説明

石油燃焼機器用燃料組成物及びその製造方法

【課題】(I)供給不足を補う為に新たな精製工程を必要とせず、(II)着火性、燃焼性が良好で、(III)燃料消費量が少ない、石油燃焼機器用燃料組成物を提供する。
【解決手段】密度(15℃)が0.79〜0.81g/cm3、硫黄分が10質量ppm以下、初留点が150℃以上、95%留出温度が230〜250℃、煙点が23〜29mm、引火点が40〜46℃、全芳香族分が10〜27容量%、炭素数9の芳香族分が4〜15容量%、炭素数11の芳香族分が3〜6容量%であることを特徴とする石油燃焼機器用燃料組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油燃焼機器用燃料組成物及びその製造方法に関し、特には、需要時期の冬季に不足する石油燃焼機器用燃料基材をガソリンや石化用基材となる芳香族基材から補うことで、該石油燃焼機器用燃料基材の供給不足を解消し、なおかつ石油燃焼機器の燃焼を悪化させず、燃料消費量を低減するという格段の効果を奏する石油燃焼機器用燃料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ストーブや給湯器等の家庭用燃焼機器に使用される石油燃焼機器用燃料は、需要時期の冬季に不足することから、従来常圧蒸留装置の灯油留分の沸点範囲を拡大して水素化脱硫することにより灯油を増産することが行われている。しかしながら、この方法はガソリンから軽油までの供給バランスを変化させ、ガソリンや軽油の需要構造変化に対して柔軟に対応することが困難となる。また、軽油から灯油留分を大きくカットすると、軽油の低温流動性問題が生じるため、必ずしも灯油の大幅な増産には繋がらない。一方、ガソリンは冬季には比較的高い揮発性を要求される為、重質芳香族基材のガソリンへの混合量が低下する。また、石化品の製造原料となる重質芳香族基材は、石化需要構造変化により余剰化する。
【0003】
また、天然ガスを原料として、フィッシャー・トロプシュ合成により生産される硫黄分や芳香族分を含有しない、石油系灯油と同等の蒸留性状に調製された、いわゆるGTL(Gas to liquid)灯油が市場に投入されている。しかしながら、GTL灯油を生産する為にはエネルギー投資が大きい上、生産設備コスト、運転コストがともに大きいことから、その供給量は当分限定的であるものと見込まれる。また、石油燃焼機器にGTL灯油を用いた場合、石油系燃料に比較して燃料消費量が大きいという問題がある。
【0004】
そこで、灯油の増産対策として、従来は灯油基材として用いることのなかった重油を直接脱硫装置により処理し、そこで得られた特定の直脱軽油低沸点留分を利用する方法が行われている。また、特定の芳香族炭化水素成分が多くなると臭気が強くなることから、特定の芳香族炭化水素成分の含有量を所定範囲にすることが行われてきた。しかしながら、前者は特定の直脱軽油低沸点留分を得る為に、新たに蒸留工程を必要とし精製エネルギーコスト増加となる。また、両者ともに所定割合で分布している軽質留分の特定炭化水素の含有量を所定範囲とする為、需要構造変化に応じて利用可能な特定炭素数の芳香族基材の混合には着目していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−256681号公報
【特許文献2】特開2007−31512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、需要構造変化に応じて利用可能な芳香族基材を所定範囲で混合することにより、(I)供給不足を補う為に新たな精製工程を必要とせず、(II)着火性、燃焼性が良好で、(III)燃料消費量が少ない、石油燃焼機器用燃料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究したところ、ガソリン基材や石化原料となる重質芳香族基材である炭素数9の芳香族分を、特定の性状範囲になる様に灯油基材に混合することが灯油の増産に有効で、燃料消費量も低減することが出来ることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物は、密度(15℃)が0.79〜0.81g/cm3、硫黄分が10質量ppm以下、初留点が150℃以上、95%留出温度が230〜250℃、煙点が23〜29mm、引火点が40〜46℃、全芳香族分が10〜27容量%、炭素数9の芳香族分が4〜15容量%、炭素数11の芳香族分が3〜6容量%であることを特徴とする。
【0009】
なお、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物は、さらに、アニリン点が50〜57℃、臭素指数が90〜100であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物の製造方法は、密度(15℃)が0.87〜0.89g/cm3、硫黄分が5質量ppm以下、初留点が150〜170℃、終点が180〜220℃、炭素数9の芳香族分が80容量%以上、炭素数11の芳香族分が0.1容量%以下である炭化水素組成物を2〜10容量%、密度(15℃)が0.78〜0.80g/cm3、硫黄分が10質量ppm以下、初留点が150〜170℃、終点が180〜270℃、炭素数9の芳香族分が2.5〜5容量%、炭素数11の芳香族分が6容量%以下である灯油基材を90〜98容量%配合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の石油燃焼機器用燃料組成物によれば、特に特定の芳香族基材の含有量を特定の範囲に限定したことから、着火性、燃焼性、燃料消費量に加えて、排出ガス性状を改善することができる。さらに、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物によれば、特にガソリン基材や石化原料となる重質芳香族基材である炭素数9の芳香族分を、特定の性状範囲になる様に灯油基材に配合することで、灯油需要期の供給不足を補う為に新たな精製工程を必要とせず、灯油を増産することができるという格別な効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔密度〕
本発明の石油燃焼機器用燃料組成物は、密度(15℃)が0.79〜0.81g/cm3である。燃料組成物の密度(15℃)が0.79g/cm3未満では、燃料消費量が悪化し、使用時間あたりの石油燃焼機器への給油量が増加する。これは、時間あたりの二酸化炭素排出量の増大となり、燃料需要量増大による供給不足を招き易いことから、0.792g/cm3以上が好ましく、さらには0.794g/cm3以上が好ましい。一方、密度(15℃)が0.81g/cm3を超えると、揮発性が悪化し、空気との混合不足により排出ガス性状が悪化し易い。
【0013】
〔硫黄分〕
本発明の石油燃焼機器用燃料組成物は、硫黄分が10質量ppm以下である。本発明の石油燃焼機器用燃料組成物は、硫黄分が10質量ppm以下であるので、燃焼によって生ずる亜硫酸ガス等に基づく悪臭や環境負荷が低減される。なお、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物の硫黄分は、環境負荷低減の観点から、好ましくは8質量ppm以下、さらに好ましくは6質量ppm以下である。
【0014】
〔初留点〕
本発明の石油燃焼機器用燃料組成物は、初留点が150℃以上である。燃料組成物の初留点が150℃未満であると、ハンドリング時に臭気が強くなる。なお、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物の硫黄分は、ハンドリング時の臭気改善の観点から、好ましくは152℃以上である。また、燃料組成物の初留点が180℃を超えると、着火時に火が点き難く、排出ガス性状が悪化する可能性があるため、燃料組成物の初留点は180℃以下であることが好ましい。
【0015】
〔95%留出温度〕
本発明の石油燃焼機器用燃料組成物は、95%留出温度が230〜250℃である。燃料組成物の95%留出温度が230℃未満であると、燃料消費量が悪化し易くなる。この為、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物の95%留出温度は、230℃以上であり、好ましくは232℃以上、さらに好ましくは234℃以上である。一方、95%留出温度が250℃を超えると、揮発性が悪化し、空気との混合不足により排出ガス性状が悪化し易くなる。この為、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物の95%留出温度は、250℃以下であり、好ましくは245℃以下、さらに好ましくは240℃以下、特には236℃以下である。
【0016】
〔煙点〕
本発明の石油燃焼機器用燃料組成物は、煙点が23〜29mmである。燃料組成物の煙点が23mm未満では、煙が発生し易くなる。この為、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物の煙点は、23mm以上であり、好ましくは23.5mm以上である。また、煙点が29mmを超えると、煙点が良好なノルマルパラフィンの含有量が増加することにより、製造時のエネルギーコストが増加し、さらには燃料消費量も増大する。この為、本発明の石油燃焼機器用組成物の煙点は、29mm以下であり、好ましくは27mm以下、さらに好ましくは25mm以下、特には24mm以下である。
【0017】
〔引火点〕
本発明の石油燃焼機器用燃料組成物は、引火点が40〜46℃である。燃料組成物の引火点が40℃を下回ると、石油燃焼機器使用時に炎の長さが長くなり、機器の各部耐熱温度を超えやすくなる。また、船舶やタンクロ−リでの輸送時において、前油種の影響を受けやすくなり、ハンドリング時の安全性が著しく損なわれる。この為、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物の引火点は40℃以上であり、好ましくは40.5℃以上である。一方、引火点が46℃を超えると、着火時に火が点き難くなり、排出ガス性状が悪化し易くなる。この為、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物の引火点は46℃以下であり、好ましくは45℃以下、さらに好ましくは44℃以下、特に好ましくは43℃以下である。
【0018】
〔全芳香族分〕
本発明の石油燃焼機器用燃料組成物は、全芳香族分は10〜27容量%である。燃料組成物の全芳香族分が10容量%未満では燃費が悪化する。また、芳香環の水素化や蒸留分離等によって全芳香族分を低減するには、膨大なコストがかかる。この為、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物の全芳香族分は10容量%以上であり、好ましくは15容量%以上、さらに好ましくは20容量%以上、特に好ましくは22容量%以上である。一方、全芳香族分が27容量%を超えると燃焼性が悪化し、煤が発生し易くなる。この為、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物の全芳香族分は27容量%以下であり、好ましくは26容量%以下、さらに好ましくは25容量%以下、特に好ましくは23容量%以下である。
【0019】
〔炭素数9の芳香族分〕
本発明の石油燃焼機器用燃料組成物は、炭素数9の芳香族分が4〜15容量%である。炭素数9の芳香族分が4容量%を下回ると、燃料消費量が増加する。この為、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物の炭素数9の芳香族分は4容量%以上であり、好ましくは7容量%以上、さらに好ましくは7.5容量%以上、一層好ましくは7.9容量%以上、特に好ましくは8.0容量%以上である。また、炭素数9の芳香族分が15容量%を上回ると燃焼性が悪化し、排出ガス性状が悪化し易くなる。この為、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物の炭素数9の芳香族分は15容量%以下であり、好ましくは13容量%以下、さらに好ましくは11容量%以下、特に好ましくは10容量%以下である。ここで、炭素数9の芳香族分としては、1−エチル−2−メチルベンゼン、1−エチル−3−メチルベンゼン、1−エチル−4−メチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、プロピルベンゼン等が挙げられる。なお、炭素数9の芳香族分については後述するガスクロマトグラフィーによりその含有量を測定することができる。
【0020】
〔炭素数11の芳香族分〕
本発明の石油燃焼機器用燃料組成物は、炭素数11の芳香族分が3〜6容量%である。炭素数11の芳香族分が3容量%を下回ると、燃料消費量が増加する。この為、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物の炭素数11の芳香族分は3容量%以上であり、好ましくは3.5容量%以上、さらに好ましくは4.0容量%以上、特に好ましくは4.5容量%以上である。また、炭素数11の芳香族分が6容量%を上回ると燃焼性が悪化し、排出ガス性状が悪化し易くなる。この為、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物の炭素数11の芳香族分は6容量%以下であり、好ましくは5.5容量%以下、さらに好ましくは5.0容量%以下、特に好ましくは4.7容量%以下である。ここで、炭素数11の芳香族分としては、1−メチルブチルベンゼン、1−エチルプロピルベンゼン、1,3−ジエチル−5−メチルベンゼン、1−メチル−4−(1−メチルプロピル)ベンゼン、2,4−ジエチル−1−メチルベンゼン、エチル−1,2,4−トリメチルベンゼン、1−エチル−4−(1−メチルエチル)ベンゼン、1,2,3,4−テトラヒドロ−5−メチルナフタレン、2,3−ジヒドロ−2,2−ジメチルインデン等が挙げられる。なお、炭素数11の芳香族分については後述するガスクロマトグラフィーによりその含有量を測定することができる。
【0021】
〔臭素指数〕
本発明の石油燃焼機器用燃料組成物は、臭素指数が90〜100であることが好ましい。ここで、臭素指数とは、反応性に富む二重結合の多さを表す指標である。臭素指数が低いと酸化反応の進行が遅く、燃焼性が悪化し易くなる為、本発明の石油燃焼機器用組成物の臭素指数は、好ましくは90以上であり、さらに好ましくは95以上である。一方、臭素指数が高すぎると酸化反応性が容易に進行することから、石油燃焼機器の高温部において、熱重合によるデポジットが堆積し易くなり、芯式ストーブの芯の固着を招くか、もしくは石油燃焼機器の燃焼時に排出ガス性状が悪化し易くなる。この為、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物の臭素指数は、好ましくは100以下であり、さらに好ましくは98以下である。
【0022】
〔アニリン点〕
本発明の石油燃焼機器用燃料組成物は、アニリン点が50〜57℃であることが好ましい。ここで、アニリン点とは、芳香族性の強さを表す指標である。アニリン点が低いと芳香族性が強く酸化反応の進行が遅くなり、燃焼性が悪化し易くなる為、本発明の石油燃焼機器用組成物のアニリン点は、好ましくは50℃以上であり、さらに好ましくは51℃以上、より一層好ましくは53℃以上である。一方、アニリン点が高すぎると芳香族性が弱くなり酸化反応の進行が進み、石油燃焼機器の高温部において、熱重合によるデポジットが堆積し易くなり、芯式ストーブの芯の固着を招くか、もしくは石油燃焼機器の燃焼時に排出ガス性状が悪化し易くなる為、本発明の石油燃焼機器用組成物のアニリン点は、好ましくは57℃以下であり、さらに好ましくは56℃以下である。
【0023】
本発明に係る石油燃焼機器用燃料組成物に対しては、当業者に知られた任意の酸化防止剤を必要に応じて添加することができる。酸化防止剤を添加する場合、その添加量は当業者であれば目的とする酸化安定性に応じて適宜調整することができる。例えば、燃料組成物が炭素数10以上のスチレン類及び炭素数15以上のジエン類を夫々0.01質量%以上含有する場合、酸化防止剤を添加して良好な酸化安定性を維持することができ、1〜10質量ppm程度の添加量で所望の効果を得ることができるが、10質量ppm以上添加してもよい。
【0024】
上記酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤の中で特に制限なく使用できる。具体的には、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、2−t−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2−t−ブチルフェノール等のフェノール系酸化防止剤や、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン等のアミン系酸化防止剤、及びこれらの混合物が挙げられる。フェノール系及びアミン系の化合物以外にも酸化防止効果を有する物質が考えられるが、区別を明確にするために、本発明においてはフェノール系及びアミン系の化合物のみを酸化防止剤として取扱い、酸化防止効果を有するその他の化合物を添加する場合は燃料基材として取り扱う。
【0025】
また、その他、低温流動性向上剤、耐摩耗性向上剤、セタン価向上剤等の公知の燃料添加剤を添加しても良い。なお、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物は低温流動性が良好である為、低温流動性向上剤を添加する必要はないが、添加する場合はエチレン共重合体などを用いることができ、特には酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルなどの飽和脂肪酸のビニルエステルが好ましく用いられる。耐摩耗性向上剤としては、例えば長鎖脂肪酸(炭素数12〜24)又はその脂肪酸エステルが好ましく用いられ、10〜500質量ppm、好ましくは50〜100質量ppmの添加量で十分に耐摩耗性が向上する。
【0026】
〔石油燃焼機器用燃料組成物の製法〕
本発明の石油燃焼機器用燃料組成物は、製法に特に限定はないが、例えば、密度(15℃)が0.87〜0.89g/cm3、硫黄分が5質量ppm以下、初留点が150〜170℃、終点が180〜220℃、炭素数9の芳香族分が80容量%以上、炭素数11の芳香族分が0.1容量%以下である炭化水素組成物を2〜10容量%、密度(15℃)が0.78〜0.80g/cm3、硫黄分が10質量ppm以下、初留点が150〜170℃、終点が180〜270℃、炭素数9の芳香族分が2.5〜5容量%、炭素数11の芳香族分が6容量%以下である灯油基材を90〜98容量%配合することで容易に得られる。
【0027】
(炭化水素組成物)
上記炭化水素組成物は、例えば、接触改質ガソリンから、必要に応じて精密蒸留を行うことによって容易に得ることが出来る。また、該炭化水素組成物の代表的な性状は、密度(15℃)が0.87〜0.89g/cm3、特には0.875〜0.885g/cm3、硫黄分が5質量ppm以下、特には1質量ppm以下、初留点が150〜170℃、特には160〜167℃、終点が180〜220℃、特には190〜215℃、炭素数9の芳香族分が80容量%以上、特には90容量%以上、炭素数11の芳香族分が0.1容量%以下、全芳香族分が99.5容量%以上、特には99.8容量%以上、引火点が35℃以上、特には40℃以上、煙点が5mm以上、特には6mm以上である。なお、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物には、上記炭化水素組成物を2〜10容量%配合することが好ましく、更に好ましくは3〜8容量%、特に好ましくは4〜6容量%配合する。
【0028】
(灯油基材)
また、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物に用いる灯油基材は、原料油として、例えば、常圧蒸留装置、接触分解装置、熱分解装置等から得られる灯油留分、すなわち初留点から終点までの温度範囲が140〜280℃の範囲で留出する留分を用いて、水素化脱硫することにより得られるが、2環芳香族含有量を抑える為、水素化脱硫する原料油にこれらの化合物を多く含まない原料油、例えばアスファルトを熱分解した油の混合比率を抑えたり、原料油を選択したりすることが有効である。また、これら化合物含有量を抑える為に、原料油の高沸点側を蒸留分離したり、反応温度を高めとし、水素分圧を上げたり、水素/オイル比を高くしたりすることも有効である。なお、接触分解装置、熱分解装置等から得られる灯油留分は難脱硫成分も多く含有することから、水素化脱硫にあたっては硫黄分を選択的に除去する触媒を用いる必要がある。また、該灯油基材の代表的な性状は、密度(15℃)が0.78〜0.80g/cm3、特には0.785〜0.795g/cm3、硫黄分が10質量ppm以下、特には7質量ppm以下、初留点が150〜170℃、特には152〜165℃、終点が180〜270℃、特には195〜255℃、炭素数9の芳香族分が2.5〜5容量%、特には3〜4容量%、炭素数11の芳香族分が6容量%以下、特には5容量%以下、全芳香族分が12〜20容量%、特には14〜18容量%、引火点が40℃以上、特には41〜46℃、煙点が23〜35mm、特には24〜30mmである。なお、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物には、上記灯油基材を90〜98容量%配合することが好ましく、更に好ましくは92〜97容量%、特に好ましくは94〜96容量%配合することが好ましい。また、上記性状を有する灯油基材が90〜98容量%配合された石油燃焼機器用燃料組成物であれば、該燃料組成物の95%留出温度を230〜250℃の範囲に調整することが可能となる。
【0029】
なお、上記水素化脱硫は、例えば、水素化脱硫触媒として、Co、Mo及びNiの1種以上を含有し、又所望によりPを担持したものを用い、反応温度270〜380℃、好ましくは295〜360℃、反応圧力2.5〜8.5MPa、好ましくは2.7〜7.0MPa、LHSV0.9〜6.0h-1、好ましくは0.9〜5.4h-1、水素/オイル比130〜300(±5程度の変動は許容される。)Nm3/kLの条件の範囲で適宜選択して、上記灯油基材が得られるようにする。特には、LHSV、水素圧、水素/オイル比は大きい方が良い。また反応温度は酸化安定性の悪いスチレン類化合物やジエン類化合物の生成を抑える為に、低めにするとよい。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明の石油燃焼機器用燃料組成物について具体的に実施例により説明する。なお、本発明は、以下の実施例のように実施すれば実現できるが、本実施例に限定されるものではない。
【0031】
<供試燃料(石油燃焼機器用燃料組成物)の調製>
・供試燃料1:市販灯油
・供試燃料2:常圧蒸留装置から留出した初留点80℃〜終点140℃の留分をNi,Moを担持した市販触媒を用い、反応温度320℃、反応圧力3MPa、LHSV8.0h-1、水素純度94%の条件下で水素化脱硫により精製して得た原料油を、アルミナ担体、白金−スズが主成分の市販触媒を用い、反応温度538℃、反応圧力0.64MPa、LHSV1.0h-1で接触改質を行った。この接触改質油を精密蒸留により、密度が0.92g/cm3、引火点が70℃、初留点が175℃の留分を得て、これを炭化水素組成物とした。そして、該炭化水素組成物5容量%と、供試燃料1の市販灯油95容量%とを混合して得た。
・供試燃料3:供試燃料2で用いた接触改質油を精密蒸留により、密度が0.8810g/cm3、硫黄分が1質量ppm以下、初留点が164.5℃、終点が212.0℃、炭素数9の芳香族分が100容量%、炭素数11の芳香族分が0.1容量%以下、全芳香族分が100容量%、引火点が47.5℃、煙点が6.5mmの留分を得て、これを炭化水素組成物とした。そして、該炭化水素組成物5容量%と、供試燃料1の市販灯油95容量%とを混合して得た。
【0032】
調製した供試燃料1〜3について、それぞれの物性、成分組成を測定し、さらに、石油ストーブによる燃焼試験を行い、燃料消費量及び排出ガス性状を評価した。その結果を表1に示す。また、燃料消費量及び排出ガス性状の判定基準を表2に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
なお、表1に記載の物性、成分組成及び燃焼排ガス評価などの測定方法及び評価方法は、次に示す方法で測定、評価した。
1)密度:JIS K2249「原油及び石油製品密度試験方法」に規定された方法。
2)蒸留性状:JIS K2254「蒸留試験方法」に規定された方法。
3)硫黄分:JIS K2541−6「硫黄分試験方法(紫外蛍光法)」に規定された方法。
4)煙点:JIS K2537「煙点試験方法」に規定された方法。
5)全芳香族分:石油学会法JPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ」に規定された方法。
6)引火点:JIS K2265−3「ペンスキーマルテンス密閉法」に規定された方法。
7)アニリン点:JIS K2256「アニリン点及び混合アニリン点試験方法」に規定された方法。
8)臭素指数:JIS K2605「臭素指数試験方法(電気滴定法)」に規定された方法。
9)炭素数9の芳香族分、炭素数11の芳香族分の詳細成分:2つの極性が異なるガスクロカラムを、モジュレータを介して直列に接続したガスクロマトグラフィーを用いて測定した。詳細条件は次の通りである。
GCシステム:一次カラムへの通油後にモジュレータにより物質移動制御を行い、続けて二次カラムを通油させて極性の違い等により分離を行う。本分析装置のシステム構成は、Agilent Technologies社製HP−6890N型FID検出器付きGC、日本電子社製AccuTOF JMS−T100GC飛行時間型質量分析計からなる。
1次カラム:無極性または微極性カラム(Supelco社製PTE−5、長さ30m、内径0.25mm、フィルム厚0.25μm)
モジュレータ中空カラム:長さ2m、内径0.1mm
2次カラム:高極性カラム(Supelco社製SpelcoWAX10、長さ2m、内径0.25mm、フィルム厚0.25μm)
昇温条件:10℃/分(50℃(5分保持)から280℃(27分保持))
注入口温度:280℃
注入量:1.0μl
スプリット比:100:1
キャリアガス:ヘリウム(He)、1.0ml/分
モジュレータ温度:下記のコールド温度、ホット温度を繰り返す。
ホットジェットガス温度:150℃(5分保持)から320℃(33分保持)に10℃/分で昇温。
コールドジェットガス温度:約−140℃
モジュレータ頻度:6秒間で0.3秒間ホット温度、その後5.7秒間コールド温度
インターフェイス中空カラム:長さ0.5m、内径0.25mm
FIDガス条件:水素(45mL/分)、空気(450mL/分)、メークアップヘリウム(25mL/分、一定)
本GCで同定された全ピークの合計を含有量合計(100容量%)とし、それぞれのピークから対応するそれぞれの詳細成分(化合物)の含有量(容量%)を算出した。
10)燃焼排ガスの性状、燃料消費量:
下記の石油ストーブ及びファンヒータを用い、燃焼時の排出ガス性状と燃料消費量を次の条件下にて計測し評価した。
・石油燃焼機器:コロナSX-E298Y(HD)
・燃焼条件:室温20〜21℃、湿度63〜68%の条件下で、1日8時間、計400時間燃焼
・計測項目:燃料消費量(L/h、表示差%(燃焼機器表示との差))、点火時間、消火時間、燃焼状態、排出ガス性状(二酸化炭素、未燃炭化水素(消火時))
表2の判定基準に基づいて各燃料を評価した結果、表1から、供試燃料1、2に比較して供試燃料3は燃料消費量、排出ガス性状ともに良好であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度(15℃)が0.79〜0.81g/cm3、硫黄分が10質量ppm以下、初留点が150℃以上、95%留出温度が230〜250℃、煙点が23〜29mm、引火点が40〜46℃、全芳香族分が10〜27容量%、炭素数9の芳香族分が4〜15容量%、炭素数11の芳香族分が3〜6容量%であることを特徴とする石油燃焼機器用燃料組成物。
【請求項2】
さらに、アニリン点が50〜57℃、臭素指数が90〜100である請求項1に記載の石油燃焼機器用燃料組成物。
【請求項3】
密度(15℃)が0.87〜0.89g/cm3、硫黄分が5質量ppm以下、初留点が150〜170℃、終点が180〜220℃、炭素数9の芳香族分が80容量%以上、炭素数11の芳香族分が0.1容量%以下である炭化水素組成物を2〜10容量%、密度(15℃)が0.78〜0.80g/cm3、硫黄分が10質量ppm以下、初留点が150〜170℃、終点が180〜270℃、炭素数9の芳香族分が2.5〜5容量%、炭素数11の芳香族分が6容量%以下である灯油基材を90〜98容量%配合することを特徴とする請求項1又は2に記載の石油燃焼機器用燃料組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−84675(P2011−84675A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239737(P2009−239737)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】