説明

瞬時電圧低下保護装置

【課題】商用交流電源の電圧変動が大きな国・地域で使用される場合でも、電解コンデンサの充放電の繰り返しの頻度を下げ、その長寿命化と小容量化を図る。
【解決手段】入力交流電圧が定格入力電圧の90%未満70%以上の範囲であるときには、切替部13のスイッチをオンしたまま補助インバータ30で直流−交流変換動作を行わせ、入力交流電力に基づく補償電力を生成して注入トランス32を介して入力交流電力に加算する。それにより、電解コンデンサ17の蓄積電力を用いずに、負荷2が定格入力電圧の90%の交流電圧で時間制限なく運転できる。入力交流電圧が定格入力電圧の70%未満にまで下がったならば、切替部13のスイッチをオフして主インバータ18で直流−交流変換動作を行わせ、電解コンデンサ17に蓄積された直流電力を変換して得られる代替交流電力で負荷2を運転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商用交流電源から負荷に供給される交流電力の電圧が一時的に低下した場合、或いは一時的に停電が発生した場合に、代わりに負荷に交流電力を供給する瞬時電圧低下保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、商用交流電源から負荷に供給される交流電力の電圧が短時間低下した場合或いは短時間遮断された場合に、これに代えて交流電力を負荷に供給するための瞬時電圧低下保護装置が広く利用されている(例えば特許文献1〜3など参照)。
【0003】
図4は従来の瞬時電圧低下保護装置の概略構成図である。この装置の入力端11は商用交流電源1に接続され、出力端12は負荷2に接続される。この装置は、3種のスイッチ、即ち、電磁リレー14、双方向サイリスタ15、及びFETスイッチ16が並列に接続された切替部13と、電圧低下保護用の直流電力を蓄える電解コンデンサ17と、交流−直流、直流−交流の双方向の電力変換が可能なインバータ18と、該インバータ18による高周波の矩形波からなる擬似正弦波交流出力をフィルタリングするフィルタ19と、主として電解コンデンサ17の自然放電による電圧低下を補うための補充電部20と、入力交流電圧(例えば100V)を検知する入力電圧検知部21と、補充電部20を駆動する補充電駆動部22と、インバータ18を駆動するインバータ駆動部23と、切替部13における各スイッチのオン・オフを切り替える切替駆動部24と、入力電圧検知部21により得られた電圧値に基づいて、所定のアルゴリズムに従って補充電駆動部22、インバータ駆動部23、切替駆動部24をそれぞれ制御する制御部25と、を備える。図示しないが、インバータ18は電力用FETなどの半導体スイッチング素子がブリッジ状に接続された回路を備える。また、補充電部20は、1次側巻線に入力交流電力が供給される変圧トランス、該トランスの2次側巻線に接続された整流回路などを含む。
【0004】
この瞬時電圧低下保護装置の基本的な動作は次の通りである。
制御部25は入力電圧検知部21で得られる電圧値を常時監視し、この電圧値が正常な範囲に収まっている場合には、切替部13中の少なくとも1つのスイッチをオンさせて商用交流電源1から供給される交流電力をそのまま出力端12から出力し、負荷2へと供給する。また、制御部25は、インバータ駆動部23を介しインバータ18で交流−直流変換(図4中で右方から入力される交流電力を直流電力に変換して左方へ出力する)動作を行わせることにより、或いは、補充電駆動部22を介し補充電部20を動作させることにより、電解コンデンサ17をほぼフルに充電する。
なお、切替部13における各スイッチの使い分けについては本願の趣旨ではないので説明を省略する(詳しくは特許文献2参照)。また、電解コンデンサ17を充電する際のインバータ18と補充電部20との使い分けについても本願の趣旨ではないので説明を省略する(詳しくは特許文献1参照)。
【0005】
商用交流電源1からの交流電圧が低下したり短時間停電が起こったりして入力電圧検知部21で得られる電圧値が正常な範囲を外れると、制御部25は電圧値が異常に低下したと判断し、切替駆動部24を介して切替部13の全スイッチをオフさせて出力端12を入力端11から切り離すとともに、インバータ駆動部23を介してインバータ18に直流−交流変換(図4中で左方から入力される直流電力を交流電力に変換して右方へ出力する)動作を実行させる。これにより、電解コンデンサ17に蓄えられていた直流電力が交流電力に変換され、商用交流電源1からの入力交流電力に代えて、出力端12から負荷2に代替交流電力が供給される。このときに出力端12から出力される交流電圧の電圧値は、インバータ18中の各スイッチング素子を駆動するために制御部25からインバータ駆動部23に供給されるPWM制御信号のパルス幅により調整される。
【0006】
負荷2として一般的な機器や装置を想定すると、多くの場合、定格入力電圧の許容変動下限は−10%程度である。そこで、従来の瞬時電圧低下保護装置において典型的には、商用交流電源1からの入力交流電圧が定格入力電圧(例えば100V)よりも10%以上低下したときに電圧保護動作(つまり代替交流電力の供給)を開始し、1秒程度の期間、その電圧保護を継続できるように装置仕様が定められている。通常発生する電圧瞬時低下では1秒以内に電圧は回復するし、また1回電圧瞬時低下が起こったあとに電解コンデンサ17の蓄積直流電力が十分に回復する前に再び電圧瞬時低下が起こることは稀である。したがって、少なくとも日本国内での使用においては、多くの場合、上記のような装置仕様で問題は起こらない。
【0007】
しかしながら、従来の瞬時電圧低下保護装置では次のような問題がある。
即ち、上述したように日本国内においては商用交流電源の電圧の安定性はかなり高いものの、一部の国においては商用交流電源からの交流電圧の変動(揺らぎ)が日常的に頻繁に発生している。また同一国の中でも地方・地域によって商用交流電源からの交流電圧の安定性が悪い場合も多々ある。そうした国や地域において上記瞬時電圧低下保護装置を使用した場合、入力交流電圧が定格入力電圧の−10%を下回ることが比較的高い頻度で起き、その度に電解コンデンサに蓄積されていた直流電力を利用した電圧保護(代替交流電力の出力)が実行されることになる。そのため、電解コンデンサのフル充電−急速放電の繰り返しが高い頻度で起こり、電解コンデンサ自体の寿命が短くなる。こうした事態は装置の信頼性の低下につながるほか、電解コンデンサの頻繁な交換が必要となるため運転コストを増大させることになる。
【0008】
また当然のことながら、瞬時電圧低下ではない日常的な電圧変動によって電解コンデンサに蓄えていた直流電力を放出してしまった後、充電が完了する前に再び電圧変動に伴う電圧低下や実際の瞬時電圧低下が起こると、装置仕様で定めていた時間(例えば1秒間)に亘る電圧保護が行えなくなって負荷の運転が停止するおそれがある。そうした事態を避けるためには、予め搭載する電解コンデンサの容量を大きくしておいて電圧保護可能な時間を延ばす必要がある。しかしながら、そうした大容量の電解コンデンサの使用は装置の大幅なコスト上昇につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−54468号公報
【特許文献2】特開2008−54483号公報
【特許文献3】特開2009−112128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、商用交流電源からの交流電圧の変動が大きな場所(国、地域等)においても電解コンデンサ等の蓄電部の充放電の頻度を減らすことができ、それによって装置の信頼性を高めるとともに運転コスト及び装置自体のコストを抑えることができる瞬時電圧低下保護装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明は、商用交流電源から交流電力が供給される際に該電力に基づく直流電力を蓄えるための蓄電手段を有し、前記商用交流電源から負荷に供給される交流電圧が一時的に低下したときに、それに代えて前記蓄電手段に蓄えられている直流電力を利用して負荷に交流電力を供給する瞬時電圧低下保護装置において、
a)商用交流電源から供給される交流電力を利用して前記蓄電手段を充電する充電手段と、
b)前記蓄電手段に蓄えられた直流電力を利用して入力交流電力に代わる代替交流電力を生成する代替電力供給手段と、
c)入力交流電力を整流したあとに直流−交流変換してその入力交流電圧に同期した交流電圧を生起させて該入力交流電圧に加算する電圧補償手段と、
d)入力交流電圧を検知して該電圧が定格入力電圧より低い第1判定電圧よりも低いか否か、及び、該第1判定電圧より低い第2判定電圧よりも低いか否かを判定する入力電圧判定手段と、
e)前記入力電圧判定手段により入力交流電圧が第1判定電圧以上であると判定されたときには入力交流電圧を負荷に出力し、前記入力交流電圧が第1判定電圧よりも低く第2判定電圧以上であると判定されたときには前記電圧補償手段を作動させて該電圧補償手段により入力交流電圧に対して電圧が補償された交流電力を負荷に出力し、前記入力交流電圧が第2判定電圧よりも低いと判定されたときには前記代替電力供給手段を作動させて代替交流電力を負荷に出力するように、前記代替電力供給手段及び前記電圧補償手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0012】
なお、ここで定格入力電圧とは、本装置が正常に動作するように規定された入力交流電圧の標準値であり、通常は許容変動範囲の中心値である。一般的には国内では100V又は200V、国外では110V、220V、240Vなどである。
【0013】
具体的には、前記充電手段及び前記代替電力供給手段は、前記入力交流電力を直流電力に変換して前記蓄電手段を充電するとともに、該蓄電手段から放出された直流電力を交流電力に変換する双方向インバータを用いた構成とすることができる。
【0014】
この構成において、前記電圧補償手段は、前記入力交流電圧を整流する整流手段と、前記双方向インバータとは別の、前記整流手段による直流電力を交流電力に変換する補助インバータと、該補助インバータで得られる交流電圧を入力交流電圧に加算する注入トランスと、を含む構成とすることができる。
【0015】
また別の態様として、前記電圧補償手段は、前記双方向インバータを共用し、前記入力交流電圧を整流する整流手段と、前記双方向インバータで得られる交流電圧を入力交流電圧に加算する注入トランスと、前記双方向インバータにおける直流−交流変換のための入力を前記整流手段の出力と前記蓄電手段とで切り換えるとともに、該双方向インバータにおける直流−交流変換の出力を前記注入トランスと負荷への出力側とで切り替える切替手段と、を含む構成とすることができる。
【0016】
また例えば第1判定電圧は定格入力電圧に対して−10%程度低い電圧、第2判定電圧は定格入力電圧に対して−15〜−30%程度低い電圧に設定しておくとよい。即ち、定格入力電圧が100Vである場合には、第1判定電圧は約90V、第2判定電圧は約70〜85Vとしておくとよい。
【0017】
本発明に係る瞬時電圧低下保護装置では、商用交流電源から供給される入力交流電圧が第1判定電圧よりも下がった場合でも第2判定電圧以上であれば、代替電力供給手段は動作せず、蓄電手段に蓄えられている直流電力は使用されない。このときには、入力交流電力のみを利用して電圧不足分を補う電圧補償手段が動作し、それによって第1判定電圧よりも下がった交流電圧は嵩上げされる。好ましくは、前記電圧補償手段による補償交流電圧加算後の交流電圧が第1判定電圧と同レベルとなるように該補償交流電圧が設定される構成とするとよい。この構成では、入力交流電圧が第1判定電圧(例えば90V)と第2判定電圧(例えば70V)との範囲にある場合には、出力交流電圧は第1判定電圧(例えば90V)に維持される。
【0018】
このときには、電圧補償手段が作動する分だけ入力電流は増加するが、商用交流電源がこの入力増加分を賄う供給能力があれば、特に時間の制約なく不足分の電圧補償を継続することができる。電力供給側の異常等による瞬時電圧低下ではなく、もともと電圧変動(電圧の揺らぎ)が大きい場合には電力供給能力自体には殆ど問題がないから、そうした電圧変動に伴う電圧低下の影響なく、負荷に対して該負荷の運転が可能な程度の電圧を供給し続けることができる。
【0019】
一方、入力交流電圧が第2判定電圧よりも下がった場合には、実際の瞬時電圧低下の可能性が高く、また仮にそうでなくても、入力交流電力のみを使用した電圧補償手段による電圧補償では電圧を十分に上昇させることができない可能性がある。そこで、この場合には、代替電力供給手段を動作させ、入力交流電力に代えて、蓄電手段に蓄えられている直流電力を用いた代替交流電力を負荷に供給する。これは従来の瞬時電圧低下保護装置における代替交流電力の供給と同様である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る瞬時電圧低下保護装置によれば、商用交流電源から供給される交流電圧が定格入力電圧の例えば70〜90%程度にまで下がった場合に、蓄電手段の蓄積電力を利用した瞬時電圧低下保護ではなく、異常電圧変動補償機能を利用して負荷に運転可能な電力を供給することができる。それにより、商用交流電源の電圧変動が大きな場所で使用される場合であっても、代替交流電力を供給するための蓄電手段の放電及びその後のフル充電の発生頻度を下げることができる。それによって、例えば電解コンデンサ等の、充放電の繰り返しによって性能劣化が引き起こされるような蓄電手段の寿命を延ばすことができ、装置の信頼性を高めることができる。また、蓄電手段の劣化に伴う該手段の交換の頻度を下げ、運転コストを引き下げることができる。
【0021】
また本発明に係る瞬時電圧低下保護装置によれば、上述したように代替交流電力を供給するための蓄電手段の放電の頻度が下がるため、実際に瞬時電圧低下が起こった場合に蓄電手段が十分に充電されていないといった状況を減らすことができる。それ故に、過分な直流電力を常時保持するために蓄電手段の容量を増加する必要がなく、比較的小容量の蓄電手段を使用しながら必要十分な電圧保護を提供することができる。それによって、装置コストを引き下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例である瞬時電圧低下保護装置の概略ブロック構成図。
【図2】本実施例の瞬時電圧低下保護装置における電圧保護動作の説明図。
【図3】本発明の他の実施例である瞬時電圧低下保護装置の概略ブロック構成図。
【図4】従来の瞬時電圧低下保護装置の一実施例の概略ブロック構成図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る瞬時電圧低下保護装置の一実施例(以下「第1実施例」という)について説明する。図1は第1実施例による瞬時電圧低下保護装置の概略ブロック構成図である。既に説明した図4の従来装置と同じ構成要素については同じ符号を付し、対応関係を明確にしている。ただし、説明が煩雑になるために、本実施例の構成及び後述する別の実施例の構成では、図4において記載していた補充電部20及び補充電駆動部22を省略している。したがって、本発明に係る瞬時電圧低下保護装置においても、電解コンデンサ17を充電するためにインバータ18以外に補充電部20を付加的に設けても構わない。
【0024】
図1に示すように、本実施例の瞬時電圧低下保護装置では、入力端11と切替部13との間に注入トランス32の2次側巻線が介挿され、その注入トランス32の1次側巻線は主インバータ(ここでは後述の「補助インバータ」と区別するために「主インバータ」と呼ぶこととする)18とは別の補助インバータ30の出力に接続されている。補助インバータ30の入力には商用交流電源1からの入力交流電圧を直流平滑化する整流平滑部31が接続されている。整流平滑部31は例えばブリッジ構成されたダイオードなどを含み、補助インバータ30は主インバータ18と同様にブリッジ構成された半導体スイッチング素子などを含む。補助インバータ駆動部33により補助インバータ30が駆動されると、補助インバータ30は整流平滑部31より出力される直流電圧を入力交流電圧に同期した、つまり周波数が同一で位相が合った交流電圧に変換し、これを注入トランス32を介して入力交流電圧に加算する。したがって、この場合、入力端11からの入力交流電圧の振幅は、注入トランス32の2次側巻線を通過した段階で該2次側巻線により加算された分だけ増加する。即ち、整流平滑部31、補助インバータ30、注入トランス32及び補助インバータ駆動部33は、いわゆるAVR(Automatic Voltage Regulator)機能を実現するために利用され、これらが本発明における電圧補償手段に相当する。
【0025】
入力電圧検知部21により検知される電圧値情報を受けて、主インバータ駆動部23、切替駆動部24、及び補助インバータ駆動部33をそれぞれ制御する制御部40は、入力電圧判定部41、インバータ制御部42、切替制御部43を機能ブロックとして含む。この制御部40は例えばCPU、ROM、RAMなどを含むマイクロコンピュータを中心に構成され、ROMに予め格納された制御プログラムを実行することにより上記各機能ブロックの機能が達成される。この実施例では、入力電圧検知部21及び入力電圧判定部41が本発明における入力電圧判定手段に相当し、インバータ制御部42及び切替制御部43が制御手段に相当する。
【0026】
図2は本実施例の瞬時電圧低下保護装置における電圧保護動作の説明図であり、(a)は商用交流電源1から入力端11に入力される入力交流電圧、(b)は本実施例の瞬時電圧低下保護装置において(a)に示した入力交流電圧に対してそれぞれ出力端12から出力される交流電圧、(c)は例えば図4に示した従来の瞬時電圧低下保護装置において(a)に示した入力交流電圧に対してそれぞれ出力端12から出力される交流電圧、を模式的に示したものである。
【0027】
図2を参照しつつ、図1に示した本実施例の瞬時電圧低下保護装置における特徴的な電圧保護動作を説明する。
制御部40において入力電圧判定部41は、入力電圧検知部21から与えられる入力交流電圧の電圧値情報を常に監視し、その電圧値が定格入力電圧(例えば100V、200V、220V、240Vなど仕様により異なる)に対して90%以上、90%未満70%以上、70%未満のいずれの範囲に入っているかを判定する。即ち、この例では、定格入力電圧の90%の値が本発明における第1判定電圧、定格入力電圧の70%の値が本発明における第2判定電圧に相当する。入力交流電圧が定格入力電圧に対して90%以上であれば(定格入力電圧からの電圧低下が10%以内であれば)、商用交流電源1からの交流電力の供給は正常であると判断し、切替制御部43は切替駆動部24を介して切替部13の少なくとも1つのスイッチ(通常は電磁リレー14)を導通状態とする。また、補助インバータ30は停止状態とされる。これにより、商用交流電源1から入力端11に供給された交流電力が出力端12にスルーされ、負荷2に供給される(図2(b)の<A>又は<B>参照)。
【0028】
入力交流電圧の変動に応じて負荷2に供給される交流電圧は最大で定格入力電圧から10%下がるおそれがあるが、一般に、負荷2である各種機器の入力電圧変動の許容範囲は定格入力電圧に対し±10%程度であり、しかも実際にはさらに余裕を見込んで十数%の電圧変動も許容されることが多い。そのため、上記のように当該装置から出力される交流電圧が10%程度下がっても負荷2の運転には支障はない。もちろん、入力電圧変動の許容範囲がより狭い(例えば±5%以内)負荷が使用されることが分かっている場合には、入力電圧判定部41における判定基準を変更すればよい。
【0029】
入力交流電圧が正常範囲である場合、制御部40においてインバータ制御部42は図示しない充電電圧検知部により電解コンデンサ17の充電電圧をモニタし、その充電電圧が所定電圧よりも低い場合には、電解コンデンサ17を急速充電するために主インバータ駆動部23を介して主インバータ18を作動させ、入力交流電力を直流電力に変換して電解コンデンサ17を充電する。なお、電解コンデンサ17の充電電圧の低下が自然放電による程度の小さな低下である場合には、主インバータ18の交流−直流変換動作による急速充電ではなく、図示しない補充電部による比較的緩慢な充電を行うようにするとよい。このような充電により、入力交流電力が正常に供給されている場合には、電解コンデンサ17はほぼフルに充電された状態が維持される。
【0030】
入力交流電圧が定格入力電圧に対して90%未満に下がり、入力電圧判定部41により90%未満70%以上の範囲内であると判定されると、インバータ制御部42は補助インバータ駆動部33を介して補助インバータ30を動作させる。なお、切替部13は導通状態に維持される。このとき、インバータ制御部42は入力電圧検知部21から入力交流電圧の電圧値情報を受け取り、予め設定されている目標交流電圧との差電圧を算出して、その差電圧に相当する補償電圧が生成されるように制御信号を補助インバータ駆動部33に出力する。この例では、目標交流電圧は本発明における第1判定電圧と同じ、定格入力電圧の90%の値に設定されている。そのため、補助インバータ30では、実際の入力交流電圧と定格入力電圧の90%の電圧との差電圧に対応した交流電力が生成され、この交流電力が注入トランス32を介して入力交流電力に加算される。したがって、入力交流電圧が定格入力電圧の90%未満70%以上の範囲内にある場合には、その90%からの不足分が補償電圧として注入トランス32により加算され、出力端12から負荷2へ出力される交流電圧は定格入力電圧の90%に維持される(図2(b)の<C>参照)。
【0031】
なお、補助インバータ30で直流−交流変換を行うときにはそれだけ多くの入力電流が商用交流電源1から供給されることになるが、商用交流電源1にその供給能力があれば何ら問題はなく、基本的に時間制限なく、上記のような不足分の電圧を補償することができる。このときには、電解コンデンサ17に蓄積された直流電力を使用することなく、負荷2に対し該負荷2が運転するのに十分な交流電力を供給することができる。
【0032】
入力交流電圧が定格入力電圧に対して70%未満にまで下がると、制御部40において切替制御部43は切替駆動部24を介して切替部13のスイッチを全てオフさせ、出力端12を入力端11から、つまり商用交流電源1から切り離す。ほぼ同時に、インバータ制御部42は主インバータ駆動部23を介して、電解コンデンサ17に保持されていた直流電力を用いて上記目標交流電圧となるような代替交流電力を生成するべく、主インバータ18を直流−交流変換動作させる。これにより、入力交流電力に代えて、電解コンデンサ17、主インバータ18、フィルタ19及び主インバータ駆動部23からなる本発明における代替電力供給手段から代替交流電力が、出力端12を経て負荷2に供給される。したがって、負荷2へ出力される交流電圧は例えば定格入力電圧の90%に維持される(図2(b)の<D>参照)。ただし、このときには電解コンデンサ17に蓄えていた直流電力が消費されるため、この直流電力量に相当する時間だけ継続的に負荷2に交流電力が供給されることになる。
【0033】
上記のように入力交流電圧が定格入力電圧に対して70%未満にまで下がった状態からその電圧が70%以上又h90%以上に回復すれば、切替部13のスイッチは導通され、上述したように入力交流電力に補償電力が加算された交流電力又は入力交流電力のみが負荷2に供給されることになる。
【0034】
図2(c)に示すように、従来の瞬時電圧低下保護装置では、入力交流電圧が定格入力電圧に対して90%未満に下がると即座に電解コンデンサ17に保持されていた直流電力を用いた代替交流電力の供給が実施される。そのため、例えば入力交流電圧の変動(揺らぎ)が大きい(±10%以上)場合には頻繁に電解コンデンサ17の放電・充電が行われることになる。また、入力交流電圧の変動のために電解コンデンサ17の蓄積電力が減じた又は零になった直後(充電がされる前)に電圧瞬時低下が起こると、電圧保護が行えずにすぐに負荷2の運転が停止することになる。
【0035】
これに対し本実施例の瞬時電圧低下保護装置では、入力交流電圧の変動があっても電解コンデンサ17の蓄積電力が使用されることは殆どない。そのため、電解コンデンサ17の頻繁な放電・充電は行われず、それ故に電解コンデンサ17の寿命を延ばすことができる。また、瞬時電圧低下時に電圧保護が行えないおそれも低く、さらに電解コンデンサ17の容量も小さくて済むので装置コストも引き下げることができる。
【0036】
次に、本発明に係る他の実施例(以下「第2実施例」という)について説明する。図3はこの第2実施例による瞬時電圧低下保護装置の概略ブロック構成図である。既に説明した図1、図4に示した装置と同じ構成要素については同じ符号を付し、対応関係を明確にしている。
上記第1実施例では補助インバータを主インバータとは別に設けていたが、この第2実施例の瞬時電圧低下保護装置では補助インバータと主インバータとを兼用し、そのインバータへの入出力線の切替えや制御の切替えにより、第1実施例と同様の電圧保護を行うようにしている。
【0037】
即ち、第1実施例における補助インバータ30と主インバータ18との機能を兼ねるインバータ18と注入トランス32の1次側巻線との間に第1スイッチ34、該インバータ18とフィルタ19との間に第2スイッチ35が介挿されている。この第1、第2スイッチ34、35は第2切替駆動部37により、一方がオンするときに他方がオフするように制御される。これらスイッチ34、35としてはIGBTなどの半導体スイッチング素子を用いるとよい。
【0038】
入力交流電圧が定格入力電圧に対して90%以上の範囲にある場合(図2<A>又は<B>)には、制御部40は第2切替駆動部37を介して第1スイッチ34をオフ、第2スイッチ35をオンさせる。そして、インバータ制御部42は必要に応じて(具体的には電解コンデンサ17の充電電圧が大きく低下したときに)、オン状態である第2スイッチ35を通してインバータ18に供給される主交流電力を交流−直流変換し電解コンデンサ17を充電するように、該インバータ18の動作を制御する。また、入力交流電圧が定格入力電圧に対して90%未満、70%以上の範囲にある場合(図2<C>)には、制御部40は第2切替駆動部37を介して第2スイッチ35をオフ、第1スイッチ34をオンさせる。そして、インバータ制御部42は、整流平滑部31からインバータ18に供給される入力交流電力由来の直流電力を直流−交流変換するように、該インバータ18の動作を制御する。インバータ18から出力される補償電力はオン状態である第1スイッチ34を経て注入トランス32の1次側巻線に供給され、注入トランス32により入力交流電力に加算される。
【0039】
入力交流電圧が定格入力電圧に対して70%未満である場合(図2の<D>)には、制御部40は第2切替駆動部37を介して第1スイッチ34をオフ、第2スイッチ35をオンさせる。そして、インバータ制御部42は、電解コンデンサ17に蓄積されていた直流電力を直流−交流変換するようにインバータ18の動作を制御する。この動作によりインバータ18から出力される代替交流電力は第2スイッチ35を経て出力端12から負荷2に供給される。
以上の制御により、この第2実施例の瞬時電圧低下保護装置においても第1実施例と同様に、交流入力電圧の低下度合に応じて、電解コンデンサ17の蓄積電力を用いず又は該蓄積電力を用いて、負荷2に交流電力を供給することができる。具体的には、入力交流電圧が定格入力電圧に対して90%よりも下がっても70%以上であれば、電解コンデンサ17の蓄積電力を用いることなく、定格入力電圧の90%の交流電圧を時間制限なく負荷2に与えることができる。
【0040】
なお、上記実施例は本発明の一例であり、本願発明の趣旨の範囲で適宜、変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。例えば、上記実施例で挙げた90%、70%といった数値、つまり第1判定電圧及び第2判定電圧の値は単に一例であり、使用環境や目的などを考慮した装置仕様に応じて適宜変更することができることは当然である。
【符号の説明】
【0041】
1…商用交流電源
11…入力端
12…出力端
13…切替部
14…電磁リレー
15…双方向サイリスタ
16…FETスイッチ
17…電解コンデンサ
18…インバータ(主インバータ)
19…フィルタ
2…負荷
20…補充電部
21…入力電圧検知部
22…補充電駆動部
23…インバータ駆動部(主インバータ駆動部)
24…切替駆動部
25…制御部
30…補助インバータ
31…整流平滑部
32…注入トランス
33…補助インバータ駆動部
34…第1スイッチ
35…第2スイッチ
37…第2切替駆動部
40…制御部
41…入力電圧判定部
42…インバータ制御部
43…切替制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用交流電源から交流電力が供給される際に該電力に基づく直流電力を蓄えるための蓄電手段を有し、前記商用交流電源から負荷に供給される交流電圧が一時的に低下したときに、それに代えて前記蓄電手段に蓄えられている直流電力を利用して負荷に交流電力を供給する瞬時電圧低下保護装置において、
a)商用交流電源から供給される交流電力を利用して前記蓄電手段を充電する充電手段と、
b)前記蓄電手段に蓄えられた直流電力を利用して入力交流電力に代わる代替交流電力を生成する代替電力供給手段と、
c)入力交流電力を整流したあとに直流−交流変換してその入力交流電圧に同期した交流電圧を生起させて該入力交流電圧に加算する電圧補償手段と、
d)入力交流電圧を検知して該電圧が定格入力電圧より低い第1判定電圧よりも低いか否か、及び、該第1判定電圧より低い第2判定電圧よりも低いか否かを判定する入力電圧判定手段と、
e)前記入力電圧判定手段により入力交流電圧が第1判定電圧以上であると判定されたときには入力交流電圧を負荷に出力し、前記入力交流電圧が第1判定電圧よりも低く第2判定電圧以上であると判定されたときには前記電圧補償手段を作動させて該電圧補償手段により入力交流電圧に対して電圧が補償された交流電力を負荷に出力し、前記入力交流電圧が第2判定電圧よりも低いと判定されたときには前記代替電力供給手段を作動させて代替交流電力を負荷に出力するように、前記代替電力供給手段及び前記電圧補償手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする瞬時電圧低下保護装置。
【請求項2】
請求項1に記載の瞬時電圧低下保護装置であって、
前記充電手段及び前記代替電力供給手段は、前記入力交流電力を直流電力に変換して前記蓄電手段を充電するとともに、該蓄電手段から放出された直流電力を交流電力に変換する双方向インバータを用いたものであることを特徴とする瞬時電圧低下保護装置。
【請求項3】
請求項2に記載の瞬時電圧低下保護装置であって、
前記電圧補償手段は、前記入力交流電圧を整流する整流手段と、前記双方向インバータと別の、前記整流手段による直流電力を交流電力に変換する補助インバータと、該補助インバータで得られる交流電圧を入力交流電圧に加算する注入トランスと、を含むことを特徴とする瞬時電圧低下保護装置。
【請求項4】
請求項2に記載の瞬時電圧低下保護装置であって、
前記電圧補償手段は、前記双方向インバータを共用し、前記入力交流電圧を整流する整流手段と、前記双方向インバータで得られる交流電圧を入力交流電圧に加算する注入トランスと、前記双方向インバータにおける直流−交流変換のための入力を前記整流手段の出力と前記蓄電手段とで切り換えるとともに、該双方向インバータにおける直流−交流変換の出力を前記注入トランスと負荷への出力側とで切り替える切替手段と、を含むことを特徴とする瞬時電圧低下保護装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の瞬時電圧低下保護装置であって、
前記電圧補償手段による補償交流電圧加算後の交流電圧が第1判定電圧と同レベルとなるように該補償交流電圧が設定されていることを特徴とする瞬時電圧低下保護装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−105516(P2012−105516A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254516(P2010−254516)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(392026888)京都電機器株式会社 (43)
【Fターム(参考)】