説明

短下肢装具

【課題】靴と干渉する出っ張りがなく、軽量な、装着感の良い短下肢装具を提供すること。また踝関節が自由に回転できて足首が動き、構造が簡便で、製作の容易な短下肢装具を提供すること。
【解決手段】足を下から支えるのでは無く、添体を脛および足の甲の側に配置して足を吊り上げる構造とした。また、踝関節が回転できるよう、添体を脛添体と甲添体の2つに分けた。2つの添体を踝関節の回転軸の延長上に配置した回転ベアリングで接続するのではなく、新たに考案した可動連結機構を脛添体と甲添体の間、すなわち踝関節の前に配置し、脛添体と甲添体を可動になるように接続した。また、足を吊り上げるための力発生機構を同様に配置し、甲添体を脛添体に対して決められた位置に吊り上げた。可動連結機構と力発生機構は弾性部材を使い簡便な構造とした。歩行を円滑にする短下肢装具を実現した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は短下肢装具に関するものであり、足首関節を自己の意思で自由に動かすことのできない患者が、歩行の際の補助具として使用する為のものである。
【背景技術】
【0002】
本発明の説明において、特にことわらないかぎり、以下の言葉は次のように使うものとする。「先」という場合は下腿の長手方向でつま先に近いことを指しているものとする。「先」の逆は「後」である。「表」という場合は短下肢の断面の円周方向で前後を指しているものとする。「表」の逆は「裏」である。
【0003】
したがって「脛(すね)」と言う場合は、膝から下で、踝(くるぶし)から上の範囲で、短下肢の「表」側を指しているものとする。脛の裏側は「脹脛(ふくらはぎ)」である。
【0004】
また「足」と言う場合は、下肢全体ではなく踝から先を指しているものとする。
【0005】
「甲」と言う場合は、「足」の(「上」側ではなく)「表」側を指しているものとする。
【0006】
脳溢血や脳梗塞等の患者は、片麻痺によって足首関節を自分の意思で自由に動かすことができないという障害を生じることがある。この障害を負った患者は、歩行の際に足先を持ち上げることができず、足先が下がる為に、爪先が地面や床に引っかかる等して上手く歩けないことから、補助具として足先を持ち上げる短下肢装具が一般に用いられている。
【0007】
従来例の歩行時での作用機構を説明する前に、先ず健常者の歩行時における足の動きについて説明する。例えば右足に注目すると、先ず踵が接地され(heel
contact)、続いて足底全面が接地され(foot flat)、当該右足のみで体を支持しつつ左足を前に出した後、右足の踵が床から離れ(heel off)、次いで足先も離れて(toe
off)右足が床から浮いた状態で前に出される(右遊脚期)。そして再び踵が接地されて(heel contact)、この一連の動作が繰り返される。
【0008】
しかし、足首関節を自由に動かせない麻痺患者の場合では、前脛骨筋が上手く働かずに、足を上げると足先が下がり、前に移動する前に足先が接地してしまい、ひきずる状態となり、充分に足が前に出ない状態の歩行となる。また足をひきずる状態では、わずかの地面の凹凸でも、つまずく原因となることもあいまって、歩行は困難となる。
【0009】
従来の短下肢装具は、足首をほぼ90°に曲げた状態に固定するタイプの固定型の装具が主流である。(従来例▲1▼:特許文献1のうちの図5参照)これは足底を載せる足載置体と脹脛にあてがう脹脛添体が連続する一体型の添体を用い、短下肢の裏側を広く覆って、足先を下から持ち上げるものである。ギブスのように足首を固定してしまうので、上に述べたような、自由な足の動きはできず、歩行のときは踵か足先しか接地できない。そのため、患者は、装具が原因で不自然な動きを強いられている。
しかし構造が簡単であるので、今でも多くつかわれている。
【0010】
本発明の説明においては、このようなタイプの短下肢装具を固定型と呼ぶものとする。
【0011】
また最近では、歩行時における足首の底屈動作(足先が垂れ下がる方向に曲げる動作)や背屈動作(足先が持ち上がる方向に曲げる動作)を可能とする短下肢装具が提案されている。(例えば、特許文献1〜2参照)
【0012】
この短下肢装具としては例えば特開平9−103443号公報に示されるものがある。(従来例▲2▼:特許文献1参照)該装具は、同広報の図1[従来例▲2▼の一実施例を示す正面図]に示す様に、足底を載せる足載置体と脹脛にあてがう脹脛添体を分離して、踝部に両者を連結する軸受を置き、足首の底屈動作や背屈動作を可能としている。また脹脛添体の背に圧縮スプリングを縦方向に設け、この弾性復元力によって足先が下がらないように支えている。
【0013】
別の例として特開2004−166811号公報に示されるものがある。〔従来例▲3▼:特許文献2参照〕該装具は同広報の図1に示すように、添体を足底を載せる足載置体と脹脛にあてがう脹脛添体に分離して、足首の底屈動作や背屈動作を可能としている。そのために、足外側の連結軸を介して底屈及び背屈方向に揺動可能に連結する連結部材を備えている。また連結軸は、足の外側踝に対応する位置に設けられ、且つ外側踝が侵入可能な中空状に形成されている。
なお足載置体が脹脛添体に対して特定の基準位置から底屈方向へ移動する際に当該足載置体に抗力を与え、且つ当該足載置体を前記基準位置に戻す方向の復帰力を与える力付与手段を備えている。力付与手段は油圧緩衝器による流体抵抗力と、コイルバネによる弾発力によって作用する。
【0014】
本発明の説明においては、このような足首の底屈動作や背屈動作を可能とするタイプの短下肢装具を可動型と呼ぶものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平9−103443号公報
【特許文献2】特公2004−166811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
第1の課題は、固定型の短下肢装具についてのものである。
従来の足底を載せる足載置体と脹脛にあてがう脹脛添体が連続する添体が一体型のものは、脹脛と踵と足裏を広く覆うので、短下肢にぴったりと合うように製作しなければならず、一人一人足型を取る必要が有り、製作のコストと時間がかかっていた。また体重がかかるので強度のある構造ならびに材料で製作する必要があった。また靴下の上に装着せざるを得ないので、外から見ると装着していることが明らかで体裁が悪かった。また装具を装着すると、とくに踵付近に足の外形からの張り出しがあり、また足底が平坦であって普通の靴の立体的な靴底に合わず、足首を固定するので脱ぎ履きが難しいので、普通の靴は履くことが困難で、障害者用の専用のデザインの靴を履かざるを得なかった。また特に坂道で、踵か足先しか接地できず、体重をかける時に装具が変形するため、足があたって痛かった。
【0017】
第2の課題は、可動型の短下肢装具についてのものである。
従来例2および3で示すように、いずれも、固定型の短下肢装具においては一体であった添体を足載置体、脹脛添体の2つに分離して、お互いの角度を変えられる回転連結機構と、足を持ち上げる力付与手段を工夫したものである。しかし、これらは足載置体、脹脛添体ならびにその2つを連結する部材などからなり、複雑で大きくて重く、邪魔になっていた。
【0018】
たとえば、従来例3の特開2004−166811号公報に示されたように、2つの添体を連結する連結軸は、足の外側踝に対応する位置に設けられ、回転連結機構が踝の外側踝が侵入可能なように中空状に形成されているが、それでも踝の周囲の外側や踵のまわりに大きく張り出した構造があることには変わりがない。
【0019】
また足先が下がらないように設置した力付与手段も、それぞれ設置位置を工夫してはいるが、足の外形からの張り出しがあり、靴を履くときや、歩行するときの邪魔になっていた。
【0020】
また回転連結機構や力付与手段の構造が複雑なためコストが高く、また重量が重かった。
その為、足首が動かせるようにするだけで、それらの不便とコストを我慢せざるをえないなら、固定型の短下肢装具でも良いという使用者が多く、結局は固定型の短下肢装具が多く使われているのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
これらの短下肢装具に関する第1の課題ならびに第2の課題に共通の解決手段を考案した。それは、従来の短下肢装具が足を下から持ち上げる構造であったのを、足を上から吊り上げる構造とすることである。
そのために従来、脹脛、踵および足裏を裏側から覆っていた添体の位置を、脛および足の甲に表側からあてがう位置に変更した。
【0022】
すなわち、請求項1に記載の短下肢装具においては、
脛および足の甲に沿って固定した添体
を備えると共に、
前記添体によって踝関節の角度を固定して、
歩行を円滑にすることを特徴とする。
【0023】
次に、短下肢装具に関する第2の課題を解決する手段を説明する前に、本発明の説明では、短下肢装具を装着して、踝関節を回転して足先を上下する時に、足裏面が水平になる踝関節の角度を基準角度と呼ぶこととする。
基準角度は足裏面が水平になる角度とするが、最も円滑に歩行できる角度は患者の歩き方にもよるので、それに合わせて、例えば足を上げたとき基準角度+5度になる、というように調整する事がのぞましい。
【0024】
短下肢装具に関する第2の課題を解決するために、第1の課題を解決する手段である上から吊り上げる構造に加えて、新たな解決手段を考案した。それは、第1に、固定型では一体であった添体を脛添体および甲添体の2つに分割して、脛および甲に沿わせて固定したことである。
第2に、両添体の位置を脛および甲の側に変更しても、たとえば従来例2および3のように、大きく足首を覆って、踝の周りなどに張り出した添体とし、踝関節の回転中心の延長線上に回転ベアリングなどの連結機構を置く構造を取ることもできるが、本発明ではそのような構造は採用せず、脛添体と甲添体を、一定の範囲でお互いの角度を変えて、可動であるように連結するための新しい考案である可動連結機構を脛添体と甲添体の間に配置したことである。また、足が垂れ下がる力に対抗して、甲添体を脛添体に対して一定の位置になるように吊り上げる力を発生する力発生機構を、簡便で小さな構造として、可動連結機構と共に、集中して表側に配置したことである。
【0025】
更に説明すると、歩行の時に、足首を曲げ伸ばしすると、踝関節が回転して、この回転運動に追随して、足および足と固定した甲添体が回転運動し、脛添体と甲添体の相互の位置が変わる。両添体ならびにその間に設置した可動連結機構ならびに力発生機構も、当然これに追随しなくてはならない。ただし、両添体ならびにその間に設置した可動連結機構ならびに力発生機構は、上に述べたように踝関節の回転中心から離れた位置にあり、且つそのお互いの位置の変動は、患者の体格にもよるが、角度の変化は大きくても30度程度であり、距離の変化は大きくても2cm程度である。従って、脛添体と甲添体を可動に連結するには360度回転するような大きな回転軸受けを使わなくても良いことに着目した。そして、可動連結機構は踝関節が回転する範囲における、比較的に小さな位置の変化だけに追随するものとしたことである。
これで簡便な構造のものを使うことができるようになり、かつ脛添体と甲添体を可動に接続できた。名称も回転連結機構と呼ばずに、可動連結機構と名づけた。
【0026】
また、力発生機構においては、踝関節が回転する範囲で一方向に力をかけるのでは無く、力発生機構の動作の原点を、踝関節の基準角度、すなわち足裏面が水平になる時の角度に置き、原点からの角度の差に応じて、且つ踝関節の角度が基準角度に対して底屈方向の時と背屈方向の時に反対向きの力を発生する構造とした。この力で甲添体を、脛添体に対して決められた位置に吊り上げて、常に踝関節の角度を基準角度に戻し、足裏面を水平に保持するようにした。
【0027】
すなわち、請求項2に記載の短下肢装具においては、
脛に固定した脛添体、
足の甲に固定した甲添体
を備えると共に、
前記脛添体と前記甲添体を、可動であるように連結し、
前記甲添体を、前記脛添体に対して決められた位置に吊り上げ、
歩行を円滑にすることを特徴とする。
【0028】
また次に、脛添体と甲添体を連結する可動連結機構および力発生機構について、弾性部材の変形ならびに変形によって発生する弾性力を利用すること、かつ2つの機構を一体にすることを考案したことである。
【0029】
すなわち、請求項3に記載の短下肢装具においては、
脛に固定した脛添体、
足の甲に固定した甲添体、
前記脛添体と前記甲添体を連結する弾性部材
を備えると共に、
前記弾性部材は、前記脛添体と前記甲添体の間の位置の変化に、弾性変形することで追随し、
前記弾性部材は、弾性変形した時に発生する復帰力で前記甲添体を吊り上げて、
歩行を円滑にすることを特徴とする。
【0030】
また次に、脛添体と甲添体をつなぐ可動連結機構である弾性部材は、弾性変形によって2つの添体の間の角度の変化だけを吸収し、距離の変化は脛添体および甲添体の少なくとも一方と弾性部材の間を摺動構造として吸収することを考案したことである。
【0031】
すなわち、請求項4に記載の短下肢装具においては、
脛に固定した脛添体と、
足の甲に固定した甲添体と、
前記脛添体と前記甲添体を連結する弾性部材
を備えると共に、
前記弾性部材は、歩行時に踝関節が回転する時に、弾性変形することで、前記脛添体と前記甲添体の間の角度の変化に追随し、
前記脛添体または前記甲添体の少なくとも一方に、前記弾性部材の端部が摺動する摺動ガイドを設け、
前記弾性部材は、歩行時に踝関節が回転する時に、前記弾性部材の端部が前記摺動ガイドに沿って摺動することで、前記脛添体と前記甲添体の間の距離の変化に追随して、
前記弾性部材は、弾性変形した時に発生する復帰力で前記甲添体を吊り上げて、足を上げた時に、踝関節を基準角度に保持して、
歩行を円滑にすることを特徴とする。
【0032】
また次に、吊り上げた足先と足の指を保護するために、甲添体を足に固定するベルトの中間部分に足載置板を配置したことである。
【0033】
請求項5に記載の短下肢装具においては、請求項1または請求項2または請求項3または請求項4に記載の短下肢装具において、
前記甲添体を足に固定するベルトの中間部分に配置した足載置板
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、軽量で、製作の時にいちいち足型を取る必要もない、コストの低い、靴下の下にも装着できて、他人から見ても装着していることが目立たず、普通の靴が履ける固定型の短下肢装具が実現できた。更にまた、踝の自由な回転を実現し、構造が簡単で、軽量な可動型の短下肢装具が実現できた。
【0035】
すなわち、従来の短下肢装具は、添体を脛および足の裏に配置して、下から足を持ち上げる構成であって、体重が掛かることにも耐えられるような構造および強度が必要であったものが、本発明では添体を脛および足の甲に沿わせて固定することによって、逆に足を吊り上げる構成とするように改良したことで、いろいろな課題を達成できるようになった。
【0036】
また更に、可動型の短下肢装具については、踝の関節を回転するための機構を、従来の短下肢装具では、踝の回転軸の延長上に配置していたものを、本発明では回転軸の中心から外れた位置に置き、踝関節が回転する範囲における比較的に小さな角度および距離の変化だけを吸収するものとした。この考案により、非常に小さくて簡便な機構で目的を達成できるようになった。
【0037】
その結果、各機構の構成部材と短下肢装具全体も簡単で小さくて軽いものになった。
【0038】
以下に請求項にそって、発明の効果を更に説明する。
請求項1に記載の短下肢装具は、脛および足の甲にあてがって固定した添体によって足首を固定するようにしたものである。従来例では、添体は短下肢の裏側である脹脛、踵および足裏を覆っていて、大きくて嵩張っていたが、面積は脛と甲の一部にあてがわれる小さなものとなった。厚みのある材料で作られていたが、この改良により小さな足の重量による曲げモーメントだけに耐えればよくなったので、体重よりはるかに材料の厚みも薄いものでよくなった。それに伴って、装具の重量が軽くなった。
【0039】
また、添体は脛および足の甲の一部にあてがって固定するだけなので、厳密に患者の足型を取らなくてもよくなり、製作の手間が大きく削減された。
【0040】
また皮膚の表面を薄い添体で覆っているだけなので、靴下の下にも装着できるので、目立たなくなった。
【0041】
また踝付近や踵(かかと)付近にも添体が無いので、足の外形から大きく張り出すものが無いので靴と干渉せず、足載置体が無いので靴底の形状と干渉せず、普通の靴を履くことができる。足載置体に体重を掛けることもないので装具が変形する問題も無くなった。
【0042】
ここに述べたこれらの効果は以下の請求項に示した短下肢装具にも共通のものである。
【0043】
次に請求項2に記載の短下肢装具によれば、従来例では常識であった踝関節が回転する時の中心軸の延長線上に装具の回転連結機構を置いていたのをやめて、考案した可動連結機構に変えて、踝関節の表側(脛や甲の有る側)へ移動して、踝の回転中心から外れた位置に配置するものとした。
すなわち歩行時の踝の関節の回転角度が、たかだか30度程度であって大きな角度を回転する必要が無いことから、従来例のように大きな回転ベアリング類を踝関節の回転中心延長線上に置くことは止めて、脛添体および甲添体を連結する可動連結機構は、踝関節が回転する範囲の角度および距離の変化だけに追随するものとしたものである。
脛添体および甲添体は連結したまま、お互いの位置(角度と距離)が変化して、あたかも仮想的な回転中心が有るように動くことができる。
これにより、従来例では踝の外側に有った回転する連結機構が無くなり、添体を脛および足の甲にあてがう構造とあいまって、装具の主要構造は短下肢の表側(脛や甲の有る側)に集中できた。
【0044】
脛添体ならびに甲添体をつないで位置の変化に追随する可動連結機構、および甲添体ならびに足を吊り上げる力を発生する力発生機構は、足先および靴の重量による曲げモーメントという小さな荷重に対応できればよくなった。その結果、重量が重くて嵩張るスプリングなどが不要になり、構造が簡単で極めて小さく軽いものとなり、脛添体と甲添体の間に納めることが可能で、足の外形から大きく張り出すものではなくなった。
このようにして、靴を履くときや歩行するときの邪魔になっていた障害物は無くなった。
【0045】
前記脛添体と前記甲添体を、可動であるように連結したので、踝関節は一定の範囲で回転することができるようになった。
前記甲添体を、前記脛添体に対して決められた位置に吊り上げて、踝関節の角度を基準角度に保つことが出来て、足先が下がらない短下肢装具が提供できるようになった。
【0046】
また構造が簡単であり、大きな部材が無いため重量が軽くなり、製造コストが安くなった。
【0047】
次に請求項3に記載の短下肢装具においては、脛添体と甲添体の間に配置して、脛添体および甲添体を連結する可動連結機構および力発生機構をまとめて、1つの弾性部材で実現することを考案した。
【0048】
脛添体および甲添体が連結されている位置は、従来の短下肢装具の例のように踝関節の回転中心の延長線上にあるのではなくて、回転中心から外して踝関節の表側(脛や甲の有る側)まで移動している。そのため、踝関節が回転する時に、この弾性部材により、脛添体および甲添体は連結したまま、お互いの位置(角度と距離)が変化して、あたかも仮想的な回転中心が有るように動く。この時、弾性部材の弾性変形により、踝関節が回転する時の脛添体と甲添体の間の角度の変化に追随することができる。同時に弾性部材の弾性変形により、踝関節が回転する時の脛添体と甲添体の間の距離の変化に追随することができる。これにより脛添体および甲添体は可動であるように連結された。
【0049】
また同時に、この弾性部材は脛添体と甲添体の間に位置する力発生機構も兼ねている。弾性部材が変形した時の復帰力を使って、これを実現した。
弾性部材は脛添体を基準として、甲添体を決められた位置に吊り上げるように配置してある。重力も含めて、弾性部材に外部から力が掛からない時は、足先が上を向くように弾性部材の形状を選択してある。患者が立った状態で、足を上げて床から離れると重力が掛かり、重力が足先を垂れ下がらせる方向の力となり、足先が垂れ下がると弾性部材が曲げ変形して、その復帰力が足先を吊り上げる方向の力となる。そして弾性部材の変形に対する復帰力は、足先の垂れ下がり量に比例するので、ある点で2つの力はバランスする。
弾性部材の復帰力設計により、弾性部材の弾性変形に対する復帰力の大きさを調節することができるので、このバランスする点を、踝関節の角度が基準角度となる点、すなわち足裏面が水平になるようにできる。
【0050】
これで弾性部材が力発生機構となり、足を吊り上げて足先が下がらないことが明らかになった。
【0051】
構造が簡易で、脛添体と甲添体の間の空間に配置できるほど小さくて、重量の軽い弾性部材による可動連結機構および力発生機構の実現により、足首の動きをさえぎるものがなくなり、また足先を持ち上げるので歩行の時に足先を引きずることがなく、円滑な歩行が実現できるようになった。
【0052】
次に請求項4に記載の短下肢装具においては、脛添体と甲添体の間に配置し、脛添体と甲添体をつないだ可動連結機構は弾性部材で実現しており、弾性部材の弾性変形により、踝関節が回転する時の脛添体と甲添体の間の角度の変化に追随することができる。この点は請求項3に示したものと同じである。
しかし、ここでは別の考案として、弾性部材の一端と脛添体および甲添体の少なくとも一方との間が摺動する構造とした。これにより踝関節が回転する時の脛添体と甲添体の間の距離の変化に追随することができる。摺動する構造により距離が変化する時に、不必要な弾性変形応力が発生せず、足首関節の円滑な回転が容易となった。また、弾性部材の弾性変形は曲げ変形だけでよくなったので、弾性部材の設計や材料の選定が容易になった。
【0053】
また同時に、脛添体と甲添体の間に位置した力発生機構も、この弾性部材が兼ねている点も同じである。
もちろん、円滑な歩行が実現できるようになった点も変わらない。
【0054】
次に請求項5に記載の短下肢装具は、請求項1または請求項2または請求項3または請求項4に記載の短下肢装具において、甲添体を足先に固定するベルトの中央部に、足をのせる足載置板を設置したものである。足載置板をつま先から足裏の中央付近までの形状に合ったものとすれば、足先の全体が持ち上げられ、足の指先が下がっている患者も、指先が直接に持ち上げられるようになり、更に円滑な歩行が実現できるようになった。またベルト6が足先を縛って締め付けることがない。またこのような足載置板は、感覚の無い患者の足の指先をどこかにぶつけないように保護する役目も果たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】固定型の短下肢装具を装着した場合の見取り図である。(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図2】可動型の短下肢装具を装着した場合の見取り図である。(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図3】足首を底屈動作および背屈動作させた時の脛添体と甲添体の間の角度と距離の変化を説明する見取り図である。
【図4】可動連結機構の例を示す斜視図である。(a)は弦巻バネ、(b)は一方向に自在に曲げられるチェーンと摺動ガイドの組み合わせの図である。
【図5】可動連結機構と力発生機構を兼用する板バネで脛添体と甲添体を連結した時の斜視図である。
【図6】弾性部材の例の平面図である。(a)は伸縮力が掛かっていない時、(b)は引っ張り力が掛かって伸び変形した時の図である。
【図7】弾性部材の例である蛇腹状のバネの斜視図である。(a)は曲げ力が掛かっていない時、(b)は曲げ力が掛かって曲げ変形した時の図を示す。
【図8】弾性部材である蛇腹状のバネで脛添体と甲添体を連結した時の斜視図である。
【図9】図2の弾性部材のA−A’断面を示す断面図である。
【図10】図10は弾性部材の一端が、甲添体の設けた摺動ガイドに沿って、摺動している状態を示す斜視図である。
【図11】ベルトA5もしくはベルトB6を足裏面と同じ平面上に展開した平面図である。(a)は足載置板が無い場合、(b)は足載置板を配置した場合を示す。
【図12】足載置板を配置したベルトA5またはベルトB6を足に装着した状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明による短下肢装具について実施例をあげて説明する。
【実施例1】
【0057】
図1は本発明による第1の実施例である固定型の短下肢装具を足に装着した様子を示す見取り図であり、(a)は正面図であり(b)は側面図である。
【0058】
本発明による固定型の短下肢装具は、図1に示すように、従来例1のように固定型の装具において使われていた下側から足先を持ち上げるために脹脛(ふくらはぎ)、踵(かかと)、足を覆っていた添体の代わりに、脛および足の甲に沿って固定された添体1によって構成される。
【0059】
前記添体1を製作する時は、足首をほぼ直角に曲げて、足裏面と脛の線がほぼ直角になる状態で、添体1が脛および足の甲に連続的に沿うように成型する。
添体1はプラスチック類を成型して製作できる。または金属板を整形し、肌にあたる側をゴムなどで裏打ちしたものでもよい。
ベルトC10a、10bおよびベルトA5は柔軟な布、または皮、または薄いプラスチックなどで製作できる。
【0060】
図1に示すように、ベルトC10aとベルトC10bを、脹脛に巻き付けて、その端部を添体1と接続してとめることによって、添体1を脛および脹脛に固定する。前記ベルトC10aは脹脛の上部でやや細くなった部位に、また前記ベルトC10bは足首の最も細くなる部位に巻き付けてあるので足先の重量と靴の重量および装具自身の重量が掛かっても下にずれること無く、装具全体を支えることができる。
これは以下の各実施例においても同じである。
【0061】
また同じくベルトA5を足に巻き付けて、その端部を前記添体1と接続して、足に固定する。これで足首の角度はほぼ直角で、足裏面と脛の線がほぼ直角になる状態で固定される。これで足先が垂れ下がらないように、吊り上げることができて、歩行のときの障害にならない。
【0062】
ベルトA5およびベルトC10a、10bと添体1との接続にはスナップボタン、あるいはマジックテープなどが使用できる。以下の各実施例に説明するベルトB、ベルトDも同様である。(マジックテープは登録商標である。)
【0063】
患者が装具を装着する時は、まずベルトA、Cの片方の端を添体1の所定の箇所に接続し、次に添体1を脛および足の甲の上に置いて、ベルトA、Cの他方の端を脹脛および足の甲に回して、前記添体1の反対側の所定の箇所に接続する。これは従来の装具の装着方法と変わらず、片手の不自由な患者であっても自分で出来る。以下の各実施例の場合の装着についても同様である。
【0064】
患者の症状が軽い場合など、添体1は図1に示すより短くて、脛の中央より下付近まででも良く、その場合はベルトC10bを残して、ベルトC10aは省略できる。
【実施例2】
【0065】
図2は本発明による第2の実施例である可動型の短下肢装具を足に装着した様子を示す見取り図であり、(a)は正面図であり(b)は側面図である。
【0066】
本実施例の可動型の短下肢装具においては、図2に示す如く、固定型の短下肢装具の場合は一体型であった前記添体1は、脛に固定する脛添体2および足の甲に固定する甲添体3に分割されている。
そして前記脛添体2および前記甲添体3は、可動連結機構8で可動であるように連結されていることによって、足踝の関節が一定の範囲で回転できることを説明する。また脛添体2と甲添体3をつなぐ位置には足先を吊り上げる力発生機構9を備えていて、甲添体3を、脛添体2に対して決められた位置に吊り上げていて、足先が垂れ下がらず、円滑に歩行できる事を説明する。
【0067】
図2に示す如く、脛添体2はベルトD11a、11bを脹脛に巻き付けて固定する。甲添体3はベルトB6を足に巻き付けて固定する。添体とベルトの結合は先に述べたとおりである。
【0068】
前記脛添体2および前記甲添体3は、固定型の短下肢装具の前期添体1の場合と同様にプラスチック類を成型して製作できる。または脛添体2および甲添体3は金属板を整形し、肌にあたる側をゴムなどで裏打ちしたものでもよい。
前記ベルトD11a、11bおよびベルトB6も同様に柔軟な布、または皮、または薄いプラスチックなどで製作できる。
【0069】
図3は足首を背屈動作および底屈動作させた時の脛添体2と甲添体3の間の角度と距離の変化を説明する見取り図である。図3に踝の関節を回転して、足首を曲げて足先が上がった時(背屈動作)および伸ばして足先が垂れ下がった時(底屈動作)の状況を示す。脛添体2および甲添体3を固定するベルトは省略してある。
はじめに本実施例の可動型の短下肢装具において可動連結機構8を用いて、踝の関節を回転できることを図3で説明する。図3に示すように、踝関節が回転し、脛添体2と甲添体3がお互いの位置関係を変えて動くことを、可動であると言う。
【0070】
図3には2つの図が重ねて書いてあるが、(a)は背屈動作時(足先が持ち上がる方向に曲げる動作)であって足裏面が水平から傾いて足先が上がった状態であり、(b)は底屈動作時(足先が垂れ下がる方向に曲げる動作)であって足先が垂れ下がった状態である。
ここで、図3から判るように、背屈動作時に脛添体2と甲添体3のなす角度Hは、底屈動作時には足首の関節が回転した分だけ大きくなり、角度H’となる。また同時に、背屈動作時の脛添体2の先端の位置をPとし、甲添体3の後端の位置をQとする。底屈動作時の脛添体2の先端の位置は動かずPであり、甲添体3の動いた後の後端の位置をQ’とする。はじめ背屈動作時であった状態から底屈動作時の状態に移ると、脛添体2と甲添体3の間の距離PQは長くなりPQ’となる。
【0071】
歩行の時に、脛添体2と甲添体3のなす角度Hと角度H’の差は大きくてもおおよそ30度である。両添体間の距離PQと距離PQ’の差は大きくてもおおよそ2cmである。可動連結機構8は、この角度と距離の範囲で動けばよく、踝関節を中心にして360度全周を回るような回転軸受けでなくてよい。
【0072】
そこで可動連結機構8は、甲添体3が一定の角度と距離だけ追随できるような構造であればよいことが判った。
それは例えば弦巻バネ、蛇腹形状のバネ、自在に一方向に曲げられるチェーンおよび摺動ガイドの組み合わせ、板バネおよび摺動ガイドの組み合わせ、および棒状のバネおよび摺動ガイドの組み合わせなどで実現できる。
【0073】
図4は可動連結機構8の例を示す斜視図である。図4の(a)に、弦巻バネの例を示す。弦巻バネは曲げ方向に変形して角度の変化に追随でき、長手方向に変形して距離の変化に追随するように配置できる。
また、図4の(b)に、一方向に自在に曲げられるチェーンと摺動ガイドの組み合わせの例を示す。チェーンの一端が添体に形成された摺動ガイドを貫通しており、チェーンが曲がって角度の変化に追随でき、摺動して距離の変化に追随できるように配置できる。
これで可動連結機構8を用いて、踝の関節を回転できることが明らかになった。
【0074】
次に、本実施例の可動型の短下肢装具において、力発生機構9を用いて、脛添体2に対して甲添体3を決められた位置に保持して、足を吊り上げることができることを示す。
図3の(b)には、脛添体2と甲添体3の間には何も無く、脛添体2と甲添体3の間に何も力が掛からず、図3の(b)に示す底屈動作時(足先が垂れ下がる方向に曲げる動作)のように足先が垂れ下がった状態になることを示してある。ここで、図3の(a)に示すように、脛添体2と甲添体3の間をつないで力発生機構9を配置する。前記力発生機構9は、重力も含めて外部から力が足先に掛からない時に、図3の(a)に示す背屈動作時(足先が持ち上がる方向に曲げる動作)のように、足先が基準角度よりやや上を向いて固定するように配置する。ここで力発生機構9は、弾性を有する部材であるとする。患者が立って、歩行時に足を持ち上げると足先ならびに靴の重量による重力が掛かって足先が下がるとその結果、力発生機構9である弾性を有する部材に曲げモーメントがかかって曲がり変形して、その結果、復帰力が発生する。足先が下がっていって、下がり量が大きくなると、変形量に比例して復帰力が大きくなるので、ある位置で重力と弾性を有する部材の復帰力がバランスする。この時に、踝関節の角度が基準角度に、言いかえれば足底面が水平となるように、力発生機構9である弾性を有する部材の復帰力を設計できる。
【0075】
前記力発生機構9は、たとえば、変形した時に復帰力を発生する弦巻バネ、蛇腹形状のバネ、板バネ、あるいは空気を強い圧力で充填した時に既定の外形になるゴム製の空気圧アクチュエータなどで実現できる。
【0076】
図5は板バネで脛添体と甲添体を連結した時の斜視図である。板バネを例として用いて可動連結機構8および力発生機構9を実現する方法を説明する。この場合は1つの板バネで可動連結機構8および力発生機構9を兼ねて実現したものである。前期板バネの上端部が脛添体2の先端に固定され、下端部は甲添体3の後端部の端面に形成された摺動ガイド12を貫通している。板バネは、外部の力がかからない時に曲がった形状をしており、踝関節が回転して、脛添体2と甲添体3のなす角度が変化すると、それに追随して、曲がり弾性変形する。
前記板バネの下端は、脛添体2と甲添体3の距離が変化する時に摺動ガイド12を摺動して、脛添体2と甲添体3距離の変化に追随することができる。
【0077】
外部から力が掛からない時に、踝関節の角度が基準角度の時よりも、甲添体3の先端が上に向くように、板バネの形状を設計しておく。甲添体3が、ベルトB6で足に固定され、足および靴の重力が前記甲添体3を通じて板バネに下向きに掛かると、板バネが曲がり弾性変形して復帰力を発生する。踝関節の角度が基準角度であり、足裏面が水平の位置で重力と復帰力がバランスする。
よって、板バネの復帰力を用いて甲添体を脛添体に対して決められた位置に前記甲添体を保持することができ、足を吊り上げることができた。
【0078】
このように板バネが可動連結機構8として、また同時に力発生機構9として機能することが明らかになった。
【0079】
また、コンプレッサから圧縮空気を送って伸縮あるいは屈伸する空気圧アクチュエータが実用になっているが、空気圧アクチュエータに圧縮空気を入れて封止すれば形状が維持できる。空気圧アクチュエータは曲げれば板バネと同様に復帰力を発生する。板バネの場合と同様に、空気圧アクチュエータを脛添体2と甲添体3の間に配置して、固定すれば同様に機能する。
【0080】
弦巻バネ、板バネならびに空気圧アクチュエータは小型に製作することができ、構造が簡単で、脛添体2と甲添体3の間に納めることが可能で、足の外形から大きく張り出すものではない。
【0081】
例えば、弦巻バネ、板バネあるいは空気圧アクチュエータを力発生機構9として用いて、足を吊り上げられることが明らかになった。
このようにして、力発生機構9として弾性を有する部材を用いて、足底面が水平となる位置、すなわち脛添体に対して決められた位置に甲添体を保持して、足を吊り上げることができることが明らかになった。
【0082】
脛添体2と甲添体3を、可動連結機構8で可動であるように連結すれば、足踝の関節が一定の範囲で回転できることが明らかになった。また脛添体2と甲添体3をつなぐ位置に力発生機構9を備え、前記力発生機構9の発生する力で甲添体3を、脛添体2に対して決められた位置に吊り上げて、円滑に歩行できることが明らかになった。
これで踝関節が回転し、足先が垂れ下がらず、円滑な歩行ができる短下肢装具を実現できた。
【実施例3】
【0083】
図2において、実施例2の可動連結機構8と力発生機構9を、弾性部材4で置き換えたものが実施例3である。前記弾性部材4が単独で可動連結機構8と力発生機構9の機能を実現し、円滑な歩行のできる短下肢装具を提供することを説明する。
【0084】
まず、図2において前記弾性部材4が脛添体2と甲添体3をつないで、図3に示す如き距離の差PQ’−PQおよび角度の差H’−Hに追随する可動連結機構8として同時に機能する方法を説明する。
【0085】
図6は弾性部材4の例の平面図である。前記弾性部材4が距離の差に追随する方法を図6で説明する。この例では、弾性部材4は平面図に表した形状が蛇腹状のバネである。(a)はバネに伸縮力が掛かっていない時、(b)は図3に示す引っ張り力Fが掛かって伸び変形した時を示す。
【0086】
前記蛇腹状のバネの直線状の両端をそれぞれ脛添体2と甲添体3に固定すると、脛添体2と甲添体3は蛇腹状のバネを通して連結される。足先が下がって脛添体2と甲添体3の間の距離が大きくなって、引っ張り力が掛かると、脛添体2と甲添体3は連結を保ったまま、図6の(b)に示したように蛇腹状の部分が変形して追随する。
このように、足先が上下して、脛添体2と甲添体3の間の距離が変化しても、その差に追随して、両者は連結を保つことができる。
【0087】
図7は弾性部材の例である蛇腹状のバネの斜視図である。次に、図7によって、弾性部材4が脛添体2と甲添体3のなす角度の差の変化に追随する方法の一例を説明する。
この例では、弾性部材4は平面図に表した形状が図6に示したものと同じ蛇腹状で、厚み方向に同一断面を持つバネである。図7の(a)は蛇腹状のバネに曲げ応力が掛かっていない状態で、両方の端部が一直線上に無く、ある角度をなしている。図7の(b)は蛇腹状のバネの下端に矢印方向にFの曲げ応力が掛かって、全体が直線状に曲がり変形した状態を示す。
【0088】
図8は弾性部材である蛇腹状のバネで脛添体2と甲添体3を連結した時の斜視図である。図8では、図6および図7に示した蛇腹状のバネで脛添体2と甲添体3を連結した様子が、蛇腹状のバネの近傍だけ示してある。図8に示すように、蛇腹状のバネの直線状の端を前記脛添体2および前記甲添体3に固定すると、前記脛添体2および前記甲添体3は蛇腹状のバネを通して連結される。脛添体2と甲添体3の間の角度が変化すると、蛇腹状のバネには曲げる力が掛かる。その結果、図7の(b)に示したように蛇腹状の部分が変形して、脛添体2と記甲添体3のなす曲がり角度が変化する。その角度の変化に追随して、両者は連結を保つことができる。
【0089】
この例で説明した角度の差および距離の差に追随するための2つの蛇腹状のバネの形状は類似しており、角度の変化に追随するのと、距離の変化に追随するのに、1つのものが兼用できる。1つの蛇腹状のバネを使って前記脛添体2と前記甲添体3を連結すれば、上に説明したように蛇腹状のバネは少なくとも2つの自由度を持つ継ぎ手になる。
【0090】
ここに例示したような蛇腹状のバネにより、脛添体2と甲添体3は連結したまま、お互いの位置(角度と距離)が連続的に変化して、踝の関節が回転する時、あたかも仮想的な回転中心が有るように動き、小さな回転角度の範囲では回転ベアリングと同等の機能を果たす。
【0091】
これで図7に示したような蛇腹状のバネが可動連結機構8として機能する弾性部材4として使用できることが明らかになった。
【0092】
次に弾性部材4が、足先を引っ張り上げる力発生機構9としても機能することを、再度図7を使って説明する。この例では、弾性部材4は、脛添体2と甲添体3の角度の差の変化を吸収する方法の例を説明したものと同じく、図8に示した蛇腹状のバネである。蛇腹状のバネが角度の差を吸収するために曲がり変形すると、曲げ応力が発生するので力発生機構9としても機能するのである。
【0093】
図7の(a)に示す蛇腹状のバネの直線状の端を、図8に示すように、それぞれ脛添体2および甲添体3に固定する。脛添体2を脛に固定し、甲添体3を足に固定して、重力も含めて外部から力が足に掛からない時、基準角度より足先がやや上を向くように前記蛇腹状のバネの形状(上端と下端のなす角度)を設定しておく。患者が立って、歩行時に足を持ち上げると、足先ならびに靴の重量による重力が掛かって足先が下がる。足先が下がるとその結果、蛇腹状のバネが曲げ変形して復帰力が発生して、変形量に比例して復帰力が大きくなる。足先が下がっていって、下がり量が大きくなると、ある位置で重力とバネの復帰力がバランスする。この時の、踝関節の角度が基準角度になるように、バネの変形に対する復帰力の大きさを設計できる。
これで足を吊り上げることができて、図8に示したように脛添体2と甲添体3の間に設置した蛇腹状のバネが、力発生機構9としても機能する弾性部材4として、使用できることが明らかになった。
【0094】
弾性部材4は、脛添体2と甲添体3間に納まり、厚み方向にもできるだけ薄い事、例に示したような蛇腹状などの形状に加工できる事が必要であるので、その材質は強度と弾性力の強さを兼ね備えた、ピアノ線(バネ線)などが使える。
【0095】
弾性部材4は、材料の強度と弾性力に合った設計を適切に行えば、脛添体2および甲添体3とおなじ材質のものとして、一体で製作することも出来る。たとえば図7に示す構造として、カーボン繊維強化プラスチックで製作することもできる。
【0096】
弾性部材4の両端を脛添体2および甲添体3に固定するにあたっては、脛添体2と甲添体3の端面に穴を開けて弾性部材4の端部を埋め込んで接着するか、表面に接着するか適宜な方法がとれる。
【0097】
弾性部材4は複数の機能を果たす為に、材質や形状などを個々の機能に最適に設計できる。たとえば長さの変化に追随するために伸縮するときは応力が小さい方が良い。これは蛇腹の数を増やすか、図7の(a)に示す寸法xを小さくすれば良い。また足先を引っ張り上げる力を発生する時、足首の角度を基準角度に合わせるために曲がり強度を調整するには、図7の(a)に示す寸法yを変化させバネの弾性力の大きさが最適になるように設計すればよい。
【0098】
これで弾性部材4は単独で可動連結機構としても力発生機構としても機能して、簡便な構造で、小形に実現できた。
【0099】
他の部分は実施例2と同じであるので、これで、踝関節が可動で、足を吊り上げて円滑に歩行できる短下肢装具が実現した。
【実施例4】
【0100】
本実施例は、実施例3で説明した弾性部材4の機能の内の1つである距離の差を吸収する機能を、別の方法で実現するものである。
【0101】
図9は、図2の(a)正面図に示した弾性部材4のA−A’断面を示す断面図である。
図9に示すように、甲添体3の端面には穴が穿たれて、摺動ガイド12を形成している。
弾性部材4は実施例3で説明したものと同じ形状であるが、弾性部材4の上の端部4bは脛添体2に埋め込み固定されており、弾性部材4の下の端部4aは前記摺動ガイド12の中を貫通して、摺動できる。
【0102】
図10は弾性部材4の一端が、甲添体の設けた摺動ガイドに沿って、摺動している状態を示す斜視図である。
脛添体2と甲添体3は間に摺動ガイド12を介しているので、長手方向には自由に動けるが、摺動ガイド12の垂直方向には固定されている。脛添体2と甲添体3の間の距離が変化する時、可動連結機構としての役割を果たしつつ、摺動構造によりその差に追随して、脛添体2および甲添体3は連結を保つことができる。
【0103】
摺動構造に抜け止めが無いと、装具を患者の足に装着していたものを外した時に、甲添体3と弾性部材4の接続がばらばらに別れてしまうので、適当な抜け止めを設けるのが良い。
【0104】
脛添体2と甲添体3の間の距離が変化する時、実施例3で説明した弾性部材4の伸縮に伴う応力が無い方が円滑な足首関節の回転に都合が良い。この実施例4では、複雑で大きな構造や、重量のある部材などを追加すること無しに、それが実現できた。
【0105】
この実施例4では、弾性部材4の下端を摺動構造にしたが、弾性部材4の両端を摺動構造にしてもよい。そうすると弾性部材4の弾性変形による自由度の他にも、弾性部材4のみかけ長さが変わることにより、多くの自由度を持つ継ぎ手となる。
また図10では摺動ガイド12と弾性部材4の端部の断面形状は長方形であるが、これを円形の断面形状とすると、回転摺動も可能になり、更に自由度が増える。歩行の時は、足先は複雑に動くので、そのような動きに、弾性部材4からなる可動連結機構が追従できると一層円滑な歩行を可能にする。
【0106】
実施例3および実施例4で弾性部材4について説明したが、このように小さく薄いバネで可動連結機構としても力発生機構としても機能できて、脛添体2と甲添体3の間に配置できることが明らかになった。
その結果本発明の可動型の短下肢装具で、踝関節を回転できて、足を持ち上げた時に足を吊り上げて、踝関節の角度を基準角度に保ち、歩行を円滑にできることを明らかにした。
【実施例5】
【0107】
図11はベルトA5もしくはベルトB6を足裏面と同じ平面上に展開した平面図である。
図12は足載置板を配置したベルトA5またはベルトB6を足に装着した状態の斜視図である。
実施例5として、ベルトA5もしくはベルトB6の中間部分に足載置板を配置する例を図11および図12に示した。図11は足に巻き付けて添体1を固定するためのベルトA5、もしくは甲添体3を固定するためのベルトB6の中間部分に足載置板を配置する例を足裏面と同じ平面上に展開して示すものである。図11の(a)は比較のための足載置板の無い場合であり、(b)はベルトA5もしくはベルトB6の中間部分に足をのせる足載置板7を配置したものである。図12は、足載置板7を配置したベルトA5またはベルトB6で足を固定した様子を示す。
【0108】
足載置板7は足先の形状に沿った、足を載せて体重を掛けたり、ベルトの引っ張り力がかかっても曲がらない、強度のある薄板である。足載置板7はプラスチックまたは金属の薄板で製作できる。
【0109】
図11の(b)に示すように、A5もしくはベルトB6の中間部を取り除いて、足載置板7の両側にベルトA5もしくはベルトB6の両端部を接続する。
【0110】
患者は足載置板7の上に足をのせ、ベルトA5もしくはベルトB6を足に巻き付けて、添体1もしくは甲添体3を足に固定する。
足載置板7が有ることで、足の指先が下がっている患者も、指先が直接に持ち上げられ、歩行の障害が減る。また足載置板7がないと、ベルトA5もしくはベルトB6が足先を縛って締め付けるが、それが防止できる。また足載置板7は足の指先をどこかにぶつけないように保護する役目も果たす。
【0111】
足載置板7は、足先部分だけでなく、足裏全体の形状に沿ったものとしてもよい。患者によっては内反足などに対応するために足載置板7の厚さの調整が必要であるが、足裏全体の形状に沿ったものとすれば、それが可能である。
【0112】
上述の5つの実施例の短下肢装具は、代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。例えば、添体、脛添体、および甲添体の形状、材質および構造、弾性部材の形状および材質、脛添体、甲添体ならびに弾性部材を一体で製作する事、弾性部材の添体への接続方法、摺動ガイドの形状、弾性部材の摺動部の構造、各ベルトの配置位置、各ベルトの材質、足載置板の形状などが変更及び置換ができる。
従って、本発明は、上述の実施例によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲によってのみ制限される。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は短下肢装具に関するものであり、足首関節を自己の意思で自由に動かすことのできない患者が、歩行の際の補助具として使用する為のものである。
【符号の説明】
【0114】
1 添体
2 脛添体
3 甲添体
4 弾性部材
4a、4b 弾性部材4の端部
5 ベルトA
6 ベルトB
7 足載置板
8 可動連結機構
9 力発生機構
10a、10b ベルトC
11a、11b ベルトD
12 摺動ガイド
P 脛添体の先端位置
Q、Q’ 甲添体の後端位置
∠H、∠H’ 脛添体と甲添体のなす角度
x 弾性部材の蛇腹部の寸法
y 弾性部材の厚み寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脛および足の甲に沿って固定した添体
を備えると共に、
前記添体によって踝関節の角度を固定して、
歩行を円滑にすることを特徴とする短下肢装具。
【請求項2】
脛に固定した脛添体、
足の甲に固定した甲添体
を備えると共に、
前記脛添体と前記甲添体を、可動であるように連結し、
前記甲添体を、前記脛添体に対して決められた位置に吊り上げ、
歩行を円滑にすることを特徴とする短下肢装具。
【請求項3】
脛に固定した脛添体、
足の甲に固定した甲添体、
前記脛添体と前記甲添体を連結する弾性部材
を備えると共に、
前記弾性部材は、前記脛添体と前記甲添体の間の位置の変化に、弾性変形することで追随し、
前記弾性部材は、弾性変形した時に発生する復帰力で前記甲添体を吊り上げて、
歩行を円滑にすることを特徴とする短下肢装具。
【請求項4】
脛に固定した脛添体と、
足の甲に固定した甲添体と、
前記脛添体と前記甲添体を連結する弾性部材
を備えると共に、
前記弾性部材は、歩行時に踝関節が回転する時に、弾性変形することで、前記脛添体と前記甲添体の間の角度の変化に追随し、
前記脛添体または前記甲添体の少なくとも一方に、前記弾性部材の端部が摺動する摺動ガイドを設け、
前記弾性部材は、歩行時に踝関節が回転する時に、前記弾性部材の端部が前記摺動ガイドに沿って摺動することで、前記脛添体と前記甲添体の間の距離の変化に追随して、
前記弾性部材は、弾性変形した時に発生する復帰力で前記甲添体を吊り上げて、足を上げた時に、踝関節を基準角度に保持して、
歩行を円滑にすることを特徴とする短下肢装具。
【請求項5】
前記甲添体を足に固定するベルトの中間部分に配置した足載置板
を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2または請求項3または請求項4に記載の短下肢装具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−45657(P2011−45657A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198847(P2009−198847)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(594139159)
【Fターム(参考)】