石油タンク用泡消火設備
【課題】固定屋根を有し、内部に浮き蓋が設けられた浮き蓋付き固定屋根タンクにおいて、浮き蓋がタンク内部の可燃性液体の中に沈んだとしても、タンク火災を適切に消火することが可能な、石油タンク用泡消火設備を提供する。
【解決手段】本発明の石油タンク用泡消火設備は、タンク本体11が固定屋根12で覆われ、さらに内部に浮き蓋14が設けられた浮き蓋付き固定屋根タンク10に備えられる。浮き蓋14より上方に周縁部消火用泡放出口25が配設されており、タンク内の周縁に向かって消火用泡を放出可能とされている。また、タンク内の支柱16の上端には、消火用泡を放出可能な中央部消火用泡放出口28bが設けられており、支柱16を伝って消火用泡が下方に流れるようにされている。地震等により浮き蓋14が可燃性液体中に沈んだ場合には、周縁部消火用泡放出口25及び中央部消火用泡放出口28bの双方から消火用泡が放出され、可燃性液体の表面を速やかに覆い、消火する。
【解決手段】本発明の石油タンク用泡消火設備は、タンク本体11が固定屋根12で覆われ、さらに内部に浮き蓋14が設けられた浮き蓋付き固定屋根タンク10に備えられる。浮き蓋14より上方に周縁部消火用泡放出口25が配設されており、タンク内の周縁に向かって消火用泡を放出可能とされている。また、タンク内の支柱16の上端には、消火用泡を放出可能な中央部消火用泡放出口28bが設けられており、支柱16を伝って消火用泡が下方に流れるようにされている。地震等により浮き蓋14が可燃性液体中に沈んだ場合には、周縁部消火用泡放出口25及び中央部消火用泡放出口28bの双方から消火用泡が放出され、可燃性液体の表面を速やかに覆い、消火する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は浮き蓋付き固定屋根タンクに設置される石油タンク用泡消火設備に関する。
【背景技術】
【0002】
石油タンク等の構造として、固定屋根タンク(円錐屋根)、固定屋根タンク(球面屋根)、浮き屋根タンク、浮き蓋付き固定屋根タンク等が挙げられ、揮発性の高い原油やガソリン等の貯蔵には図11に示す浮屋根式タンクが知られている。この浮屋根式タンクは、タンク本体90内の可燃性液体91の液面に浮屋根92が浮かんでおり、可燃性液体91の液面の上昇下降に伴って浮屋根92が上下に移動するという、落とし蓋構造になっている。そしてこの構造によって、可燃性液体91が外気や風雨に曝されることなく、火災が発生した場合においても、浮屋根92が可燃物表面を覆っているため、燃焼面積を限定的にすることができる。
【0003】
この浮屋根式タンクでは、タンク側壁90aと浮屋根92との間に、油の蒸発を防ぐためのソフトシール93が配設されている。しかし、ソフトシール93によって油の蒸発を完全に防ぐことはできないため、このシール部分から、タンク内の可燃性液体や気化したガス等が漏出した場合は、タンク火災の原因となることが懸念される。これを防止するため、シール部の火災を想定し、浮屋根92の周縁からやや内側に泡堰94を立設しておき、火災発生時にはタンク側壁90aの上端に設けられた泡放出口95から消火用泡を放出し、泡堰94とタンク側壁90aとの間に消火用泡を満たして消火・防火を行うことがなされている(特許文献1)。
【0004】
こうした浮き屋根式タンクの消火設備は、浮き屋根の上に、タンク内の可燃性液体が漏れ出すことや、浮き屋根が沈降することは無いという想定のもとに設置されるものである。
【0005】
ところが、図12に示すように、浮き屋根92が地震動等によるスロッシング・破損・荷重オーバー等によって、油面下に沈下した場合は、上記のような泡放出口95からタンク本体90の内部の下方周縁に向かって消火用泡が放出される泡消火設備のみで消火することは困難である。この場合、通常の浮き屋根式タンクであれば、移動可能な泡放射ノズル96や、図示しない独立した泡放射設備等を用いて、タンク外から消火用泡を投入することが可能である。
【0006】
また、固定屋根式タンクの場合は、タンク内で全面火災になっても、外部からのノズル等では泡を打ち込むことができないため、図13に示すように、上部泡注入方式のほかに、底部泡注入方式の泡消火設備を設置しているものもある。
【0007】
さらに、タンクの直径が60m未満の浮き蓋付き固定屋根構造のタンクは、固定屋根タンクと同様に、上部泡注入方式の設置が法令にて義務付けられている。
【0008】
一方、従来、60mを超える直径を有する大型タンクは固定屋根式構造か浮き屋根式構造のみであった。しかし、これら大型タンクであっても耐震性・安全性の向上や貯蔵物の蒸発損失低減などを考慮すると、浮き蓋付き固定屋根タンクへの改造が好ましい。しかしながら、図13に示すような、タンクを閉塞する固定屋根97を有し、内部に浮き蓋99が設けられた浮き蓋付き固定屋根タンク100の場合は、タンク外から消火用泡を投入することができないばかりか、タンク内の底部から消火用泡を注入する方式を採用しようとしても、浮き蓋99によって消火用泡の上昇が阻止され、可燃性液体の表面での火災の消火を行うことができないという問題点があり、改善が望まれている。
【0009】
【特許文献1】特開昭60−228283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、固定屋根を有し、内部に浮き蓋が設けられた浮き蓋付き固定屋根タンクにおいて、浮き蓋がタンク内部の可燃性液体の中に沈んだとしても、タンク火災を適切に消火することが可能な、石油タンク用泡消火設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の石油タンク用泡消火設備は、タンク本体の上端に固定屋根を有し、内部に貯留される可燃性液体の液面を覆う浮き蓋が設けられた浮き蓋付き固定屋根タンクに設置される石油タンク用泡消火設備であって、前記タンク本体の内部であって、前記浮き蓋より上方の位置に中央部消火用泡放出口を有し、該中央部消火用泡放出口からタンク内の中央部付近に向かって消火用泡を放出可能な中央部消火設備を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の石油タンク用泡消火設備では、タンク本体の内部であって前記浮き蓋より上方の位置に中央部消火用泡放出口を有し、中央部消火用泡放出口からタンク内の中央部付近に向かって消火用泡を放出可能な中央部消火設備が設けられている。このため、たとえ浮き蓋が地震動によってタンク内部の可燃性液体の中に沈み、タンク内の可燃性液体に引火してタンク内の可燃性液体の表面全体に火災が広がっていたとしても(あるいは、未だ引火はしていないが、その危険性がある場合であったとしても)、中央部消火用泡放出口から消火用泡の放出により、浮き蓋付き固定屋根タンク内の火災を確実かつ迅速に消火(あるいは火災の危険性を回避)することができる。
【0013】
また、タンク本体の浮き蓋より上方の側壁に周縁部消火用泡放出口を有し、該周縁部消火用泡放出口からタンク内の周縁に向かって消火用泡を放出可能な周縁部消火設備を備えることが好ましい。こうであれば、タンク内部の中央付近は中央部消火用泡放出口から消火用の泡の放出によって消火され、タンク内部の周縁部は、周縁部消火設備の周縁部消火用泡放出口からの消火用の泡の放出によって消火される。こうして、タンク内の周縁部及び中央部の両方に消火用の泡が供給されることにより、浮き蓋付き固定屋根タンク内の火災をさらに確実かつ迅速に消火することができる。
【0014】
また、タンク本体の内部には、前記浮き蓋を貫通する支柱が立設されている場合もあり、その場合には、中央部消火用泡放出口は支柱の浮き蓋よりも上方に設けられていることが好ましい。浮き蓋付き固定屋根タンクには、固定屋根を支えるために、浮き蓋を貫通する支柱が立設されている場合がある。このため、この支柱を利用して中央部消火用泡放出口を容易に取り付けることができる。
【0015】
中央部消火設備の中央部消火用泡放出口への消火用泡の供給方法としては、耐熱ホース等を用いて浮き蓋の上から行う方式とすることもできるが、支柱側面又は支柱内部に設置された送泡管を介して行なわれることが好ましい。こうであれば、送泡管が可燃性液体中あるいはその近傍を通る箇所においては、送泡管に火炎が直接あたることがなく、消火用泡の熱による変質を防ぐことができる。
【0016】
また、中央部消火用泡放出口から放出される消火用泡は、前記支柱の側面を伝わって下方に流れるようにされていることが好ましい。こうであれば、消火用泡が支柱側面を伝わってゆっくりと落下するため、可燃性液体の表面に到達したときの再発泡を少なくすることができ、可燃性液体表面を覆う泡の展開速度の損失を小さくすることができる。このため、消火の効率が良好となる。また、消火用泡が風等によって飛散することを防止でき、支柱の根元に向かって確実に消火用泡を集中させることができる。このため、支柱根元付近から確実に消火を行うことができ、消火用泡による消火の効果を高めることができる。さらには、消火用泡が可燃性液体によって汚れることを最小限に抑えることができる。
【0017】
この場合において、中央部消火用泡放出口には、消火用泡の放出方向を前記支柱の側面を伝わって下方に流れるように案内する整流部材が設けられていることが、更に好ましい。こうであれば、消火用泡の方向が整流部材によって支柱側面を流れる方向に案内されるため、上記効果を確実に奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0019】
<実施形態1>
実施形態1の石油タンク用泡消火設備は、図1に示すように、円筒形のタンク本体11の上部が円錐形の固定屋根12で覆われた、浮き蓋付き固定屋根タンク10に備えられている。
【0020】
浮き蓋付き固定屋根タンク10の内部には、揮発性の高い原油、ナフサ、灯油、軽油等の可燃性液体13が貯留されており、可燃性液体13の表面を覆うように浮き蓋14が浮かんでいる。浮き蓋14の周縁にはフロート14aが設けられており、さらにフロート14aの周縁には、タンク本体11との隙間をなくすように弾性変形するシール部材14bが取り付けられている。また、浮き蓋14周縁上面のやや内側には、泡堰14cが立設されている場合もある。さらに、浮き蓋付き固定屋根タンク10の床板15には、複数本の支柱16が浮き蓋14を貫通して上方に突出するように立設されている。
【0021】
次に、この浮き蓋付き固定屋根タンク10に備えられた、石油タンク用泡消火設備について説明する。浮き蓋付き固定屋根タンク10から離れた地上には、泡消火剤供給装置21が設置されている。泡消火剤供給装置21には貯水槽21aが設置されており、貯水槽21aから加圧ポンプ21bを経由して水を混合器21cまで供給する水供給管21dが接続されている。なお、貯水槽21aを設ける代わりに、河川や池の水を利用したり、海から海水を利用する方式としても良い。混合器21cは原液タンク21eにも接続されており、原液タンク21e内には、泡消火剤原液が貯留されている。混合器21cは泡消火剤原液と水とを、発泡に適切な量で混合する構造とされており、混合器21cで調製された泡消火剤(すなわち泡消火剤原液を淡水又は海水で薄めたもの)は、バルブ22及び泡消火剤供給管23を経由して、タンク本体11の上端に設置された発泡チャンバー24に接続されている。図2に示すように、泡消火剤供給管23に接続される発泡チャンバー24には、ジェット24aと空気取入口24bが設けられており、ジェット24aの下流の負圧によって、空気取入口24bから取り込まれた空気と泡消火剤の混合液とが混合されて発泡するようになっている。発泡チャンバー24はタンク本体11の上端と内部に連通する状態で接続されており、周縁部消火用泡放出口25が形成されている。
【0022】
また、図1に示すように、泡消火剤供給管23は途中で分岐して背圧発泡器26の一端に接続されており、背圧発泡器26の他端には送泡管27が接続されている。背圧発泡器26には、図示しないノズルと空気取入口とが設けられており、発泡チャンバー24と同様、空気取入口から取り込まれた空気と泡消火剤の混合液とが混合されて発泡するようになっている。送泡管27はタンク本体11の底部に入り、支柱16の根元付近で支柱16に沿って上方に立ち上がって上方に延在しており、支柱16の先端に設けられチャンバー28に接続されている。また、送泡管27の支柱16に沿って延在する部分は、図3に示すように、固定治具27cによって支柱16に固定されている。
【0023】
チャンバー28は支柱16より大径の中略円筒形状とされており、浮き蓋14の可動範囲よりも上方、かつ、固定屋根12よりも下方の支柱16に巻きつくように取り付けられており、上端は支柱16との間で隙間ができないように、蓋部28aが設けられている。送泡管27の上端はフランジ27aによってエルボー27bと接続されている。また、エルボー27bはチャンバー28の内部と連通状態となるようにチャンバー28の側面で溶接されている。チャンバー28の下端には、支柱16との間で隙間を有する中央部消火用泡放出口28bが形成されている。また、チャンバー28内にはエルボー27bとの接続部分よりも短冊状の整流板28cが放射状に取り付けられている(図4参照)。
【0024】
図5に示すように、チャンバー28はエルボー27bとの接続方向から45度傾斜した角度で縦に半割りにされた第1チャンバー28dと第2チャンバー28eとから構成されており、第1チャンバー28dと第2チャンバー28eとは蝶番29で開閉可能に接続されている。第1チャンバー28dの上部両端には接合突起30a、30bが設けられており、第2チャンバー28eの上部両端には接合突起31a、31bが設けられており、第1チャンバー28dと第2チャンバー28eとを向かい合わせにして支柱16を巻くようにした場合、接合突起30a、30bと接合突起31a、31bとがそれぞれ整合する位置に配設されるようになっており、ボルト止めされている。チャンバー28がエルボー27bとの接続方向から45度傾斜した角度で縦に半割りにされているのは、フランジ27aのボルト止めと、チャンバー28の取り付けとを、両方行ないやすくするためである。また、接合突起30aと接合突起31aとの間、及び接合突起31aと接合突起31bとの間にはシール用ゴム板32が嵌められている。
【0025】
また、図6に示すように、支柱16及び送泡管27は浮き蓋14に固定された樹脂やゴム等からなるシール部材34に擦動可能に挿通されている。
【0026】
以上のように構成された実施形態の石油タンク用泡消火設備では、火災時あるいは火災発生のおそれが生じた場合、浮き蓋14の状況に応じて、以下に示すように消火用泡がタンク内に放出される。
【0027】
(ケース1)
例えば、図7に示すように、地震が発生して浮き蓋14が可燃性液体13中に没した状態となった場合、石油タンク用泡消火設備の操作者は、地震動によるタンク内の可燃性液体13の揺れが収まった後、バルブ22及び背圧発泡器26の図示しないバルブを開け、加圧ポンプ21bを駆動させる。これにより、貯水槽21aの水が混合器21cに送水され、原液タンク21eから供給される泡消火剤原液と混合されて泡消火剤となり、泡消火剤供給管23及び背圧発泡器26に送られる。
【0028】
泡消火剤供給管23に送られた泡消火剤は、図2に示すように、発泡チャンバー24のジェット24aの下流に設けられた空気取入口24bから空気が取り入れられて消火用泡となり、周縁部消火用泡放出口25から放出され、デフレクタ25aによってタンク本体11の内壁を伝ってタンク内の周縁に向かって流れ落ちる。
【0029】
一方、背圧発泡器26に送られた泡消火剤は、背圧発泡器26内で発泡して消火用泡となり、送泡管27内を支柱16に沿って上昇する。そして、図3に示すように、エルボー27bからチャンバー28の蓋部28a内部に入り、整流板28cによって下方に案内され、図7に示すように、中央部消火用泡放出口28bから支柱16を伝って可燃性液体13の表面に流れ落ちる。消火用泡が支柱16を伝って落ちる速度は、消火用泡の自由落下の速度より遅いため、消火用泡は火災を起こして燃焼している可燃性液体13の表面に沈み込むことなく速やかに展開し、消火が行なわれる。また、可燃性液体が消火用泡によって汚れることを最小限に抑えることができる。
【0030】
なお、中央部消火用泡放出口28bの開口部面積は、均一な泡消火が可能となるよう一定の面積が求められる。具体的には、開口部の面積は発泡器の定格流量(消火薬剤混合液)および消火用泡の管内流速、さらにはタンク内部の流体の引火点などに依存する。開口部の面積としては、発泡器の定格流量をQ[m3/s]、泡放出口の開口部の面積をS[m2]とした場合、引火点が21℃未満のものについてはS≧4/3Q、引火点21℃以上のものに関してはS≧2/3Qとすることが好ましい。この条件を満たせば、消火用泡が可燃性液体の油面に突入する時に、油と泡が攪拌されて、汚染されたり、油が飛散したりせず、迅速かつ確実に消火を達成できる面で好ましい。なお、引火点が21℃を境として条件が異なるのは、引火点が21℃未満の可燃性液体は引火の危険性がより高いため、より厳しい基準を採用したからである。また、発泡倍率は少なくとも2倍以上ないと消火用泡が生じ難くなること、及び開口部で消火用泡の管内速度は6m/s以下(引火点が21℃未満の可燃性液体で3m/s以下)としないと、消火用泡が可燃性液体の油面に突入する時に、油と泡が攪拌されて、泡が汚染されたり、油が飛散したりすることから、引火点が21℃未満のものについてはS≧2/3Q、引火点21℃以上のものに関してはS≧1/3Qとすることが好ましい。
【0031】
以上のようにして、この石油タンク用泡消火設備では、消火用泡が、周縁部消火用泡放出口25及びチャンバー28の中央部消火用泡放出口28bから流下して可燃性液体13の表面を周縁及び中央付近から迅速に覆う。このため、タンク内の可燃性液体の表面で起こっている火災を迅速に消火することができる。
【0032】
(ケース2)
また、ケース2として、図8に示すように、何らかの理由で浮き蓋14の泡堰14cとタンク本体11との間に可燃性液体13が漏れて火災が発生した場合には、背圧発泡器26のバルブを閉めた状態で、バルブ22を開け、チャンバー24の周縁部消火用泡放出口25からタンク本体11の内壁を伝ってタンク内の周縁に向かって流れ落とすことにより、泡堰14cとタンク本体11との間に発生した火災を消し止めることができる。
【0033】
以上のように、実施形態1の石油タンク用泡消火設備では、火災の状況に応じて、適切な方向に消火用泡を放出することができる。なお、上記実施形態1の泡放出装置では、2本の支柱16の上端にチャンバー28に設置したが、支柱及びチャンバーの数をさらに増やすことももちろん可能である。
【0034】
<実施形態2>
実施形態2の石油タンク用泡消火設備は、実施形態1において送泡管23の先端に設けられたチャンバー28の代わりに、図9に示すように、送泡管33の上端に、水平方向に消火用泡を放出するための中央部消火用泡放出口38b及び整流板38cが設けられたチャンバー38が備えられている。その他については実施形態1の石油タンク用泡消火設備と同様であり、説明を省略する。
【0035】
実施形態2の石油タンク用泡消火設備では、実施形態1におけるケース1のように、地震が発生して浮き蓋14が可燃性液体13中に没した状態となった場合、実施形態1の場合と同様にして、周縁部消火用泡放出口25のデフレクタ25aからタンク本体11の内壁を伝ってタンク内の周縁に向かって流れ落ちる(図7)。また、背圧発泡器26に送られた泡消火剤は、背圧発泡器26内で発泡して消火用泡となり、図9に示すように、送泡管33内を上昇し、チャンバー38の中央部消火用泡放出口38bから整流板38cによって整流されつつ放出され、消火用泡は火災を起こして燃焼している可燃性液体13の表面に落下し、展開して消火が行なわれる。
【0036】
なお、実施形態2の石油タンク用泡消火設備使用する消火剤は、法令の技術基準(泡を投入させて消火を行う試験基準)に適合した、たんぱく泡消火薬剤または水成膜泡消火薬剤の使用する。ただし、法令に定められた消火設備に加え、危険物施設の保有者が自主的に設ける消火設備の場合は、それ以外の泡消火薬剤を用いることもできる。
【0037】
なお、実施形態2の変形例として、図10に示すように、周縁部消火用泡放出口48b及び整流板48cが全方位に設けられたチャンバー48としてもよい。こうであれば、消火用泡を全方位に均等に放出することができる。
【0038】
この発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、浮き蓋付き固定屋根タンク用の消火設備として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態1の石油タンク用泡消火設備を設置した浮き蓋付き固定屋根タンクの一部模式図断面である。
【図2】実施形態1の石油タンク用泡消火設備の発泡チャンバー24付近の一部正面図である。
【図3】実施形態1の石油タンク用泡消火設備のチャンバー28付近の一部断面図である。
【図4】図3のIII−III矢視断面図である。
【図5】実施形態1の石油タンク用泡消火設備のチャンバー28付近の平面図である。
【図6】浮き蓋14と、支柱16及び送泡管27との擦動部分の模式断面図である。
【図7】実施形態1の石油タンク用泡消火設備の浮き蓋が可燃性液体の中に沈んで火災となった場合の消火の状況を示す図である。
【図8】実施形態1の石油タンク用泡消火設備の浮き蓋の周縁付近で火災が発生した場合の消火の状況を示す図である。
【図9】実施形態2の石油タンク用泡消火設備のチャンバー38周辺の斜視図である。
【図10】実施形態2の変形例における石油タンク用泡消火設備のチャンバー48周辺の斜視図である。
【図11】浮き屋根式タンクに設置された従来の石油タンク用泡消火設備の火災発生時における作動状態を示す一部模式断面図である。
【図12】浮き屋根式タンクに設置された従来の石油タンク用泡消火設備の浮き屋根が沈下した状態での火災の発生を示す一部模式断面図である。
【図13】上部泡注入方式のほかに、底部泡注入方式の泡消火設備を設置した石油タンク用泡消火設備の火災発生時における作動状態を示す模式断面図である。
【図14】浮き蓋付き固定屋根タンクに設置された従来の石油タンク用泡消火設備の浮き屋根が沈下した状態での火災発生時における作動状態を示す一部模式断面図である。
【符号の説明】
【0041】
12…固定屋根
13…可燃性液体
14…浮き蓋
10…浮き蓋付き固定屋根タンク
25…周縁部消火用泡放出口
21,22,23,24,25…周縁部消火設備(21…泡消火剤供給装置,22…バルブ,23…泡消火剤供給管,24…発泡チャンバー,25,38b,48b…周縁部消火用泡放出口) 28b…中央部消火用泡放出口
21,22,26,27,28,38,48…中央部消火設備(21…泡消火剤供給装置,22…バルブ,26…背圧発泡器,27…送泡管,28,38,48…チャンバー)
16…支柱
27…送泡管
28c,38c,48c…整流部材(整流板)
【技術分野】
【0001】
本発明は浮き蓋付き固定屋根タンクに設置される石油タンク用泡消火設備に関する。
【背景技術】
【0002】
石油タンク等の構造として、固定屋根タンク(円錐屋根)、固定屋根タンク(球面屋根)、浮き屋根タンク、浮き蓋付き固定屋根タンク等が挙げられ、揮発性の高い原油やガソリン等の貯蔵には図11に示す浮屋根式タンクが知られている。この浮屋根式タンクは、タンク本体90内の可燃性液体91の液面に浮屋根92が浮かんでおり、可燃性液体91の液面の上昇下降に伴って浮屋根92が上下に移動するという、落とし蓋構造になっている。そしてこの構造によって、可燃性液体91が外気や風雨に曝されることなく、火災が発生した場合においても、浮屋根92が可燃物表面を覆っているため、燃焼面積を限定的にすることができる。
【0003】
この浮屋根式タンクでは、タンク側壁90aと浮屋根92との間に、油の蒸発を防ぐためのソフトシール93が配設されている。しかし、ソフトシール93によって油の蒸発を完全に防ぐことはできないため、このシール部分から、タンク内の可燃性液体や気化したガス等が漏出した場合は、タンク火災の原因となることが懸念される。これを防止するため、シール部の火災を想定し、浮屋根92の周縁からやや内側に泡堰94を立設しておき、火災発生時にはタンク側壁90aの上端に設けられた泡放出口95から消火用泡を放出し、泡堰94とタンク側壁90aとの間に消火用泡を満たして消火・防火を行うことがなされている(特許文献1)。
【0004】
こうした浮き屋根式タンクの消火設備は、浮き屋根の上に、タンク内の可燃性液体が漏れ出すことや、浮き屋根が沈降することは無いという想定のもとに設置されるものである。
【0005】
ところが、図12に示すように、浮き屋根92が地震動等によるスロッシング・破損・荷重オーバー等によって、油面下に沈下した場合は、上記のような泡放出口95からタンク本体90の内部の下方周縁に向かって消火用泡が放出される泡消火設備のみで消火することは困難である。この場合、通常の浮き屋根式タンクであれば、移動可能な泡放射ノズル96や、図示しない独立した泡放射設備等を用いて、タンク外から消火用泡を投入することが可能である。
【0006】
また、固定屋根式タンクの場合は、タンク内で全面火災になっても、外部からのノズル等では泡を打ち込むことができないため、図13に示すように、上部泡注入方式のほかに、底部泡注入方式の泡消火設備を設置しているものもある。
【0007】
さらに、タンクの直径が60m未満の浮き蓋付き固定屋根構造のタンクは、固定屋根タンクと同様に、上部泡注入方式の設置が法令にて義務付けられている。
【0008】
一方、従来、60mを超える直径を有する大型タンクは固定屋根式構造か浮き屋根式構造のみであった。しかし、これら大型タンクであっても耐震性・安全性の向上や貯蔵物の蒸発損失低減などを考慮すると、浮き蓋付き固定屋根タンクへの改造が好ましい。しかしながら、図13に示すような、タンクを閉塞する固定屋根97を有し、内部に浮き蓋99が設けられた浮き蓋付き固定屋根タンク100の場合は、タンク外から消火用泡を投入することができないばかりか、タンク内の底部から消火用泡を注入する方式を採用しようとしても、浮き蓋99によって消火用泡の上昇が阻止され、可燃性液体の表面での火災の消火を行うことができないという問題点があり、改善が望まれている。
【0009】
【特許文献1】特開昭60−228283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、固定屋根を有し、内部に浮き蓋が設けられた浮き蓋付き固定屋根タンクにおいて、浮き蓋がタンク内部の可燃性液体の中に沈んだとしても、タンク火災を適切に消火することが可能な、石油タンク用泡消火設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の石油タンク用泡消火設備は、タンク本体の上端に固定屋根を有し、内部に貯留される可燃性液体の液面を覆う浮き蓋が設けられた浮き蓋付き固定屋根タンクに設置される石油タンク用泡消火設備であって、前記タンク本体の内部であって、前記浮き蓋より上方の位置に中央部消火用泡放出口を有し、該中央部消火用泡放出口からタンク内の中央部付近に向かって消火用泡を放出可能な中央部消火設備を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の石油タンク用泡消火設備では、タンク本体の内部であって前記浮き蓋より上方の位置に中央部消火用泡放出口を有し、中央部消火用泡放出口からタンク内の中央部付近に向かって消火用泡を放出可能な中央部消火設備が設けられている。このため、たとえ浮き蓋が地震動によってタンク内部の可燃性液体の中に沈み、タンク内の可燃性液体に引火してタンク内の可燃性液体の表面全体に火災が広がっていたとしても(あるいは、未だ引火はしていないが、その危険性がある場合であったとしても)、中央部消火用泡放出口から消火用泡の放出により、浮き蓋付き固定屋根タンク内の火災を確実かつ迅速に消火(あるいは火災の危険性を回避)することができる。
【0013】
また、タンク本体の浮き蓋より上方の側壁に周縁部消火用泡放出口を有し、該周縁部消火用泡放出口からタンク内の周縁に向かって消火用泡を放出可能な周縁部消火設備を備えることが好ましい。こうであれば、タンク内部の中央付近は中央部消火用泡放出口から消火用の泡の放出によって消火され、タンク内部の周縁部は、周縁部消火設備の周縁部消火用泡放出口からの消火用の泡の放出によって消火される。こうして、タンク内の周縁部及び中央部の両方に消火用の泡が供給されることにより、浮き蓋付き固定屋根タンク内の火災をさらに確実かつ迅速に消火することができる。
【0014】
また、タンク本体の内部には、前記浮き蓋を貫通する支柱が立設されている場合もあり、その場合には、中央部消火用泡放出口は支柱の浮き蓋よりも上方に設けられていることが好ましい。浮き蓋付き固定屋根タンクには、固定屋根を支えるために、浮き蓋を貫通する支柱が立設されている場合がある。このため、この支柱を利用して中央部消火用泡放出口を容易に取り付けることができる。
【0015】
中央部消火設備の中央部消火用泡放出口への消火用泡の供給方法としては、耐熱ホース等を用いて浮き蓋の上から行う方式とすることもできるが、支柱側面又は支柱内部に設置された送泡管を介して行なわれることが好ましい。こうであれば、送泡管が可燃性液体中あるいはその近傍を通る箇所においては、送泡管に火炎が直接あたることがなく、消火用泡の熱による変質を防ぐことができる。
【0016】
また、中央部消火用泡放出口から放出される消火用泡は、前記支柱の側面を伝わって下方に流れるようにされていることが好ましい。こうであれば、消火用泡が支柱側面を伝わってゆっくりと落下するため、可燃性液体の表面に到達したときの再発泡を少なくすることができ、可燃性液体表面を覆う泡の展開速度の損失を小さくすることができる。このため、消火の効率が良好となる。また、消火用泡が風等によって飛散することを防止でき、支柱の根元に向かって確実に消火用泡を集中させることができる。このため、支柱根元付近から確実に消火を行うことができ、消火用泡による消火の効果を高めることができる。さらには、消火用泡が可燃性液体によって汚れることを最小限に抑えることができる。
【0017】
この場合において、中央部消火用泡放出口には、消火用泡の放出方向を前記支柱の側面を伝わって下方に流れるように案内する整流部材が設けられていることが、更に好ましい。こうであれば、消火用泡の方向が整流部材によって支柱側面を流れる方向に案内されるため、上記効果を確実に奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0019】
<実施形態1>
実施形態1の石油タンク用泡消火設備は、図1に示すように、円筒形のタンク本体11の上部が円錐形の固定屋根12で覆われた、浮き蓋付き固定屋根タンク10に備えられている。
【0020】
浮き蓋付き固定屋根タンク10の内部には、揮発性の高い原油、ナフサ、灯油、軽油等の可燃性液体13が貯留されており、可燃性液体13の表面を覆うように浮き蓋14が浮かんでいる。浮き蓋14の周縁にはフロート14aが設けられており、さらにフロート14aの周縁には、タンク本体11との隙間をなくすように弾性変形するシール部材14bが取り付けられている。また、浮き蓋14周縁上面のやや内側には、泡堰14cが立設されている場合もある。さらに、浮き蓋付き固定屋根タンク10の床板15には、複数本の支柱16が浮き蓋14を貫通して上方に突出するように立設されている。
【0021】
次に、この浮き蓋付き固定屋根タンク10に備えられた、石油タンク用泡消火設備について説明する。浮き蓋付き固定屋根タンク10から離れた地上には、泡消火剤供給装置21が設置されている。泡消火剤供給装置21には貯水槽21aが設置されており、貯水槽21aから加圧ポンプ21bを経由して水を混合器21cまで供給する水供給管21dが接続されている。なお、貯水槽21aを設ける代わりに、河川や池の水を利用したり、海から海水を利用する方式としても良い。混合器21cは原液タンク21eにも接続されており、原液タンク21e内には、泡消火剤原液が貯留されている。混合器21cは泡消火剤原液と水とを、発泡に適切な量で混合する構造とされており、混合器21cで調製された泡消火剤(すなわち泡消火剤原液を淡水又は海水で薄めたもの)は、バルブ22及び泡消火剤供給管23を経由して、タンク本体11の上端に設置された発泡チャンバー24に接続されている。図2に示すように、泡消火剤供給管23に接続される発泡チャンバー24には、ジェット24aと空気取入口24bが設けられており、ジェット24aの下流の負圧によって、空気取入口24bから取り込まれた空気と泡消火剤の混合液とが混合されて発泡するようになっている。発泡チャンバー24はタンク本体11の上端と内部に連通する状態で接続されており、周縁部消火用泡放出口25が形成されている。
【0022】
また、図1に示すように、泡消火剤供給管23は途中で分岐して背圧発泡器26の一端に接続されており、背圧発泡器26の他端には送泡管27が接続されている。背圧発泡器26には、図示しないノズルと空気取入口とが設けられており、発泡チャンバー24と同様、空気取入口から取り込まれた空気と泡消火剤の混合液とが混合されて発泡するようになっている。送泡管27はタンク本体11の底部に入り、支柱16の根元付近で支柱16に沿って上方に立ち上がって上方に延在しており、支柱16の先端に設けられチャンバー28に接続されている。また、送泡管27の支柱16に沿って延在する部分は、図3に示すように、固定治具27cによって支柱16に固定されている。
【0023】
チャンバー28は支柱16より大径の中略円筒形状とされており、浮き蓋14の可動範囲よりも上方、かつ、固定屋根12よりも下方の支柱16に巻きつくように取り付けられており、上端は支柱16との間で隙間ができないように、蓋部28aが設けられている。送泡管27の上端はフランジ27aによってエルボー27bと接続されている。また、エルボー27bはチャンバー28の内部と連通状態となるようにチャンバー28の側面で溶接されている。チャンバー28の下端には、支柱16との間で隙間を有する中央部消火用泡放出口28bが形成されている。また、チャンバー28内にはエルボー27bとの接続部分よりも短冊状の整流板28cが放射状に取り付けられている(図4参照)。
【0024】
図5に示すように、チャンバー28はエルボー27bとの接続方向から45度傾斜した角度で縦に半割りにされた第1チャンバー28dと第2チャンバー28eとから構成されており、第1チャンバー28dと第2チャンバー28eとは蝶番29で開閉可能に接続されている。第1チャンバー28dの上部両端には接合突起30a、30bが設けられており、第2チャンバー28eの上部両端には接合突起31a、31bが設けられており、第1チャンバー28dと第2チャンバー28eとを向かい合わせにして支柱16を巻くようにした場合、接合突起30a、30bと接合突起31a、31bとがそれぞれ整合する位置に配設されるようになっており、ボルト止めされている。チャンバー28がエルボー27bとの接続方向から45度傾斜した角度で縦に半割りにされているのは、フランジ27aのボルト止めと、チャンバー28の取り付けとを、両方行ないやすくするためである。また、接合突起30aと接合突起31aとの間、及び接合突起31aと接合突起31bとの間にはシール用ゴム板32が嵌められている。
【0025】
また、図6に示すように、支柱16及び送泡管27は浮き蓋14に固定された樹脂やゴム等からなるシール部材34に擦動可能に挿通されている。
【0026】
以上のように構成された実施形態の石油タンク用泡消火設備では、火災時あるいは火災発生のおそれが生じた場合、浮き蓋14の状況に応じて、以下に示すように消火用泡がタンク内に放出される。
【0027】
(ケース1)
例えば、図7に示すように、地震が発生して浮き蓋14が可燃性液体13中に没した状態となった場合、石油タンク用泡消火設備の操作者は、地震動によるタンク内の可燃性液体13の揺れが収まった後、バルブ22及び背圧発泡器26の図示しないバルブを開け、加圧ポンプ21bを駆動させる。これにより、貯水槽21aの水が混合器21cに送水され、原液タンク21eから供給される泡消火剤原液と混合されて泡消火剤となり、泡消火剤供給管23及び背圧発泡器26に送られる。
【0028】
泡消火剤供給管23に送られた泡消火剤は、図2に示すように、発泡チャンバー24のジェット24aの下流に設けられた空気取入口24bから空気が取り入れられて消火用泡となり、周縁部消火用泡放出口25から放出され、デフレクタ25aによってタンク本体11の内壁を伝ってタンク内の周縁に向かって流れ落ちる。
【0029】
一方、背圧発泡器26に送られた泡消火剤は、背圧発泡器26内で発泡して消火用泡となり、送泡管27内を支柱16に沿って上昇する。そして、図3に示すように、エルボー27bからチャンバー28の蓋部28a内部に入り、整流板28cによって下方に案内され、図7に示すように、中央部消火用泡放出口28bから支柱16を伝って可燃性液体13の表面に流れ落ちる。消火用泡が支柱16を伝って落ちる速度は、消火用泡の自由落下の速度より遅いため、消火用泡は火災を起こして燃焼している可燃性液体13の表面に沈み込むことなく速やかに展開し、消火が行なわれる。また、可燃性液体が消火用泡によって汚れることを最小限に抑えることができる。
【0030】
なお、中央部消火用泡放出口28bの開口部面積は、均一な泡消火が可能となるよう一定の面積が求められる。具体的には、開口部の面積は発泡器の定格流量(消火薬剤混合液)および消火用泡の管内流速、さらにはタンク内部の流体の引火点などに依存する。開口部の面積としては、発泡器の定格流量をQ[m3/s]、泡放出口の開口部の面積をS[m2]とした場合、引火点が21℃未満のものについてはS≧4/3Q、引火点21℃以上のものに関してはS≧2/3Qとすることが好ましい。この条件を満たせば、消火用泡が可燃性液体の油面に突入する時に、油と泡が攪拌されて、汚染されたり、油が飛散したりせず、迅速かつ確実に消火を達成できる面で好ましい。なお、引火点が21℃を境として条件が異なるのは、引火点が21℃未満の可燃性液体は引火の危険性がより高いため、より厳しい基準を採用したからである。また、発泡倍率は少なくとも2倍以上ないと消火用泡が生じ難くなること、及び開口部で消火用泡の管内速度は6m/s以下(引火点が21℃未満の可燃性液体で3m/s以下)としないと、消火用泡が可燃性液体の油面に突入する時に、油と泡が攪拌されて、泡が汚染されたり、油が飛散したりすることから、引火点が21℃未満のものについてはS≧2/3Q、引火点21℃以上のものに関してはS≧1/3Qとすることが好ましい。
【0031】
以上のようにして、この石油タンク用泡消火設備では、消火用泡が、周縁部消火用泡放出口25及びチャンバー28の中央部消火用泡放出口28bから流下して可燃性液体13の表面を周縁及び中央付近から迅速に覆う。このため、タンク内の可燃性液体の表面で起こっている火災を迅速に消火することができる。
【0032】
(ケース2)
また、ケース2として、図8に示すように、何らかの理由で浮き蓋14の泡堰14cとタンク本体11との間に可燃性液体13が漏れて火災が発生した場合には、背圧発泡器26のバルブを閉めた状態で、バルブ22を開け、チャンバー24の周縁部消火用泡放出口25からタンク本体11の内壁を伝ってタンク内の周縁に向かって流れ落とすことにより、泡堰14cとタンク本体11との間に発生した火災を消し止めることができる。
【0033】
以上のように、実施形態1の石油タンク用泡消火設備では、火災の状況に応じて、適切な方向に消火用泡を放出することができる。なお、上記実施形態1の泡放出装置では、2本の支柱16の上端にチャンバー28に設置したが、支柱及びチャンバーの数をさらに増やすことももちろん可能である。
【0034】
<実施形態2>
実施形態2の石油タンク用泡消火設備は、実施形態1において送泡管23の先端に設けられたチャンバー28の代わりに、図9に示すように、送泡管33の上端に、水平方向に消火用泡を放出するための中央部消火用泡放出口38b及び整流板38cが設けられたチャンバー38が備えられている。その他については実施形態1の石油タンク用泡消火設備と同様であり、説明を省略する。
【0035】
実施形態2の石油タンク用泡消火設備では、実施形態1におけるケース1のように、地震が発生して浮き蓋14が可燃性液体13中に没した状態となった場合、実施形態1の場合と同様にして、周縁部消火用泡放出口25のデフレクタ25aからタンク本体11の内壁を伝ってタンク内の周縁に向かって流れ落ちる(図7)。また、背圧発泡器26に送られた泡消火剤は、背圧発泡器26内で発泡して消火用泡となり、図9に示すように、送泡管33内を上昇し、チャンバー38の中央部消火用泡放出口38bから整流板38cによって整流されつつ放出され、消火用泡は火災を起こして燃焼している可燃性液体13の表面に落下し、展開して消火が行なわれる。
【0036】
なお、実施形態2の石油タンク用泡消火設備使用する消火剤は、法令の技術基準(泡を投入させて消火を行う試験基準)に適合した、たんぱく泡消火薬剤または水成膜泡消火薬剤の使用する。ただし、法令に定められた消火設備に加え、危険物施設の保有者が自主的に設ける消火設備の場合は、それ以外の泡消火薬剤を用いることもできる。
【0037】
なお、実施形態2の変形例として、図10に示すように、周縁部消火用泡放出口48b及び整流板48cが全方位に設けられたチャンバー48としてもよい。こうであれば、消火用泡を全方位に均等に放出することができる。
【0038】
この発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、浮き蓋付き固定屋根タンク用の消火設備として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態1の石油タンク用泡消火設備を設置した浮き蓋付き固定屋根タンクの一部模式図断面である。
【図2】実施形態1の石油タンク用泡消火設備の発泡チャンバー24付近の一部正面図である。
【図3】実施形態1の石油タンク用泡消火設備のチャンバー28付近の一部断面図である。
【図4】図3のIII−III矢視断面図である。
【図5】実施形態1の石油タンク用泡消火設備のチャンバー28付近の平面図である。
【図6】浮き蓋14と、支柱16及び送泡管27との擦動部分の模式断面図である。
【図7】実施形態1の石油タンク用泡消火設備の浮き蓋が可燃性液体の中に沈んで火災となった場合の消火の状況を示す図である。
【図8】実施形態1の石油タンク用泡消火設備の浮き蓋の周縁付近で火災が発生した場合の消火の状況を示す図である。
【図9】実施形態2の石油タンク用泡消火設備のチャンバー38周辺の斜視図である。
【図10】実施形態2の変形例における石油タンク用泡消火設備のチャンバー48周辺の斜視図である。
【図11】浮き屋根式タンクに設置された従来の石油タンク用泡消火設備の火災発生時における作動状態を示す一部模式断面図である。
【図12】浮き屋根式タンクに設置された従来の石油タンク用泡消火設備の浮き屋根が沈下した状態での火災の発生を示す一部模式断面図である。
【図13】上部泡注入方式のほかに、底部泡注入方式の泡消火設備を設置した石油タンク用泡消火設備の火災発生時における作動状態を示す模式断面図である。
【図14】浮き蓋付き固定屋根タンクに設置された従来の石油タンク用泡消火設備の浮き屋根が沈下した状態での火災発生時における作動状態を示す一部模式断面図である。
【符号の説明】
【0041】
12…固定屋根
13…可燃性液体
14…浮き蓋
10…浮き蓋付き固定屋根タンク
25…周縁部消火用泡放出口
21,22,23,24,25…周縁部消火設備(21…泡消火剤供給装置,22…バルブ,23…泡消火剤供給管,24…発泡チャンバー,25,38b,48b…周縁部消火用泡放出口) 28b…中央部消火用泡放出口
21,22,26,27,28,38,48…中央部消火設備(21…泡消火剤供給装置,22…バルブ,26…背圧発泡器,27…送泡管,28,38,48…チャンバー)
16…支柱
27…送泡管
28c,38c,48c…整流部材(整流板)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク本体の上端に固定屋根を有し、内部に貯留される可燃性液体の液面を覆う浮き蓋が設けられた浮き蓋付き固定屋根タンクに設置される石油タンク用泡消火設備であって、
前記タンク本体の内部であって、前記浮き蓋より上方の位置に中央部消火用泡放出口を有し、該中央部消火用泡放出口からタンク内の中央部付近に向かって消火用泡を放出可能な中央部消火設備を備えることを特徴とする石油タンク用泡消火設備。
【請求項2】
前記タンク本体の前記浮き蓋より上方の側壁に周縁部消火用泡放出口を有し、該周縁部消火用泡放出口からタンク内の周縁に向かって消火用泡を放出可能な周縁部消火設備を備えることを特徴とする請求項1記載の石油タンク用泡消火設備。
【請求項3】
前記タンク本体の内部には、前記浮き蓋を貫通する支柱が立設されており、前記中央部消火用泡放出口は該支柱の該浮き蓋よりも上方に設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の石油タンク用泡消火設備。
【請求項4】
中央部消火用泡放出口への消火用泡の供給は、前記支柱側面又は前記支柱内部に設置された送泡管を介して行なわれることを特徴とする請求項3記載の石油タンク用泡消火設備。
【請求項5】
中央部消火用泡放出口から放出される消火用泡は、前記支柱の側面を伝わって下方に流れるようにされていることを特徴とする請求項3又は4記載の石油タンク用泡消火設備。
【請求項6】
中央部消火用泡放出口には、消火用泡の放出方向を前記支柱の側面を伝わって下方に流れるように案内する整流部材が設けられていることを特徴とする請求項5記載の石油タンク用泡消火設備。
【請求項1】
タンク本体の上端に固定屋根を有し、内部に貯留される可燃性液体の液面を覆う浮き蓋が設けられた浮き蓋付き固定屋根タンクに設置される石油タンク用泡消火設備であって、
前記タンク本体の内部であって、前記浮き蓋より上方の位置に中央部消火用泡放出口を有し、該中央部消火用泡放出口からタンク内の中央部付近に向かって消火用泡を放出可能な中央部消火設備を備えることを特徴とする石油タンク用泡消火設備。
【請求項2】
前記タンク本体の前記浮き蓋より上方の側壁に周縁部消火用泡放出口を有し、該周縁部消火用泡放出口からタンク内の周縁に向かって消火用泡を放出可能な周縁部消火設備を備えることを特徴とする請求項1記載の石油タンク用泡消火設備。
【請求項3】
前記タンク本体の内部には、前記浮き蓋を貫通する支柱が立設されており、前記中央部消火用泡放出口は該支柱の該浮き蓋よりも上方に設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の石油タンク用泡消火設備。
【請求項4】
中央部消火用泡放出口への消火用泡の供給は、前記支柱側面又は前記支柱内部に設置された送泡管を介して行なわれることを特徴とする請求項3記載の石油タンク用泡消火設備。
【請求項5】
中央部消火用泡放出口から放出される消火用泡は、前記支柱の側面を伝わって下方に流れるようにされていることを特徴とする請求項3又は4記載の石油タンク用泡消火設備。
【請求項6】
中央部消火用泡放出口には、消火用泡の放出方向を前記支柱の側面を伝わって下方に流れるように案内する整流部材が設けられていることを特徴とする請求項5記載の石油タンク用泡消火設備。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−284999(P2009−284999A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138842(P2008−138842)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000192338)深田工業株式会社 (11)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000192338)深田工業株式会社 (11)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
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