説明

矢じり型スナップ

【課題】抗離脱力が充分でありながら取り付け時の挿入力を低減した矢じり型スナップを提供すること。
【解決手段】矢じり型スナップ1の逆止片14の先端面は、支持脚12に近い側で低く支持脚12から遠い側で高くなる傾斜面17とされており、傾斜面17の外周縁部23は鋭角状に切り立った形状になっている。この鋭角状に切り立った外周縁部23が逆止片14の抗離脱力を強くするので、逆止片14の弾性反発力を従来よりも弱くできる。すなわち、抗離脱力が充分でありながら取り付け時の挿入力を低減したスナップを実現できる。外周縁部23は、傾斜面17にて貫通孔21の開口周縁と係止したときにつぶれて「抜きR」に密着し、スナップ1と貫通孔21とのガタツキやスナップの振動による雑音を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板材に基台を取り付けるための矢じり型スナップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電機部品等を例えば板金製の板材に取り付ける際に、板材に穿設されたスナップ挿入用の孔に、クランプ等の基台に取り付けられた矢じり型スナップを挿入し、基台を板材に固定することが知られている。
【0003】
この点に関し、特開平11−26956号公報には、図2に例示するように、基台(10)の下面から下方に突出した支持脚(12)と、前記支持脚(12)の先端から前記基台(10)に向けて矢印形状を呈するように延設された一対の逆止片(14)であり、板材(20)に穿設された貫通孔(21)に挿入されると弾性変形して該貫通孔(21)を通過して前記基台(10)側の端面である先端面(16)にて前記貫通孔(21)の開口周縁と係止し合う一対の逆止片(14)とを備える矢じり型スナップが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−26956号公報(図7、図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図2に例示した従来技術の矢じり型スナップでは、取り付け後の離脱防止を図るために、すなわち逆止片(14)の抗離脱力を強くするために、逆止片(14)の弾性反発力を強くする傾向にあった。逆止片(14)の弾性反発力を強めれば、取り付け時に貫通孔(21)に挿入して弾性変形させるために要する挿入力が大きくなり、それに応じて作業者の負担が大きかった。
【0006】
また、逆止片(14)の先端面(16)が図2に示すように支持脚(12)を鉛直にした姿勢のときに状態で水平面となっているので、板金である板材(20)にプレス加工で穿設された貫通孔(21)の「抜きR」との密着性が弱いという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の矢じり型スナップは、
基台の下面から下方に突出した支持脚と、
前記支持脚の先端から前記基台に向けて矢印形状を呈するように延設された一対の逆止片であり、板材に穿設された貫通孔に挿入されると弾性変形して該貫通孔を通過して前記基台側の端面である先端面にて前記貫通孔の開口周縁と係止し合う一対の逆止片と
を備える矢じり型スナップにおいて、
両方の前記逆止片の先端面の前記支持脚からの距離が最遠となる部分が含まれる範囲は、前記支持脚を鉛直にした姿勢のときに前記支持脚に近い側で低く前記支持脚から遠い側で高くなる傾斜面とされている
ことを特徴とする。
【0008】
両方の逆止片の先端面の支持脚からの距離が最遠となる部分が含まれる範囲は、支持脚を鉛直にした姿勢のときに支持脚に近い側で低く支持脚から遠い側で高くなる傾斜面とされているので、先端面が傾斜面とされている範囲では先端面の外周縁が鋭角状に切り立った形状になる。
【0009】
この鋭角状に切り立った外周縁部が逆止片の抗離脱力を強くするので、これに応じて逆止片の弾性反発力を従来よりも弱くできる。すなわち、抗離脱力が充分でありながら取り付け時の挿入力を低減したスナップを実現できる。
【0010】
しかも、逆止片の先端面の外周縁が鋭角状に切り立った形状になっているので、先端面にて貫通孔の開口周縁と係止したときに、この鋭角部分がつぶれて「抜きR」に密着する。これにより、スナップと貫通孔とのガタツキやスナップの振動による雑音を防止できる。
【0011】
傾斜面は、例えば先端面を支持脚からの距離の遠近にて2分割(2等分ではない)して、支持脚から遠い側のみというように、先端面の限られた範囲だけでもよい。また、請求項2記載のように、先端面の全域を傾斜面としてもよい。
【0012】
請求項3記載の矢じり型スナップは、前記逆止片が前記先端面にて前記貫通孔の開口周縁と係止し合ったときに前記貫通孔の開口の内側になる位置で前記逆止片に立設された突起が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の矢じり型スナップであるから、突起が貫通孔の内周に当接することでスナップと貫通孔とのガタツキやスナップの振動による雑音を防止する効果がある。
【0013】
請求項4記載の矢じり型スナップは、スペーサ又はクランプとして機能する機能部を前記基台に設けたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の矢じり型スナップであり、矢じり型スナップを用いて板材に取り付けられる機能部品を例示したものである。
【0014】
請求項5記載の矢じり型スナップは、材質がナイロン11(PA11)であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか記載の矢じり型スナップであり、好適な材質を例示したものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例の矢じり型スナップの正面図(a)及び取り付け状態の説明図(b)。
【図2】従来例の矢じり型スナップの正面図(a)及び取り付け状態の説明図(b)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、ナイロン11(PA11)の成形品である矢じり型スナップ1の実施例を説明する。なお、使用したPA11の物性値は次の通りである。
・吸水率(平衡吸水率):1%以下
・曲げ弾性率:1000〜2000Mpa
・引張り強度:30〜70Mpa
・伸び:100%以上
また、本実施例の矢じり型スナップ1は、例えばスペーサやクランプとして機能する機能部を基台10に設けた形態とされるが、そうした機能部自体は周知であるので図示と説明は省略する。
【0017】
本実施例の矢じり型スナップ1は図1に示す通りの構成であり、図2に示した従来技術と同様に、基台10の下面から下方に突出した支持脚12と、支持脚12の先端から基台10に向けて矢印形状を呈するように延設された一対の逆止片14であり、板材20に穿設された貫通孔21に挿入されると弾性変形して該貫通孔21を通過して基台10側の端面である先端面にて貫通孔21の開口周縁と係止し合う一対の逆止片14とを備えている。
【0018】
但し、逆止片14の先端面は、支持脚12に近い側で低く支持脚12から遠い側で高くなる傾斜面17とされている点で図2の従来技術とは相違する。なお、傾斜面17の傾斜角度は2〜5°が好適である。
【0019】
また、逆止片14の支持脚12側になる部分には、その先端部に突起19が立設されている。この突起19は、図1(b)に示すように逆止片14が傾斜面17にて貫通孔21の開口周縁と係止し合ったときに貫通孔21の開口の内側になる位置で逆止片14に立設されている。
【0020】
本実施例の矢じり型スナップ1においては、両方の逆止片14の先端面は、図1に示すように支持脚12を鉛直にした姿勢のときに支持脚12に近い側で低く支持脚12から遠い側で高くなる傾斜面17とされているので、傾斜面17の外周縁部23が鋭角状に切り立った形状になっている。
【0021】
この鋭角状に切り立った外周縁部23が逆止片14の抗離脱力を強くするので、これに応じて逆止片14の弾性反発力を従来よりも弱くできる。すなわち、抗離脱力が充分でありながら取り付け時の挿入力を低減したスナップを実現できる。さらに、本実施例では、上記物性値のPA11を使用したことから、取り付け時に要する挿入力を弱く(つまり逆止片14の弾性反発力を弱く)でき、この点からも離脱力が充分でありながら取り付け時の挿入力を低減する効果が良好になっている。
【0022】
しかも、逆止片14の先端の傾斜面17の外周縁部23が鋭角状に切り立った形状になっているので、傾斜面17にて貫通孔21の開口周縁と係止したときに、この鋭角部分が図1(b)に示すようにつぶれて「抜きR」に密着する。これにより、スナップ1と貫通孔21とのガタツキやスナップの振動による雑音を防止できる。
【0023】
なお、本実施例では先端面の全域を傾斜面17としているが、例えば先端面を支持脚12からの距離の遠近にて2分割(2等分ではない)して、支持脚12から遠い側のみを傾斜面としてもよい。
【0024】
また、本実施例の矢じり型スナップ1は、逆止片14の先端部に立設された突起19が設けられており、この突起19は逆止片14が傾斜面17にて貫通孔21の開口周縁と係止し合ったときに貫通孔21の開口の内側になる位置で逆止片14に立設されているから、突起19が貫通孔21の内周に当接することでスナップ1と貫通孔21とのガタツキやスナップの振動による雑音を防止する効果がある。
【符号の説明】
【0025】
1・・・矢じり型スナップ、
10・・・基台、
12・・・支持脚、
14・・・逆止片、
17・・・傾斜面、
19・・・突起、
20・・・板材、
21・・・貫通孔、
23・・・外周縁部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台の下面から下方に突出した支持脚と、
前記支持脚の先端から前記基台に向けて矢印形状を呈するように延設された一対の逆止片であり、板材に穿設された貫通孔に挿入されると弾性変形して該貫通孔を通過して前記基台側の端面である先端面にて前記貫通孔の開口周縁と係止し合う一対の逆止片と
を備える矢じり型スナップにおいて、
両方の前記逆止片の先端面の前記支持脚からの距離が最遠となる部分が含まれる範囲は、前記支持脚に近い側で低く前記支持脚から遠い側で高くなる傾斜面とされている
ことを特徴とする矢じり型スナップ。
【請求項2】
前記先端面の全域が前記傾斜面とされていることを特徴とする請求項1記載の矢じり型スナップ。
【請求項3】
前記逆止片が前記先端面にて前記貫通孔の開口周縁と係止し合ったときに前記貫通孔の開口の内側になる位置で前記逆止片に立設された突起が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の矢じり型スナップ。
【請求項4】
スペーサ又はクランプとして機能する機能部を前記基台に設けたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の矢じり型スナップ。
【請求項5】
材質がナイロン11(PA11)であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか記載の矢じり型スナップ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−58590(P2011−58590A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210719(P2009−210719)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】