説明

石英ガラス成形体の製造方法

【課題】低コストで種々の外径の石英ガラス成形体を製造できるようにする。
【解決手段】厚さ1cm、直径50cmの円形のカーボン製の底板12の中央に石英ガラス材料16を載置し、その外側に板材14の一方の端部を、多角形の隣接する辺の板材の端部から8cmの位置に8枚を順次組み合わせ、カーボン繊維の糸条体で緊締して外筒を組み上げ、石英ガラス材料をこの外筒内に設置して電気炉内に移し、窒素ガス雰囲気下で1800℃で2時間加熱溶融し、一辺8cm、平均高さ7.9cmの正八角柱の石英ガラス成形体16aを得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラス成形体、特にリング状あるいは円板状石英ガラス製品を得るための製造時に用いられる型材に関し、石英ガラス材料16を型材内に設置して加熱溶融炉内で加熱溶融し、溶融石英ガラスを型材の形状に合致させた石英ガラス成形体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス製品、特に、石英ガラスよりなる石英ガラス製品は、光学レンズなどの光学機器に限らず、その耐久性や化学的安定性などの利点を生かし、半導体製造用治具、液晶ディスプレイパネル製造用フォトマスクあるいは光通信用の精密部品などに広く用いられている。こうした石英ガラス製品の製造プロセスとしては、エッチングや研削加工などのような、加工対象物から不要な領域を除去する除去工程を主に用いるプロセスが採用されていた。
【0003】
しかしながら、これらの製造プロセスは、加工時間が長くかかるだけでなく、製造効率や製造コスト上で問題点があった。
【0004】
こうした問題点を解決するため、型材を用いてガラス製品の概形を溶融成形により製造し、その石英ガラス成形体に研削などの機械加工を施してガラス製品を作製する方法が用いられている。
【0005】
以下に、型材を用いたガラス製品の概形を溶融成形により製造する、従来の方法を簡単に説明する。
【0006】
従来、図1に示すように、溶融成形に用いる型材10は、底板12の上面12aに配置されるとともに所望の内径を有する2分割あるいはそれ以上に分割された円筒形状のカーボン製の外筒10から構成されている。
【0007】
この型材10の内部に、溶融成形しようとするインゴットなどの石英ガラス材料16を載置し、電気炉などの加熱装置により、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下において、1500℃ないし2000℃で加熱することにより、石英ガラス材料16は加熱溶融され、型材10の内径と同一寸法の円柱形状の石英ガラス成形体16aとして製造される。
【0008】
しかしながら、円筒形状の外筒10は、その製作が難しく、加工のために大型の装置が必要であり、製作に時間がかかり、作製コストが負担になっていた。更に、2分割あるいはそれ以上に分割したカーボン型材を組み合わせて円筒形になるようにしているために、一つの型材の破損により、外筒10として機能しなくなるために、高価な予備品を過剰にストックしておかなければならないという問題もあった。
【0009】
このような問題点を解決するために、容易に製作できる共通の部材を使用できるようにするために、図2に示すように、板材14を組み合わせて構成した正多角柱を外筒として用いることを本発明者が提案した。(特願2010−26808)
【0010】
この場合も前記同様に、板材14で構成された多角柱状の外筒内に石英ガラス材料を載置し、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下において加熱装置で1500℃ないし2000℃で加熱溶融し、板材の内面で区画された多角柱状の石英ガラス成形体が製造される。この石英ガラス成形体を切削などの機械加工によって、所望の形状の石英ガラス製品が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4054977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前記の方法では、近年増大しつつある、石英ガラス製品のサイズ、あるいは、形状の多様化に対応できず、所望の石英ガラス成形体の外径に応じた型材を準備しておく必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、石英ガラス材料を型材内に設置して加熱溶融炉内で加熱溶融し、溶融石英ガラスを型材の形状に合致させた成形体とする石英ガラス成形体の製造法であって、型材が板材を組み合わせて構成される正多角柱の内径を有するものであって、該型材を構成する板材の端部を隣接する正多角柱の辺を構成する板材の中間部の任意の距離の位置に接するようにすることよって、正多角柱の辺の長さを変更できるようにした石英ガラス成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
石英ガラス材料の溶融成形の際に用いる型材の構成要素として、板材の一方の端部を、隣接辺の板材の端部から一定の距離で接触させて組み合わせた正多角柱を外筒として用いることを特徴とするものであり、正多角柱を構成する板材の大きさを全て等しくする必要がなく、不揃いであっても正多角柱を構成することができ、また、その寸法精度も許容範囲が大きいために、板材の転用が可能になるだけでなく、板材の製作コストや製作にかかる時間が減少されるので石英ガラス成形体の製造コストを低減することができる。
【0015】
更に、組み合わせる他の板材の端部からの距離を変えることによって、外筒となる正多角柱の内径を変更させることができるために、溶融成形により得られる石英ガラス成形体の外径の変更が容易になる。これにより、所望とする外径の石英ガラス成形体が容易に得られるため、成形体の加工時間や加工に伴う材料のロスが減ることになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来の円筒部材を外筒とした石英ガラス成形体製造用型材の斜視図及び石英ガラス成形体の製造工程図。
【図2】正多角柱を外筒とした石英ガラス成形体製造用型材の斜視図及び石英ガラス成形体の製造工程図。
【図3】本発明の板材を隣接板材の端部から一定の距離となるようにして組み合わせた正多角柱外筒の底面図。
【図4】板材の一方の端部を隣接板材の端部からの距離を変えることによって形成される正多角柱の辺長を変更する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図3は、本発明の外筒10として用いられる板材14の一方の端部を、組み合わせる隣接辺を構成する板材14の端部から一定の距離で接触させて組み合わせた正多角柱の底面図であり、正八角形を例としている。
【0019】
本発明では、正多角柱を構成する板材14の両端部を正多角柱の頂点にするのではなく、片側端部のみを正多角柱の頂点となるように組み上げることを特徴としている。すなわち、板材14の一方の端部を、隣接する辺の板材14の端部から距離aの位置で接触させて正多角柱の頂点を構成するように組み上げる。これにより、図3において破線で示されるように、一辺をaとする近似的な正八角形が得られることになる。この正八角形を底面とする正八角柱を外筒10として用いて石英ガラス材料16の溶融成形を行うことにより、直径Rとする石英ガラス成形体を得ることができる。
【0020】
また、図4に示したように、板材14を組み合わせる際の端部からの距離aを変更することにより、正八角柱の内接円の直径Rを変更することができる。すなわち、図4には、一例として、板材14の一方の端部を、組み合わせる他の板材14の端部から距離を0.8a、a、そして1.2aとした3種の大きさの正八角形を示す。当然ながら、距離が大きいほど正八角形の内接円の直径は大きくなり、それぞれ1.9a、2.4a、そして2.9aとなる。
【0021】
なお、図3及び図4では例として正八角形の場合を示しているが、本発明は、正八角形に限定されるものではない。
【0022】
例えば、正十二角柱の場合においては、板材14の一方の端部を、組み合わせる他の板材14の端部から距離を0.8a、a、そして1.2aとすると、それぞれの正十二角形の内接円の直径Rは、それぞれ3.0a、3.7a、そして4.5aとなる。
【0023】
正多角柱の底面の正多角形の大きさは、すでに述べたように、板材14の一方の端部を、組み合わせる他の板材14の端部からの距離を変えることにより変更できるが、製造の際には、その内接円の直径が所望の製品を製造するための加工シロを含んだ石英ガラス成形体の外径よりも大きくすればよい。内接円の直径は、用いる板材14の枚数及び/あるいは距離を変更することにより変更でき、どちらを採用するかは適当に決定すればよい。
【0024】
正多角形の角数としては、所望とする石英ガラス成形体の外径や板材14の一方の端部を、組み合わせる他の板材14の端部からの距離にもよるが、6ないし24であることが望ましい。角数は3以上であれば内接円が作製できるが、角数が少ないとその正多角形の面積に占める内接円の面積の比が小さくなり、材料のロスが生じる。また、角数が大きくなれば、正多角形の面積と内接円の面積の比は1に近づくために、材料のロスは減少するが、正多角柱を組み上げる際に多数の構成部品を組み立てて正多角柱を作り上げるので作業効率が低下する。
【0025】
正多角柱を組み上げる辺の部分に相当する板材14の長さは、板材14を組み合わせる際の端部からの距離aよりも大きければ特に限定されるものではない。
【0026】
より具体的には、正多角柱を構成する板材14の数にもよるが、8cmないし24cmであることが望ましい。辺の長さが短いと、特に外径の大きな石英ガラス成形体を得るためには、板材14の枚数が必要となり、正多角柱の外筒10を組み上げる際の手間がかかることになる。また、辺の長さが長いと、板材14の枚数が減るために正多角柱の外筒10を組み上げる際の手間は減少するが、材料のロスが増大する。
【0027】
更には、板材14の長さは、板材14を組み合わせる際の端部からの距離aよりも大きければ、すべての板材14の大きさが等しい必要はない。
【0028】
正多角柱を構成する板材14端部の一方あるいは両側に360/n°のテーパーを形成してもよい。ここで、nは正多角柱の角数である。テーパーをつけることにより、板材14の加工コストは上昇するが、試験結果によると、板材14同士の接触が線接触から面接触に変わるので、正多角柱を組み上げた際の機械的強度が向上するだけでなく、板材14の接触部の隙間がほとんどなくなることにより、石英ガラス材料16のロスが減少するだけでなく、石英ガラス成形体のエッジ部が滑らかになるのでハンドリングが容易になる。
【0029】
同じ内接円の直径を有する石英ガラス成形体を得る場合でも、板材14を組み合わせる際の端部からの距離a及び正多角柱の辺の数(角数)の組み合わせで多くの場合が考えられ、石英ガラス材料16のロスや正多角柱の組立てに要する手間を考慮して最適な板材14の幅と角数を選択すればよい。
【0030】
板材14の厚さは、その幅よりも小さく、溶融成形の際に充分な強度を有していれば特に限定されず、0.5cmないし5.0cmの範囲内であればよい。更に望ましくは1.0cmないし3.0cmである。板材14の厚さが1.0cmより薄くなると、板材14の製造方法にもよるが、機械的強度が小さくなること、及び耐久性に問題が生じる可能性が大きい。また、板材14の厚さが3.0cmより厚くなると板材14を組み合わせた際の隙間の増大による材料の無駄、板材14を加熱するための熱量の増加やそれに伴う冷却時間の増大、また板材14の重量増による作業性の低下などの問題が生じるので好ましくない。
【0031】
本発明に用いられる正多角柱を組み上げるための板材14の材質は、石英ガラスの溶融条件においてなんら反応しないものであれば特に限定されるものではないが、その加工の容易さ、物理的・化学的安定性、不純物含有量の少なさ、及び材料価格の面から、カーボンを用いることが望ましい。
【0032】
溶融石英ガラスと接触する板材14の表面14aに、溶融石英ガラスとの反応を防止するために、カーボン製フェルトを介在させたり、アルミナ(A123)、窒化珪素(Si34)、あるいは炭化珪素(SiC)などからなる保護膜を被覆しても、なんら問題ない。これらの保護膜は、湿式法や乾式法により作製することができる。例えば、湿式法では、それぞれの粉末に水を加え、スラリー化した後に、スプレーを用いて被覆したり、刷毛等を用いてスラリーを塗布した後に乾燥することにより作製することができる。また、乾式法では、アルミナターゲットなどを用いたスパッタ法や珪素ターゲットを用いた反応性イオンプレーティング法などにより、作製することができる。
【0033】
板材14を組み合わせて外筒10として使用するためには、正多角柱に組み上げた後に、カーボン繊維の糸条体を巻きつけ、緊締して外筒10を固定する方法がある。板材14と同じ材質からなる固定治具を用いて固定する方法を用いてもなんら問題はないが、この方法では板材14の長さが全て等しい場合に限定されるために効果的ではない。
【0034】
石英ガラス材料16の溶融成形は、前述した外筒10内に石英ガラス材料16を載置した後に、1500℃ないし2000℃に加熱することにより行われるが、より好ましい加熱温度は1700℃ないし1900℃である。これは1700℃より低いと石英ガラスの溶融粘度が大きいために、溶融成形に時間がかかるためであり、1900℃を超えると石英ガラスとカーボンとの反応が起きやすくなってしまうためである。
【0035】
所望とする石英ガラス製品は、円筒形状である場合が多い。このため、円柱状の石英ガラス成形体から石英ガラス製品を得るには収率が低下する。この収率の低下を防ぐために、石英ガラス成形体の中央上下両方あるいは上下の片方に下型あるいは押圧治具などを用いて、凹みをつけてもなんら問題はない。
【0036】
なお、本明細書において、正多角柱や正多角形という表現をしているが、幾何学的な意味ではなく、概念的に用いたものである。すなわち、加工精度、使用による変形、あるいは作業効率等の観点から、各辺の長さがまったく等しいことは現実的に不可能であり、実務的な範囲内においての正多角柱あるいは正多角形という意味である。
【0037】
表1に、本発明の外筒10を使用して石英ガラス材料16を溶融成形して得られた石英ガラス成形体16aの実施例1〜9についての計測結果を示す。
【0038】
実施例1〜3は、8枚の板材14を使用して組み上げた正多角柱を外筒10として用いた場合のものであり、板材14の一方の端部と、組み合わせる他の板材14の端部からの距離を8cm、10cm、12cmと変えた場合の結果である。
【0039】
実施例4〜6は、12枚の板材14を使用して組み上げた正多角柱を外筒10として用いた場合の結果であり、板材14の一方の端部と、組み合わせる他の板材14の端部からの距離を8cm、10cm、12cmとした場合の計測結果である。
【0040】
実施例7〜9は、その側面に30°のテーパーをつけた板材14を12枚使用して組み上げた正多角柱を外筒10として用いた場合であり、
板材14の幅を8cm、10cm、12cmと変化させた場合の計測結果である。
【0041】
これらの実施例は、厚さ1cm、直径50cmの円形のカーボン製の底板12の中央に表1中に示した大きさを有する石英ガラス材料16を載置し、その外側に本発明によって内径を適宜変更した外筒10となる型材を組み上げたものである。
【0042】
溶融成形は、前記の所望の外径とした型材を電気炉内に移し、窒素ガス雰囲気下で1800℃で2時間加熱することにより実施した。
【0043】
冷却後、型材から石英ガラス成形体16aを取出し、その一辺の長さと平均の高さを測定した。
【表1】

【0044】
本発明により、1組の外筒で、得られる石英ガラス成形体の直径を変更することができ、表1に示すように任意の直径の溶融石英ガラス成形体が簡便な方法によって得られ、石英ガラス成形体の製造コストを低減することを確認できた。
【符号の説明】
【0045】
10 型材(外筒10)
12 底板
12a 上面
14 板材
14a 内周面
16 石英ガラス材料
16a 石英ガラス成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラス材料を型材内に設置して加熱溶融炉内で加熱溶融し、溶融石英ガラスを型材の形状に合致させた成形体とする石英ガラス成形体の製造法であって、型材が板材を組み合わせて構成される正多角柱の内径を有するものであって、該型材を構成する板材の端部を隣接する正多角柱の辺を構成する板材の中間部の任意の距離の位置に接するようにすることよって、正多角柱の辺の長さを変更できるようにした石英ガラス成形体の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、板材の端部をテーパー状として隣接する辺を構成する板材に面接触させることを特徴とする石英ガラス成形体の製造方法。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかにおいて、正多角柱を構成する板材の材質がカーボン製であり、その厚さは1.0cmないし3.0cmの範囲内である石英ガラス成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、正多角柱を構成する板材の数が6〜24枚のいずれかであることを特徴とする石英ガラス成形体の製造方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−201590(P2012−201590A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71041(P2011−71041)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(390005072)東ソー・クォーツ株式会社 (46)
【Fターム(参考)】