説明

石炭ガス化設備及び石炭ガス化発電システム

【課題】二酸化炭素の回収だけでなくその安価で合理的な処理を行い得る石炭ガス化設備を提供する。
【解決手段】炉内で石炭を部分燃焼させて石炭ガス化ガスを生成させる石炭ガス化炉1と、石炭ガス化炉1から排出された前記石炭ガス化ガス中から二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収装置5と、石炭ガス化炉1から排出された溶融ガス化スラグを急冷して固化させる液体を貯留した水槽を具備するとともに固化させたガス化スラグを外部に排出するように構成したスラグ回収・排出装置8とを有するとともに、スラグ回収・排出装置8は、二酸化炭素回収装置5で回収した二酸化炭素を前記液体中に導入して前記ガス化スラグに吸着させるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は石炭ガス化設備及び石炭ガス化発電システムに関し、特に二酸化炭素を回収する場合に用いて有用なものである。
【背景技術】
【0002】
石炭、石油その他のハイドロカーボン系の燃料は取り扱いが比較的容易であるため、これを用いて発電する発電設備が従来から多数稼動している。特に石炭はその埋蔵量が莫大であることから、将来にわたって安定した供給が可能であるので、有望な燃料の一つとして注目されている。しかしながら、他のハイドロカーボン系の燃料と比較して燃料中に炭素(C)分を多く含むため、単位熱量当たりの二酸化炭素排出量が多いという問題がある。特に、近年においては地球環境保全の観点から、二酸化炭素の排出量を低減することは早急に達成すべき重要な課題となっている。ここで、発電設備の効率が向上すれば、同じ電力を発生させるために必要な燃料の量を低減できるので、二酸化炭素の排出量を低減できる。このため、従来の石炭焚発電設備においては、効率を向上させて二酸化炭素の排出量を抑制する対策がとられていた。
【0003】
効率を向上させる技術としては、石炭ガス化複合発電(Integrated Coal Gasification Combined Cycle:IGCC)という技術が知られている。この技術は、石炭をそのまま燃焼させるのではなく、一旦ガス化してから発電用の燃料として供給するものである。石炭ガス化複合発電においては、ガスタービンおよび蒸気タービンと組み合わせることによって、従来40%程度であった石炭焚発電設備の効率を約46%まで向上させることができる。この発電効率の向上によって、二酸化炭素の排出量は従来の石炭焚ボイラに対して約13%削減できる。
【0004】
また、近年地球環境温暖化の問題から、二酸化炭素の排出量をさらに削減するために、二酸化炭素を回収する技術が研究されている。特許文献1や特許文献2に開示された石炭ガス化発電設備では、COシフト装置や二酸化炭素回収設備を追加することにより二酸化炭素を回収し、二酸化炭素の排出量をさらに低減させた石炭ガス化発電設備が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特許第2870929号公報
【特許文献2】特許第3149561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1,2は回収した二酸化炭素の安価で合理な処理方法を開示するものではない。ちなみに、特許文献1では高圧の二酸化炭素が有するエネルギを動力として回収する旨を開示しており、特許文献2では、ドライアイス用等の他の産業に供給するか、又は深海等に投棄する旨を開示している。
【0007】
本発明は、上記従来技術に鑑み、二酸化炭素の回収だけでなくその安価で合理的な処理を行い得る石炭ガス化設備及び石炭ガス化発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、
炉内で石炭を部分燃焼させて石炭ガス化ガスを生成させる石炭ガス化炉と、
前記石炭ガス化炉で生成される溶融ガス化スラグを液体で急冷して固化させるとともに、固化させたガス化スラグを外部に排出するように構成したスラグ回収・排出手段とを有し、
さらに二酸化炭素回収手段で回収した二酸化炭素を、前記溶融ガス化スラグ及び/又は前記ガス化スラグに接触させて前記溶融ガス化スラグ及び/又は前記ガス化スラグに吸着させるように構成したことを特徴とする石炭ガス化設備にある。
【0009】
本態様によれば、石炭ガス化炉で生成される溶融ガス化スラグ乃至この溶融ガス化スラグを急冷して固化させた粒状のガス化スラグ中にCa成分が多量に含まれる点に着目し、スラグ回収・排出手段内の溶融ガス化スラグ又はガス化スラグに二酸化炭素回収手段で回収した二酸化炭素を接触させるようにしたので、ガス化スラグのCa成分と二酸化炭素とを反応させて化学的に安定な所定の炭酸塩を生成させることができる。すなわち、二酸化炭素を極めて安定な状態でガス化スラグに固定させることができる。
【0010】
この結果、隣接する各種のプラントで生成・回収される二酸化炭素も含め、二酸化炭素の安価で安全な処理手段を提供することができる。
【0011】
本発明の第2の態様は、
炉内で石炭を部分燃焼させて石炭ガス化ガスを生成させる石炭ガス化炉と、
前記石炭ガス化炉で生成される溶融ガス化スラグを液体で急冷して固化させるとともに、固化させたガス化スラグを外部に排出するように構成したスラグ回収・排出手段と、
スラグ回収・排出手段から排出されたガス化スラグをペレット状に成型して成型スラグを形成するスラグ成型手段とを有し、
さらに二酸化炭素回収手段で回収した二酸化炭素を前記溶融ガス化スラグ、前記ガス化スラグ、又は前記成型スラグの少なくとも何れか一つに接触させて前記溶融ガス化スラグ、前記ガス化スラグ、又は前記成型スラグの少なくとも一つに吸着させるように構成したことを特徴とする石炭ガス化設備にある。
【0012】
本態様によれば、成型スラグにも二酸化炭素を吸着させることができる。
【0013】
本発明の第3の態様は、
炉内で石炭を部分燃焼させて石炭ガス化ガスを生成させる石炭ガス化炉と、
前記石炭ガス化炉から排出された前記石炭ガス化ガス中から二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収手段と、
前記石炭ガス化炉で生成される溶融ガス化スラグを液体で急冷して固化させるとともに、固化させたガス化スラグを外部に排出するように構成したスラグ回収・排出手段とを有し、
さらに二酸化炭素回収手段で回収した二酸化炭素を、前記溶融ガス化スラグ及び/又は前記ガス化スラグに接触させて前記溶融ガス化スラグ及び/又は前記ガス化スラグに吸着させるように構成したことを特徴とする石炭ガス化設備にある。
【0014】
本態様によれば、石炭ガス化設備内で発生した二酸化炭素を同一敷地内で回収して処理することができ、処理コストの可及的な低減を図ることができる。
【0015】
本発明の第4の態様は、
炉内で石炭を部分燃焼させて石炭ガス化ガスを生成させる石炭ガス化炉と、
前記石炭ガス化炉から排出された前記石炭ガス化ガス中から二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収手段と、
前記石炭ガス化炉で生成される溶融ガス化スラグを液体で急冷して固化させるとともに、固化させたガス化スラグを外部に排出するように構成したスラグ回収・排出手段と、
スラグ回収・排出手段から排出されたガス化スラグをペレット状に成型して成型スラグを形成するスラグ成型手段とを有し、
さらに二酸化炭素回収手段で回収した二酸化炭素を前記溶融ガス化スラグ、前記ガス化スラグ、又は前記成型スラグの少なくとも一つに接触させて前記溶融ガス化スラグ、前記ガス化スラグ、又は前記成型スラグの少なくとも何れか一つに吸着させるように構成したことを特徴とする石炭ガス化設備にある。
【0016】
本態様によれば、成型スラグにも二酸化炭素を吸着させることができる。
【0017】
本発明の第5の態様は、
第1乃至第4の態様の何れか一つに記載する石炭ガス化設備において、
前記液体の表面にはガス化炉と同圧の圧力が作用するように構成したことを特徴とする石炭ガス化設備にある。
【0018】
本態様によれば、ガス化炉と同圧、すなわち高圧で二酸化炭素をガス化スラグに接触させることができるので、ガス化スラグに対する二酸化炭素の吸着を良好に行わせることができる。
【0019】
本発明の第6の態様は、
第1乃至第5の態様の何れか一つに記載する石炭ガス化設備において、
前記二酸化炭素回収手段から前記スラグ回収・排出手段に二酸化炭素を送給する管路の途中に二酸化炭素ガスの圧送手段を配設したことを特徴とする石炭ガス化設備にある。
【0020】
本態様によれば、ガス化炉内と同様の高圧下で二酸化炭素をガス化スラグに接触させることができるので、ガス化スラグに対する二酸化炭素の吸着をより良好に行わせることができる。
【0021】
本発明の第7の態様は、
第1乃至第6の態様の何れか一つに記載する石炭ガス化設備において、
前記スラグ回収・排出手段は、前記石炭ガス化炉の底部に液体を貯留してなり、前記溶融ガス化スラグを液体で急冷して固化させる急冷固化部と、この急冷固化部から排出された前記ガス化スラグを一時的に貯留する貯留部とを有することを特徴とする石炭ガス化設備にある。
【0022】
本態様によれば、ガス化炉の底部で溶融ガス化スラグを急冷・固化し、さらに固化したガス化スラグを一時貯留することで、その排出を適宜調整し得るとともに、ガス化スラグが二酸化炭素を吸着するための十分な時間を確保することができる。
【0023】
本発明の第8の態様は、
第7の態様に記載する石炭ガス化設備において、
前記二酸化炭素は前記急冷固化部の前記液体中に供給するようにしたことを特徴とする石炭ガス化設備にある。
【0024】
本態様によれば、高濃度の炭酸を含有する液体に浸漬された状態でガス化スラグに二酸化炭素が吸着される。
【0025】
本発明の第9の態様は、
第7の態様に記載する石炭ガス化設備において、
前記二酸化炭素は前記貯留部の液体中に供給するようにしたことを特徴とする石炭ガス化設備にある。
【0026】
本態様によれば、貯留部のガス化スラグに二酸化炭素を吸着させることができる。
【0027】
本発明の第10の態様は、
第7の態様に記載する石炭ガス化設備において、
前記二酸化炭素は前記急冷固化部及び前記貯留部の前記液体中に供給するようにしたことを特徴とする石炭ガス化設備にある。
【0028】
本態様によれば、前記急冷固化部及び前記貯留部の両方でガス化スラグに二酸化炭素を吸着させることができるので、その分効率よくガス化スラグに二酸化炭素を吸着させることができる。
【0029】
本発明の第11の態様は、
第7の態様に記載する石炭ガス化設備において、
前記二酸化炭素は前記急冷固化部の前記ガス化スラグに直接接触させるようにしたことを特徴とする石炭ガス化設備にある。
【0030】
本態様によれば、急冷固化部においてガス化スラグに直接二酸化炭素を接触させて吸着させることができる。
【0031】
本発明の第12の態様は、
第7の態様に記載する石炭ガス化設備において、
前記二酸化炭素は前記貯留部の前記ガス化スラグに直接接触させるようにしたことを特徴とする石炭ガス化設備にある。
【0032】
本態様によれば、貯留部においてガス化スラグに直接二酸化炭素を接触させて吸着させることができる。
【0033】
本発明の第13の態様は、
第7の態様に記載する石炭ガス化設備において、
前記二酸化炭素は前記急冷固化部及び前記貯留部の前記ガス化スラグに直接接触させるようにしたことを特徴とする石炭ガス化設備にある。
【0034】
本態様によれば、急冷固化部及び貯留部においてガス化スラグに直接二酸化炭素を接触させて吸着させることができる。
【0035】
本発明の第14の態様は、
第7乃至第13の態様の何れか一つに記載する石炭ガス化設備において、
前記急冷固化部には前記液体により急冷して固化させた前記ガス化スラグを粉砕する粉砕手段を設けたことを特徴とする石炭ガス化設備にある。
【0036】
本態様によれば、ガス化スラグが粉砕されて細分化されるので表面積が大きくなり、その分二酸化炭素との接触面積が増大し、二酸化炭素を良好に吸着し得る。
【0037】
本発明の第15の態様は、
第7乃至第13の態様の何れか一つに記載する石炭ガス化設備において、
前記貯留部には前記固化させたガス化スラグを攪拌する攪拌手段を設けたことを特徴とする石炭ガス化設備にある。
【0038】
本態様によれば、ガス化スラグが攪拌されて二酸化炭素との接触がより良好に行われるので、その分二酸化炭素を良好に吸着し得る。
【0039】
本発明の第16の態様は、
第7乃至第13の態様の何れか一つに記載する石炭ガス化設備において、
前記急冷固化部には前記液体により急冷して固化させた前記ガス化スラグを粉砕する粉砕手段を設けるとともに、前記貯留部には前記固化させたガス化スラグを攪拌する攪拌手段を設けたことを特徴とする石炭ガス化設備にある。
【0040】
本態様によれば、ガス化スラグが粉砕されて細分化されるので表面積が大きくなり、その分二酸化炭素との接触面積が増大し、二酸化炭素を良好に吸着すると同時に、ガス化スラグが攪拌されて二酸化炭素との接触がより良好に行われ、このことによっても二酸化炭素を良好に吸着し得る。
【0041】
本発明の第17の態様は、
第1乃至第16の態様の何れか一つに記載する石炭ガス化設備と、前記石炭ガス化ガスを用いて発電を行う発電設備とを有することを特徴とする石炭ガス化発電システムにある。
【0042】
本態様によれば、当該石炭ガス化発電システムで生成される二酸化炭素を当該石炭ガス化発電システム内で生成されるガス化スラグを利用して同一敷地内で良好に処理することができ、二酸化炭素の環境への排出を可及的に低減した発電システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、石炭ガス化炉で生成される溶融ガス化スラグ乃至この溶融ガス化スラグを急冷して固化させた粒状のガス化スラグ中にCa成分が多量に含まれる点に着目し、スラグ回収・排出手段内の溶融ガス化スラグ或いはガス化スラグ、又はスラグ成型手段で形成した成型スラグに二酸化炭素回収手段で回収した二酸化炭素を接触させるようにしたので、溶融ガス化スラグ又はガス化スラグのCa成分と二酸化炭素とを反応させて化学的に安定な所定の炭酸塩を生成させることができる。すなわち、二酸化炭素を極めて安定な状態でガス化スラグに固定させることができる。
【0044】
この結果、本発明によれば、種々のプラント等で回収は行ったものの、その経済的で有効な処理方法がなかった二酸化炭素の処理を、石炭ガス化炉で生成され産業廃棄物となるガス化スラグを利用して低廉且つ安全に行うことができる。特に、石炭ガス化設備乃至石炭ガス化発電システムで発生した二酸化炭素の回収・処理に適用した場合、回収した二酸化炭素を同一敷地内で処理することができ、処理コストの可及的な低減を図ることができる。また、最終的には当該設備から払い出される二酸化炭素を固定したガス化スラグは非常に安定して二酸化炭素を固定しているので環境を汚染する懸念はない。さらに、このこととも相俟って当該設備から払い出されるガス化スラグはコンクリート構造物の骨材等として有効利用し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。なお、本形態は石炭ガス化発電設備について説明するが、これに限定するものではない。石炭ガス化スラグが生成される石炭ガス化設備であればそれ以外の特別な限定はない。
【0046】
図1に示すように、石炭ガス化炉1は、炉内で石炭を酸素(空気)等とともに部分燃焼(酸化)させて可燃性の石炭ガス化ガス(CO,H2、等を含むガス)を生成させる。ここで、石炭ガス化炉1の炉内は、従来の石炭焚火力発電設備のボイラに較べ、例えば27気圧程度の高圧となっている。石炭ガス化炉1で生成された石炭ガス化ガスはガス精製装置2で精製された後、ガスタービン3に供給される。ガスタービン3は石炭ガス化ガスを燃料として回転駆動され、発電機4を駆動することにより電力を発生させる。このときの燃焼排ガス(CO、HO等)が二酸化炭素回収装置5に供給される。二酸化炭素回収装置5では燃焼排ガス中の水蒸気を凝集させるとともに、二酸化炭素を回収する。ここで、二酸化炭素の回収は、例えば膜による分離、沸点の違いを利用した分離等、既存の分離方法で好適に実現し得る。回収した二酸化炭素は管路6を介してスラグ回収・排出装置8及びCO固定化反応装置25に供給される。ここで、管路6の途中にはポンプ等の圧送手段7を配設しても良い。通常、石炭ガス化炉1内に連通されているスラグ回収・排出装置8内は二酸化炭素回収装置5内よりも高圧になってので、かかる圧力差を調整するためである。
【0047】
スラグ回収・排出装置8は、石炭ガス化炉1で生成された溶融ガス化スラグを急冷して固化させるための水を貯留するとともに、固化させたガス化スラグを外部に排出するように構成してある。ここで、溶融ガス化スラグはSiO,Al,CaO,Fe,MgO等からなり、特にCaO成分が非常に多いという特徴を有している。ちなみに、CaO成分は全溶融スラグ成分中の40%程度である。また、本形態におけるスラグ回収・排出装置8には二酸化炭素回収装置5で回収した二酸化炭素が管路6を介して供給される。この結果、前記水槽の水は高濃度の炭酸水となっている。かかるスラグ回収・排出装置8に関しては後に詳述する。
【0048】
スラグ回収・排出装置8から排出されたガス化スラグはスラグ成型装置24でブリケット又はペレットに成型される。CO固定化反応装置25ではブリケット又はペレットに成型した成型スラグに二酸化炭素を接触させて吸着させる。
【0049】
図2はスラグ回収・排出装置8を抽出して詳細に示すブロック図である。同図に示すように、本形態におけるスラグ回収・排出装置8は、石炭ガス化炉1の底部に水9を貯留してなる急冷固化部10とこの急冷固化部10に弁11を介して連通している貯留部であるロックホッパ12とを有している。石炭ガス化炉1内で生成される高温(1500℃程度)の溶融ガス化スラグ13は石炭ガス化炉1の底部に貯留された水9に接触することにより急冷されて破砕され、ガラス状の粒状物となって水9中に貯留される。さらに詳言すると、石炭ガス化炉1の底部における水9の上方には中央部に排出口27aを有する溶融ガス化スラグ13の受皿部27が設けてある。この受皿部27が急冷固化部10の最上部で且つ灰溶解室26の底部となっている。受皿部27の排出口27aの下方に水9の貯留部が臨んでいる。この結果、溶融ガス化スラグ13は受皿部27に一旦集積された後、排出口27aを介して下方の水9中に落下して急冷される。また、急冷固化部10内の最底部には粉砕機14が配設してある。この粉砕機14は相互に反対方向に回転する2個のローラ14a,14b間に粒状物となったガス化スラグ15を挟んで擂り潰すようになっている。
【0050】
二酸化炭素回収装置5で回収した二酸化炭素は管路6から弁16,17を介して急冷固化部10及びロックホッパ12内の水9中に供給される。すなわち、水9は高濃度の炭酸水となっている。この結果、二酸化炭素とガス化スラグ中のCaOとが反応してCaCOを生成する。すなわち、次の反応が効率よく進行する。
CaO+CO→CaCO
【0051】
同時に、二酸化炭素回収装置5で回収した二酸化炭素は管路6から弁22を介して受皿部27上の溶融ガス化スラグ13にも直接吹付けることができるように構成してある。この結果、溶融ガス化スラグにも二酸化炭素を吸着させることができる。
【0052】
ちなみに、上式の反応は自然界でも生起されるが、常圧下の反応であるので、二酸化炭素の固定のためには実用上利用できない程度の長時間を要する。これに対し本形態における急冷固化部10及びロックホッパ12内での反応では石炭ガス化炉1内の高圧を容易に利用することができる。すなわち、COとガス化スラグ15中のCaOとが良好に反応して所定の炭酸塩を生成するのに適した環境となっている結果、ガス化スラグ15に良好に二酸化炭素を吸着・固定させることができる。ここで、上記反応式で生成されるCaCOは非常に安定な化合物である。このことはガス化スラグ15に二酸化炭素を長期に亘って安定的に固定し得ることを意味しており、固定したまま環境に置いても環境汚染等の悪影響を与える心配はない。
【0053】
かくして弁18を介してスラグ排出槽19に払い出されるガス化スラグ15は、二酸化炭素を固定したCaCOと前述のSiO,Al,Fe,MgO等からなる粒状物となる。かかるガス化スラグ15は、コンクリート構造物に混入させて有効利用し得る材料となる。
【0054】
ここで、粉砕機14は必ずしも設ける必要はないが、これを設けてガス化スラグ15を擂り潰すことで単位重量当りの表面積を大きくすることができ、その分二酸化炭素の吸着も良好に行わせることができる。また、ロックホッパ12内に貯留するガス化スラグ15を攪拌機(図示せず)で攪拌することにより二酸化炭素の吸着反応を良好に促進させることができる。なお、スラグ排出槽19内の水9は管路20を介してポンプ21で石炭ガス化炉1内に戻される。
【0055】
スラグ成型装置24はスラグ回収・排出装置8から排出されたガス化スラグをブリケット又はペレットに成型してCO固定化反応装置25に供給する。CO固定化反応装置25ではブリケット又はペレットに成型した成型スラグに弁23を介して二酸化炭素を接触させて吸着させる。
【0056】
このように、本形態では灰溶解室26内における溶融ガス化スラグ13、スラグ回収・排出装置8及びロックホッパ12内におけるガス化スラグ15並びにCO固定化反応装置25内における成型スラグに二酸化炭素を接触させたが、原理的には、少なくとも一箇所で接触させれば良い。ただ、接触の機会が多いほうが当然より多くの二酸化炭素を吸着させることができる。二酸化炭素の供給・停止は弁16,17,22,23の開閉によって制御する。
【0057】
ここで、スラグ回収・排出装置8の動作手順を説明しておく。通常弁11、18は閉じられている。かかる状態で灰溶解室26で溶融ガス化スラグに二酸化炭素を吹き付けるとともに、水9と接触させることにより急冷固化させて所定量のガス化スラグ15を急冷固化部10に貯留する。この間に急冷固化部10には二酸化炭素回収装置5から二酸化炭素を供給してガス化スラグ15に吸着させる。一定量のガス化スラグ15が貯留された後、弁11を開いてガス化スラグ15を水とともにロックホッパ12に排出した後、弁11を閉じて急冷固化部10における同様の急冷固化を繰り返す。ここで、ロックホッパ12内にも二酸化炭素回収装置5を介して二酸化炭素が供給されているので、ロックホッパ12内のガス化スラグ15にも二酸化炭素が吸着される。ロックホッパ12内に一定時間貯留して二酸化炭素の吸着反応を進行させたガス化スラグ15は弁18を開くことによりスラグ排出槽19に排出される。スラグ排出槽19内の水9はポンプ21の駆動により石炭ガス化炉1内に汲み上げて戻しておく。
【0058】
スラグ排出槽19から排出されたガス化スラグ15はスラグ成型装置で成型スラグに成型されてCO固定化反応装置25に供給され、このCO固定化反応装置25でも二酸化炭素が成型スラグに吸着される。
【0059】
上述の如き本形態によれば、CaO分を多く含む溶融ガス化スラグ13、ガス化スラグ15、成型スラグに二酸化炭素回収装置5で回収した二酸化炭素を接触させるようにしたので、各スラグ中のCaOと二酸化炭素回収装置5で回収した二酸化炭素とを反応させて化学的に極めて安定な炭酸塩であるCaCOを生成させることができる。この結果、二酸化炭素は極めて安定な状態でガス化スラグに固定され、かかる状態で当該石炭ガス化設備から外部に払い出すことができる。
【0060】
ここで、スラグ回収・排出装置8は石炭ガス化炉1の内部圧力が作用する結果高圧環境となっているので、二酸化炭素とガス化スラグ中のCaOとの反応を促進させるのに好適な環境となっている。したがって、このことによってもガス化スラグ15に対する二酸化炭素の吸着・固定をさらに良好に行わせることができる。また、粉砕機14及び攪拌装置(図示せず)を備えて粒状のガス化スラグ15をさらに細かく粉砕・攪拌することによりガス化スラグによる二酸化炭素の吸着・固定をさらに高効率で行うことができる。
【0061】
なお、上記実施の形態におけるスラグ回収・排出装置8は、急冷固化部10と、貯留部であるロックホッパ12とを具備するものとしたが、これに限るものではない。石炭ガス化炉1で生成される溶融ガス化スラグ13を液体で急冷して固化させるとともに、固化させたガス化スラグ15を外部に排出するように構成したものであれば構わない。
【0062】
また、上記実施の形態の場合の石炭ガス化発電システムに限る必要もない。要は石炭ガス化炉1が生成する溶融ガス化スラグを急冷・固化させてできる粒状のガス化スラグに二酸化炭素を吸着させる構造となっていれば良い。例えば、近隣のプラントで回収した二酸化炭素をガス化スラグに作用させて処理するようにしても良い。すなわち、産業廃棄物としてしか扱われていなかった石炭ガス化炉の排出物であるガス化スラグの新たな用途を提供し得るシステム乃至設備であれば本発明の範囲から除外するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は発電設備の製造、保守乃至発電事業の分野で有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態に係る石炭ガス化設備を示すブロック図である。
【図2】図1のスラグ回収・排出装置を抽出して詳細に示すブロック図である。
【符号の説明】
【0065】
1 石炭ガス化炉
3 ガスタービン
4 発電機
5 二酸化炭素回収装置
8 スラグ回収・排出装置
9 水
10 急冷固化部
12 ロックホッパ
13 溶融ガス化スラグ
14 粉砕機
15 ガス化スラグ
24 スラグ成型装置
25 CO固定化反応装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内で石炭を部分燃焼させて石炭ガス化ガスを生成させる石炭ガス化炉と、
前記石炭ガス化炉で生成される溶融ガス化スラグを液体で急冷して固化させるとともに、固化させたガス化スラグを外部に排出するように構成したスラグ回収・排出手段とを有し、
さらに二酸化炭素回収手段で回収した二酸化炭素を、前記溶融ガス化スラグ及び/又は前記ガス化スラグに接触させて前記溶融ガス化スラグ及び/又は前記ガス化スラグに吸着させるように構成したことを特徴とする石炭ガス化設備。
【請求項2】
炉内で石炭を部分燃焼させて石炭ガス化ガスを生成させる石炭ガス化炉と、
前記石炭ガス化炉で生成される溶融ガス化スラグを液体で急冷して固化させるとともに、固化させたガス化スラグを外部に排出するように構成したスラグ回収・排出手段と、
スラグ回収・排出手段から排出されたガス化スラグをペレット状に成型して成型スラグを形成するスラグ成型手段とを有し、
さらに二酸化炭素回収手段で回収した二酸化炭素を前記溶融ガス化スラグ、前記ガス化スラグ、又は前記成型スラグの少なくとも何れか一つに接触させて前記溶融ガス化スラグ、前記ガス化スラグ、又は前記成型スラグの少なくとも一つに吸着させるように構成したことを特徴とする石炭ガス化設備。
【請求項3】
炉内で石炭を部分燃焼させて石炭ガス化ガスを生成させる石炭ガス化炉と、
前記石炭ガス化炉から排出された前記石炭ガス化ガス中から二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収手段と、
前記石炭ガス化炉で生成される溶融ガス化スラグを液体で急冷して固化させるとともに、固化させたガス化スラグを外部に排出するように構成したスラグ回収・排出手段とを有し、
さらに二酸化炭素回収手段で回収した二酸化炭素を、前記溶融ガス化スラグ及び/又は前記ガス化スラグに接触させて前記溶融ガス化スラグ及び/又は前記ガス化スラグに吸着させるように構成したことを特徴とする石炭ガス化設備。
【請求項4】
炉内で石炭を部分燃焼させて石炭ガス化ガスを生成させる石炭ガス化炉と、
前記石炭ガス化炉から排出された前記石炭ガス化ガス中から二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収手段と、
前記石炭ガス化炉で生成される溶融ガス化スラグを液体で急冷して固化させるとともに、固化させたガス化スラグを外部に排出するように構成したスラグ回収・排出手段と、
スラグ回収・排出手段から排出されたガス化スラグをペレット状に成型して成型スラグを形成するスラグ成型手段とを有し、
さらに二酸化炭素回収手段で回収した二酸化炭素を前記溶融ガス化スラグ、前記ガス化スラグ、又は前記成型スラグの少なくとも一つに接触させて前記溶融ガス化スラグ、前記ガス化スラグ、又は前記成型スラグの少なくとも何れか一つに吸着させるように構成したことを特徴とする石炭ガス化設備。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4に記載する石炭ガス化設備において、
前記液体の表面にはガス化炉と同圧の圧力が作用するように構成したことを特徴とする石炭ガス化設備。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載する石炭ガス化設備において、
前記二酸化炭素回収手段から前記スラグ回収・排出手段に二酸化炭素を送給する管路の途中に二酸化炭素ガスの圧送手段を配設したことを特徴とする石炭ガス化設備。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載する石炭ガス化設備において、
前記スラグ回収・排出手段は、前記石炭ガス化炉の底部に液体を貯留してなり、前記溶融ガス化スラグを液体で急冷して固化させる急冷固化部と、この急冷固化部から排出された前記ガス化スラグを一時的に貯留する貯留部とを有することを特徴とする石炭ガス化設備。
【請求項8】
請求項7に記載する石炭ガス化設備において、
前記二酸化炭素は前記急冷固化部の前記液体中に供給するようにしたことを特徴とする石炭ガス化設備。
【請求項9】
請求項7に記載する石炭ガス化設備において、
前記二酸化炭素は前記貯留部の液体中に供給するようにしたことを特徴とする石炭ガス化設備。
【請求項10】
請求項7に記載する石炭ガス化設備において、
前記二酸化炭素は前記急冷固化部及び前記貯留部の前記液体中に供給するようにしたことを特徴とする石炭ガス化設備。
【請求項11】
請求項7に記載する石炭ガス化設備において、
前記二酸化炭素は前記急冷固化部の前記ガス化スラグに直接接触させるようにしたことを特徴とする石炭ガス化設備。
【請求項12】
請求項7に記載する石炭ガス化設備において、
前記二酸化炭素は前記貯留部の前記ガス化スラグに直接接触させるようにしたことを特徴とする石炭ガス化設備。
【請求項13】
請求項7に記載する石炭ガス化設備において、
前記二酸化炭素は前記急冷固化部及び前記貯留部の前記ガス化スラグに直接接触させるようにしたことを特徴とする石炭ガス化設備。
【請求項14】
請求項7乃至請求項13の何れか一つに記載する石炭ガス化設備において、
前記急冷固化部には前記液体により急冷して固化させた前記ガス化スラグを粉砕する粉砕手段を設けたことを特徴とする石炭ガス化設備。
【請求項15】
請求項7乃至請求項13の何れか一つに記載する石炭ガス化設備において、
前記貯留部には前記固化させたガス化スラグを攪拌する攪拌手段を設けたことを特徴とする石炭ガス化設備。
【請求項16】
請求項7乃至請求項13の何れか一つに記載する石炭ガス化設備において、
前記急冷固化部には前記液体により急冷して固化させた前記ガス化スラグを粉砕する粉砕手段を設けるとともに、前記貯留部には前記固化させたガス化スラグを攪拌する攪拌手段を設けたことを特徴とする石炭ガス化設備。
【請求項17】
請求項1乃至請求項16の何れか一つに記載する石炭ガス化設備と、前記石炭ガス化ガスを用いて発電を行う発電設備とを有することを特徴とする石炭ガス化発電システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−286834(P2009−286834A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138127(P2008−138127)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)