説明

短いdsRNA配列を用いた植物中での効率的遺伝子サイレンシング

約200塩基対より短いステム長を有するdsRNA配列を用いるときの遺伝子サイレンシングの効率を高めるための方法および手段を提供するが、それは、そのようなdsRNA配列をコードするキメラ遺伝子を、DNA依存性RNAポリメラーゼIIIと相互作用する全てのシス作用プロモーターエレメントを含む、DNA依存性RNAポリメラーゼIIIによって認識されるプロモーターと共に提供することにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には植物の遺伝的改変の分野に関し、より詳細には、植物細胞中もしくは植物中での1以上の遺伝子の発現を意図的にサイレンシングするための短い二本鎖(dsRNA)配列の使用に関する。約200塩基対より短いステム長を有するdsRNA配列を用いる場合に、遺伝子サイレンシングの効率を高めるための方法および手段が提供される。
【背景技術】
【0002】
標的遺伝子特異的dsRNA(dsRNAをコードするキメラ遺伝子の転写を介して外因的もしくは内因的に与えられる)により引き起こされる、植物中および動物中での遺伝子発現の転写後サイレンシングの機構は、近年多数の研究の課題となってきた。動物中および植物中でのこの現象についての最初の記述(Fireら、1998;Hamiltonら、1998;Waterhouseら、1998)以来、dsRNAは、dsRNAのほうを優先するRNAse(例えばショウジョウバエのDICER)によるプロセシングを受けて、短い約21ヌクレオチド長のRNA分子になり、この分子がガイド配列として用いられ、特定のmRNA分子を分解する能力を有する複合体に配列特異性を付与する、ことが明らかになっている。
【0003】
dsRNA(サイレンシングされるべき遺伝子と相同)により開始される遺伝子サイレンシングの高い特異性および効率により、この方法論は急速に、1以上の特定の転写されたヌクレオチド配列の発現が低下または不活性化されている真核生物を作製するための好ましいツールになった。そのような、目的遺伝子の発現の低下もしくは不活性化は、所望の表現型を有する真核生物を作り出すという目標をもって行うことができる(例えば、WO 02/029028参照、この中ではdsRNA技術により、花弁ではなく萼片を形成するアブラナ科植物が作製されている)。また、転写された配列の発現の低下もしくは不活性化は、種々のゲノム配列決定計画を通じて利用可能となった膨大なヌクレオチド配列に対して機能を割り当てようとしている実験的研究においても、重要な役割を果たす。
【0004】
特に後者にとっては、短いdsRNA配列を用いることが有利でありうる。なぜなら、そのようなオリゴヌクレオチドはin vitroで簡便に作れるからである。高等動物においては、より大きなdsRNA分子がインターフェロン応答を引き起こすらしいという事実を鑑みると、短いdsRNA分子の使用が好ましい(Elbashirら、2001)。
【0005】
これまで、真核生物の細胞内での抑制性RNA(本明細書においては、アンチセンスRNA、センスRNAおよびdsRNAを表すために用いられる)の産生は、ほとんどが共通PolII型プロモーターを認識するDNA依存性RNAポリメラーゼII(PolII)の作用を介して行われている。
【0006】
植物中でのRNAポリメラーゼIIIの作用を介したアンチセンスRNA産生が報告されている。
【0007】
BourqueおよびFolk(1992)は、植物細胞に一過性に送達されたCAT遺伝子の発現の抑制を記載しており、これは、ターミネーターを欠損したダイズtRNAmet遺伝子と融合させたクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼレポーター遺伝子の逆方向配列を含むDNAを共エレクトロポレーションし、それによりtRNAmet配列がRNAポリメラーゼIIIによるCATアンチセンス配列の転写を引き起こすことにより行われた。
【0008】
US 5,354,854は、遺伝子発現を抑制するために、植物において同様のものを用いる発現システムおよび方法を記載しており、この発現システムは、tRNA遺伝子由来の構成的プロモーターエレメントと、RNAポリメラーゼIIIにより該プロモーターエレメントを介して共転写されて遺伝子発現を抑制するための、該プロモーターエレメントに融合させたアンチセンス鎖DNAと、を包含する。
【0009】
Yukawaら(2002)は、ジャガイモ紡錘状塊茎ウイロイド、ホップ潜在ウイロイドおよびジャガイモウイルスSのRNA中の保存された構造エレメントもしくはドメインを標的とするアンチセンスRNA配列(タバコtRNAtyr遺伝子のアンチコドン領域内、またはシロイヌナズナ7SL RNA遺伝子の3’末端近傍に埋め込まれた)を記載し、同種植物抽出物中でのそのようなキメラ遺伝子のin vitro転写を実証した。
【0010】
EP 0 387 775は、ポリメラーゼIIIにより転写される遺伝子の断片および抑制性RNA分子をコードするDNA配列を含むDNA分子(複数コピーで存在してもよい)について記載しかつクレームしており、該DNA分子は、ポリメラーゼIIIによる転写に必要なtRNA遺伝子の転写ユニット(tRNAの二次構造を決定する配列を含む)を含むこと、および抑制性RNA分子が転写産物の一部となるように、抑制性RNA分子をコードするDNA配列が該DNA分子の内部に配列されていることを特徴とする。
【0011】
哺乳類細胞中での低分子の干渉性RNAの発現が、近年多く報告されている。Paddisonら2002;Sook Leeら2002;Miyagishiら2002、Suiら2002;Brummelkampら2002およびPaulら2002、これらは全て、H1-RNAもしくはU6 snRNAのいずれかに由来のRNAポリメラーゼIII特異的プロモーターを用いた、ヒトもしくは哺乳動物細胞中での低分子干渉性RNAの発現について記載している。
【0012】
US 6,146,886は、所望のRNA部分を含む転写された非天然RNA分子について記載しかつクレームしており、この非天然RNA分子は、該RNA中の3’領域と5’相補ヌクレオチドの間の塩基対相互作用により形成された分子内ステムを含み、該分子内ステムは少なくとも8塩基対を含み;該所望のRNA部分はアンチセンスRNA、おとり(decoy)RNA、酵素的RNA、アゴニストRNAおよびアンタゴニストRNAからなる群より選択され、該RNA分子は2型RNAポリメラーゼIIIプロモーターシステムにより転写されるものである。
【0013】
先行技術は、しかしながら、植物細胞中での低分子干渉性dsRNAの高効率発現のための方法を提供するのに依然として不十分である。この問題は、本明細書中で以下に記載するように解決された。
【発明の開示】
【0014】
発明の概要
本発明は、植物細胞中での目的遺伝子の発現を減少させるための方法を提供し、該方法は以下のステップを含む:
(a)植物細胞に対してキメラ遺伝子を供給すること、ただし、該キメラ遺伝子は機能しうるように連結された以下のDNA断片を含むものであること、
i) 植物細胞のDNA依存性RNAポリメラーゼIIIによって認識されるプロモーターであって、DNA依存性RNAポリメラーゼIIIと相互作用する全てのシス作用プロモーターエレメントを含むIII型のプロモーターであることを特徴とするプロモーター、
好ましくは、U6snRNAをコードする遺伝子のプロモーター、U3snRNAをコードする遺伝子のプロモーター、7SL RNAをコードする遺伝子のプロモーターより選択される3型POLIIIプロモーター、
より好ましくは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7または配列番号8のヌクレオチド配列より選択されるプロモーターのヌクレオチド配列を含むプロモーター;
ii)転写された際にはRNA分子をもたらすDNA断片、ただし、該RNA分子は以下のセンスおよびアンチセンスヌクレオチド配列を含むものであること、
(1) 目的遺伝子から転写されたRNAに由来する約19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列に対して約90〜約100%の配列同一性を有する約19個連続したヌクレオチドを含むセンスヌクレオチド配列、
(2) 該センス配列の約19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列の相補体に対して約90〜100%の配列同一性を有する約19個連続したヌクレオチドを含むアンチセンスヌクレオチド配列、
ここで、センスおよびアンチセンスヌクレオチド配列は、約19〜約200ヌクレオチド長の二本鎖RNAを形成できるものであること、
iii)少なくとも4個連続したT残基を含むオリゴdTストレッチ、
(b)該キメラ遺伝子を含まない植物細胞中での目的遺伝子の発現と比較したときに、目的遺伝子の発現が減少している植物細胞を同定すること。
【0015】
本発明はさらに、機能しうるように連結された以下のDNA断片を含むキメラ遺伝子を提供する:
i) 植物細胞のDNA依存性RNAポリメラーゼIIIによって認識されるプロモーターであって、DNA依存性RNAポリメラーゼIIIと相互作用する全てのシス作用プロモーターエレメントを含むIII型のプロモーターであることを特徴とするプロモーター、
好ましくは、U6snRNAをコードする遺伝子のプロモーター、U3snRNAをコードする遺伝子のプロモーター、7SL RNAをコードする遺伝子のプロモーターより選択される3型POLIIIプロモーター、
より好ましくは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7または配列番号8のヌクレオチド配列より選択されるプロモーターのヌクレオチド配列を含むプロモーター;
ii)転写された際にはRNA分子をもたらすDNA断片、ただし、該RNA分子は以下のセンスおよびアンチセンスヌクレオチド配列を含むものであること、
(1) 植物細胞中で目的遺伝子から転写されたRNAに由来する約19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列に対して約90〜約100%の配列同一性を有する約19個連続したヌクレオチドを含むセンスヌクレオチド配列、
(2) 該センス配列の約19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列の相補体に対して約90〜100%の配列同一性を有する約19個連続したヌクレオチドを含むアンチセンスヌクレオチド配列、
ここで、センスおよびアンチセンスヌクレオチド配列は、約19〜約200ヌクレオチド長の二本鎖RNAを形成できるものであること、
iii)少なくとも4個連続したT残基を含むオリゴdTストレッチ。
【0016】
本発明はさらに、上記のキメラ遺伝子を含む植物細胞および植物を提供する。
【0017】
詳細な説明
本発明は、RNAポリメラーゼIIIにより認識される3型プロモーターの制御下にある短いdsRNA分子(好ましくは約20塩基対(bp)から約100bpの範囲)をコードするキメラ遺伝子が、強力な構成的RNAポリメラーゼIIプロモーターCaMV 35Sにより駆動される同様の構築物よりも効率のよい遺伝子サイレンシングをもたらした、という観察に基づいている。
【0018】
これらの3型プロモーターは、該プロモーターの全ての必要なシス作用エレメントが転写される領域の上流の領域に位置しているというさらなる利点を有し、先行技術においてアンチセンスRNAの発現を指令するために用いられていた、RNAポリメラーゼIIIにより認識される2型プロモーターとは対照的である。
【0019】
従って、第1の実施形態では、本発明は植物細胞中で目的遺伝子の発現を減少させるための方法に関し、該方法は以下のステップを含む:
(a)植物細胞に対してキメラ遺伝子を供給すること、ただし、該キメラ遺伝子は機能しうるように連結された以下のDNA断片を含むものであること、
i) 植物細胞のDNA依存性RNAポリメラーゼIIIによって認識されるプロモーターであって、該DNA依存性RNAポリメラーゼIIIと相互作用する全てのシス作用プロモーターエレメントを含むIII型のプロモーターであることを特徴とするプロモーター、
ii)転写された際にはRNA分子をもたらすDNA断片、ただし、該RNA分子は以下のセンスおよびアンチセンスヌクレオチド配列を含むものであること、
(1) 目的遺伝子から転写されたRNAに由来する約19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列に対して約90〜約100%の配列同一性を有する約19個連続したヌクレオチドを含むセンスヌクレオチド配列、
(2) 該センス配列の約19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列の相補体に対して約90〜100%の配列同一性を有する約19個連続したヌクレオチドを含むアンチセンスヌクレオチド配列、
ここで、センスおよびアンチセンスヌクレオチド配列は、約19〜約200ヌクレオチド長の二本鎖RNAを形成できるものであること、
iii)少なくとも4個連続したT残基を含むオリゴdTストレッチ、
(b)該キメラ遺伝子を含まない植物細胞中での前記目的遺伝子の発現と比較したときに、前記目的遺伝子の発現が減少している植物細胞を同定すること。
【0020】
本明細書中で用いる「DNA依存性RNAポリメラーゼIIIによって認識されるプロモーター」とは、RNAポリメラーゼIIIのポリメラーゼ作用を介して、結合したDNA領域の転写を指令するプロモーターのことである。これらには、5S RNA、tRNA、7SL RNA、U6 snRNAおよび他の2,3種類の安定な低分子RNAをコードする遺伝子が含まれ、多くはRNAプロセシングに関与している。Pol IIIにより用いられるプロモーターの大部分は、転写される領域内の、+1の下流にある配列エレメントを必要とする。しかしながら、pol III鋳型の少数は、遺伝子内プロモーターエレメントをまったく必要としない。これらは3型プロモーターと呼ばれる。言い換えると、「3型Pol IIIプロモーター」とは、RNAポリメラーゼIIIによって認識され、かつ全てのシス作用エレメントを含み、通常RNAポリメラーゼIIIによって転写される領域の上流でRNAポリメラーゼIIIと相互作用するプロモーターのことである。従って、このような3型Pol IIIプロモーターは、本発明のdsRNAコード領域のような、転写を希望する異種領域と容易に合体させて、キメラ遺伝子とすることができる。
【0021】
典型的には、3型Pol IIIプロモーターは、TATAボックス(ヒトU6 snRNA遺伝子では-25と-30の間に位置する)および近位配列エレメント(Proximal Sequence Element: PSE;ヒトU6 snRNA遺伝子では-47と-66の間に位置する)を含む。これらはまた、遠位配列エレメント(Distal Sequence Element: DSE;ヒトU6 snRNA遺伝子では-214と-244の間に位置する)を含んでもよい。
【0022】
3型Pol IIIプロモーターは、例えば、7SL RNA、U3 snRNAおよびU6 snRNAをコードする遺伝子と結合した状態で、見出されうる。このような配列は、シロイヌナズナ、イネおよびトマトから単離されており、そのようなプロモーターの代表的な配列は、配列表中に配列番号1〜8として示されている。
【0023】
3型Pol IIIプロモーターについての他のヌクレオチド配列は、ヌクレオチド配列データベース中に以下のエントリーより見出すことができる:7SL RNAについてはシロイヌナズナ(A. thaliana)遺伝子AT7SL-1(X72228)、7SL RNAについてはシロイヌナズナ(A. thaliana)遺伝子AT7SL-2(X72229)、7SL RNAについてはシロイヌナズナ(A. thaliana)遺伝子AT7SL-3(AJ290403)、ホップ(Humulus lupulus)H17SL-1遺伝子(AJ236706)、ホップ(Humulus lupulus)H17SL-2遺伝子(AJ236704)、ホップ(Humulus lupulus)H17SL-3遺伝子(AJ236705)、ホップ(Humulus lupulus)H17SL-4遺伝子(AJ236703)、シロイヌナズナ(A. thaliana)U6-1 snRNA遺伝子(X52527)、シロイヌナズナ(A. thaliana)U6-26 snRNA遺伝子(X52528)、シロイヌナズナ(A. thaliana)U6-29 snRNA遺伝子(X52529)、シロイヌナズナ(A. thaliana)U6-1 snRNA遺伝子(X52527)、トウモロコシ(Zea mays)U3 snRNA遺伝子(Z29641)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)U6 snRNA遺伝子(Z17301;X60506;S83742)、トマトU6核内低分子RNA遺伝子(X51447)、シロイヌナズナ(A. thaliana)U3C snRNA遺伝子(X52630)、シロイヌナズナ(A. thaliana)U3B snRNA遺伝子(X52629)、イネ(Oryza sativa)U3 snRNAプロモーター(X79685)、トマトU3核内低分子RNA遺伝子(X14411)、コムギ(Triticum aestivum)U3 snRNA遺伝子(X63065)、コムギ(Triticum aestivum)U6 snRNA遺伝子(X63066)。
【0024】
変異型3型Pol IIIプロモーターがトマト、イネまたはシロイヌナズナの他の変種から、または他の植物種から、ほとんど実験操作を必要とせずに単離しうることは言うまでもない。例えば、そのような植物に由来するゲノムクローンのライブラリーから、U6 snRNA、U3 snRNAまたは7SL RNAコード配列(例えば、登録番号により特定された上述の配列のいずれかのコード配列、さらにソラマメ(Vicia faba)U6 snRNAコード配列(X04788)、U6 snRNAについてはトウモロコシDNA(X52315)または7SL RNAについてはトウモロコシDNA(X14661))をプローブとして用いることにより単離することができ、上流配列、好ましくは転写される配列の約300〜400bp上流の配列を単離して、3型Pol IIIプロモーターとして用いることができる。あるいはまた、逆PCRまたはTAIL(登録商標)-PCRのようなPCRに基づいた技術を用いて、転写される既知の領域に隣接したプロモーター配列を含むゲノム配列を単離してもよい。さらに、添付した3型Pol IIIプロモーター配列、または登録番号によって特定された上述のプロモーター配列のいずれかを、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でのプローブとして、またはPCRプライマーを作製する際の情報源として用いて、他の変種もしくは植物種から対応するプロモーター配列を単離することができる。
【0025】
本明細書中で用いる「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」とは、プローブと標的配列の間に少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%の配列同一性がある場合に、ハイブリダイゼーションが全体的におこることを意味する。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は、50%ホルムアミド、5x SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH 7.6)、5x Denhardt溶液、10%硫酸デキストラン、および20μg/ml変性剪断キャリアDNA(例えばサケ精子DNA)を含む溶液中での一晩のインキュベーション、その後の、0.1x SSC中、約65℃でのハイブリダイゼーション支持体の洗浄である。他のハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は公知であり、Sambrookら、Molecular Cloning: A laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor、NY(1989)の、特に11章に例示されている。
【0026】
3型Pol IIIプロモーターは、転写される領域中に位置するシス作用エレメントを必要としないが、転写開始点の下流に通常位置する配列が本発明のキメラ構築物に含まれうることは明らかである。
【0027】
また、もともとは単子葉植物から単離された3型Pol IIIプロモーターは、双子葉と単子葉の両方の植物もしくは植物細胞において有効に用いられうる一方で、もともとは双子葉植物から単離された3型Pol IIIプロモーターは、双子葉の植物もしくは植物細胞においてのみ効率よく用いられうることが観察されている。さらに、最も効率的な遺伝子サイレンシングは、同種かまたは近縁種に由来する3型Pol IIIプロモーターを含むキメラ遺伝子を用いたときに、達成されている。
【0028】
本明細書中で用いる「目的遺伝子」は、関心のあるどのような核酸でもよいが、RNA分子に転写され(または複製され)、かつ転写後RNA分解をうけやすいものである。これらには、トランスジーン、内在性遺伝子および転写されるウイルス配列が含まれるが、これらに限定されない。本発明の方法のためには、目的遺伝子のヌクレチド配列を知っている必要がないことも、自明であろう。実際、小断片を直接得て、3型Pol IIIプロモーターの制御下に、逆反復方向でそれらを機能的に連結することが可能である。
【0029】
上記のように、転写されるDNA領域は、センスおよびアンチセンスヌクレオチド領域を含むRNA分子をコードすべきであり、ここでセンスヌクレオチド配列は、目的遺伝子から転写されたRNAに由来する約19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列に対して約90〜約100%の配列同一性を有する約19個連続したヌクレオチドを含み、アンチセンスヌクレオチド配列は、センス配列の約19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列の相補体に対して約90〜100%の配列同一性を有する約19個連続したヌクレオチドを含むものである。該センスおよびアンチセンスヌクレオチド配列は、長さが約19〜約200ヌクレオチド、特に約21〜約90もしくは100ヌクレオチド、さらに特定すると約40〜約50ヌクレオチド長の二本鎖RNAを形成すべきである。しかしながら、dsRNAステムの長さはまた、約30、約60、約70または約80ヌクレオチド長であってもよい。dsRNA領域が19ヌクレオチドより長い場合には、以下のような必要条件が唯一存在することが明らかだろう。すなわち、約19ヌクレオチドの二本鎖領域(ここで、センスおよびアンチセンス領域の間に、約1ヶ所のミスマッチがあってもよい)が少なくとも1つ存在し、そのセンス鎖は、標的核酸または目的遺伝子の19個連続したヌクレオチドと「同一」(1ヶ所のミスマッチが許される)である。
【0030】
本発明においては、2つの関連したヌクレオチド配列の「配列同一性」(%で表される)は、2つの最適にアラインされた配列中の、同一の残基を有する位置の数を、比較した位置の数で割り算した値(x100)を指す。ギャップ、すなわちアライメントにおいて一方の配列には残基が存在するが他のものには存在しない位置は、非同一残基を有する位置とみなされる。2つの配列のアライメントは、NeedlemanとWunschのアルゴリズム(Needleman and Wunsch、1970)コンピュータ支援配列アライメントにより行われ、これは、Wisconsin Package Version 10.1(Genetics Computer Group、Madison、Wisconsin、USA)の一部であるGAPのような標準的なソフトウェアプログラムを用いて、ギャップ導入ペナルティー(gap creation penalty)を50、ギャップ延長ペナルティー(gap extension penalty)を3として、デフォルトスコアマトリックスを用いて容易に行うことができる。
【0031】
転写されるDNA領域は、3〜約100ヌクレオチド、より具体的には約6〜約40ヌクレオチドの範囲のヌクレオチドのストレッチを含むことができ、該ストレッチはセンスおよびアンチセンスコードヌクレオチド領域の間に位置し、標的遺伝子のヌクレオチド配列には関係がない(いわゆるスペーサー領域)。
【0032】
本発明のキメラ遺伝子(短いアンチセンスおよびセンス断片を有する被転写DNA領域を含む)は、クローニング工程において、短いアンチセンスおよびセンス断片の間にスタッファー(stuffer)DNA配列を用いて都合よく構築することができ、このスタッファーDNA配列はその後取り除くことができる。そのためには、スタッファーセグメントが、レアカット(rare-cutting)制限酵素のような制限酵素の認識部位を備えるようにする。この制限酵素認識部位により、容易なスタッファー配列の除去およびクローニングベクターの再ライゲーション(自己ライゲーション)が可能となり、これにより短いセンスおよびアンチセンス領域が互いに接近するようになる。図1に概要を示すように、短いセンス配列、センス配列に相補的な短いアンチセンス配列およびスタッファーDNA配列を含むDNA断片は、センスもしくはアンチセンス配列を含むオリゴヌクレオチドプライマー、およびスタッファーDNA配列の部分に対応する配列を用いたPCR増幅により都合よく構築することができる。
【0033】
上述の「オリゴdTストレッチ」は、RNAポリメラーゼIII活性のターミネーターとして働く連続したT残基のストレッチである。これは少なくとも4個のT残基を含むべきであるが、それ以上のT残基を含んでもよいことは明らかである。
【0034】
本発明のキメラ遺伝子は、当該技術分野で利用可能ないずれかのDNA形質転換法を用いて植物細胞に導入することにより植物細胞に供給することができ、そのような方法には、限定するものではないが、アグロバクテリウムを介した形質転換、マイクロプロジェクタイル法(microprojectile bombardment)、プロトプラストもしくは植物組織への直接DNA取り込み(エレクトロポレーション、PEG媒介取り込み、等による)が含まれ、一過性にまたは安定して形質転換された植物細胞をもたらしうる。キメラ遺伝子はまた、植物細胞中で複製可能なウイルスベクターを用いて植物細胞に供給することもできる。キメラ遺伝子はまた、少なくとも一方の親植物が本発明のキメラ遺伝子を含む、そのような親植物を交配させることにより植物細胞に供給することもできる。
【0035】
本明細書中で用いる「目的遺伝子の発現を減少(または低下)させる」とは、本発明のdsRNAもしくはキメラ遺伝子の存在下での植物細胞中の目的遺伝子の発現と、本発明のdsRNAもしくはキメラ遺伝子の非存在下での目的遺伝子の発現との比較を指す。要するに、本発明のキメラRNAの存在下では、その非存在下に比べて発現が低くなるはずであり、例えば、キメラRNA非存在下での発現の約70%または50%または10%または約5%にすぎない。発現は、あらゆる実用的な目的のために、キメラRNAまたはそのようなRNAをコードするキメラ遺伝子の存在によって完全に阻害されてもよい。
【0036】
目的遺伝子の発現の減少は、その遺伝子(の一部分)の転写の減少、その遺伝子(の一部分)の翻訳の減少、または転写されたRNAもしくは翻訳されたポリペプチドの存在が植物細胞もしくは植物に与える影響の減少として測定することができ、最終的には表現型形質の変化を引き起こすだろう。目的遺伝子の発現の減少は、他の遺伝子の発現の増加を伴ってもよいし、そのような増加に相関してもよいことは自明である。dsRNAの主な作用は特定のRNAの転写後分解であるが、転写過程に対するdsRNAの作用が報告されている。そのような別の作用もまた、dsRNAによって仲介される目的遺伝子の発現の減少に寄与するであろう。
【0037】
本発明の他の実施形態は、本明細書中に記載するキメラ遺伝子に関し、同様に本発明のキメラ遺伝子を含む植物、植物細胞、植物組織または種子に関する。
【0038】
本発明のキメラ遺伝子を含む植物細胞および植物を提供することも本発明の目的である。本発明のキメラ遺伝子を含む植物の、配偶子、種子、胚(接合子または体細胞のいずれか)、子孫またはハイブリッド体(いずれも慣習的な繁殖方法により作出される)もまた本発明の範囲に含まれる。
【0039】
本明細書に記載した方法および手段は、全ての植物細胞もしくは植物、以下のものを含むがそれらに限らない双子葉および単子葉の両方の植物細胞もしくは植物に好適であると考えられる:ワタ、アブラナ属野菜、アブラナ、コムギ、トウモロコシ、オオムギ、ヒマワリ、イネ、オートムギ、サトウキビ、ダイズ、野菜類(チコリ、レタス、トマトを含む)、タバコ、ジャガイモ、サトウダイコン、パパイヤ、パイナップル、マンゴー、シロイヌナズナ、および園芸、草花栽培もしくは林業に用いられる植物。
【0040】
以下の非限定的な実施例は、低分子dsRNAにより植物細胞中での目的遺伝子の発現を減少させるためのキメラ遺伝子の構築、およびそのような遺伝子の使用について記載する。
【0041】
実施例中に特に断らない限り、全ての組換えDNA技術は、以下の文献に記載されているような標準的プロトコールに従って行われる:Sambrookら(1989)Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、NYおよびAusubelら(1994)Current Protocols in Molecular Biology、Current Protocols、USAの第1および2巻。植物の分子生物学実験のための標準的な材料および方法は、Plant Molecular Biology Labfax(1993)(R.D.D. Croy著、BIOS Scientific Publications Ltd(UK)およびBlackwell Scientific Publications(UK)共同出版)に記載されている。標準的な分子生物学技術に関する他の参考文献は、Sambrook and Russel(2001)Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、NY;Brown(1998)Molecular Biology Labfax、第2版、Academic Press(UK)を含む。ポリメラーゼ連鎖反応についての標準的な材料および方法は、Dieffenbach and Dveksler(1995)PCR Primer: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、およびMcPhersonら(2000)PCR-Basics: From Background to Bench、初版、Springer Verlag、Germanyに見出すことができる。
【0042】
詳細な説明および実施例を通して、以下の配列に言及する:
配列番号1: シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)変種Landsberg erectaの7SL-2遺伝子のプロモーターの配列、それに続くユニーク制限酵素認識部位、その後のオリゴdTストレッチ。
【0043】
配列番号2: シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)変種Landsberg erectaの7SL-2遺伝子のプロモーターの配列(転写開始部位の下流の86塩基を含む)とそれに続くユニーク制限酵素認識部位、その後のオリゴdTストレッチ。
【0044】
配列番号3: シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)変種Landsberg erectaのU3B snRNA遺伝子のプロモーターの配列、それに続くユニーク制限酵素認識部位、その後のオリゴdTストレッチ。
【0045】
配列番号4: シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)変種Landsberg erectaのU3B snRNA遺伝子のプロモーターの配列(翻訳開始部位の下流の136塩基を含む)、それに続くユニーク制限酵素認識部位、その後のオリゴdTストレッチ。
【0046】
配列番号5: シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)変種Landsberg erectaのU6-26 snRNA遺伝子のプロモーターの配列(翻訳開始部位の下流の3塩基を含む)、それに続くユニーク制限酵素認識部位、その後のオリゴdTストレッチ。
【0047】
配列番号6: シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)変種Landsberg erectaのU6-26 snRNA遺伝子のプロモーターの配列(翻訳開始部位の下流の20塩基を含む)、それに続くユニーク制限酵素認識部位、その後のオリゴdTストレッチ。
【0048】
配列番号7: イネ(Oryza sativa Indica IR36)のU3 snRNA遺伝子のプロモーターの配列、それに続くユニーク制限酵素認識部位、その後のオリゴdTストレッチ。
【0049】
配列番号8: トマト(小瓜形の黄色果実を有する園芸品種)のU3 snRNA遺伝子のプロモーターの配列、それに続くユニーク制限酵素認識部位、その後のオリゴdTストレッチ。
【0050】
配列番号9: GUS遺伝子の発現をサイレンシングするための94bpのdsRNAコード領域の配列(GUShp94)。
【0051】
配列番号10: GUS遺伝子の発現をサイレンシングするための41bpのdsRNAコード領域の配列(GUShp41)。
【0052】
配列番号11: GUS遺伝子の発現をサイレンシングするための21bpのdsRNAコード領域の配列(GUShp21)。
【0053】
配列番号12: PHYBの5’末端に由来する、PHYB遺伝子の発現をサイレンシングするための42bpのdsRNAコード領域の配列(PHYB5hp42)-上方鎖。
【0054】
配列番号13: PHYBの5’末端に由来する、PHYB遺伝子の発現をサイレンシングするための42bpのdsRNAコード領域の配列(PHYB5hp42)-下方鎖。
【0055】
配列番号14: PHYBの5’末端に由来する、PHYB遺伝子の発現をサイレンシングするための21bpのdsRNAコード領域の配列(PHYB5hp21)-上方鎖。
【0056】
配列番号15: PHYBの5’末端に由来する、PHYB遺伝子の発現をサイレンシングするための21bpのdsRNAコード領域の配列(PHYB5hp21)-下方鎖。
【0057】
配列番号16: PHYBの中央部に由来する、PHYB遺伝子の発現をサイレンシングするための42bpのdsRNAコード領域の配列(PHYBChp42)-上方鎖。
【0058】
配列番号17: PHYBの中央部に由来する、PHYB遺伝子の発現をサイレンシングするための42bpのdsRNAコード領域の配列(PHYBChp42)-下方鎖。
【0059】
配列番号18: PHYBの中央部に由来する、PHYB遺伝子の発現をサイレンシングするための21bpのdsRNAコード領域の配列(PHYBChp21)-上方鎖。
【0060】
配列番号19: PHYBの中央部に由来する、PHYB遺伝子の発現をサイレンシングするための21bpのdsRNAコード領域の配列(PHYBChp21)-下方鎖。
【0061】
配列番号20: PHYBの3’末端に由来する、PHYB遺伝子の発現をサイレンシングするための42bpのdsRNAコード領域の配列(PHYB3hp42)-上方鎖。
【0062】
配列番号21: PHYBの3’末端に由来する、PHYB遺伝子の発現をサイレンシングするための42bpのdsRNAコード領域の配列(PHYB3hp42)-下方鎖。
【0063】
配列番号22: PHYBの3’末端に由来する、PHYB遺伝子の発現をサイレンシングするための21bpのdsRNAコード領域の配列(PHYB3hp21)-上方鎖。
【0064】
配列番号23: PHYBの3’末端に由来する、PHYB遺伝子の発現をサイレンシングするための21bpのdsRNAコード領域の配列(PHYB3hp21)-下方鎖。
【0065】
配列番号24: PDS遺伝子の発現をサイレンシングするための42bpのdsRNAコード領域の配列(PDS42)-上方鎖。
【0066】
配列番号25: PDS遺伝子の発現をサイレンシングするための42bpのdsRNAコード領域の配列(PDS42)-下方鎖。
【0067】
配列番号26: PDS遺伝子の発現をサイレンシングするための21bpのdsRNAコード領域の配列(PDS21)-上方鎖。
【0068】
配列番号27: PDS遺伝子の発現をサイレンシングするための21bpのdsRNAコード領域の配列(PDS21)-下方鎖。
【0069】
配列番号28: GUS遺伝子の発現をサイレンシングするための42bpのdsRNAコード領域の配列(GUS-A)。
【0070】
配列番号29: GUS遺伝子の発現をサイレンシングするための42bpのdsRNAコード領域の配列(GUS-B)。
【0071】
配列番号30: GUS遺伝子の発現をサイレンシングするための42bpのdsRNAコード領域の配列(GUS-C)。
【0072】
配列番号31: EINの発現をサイレンシングするための42bpのdsRNAコード領域の配列(EIN-A)。
【0073】
配列番号32: EINの発現をサイレンシングするための42bpのdsRNAコード領域の配列(EIN-B)。
【0074】
配列番号33: EINの発現をサイレンシングするための42bpのdsRNAコード領域の配列(EIN-C)。
【実施例】
【0075】
実施例1. 3型Pol IIIプロモーター-オリゴdTストレッチカセットの構築
3型Pol IIIプロモーターは、シロイヌナズナ、イネもしくはトマトの7SL、U3snRNAもしくはU6snRNA遺伝子からPCR増幅を用いて単離した。そのPCR増幅は以下のように設計した:
a)得られる断片が、増幅された断片中には存在しない制限酵素認識部位によって挟まれており、
b)プロモーター断片の後にユニーク制限酵素認識部位(SalI、XhoIまたはPvuI)が続き、その後に、
c)Pol IIIターミネーターとしてポリ(T)配列(7〜9個のT残基を有する)が続く。
【0076】
クローニングされたプロモーター断片のいくつかには、転写開始部位の下流のコード領域の追加の配列が含まれていたが、それは、低分子RNAのコード領域中の保存モチーフが転写および/または遺伝子サイレンシングに及ぼしうる影響を調べるためであった。結果として得られた断片(配列番号1〜8に表される)を中間クローニングベクターにクローニングした(表1参照)。センス、アンチセンスまたは逆方向反復配列は、3型Pol IIIプロモーターとポリTストレッチの間のユニーク制限酵素認識部位に容易に挿入することができる。
【表1】

【0077】
実施例2. GUSレポーター遺伝子に対する遺伝子サイレンシング構築物中のPolIIIプロモーターの試験(Nicotiana tabacum(タバコ))
これらのPolIIIプロモーターをサイレンシングについて調べるために、GUS逆方向反復配列(配列番号9)を合成したが、これは、GUSの186bpセンス配列(GUSコード配列のヌクレオチド690-875)を、その3’末端で、該186bp断片の最初の94bpのアンチセンス配列(GUSコード配列のヌクレオチド690-783)と融合させたものから成る。このi/r(inverted-repeat;逆方向反復)配列は、2つのSalIサイトおよび2つのPvuIサイトによって挟まれており、従ってSalIもしくはPvuI断片としてPolIIIプロモーターベクター中にクローニングすることができる。i/r GUS配列(GUShp94)を用いて、表1中に記載された全てのPolIIIプロモーターを含む構築物を作製した(表2参照)。GUShp94配列に加えて、GUShp41a(9bpの非GUS配列により隔てられたステム中の41bp;配列番号10)およびGUShp21(6bpの非GUS配列により隔てられたステム中の21bp;配列番号11)のような、より小さなi/r GUS配列を用いて、AtU3B+136プロモーター(配列番号4)およびCaMV35Sプロモーターを含む構築物も作製した(表2)。
【表2】

【0078】
これらの構築物を、植物形質転換用のバイナリーベクターpART27またはpWBVec4aに導入した。GUSを発現する2つの異なるトランスジェニックタバコ系統を、これら全ての構築物により形質転換した。GUShp94配列が35Sプロモーターにより駆動されている対照構築物(pART7中)も含めた。
【0079】
発根培養基中の形質転換されたタバコ植物に由来する葉組織を、GUS活性についてアッセイし(蛍光分析MUGアッセイ)、結果を表3にまとめてある。
【0080】
結果は、AtU3(pMBW468)、At7SL(pMBW470)、At7SL+86(pMBW472)、AtU3+3(pMBW476)、AtU3+20(pMBW477)およびTomU3(pLMW64)プロモーターを含むGUShp94構築物が、全て、タバコにおいてGUS遺伝子のサイレンシングを活性化したことを示している。AtU3、AtU6+20およびTomU3構築物は、他よりも有効であると思われた。AtU3+136構築物(pMBW466)は、タバコにおいて顕著なGUSサイレンシングをもたらさないようであった。また、OsU3構築物(pMBW473)も低レベルのGUSサイレンシングしかもたらさないように思えた。PolIIIプロモーター構築物pLMW58(AtU3+136-GUShp41a)はタバコにおいて顕著なレベルのGUSサイレンシングをもたらしたが、35S構築物pLMW53(35S-GUShp41a)はサイレンシングをもたらさず、このことは、小ヘアピンRNAの発現を駆動するのに、PolIIIプロモーターがPolIIプロモーターよりも有効であることを示唆している。
【表3】

【0081】
実施例3. GUSレポーター遺伝子に対する遺伝子サイレンシング構築物中のPolIIIプロモーターの試験(Arabidopsis thaliana(シロイヌナズナ))
実施例2と同様の構築物を作製し、pWBVec4aにクローニングし(表4参照)、CaMV35S-GUS遺伝子を発現するトランスジェニックシロイヌナズナ系統を形質転換するのに用いた。
【表4】

【0082】
選択薬剤PPTに対して高レベルの耐性を示したT1植物の葉組織を、GUS活性についてアッセイした。MUGアッセイデータを表5にまとめてある。
【0083】
GUShp94配列に関しては、全てのU3およびU6プロモーター駆動構築物がGUSサイレンシングをもたらしたが、TomU3およびAtU6+20はより安定した、良好なサイレンシングをもたらした。2つのAt7SLプロモーター構築物は顕著なGUSサイレンシングをもたらさないようであったが、2,3の系統は中程度のサイレンシングを示し、これは内在性プロモーターに隣接するT-DNA挿入によるものである可能性がある。
【0084】
GUShp41配列については、AtU3+136構築物がGUSサイレンシングの程度に関して35S構築物よりも有効であり、この場合も、植物中での小ヘアピンRNAの発現を駆動するのにPolIIIプロモーターがPolIIプロモーターよりも有効であることを示唆している。
【表5】

【0085】
実施例4. GUSレポーター遺伝子に対する遺伝子サイレンシング構築物中のPolIIIプロモーターの試験(Oryza sativa(イネ))
構築物pMBW479、pMBW481、pMBW485、pMBW486およびpLMW62(表4参照)を、Ubil-GUS-nos遺伝子を発現するイネに超迅速形質転換した。GUS染色は、pMBW485(OsU3-GUShp94)およびpMBW479(35S-GUShp94)のみが、内在するGUS遺伝子に対して顕著なサイレンシングをもたらしたことを示した。これらの結果は、双子葉植物3型PolIIIプロモーターが単子葉植物では機能していないことを示している。
【0086】
実施例5. シロイヌナズナ内在性遺伝子に対する遺伝子サイレンシング構築物中PolIIIプロモーターの試験
シロイヌナズナU6-26構築物は、-446から+3bpまでのプロモーター(配列番号5)およびPCRによって付加された追加の配列を含み、断片の両端にXhoIサイトが形成される。これらをpGEM由来のプラスミドのSalIサイトにPCR産物をクローニングするのに用いた。NotIでインサートを切り出し、植物形質転換用のpART27バイナリーベクターに挿入した。また、このPCRは、オリゴヌクレオチド配列の挿入のためのSalIサイトをプロモーターと終止配列(T8)の間に組み込んだ。
【0087】
2つの遺伝子を標的とした。フィトエンデサチュラーゼ(PDS、サイレンシングは光退色表現型をもたらす)およびフィトクロムB(PHYB、サイレンシングは白色光中での胚軸伸長をもたらす)である。PDSに関しては単一の標的領域を選択し、PHYBに関しては3つの標的領域を用い、それらはそれぞれ、5’UTR、フィトクロム間で保存されたコード配列の領域、および3’UTRに由来する。それぞれの標的領域に対して、2つのオリゴヌクレオチドを作製し、一方は21bp長の二本鎖部分を作るためであり、他方は42bpの二本鎖部分を作るためであった。二本鎖オリゴは、2つの一本鎖(上方鎖および下方鎖)として作製し、アニーリングして二本鎖DNA断片を形成させた。SalI適合性末端を作り出すために、5’および3’末端に突出配列を含めた。これらのオリゴ配列は、配列表中に、PHYB構築物に関しては配列番号12〜23として、PDS構築物に関しては配列番号24〜27として表してある。
【0088】
PDShp42構築物は、調べた植物のほとんどにおいて表現型をもたらした。結果は表6にまとめてある。
【表6】

【0089】
35Sプロモーターの制御下にあるdsRNAコード領域PDS42を有する構築物の挿入は、U6プロモーターの制御下にdsRNAコード領域PDS42を有する構築物と比較して、サイレンシング表現型を示さない植物をより多くもたらし、表現型を示す植物は、弱く退色した子葉の表現型を示したにすぎず、葉の退色をまったく示さなかった。
【0090】
PHYBサイレンシング実験に関しては、ほとんどの満足なサイレンシング結果はPHYBC42 dsRNAコード領域を用いて得られたものであり、この場合植物の大部分は対照よりも伸長を示した。他の構築物のほとんどは、表現型を示さないか、そうでなければ1つか2つの植物のみが表現型を示し、このことは、標的配列の選択が重要であることを示唆している。
【0091】
白色光下で生育させた植物の胚軸長を測定し、5mmずつの分類にグループ分けした。表7のデータのまとめから、U6プロモーター駆動構築物が、CaMV35Sプロモーター駆動構築物より効果的であるようだが、これらの結果は、上述のPDSサイレンシング実験の場合ほど顕著ではなかった。
【表7】

【0092】
従って、前記実験から以下の結論を導き出すことができる:
1. 3型Pol IIIプロモーターは植物細胞中でdsRNA分子の発現を効果的に駆動するのに用いることができる;
2. At U6プロモーターは、試験したうちでは最も有効なプロモーターであるようである;
3. 単子葉植物PolIIIプロモーターは単子葉植物と双子葉植物の両者において機能的だが、双子葉植物プロモーターは単子葉植物において機能的でないようである;
4. III型Pol IIIプロモーターは、比較的短いヘアピン配列を用いた遺伝子サイレンシングに関してはCaMV35Sプロモーターよりも有効であるようである。
【0093】
実施例6. 小ヘアピンRNAをコードする構築物を用いた追加実験
図1に概略を示したクローニング戦略を用いることにより、20の新しい小ヘアピン構築物(表8にまとめてある)を作製した。これら構築物の全てに由来する推定上の小hpRNAは、42bpのdsRNAステム(標的遺伝子配列に対応する)および9-ntループ(非標的配列)を含む。EIN2(配列番号31〜33に表してある)またはGUS(配列番号28〜30に表してある)の異なる領域に対応する3つの標的配列を選択した。これらの構築物を用いてタバコを形質転換し、対応する内在性(EIN2)またはレポーター(GUS)遺伝子のサイレンシングを誘導するそれらの効力を評価した。
【0094】
タバコの新芽をGUS発現についてアッセイし、結果を表9に示す。
【0095】
結果は、以下のことを示している:
1)小GUSヘアピン構築物のほとんどは良好なGUSサイレンシングをもたらした;
2)PolIIIプロモーター駆動構築物pLMW164およびpLMW165は、35Sプロモーター駆動構築物pLMW155よりも安定したGUSサイレンシングをもたらした。
【表8】

【表9】

【0096】
引用文献
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【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】短いdsRNA配列をコードするコード領域を作り出し、取り扱うのに便利なクローニング戦略を示した模式図である。
【配列表】
















【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物細胞中での目的遺伝子の発現を減少させるための方法であって、以下のステップ:
(a)前記植物細胞に対してキメラ遺伝子を供給すること、ただし、該キメラ遺伝子は機能しうるように連結された以下のDNA断片を含むものであること、
i) 前記植物細胞のDNA依存性RNAポリメラーゼIIIによって認識されるプロモーターであって、該DNA依存性RNAポリメラーゼIIIと相互作用する全てのシス作用プロモーターエレメントを含むIII型のプロモーターであることを特徴とするプロモーター、
ii)転写された際にはRNA分子をもたらすDNA断片、ただし、該RNA分子は以下のセンスおよびアンチセンスヌクレオチド配列を含むものであること、
(1) 前記目的遺伝子から転写されたRNAに由来する約19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列に対して約90〜約100%の配列同一性を有する約19個連続したヌクレオチドを含むセンスヌクレオチド配列、
(2) 該センス配列の約19個連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列の相補体に対して約90〜100%の配列同一性を有する約19個連続したヌクレオチドを含むアンチセンスヌクレオチド配列、
ここで、センスおよびアンチセンスヌクレオチド配列は、約19〜約200ヌクレオチド長の二本鎖RNAを形成できるものであること、
iii)少なくとも4個連続したT残基を含むオリゴdTストレッチ、
(b)該キメラ遺伝子を含まない植物細胞中での前記目的遺伝子の発現と比較したときに、前記目的遺伝子の発現が減少している植物細胞を同定すること、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記プロモーターが、U6snRNAをコードする植物遺伝子のプロモーター、U3snRNAをコードする植物遺伝子のプロモーター、または7SL RNAをコードする植物遺伝子のプロモーターから選択される3型POLIIIプロモーターである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プロモーターが、
配列番号1の7位のヌクレオチドから322位のヌクレオチドまで、
配列番号2の7位のヌクレオチドから408位のヌクレオチドまで、
配列番号3の7位のヌクレオチドから313位のヌクレオチドまで、
配列番号4の7位のヌクレオチドから446位のヌクレオチドまで、
配列番号5の7位のヌクレオチドから436位のヌクレオチドまで、
配列番号6の7位のヌクレオチドから468位のヌクレオチドまで、
配列番号7の7位のヌクレオチドから384位のヌクレオチドまで、および
配列番号8の7位のヌクレオチドから421位のヌクレオチドまで、
のヌクレオチド配列より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記植物細胞が双子葉植物細胞であり、前記プロモーターが双子葉もしくは単子葉の植物または植物細胞に由来するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記植物細胞が単子葉植物細胞であり、前記プロモーターが単子葉植物もしくは植物細胞に由来するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記プロモーターが、前記植物細胞にとって内在性のものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記目的遺伝子がトランスジーンである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記目的遺伝子が内在性遺伝子である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記植物細胞が植物内に含まれる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のキメラ遺伝子。
【請求項11】
請求項10に記載のキメラ遺伝子を含む植物細胞。
【請求項12】
請求項10に記載のキメラ遺伝子をその植物細胞中に含む植物。

【図1】
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【公表番号】特表2006−517791(P2006−517791A)
【公表日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501366(P2006−501366)
【出願日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【国際出願番号】PCT/AU2004/000199
【国際公開番号】WO2004/073390
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(591269435)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼーション (23)
【氏名又は名称原語表記】COMMONWEALTH SCIENTIFIC AND INDUSTRIAL RESEARCH ORGANIZATION
【Fターム(参考)】