説明

石灰岩の不純物除去方法およびシステム

【課題】浮遊選鉱の際に1種の薬剤のみを用いた場合であっても、石灰岩から着色原因物質である炭素分を高い除去率で除去して、製紙用フィラー等として用いうる炭酸カルシウムを主成分とする物質を得ることができ、しかも、処理に必要な水の量、及び、排水の量を削減しうる方法を提供する。
【解決手段】(A)炭素分を不純物として含む石灰岩粉砕物と、水を混合して、スラリーを得る工程と、(B)工程(A)で得られたスラリーと、アルコール系脱墨剤を混合して、脱墨剤を含むスラリーを得る工程と、(C)工程(B)で得られたスラリーを浮遊選鉱処理して、炭素分を含む浮鉱と、炭酸カルシウムを含む沈鉱を得る工程と、(D)該浮鉱および沈鉱について、濃縮を行い、濃縮スラリー及び上澄み液を得る工程と、(E)該上澄み液を工程(A)の水として用いる工程、を含む石灰岩の不純物除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石灰岩から不純物である炭素分を除去して、白色度の高い炭酸カルシウム含有物質を得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石灰岩は、製紙用フィラー等の材料として用いられている。その際、白色度を高めるために、石灰岩から不純物である炭素分を除去することが行われている。
その一例として、石灰石原料鉱石を100メッシ以下の微粒状に粉砕し、アルコール系の起泡剤を用いてアルカリ性パルプで浮選し、不純物を浮鉱として分離することを特徴とする炭素系不純物の浮遊除去による石灰石微粉の高純度化方法が、提案されている(特許文献1)。この文献の実施例では、浮選の際に、薬剤として分散剤(ケイ酸ソーダ)、活剤(IAA)、捕集剤(ケロシン)および起泡剤(MIBC)を用いている。
一方、古紙からインキを剥離し、再生パルプを得て、再生紙を製造するための古紙再生技術において、古紙からインキを剥離する作用を有する脱墨剤を用いることが知られている。
古紙再生用脱墨剤の一例として、特定の化学式で表される化合物を含有することを特徴とする古紙再生用脱墨剤が提案されている(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−265218号公報
【特許文献2】特開平7−3681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の文献に記載された石灰石微粉の高純度化方法では、上述のとおり、浮遊選鉱(浮選ともいう。)の実験例において、薬剤として分散剤、活剤、捕集剤および起泡剤を用いている。
本発明者の実験によると、石灰石微粉を対象とする浮遊選鉱の際に、薬剤としてアルコール系の起泡剤(MIBC)のみを用いた場合には、炭素分を浮鉱として分離させることができず、沈鉱である炭酸カルシウム含有物質の白色度は、石灰石微粉の白色度とほぼ同程度であった。
一方、石灰石微粉の高純度化のための処理において、処理に必要な水の量、及び、排水の量を削減することが求められている。
そこで、本発明は、浮遊選鉱の際に1種の薬剤のみを用いた場合であっても、石灰岩から着色原因物質である炭素分を高い除去率で除去して、製紙用フィラー等として用いうる炭酸カルシウムを主成分とする物質を得ることができ、しかも、処理に必要な水の量、及び、排水の量を削減することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、浮遊選鉱処理の際に添加する薬剤(以下、浮選剤ともいう。)として、古紙再生用脱墨剤の一種であるアルコール系脱墨剤を用いれば、石灰岩粉砕物から不純物である炭素分を高い除去率で除去しうること、および、処理によって生じる上澄み液を、スラリー化用水として用いれば、処理に必要な水の量、及び、排水の量を削減しうることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[3]を提供するものである。
[1] (A)炭素分を不純物として含む石灰岩粉砕物と、水を混合して、スラリーを得るスラリー調製工程と、(B)上記スラリーとアルコール系脱墨剤を混合して、脱墨剤を含むスラリーを得る脱墨剤含有スラリー調製工程と、(C)上記脱墨剤を含むスラリーを浮遊選鉱処理して、炭素分を含む浮鉱と、炭酸カルシウムを含む沈鉱を得る浮遊選鉱処理工程と、(D)上記浮鉱および沈鉱の各々について濃縮を行い、濃縮スラリー及び上澄み液を得る濃縮工程と、(E)上記上澄み液を工程(A)の水として用いる上澄み液再利用工程と、を含むことを特徴とする石灰岩の不純物除去方法。
[2] 工程(A)で用いる上記石灰岩粉砕物と、工程(D)で得られる上記沈鉱を濃縮して得られる濃縮スラリーの乾燥物とのハンター白色度の差が、0.5以上である上記[1]に記載の石灰岩の不純物除去方法。
[3] 炭素分を不純物として含む石灰岩粉砕物と、水を混合して、スラリーを得るためのスラリー調製槽と、上記スラリーとアルコール系脱墨剤を混合して、脱墨剤を含むスラリーを得るための脱墨剤含有スラリー調製槽と、上記脱墨剤を含むスラリーを浮遊選鉱処理して、炭素分を含む浮鉱と、炭酸カルシウムを含む沈鉱を得るための浮遊選鉱装置と、上記浮鉱および沈鉱の各々について濃縮を行い、濃縮スラリー及び上澄み液を得るための濃縮装置と、上記上澄み液を上記スラリー調製槽に返送するための返送手段と、を含むことを特徴とする石灰岩の不純物除去システム。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、浮遊選鉱の際に1種の薬剤のみを用いた場合であっても、石灰岩から着色原因物質である炭素分を高い除去率で除去して、高い白色度を有する炭酸カルシウム含有物質を得ることができる。
また、本発明によれば、処理に必要な水の量、及び、排水の量を削減することができる。
本発明で得られる沈鉱の濃縮スラリーは、乾燥状態で白色度の高い炭酸カルシウム含有物質となるものであり、製紙用フィラー、プラスチック・ゴムの顔料、塗料、食品添加物、高級ガラス材料等として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の石灰岩の不純物除去方法の一例を示すフロー図である。
【図2】本発明の石灰岩の不純物除去方法の他の例を示すフロー図である。
【図3】本発明の石灰岩の不純物除去方法の他の例を示すフロー図である。
【図4】図1に示す例における水量を示す図である。
【図5】本発明の石灰岩の不純物除去システムの一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[石灰岩の不純物除去方法]
本発明の石灰岩の不純物除去方法は、(A)炭素分を不純物として含む石灰岩粉砕物と、水を混合して、スラリーを得るスラリー調製工程と、(B)工程(A)で得られたスラリーとアルコール系脱墨剤を混合して、脱墨剤を含むスラリーを得る脱墨剤含有スラリー調製工程と、(C)工程(B)で得られた脱墨剤を含むスラリーを浮遊選鉱処理して、炭素分を含む浮鉱と、炭酸カルシウムを含む沈鉱を得る浮遊選鉱処理工程と、(D)上記浮鉱および沈鉱の各々について濃縮を行い、濃縮スラリー及び上澄み液を得る濃縮工程と、(E)上記上澄み液を工程(A)の水として用いる上澄み液再利用工程と、を含む。
以下、各工程について詳しく説明する。なお、図1は、本発明の石灰岩の不純物除去方法の一例を示すフロー図である。
【0009】
[工程(A);スラリー調製工程]
工程(A)は、炭素分を不純物として含む石灰岩粉砕物と、水を混合して、スラリーを得る工程である。
本発明で用いられる石灰岩粉砕物は、着色原因物質である炭素分を不純物として含むものである。
本発明の好適な処理対象物としては、灰色結晶質石灰岩が挙げられる。灰色結晶質石灰岩は、ハンター白色度が89〜93程度であるため、本発明の方法によって白色度を高めることによって製紙用フィラー等の各種の用途に好適に用いることができる。
なお、白色結晶質石灰岩は、ハンター白色度が95〜97程度であるため、灰色結晶質石灰岩に比べて本発明を適用する必要性に乏しい。
【0010】
石灰岩粉砕物のブレーン比表面積は、好ましくは8,000〜30,000cm2/g、より好ましくは11,000〜25,000cm2/g、特に好ましくは11,000〜22,000cm2/gである。該値が8,000cm2/g未満では、本発明で沈鉱の濃縮スラリーとして得られる炭酸カルシウム含有物質の白色度が低下する傾向がある。該値が30,000cm2/gを超えると、本発明で沈鉱の濃縮スラリーとして得られる炭酸カルシウム含有物質の白色度が低下する傾向が見られるばかりか、粉砕に要する手間および時間が増大し、処理効率が低下する。
水1リットル当たりの石灰岩粉砕物の量は、好ましくは1〜1,000g、より好ましくは10〜900g、さらに好ましくは100〜800g、特に好ましくは200〜700gである。該量が1g未満では、石灰岩粉砕物の単位量当たりの水量が過大となり、水量の節減および処理効率の観点から好ましくない。該量が1,000gを超えると、本発明で沈鉱の濃縮スラリーとして得られる炭酸カルシウム含有物質の白色度が低下する傾向が見られるばかりか、浮遊選鉱処理の際に浮鉱の割合が多くなり、沈鉱の回収率が低下するので、好ましくない。
工程(A)においては、スラリーの調製後に十分に撹拌することが好ましい。撹拌時間は、好ましくは5〜30分間である。
【0011】
[工程(B);脱墨剤含有スラリー調製工程]
工程(B)は、工程(A)で得られたスラリーとアルコール系脱墨剤を混合して、脱墨剤を含むスラリーを得る工程である。
アルコール系脱墨剤としては、高級アルコール系脱墨剤が好適に用いられる。
高級アルコール系脱墨剤としては、例えば、高級アルコールにアルキレンオキサイドを付加した構造を有する非イオン性界面活性剤が挙げられる。
このような特定の非イオン性界面活性剤である高級アルコール系脱墨剤の一例としては、一般式:R1−[O−(Cx2xO)l(AO)m(Cy2yO)n−H]p(式中、pは1〜16の整数である。R1は、pが1の場合には、炭素数8〜24の1価高級アルコール又は炭素数6〜16の直鎖もしくは分岐のアルキル基もしくはアルケニル基を有するアルキルフェノールから水酸基を除いた残基であり、pが2〜16の場合には、p個の水酸基を有する化合物から水酸基を除いた残基である。AOは、エチレンオキサイド基を必須として含む炭素数2〜4の1種類以上のアルキレンオキサイド基がブロックまたはランダムに配列する基である。x、yは、各々3または4で、同一でも異なっていてもよい。lは、1以上、300以下の整数である。mは、pが1の場合には、50を超え、300以下の整数であり、pが2〜16の場合には、1以上、300以下の整数である。nは、1以上、300以下の整数である。)で表される化合物(特開平7−3681号公報参照)が挙げられる。
【0012】
高級アルコール系脱墨剤の他の例としては、一般式:R1−O−(C24O)n−H(式中、R1は炭素数10〜22のアルキル基またはアルケニル基であり、nは1〜5の整数である。)で表される化合物が挙げられる。
アルコール系脱墨剤の市販品としては、「DI−767」、「DI−7020」(以上、花王社製)、「リプトール」(以上、ライオン社製)等が挙げられる。
アルコール系脱墨剤の添加量は、工程(A)で得られたスラリー1リットル当たり、好ましくは0.001〜1ミリリットル、より好ましくは0.005〜0.5ミリリットル、特に好ましくは0.01〜0.1ミリリットルである。該量が0.001ミリリットル未満では、本発明で沈鉱の濃縮スラリーとして得られる炭酸カルシウム含有物質の白色度が低くなることがある。該量が1ミリリットルを超えると、本発明で沈鉱の濃縮スラリーとして得られる炭酸カルシウム含有物質の白色度の増大が見られず、また、薬剤コストも増大するので、好ましくない。なお、アルコール系脱墨剤は、通常の使用条件下において液状である。
工程(B)においては、脱墨剤を含むスラリーの調製後に十分に撹拌して養生することが好ましい。養生時間は、好ましくは5〜30分間である。
【0013】
[工程(C);浮遊選鉱処理工程]
工程(C)は、工程(B)で得られた脱墨剤を含むスラリーを浮遊選鉱処理して、炭素分を含む浮鉱と、炭酸カルシウムを含む沈鉱を得る工程である。
浮遊選鉱とは、疎水性の表面を有する粒子及び親水性の表面を有する粒子を含む水中にガス(例えば、空気)を供給して、このガスの泡の表面に、疎水性の表面を有する粒子を付着させ、該粒子が付着している泡を、水中で浮力により浮上させることによって、沈鉱である親水性の表面を有する粒子と、浮鉱である疎水性の表面を有する粒子とに分離するものである。
浮遊選鉱の手段としては、ファーレンワルド型浮選機(FW型浮選機)、MS型浮選機、フェジャーグレン型浮選機、アジテヤ型浮選機、ワーマン型浮選機等の浮遊選鉱装置(浮選機ともいう。)が挙げられる。
浮鉱は、石灰岩粉砕物に由来する炭素分を含む物質である。浮鉱は、スラリー液面の泡沫層を掻き取ることによって、沈降から分離することができる。
沈鉱は、石灰岩粉砕物に由来する炭酸カルシウムを主成分とする物質である。沈鉱は、浮鉱以外のスラリーの部分であり、泡沫層として上昇せず、スラリー中に残存した部分を回収することによって、浮鉱から分離することができる。
沈鉱の乾燥物と浮鉱の乾燥物の合計量100質量部中の浮鉱の乾燥物の量は、通常、5〜40質量部である。
【0014】
[工程(D);濃縮工程]
工程(D)は、工程(C)で得られた浮鉱および沈鉱の各々について濃縮を行い、濃縮スラリー及び上澄み液を得る工程である。
濃縮手段としては、例えば、シックナー、デカンタ、ラメラセパレータ等が挙げられる。中でも、デカンタは、濃縮速度の観点から好ましい。
【0015】
[工程(E);上澄み液再利用工程]
工程(E)は、工程(D)で得られた上澄み液を工程(A)の水として用いる工程である。
工程(A)の水として用いる上澄み液は、浮鉱を濃縮して得られた上澄み液と、沈鉱を濃縮して得られた上澄み液のいずれか一方または両方であり、好ましくは、両方である。
【0016】
[実施の形態例]
本発明の方法の実施の形態例としては、図1に示す例の他に、例えば、図2〜図3に示す例が挙げられる。
図2は、石灰石粉砕物を得るための前処理として、乾式の一次粉砕の工程、及び、湿式の二次粉砕の工程を含む例を示す。
一次粉砕のための乾式の粉砕手段としては、例えば、竪型ミル、タワーミル、ジェットミル等が挙げられる。
二次粉砕のための湿式の粉砕手段としては、例えば、ビーズミル、アトライタミル等が挙げられる。
図3は、石灰石粉砕物を得るための前処理として、乾式の一次粉砕の工程を含み、かつ、沈鉱を濃縮して得られる濃縮スラリーをさらに湿式で粉砕する二次粉砕の工程、及び、二次粉砕で得られたスラリーに対して脱墨剤を添加した後、二次浮遊選鉱と濃縮を行ない、得られた上澄み液を一次粉砕後のスラリー化用水として用いる一連の工程を含む例を示す。この場合、二次浮遊選鉱で得られる沈鉱を濃縮して得られる濃縮スラリーが、白色度の高い炭酸カルシウム含有物質として用いられる。なお、図3に示す例で用いる乾式の粉砕手段および湿式の粉砕手段としては、図2に示す例で用いる前記の粉砕手段と同じものが挙げられる。
【0017】
[本発明の方法で得られる炭酸カルシウム含有物質]
沈鉱を濃縮して得られる濃縮スラリーを回収し、乾燥させることによって、目的物である白色の炭酸カルシウム含有物質を得ることができる。濃縮スラリーの乾燥物中の炭酸カルシウムの割合は、通常、90質量%以上である。
石灰岩粉砕物と濃縮スラリーの乾燥物(白色の炭酸カルシウム含有物質)とのハンター白色度の差は、好ましくは0.5以上、より好ましくは1.0以上、特に好ましくは1.5以上である。
濃縮スラリーの乾燥物(白色の炭酸カルシウム含有物質)のハンター白色度は、好ましくは92以上、より好ましくは93以上、特に好ましくは94以上である。
ここで、ハンター白色度とは、ハンター白色度計を用いてJIS P8123に準拠して得られる数値をいう。ハンター白色度が大きいほど、白色性に優れ、好ましい。
白色の炭酸カルシウム含有物質は、製紙用フィラー、プラスチック・ゴムの顔料、塗料、食品添加物、高級ガラス材料等として用いることができる。なお、ハンター白色度が94以上である炭酸カルシウム含有物質は、製紙用フィラーとして好適に用いることができる。
浮鉱を濃縮して得られる濃縮スラリーは、炭素分を含むものの、炭酸カルシウムを主成分とするため、水洗し、ろ過し、乾燥させることによって、高い白色度を要求されない用途における炭酸カルシウム含有物質(炭酸カルシウム粉末)として利用することができる。
【0018】
[石灰岩の不純物除去システム]
次に、本発明の石灰岩の不純物除去システムの一例について、説明する。図5は、本発明の石灰岩の不純物除去システムの一例を概念的に示す図である。
図5中、本発明の石灰岩の不純物除去システムは、炭素分を不純物として含む石灰岩粉砕物と、水を混合して、スラリーを得るためのスラリー調製槽(混合槽)1と、スラリー調製槽1から供給されたスラリーとアルコール系脱墨剤を混合して、脱墨剤を含むスラリーを得るための脱墨剤含有スラリー調製槽(混合槽)2と、脱墨剤含有スラリー調製槽2から供給された脱墨剤を含むスラリーを、撹拌しながら養生するための養生槽3と、養生槽3から供給された脱墨剤を含むスラリーを浮遊選鉱処理して、炭素分を含む浮鉱と、炭酸カルシウムを含む沈鉱を得るための浮遊選鉱装置4と、浮鉱および沈鉱の各々について濃縮を行い、濃縮スラリー及び上澄み液を得るための濃縮装置5、6と、濃縮装置5、6で得られた上澄み液をスラリー調製槽1に返送するための返送手段(例えば、ポンプを有するスラリーの流通路)7とを含むものである。
本発明のシステムを構成する各部の間には、スラリーの流通路が設けられている。また、スラリー調製槽1、脱墨剤含有スラリー調製槽2、養生槽3の各々には、スラリーを撹拌するための撹拌手段(例えば、撹拌翼)が配設されている。
本発明においては、連続式とバッチ式のいずれのシステムを採用してもよいが、実用化に際しての処理効率の観点からは、連続式のシステムが好ましい。
【実施例】
【0019】
[実施例1]
灰色結晶質石灰岩の破砕物(粒径:30mm以下)を、スタンプミルおよびボールミルによって粉砕して、ブレーン比表面積が11,000cm2/gである石灰岩粉砕物(平均粒子径:3.6μm)を調製した。この石灰岩粉砕物について、ハンター白色度計(商品名:NW−1、マイセック社製)を用いて、JIS P8123に準拠して、ハンター白色度を測定した。その結果、ハンター白色度は、92.5であった。
次いで、水1リットル当たりの石灰石粉砕物の量が500g(固液比:500g/L)となるように、石灰石粉砕物と水を撹拌翼付の混合槽内に投入して、5分間、撹拌して混合し、720ミリリットルのスラリーを得た。
次に、この混合槽内に、スラリー1リットル当たりの脱墨剤の量が0.035ミリリットルとなるように、高級アルコール系脱墨剤である「DI−7020(商品名)」(花王社製)を添加して、10分間、撹拌して混合した。
【0020】
得られたスラリーを、浮遊選鉱装置(太平洋セメント社の中央研究所内の試作機)内に収容し、10分間、液中に空気を供給しつつ浮遊選鉱処理を行った。得られた浮鉱および沈鉱の各乾燥物の質量割合は、表1に示すとおりであった。
浮遊選鉱処理後、浮鉱および沈鉱の各々を濃縮して、濃縮スラリーおよび上澄み液を得た。なお、沈鉱を濃縮して得られた濃縮スラリーの乾燥物のハンター白色度は、94.5であった。
次いで、浮鉱を濃縮して得られた上澄み液、および、沈鉱を濃縮して得られた上澄み液を、石灰石粉砕物のスラリー化用水として用いた。その後、前記と同様の操作を行ない、浮鉱および沈鉱の各々を濃縮して、濃縮スラリーおよび上澄み液を得た。
得られた沈鉱を濃縮して得られた濃縮スラリーの乾燥物のハンター白色度は、94.5であった。
図4中、石灰石粉砕物500gをスラリー化するために、最初は水1リットルを必要としたが、上澄み液0.65リットル(浮鉱の上澄み液0.12リットル、沈鉱の上澄み液0.53リットルの合計量)が生じたために、上澄み液を返送してスラリーを調製するときに必要な水の量は、0.35リットルであった。
【0021】
[実施例2〜3]
上澄み液の返送回数を1回から5回(実施例2)または10回(実施例3)に変えること以外は実施例1と同様にして実験した。結果を表1に示す。
なお、実施例1〜3のいずれにおいても、沈鉱を濃縮して得られた濃縮スラリーから得られた上澄み液中の成分を確認した結果、排水基準が定められている元素の含有率が、基準値に満たないことを確認した。
【0022】
【表1】

【0023】
表1から、上澄み液をスラリー化用水として1〜10回循環して用いても、沈鉱を濃縮して得られた濃縮スラリーの乾燥物のハンター白色度は、ほとんど変化しないことがわかる。
【符号の説明】
【0024】
1 スラリー調製槽(混合槽)
2 脱墨剤含有スラリー調製槽(混合槽)
3 養生槽
4 浮遊選鉱装置
5,6 濃縮装置
7 返送手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)炭素分を不純物として含む石灰岩粉砕物と、水を混合して、スラリーを得るスラリー調製工程と、
(B)上記スラリーとアルコール系脱墨剤を混合して、脱墨剤を含むスラリーを得る脱墨剤含有スラリー調製工程と、
(C)上記脱墨剤を含むスラリーを浮遊選鉱処理して、炭素分を含む浮鉱と、炭酸カルシウムを含む沈鉱を得る浮遊選鉱処理工程と、
(D)上記浮鉱および沈鉱の各々について濃縮を行い、濃縮スラリー及び上澄み液を得る濃縮工程と、
(E)上記上澄み液を工程(A)の水として用いる上澄み液再利用工程と、
を含むことを特徴とする石灰岩の不純物除去方法。
【請求項2】
工程(A)で用いる上記石灰岩粉砕物と、工程(D)で得られる上記沈鉱を濃縮して得られる濃縮スラリーの乾燥物とのハンター白色度の差が、0.5以上である請求項1に記載の石灰岩の不純物除去方法。
【請求項3】
炭素分を不純物として含む石灰岩粉砕物と、水を混合して、スラリーを得るためのスラリー調製槽と、
上記スラリーとアルコール系脱墨剤を混合して、脱墨剤を含むスラリーを得るための脱墨剤含有スラリー調製槽と、
上記脱墨剤を含むスラリーを浮遊選鉱処理して、炭素分を含む浮鉱と、炭酸カルシウムを含む沈鉱を得るための浮遊選鉱装置と、
上記浮鉱および沈鉱の各々について濃縮を行い、濃縮スラリー及び上澄み液を得るための濃縮装置と、
上記上澄み液を上記スラリー調製槽に返送するための返送手段と、
を含むことを特徴とする石灰岩の不純物除去システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−228988(P2010−228988A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79742(P2009−79742)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】