説明

石炭灰組成物及びその製造方法

【課題】簡便かつ低コストに製造できるとともに、実用上充分な吸着能を有する石炭灰組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の石炭灰組成物は、石炭灰と水との混合体を、150℃以上の温度で60分以上加熱することにより製造される。また、水の代わりにアルカリ水溶液を用いても良い。また、石炭灰12と水14との混合体の混合比率は、例えば、石炭灰12を20重量部に対し水14を80重量部とする。また、混合体の加熱には、例えば、高温圧力釜(以下、オートクレーブ16という)を用いる。ここで、オートクレーブ16で加熱を行うための熱源として、例えば、発電所の蒸気タービン22の動力として使用された蒸気を用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着能を有する石炭灰組成物に係り、特に安価に製造することが可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
水質浄化や、有害物質の固定もしくは拡散防止を目的として用いられる環境浄化資材の代表的なものとして、ゼオライトやアロフェンが挙げられる。
ゼオライトは、もとは天然に産出する鉱物であり、結晶中に微細孔を有するとともに微細孔内にナトリウムなどのカチオンを含むことから、吸着能、イオン交換能、及び触媒としての機能を有する。また、アロフェンは、火山灰および軽石などの降下火山噴出物を母材とする土壌に現れる非結晶性もしくは低結晶質粘土成分からなるものであり、高い比表面積を有することから、吸着能及びイオン交換能を有する。
【0003】
これらゼオライト及びアロフェンは、主な構成元素として珪素とアルミニウムとを含むことから、従来より、これらの元素を多く含有する石炭灰からゼオライト及びアロフェンを人工的に合成する技術が提案されている(例えば、特許文献1又は2)。
【0004】
特許文献1には、石炭灰とアルカリ性物質を混合し、加熱溶融させた後、加熱処理をすることによりゼオライトを製造する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、本発明者により、珪酸およびアルミニウムを含む無機成分に、アルカリ水溶液を加えて、加熱し、溶解し、次いでアルミニウムとキレート化合物を作らない酸性溶液を加えて、微酸性にした後、加熱することによりアロフェンを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−34417号公報
【特許文献2】特開2000−178021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のゼオライトの製造方法では、アルカリ性物質を混合するとともに加熱溶融温度を1000℃以上に設定することを要し、また、特許文献2に記載のアロフェンの製造方法では、アルカリ水溶液と酸性溶液の両者を大量に使用するため、エネルギーコストや材料コストが嵩んでしまう。
【0008】
また、これらの製造方法を実施するためには、耐熱・耐薬品用の機器を導入や機器を維持管理するための設備コストも発生してしまう。
【0009】
本発明は、上記の点に鑑みてなされてものであり、簡便かつ低コストに製造できるとともに、実用上充分な吸着能を有する石炭灰組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明は、吸着能を有する石炭灰組成物であって、
石炭灰と水との混合体を、150℃以上の温度で60分以上加熱してなることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る石炭灰組成物よれば、石炭灰の表面にシラノール基が生成されることにより、実用上充分な吸着能を有する。
【0012】
また、特に材料を高温(1000℃以上)に加熱する必要もなく、また、酸やアルカリ性の物質を混合することもなく製造することができるので、エネルギー、材料及び設備のコスト低減に寄与する。
【0013】
また、本発明において、前記水として、アルカリ性を有する水を用いたこととしてもよい。
【0014】
本発明に係る石炭灰組成物よれば、中性環境下よりも石炭灰と水との水和反応が促進されて、吸着能を有するシラノール基がより多く生成されることにより、吸着能が向上する。
【0015】
また、本発明において、前記石炭灰として、フライアッシュを用いたこととしてもよい。
【0016】
また、本発明において、前記混合体の混合比率は、前記石炭灰20重量部に対し前記水80重量部であることとしてもよい。
【0017】
また、本発明は、吸着能を有する石炭灰組成物の製造方法であって、石炭灰と、水又はアルカリ性溶液との混合体を、150℃以上の温度で60分以上加熱することを特徴とする。
【0018】
また、本発明において、前記混合体を加熱する容器として、オートクレーブを用いることとしてもよい。
【0019】
また、本発明において、前記オートクレーブには、蒸気タービンの動力として用いられた後の蒸気の熱を、前記混合体を加熱する熱源として用いることとしてもよい。
【0020】
本発明に係る石炭灰組成物の製造方法によれば、蒸気タービン使用後の蒸気の熱エネルギーを有効利用することができ、エネルギーコストを低減することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡便かつ低コストに製造できるとともに、実用上充分な吸着能を有する石炭灰組成物及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に係る石炭灰組成物の製造方法を示す説明図である。
【図2】石炭灰組成物の各試料の作製条件と、その試料に対する各種試験結果とまとめた表である。
【図3】試料作製の際のオートクレーブの設定温度と飽和蒸気圧との変動をまとめた表である。
【図4】吸着能を有する資材のX線回折パターンの例を示し、同図(a)は石炭灰(フライアッシュ)と人工ゼオライトのX線回折パターン、同図(b)はアロフェンのX線回折パターンである。
【図5】熱分析による試料の温度による重量変化の例を示すグラフであり、同図(a)は石炭灰(フライアッシュ)のグラフ、同図(b)は試料No.12のグラフである。
【図6】陽イオン交換容量の測定結果を示す説明図である。
【図7】石炭灰組成物によるカドミウムイオンの吸着試験結果を示す説明図であり、(a)は試験結果を示す表、(b)は試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい一実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
本実施形態は、例えば、石炭火力発電所において、石炭灰から吸着能を有する石炭灰組成物を製造する技術に関する。
【0024】
図1は、本実施形態に係る石炭灰組成物10の製造方法を示す説明図である。
図1に示すように、本実施形態に係る石炭灰組成物10は、石炭灰12と水14との混合体を、150℃以上の温度で60分以上加熱することにより製造される。
【0025】
ここで、石炭灰12には石炭火力発電所の微粉炭ボイラー20の燃焼排ガス中から回収された微細粒子であるフライアッシュを用いることができる。
また、石炭灰12と水14との混合体の混合比率は、例えば、石炭灰12を20重量部に対し水14を80重量部とする。
【0026】
また、混合体の加熱には、例えば、高温圧力釜(以下、オートクレーブ16という)を用いる。
ここで、オートクレーブ16で加熱を行うための熱源として、例えば、発電所の蒸気タービン22の動力として使用された蒸気を用いることが好ましい。
【0027】
また、混合体への加熱は、温度を高くするほど又は加熱時間を長くするほど、生成される石炭灰組成物10の吸着能が向上することになるが、蒸気タービン22で使用後の蒸気を熱源とする場合、蒸気の温度を勘案して、加熱温度を300℃、加熱時間を300分程度に設定することが現実的である。
【0028】
なお、混合体の水14は、水酸化ナトリウム等を混合してpHが12〜13程度になるようにアルカリ性に調整してもよい。
【0029】
本発明者は、上記石炭灰組成物の製造条件を設定するために、加熱設定温度、加熱時間、又は石炭灰と混ぜる液体として蒸留水もしくはアルカリ水溶液に変更して、複数の石炭灰組成物の試料を作製し、それら試料について各種試験を実施し、実用上充分な吸着能を有する石炭灰組成物であるか否かを評価した。以下にその詳細について説明する。
【0030】
図2は、石炭灰組成物の各試料の作製条件と、その試料に対する各種試験結果とまとめた表である。
【0031】
図2に示すように、設定温度を150〜300℃、反応時間を0〜300min、又は混合体のpHを水もしくはNaOH溶液を用いることにより7(中性)もしくは12〜13(アルカリ性)に変更することにより、合計24個の石炭灰組成物の試料を作製し、これら試料に対し、嵩容量、X線回折パターン、メチレンブルー吸着量、又は熱分析によるシラノール基重量率を測定した。また、参考試料として、原料である石炭灰自体と天然アロフェンについても、同様の試験を実施した。
【0032】
具体的な試験手順としては、先ず、20gの石炭灰と、80gの蒸留水又は水酸化ナトリウム溶液とをオートクレーブに投入し、その内部で回転子を回転させることにより攪拌した。なお、本評価では、石炭灰とし、フライアッシュの品質規格(JIS A6201−1999)のII種を用いた。また、ここで使用したオートクレーブは、容量120ml、最高使用圧力120MPaのものを用いた。
【0033】
そして、オートクレーブの内部を上記のように攪拌しながら所定の設定温度まで加熱し、設定温度までに達したらオートクレーブの内部圧力を記録した。
【0034】
図3は、試料作製の際のオートクレーブの設定温度と飽和蒸気圧との変動をまとめた表である。図3に示すように、設定温度の上昇とともに内部の飽和蒸気圧も上昇している。
【0035】
次いで、所定の設定温度で所定時間加熱させた後、オートクレーブの蓋を取り外し扇風機により風冷した。そして、オートクレーブ内の温度が60℃以下まで冷却したら、オートクレーブからスラリーを取り出し、遠沈管に移し変えて遠心分離機により固液の遠心分離を行った。ここで、遠心分離機による遠心分離は、3000rpmで5分間実施した。
【0036】
次いで、遠沈管内に遠心分離された上澄み液を除去して固形分を残留させ、その後、固形分の洗浄のため、遠沈管に蒸留水約30mlを加え振盪させ、再度遠心分離機による遠心分離を行い、遠沈管内に遠心分離された上澄み液を除去して固形分を残留させた。なお、水酸化ナトリウム溶液を用いた場合には、これら洗浄と遠心分離を5回繰り返して行った。
【0037】
そして、このようにして遠沈管内に残留した固形分に対し、その質量が20gになるように調整し、その時の嵩容量(ml)を測定した。
【0038】
また、嵩容量の測定後、遠沈管内の固形分を蒸発皿に回収し110℃で充分に乾燥させ、乾燥した試料を用いて、X線回折パターン、メチレンブルー吸着量、及び熱分析によるシラノール基重量率を測定した。
【0039】
以下、各試験結果について考察する。
【0040】
<嵩容量の測定>
嵩容量の測定では、石炭灰組成物の吸着能のファクターであるシラノール基の生成量を評価できる。シラノール基が石炭灰組成物の表面に生成されることにより、原料の石炭灰から体積が増加するからである。
【0041】
嵩容量の測定は、24個のすべての試料及び石炭灰自体について実施した。
その結果、原料の石炭灰(フライアッシュ)の嵩容量は、19mlであった。
【0042】
これに対し、蒸留水を使用して作製された試料(試料No.1〜12)のうち、試料No.1〜9については、嵩容量が石炭灰(フライアッシュ)と同量の19mlであり、変化が認められなかった。これは、設定温度が150〜250℃と比較的低いときには、嵩容量に影響を与えるほどシラノール基が生成されなかったものと考えられる。
【0043】
一方、設定温度が300℃の試料No.10〜12については、試料No.10(反応時間0min)及び試料No.11(反応時間60min)が20ml,試料No.12が21mlと、反応時間が延長するほど嵩容量が増加している。これは、反応時間に応じてシラノール基が増加しているものと考えられる。
【0044】
また、アルカリ水溶液を使用して作製された試料(試料No.13〜24)は、蒸留水を使用して作製された試料(試料No.1〜12)と、同じ設定温度及び同じ反応時間について比べると、嵩容量が概ね増加していることがわかる。これは、アルカリ環境により石炭灰と水との水和反応が促進され、より多くのシラノール基が生成されたからであると考えられる。なお、これらアルカリ水溶液を使用して作製された試料についても、設定温度が上昇するほど、もしくは反応時間が延長するほど、もしくはPH値が大きくなるほど、嵩容量が増加する傾向が認められ、シラノール基が増加すると考えられる。
【0045】
<X線回折パターンの測定>
X線回折パターンの測定では、石炭灰組成物の結晶構造を確認できる。
図4は、吸着能を有する資材のX線回折パターンの例を示し、同図(a)は石炭灰(フライアッシュ)と人工ゼオライトのX線回折パターン、同図(b)はアロフェンのX線回折パターンである。なお同図の横軸は2θで示した回折角度を示している。
【0046】
図4(a)の石炭灰(フライアッシュ)のX線回折パターンには、単鎖構造を持つムライト(M)の結晶の存在を示す回折ピークが現れ、また、人工ゼオライトのX線回折パターンには、人工ゼオライト特有のフィリップサイト(P)の結晶の存在を示す回折ピークが現れている。
【0047】
一方、図4(b)のアロフェンのX線回折パターンには、どの回折角度においても鋭いピークは認められない。これは、アロフェンが非結晶無定形であることを示している。
【0048】
本評価におけるX線回折パターンの測定は、試料No.1〜17及び原料の石炭灰自体について実施した。
【0049】
その結果、試料No.1〜17のX線回折パターンには、上記図4(a)の石炭灰(フライアッシュ)と同様の単鎖構造を持つムライト(M)の結晶の存在を示す回折ピークが現れ、原料である石炭灰自体とは結晶構造の違いが認められなかった。このことは、原料の石炭灰の結晶構造が、水又はアルカリ水溶液の混合や加熱によって影響を受けてないことを示している。すなわち、試料No.1〜17は、一般的な環境浄化資材のゼオライトやアロフェン等とは異なる結晶構造を有している。
【0050】
なお、試料No.18〜24については、X線回折パターンの測定を実施していないが、アルカリ水溶液を使用して作製された試料(No.13〜24)のうち、設定温度が高くまた反応時間の長い、比較的水和反応が促進された試料(No.13〜17)についてのX線回折パターンの結果から石炭灰自体との結晶構造の違いが認められなかったので、これら試料よりも設定温度が低くまた反応時間の短いため、水和反応が緩慢であることが考えられる試料No.18〜24についてのX線回折パターンの結果も、同様の結晶構造の違いが認められない結果になることが推定される。
【0051】
<メチレンブルー吸着量の測定>
メチレンブルー吸着量の測定は、日本工業規格JIS K1474に準拠して行った。メチレンブルー吸着量の測定では、石炭灰組成物の吸着能の程度を評価できる。
メチレンブルー吸着量の測定は、試料No.12〜14、石炭灰、及び天然アロフェンについて実施した。
その結果、原料の石炭灰については吸着能が全く示されなかった(吸着なし)。
これに対し、試料No.12〜14の吸着量(0.89〜1.04g/kg)は、天然アロフェンの吸着量(0.92g/kg)と比べて遜色ない結果となった。
【0052】
なお、試料No.12〜14の吸着量は、PH値が高くなるほどその吸着量も増加する傾向を示す。これは、アルカリ性が高くなるほど、石炭灰と水との水和反応が促進され、作製される石炭灰組成物のシラノール基の量が多くなるためであると考えられる。
【0053】
<熱分析によるシラノール基重量率の測定>
熱分析によるシラノール基重量率の測定は、石炭灰組成物中のシラノール基が500℃程度まで加熱されるまでに完全燃焼する特性を利用したものであり、石炭灰組成物の吸着能の要因と考えられるシラノール基の重量を把握できる。具体的には、熱重量・示差熱分析法(TG−DTA)を採用し、10mmgの試料を常温から1000℃まで20.0℃/minで加熱させ、その時記録した各温度おける試料の重量から、常温から500℃までの重量減少率を算出した。
【0054】
熱分析によるシラノール基重量率の測定は、試料No.2,3,5,6,8,9,11〜14及び石炭灰について実施した。
図5は、熱分析による試料の温度による重量変化の例を示すグラフであり、同図(a)は石炭灰(フライアッシュ)のグラフ、同図(b)は試料No.12のグラフである。
【0055】
図5(a)に示すように、石炭灰(フライアッシュ)では常温からの重量の減少がほとんど認められないのに対し、図5(b)に示すように、試料No.12では常温からの加熱に応じて重量が徐々に減少していく様子が見て取れる。これは、石炭灰に生成されたシラノール基からヒドロキシグループ(OH)が脱離して重量が減少していると考えられる。なお、試料No.12では、重量が−2.02%減少した。
【0056】
また、試料No.12〜14の結果に示すように(図2参照)、PH値が高くなるほどその重量減少率も増加する傾向を示した。これは、アルカリ性が高くなるほど、石炭灰と水との水和反応が促進され、作製される石炭灰組成物のシラノール基の量が多くなるためであると考えられる。
【0057】
また、このような重量の減少は、比較的設定温度の低く反応時間の短い、試料No.2,3,5,6,8,9,11においても認められた。この結果は、嵩容量の測定では顕著に増加が確認できなかったが、シラノール基が石炭灰の表面に確実に生成されていることを示している。
【0058】
これらの結果から勘案すると、少なくとも150℃以上の温度で60分以上加熱するとともに、PHが7以上の環境で石炭灰を水和反応させることにより、その表面にシラノール基を生成させることができ、吸着能を有する石炭灰組成物を作製することができる。
【0059】
<陽イオン吸着能の測定>
また、上記の各試験に加え、上記の手順で作製した石炭灰組成物における陽イオン吸着能も測定した。陽イオン吸着能の測定として、陽イオン交換容量(CEC)の測定と、微量有害物質の一種であるカドミウムの吸着試験とを行った。
【0060】
陽イオン交換容量の測定は次の手順で行った。まず、所定量の試料にCaCl水溶液を加えて攪拌後、一晩放置した。遠心分離器を用い、純水による洗浄を5回繰り返した。沈殿物に対して、エタノール水溶液による洗浄を、上澄み液中に硝酸銀水溶液でClが検出されなくなるまで、繰り返し行った。次に、NHCl水溶液を加えて遠心分離し、上澄み液を回収する作業を5回繰り返して行った。回収した上澄み液に含まれるCa2+の濃度を原子吸光光度計で測定し、陽イオン交換容量とした。なお、陽イオン交換容量の単位は〔cmol・kg−1〕である。
【0061】
図6は、石炭灰の陽イオン交換容量と石炭灰組成物の陽イオン交換容量とを示す。石炭灰の陽イオン交換容量が7.1〔cmol・kg−1〕であったのに対し、石炭灰組成物10の陽イオン交換容量は81.6〔cmol・kg−1〕であった。この結果から、石炭灰組成物における陽イオンの吸着能の高さが理解できる。
【0062】
図7は、カドミウムの吸着試験結果を示す。イニシャル試験では、試料溶液中のカドミウム濃度を測定した。カドミウムの濃度測定は、日本工業規格JIS K0102(2008)55.4に準拠して行った。吸着試験では、(1)石炭灰組成物を試料溶液中に所定量添加する工程、(2)石炭灰組成物を添加した試料溶液を、所定時間に亘って振盪する工程、(3)振盪後の試料溶液に遠心分離を行って固液を分離する工程、(4)上澄み液を濾別する工程、(5)上澄み液中のカドミウム濃度を測定する工程を行った。
【0063】
なお、石炭灰組成物は、試料溶液1Lに対して1gを添加した。振盪は、20時間に亘って行った。
【0064】
また、上記のイニシャル試験及び吸着試験を、pH7とpH10の試料溶液のそれぞれについて行った。そして、pH7の試料溶液としては、カドミウムの初期濃度を2.0mg/L、4.0mg/L、8.0mg/L、10.0mg/L、25.0mg/Lに調整したものを用意した。pH10の試料溶液としては、カドミウムの初期濃度を2.0mg/L、4.0mg/L、8.0mg/L、10.0mg/L、25.0mg/L、50.0mg/L、100.0mg/L、150.0mg/L、200.0mg/Lに調整したものを用意した。
【0065】
そして、イニシャル試験でのカドミウム濃度と吸着試験でのカドミウム濃度とから、各試料溶液についてカドミウムの除去率を求めた。
【0066】
pH7の場合、濃度2.0mg/Lの試料溶液での除去率は45%、濃度4.0mg/Lの試料溶液での除去率は12.5%、濃度6.0mg/Lの試料溶液での除去率は5.1%であった。また、濃度8.0mg/Lの試料溶液での除去率は10.0%、濃度10.0mg/Lの試料溶液での除去率は0.0%、濃度25.0mg/Lの試料溶液での除去率は2.0%であった。
【0067】
一方、pH10の場合、濃度2.0mg/Lの試料溶液での除去率は84.6%、濃度4.0mg/Lの試料溶液での除去率は75.8%、濃度6.0mg/Lの試料溶液での除去率は53.8%、濃度8.0mg/Lの試料溶液での除去率は34.3%であった。そして、濃度10.0mg/Lの試料溶液での除去率は30.3%、濃度25.0mg/Lの試料溶液での除去率は2.4%、濃度50.0mg/Lの試料溶液での除去率は6.3%、濃度100.0mg/Lの試料溶液での除去率は5.4%であった。また、濃度150.0mg/Lの試料溶液での除去率は4.7%、濃度200.0mg/Lの試料溶液での除去率は1.5%であった。
【0068】
pH7とpH10のいずれも、試料溶液中のカドミウム濃度が高くなると除去率が下がる傾向が見られた。これは、石炭灰組成物によるカドミウムの吸着量が飽和したことが原因として考えられる。すなわち、石炭灰組成物が吸着したカドミウム量は同程度と考えられる。上記の試験では、試料溶液1Lに対して石炭灰組成物を1gしか添加していない。添加量が少ないことを考慮すれば、石炭灰組成物はカドミウムに対して実用上十分な吸着能を有しているといえる。言い換えれば、石炭灰組成物の添加量を増やすことで、高濃度の試料溶液であっても十分な除去率が得られると考えられる。
【0069】
pH7とpH10の結果を比較すると、pH10での除去率はpH7での除去率よりも十分に高い。これは、試料溶液をアルカリ性にしたことにより、シラノール基が有するHが離脱しやすくなったことが要因の一つとして考えられる。
【0070】
<変形例について>
上記の実施形態では、石炭灰から石炭灰組成物を製造する場合を例に挙げて説明した。ここで、石炭灰とガラスはともに、SiOの網目構造に網目修飾イオン(アルカリ金属やアルカリ土類金属)が入っている点で共通している。このため、石炭灰に代えてガラスを用い、ガラスと水等の混合物を150℃以上の温度で60分以上加熱することで(亜臨界水処理することで)、ガラス表面にシラノール基が形成できると考えられる。すなわち、吸着能を有するガラス組成物を生成できると考えられる。
【0071】
<まとめ>
以上説明したように、本実施形態の石炭灰組成物によれば、吸着能を有する石炭灰組成物であって、石炭灰と、水又はアルカリ性溶液との混合体を、150℃以上の温度で60分以上加熱してなることにより、石炭灰表面にシラノール基が生成されるので、実用上充分な吸着能を有する。
【0072】
また、本実施形態の石炭灰組成物よれば、上記特許文献1又は2に記載されるように、材料を高温(1000℃以上)に加熱したり、酸やアルカリ性の物質を大量に使用したりすることもなく製造することができるので、材料、エネルギー及び設備のコスト低減に寄与する。
【0073】
また、本実施形態の石炭灰組成物の製造方法で、アルカリ水溶液を用いることにより、製造される石炭灰組成物の吸着能を向上させることができる。
【0074】
また、本実施形態の石炭灰組成物の製造方法によれば、石炭灰と水との混合体を加熱する熱源として、蒸気タービンの動力として用いられた蒸気を用いることにより、蒸気タービン使用後の蒸気の熱エネルギーを有効利用することができ、エネルギーコストを低減することができる。
【0075】
なお、以上のようにして製造された石炭灰組成物は、例えば、農業用土壌改良材やセメントの重金属溶出抑制材として用いることができる。
【0076】
また、石炭灰に代えてガラスを用いることで、吸着能を有するガラス組成物を生成できる。
【符号の説明】
【0077】
10 石炭灰組成物
12 石炭灰
14 水
16 オートクレーブ
20 微粉炭ボイラー
22 蒸気タービン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着能を有する石炭灰組成物であって、
石炭灰と水との混合体を、150℃以上の温度で60分以上加熱してなることを特徴とする石炭灰組成物。
【請求項2】
前記水として、アルカリ性を有する水を用いたことを特徴とする請求項1に記載の石炭灰組成物。
【請求項3】
前記石炭灰として、フライアッシュを用いたことを特徴とする請求項1又は2に記載の石炭灰組成物。
【請求項4】
前記混合体の混合比率は、前記石炭灰20重量部に対し前記水80重量部であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の石炭灰組成物。
【請求項5】
吸着能を有する石炭灰組成物の製造方法であって、
石炭灰と、水又はアルカリ性溶液との混合体を、150℃以上の温度で60分以上加熱することを特徴とする石炭灰組成物の製造方法。
【請求項6】
前記混合体を加熱する容器として、オートクレーブを用いることを特徴とする請求項5に記載の石炭灰組成物の製造方法。
【請求項7】
前記オートクレーブには、蒸気タービンの動力として用いられた後の蒸気の熱を、前記混合体を加熱する熱源として用いることを特徴とする請求項6に記載の石炭灰組成物の製造方法。
【請求項8】
吸着能を有するガラス組成物であって、
ガラスと水との混合体を、150℃以上の温度で60分以上加熱してなることを特徴とするガラス組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−29851(P2010−29851A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152763(P2009−152763)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】