要素134のうちの少なくとも1つを含む身体パラメータ130を含んでいる。一実施形態では、動作検出構成要素134は、歩行、身体動作、会話などを示す「地震」活動の検出(加速度計または圧電変換器による)を追跡する。他の実施形態では、位置検出構成要素132は、加速度計または他の変換器による身体位置または姿勢の検出を追跡する。いくつかの実施形態では、身体パラメータ130は、位置検出構成要素132と動作検出構成要素134の両方からの信号を利用する。
【0016】
いくつかの実施形態では、検出監視装置120は、ECGパラメータ136、時間パラメータ138、生体インピーダンスパラメータ140、圧力パラメータ142、および血液酸素パラメータ144のうちの1つ以上をさらに追加的に含んでいる。一態様では、圧力パラメータ142は呼吸圧力構成要素143を含んでいる。一態様では、時間パラメータ142は一般的に時間を追跡する(例えば、時間間隔、経過時間など)が、他の態様では、時間パラメータ142は一般的な時間パラメータに加えて、または一般的な時間パラメータの代わりに、時刻を追跡する。他の態様では、時間パラメータ142は時刻に従って治療計画を開始したり、または停止したりするために使用できる。
【0017】
また、システム100(図2A)は、検出監視装置120の各パラメータ(例えば、血液酸素化パラメータ144など)のそれぞれにデータを提供するために、患者の身体内に移植された、または患者の身体に取り付けられたアナログ式生理学的センサ(例えば、LED型組織内かん流酸素飽和度など)を含んでいるか、または接続されているであろうということが分かる。また、いくつかの実施形態では、検出監視装置120は、舌下神経の幹および/または1つ以上の枝の仕様を含む舌下神経などの、刺激される予定の神経の活動に関する生理学的データを表す目標神経パラメータ146を含んでいる。
【0018】
他の実施形態では、目標神経は閉塞性睡眠時無呼吸を治療するための治療計画を促進する他の神経(舌下神経を除く)を含んでいる。また、さらに他の実施形態では、検出監視装置120は音響学的に検出され呼吸努力を示す呼吸気流量または心臓活動から生理学的データを表す音響検出パラメータ147を含んでいる。
【0019】
図2Aをさらに参照すると、システム100の治療管理装置106は、睡眠時無呼吸療法の開始、終了、および/または調整を本明細書に開示された原理にしたがって自動的に制御するように構成されている。また、治療管理装置106は、治療管理装置106にプログラムされた治療プロトコルに基づいて神経刺激信号の振幅、パルス幅、電極極性、継続時間、および/または周波数などのさまざまな治療パラメータを追跡して適用する。
【0020】
一実施形態では、治療管理装置106は、少なくとも検出モジュール102と、治療管理装置106と、刺激モジュール104と、患者管理モジュール108と、を含むシステム100の動作を指示する制御信号を生成するように構成された1つ以上の処理装置および関連メモリを含んでいる。特に、検出モジュール102を介して収集された生理学的データに対応して、コントローラに関連するメモリ内に含まれる入力および/または命令を通じて受信されたコマンドに呼応して、または基づいて、治療管理装置106は刺激モジュール104の動作を指示する制御信号を生成して、舌下神経などの目標神経の刺激を選択的に制御し、気道開通性を回復させ、それにより無呼吸イベントを低減したり、または除去したりする。
【0021】
この点を考慮すると、治療管理装置106は呼吸情報を合成する役割を果たしており、その呼吸情報に基づいて好適な刺激パラメータを決定して、電気刺激を目標神経に導く。無呼吸を検出するためにいろいろな生理学的パラメータを使用しても効果がまちまちである可能性があるが、本明細書に開示された一実施形態では、検出モジュール102は胸部の生体インピーダンスパラメータを介して無呼吸を検出する。特に、胸部インピーダンスの測定値は呼吸波形の相対振幅を追跡するために使用される。生理学的に言えば、肺が空気でいっぱいになったり空になったりするとき、肺の生体インピーダンスは変化する。したがって、胸部インピーダンスは息を吸う間は増加して、息を吐く間は減少する。また、他の態様では、呼吸意欲の変動が生体インピーダンスの振幅の変動を引き起こすことになり、大きな呼吸意欲が生体インピーダンスの信号振幅を増加させる。一実施形態では、生体インピーダンス測定値を与えるベクトルは主に肺容量に関連しており、呼吸時の横隔膜変位または心臓変位には起因しない。
【0022】
生体インピーダンス信号が得られると、生体インピーダンス信号は時間についての平均ピーク振幅を特定するために、さらに処理される。無呼吸は、典型的な無呼吸イベントの既知の継続時間と実質的に類似の時間の間、継続する周期的な振幅変動をさらに特定することにより検出される。
【0023】
この応用のために、用語「処理装置」は、メモリ内に含まれる命令列を実行する現在開発されている、または将来開発される処理装置を意味するものとする。命令列を実行することにより、処理装置に制御信号の生成などのステップを実行させる。命令は、処理装置で実行するために、コントローラに関連するメモリにより代表される読み出し専用メモリ(ROM)、大容量記憶装置、または他の何らかの永続記憶装置からランダム・アクセス・メモリ(RAM)にロードされてもよい。他の実施形態では、記載の機能を実現するために、ソフトウェア命令の代わりに、またはソフトウェア命令と組み合わせて配線回路を使用してもよい。例えば、1つ以上の特定用途向け集積回路(ASIC)の一部としてコントローラを具体化してもよい。特に断りのない限り、コントローラはハードウェア回路およびソフトウェアのいかなる具体的な組み合わせにも限定されず、処理装置で実行される命令のいかなる特定のソースにも限定されない。
【0024】
一般論として、システム100の刺激モジュール104は、医師により、および/または治療管理装置106と提携してプログラムされた治療計画に基づいて、電極(刺激電極65のような)を通じて神経刺激信号を生成して印加するように構成されている。
【0025】
一般論として、患者管理モジュール108は当業者によく知られた方法でIPG109への、およびIPG109からの通信を促進するように構成されている。したがって、患者管理モジュール108はIPG109の活動(検出された生理学的データ、刺激履歴、検出された無呼吸の回数などを含む)を報告するように構成されているとともに、患者管理モジュール108は患者プログラマ、臨床医プログラマなどの外部ソースからIPG109の初期のまたは追加的なプログラムを受け取るように構成されている。
【0026】
図3Aは、図1の移植可能刺激システム10の例示的な一実施形態のリード線150を模式的に示している。図3Aに示すように、リード線150は経静脈法的に挿入され、血管系の中に設置するように構成されている。リード線150は舌下神経190に隣接する舌下静脈188(または舌下神経もしくは他の目標神経に隣接する他の静脈)の中に刺激電極部156を配置するように構成されている。一態様では、舌下静脈は、舌の前面下方の点にある舌下神経の遠位端部から始まる舌下神経の伴行静脈であり、舌下神経の遠位部に沿って走り、その後、舌静脈に加わってもよく、最終的に内頸静脈に通じている。また、他の態様では、舌下静脈の代わりに、または舌下静脈に加えて、舌静脈の他の枝などの他の静脈が刺激電極配置の候補になる可能性がある。
【0027】
したがって、リード線150は目標神経を刺激するために経静脈法的に刺激電極を挿入する方法に使用できる。この方法では、図3Aに示すように、リード線150は鎖骨下静脈182の中を通して挿入され、その後、頸静脈184の中を通り、静脈幹186を経由して、刺激電極部156が舌下静脈180(または目標神経に隣接する他の静脈)の所望位置の範囲に入るまで舌下静脈190(または舌下神経の伴行静脈としても知られている)の中に進む。
【0028】
いくつかの実施形態では、神経刺激信号は図3Aに示すように舌下神経または他の目標神経に沿った単一の刺激部位に印加される。しかしながら、他の実施形態では、睡眠時無呼吸療法の神経刺激信号は、図4Aに模式的に示すように1つ以上の静脈の中の複数の位置230、232、234、240、242、244(記号xで表す)のうちの1つ以上から、目標神経190に沿った複数の目標刺激部位190P、190M、190Dに向かって印加される。各部位に印加された電場は、記号xから、神経190上の刺激部位190M、190P、190Dに向かって延びる矢印で模式的に表される。一態様では、これらの複数の部位は、舌下神経190に沿った静脈231の中の、近位(例えば、位置230)に配置された、中ほどの距離(例えば、位置232)に配置された、および遠位(例えば、位置234)に配置された複数の刺激位置、左右両方の舌下神経上の1つ以上の刺激位置、ならびに/または舌下神経190に隣接する他の静脈235に沿った複数の刺激位置(近位の240、中ほどの距離の242、および遠位の244)を含んでいる。図4Aは目標神経上の3つの刺激部位または領域190P、190M、190Pを示しているが、本明細書に開示された実施形態は、神経190に沿って特定された領域190P、190M、190Pの間の(または、よりも遠位の、もしくは、よりも近位の)任意の点(または複数の点)で神経190を刺激するために使用できることが分かる。
【0029】
図4Bに示すように、いくつかの実施形態では、刺激リード線システム275がIPG55(図1〜図2)から延びる2本以上の刺激リード線276、277を含み、別々のリード線276、277がそれぞれの異なる経静脈経路のおのおのの方へ延びることができ、静脈231および235(図2)のような異なる静脈からの2つ以上の独立した刺激位置を単一の目標神経上に可能にしていることが分かる。一態様では、それぞれの別個のリード線は、図4Bにさらに示すように、各リード線276、277の先端部279の長さに沿って1つ、2つ、またはそれ以上の互いに離間した異なる電極部280、282、284を含んでいる。いくつかの実施形態では、各リード線276、277の電極部280、282、284は、それらの間に最小距離(D1またはD2)を有するように配置され、1つの電極部に印加された刺激信号が残りのすべての電極部に印加された刺激信号から分離独立しており、同じ目標神経に沿って独立した刺激部位を実現するようになっている。したがって、1本のリード線の先端部の電極部は、第1の電極部(例えば、電極部280)からの刺激信号が1つの部位に印加されるときには、残りのすべての部位のそれぞれが第1の電極部により刺激されることがないように離間している。もちろん、電極部280、282、284のそれぞれを同時に作動させて、離間し独立している刺激部位のそれぞれに信号を同時に印加できることも分かる。
【0030】
いくつかの実施形態では、第1のリード線276上の電極間の間隔D1およびD2は互いに等しく、第2のリード線277上の電極間の間隔D3およびD4は互いに等しい。他のいくつかの実施形態では、第1のリード線276上の電極間の間隔D1およびD2(または第2のリード線277上の電極間の間隔D3およびD4)は互いに実質的に異なっている。いくつかの実施形態では、第1のリード線276上の電極間の間隔(D1、D2)は第2のリード線277上の各電極部間の間隔(D3、D4)と同じである。しかしながら、他の実施形態では、異なる各電極部を所望の刺激部位に設置するために経静脈法的に各リード線276、277が進む距離が異なることに対応するために、第1のリード線276上の電極間の間隔(D1、D2)が第2のリード線277上の電極部間の間隔(D3、D4)と異なっている。
【0031】
他の実施形態では、経静脈法的に到達できる、1つ以上の神経に沿った刺激部位は、目標神経の対称部位を捕捉できるように刺激信号を印加できるような距離ずつ互いに離間しているが、それと同時に、隣接する刺激信号同士が多少重複するほど、神経に沿って隣接する刺激部位間の間隔が近いことが分かる。
【0032】
いくつかの実施形態では、経静脈リード線システム275の別々の刺激リード線276、277は、異なる神経を刺激するように、経静脈法的に異なる静脈(例えば、231および235、または異なる組の静脈)の中に配置されている。この配置では、一方の経静脈リード線276は第1の神経(神経190など)を刺激し、もう一方の経静脈リード線277は第2の神経(図示せず)を刺激する。一態様では、第1および第2の神経のそれぞれは呼吸器系の制御に関連しており、呼吸パターンに関連する第1および第2の神経の選択的な刺激が、気道開通性を回復保持し、閉塞性睡眠時無呼吸を軽減するようになっている。
【0033】
再び図3Aを参照すると、いくつかの実施形態では、神経完全性監視装置(スタンドアロン監視装置190、または図2のプログラマ108のような睡眠時無呼吸医師プログラマ108に組み込まれた)が、リード線150の電極部156を適切な位置に配置する際に医師を助けるように使用される。この関連で、一実施形態では、神経完全性監視装置は2001年12月25日付で発行された術中神経電気生理学的監視装置と題する米国特許第6,334,068号に記載された神経完全性監視装置と少なくとも実質的に同じ機能および属性を含み、当該米国特許は参照することにより全体がそのまま本明細書に組み入れられる。他の実施形態では、他の神経完全性監視装置または同等な機器配列(例えば、刺激プローブおよび筋電図検査システムなど)が、刺激信号を印加して目標神経に神経支配された筋の反応を評価するために使用される。
【0034】
一実施形態では、神経完全性監視装置190は図3Bにさらに示され、刺激モジュール192と、筋電図検査監視電子機器(EMG)196を含む反応モジュール194と、を含んでいる。
【0035】
この点を考慮して、図3Bは、本明細書の開示の一実施形態に係る、反応評価配列300をさらに示している。図3Bに示すように、反応評価配列300は目標神経を刺激する目標部位の有効性を評価するための1つ以上の機構を提供する。一実施形態では、配列300は、(1)これに限らないが、例えば、舌の突出(矢印Pで示す)などの、舌運動反応304の程度および位置(舌先の伸長よりも舌根の伸長の方が好ましい)を観察または測定すること、(2)上部呼吸気道302の増加した断面積の範囲(矢印Wで示す)を観察または測定すること、(3)静脈の中の仮想目標部位に刺激を加えたときの、1つ以上の筋のEMG反応306(監視装置190のEMG機器196で測定される)の程度を測定すること、(4)舌または喉頭筋のけいれんを観察または検出すること、および/または(5)無呼吸イベントの大幅な減少を含んでいる。
【0036】
したがって、この点を考慮して、監視装置190と、反応配列200の1つ以上の態様とは、目標神経上の仮想刺激部位に対する静脈の中のリード線の位置決めを評価するために使用される。一態様では、舌下静脈(または他の静脈)のナビゲーションの間にリード線150を遠位方向に前進させながら、反復刺激パターンが神経完全性監視装置190の刺激モジュール192からリード線150の電極部156に印加される。いくつかの実施形態では、印加される刺激パターンは、3秒に一度の1秒間の刺激バースト、傾斜刺激パターン、および/または医師が管理するバーストである。他の態様では、神経完全性監視装置190の筋電図検査(EMG)監視電子機器196は、目標静脈のナビゲーション中に印加される神経刺激に対する筋反応を測定できるようにする。したがって、細線電極308(または類似電極)が神経完全性監視装置190と電気通信可能に接続され、リード線150のナビゲーション中に電極部156を通じて印加される刺激パターンに対応する筋活動を連続的に監視するために使用される。この配置を用いると、この閉ループフィードバックにより、医師は電極リード線156の(経静脈経路に沿った)位置のリアルタイムフィードバックと、目標神経に隣接する経静脈経路に沿った電極リード線156の特定の位置で電極リード線156が目標神経を捕捉する可能性に関するフィードバックと、を得ることができるであろう。また、図1〜図3Bに関連して記載されたリード線150の配置のための方法は、図4A〜図14に関連して記載された他のリード線の配置にも適用できることが分かる。
【0037】
リード線150の電極部156を目標位置まで前進させて挿入するために、本明細書に開示された一実施形態は図5A〜図5Bに示す挿入機構のうちの1つのような挿入機構を使用する。ほとんどの場合、刺激リード線は鎖骨下静脈に挿入することが期待されるが、他の挿入部位が完全に除外されるわけではない。
【0038】
図5Aに示すように、オーバー・ザ・ワイヤ・リード線システム200が、ガイドワイヤ204の全体を覆って摺動可能に前進できる少なくとも1つの管腔(図示せず)を含む移植可能リード線202を含んでいる。使用時には、操舵可能ガイドワイヤ204の遠位端部206を血管系180(図3A)の中を通って目標位置まで前進させ、その後、リード線202の電極部208が目標刺激部位に位置するまでリード線202をガイドワイヤ204の近位部205を越えて(ガイドワイヤ204の長さに沿って)前進させる。一態様では、リード線202はIPG55(図1)と電気通信可能であり、IPG55がリード線202の電極部208の動作を制御できる。また、電極部208が静脈(この静脈の中を通って電極部208が延びている)の長さに沿って最適に位置付けられると、リード線202を回転させ、それにより電極部208を回転させて、目標神経のさまざまな束に対して異なる刺激効果を加えられることが分かる。
【0039】
他の実施形態では、リード線150の電極部156を目標位置まで挿入して舌下神経(または他の目標神経)を刺激するためにスタイレット駆動機構を使用する。この点を考慮して、図5Bは、ガイドワイヤ224に固定されたリード線222を含むスタイレットリード線システム220を示している。使用時には、リード線222の電極部228が目標刺激部位に位置するまで血管系180の中を通って前進操舵ガイドワイヤ224により操舵可能リード線222の遠位端部226を前進させる。一態様では、リード線202はIPG55(図1)と電気通信可能であり、IPG55がリード線220の電極部228の動作を制御できる。
【0040】
再び図3Aを参照すると、一実施形態では、リード線150はリード線本体152の近位部に呼吸センサ154(第1の部分155Aおよび第2の部分155Bを含む)を支持するリード線本体152を含んでいる。言い換えれば、電極部156と同じリード線本体152上に呼吸センサ154を設けてあり、血管系180内の単一の通過で呼吸センサ154と電極部156の両方を配置するようになっている。この配置により、電極部156を遠位方向に前進させて目標神経に隣接して配置するとき、呼吸センサ154は患者20の胸部の中に自動的に配置されるようになり、患者の胸郭の呼吸パターンを検出できる。この配置により、電極部156の作動を誘発して目標神経を刺激するために、センサ154は呼吸特性および/またはパターン(例えば、吸気、呼気、呼吸休止など)を検出する。したがって、この配置により、IPG55(図1)は呼吸センサ154からセンサ波形を受信して、それにより、本明細書に開示された実施形態の治療計画に基づいて、それぞれの呼吸の息(または吸気に関連する呼吸パターンの他の態様)のような吸気と同期して、IPG55が電気刺激を送出できるようになっている。また、IPG55は呼吸センサ154に電力を供給するとともに、IPG55はリード線150からインピーダンス信号を受信して処理するための内部回路もまた含んでいることが分かる。
【0041】
いくつかの実施形態では、呼吸波形を監視しており、無呼吸を示す呼吸特性および/またはパターンが特定されるまでは刺激(一般に呼吸と同期している)を加えない。監視された呼吸波形の中に無呼吸を示す特性またはパターンがもはや存在しないことを検出したとき、刺激を終了させる。
【0042】
一実施形態では、呼吸センサ154はインピーダンスセンサである。一態様では、インピーダンスセンサが生体インピーダンス信号またはパターンを検出するように構成され、これにより、制御装置が生体インピーダンス信号の中の呼吸パターンを評価する。生体インピーダンスを検出するために、一実施形態では、電極155BとIPG55のケース56の導電性部分とを通して電流が注入され(図3A)、インピーダンスを計算するために電極155Aと155Bの間(または155Aと、IPG55のケース56の導電性部分の間)の電圧を検出することになる。
【0043】
生体インピーダンス検出の他の実施形態では、インピーダンス検出リード線の配置の間、プログラマ(108)上にインピーダンス波形をリアルタイムで表示できる。電極155Aおよび155Bの位置は、呼吸相情報を表す際に最適SN比をもたらすようにインタラクティブに(IPGの中のマルチプレクサスイッチを介して選ぶために電極配列が利用できるであろう)調節できる。
【0044】
他の実施形態では、センサ154は圧力センサである。一態様では、この実施形態の圧力センサは患者の胸郭内の圧力を検出する。他の態様では、この圧力は胸部圧力と心臓圧力(例えば、血流量など)の組み合わせである可能性がある。この構成では、コントローラは患者の呼吸パターンを検出するためにこの圧力検出情報を分析するように構成されている。
【0045】
いくつかの実施形態では、リード線150はリード線本体152の近位部に設置できる固定装置158を含んでいる。固定装置158はセンサ154および電極部156が血管系180の中の適切な位置にとどまることを確保するように構成されている。
【0046】
以前紹介した図1および図3Aは、睡眠時無呼吸を治療するために舌下神経を刺激できるようにするために経静脈法的に舌下静脈(すなわち、舌下神経の伴行静脈)に挿入された刺激電極部65、156を一般的に示している。本明細書の開示の一実施形態では、図6に示すように、無呼吸を治療する方法250が、舌下神経の所望の刺激が得られるであろう舌下静脈(または舌下神経もしくは他の目標神経に刺激を加えるのに好適な他の静脈)の長さに沿って刺激電極部156(図3A)を位置付けるために最適部位を特定することを含んでいる。特に、図6に示すように、第1のステップ252で、舌下静脈(または隣接する他の静脈)の中の複数の目標部位の範囲まで血管系180(図3A)の中を通ってリード線150を前進させて、舌下静脈に沿った各仮想目標部位に所定の電気刺激を印加する(254で)。256に示すように、各仮想目標部位に電気刺激を印加するときに、(1)舌の突出の程度、(2)上気道の断面積の大きさ、(3)気道開通性の保持を示す最良EMG反応、および/または(4)舌または喉頭筋のけいれんにより刺激に対する反応を特定する。258に示すように、各仮想目標部位の反応データを用いて、方法250は、吸気中の気道開通性の保持における最大のインパクトに関連する1つ以上の治療部位を特定する(舌下静脈に沿った仮想目標部位の中から)。
【0047】
また、これらのステップ252〜258は、最適な静脈およびその静脈に沿った最適な刺激位置が特定されるまで、必要に応じて繰り返し反復できることが分かる。この点を考慮して、方法250を使用する際には、1つ以上の静脈(およびその静脈に沿った位置)が電気刺激を印加するのに最適な部位であると特定されるまでに、1つ以上の静脈経路が調査される可能性がある。言い換えれば、方法250は目標神経に隣接する単一静脈の中の目標部位を評価することに限定されず、1つ以上の目標神経に隣接するいくつかの異なる静脈を評価することにまで及ぶ。この関連で、方法250は、目標神経(例えば、頤舌、舌下神経、口蓋舌筋などを含む上気道の筋を支配する神経)に最も効果的な刺激を与えることができる静脈の群の中から静脈を特定するために、およびそれらの部位のうちの1つに沿って最良の位置を特定して最も効果的な刺激を与えるために使用される。上述したように、いくつかの実施形態では、2本以上の静脈を特定して使用し、2本の異なる静脈から目標神経に向かって刺激信号を加えるようになっている。
【0048】
一態様では、1本の静脈に沿った、または複数本の静脈に沿った複数の仮想刺激部位を評価する際に、各部位において、方法250は各信号パラメータ(例えば、極性、パルス幅、周波数、および振幅など)に対して異なる値を有する刺激信号を繰り返し加えて、値のどの組み合わせのとき刺激信号が仮想部位において目標神経に対して最良の影響をもたらすかを決定する。このようにして、刺激するのに最適な部位としてその仮想部位が選ばれた場合に、その条件で刺激信号が実際に加えられるであろうという条件の下で各仮想部位が評価される。一実施形態では、刺激パラメータのそれぞれを評価することによる最適刺激部位のこの決定は、図1〜図3Aに関連して上述したように、刺激モジュール104、刺激リード線150、および患者プログラミングモジュール108と連携して治療モジュール106を使用する。
【0049】
図7は、本明細書に開示される一実施形態に係る、リード線150の代わりに配置される刺激リード線システム350を示している。リード線システム350は、刺激電極部(図示しないが図3Aの電極部156と類似である)を支持するリード線本体352とは別のリード線本体382に沿って検出部分を提供することを除き、リード線150(図3)と実質的に同じ機能および属性を含んでいる。したがって、図7に示すように、リード線システム350はリード線本体352および382の対を含んでおり、リード線本体352は刺激電極の支持専用であり、リード線本体382はセンサ354の支持専用である。リード線本体382は、リード線本体382の長さに沿って互いに離間した第1の部分355Aおよび第2の部分355Bを含むセンサ354を支持している。一実施形態では、リード線本体382は、第1の部分355Aと第2の部分355Bの両方が鎖骨下静脈182の中に納まるように構成された長さを有している。しかしながら、他の実施形態では、リード線本体は、第1の部分355Aと第2の部分355Bの一方または両方が鎖骨下静脈182を越えて血管系180の1つ以上の部分189の中に納まるように構成された長さを有している。いずれの場合でも、センサ354は、無呼吸/呼吸低下を示すパターンを検出するために、および治療刺激を誘発するのに使用してもよい吸気、呼気、および/または呼吸休止のパターンを検出するために、呼吸努力を監視するように構成されている。
【0050】
いくつかの実施形態では、リード線システム350のセンサリード線382は経静脈法的には配置されず、IPG55を収納するポケットに隣接して、またはIPG55を取り囲む胸部内の組織の中に穴を堀って、皮下に移植される。他の実施形態では、センサリード線382は心臓治療(例えば、徐脈、頻脈、または心不全などの治療)にも使用される心臓リード線(心外膜の、または心内膜の)をさらに含んでいる。
【0051】
本明細書の開示の方法およびシステムでは異なったさまざまな形状および種類のリード線を使用できるが、図8〜図14はリード線のいくつかの異なる例示的実施形態を示している。これらの実施形態のうちの少なくともいくつかでは、固定機構が刺激リード線に対する解放可能な固定を提供して、刺激リード線の経静脈配置を半永久的な期間にわたって保持できたり、または必要に応じてその逆にする(すなわち、取り外す)ことができたりするようになっている。
【0052】
図8は、近位部404と、刺激電極配列409を支持する遠位部406と、を有するリード線本体402を含むリード線400を模式的に示す側面平面図である。電極配列409はリード線本体402の遠位部406の長さに沿って離間した1つ以上の表面電極410を含んでいる。いくつかの実施形態では、リード線400はリード線本体402の近位部404に固定装置408を含み、この固定装置408は、その中を通ってリード線本体402が延びている静脈の長さに対して、リード線本体402の位置を保持するように構成されている。一態様では、この固定装置408は目標神経の所望刺激部位に隣接する静脈の中の所望部位に刺激電極配列409の位置を保持することを促進する。
【0053】
いったん移植されると、閉塞性睡眠時無呼吸を自動的に治療する経静脈刺激システムは安定した状態を保ちながら患者の通常の活動に耐えなければならない。例えば、患者の首は多くの異なる姿勢のさまざまな動作を通して動く。刺激リード線が静脈の中で(所望刺激部位に対して)前後に動く可能性を打ち消すために、本明細書に開示された実施形態は静脈の中の目標神経に対する所望刺激部位に刺激リード線の遠位部をしっかりと固定する固定機構を提供する。これらの固定機構は、もし遠位部固定機構が存在していなければ、故意にではない刺激リード線の位置変化(目標神経に対する)を引き起こす可能性がある首の動的運動および位置変化があっても、刺激リード線の適切な配置が保持されることを保証する。遠位部固定機構のいくつかの実施形態について図9および図11〜図14に関連して説明し図示する。
【0054】
図9は、本明細書の開示の一実施形態に係る、遠位部固定機構を含むリード線430を模式的に示す側面平面図である。この実施形態では、リード線430は、図9に示すように、近位部434と、刺激電極配列439を支持する遠位部436と、を有するリード線本体432を含んでいる。電極配列439はリード線本体432の遠位部436の長さに沿って離間した1つ以上の表面電極440を含んでいる。他の態様では、リード線本体432の遠位部436はコイル構造450として配置された遠位部固定機構を含み、この遠位部固定機構は、その中を通ってリード線本体402が延びている静脈の長さに対して、リード線本体402の位置を保持するように構成されている。このコイル構造は、静脈の中の、電極440が電気刺激を印加するであろう位置に、リード線本体432の遠位部436を固定する役割を果たす。一態様では、静脈系内にリード線430を挿入する前に、遠位部436はコイル構造450になっている。しかしながら、リード線432を静脈系内に挿入するために、リード線本体432の少なくとも遠位部436の中を通ってガイドワイヤを前進させることにより、遠位部436はコイル構造450から、ほぼまっすぐな構造(すなわち、伸びたコイル)に変換される。静脈系の中の所望位置までガイドワイヤおよびリード線430を導いた後に、ガイドワイヤをリード線本体432から近位方向に移動させて、それにより遠位部436がコイル構造450に戻ることを可能にする。一実施形態では、コイル構造のこの「記憶効果」が、ニチノールまたは熱成形ポリウレタンのような材料を遠位部436に組み込むことにより実現される。他の実施形態では、当業者に周知の、記憶挙動を有する他の材料を使用して遠位部436を形成し、それによりコイル構造450の作用を可能にする。
【0055】
他の態様では、方法250に関連して上述したように、さまざまな刺激パラメータ(例えば、電極極性、振幅、周波数、パルス幅、および継続時間など)のそれぞれは、(静脈系の中を通って)目標神経に隣接して刺激リード線430を操作しながら各仮想刺激部位で試験される。静脈系に沿った(目標神経領域内の)各位置で反応を評価して、その仮想位置で最良の反応をもたらす刺激パラメータの特定の値または組み合わせを注意深く観察することにより、刺激電極配列439に対する最適の刺激部位を決定できる。本明細書で上述したように、(刺激パラメータに対する対応する値の有効群に基づいて)刺激部位を決定するこの方法は、本明細書の開示の中の異なる刺激電極構成のうちの誰にでも適用できる。
【0056】
刺激リード線の他の実施形態では、図1〜図4Bに関連して上述したように、刺激リード線の2本の個々の枝、または2本の独立した刺激リード線は、舌下神経の左右両側付近に経静脈法的に配置できる。IPGおよびプログラマは刺激リード線の各枝への刺激送出を、独立に、または従属的に制御できる。
【0057】
図10は本明細書に開示される他の実施形態を示す斜視図である。この実施形態では、リード線500がリード線500の遠位部にリング電極502、504、506の配列を含み、このリング電極の配列は目標神経に電気刺激を印加するように構成されている。一態様では、リング電極502〜506のこの配列は静脈(例えば、舌下静脈など)の中のリード線500から離間した目標神経(例えば、舌下神経など)に電界を導くように構成されている。また、リング電極502〜506は図8〜図9および図11〜図14に関連して説明する他の実施形態のうちの1つ以上において必要に応じて使用できることが分かる。
【0058】
図11は、本明細書に開示される一実施形態に係る、遠位部固定機構を含むリード線520を模式的に示す斜視図である。この実施形態では、リード線520はリード線520の遠位部にステント部522を含み、ステント部522はステントの構造(例えば、支柱など)に組み込まれた(または付加された)1つ以上の刺激電極524、526、528を含んでいる。一態様では、ステント構造522で支持された電極524〜528のこの配列は静脈(例えば、舌下静脈など)の中のリード線500から離間した目標神経(例えば、舌下神経など)に電界を導くように構成されている。さらに、ステント構造522は、目標神経の所望刺激部位に対応する静脈(この静脈の中を通ってリード線520が延びている)の長さに沿った所望配置位置に電極524〜528の位置を固定する機構を提供する。
【0059】
一実施形態では、静脈系および目標神経に隣接する静脈内への挿入の間、ステント構造522は折り畳み状態(図11においてほぼAで表される直径を有する)で配置されている。いったんステント構造522と、関連する刺激電極とが仮想刺激部位に位置付けられると、医師はステント構造522の折り畳み状態から拡張状態(図11においてほぼBで表される直径を有する)への変換を開始して静脈の側壁と接触させて、それにより電極を所定の位置にしっかりと固定する。言い換えれば、ステント構造522は静脈の中の所望の刺激部位にリード線の遠位部を固定する遠位部固定機構として働く。一態様では、異なる仮想刺激部位を評価するプロセスの間、仮想刺激部位における刺激信号の有効性を試験するためにステント構造が一時的に拡張され、その後、電極とステント構造とを、異なる仮想刺激部位に配置するために静脈に沿ってリード線520の位置を変えられるようにステント構造が再び折り畳まれる。このプロセスは最適刺激部位が決定されるまで必要に応じて何度でも繰り返され、その後、リード線520の遠位部を最適刺激部位に固定して保持するためにステント構造522が再び拡張される。選択的な拡張、折り畳み、およびステント構造を拡張状態にすることによる最終的な固定は、ガイドワイヤの回転、押し込み、および/または引き抜きによるステント構造522の操作のような技術的に公知の方法で実行されることが分かる。
【0060】
他の実施形態では、図9のコイル構造350または図11のステント構造を使用する代わりに、他の機構により静脈の中の刺激リード線の遠位部の固定を実現する。
【0061】
図12A〜図12Bは、本発明の一実施形態に係る、遠位部固定機構を含む経静脈刺激リード線530を模式的に示している。図12Aに示すように、刺激リード線530の遠位部531が、展開可能なつめ状突起534の配列532により提供される遠位部固定機構を含んでいる。図12Aでは、つめ状突起534は展開構成で示されており、この展開構成では、つめ状突起534がリード線530の遠位部531の本体から放射状に延びている。この位置では、つめ状突起534が静脈の側壁に解放可能に係合して、それにより遠位部531を静脈の中にしっかりと固定するように構成されている。つめ状突起が静脈の側壁の完全性に悪影響を与えないように構成されていることが分かる。
【0062】
一態様では、静脈系の中を通ってリード線の遠位部を前進させるとき、図12Bに模式的に示すように、これらのつめ状突起534をリード線の外壁に対して全体として格納位置に位置付けるためにガイドワイヤを使用する。好適な刺激部位が決定された後に、つめ状突起534を展開して(すなわち、図12Aに示すようにリード線の外壁から離れて放射状外方に選択的に広げて)、静脈の側壁に係合させて、それによりその静脈に沿った所望刺激部位に(および目標神経に沿った所望位置に隣接して)リード線の遠位部531をしっかりと固定する。いくつかの実施形態では、展開可能なつめ状突起534はポリウレタン材料および/またはニチノールバネで作られている。
【0063】
静脈の中の、目標神経の所望刺激部位に対応する位置に、電極刺激部がほぼ固定されていることを保証するために、リード線530の遠位部531上の、リード線530の電極刺激部(本願全体を通じて示された電極構成のうちの1つのような)に十分近い位置につめ状突起534の配列532が設置されていることが分かる。
【0064】
図13は、本明細書の開示の他の実施形態に係る、目標神経に電気刺激を印加するように構成された経静脈刺激リード線540を示す斜視図である。この実施形態では、リード線540は電極部548のプログラム可能配列542、544、546の連続541を含み、各配列542、544、546はリード線540の遠位部の長さに沿って互いに離間している。一態様では、各配列のそれぞれの電極部548は、大まかな環状構造を形成するように、リード線540の外表面のまわりの円周方向に、離間した関係で広がっている。一態様では、電極部548のプログラム可能配列542〜546は、静脈(例えば、舌下静脈など)の中の位置から、リード線540から離間した目標神経(例えば、舌下神経など)に電界を導くように構成されている。また、電極の配列542〜546は図8〜図9および図11〜図12Bに関連して説明する他の実施形態のうちの1つ以上において必要に応じて使用できることが分かる。
【0065】
一実施形態では、電極の各配列542、544、546は、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の独立した電極部548を含んでいる。一態様では、電極部548は目標刺激部位を刺激するように別々にプログラムされる。言い換えれば、常に、それぞれの個々の配列542〜546のうちのゼロ個、1個、2個、またはそれ以上の電極部548から刺激信号が加えられる。この実施形態では、リード線540の遠位部の長さに沿って、およびリード線540のまわりの円周方向または半径方向に、電極部の位置をさまざまに変化させることにより、電極部548の選択的な群の(それらの離間したさまざまな位置での)精密な作動を可能にして、リード線540の遠位部に対して事実上任意の点に刺激信号を作り出す。したがって、この配置により、刺激を目標刺激部位に導くのにリード線540をほとんど、またはまったく回転させずに、目標神経(または目標神経の選択部分/束)を刺激できる。
【0066】
図14は、本明細書の開示の他の実施形態に係る、目標神経に電気刺激を印加するように構成された経静脈刺激リード線560を示す斜視図である。この実施形態では、リード線560はリード線560の遠位部564に取り付けられたリング電極562のプログラム可能配列を含んでいる。一態様では、リング電極562のこのプログラム可能配列は、静脈(例えば、舌下静脈など)の中の各リング電極562の位置から、リード線560から離間した目標神経(例えば、舌下神経など)に電界を導くように構成されている。また、リング電極562は図8〜図9および図11〜図12Bに関連して説明する他の実施形態のうちの1つ以上において必要に応じて使用できることが分かる。一実施形態では、各リング562は目標刺激部位を刺激するために別々にプログラムされてもよい。この実施形態では、リード線560の遠位部の長さに沿ってリング電極562の位置をさまざまに変化させることにより、精密な作動1つ、2つ、またはそれ以上のリング電極562を(それらの離間したさまざまな位置で)可能にして、リード線560の遠位部の長さに沿って事実上任意の点に刺激信号を作り出す。したがって、この配置により、刺激を目標刺激部位に導くのにリード線560をほとんど、またはまったく回転させずに目標神経を刺激できる。さらに、いったんリード線560がほぼ関心領域内に位置付けられると、神経の所望刺激部位に隣接して電極を位置付けるためにリード線560を静脈の中で遠位方向に、または近位方向に大幅に操作する必要はなく、その理由は、リード線の遠位部の長さに沿ったリング電極562のいずれか1つまたはリング電極562の組み合わせが、目標神経に刺激信号を印加するための作動に使用できるためである。一実施形態では、電極562の配列は、それが頸静脈付近の位置から頤舌筋の方へ延びるときに、舌下神経の長さの大部分と実質的に一致する長さを有している。一態様では、配列のこの長さにより、血管系の中で配列の位置を変える必要なしに配列のうちのどの電極562が最も効果的な呼吸気道開通性をもたらすかを決定できる。他の態様では、効果的な呼吸気道開通性は、どのリング電極562またはリング電極562の組み合わせで、気道開通性の増加の継続時間が最も長くなるか、気道開通性の増加面積が最も大きくなるか、および/または無呼吸の大幅な低減をもたらすかを特定するときに決定される。
【0067】
この実施形態では、リード線は刺激を目標刺激部位に導くのにリード線の回転を必要としない。さらにまた、制御装置を取り付けた複数のリングにより、実際に作動するまたは作動しない電極リングの複数の組み合わせを用いて最適刺激設定を評価してもよいため、静脈の中のリード線の最小の位置調整が必要である。
【0068】
IPG55を胸部内に移植し、経静脈法的にセンサ電極および刺激電極(IPG55から延びている)を挿入して、それぞれ呼吸パターンを検出するとともに、刺激信号を印加する、いくつかの異なる実施形態について、図1〜図7に関連して説明してきた。さらに、刺激電極配列のいくつかの実施形態(および関連する遠位部固定機構)について、図8〜図14に関連して説明してきた。さらに、いくつかの実施形態では、リード線が経静脈法的に身体のそれぞれの側(左右)に配置され、両側の(同時の、または交互の)刺激が、左および/または右の舌下神経(または他の目標神経)上に加えられるようになっていることが分かる。これらのさまざまな実施形態を考慮すると、それらの実施形態の中では、少なくとも2つの電極が身体内の上気道の近くで離間しており、離間した2つの電極間のインピーダンスを測定でき、気道開通性(例えば、上気道の開通および/または閉塞など)の目安を提供するようになっている、いくつかの構成が提供されていることがさらに分かる。例えば、このインピーダンスを測定するために、刺激電極のうちの1つは経静脈法的に身体の第1の側部に配置され、刺激電極のうちの他の1つは経静脈法的に身体の第2の側部に配置されている。いくつかの実施形態では、この生体インピーダンスは経胸腔生体インピーダンス、経喉頭生体インピーダンス、または経咽頭生体インピーダンスとして測定される。
【0069】
いくつかの構成では、離間した電極は両方とも刺激電極であるが、他の構成では、離間した電極は1つの刺激電極と1つの呼吸センサ電極とを含んでいる。さらに他の構成では、離間した2つの電極(気道開通性を示すインピーダンスを測定するのに使用される)は、刺激電極および呼吸センサ電極のうちの少なくとも1つを含む電極のうちの1つと、IPG55のケース56またはハウジングの導電性部分で形成された電極を含む電極のうちの他の1つと、を含んでいる。
【0070】
さらに、いくつかの実施形態では、各電極が呼吸検出機能または刺激機能を提供するほかに、1対のインピーダンス検出電極の一部としても働くという点で、各電極部は二重機能を提供する。その一方で、他の実施形態では、1対のインピーダンス検出電極のうちの少なくとも1つの電極は、呼吸(例えば、吸気)を検出したり、または刺激したりする役割を果たすのではなく、むしろ気道開通性の程度を検出したり、または示したりするインピーダンスの検出専用である。
【0071】
したがって、気道開通性を示すインピーダンスを検出するために1対の電極を使用することにより、本明細書の開示の原理にしたがって動作するシステムは、気道のつぶれが起こったかどうかを示すことにより無呼吸イベントを検出できる。一実施形態では、このインピーダンスに基づく気道開通性の目安は、本明細書に開示された実施形態に基づいて、無呼吸イベントを検出するとともに、目標神経の刺激を潜在的に誘発して気道開通性を回復させるために、他の生理学的検出情報(少なくとも図2A〜図2Bに関連して説明した検出情報など)といっしょに使用される。
【0072】
図15Aは、本明細書に開示される実施形態に係る、閉塞性睡眠時無呼吸を治療する神経刺激システム600を模式的に示す側面平面図である。この実施形態では、図15Aに示すように、システム600は支持部604(例えば、ベッドなど)およびヘッドレスト構造606(例えば、枕など)に横になっている患者602に治療を施し、このヘッドレスト構造606は電源/コントローラ622および1つ以上の高周波送信コイル620を内蔵している。しかしながら、この実施形態はベッド604および/または枕に厳密に限定されているわけではなく、患者602が長期間同じ姿勢を保つことができる他の家具構成でも利用できることが分かる。図15Aにさらに示すように、システム600は舌下神経190(または他の目標神経)を刺激するために図15Bに示すように経静脈法的に舌下静脈188(または隣接する他の静脈)内に挿入される超小型刺激器具635を含んでいる。いくつかの実施形態では、超小型刺激器具635の経静脈挿入は、図9、図11、図12A〜図12Bと関連して上述したのと実質的に類似の方法で達成されるとともに、図16〜図17Cと関連してさらに説明する予定の経静脈挿入方法によっても達成される。
【0073】
一実施形態では、超小型刺激器具635は、神経刺激信号を生成する回路と、図15Bに示すように神経190に信号を伝達するために超小型刺激器具635の表面上に配置された少なくとも1つの電極637と、を含む、全体的に細長い部材を含んでいる。いくつかの実施形態では、超小型刺激器具635はリッチモンド他の米国特許第6,240,316号に記載されているような超小型の電子装置を含み、当該米国特許は参照することにより全体がそのまま本明細書に組み入れられる。しかしながら、本明細書の開示に照らして、このような超小型刺激器具は目標筋内に直接移植される代わりに、経静脈法的に挿入されることが分かる。
【0074】
一般論として、システム600は、2つの別々の超小型刺激器具の使用により両側刺激を利用する可能性(身体の左側および右側から、同時刺激または交互刺激を加えるために)を含み、図1〜図14に関連して上述したのと少なくとも実質的に同じ検出方法および刺激パラメータに基づいて閉塞性睡眠時無呼吸を治療するための治療計画を使用する。
【0075】
再び図15Aを参照すると、システム600は、無呼吸の検出に適した、および例えば吸気などの呼吸と同期した刺激信号の印加の誘発に適した、呼吸検出を提供するように構成された少なくとも1つの検出構成要素を含んでいる。いくつかの実施形態では、呼吸検出は外部に固定できて呼吸圧力センサ631を含むベルト630で提供される。センサ631で検出された信号は無呼吸検出および治療で用いるために無線で電源/コントローラ622に送信される。他の実施形態では、呼吸検出はインピーダンスセンサ640により提供され、このインピーダンスセンサ640はパッチにより、または皮下移植を行ってさえ胸の外面に固定される。センサ640は無線で電源/コントローラ622と通信する。いくつかの実施形態では、ベルト630または他のセンサ640は身体の動き/位置を検出する加速度計または圧電変換器を含み、このような情報はまた、無呼吸をいつ監視すべきか、および/または無呼吸をいつ治療すべきかを決定するために、コントローラ622および/または超小型刺激器具635により使用される。
【0076】
使用時には、患者は支持部604に横になったままで、呼吸センサ631または640が、電源/コントローラ622により監視された呼吸努力に関する情報を提供する。治療しきい値が検出されるとすぐに、電源/コントローラ622は高周波/送信コイル620を介して超小型刺激器具635に伝達される電力を生成する。また、いくつかの実施形態では、超小型刺激器具635は閉塞性睡眠時無呼吸の治療計画に基づいて刺激信号を印加するためのプログラムされた命令を保存しているが、他の実施形態では、超小型刺激器具635はこのようなプログラムされた命令をコイル620を介してコントローラ622から受信することが分かる。どちらの場合でも、命令は臨床医によっても、または患者によっても(医師が許可したある特定の制約の範囲内で)プログラム可能である。この点を考慮すると、気道開通性を回復させて、それにより閉塞性睡眠時無呼吸を軽減するために、超小型刺激器具635は治療計画に基づいて神経190(図15B)を選択的に刺激する。
【0077】
いくつかの実施形態では、図15Cに示すように、無呼吸が発生する可能性がある期間中(例えば、睡眠中、休憩中など)に患者602が着用するように構成された衣服675に配置されたセンサを介して呼吸検出情報を取得する。一実施形態では、衣服675はベルト630と類似の呼吸検出ベルト682を提供するが、他の実施形態では、衣服675は衣服675の胸部680に1つ以上のインピーダンスセンサまたは他の呼吸努力センサ684(および/または身体の動き/位置検出器)を含んでいる。
【0078】
図16は、本明細書に開示される実施形態に係る、経静脈法的に挿入される超小型刺激器具の固定システムを模式的に示す側面平面図である。したがって、いくつかの実施形態では、図16に示すように、経静脈挿入機構700は近位部714および遠位部712を含む操舵可能カテーテル/スタイレット710を含んでいる。超小型刺激器具635は操舵可能カテーテル/スタイレット710の遠位部712に解放機構730を介して解放可能に固定されている。当業者に公知の方法を用いて、目標神経の所望刺激部位の近くまで経静脈法的に超小型刺激器具635を前進させて操作するためにカテーテル710を使用する。この位置で、目標神経に隣接する静脈の中に超小型刺激器具635を固定するために解放機構730を作動させて、その後、静脈の中に超小型刺激器具635を残して静脈から残部カテーテル710を引き抜く。静脈の中に超小型刺激器具635を固定するためにさまざまな機構を使用できるが、この実施形態では、超小型刺激器具635を静脈に対して固定して、それにより超小型刺激器具635を目標神経に対して固定するために、選択的に展開可能なつめ状突起720(または他の選択的に展開可能な固定装置)の配列が超小型刺激器具635から放射状外方に延びている。
【0079】
図17Aは、本明細書に開示される実施形態に係る、経静脈法的に挿入される、閉塞性睡眠時無呼吸を治療するように構成された超小型刺激器具のステントベースの固定システムを模式的に示す側面平面図である。この実施形態では、超小型刺激器具635はステント770に連結されている。操舵可能カテーテル/スタイレット760は、ステント770(折り畳み状態の)および超小型刺激器具635の組み合わせを、静脈の中の目標神経に隣接する位置まで、(当業者に公知の方法を用いて)経静脈法的に挿入するようになされている。操舵可能カテーテル760をさらに操作することにより、静脈の側壁に対して固定される予定のステント770を解放して拡張させて、その後、カテーテル/スタイレット760を引き抜く。この配置により、超小型刺激器具635は静脈の長さに対してほぼ固定されるようになり、したがって、目標神経の部分に対してほぼ固定されるようになる。
【0080】
いくつかの実施形態では、超小型刺激器具635は図17Bに示すようにステント770の内側771の中に延びるように連結されている。一実施形態では、超小型刺激器具635は1つ以上の半剛体の、または弾力的なテザー772を介してステント770に対して連結されている。
【0081】
さらに他の実施形態では、超小型刺激器具635は図17Cに示すように支持部782(1つ以上の支柱774から延びる)を介してステント770の端部773から遠位方向前方に(またはステント770の端部773に対して近位方向に)延びるように構成されている。したがって、この配置では、超小型刺激器具635はステント770の内側771(図17B)の中には位置しておらず、それによりステント770の胴体部が超小型刺激器具635からの刺激信号を妨害する可能性を低減する可能性がある。
【0082】
経静脈法的に挿入される(本明細書に記載の)超小型刺激器具の実施形態では、経静脈法により外科医が(操舵可能カテーテル技法を用いて)超小型刺激器具の位置を静脈の長さに沿って変化させることができ、それにより超小型刺激器具の位置を目標神経の長さに沿って変化させることができるため、最適な神経刺激部位に隣接して超小型刺激器具を精密に位置決めできる。この方法により、目標神経に対して超小型刺激器具の位置を固定する前に、外科医が1つ以上の具体的な筋の収縮を引き起こす(気道開通性を回復させるのに適した)最適刺激部位を正確に特定できる。さらに、操舵可能カテーテル/スタイレットまたは他の経静脈挿入機器では、刺激が目標神経または目標神経の一部に及ぼす効果をさらに調節するために静脈の中で超小型刺激器具を回転させることができる。
【0083】
本明細書に開示された実施形態は閉塞性睡眠時無呼吸と診断された患者に治療上の解決方法を提供するために移植可能システムを提供する。本システムは吸気時に舌下神経を刺激して、それにより睡眠中の上気道の閉塞を防ぐように設計されている。
【0084】
少なくとも1つの例示的実施形態が、上記の詳細な説明において提示されているが、変形が存在することを理解すべきである。例示的実施形態は、あくまで実施例に過ぎず、本明細書の開示の範囲、適用性、または構成をいかなる方法によっても限定するものではないことを理解すべきである。むしろ、上記の詳細な説明は例示的実施形態を実現するために便利なロード・マップを当業者に提供するであろう。添付クレームおよびそれらの法的な均等物に記載の本明細書の開示の範囲を逸脱することなく、要素の機能および配置においてさまざまな変更を行うことができることを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植可能パルス発生器と、
前記パルス発生器に接続され、血管系の中を通して摺動可能に前進させるように構成された移植可能リード線と、を備え、
前記リード線は、刺激部を含んでおり、前記リード線は舌下神経に最も近い位置に前記刺激部を配置するように構成された長さを有する、閉塞性睡眠時無呼吸の治療システム。
【請求項2】
前記移植可能パルス発生器に接続され、第1の外部呼吸センサまたは第2の内部呼吸センサのうちの少なくとも1つを形成する呼吸センサを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記呼吸センサが第1の検出要素と、前記リード線の長さに沿って前記第1の検出要素から離間した第2の検出要素と、を含み、前記それぞれの第1および第2の検出要素は経胸腔生体インピーダンスを検出するように構成されている、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記リード線が、
ベース部と、
前記ベース部から延設され、第1の刺激電極構造を含む第1の部分と、
前記ベース部から延設され、前記第1の部分から分離して、第2の刺激電極構造を含む第2の部分と、を含み、
前記それぞれの第1および第2の部分は身体の両側に配置できるように構成された長さを有する、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記刺激部が、
前記刺激部の長さに沿って互いに離間した、独立してプログラム可能な複数の電極要素の配列を含み、
前記配列は前記各電極要素の異なる組み合わせを経由して刺激信号を印加するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記電極要素のうちの少なくともいくつかが、前記刺激部の外表面上で円周方向に互いに離間している、請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
前記刺激部が、
前記血管系の中を通って前進させるためのほぼまっすぐな状態と、前記舌下神経の位置で、前記血管系の中の前記刺激部を解放可能に固定するための拡張したコイル状態と、の間で変動可能なコイル構造の少なくとも一部を含む第1の固定装置、または
前記血管系の中を通って前進中においてほぼ折り畳んだ虚脱状態と、前記舌下神経を刺激するための位置で半径方向に拡張した状態と、の間で変動可能なステント構造を含む第2の固定装置、のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記刺激部が、前記リード線の外表面のまわりに放射状に配置されたつめ状突起の配列を含む第3の固定装置を含み、ほぼ折り畳んだ虚脱状態では、前記つめ状突起が前記リード線の前記外表面に対してほぼ平坦に置かれており、拡張した状態では、前記つめ状突起が前記リード線の前記外表面から離れてほぼ外方に突き出ている、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
舌下神経に最も近い位置に経静脈法的に挿入されるように構成された超小型刺激器具と、患者支持器と、を備える閉塞性睡眠時無呼吸の治療システムであって、
前記超小型刺激器具が、
前記舌下神経に最も近い位置に血管系の中に前記超小型刺激器具を固定するように構成された固定装置機構と、
神経刺激信号を生成するように構成された回路と、を含み、
前記患者支持器が、
電力供給装置と、コントローラと、前記超小型刺激器具に最も近い位置に前記患者支持器を位置決めするときに無線で前記超小型刺激器具に電力を送るように構成された電力伝送機構と、を内蔵する患者支持器と、を含む、閉塞性睡眠時無呼吸の治療システム。
【請求項10】
前記固定装置機構が、
ベース部と、前記ベース部から延設した複数のつめ状突起とを含むつめ状突起構造を備えており、
前記超小型刺激器具が前記ベース部に固定されており、
前記つめ状突起構造は、
前記各つめ状突起が前記超小型刺激器具の長手方向軸に対してほぼ平行に延びている非作動状態と、
前記つめ状突起が前記血管系の側壁に係合するように前記超小型刺激器具からほぼ外方に突き出ている作動状態と、の間で変動可能である、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記固定装置機構が、ステントを備えており、
前記ステントは、前記超小型刺激器具が前記舌下神経に最も近い位置に配置された前記血管系の直径よりも小さい寸法の圧縮された第1の直径を有する非作動状態と、
前記刺激部が前記舌下神経に最も近い位置に位置決めされた前記血管系の前記直径よりも大きい寸法の拡張された第2の直径を有する作動状態と、の間で変動可能である、請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
前記ステントが、ほぼ管状の構造を示す支柱の配列を備え、前記超小型刺激器具が、前記ほぼ管状の構造の外表面に固定されている、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記ステントが、ほぼ管状の構造を示すとともに、前記超小型刺激器具を1つ以上の各支柱に固定して前記超小型刺激器具を前記ほぼ管状の構造の内側の位置につるすように配置されたテザーを含む支柱の配列を備えた、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記患者支持器が、前記電力供給装置と、前記コントローラと、前記電力伝送機構と、を内蔵し、前記患者支持器は少なくとも前記電力伝送機構を内蔵するヘッドレスト構造を含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項15】
外部呼吸センサを備えた、請求項9に記載のシステム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【図14】
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【図15A−15B】
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【図15C】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【公表番号】特表2012−504467(P2012−504467A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530192(P2011−530192)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2009/059060
【国際公開番号】WO2010/039853
【国際公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(510302135)インスパイア・メディカル・システムズ・インコーポレイテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】INSPIRE MEDICAL SYSTEMS, INC.
【Fターム(参考)】