説明

矩形シールドマシンのエントランス構造

【課題】 エントランスパッキンを均等に押さえ付けることが可能なフラッパーを採用して、トンネル坑口から裏込め材等が漏れ出すことを防止する。
【解決手段】 矩形シールドマシンの外周に密着して止水を行うための可撓性及び弾性を有するエントランスパッキン10と、エントランスパッキン10に対して矩形シールドマシンの進行方向後側に配設され、矩形シールドマシンの進行方向に回動して、エントランスパッキン10の自由端部の裏返りを防止するための短冊状のフラッパー20(120)とを備える。トンネル坑口のコーナー部に配設されたフラッパー120は、回動基部から自由端部に向かって先細り状となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、矩形シールドマシンを用いてトンネルを掘削する際にトンネル坑口における止水を行うためのエントランス構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シールドマシンを用いてトンネルを掘削する際に、トンネル坑口とシールドマシンの外周部との間から裏込め材や泥水等が漏れ出すことを防止するため、トンネル坑口にゴム等からなるエントランスパッキンを取り付けていた。また、シールドマシンの進行に伴い、エントランスパッキンの自由端部が裏返ることを防止するため、エントランスパッキンに対して矩形シールドマシンの進行方向後側に短冊状のフラッパーを取り付けていた(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
このフラッパーは、シールドマシンの進行方向後側に配設されており、シールドマシンの進行方向に回動可能となっている。そして、シールドマシンの掘進に伴い、エントランスパッキンの自由端部がシールドマシンの進行方向に屈曲すると、これに追随してフラッパーもシールドマシンの進行方向に回動し、フラッパーがエントランスパッキンをシールドマシンの進行方向後側から押さえ付けることにより、エントランスパッキンの自由端部の裏返りを防止していた。
【0004】
【特許文献1】特開2000−8765号公報
【特許文献2】特開2001−342793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のフラッパーは、トンネル坑口に沿って、略長方形をした短冊状の部材を複数配設したものである。一般的な円形断面のシールドマシンでは、トンネル坑口に沿ってフラッパーを均等に配置することができるため、略長方形のフラッパーであってもエントランスパッキンを安定した力で押さえ付けることができる。
ところで、近年、掘削すべきトンネル形状に対応させて、種々の形状のシールドマシンを用いるようになってきた。例えば、断面が矩形状のトンネルを掘削するための矩形シールドマシンが開発されている。
【0006】
しかし、この矩形シールドマシンのエントランス構造において、従来の円形シールドマシンで使用していた略長方形のフラッパーを使用すると、コーナー部分においてエントランスパッキンを均等に押さえ付けることができない。すなわち、矩形シールドマシンのコーナー部分は一般的な円形シールドマシンと比較してRが小さい(曲率が大きい)ため、一般的な円形シールドマシンと同様に略長方形のフラッパーを配設したのでは、隣り合うフラッパー同士が競り合ってしまい、エントランスパッキンを均等に押さえ付けることができない。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、エントランスパッキンを均等に押さえ付けることが可能なフラッパーを採用して、トンネル坑口から裏込め材等が漏れ出すことのない矩形シールドマシンのエントランス構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の矩形シールドマシンのエントランス構造は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。
すなわち、本発明の矩形シールドマシンのエントランス構造は、矩形シールドマシンを用いてトンネルを掘削する際にトンネル坑口における止水を行うためのエントランス構造に関するものである。このエントランス構造は、矩形シールドマシンの外周に密着して止水を行うための可撓性及び弾性を有するエントランスパッキンと、エントランスパッキンに対して矩形シールドマシンの進行方向後側に配設され、矩形シールドマシンの進行方向に回動して、エントランスパッキンの自由端部の裏返りを防止するための短冊状のフラッパーと、を備えている。そして、トンネル坑口のコーナー部に配設されたフラッパーは、回動基部から自由端部に向かって先細り状となっていることを特徴とするものである。
【0009】
なお、エントランスパッキンは、従来のシールドマシンのエントランス構造として使用されてきた既存のエントランスパッキンとほぼ同様の構造を有しており、例えばゴム等の部材により構成されるものである。また、先細り状のフラッパーとは、例えば、トンネル坑口に固定される回動基部を下底とし、矩形シールドマシンの外周部に接触する自由端部を上底とした台形において、上底が下底よりも小さい形状のものをいう。また、止水とは、裏込め材等のような液状物の漏れ出しを防止することをいう。また、矩形シールドマシンの進行方向とは、矩形シールドマシンを用いてトンネル掘削を行う際に、矩形シールドマシンが掘進する方向をいう。
【0010】
また、本発明の矩形シールドマシンのエントランス構造は、前記構成に加えて、エントランスパッキンとトンネル坑口のコーナー部に配設されたフラッパーとの間に、当該フラッパーがエントランスパッキンに付与する押付力を補助するための可撓性及び弾性を有する補助押付板を配設したことを特徴とするものである。
なお、補助押付板とは、フラッパーが回動する際に、フラッパーに押さえ付けられてエントランスパッキン側に傾くことにより、フラッパーからエントランスパッキンへ付与される押付力を確実に伝達するための部材である。
【0011】
ここで、補助押付板は、薄板状の塩化ビニル板と鋼板とを重ね合わせて構成することが可能である。
なお、補助押付板は、例えば、フラッパー側からエントランスパッキン側に向かって、薄板状の塩化ビニル板と薄板状の鋼板とを、この順に配設したものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の矩形シールドマシンのエントランス構造は、矩形シールドマシンのトンネル坑口に設けるエントランス構造として、トンネル坑口のコーナー部に配設されたフラッパーを、回動基部から自由端部に向かって先細り状としている。したがって、一般的な円形シールドマシンと比較してRが小さい(曲率が大きい)コーナー部分を有する矩形シールドマシンのトンネル坑口において、隣り合うフラッパー同士が競り合うことなく動作して、エントランスパッキンを均等に押さえ付けることができる。このため、一般的な円形シールドマシンと比較してRが小さい矩形シールドマシンのコーナー部分であっても、エントランスパッキンの自由端部の裏返りを防止して、トンネル坑口から裏込め材等が漏れ出すことがない。
【0013】
また、エントランスパッキンとトンネル坑口のコーナー部に配設されたフラッパーとの間に補助押付板を配設した構成とした場合には、フラッパーからエントランスパッキンへ付与される押付力を確実に伝達して、エントランスパッキンの自由端部の裏返りを、さらに一層確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<エントランス構造>
以下、図面を参照して、本発明の矩形シールドマシンのエントランス構造を実施するための最良の形態を説明する。
図1〜図4は、本発明の実施形態に係る矩形シールドマシンのエントランス構造を説明するもので、図1はエントランス構造の正面図、図2はエントランス構造の縦断面図、図3はフラッパーの正面図、図4はフラッパー及びエントランスパッキンの配設順序を示す説明図である。
【0015】
本発明の実施形態に係る矩形シールドマシンのエントランス構造は、矩形シールドマシン70を用いてトンネルを掘削する際にトンネル坑口60における止水を行うためのものである。このエントランス構造は、図1及び図2に示すように、主要な構成要素として、トンネル坑口60に取り付けられたエントランスパッキン10とフラッパー20(120)とを備えている。
【0016】
<エントランスパッキン>
エントランスパッキン10は、矩形シールドマシン70の外周に密着して止水を行うための部材であり、可撓性及び弾性を有するゴム部材等により構成される。このエントランスパッキン10は、矩形シールドマシン70の外周形状に対応して、矩形シールドマシン70及びセグメント(図示せず)の外周径よりも小さな内周径を有している。すなわち、矩形シールドマシン70の掘進に伴い、エントランスパッキン10の自由端部が矩形シールドマシン70の進行方向に屈曲して矩形シールドマシン70又はセグメントの外周部に密着することにより、トンネル坑口60から裏込め材等が漏れ出すことを防止する。
なお、トンネル坑口60には、裏込め材を注入するための注入口50が設けられている。
【0017】
<フラッパー>
フラッパー20(120)は、エントランスパッキン10に対して矩形シールドマシン70の進行方向後側に配設された複数の短冊状の部材からなり、矩形シールドマシン70の進行方向に回動可能となっている。このフラッパー20(120)は、図3に示すように、トンネル坑口60に固定する取付部21に対して、矩形シールドマシン70の進行方向に回動可能に取り付けられている。そして、矩形シールドマシン70の掘進に伴い、フラッパー20(120)が矩形シールドマシン70の進行方向に回動してエントランスパッキン10を押さえ付けることにより、エントランスパッキン10の自由端部の裏返りを防止する。
【0018】
また、トンネル坑口60のコーナー部に配設されたフラッパー120は、隣り合うフラッパー120同士が干渉しないように、回動基部から自由端部に向かって先細り状となっている。具体的には、コーナー部に配設されたフラッパー120は、例えば図1及び図3に示すように、回動基部から自由端部へ向かって縮径した台形状に形成されている。すなわち、台形状のフラッパー120は、トンネル坑口60に固定される回動基部を下底とし、矩形シールドマシン70の外周部に接触する自由端部を上底とした台形において、上底が下底よりも小さい形状となっている。なお、トンネル坑口60の直線部分に配設されたフラッパー20は、従来通り、略長方形状に形成されている。
【0019】
<補助押付板>
また、図1及び図4に示すように、エントランスパッキン10とトンネル坑口60のコーナー部に配設されたフラッパー120との間には、フラッパー120がエントランスパッキン10に付与する押付力を補助するための可撓性及び弾性を有する補助押付板30が配設されている。なお、補助押付板30とエントランスパッキン10との間には、エントランスパッキン10をトンネル坑口60に取り付けるための押さえ板40が介在している。
補助押付板30は、図4に示すように、薄板状の塩化ビニル板30aと、薄板状の鋼板30bとを重ね合わせて形成されている。そして、フラッパー120が回動すると、補助押付板30である塩化ビニル板30aと鋼板30bとが、フラッパー120に押されてエントランスパッキン10側に撓むことにより、フラッパー120からエントランスパッキン10へ付与される押付力を確実に伝達することができる。
【0020】
<矩形シールドマシンによるトンネル掘削>
本発明の実施形態に係る矩形シールドマシン70のエントランス構造では、矩形シールドマシン70を掘進すると、図2において破線で示すように、矩形シールドマシン70の外周部に密着しているエントランスパッキン10が、矩形シールドマシン70の進行方向へ引っ張られながら屈曲する。同時に、矩形シールドマシン70の外周部に接触しているフラッパー20(120)が、矩形シールドマシン70の進行方向へ回動しながら、エントランスパッキン10を押さえ付ける。この際、円形シールドマシンと比較してRが小さいコーナー部分において、隣り合うフラッパー120同士が競り合うことなく動作して、エントランスパッキン10を均等に押さえ付ける。さらに、トンネル坑口60のコーナー部分では、補助押付板30が、フラッパー120からエントランスパッキン10へ付与される押付力を確実に伝達する。
【0021】
したがって、円形シールドマシンと比較してRが小さいコーナー部分を有する矩形シールドマシン70であっても、フラッパー120及び補助押付板30の作用により、エントランスパッキン10を均等に押さえ付けて、トンネル坑口60から裏込め材等が漏れ出すことを防止できる。
【0022】
<他の実施形態>
なお、エントランスパッキン10、フラッパー20(120)、及び補助押付板30の大きさや材質等は、矩形シールドマシン70の形状及び直径や、掘削する地山の状況等に応じて適宜変更して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る矩形シールドマシンのエントランス構造の正面図。
【図2】本発明の実施形態に係る矩形シールドマシンのエントランス構造の縦断面図。
【図3】本発明の実施形態に係る矩形シールドマシンで用いるフラッパーの正面図。
【図4】本発明の実施形態に係る矩形シールドマシンで用いるフラッパー及びエントランスパッキンの配設順序を示す説明図。
【符号の説明】
【0024】
10 エントランスパッキン
20 フラッパー
21 取付部
120 コーナー部のフラッパー
30 補助押付板
30a 塩化ビニル板
30b 鋼板
40 押さえ板
50 注入口
60 トンネル坑口
70 矩形シールドマシン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形シールドマシンを用いてトンネルを掘削する際にトンネル坑口における止水を行うためのエントランス構造であって、
前記矩形シールドマシンの外周に密着して止水を行うための可撓性及び弾性を有するエントランスパッキンと、
前記エントランスパッキンに対して前記矩形シールドマシンの進行方向後側に配設され、前記矩形シールドマシンの進行方向に回動して、前記エントランスパッキンの自由端部の裏返りを防止するための短冊状のフラッパーと、を備え、
前記トンネル坑口のコーナー部に配設されたフラッパーは、回動基部から自由端部に向かって先細り状となっていることを特徴とする矩形シールドマシンのエントランス構造。
【請求項2】
前記エントランスパッキンと前記トンネル坑口のコーナー部に配設されたフラッパーとの間に、当該フラッパーが前記エントランスパッキンに付与する押付力を補助するための可撓性及び弾性を有する補助押付板を配設したことを特徴とする請求項1に記載の矩形シールドマシンのエントランス構造。
【請求項3】
前記補助押付板は、薄板状の塩化ビニル板と鋼板とを重ね合わせて構成したことを特徴とする請求項2に記載の矩形シールドマシンのエントランス構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−308890(P2008−308890A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158171(P2007−158171)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】