説明

瞬目計測装置及び瞬目計測方法

【課題】 生体状態に関連する指標として変則瞬目を判別することができる瞬目計測装置及び瞬目計測方法を提供する。
【解決手段】 瞬目計測装置1では、撮像部5が計測対象者の眼100を撮像し(撮像工程)、瞬目判別部7が、撮像部5により撮像された眼100の画像に基づいて、計測対象者による1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する眼瞼の加速度の時間変化に極値が3点以上現れるような瞬目を変則瞬目と判別する(瞬目判別工程)。これにより、閉眼時や開眼時に眼瞼の断続的な動作(眼瞼の微動)を伴う変則瞬目(すなわち、閉眼の途中で眼瞼の停留或いは開瞼が現れたり、開眼の途中で眼瞼の停留或いは閉瞼が現れたりする変則瞬目)が検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、瞬目計測装置及び瞬目計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間は1分間に約20回程度の瞬き(瞬目)を行うことが知られている。以前は、「眼球を乾燥から守るため」といわれていたが、環境の湿度や風速の変化では、瞬目回数が殆ど変化しないなど、瞬目がなぜ起こるのかについては、未知な部分が多い。そのような中、近年では、瞬目の態様が生体状態(眼精疲労(VDT疲労)、疲労度、集中度、覚醒度(眠気)や、生活習慣病、精神疾患、神経疾患、認知症等)に関連する指標となり得ることが報告されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、眼疲労の状態(眼疲労度)を推定するパラメータとして、瞬きの開始時の速度及び加速度を利用することが記載されている。また、特許文献2には、眼疲労度を推定するパラメータとして、瞬きの回数や頻度を利用することが記載されている。また、非特許文献1には、車を運転するドライバの意識低下状態(特に眠気)を検知・推定するためのパラメータとして、瞬き開始から閉眼状態を経て再び開眼(すなわち、瞬きの完了)するまでの時間を利用することが記載されている。
【0004】
一方、本発明者らは、これまでに高速の瞬目計測装置の開発を進めてきており、疲労度と瞬目特徴量との相関に基づき疲労度を算出する瞬目計測装置を提案したり(特許文献3参照)、そのような装置を用いて様々な検証を行ったりしている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−289327号公報
【特許文献2】特許第3348956号公報
【特許文献3】特開2009−125154号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】足立和正、他3名、「ドライバの意識低下検知のための動画像処理によるまばたき計測」、電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌)、電気学会、2004年、第124巻、第3号、p.776−783
【非特許文献2】中村芳子、他6名、「瞬目高速解析装置を用いた自発性瞬目の測定」、日本眼科学会雑誌 112(12)、2008年、p.1059−1067
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2及び非特許文献1に記載された装置は、CCDカメラにより取得した顔画像に基づいて各パラメータを算出している。しかし、現在の一般的なCCDカメラは30フレーム/秒といった低速での撮像しかできない。この場合、1フレーム当たりの所要時間は約33ミリ秒である。一方、人間の瞬目に要する時間(瞬き開始から閉眼状態を経て再び開眼するまで)は100〜300ミリ秒程度であり、CCDカメラでは3〜10フレームの画像しか得られないので、回数などのマクロな特徴量は計測できるが、瞬目の詳細な動きに関する質的な特徴量を精度良く計測することは困難である。したがって、特許文献1,2又は非特許文献1に記載されたパラメータが、疲労度を正確に推定できるものであるかといった信頼性には疑問があり、これらの文献による疲労度の推定は、疲労度と眼の運動との正確な相関に基づいているとはいい難い。
【0008】
一方、特許文献3及び非特許文献2に記載された装置には、生体状態に関連する指標となり得る瞬目の態様をより詳細にかつより正確に判別することが期待されている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、生体状態に関連する指標として変則瞬目を判別することができる瞬目計測装置及び瞬目計測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の瞬目計測装置は、計測対象者の眼を撮像する撮像手段と、撮像手段により撮像された眼の画像に基づいて、計測対象者による1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する眼瞼の加速度の時間変化に極値が3点以上現れるような瞬目を変則瞬目と判別する瞬目判別手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の瞬目計測方法は、計測対象者の眼を撮像する撮像工程と、撮像工程において撮像された眼の画像に基づいて、計測対象者による1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する眼瞼の加速度の時間変化に極値が3点以上現れるような瞬目を変則瞬目と判別する瞬目判別工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
これらの瞬目計測装置及び瞬目計測方法では、閉瞼及び開瞼する眼瞼の加速度の時間変化に極値が3点以上現れるような瞬目を変則瞬目と判別する。これにより、閉眼時や開眼時に眼瞼の断続的な動作(眼瞼の微動)を伴う変則瞬目(すなわち、閉眼の途中で眼瞼の停留或いは開瞼が現れたり、開眼の途中で眼瞼の停留或いは閉瞼が現れたりする変則瞬目)を検出することが可能となる。このように、これらの瞬目計測装置及び瞬目計測方法によれば、生体状態に関連する指標として変則瞬目を判別することができる。なお、閉眼とは、1回の瞬目において眼を閉じる一連の動作を意味し、開眼とは、1回の瞬目において眼を開く一連の動作を意味する。また、閉瞼とは、閉じる方向への眼瞼の動作を意味し、開瞼とは、開く方向への眼瞼の動作を意味する。
【0013】
ここで、瞬目判別手段は、1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する眼瞼の位置の時間変化を示す眼瞼位置データを取得し、当該眼瞼位置データに基づいて、1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する眼瞼の位置の時間変化に現れる極値を3点以上抽出した場合に、瞬目を変則瞬目と判別することが好ましい。
【0014】
また、瞬目判別手段は、1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する眼瞼の速度の時間変化を示す眼瞼速度データを取得し、当該眼瞼速度データに基づいて、1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する眼瞼の速度の時間変化に現れる極値を3点以上抽出した場合に、瞬目を変則瞬目と判別することが好ましい。
【0015】
更に、瞬目判別手段は、1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する眼瞼の加速度の時間変化を示す眼瞼加速度データを取得し、当該眼瞼加速度データに基づいて、1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する眼瞼の加速度の時間変化に現れる極値を3点以上抽出した場合に、瞬目を変則瞬目と判別することが好ましい。
【0016】
これらによれば、眼瞼位置データ、眼瞼速度データ及び眼瞼加速度データの少なくとも1つに基づいて、閉眼時や開眼時に眼瞼の微動を伴う変則瞬目を検出することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、生体状態に関連する指標として変則瞬目を判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態の瞬目計測装置の構成図である。
【図2】図1の瞬目計測装置の撮像部の構成図である。
【図3】図1の瞬目計測装置の撮像部内の電気的接続関係を示す図である。
【図4】眼瞼抽出部による眼瞼位置情報の生成方法を示す図である。
【図5】通常瞬目における眼瞼の位置、速度及び加速度の時間変化を示すグラフである。
【図6】変則瞬目における眼瞼の位置、速度及び加速度の時間変化を示すグラフである。
【図7】変則瞬目における眼瞼の位置、速度及び加速度の時間変化を示すグラフである。
【図8】変則瞬目における眼瞼の位置、速度及び加速度の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1に示されるように、瞬目計測装置1は、照明2、ダイクロイックミラー3、集光レンズ4、撮像部(撮像手段)5、眼瞼抽出部6及び瞬目判別部(瞬目判別手段)7を備えている。集光レンズ4、撮像部5、眼瞼抽出部6及び瞬目判別部7は、カメラ8の内部に収容されている。
【0021】
照明2は、計測対象者の眼100及びその周辺を照らす照明手段であり、例えば赤外光を発生する複数のLEDによって好適に構成される。照明2が眼100及びその周辺へ赤外光L1を照射することにより、眼100及びその周辺において赤外光L1が反射して光像L2が生じる。なお、照明2としては赤外光LEDに限らず他の光源を用いることができるが、高速撮像時には、眼100の様子等を照らし出すのに充分な光量の可視光を発光すると計測対象者にとって眩しいため、赤外光源を用いることが好ましい。
【0022】
ダイクロイックミラー3は、眼100及びその周辺からの光像L2を透過して、該光像L2を撮像部5の光検出部51に入射させるように配置されている。また、ダイクロイックミラー3は、眼100と撮像部5とを結ぶ光軸の脇に設置された視標9を計測対象者が視認可能なように、視標9と眼100とを光学的に結合している。視標9は、例えば可視光を発生するLEDとピンホールマスクとを組み合わせて輝点パターンを発生するように構成されるとよい。ダイクロイックミラー3は、視標9から出射された可視光L3を眼100へ向けて反射する。これにより、視標9を計測対象者に提示して眼100の角膜位置を一定に維持しつつ、眼100及びその周辺を撮像することができる。なお、視標9とダイクロイックミラー3との間には、視力調整用のレンズ9aが設けられていると尚良い。
【0023】
集光レンズ4は、光像L2を集光して撮像部5の光検出部51上に結像させるためのレンズである。集光レンズ4は、ダイクロイックミラー3と撮像部5との間に配置されている。集光レンズ4は、後述する撮像部5が眼100の全体を含む画像を取得することができるように、眼100の眼窩全体が撮像部5の画角に入るように構成されている。
【0024】
撮像部5は、眼100からの光像L2を捉えることにより、計測対象者の眼100を撮像する。撮像部5は、二次元状に配列された複数の画素を含む光検出部51を有しており、光検出部51に入射した光像L2を各画素において電気信号に変換することにより、光像L2に関する画素毎の入射光量を示す画像データを生成する。撮像部5は、生成した画像データを表示装置や映像出力端子といった出力手段へ出力すると共に、画像データを眼瞼抽出部6に提供する。
【0025】
眼瞼抽出部6は、撮像部5から提供された画像データに基づいて、該画像データにおける眼瞼の縁部101を検出して眼瞼位置情報を生成する。また、瞬目判別部7は、眼瞼抽出部6から提供された眼瞼位置情報に基づいて、瞬目の態様(通常瞬目、変則瞬目)を判別する。眼瞼抽出部6及び瞬目判別部7は、電気回路として実現されてもよいし、中央演算処理装置やメモリを有するコンピュータ内部でソフトウェアとして実現されてもよい。
【0026】
図2に示されるように、撮像部5は、1kHz以上といった極めて高速なフレームレートを有する撮像装置であり、このような撮像装置としては、例えば浜松ホトニクス株式会社製のインテリジェントビジョンセンサ(IVS)カメラが挙げられる。撮像部5は、光検出部51、増幅部53、A/D変換部55及びスイッチ部57を有している。ここでは、光検出部51は、いわゆるMOS型の撮像素子であり、二次元状(m行×n列)に配列された複数の画素51aを有している。複数の画素51aのそれぞれは、入射した光の光量に応じた電荷Qを生成する。
【0027】
増幅部53は、光検出部51の行数に対応するm個のアンプ53aを有している。m個のアンプ53aは、それぞれ光検出部51の画素51aの対応する行と電気的に接続されており、n列の画素51aから電荷Qを順次受け取る。そして、アンプ53aは、電荷Qを増幅すると共に電荷Qを電圧信号である画像信号S1に変換する。また、m個のアンプ53aは、それぞれ図示しない制御部と電気的に接続されており、該制御部からの増幅率制御信号S3に従って、電荷Qを画像信号S1に変換する際の増幅率を変化させることができる。
【0028】
A/D変換部55は、光検出部51の行数に対応するm個のA/D変換器55aを有している。m個のA/D変換器55aは、対応するm個のアンプ53aとそれぞれ電気的に接続されており、電圧信号(アナログ信号)である画像信号S1をアンプ53aから受けてディジタル信号である画像データS2に変換する。なお、本実施形態ではディジタル信号に変換された画像データS2を撮像部5からの画像データとしているが、アナログ信号である画像信号S1を撮像部5からの画像データとして用いてもよい。
【0029】
スイッチ部57は、光検出部51の行数に対応するm個のスイッチ57aを有している。m個のスイッチ57aは、対応するm個のA/D変換器55aと眼瞼抽出部6との間に設けられており、A/D変換器55aと眼瞼抽出部6との接続/非接続を制御する。スイッチ57aが接続状態になると、A/D変換器55aからの画像データS2が眼瞼抽出部6へ提供される。m個のスイッチ57aはそれぞれ眼瞼抽出部6と電気的に接続されており、個別に接続/非接続が制御される。
【0030】
ここで、光検出部51及びその周辺回路について更に詳しく説明する。図3に示されるように、光検出部51は、フォトダイオードといった光電変換素子により構成される複数の画素51aを有している。そして、光検出部51は、複数の画素51aに対応する複数のコンデンサ51b及び複数の読み出し用スイッチ51cを有している。画素51aの光電変換素子とコンデンサ51bとは互いに並列に接続されており、光電変換素子及びコンデンサ51bの一端に読み出し用スイッチ51cの一端が接続されている。読み出し用スイッチ51cの他端は、同一行に含まれる他の読み出し用スイッチ51cの他端と共に、アンプ53aの入力端に接続されている。読み出し用スイッチ51cは、それぞれ図示しない制御部と電気的に接続されており、該制御部からの制御信号S4に従って個別に接続/非接続が制御される。アンプ53aの出力端はA/D変換器55aの入力端と電気的に接続されており、A/D変換器55aの出力端は眼瞼抽出部6の入力端と電気的に接続されている。
【0031】
上述した光検出部51及びその周辺回路の動作は、次のとおりである。光検出部51に光像L2が入射すると、画素51a毎の光像L2の入射光量に応じた電荷Qがコンデンサ51bに蓄積される。制御部からの指示に応じて読み出し用スイッチ51cが各行において順次接続されると、コンデンサ51bに蓄積された電荷Qがアンプ53aに順次送られる。電荷Qは、アンプ53aによって電圧信号に変換されると共に増幅されて画像信号S1となる。画像信号S1は、A/D変換器55aによってアナログ信号からディジタル信号へ変換されて画像データS2となる。画像データS2は、眼瞼抽出部6へ提供される。
【0032】
なお、眼瞼抽出部6における演算を高速に行うために、例えば撮像部5が各画素51aのそれぞれに対応する並列演算回路を更に有することが好ましい。このような並列演算回路は、例えばA/D変換器55aの後段に接続される。
【0033】
次に、眼瞼抽出部6による眼瞼位置情報の生成について説明する。図4(a)は、画像データS2の一例を示す図であり、画像データS2には、図1に示された眼100に対応する画像D1が含まれている。眼瞼抽出部6は、まず、図4(a)における画像データS2において最も暗い暗部領域D2を抽出する。この暗部領域D2は、画像データS2において眼100の角膜(もしくは瞳孔)に相当する領域である。暗部領域D2の抽出は、例えば眼瞼の開閉方向(すなわち、顔の上下方向)を長手方向とする領域A1及び領域A2を設定し、領域A1,A2のそれぞれにおける輝度ヒストグラム(輝度分布)の相互比較に基づいて行うとよい。
【0034】
図4(b)は、領域A1,A2のそれぞれにおける輝度ヒストグラムの一例を示すグラフである。図4(b)において、グラフG1は領域A1における輝度ヒストグラムを示しており、グラフG2は領域A2における輝度ヒストグラムを示している。眼瞼抽出部6は、図4(b)におけるグラフG1及びグラフG2を比較することにより、グラフG1に含まれる暗部領域D2を判定することができる。
【0035】
続いて、眼瞼抽出部6は、暗部領域D2を通り眼瞼の開閉方向を長手方向とする領域(ここでは領域A1)の輝度ヒストグラムに基づいて、眼瞼の縁部101(図1参照)に相当する画像部分D3,D4を検出する。眼瞼抽出部6は、グラフG1において輝度が急激に変化するエッジ部分E1,E2を抽出することにより、このような画像部分D3,D4を検出する。そして、眼瞼抽出部6は、眼瞼の開閉方向における画像部分D3,D4の位置を眼瞼位置情報として瞬目判別部7へ提供する。なお、眼瞼抽出部は、輪郭抽出や領域分割、減色処理やテンプレートマッチングといった画像処理を用いて眼瞼の位置を検出してもよい。
【0036】
次に、瞬目判別部7による瞬目の態様(通常瞬目、変則瞬目)の判別について説明する。ここでは、計測対象者が無意識に行う自然瞬目を判別対象とする。また、瞬目時には上眼瞼の運動量が下眼瞼の運動量よりも大きいことから、眼瞼抽出部6が上眼瞼の位置を検出するものとする。
【0037】
まず、瞬目判別部7は、眼瞼抽出部6から提供された眼瞼位置情報に基づいて、図5(a)に示されるように、1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する上眼瞼の位置の時間変化を示す眼瞼位置データを生成し、取得する。この眼瞼位置データは、平滑化処理によりノイズが除去されたものである。
【0038】
続いて、瞬目判別部7は、眼瞼位置データの時間差分(微分)を求めることにより、図5(b)に示されるように、1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する上眼瞼の速度の時間変化を示す眼瞼速度データを生成し、取得する。この眼瞼速度データは、平滑化処理によりノイズが除去されたものである。
【0039】
続いて、瞬目判別部7は、閉じる方向(図5(b)におけるマイナス方向)への上眼瞼の速度の絶対値が閾値Vthを所定時間(例えば10ms)上回った場合に、その上回り始めた時刻を瞬目開始時刻Tsとする。また、瞬目判別部7は、開く方向(図5(b)におけるプラス方向)への上眼瞼の速度の絶対値が閾値Vthを所定時間(例えば10ms)上回った後、当該閾値Vthを所定時間(例えば10ms)下回った場合に、その下回り始めた時刻を瞬目終了時刻Teとする。閾値Vthは、例えば、瞬目の速度の平均値である200mm/sの5%に相当する10mm/sである。
【0040】
なお、瞬目判別部7は、眼瞼位置データに基づいて、瞬目開始時刻Ts及び瞬目終了時刻Teを設定してもよい。すなわち、瞬目判別部7は、閉じる方向(図5(a)におけるマイナス方向)への上眼瞼の位置の変化の値が所定の閾値(例えば、瞬目の深さの一般値である6mmの5%に相当する0.3mm)を上回った時刻を瞬目開始時刻Tsとし、一旦閉眼した後、閉じる方向への上眼瞼の位置の絶対値が当該閾値を下回った時刻を瞬目終了時刻Teとしてもよい。また、自然瞬目測定後に閉瞼及び開瞼を指示して瞬目による瞼の変化の値を求めて求めてもよい。また、瞬目開始時刻Ts及び瞬目終了時刻Teの設定は、瞬目解析ソフトウェア等を用いて瞬目波形や特徴値を確認しながら個別に分別・統合することにより行ってもよい。
【0041】
続いて、瞬目判別部7は、眼瞼速度データの時間差分(微分)を求めることにより、図5(c)に示されるように、1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する上眼瞼の加速度の時間変化を示す眼瞼加速度データを生成し、取得する。この眼瞼加速度データは、平滑化処理によりノイズが除去されたものである。
【0042】
なお、眼瞼加速度データについては、次のようにして、更なるノイズの除去が行われてもよい。すなわち、瞬目を行っている期間(瞬目開始時刻Tsから瞬目終了時刻Teまで)以外の期間において上眼瞼の加速度を求め、その加速度の絶対値の平均値を揺らぎ量とする。そして、当該揺らぎ量の例えば3倍程度を閾値とし、当該閾値以下の絶対値を有する加速度をノイズとして除去する。
【0043】
続いて、瞬目判別部7は、取得した眼瞼位置データに基づいて、1回の瞬目(すなわち、瞬目開始時刻Tsから瞬目終了時刻Teまでの期間)において閉瞼及び開瞼する眼瞼の位置の時間変化に現れる極値(極大値及び極小値)を抽出する。また、瞬目判別部7は、取得した眼瞼速度データに基づいて、1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する眼瞼の速度の時間変化に現れる極値を抽出する。更に、瞬目判別部7は、取得した眼瞼加速度データに基づいて、1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する眼瞼の加速度の時間変化に現れる極値を抽出する。
【0044】
そして、瞬目判別部7は、図5に示されるように、眼瞼位置データ、眼瞼速度データ及び眼瞼加速度データのいずれにおいても、抽出した極値(図5における黒丸)の数が2点以下の場合には、当該瞬目を通常瞬目と判別する。
【0045】
一方、瞬目判別部7は、図6〜図8に示されるように、眼瞼位置データ、眼瞼速度データ及び眼瞼加速度データの少なくとも1つにおいて、極値(図6〜図8における黒丸)を3点以上抽出した場合には、当該瞬目を変則瞬目と判別する。
【0046】
図6の例では、眼瞼位置データ(図6(a)参照)、眼瞼速度データ(図6(b)参照)及び眼瞼加速度データ(図6(c)参照)において極値が3点以上抽出されている。図7の例では、眼瞼位置データ(図7(a)参照)において極値が3点以上抽出されていないが、眼瞼速度データ(図7(b)参照)及び眼瞼加速度データ(図7(c)参照)において極値が3点以上抽出されている。図8の例では、眼瞼位置データ(図8(a)参照)及び眼瞼速度データ(図8(b)参照)において極値が3点以上抽出されていないが、眼瞼加速度データ(図8(c)参照)において極値が3点以上抽出されている。
【0047】
このように、瞬目計測装置1では、眼瞼位置データや眼瞼速度データにおいて極値が3点以上抽出されない場合であっても、1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する眼瞼の加速度の時間変化に極値が3点以上現れるような瞬目が変則瞬目として確実に判別される。
【0048】
ここで、眼瞼加速度データにおいて極値を抽出するための第1の方法及び第2の方法について、図5〜図8を参照して説明する。第1の方法及び第2の方法は、眼瞼加速度データからの極値の抽出において、ノイズ等によって生じた偽の極値を除去する方法である。なお、眼瞼位置データ及び眼瞼速度データのそれぞれにおける極値の抽出も同様の方法で行うことが可能である。
【0049】
まず、第1の方法では、極値として抽出した対象点(図5〜図8における黒丸及び白丸)のそれぞれについて、前後の対象点との加速度の差を算出し、その絶対値の両方が所定値以下の場合には、偽の極値と判断する。なお、最初の対象点は、前の対象点に代えて、瞬目開始時刻Tsにおける加速度を用い、最後の対象点は、後の対象点に代えて、瞬目終了時刻Teにおける加速度を用いる。先の偽の極値の判断により、極性が同じ偽の極値が連続して現れる場合(すなわち、極大値−極大値又は極小値−極小値と連続する場合)には、加速度の絶対値の大きい極値を真の極値と判断し、残りの極値を偽の極値と判断する。これにより、偽の極値(図5〜図8における白丸)が除去されて、真の極値(図5〜図8における黒丸)が抽出される。なお、真の極値のカウントは、真の極値の抽出後に行ってもよいし、真の極値の抽出と同時に行ってもよい。
【0050】
次に、第2の方法では、極値として抽出した対象点(図5〜図8における黒丸及び白丸)のそれぞれを順次走査する。そして、1つ前の対象点との差が所定の閾値を上回った場合には、その対象点を極値として仮採用する。一方、1つ前の対象点との差が所定の閾値を下回った場合には、次の対象点と1つ前の対象点とを比較し、大きい方の値で1つ前の対象点を更新する。走査位置の移動に合わせて、仮採用した1つ前の対象点を極値として本採用する。これにより、偽の極値(図5〜図8における白丸)が除去されて、真の極値(図5〜図8における黒丸)が抽出される。なお、真の極値のカウントは、真の極値の抽出後に行ってもよいし、真の極値の抽出と同時に行ってもよい。
【0051】
以上説明したように、瞬目計測装置1では、撮像部5が計測対象者の眼100を撮像し(撮像工程)、瞬目判別部7が、撮像部5により撮像された眼100の画像に基づいて、計測対象者による1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する眼瞼の加速度の時間変化に極値が3点以上現れるような瞬目を変則瞬目と判別する(瞬目判別工程)。これにより、閉眼時や開眼時に眼瞼の断続的な動作(眼瞼の微動)を伴う変則瞬目(すなわち、閉眼の途中で眼瞼の停留或いは開瞼が現れたり、開眼の途中で眼瞼の停留或いは閉瞼が現れたりする変則瞬目)を検出することが可能となる。このように、瞬目計測装置1、及び瞬目計測装置1により実施される瞬目計測方法によれば、生体状態(眼精疲労(VDT疲労)、疲労度、集中度、覚醒度(眠気)や、生活習慣病、精神疾患、神経疾患、認知症等)に関連する指標として変則瞬目を判別することができ、眼精疲労(VDT疲労)、疲労度、集中度、覚醒度(眠気)の定量化や、生活習慣病、精神疾患、神経疾患、認知症のスクリーニングを行うことが可能となる。
【0052】
また、瞬目判別部7は、眼瞼位置データ、眼瞼速度データ及び眼瞼加速度データの少なくとも1つにおいて、極値を3点以上抽出した場合には、当該瞬目を変則瞬目と判別する。これにより、眼瞼位置データや眼瞼速度データにおいて極値が3点以上抽出されない場合であっても、閉眼時や開眼時に眼瞼の微動を伴う変則瞬目を確実に検出することが可能となる。
【0053】
なお、変則瞬目を判別するに際し、眼瞼速度データにおける極値が有する、速度値、前後の極値との差(極性及び絶対値)、前後の極値との時間間隔を特徴量として算出し、判別の補助特徴量をして用いてもよい。
【0054】
また、変則瞬目を判別するに際し、眼瞼加速度データにおける極値が有する、加速度値、前後の極値との差(極性及び絶対値)、前後の極値との時間間隔を特徴量として算出し、判別の補助特徴量として用いてもよい。
【0055】
更に、以下の特徴量を算出してもよい。以下の特徴量は、変則瞬目と判別した際に、閉瞼時のものと開瞼時のものとで分けて集計した後、総合的な判断に用いるとよい。
1:瞬目速度の経時変化における極大値とその時刻と半値幅
2:瞬目速度の経時変化における極小値とその時刻と半値幅
3:瞬目加速度の経時変化における極大値とその時刻と半値幅
4:瞬目加速度の経時変化における極小値とその時刻と半値幅
5:進行方向と同方向の速度極値の発生間隔
6:進行方向と同方向の速度極値の発生回数
7:進行方向と同方向の速度極値の差、比
8:進行方向と同方向の加速度極値の発生間隔
9:進行方向と同方向の加速度極値の発生回数
10:進行方向と同方向の加速度極値の差、比
11:連続して発生した速度極値の発生間隔
12:連続して発生した速度極値の差、比
13:連続して発生した加速度極値の発生間隔
14:連続して発生した加速度極値の差、比
15:閉瞬目から開瞬目に切り替わる迄の期間
16:加速度の経時変化が閾値を超えた回数
17:加速度の経時変化が閾値を超えていた期間
18:加速度の経時変化が閾値を超えていた期間の移動距離
【0056】
また、図8(c)に示されるように、眼瞼加速度データにおいて、瞬目開始時刻前Ts前の所定時間(例えば50ms)内に極値が抽出された場合に、それに続く瞬目を変則瞬目と判別してもよい。
【0057】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では撮像手段として1kHz以上のフレームレートを有する撮像装置(IVSカメラ)を使用したが、エリアセンサやラインセンサを使用してもよい。ラインセンサを使用する場合、瞬目に伴う眼瞼の位置の変化を検出するために、ラインセンサの長手方向が眼瞼の開閉方向に沿うようにラインセンサを設置するとよい。
【0058】
また、以下の特徴量を算出してもよい。
1:速度、加速度の極大、極小値間の時間間隔
2:速度、加速度の極大、極小値の速度差
3:速度、加速度の極大、極小値の速度比
4:加速度の極大、極小値の半値幅
5:算出されたすべての速度、加速度の極大、極小値の時間隔の平均
6:算出されたすべての速度、加速度の極大、極小値の時間隔の標準偏差
7:算出されたすべての速度、加速度の極大、極小値の時間隔の比の平均
8:算出されたすべての速度、加速度の極大、極小値の時間隔の比の標準偏差
9:算出されたすべての加速度の極大、極小値の半値幅の比の平均
10:算出されたすべての加速度の極大、極小値の半値幅の比の標準偏差
11:瞬目全区間内における、速度、加速度の極大、極小値が確認されたすべての時刻の重心時刻
12:閉眼動作から開眼動作に移行するまでの期間
【0059】
また、眼瞼加速度データに対して閾値を設定し、下記の特徴量を算出してもよい。
1:加速度の変化が閾値以上となる回数
2:加速度の変化が連続して閾値を超えていた期間
3:加速度の変化と閾値の交差回数
4:加速度の変化が連続して閾値以下となっていた回数
【0060】
また、例えば図5に示されるような瞬目理想曲線を用いて下記の情報を算出してもよい。
1:抽出された瞬目と瞬目理想曲線とのRMS値
2:抽出された瞬目の速度変化と瞬目理想曲線の速度変化のRMS値
3:抽出された瞬目の加速度変化と瞬目理想曲線の加速度変化のRMS値
【符号の説明】
【0061】
1…瞬目計測装置、5…撮像部(撮像手段)、7…瞬目判別部(瞬目判別手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象者の眼を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段により撮像された前記眼の画像に基づいて、前記計測対象者による1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する眼瞼の加速度の時間変化に極値が3点以上現れるような前記瞬目を変則瞬目と判別する瞬目判別手段と、を備えることを特徴とする瞬目計測装置。
【請求項2】
前記瞬目判別手段は、1回の前記瞬目において閉瞼及び開瞼する前記眼瞼の位置の時間変化を示す眼瞼位置データを取得し、当該眼瞼位置データに基づいて、1回の前記瞬目において閉瞼及び開瞼する前記眼瞼の位置の時間変化に現れる極値を3点以上抽出した場合に、前記瞬目を前記変則瞬目と判別することを特徴とする請求項1記載の瞬目計測装置。
【請求項3】
前記瞬目判別手段は、1回の前記瞬目において閉瞼及び開瞼する前記眼瞼の速度の時間変化を示す眼瞼速度データを取得し、当該眼瞼速度データに基づいて、1回の前記瞬目において閉瞼及び開瞼する前記眼瞼の速度の時間変化に現れる極値を3点以上抽出した場合に、前記瞬目を前記変則瞬目と判別することを特徴とする請求項1又は2記載の瞬目計測装置。
【請求項4】
前記瞬目判別手段は、1回の前記瞬目において閉瞼及び開瞼する前記眼瞼の加速度の時間変化を示す眼瞼加速度データを取得し、当該眼瞼加速度データに基づいて、1回の前記瞬目において閉瞼及び開瞼する前記眼瞼の加速度の時間変化に現れる極値を3点以上抽出した場合に、前記瞬目を前記変則瞬目と判別することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の瞬目計測装置。
【請求項5】
計測対象者の眼を撮像する撮像工程と、
前記撮像工程において撮像された前記眼の画像に基づいて、前記計測対象者による1回の瞬目において閉瞼及び開瞼する眼瞼の加速度の時間変化に極値が3点以上現れるような前記瞬目を変則瞬目と判別する瞬目判別工程と、を備えることを特徴とする瞬目計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−85691(P2012−85691A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232878(P2010−232878)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)【国等の委託研究の成果に係る記載事項】 独立行政法人科学技術振興機構、研究成果最適展開支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【出願人】(509349141)京都府公立大学法人 (19)
【Fターム(参考)】