説明

石鹸の成形型、製造装置及び製造方法

【課題】製造装置の大型化を招かずに、歪みや汚れの少ない高品質の石鹸を効率良く製造することができる石鹸の成形型、製造装置及び製造方法を提供すること。
【解決手段】石鹸の成形型1は、一組の割型1A,1Bが組み付けられて内部に成形用のキャビティ10が複数形成される。割型1A,1Bを組み付けた状態において、複数のキャビティ10が成形型1の上下方向Xに所定間隔を置いて列をなすように配されており、且つ複数のキャビティ10それぞれの下部に該キャビティ10に通ずる溶融石鹸の供給路12が配され、該溶融石鹸が該供給路12を通じて該キャビティ10の該下部から上方へ向かって充填されるようになしてある。供給路12が、キャビティ10の前記下部から下方に延びるランナー12Aと、該ランナー12Aと直交し且つ割型1A,1Bを組み付けるときの組み付け方向Zに延びるスプール12Bとを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は石鹸の成形型、製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定形状のキャビティ及び該キャビティに通ずる溶融石鹸の供給路を備えた成形型を具備する石鹸の製造装置が知られている。本出願人は、斯かる製造装置の改良技術に関し、成形型への溶融石鹸の充填が完了した時点において、成形型の供給路内に溶融石鹸が滞留したり残存したりすることが無い石鹸の製造装置を先に提案している(例えば特許文献1及び2参照)。
【0003】
図11には、前記製造装置の一実施形態の要部が模式的に示されている。図11に示す製造装置は、一組の割型を組み付けてなる成形型50と、該成形型50の内部に溶融石鹸を注入する注入装置(図示せず)とを備え、該成形型50が、所定形状のキャビティ51及び該キャビティ51に通ずる溶融石鹸の供給路52を備えている。供給路52は溶融石鹸の供給孔(スプール)53及びゲート(ランナー)54を含み、該ゲート54内に、供給孔53とキャビティ51との連通を遮断させるゲートピン55が進退可能に配されている。斯かる構成の製造装置50においては、図11に示すように、所定量の溶融石鹸のキャビティ51内への注入が完了した時点でシリンダ56を動作させてピストン57をキャビティ51へ押し出し、該ピストン57に接続されているゲートピン55をゲート54内に進入させることによって、該ゲート54内に残存している溶融石鹸をキャビティ51内に注入する。これにより、成形型50への溶融石鹸の充填が完了した時点において、供給路52内に溶融石鹸が滞留したり残存したりすることが防止されるため、次回の成形に先立ち、供給路52内で固化した石鹸を除去する必要が無く、生産性が高まると共に、均質な石鹸が得られるようになる。
【0004】
しかし、上述したゲートピン方式の製造方法は、生産性を高める目的で、成形型内のキャビティを複数にして一度で複数個の石鹸が製造できるようにしようとすると、装置の大型化を招くという問題がある。即ち、ゲートピン方式の製造方法においては、前記のシリンダ56及びピストン57の如き、ゲートピンをゲート内で摺動させる摺動装置が必要であり、成形型内のキャビティを複数にする場合には、複数のキャビティそれぞれのゲートピンに対応した複数の摺動装置が必要であるため、成形型の大型化、延いては製造装置の大型化を招きやすい。成形型あるいは製造装置が大型化すると、重量も相当重くなるため、設置スペースを確保しにくくなるなどの不都合が生じる。
【0005】
また、ゲートピン方式の製造方法で得られた石鹸は、上述したように、所定量の溶融石鹸のキャビティへの注入完了後にゲートピンによってゲート内に残存している溶融石鹸をキャビティに注入する工程を経て製造されているため、特に該石鹸におけるゲートの周辺に位置していた部位に、歪みやゲート内面の磨耗等による汚れが発生しやすく、品質の点でも改善の余地があった。
【0006】
【特許文献1】特開2006−89650号公報
【特許文献2】特開2006−176646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、製造装置の大型化を招かずに、歪みや汚れの少ない高品質の石鹸を効率良く製造することができる石鹸の成形型、製造装置及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一組の割型が組み付けられて内部に成形用のキャビティが複数形成される石鹸の成形型であって、前記一組の割型を組み付けた状態において、複数の前記キャビティが前記成形型の上下方向に所定間隔を置いて列をなすように配されており、且つ複数の該キャビティそれぞれの下部に該キャビティに通ずる溶融石鹸の供給路が配され、該溶融石鹸が該供給路を通じて該キャビティの該下部から上方へ向かって充填されるようになしてあり、前記供給路が、前記キャビティの前記下部から下方に延びるランナーと、該ランナーと直交し且つ前記一組の割型を組み付けるときの組み付け方向に延びるスプールとを有している石鹸の成形型を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【0009】
また本発明は、前記成形型と、該成形型の前記キャビティに溶融石鹸を注入する注入装置とを備えている石鹸の製造装置を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【0010】
また本発明は、前記成形型を用いた石鹸の製造方法であって、複数の前記キャビティそれぞれに前記供給路を通じて溶融石鹸を充填して固化させる工程を備え、該キャビティに充填された溶融石鹸にかかる圧力が0.2MPa以下である石鹸の製造方法を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、製造装置の大型化を招かずに、歪みや汚れの少ない高品質の石鹸を効率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき図面を参照して説明する。図1には、本発明の石鹸の成形型を備えた本発明の石鹸の製造装置の一実施形態の要部が示されている。図1に示す本実施形態の製造装置5は、成形型1と、該成形型1を開閉させる金型ユニット2と、該成形型1の内部(キャビティ)に溶融石鹸を注入する注入装置3と、溶融石鹸の循環装置4(図4参照)とを備えている。本実施形態の製造装置5は、気泡入りの石鹸の製造に好適に用いられる。
【0013】
成形型1は、図2に示すように、二個一組の割型1A及び割型1Bで構成されている。各割型は金属等の剛体からなる矩形ブロック状の形態をしており、それぞれのパーティング面PLに凹状のキャビティの形成面11A及び11Bがそれぞれ複数形成されている。各キャビティの形成面(以下、キャビティ形成面ともいう)11A,11Bは、割型1Aと割型1Bとをそれらのパーティング面PLで突き合わせて組み合わせたとき、図3に示すように、製造すべき石鹸の形状に合致した形状のキャビティ10が複数(本実施形態では12個)形成されるように設けられている。
【0014】
複数のキャビティ形成面11Aは、成形型の上下方向X及び該上下方向Xと直交する左右方向Yそれぞれに所定間隔を置いて列をなすように配されている。本実施形態では、上下方向Xに沿って2個のキャビティ形成面11Aを配してなる列が、左右方向Yに所定間隔を置いて6列並列に配されている。複数のキャビティ形成面11Bもこれと同様に配されている。従って、図3に示す如く割型1Aと割型1Bとをそれらのパーティング面PLで突き合わせて組み付けた状態においては、複数(12個)のキャビティが上下方向X及び左右方向Yそれぞれに所定間隔を置いて列をなすように配されている。
【0015】
また、図3に示す如く割型1A及び1Bを組み付けた状態においては、複数のキャビティ10それぞれの下部に該キャビティ10に通ずる溶融石鹸の供給路12が配されている。供給路12は、キャビティ10の下部から下方に延びるランナー12Aと、該ランナー12Aと直交し且つ割型1A及び1Bを組み付けるときの組み付け方向Zに延びるスプール12Bとを有しており、成形型1の側面視において略L字状をしている。ランナー12Aは、キャビティ10の最下部(底部)から成形型1の下端近傍まで略垂直に延びている。スプール12Bは、ランナー12Aの下端から成形型1の外面(割型1Bの背面)まで略水平に延びている。後述するように溶融石鹸は、ランナー12A及びスプール12Bからなる供給路12を通じて、キャビティ10の下部から上方へ向かって充填される。
【0016】
図2に示すようにランナー12Aは、割型1Aのパーティング面PLの一部を切り欠いて形成されている。ランナー12Aは、円の一部が該パーティング面PLに沿って切り欠かれた断面形状をしており、その径は、ランナー12Aの全長に亘って略一定となっている。ランナー12Aは一端(上端)がキャビティ形成面11Aで開口し、他端(下端)が閉じている。スプール12Bは、割型1Bの所定部位に該割型1Bをその厚さ方向に貫通する貫通孔を穿設して形成されている。スプール12Bの径は、割型1Bの背面側に向かうに連れ漸次縮径している。
【0017】
図3に示すように、ランナー12Aが形成されている割型1Aをそのパーティング面と反対側に位置する背面から見たときに、該ランナー12Aに対応する部位(ランナー形成面)に、該背面から該ランナー12Aに達する微細幅のスリット13が形成されている。本実施形態においては、スリット13は、ランナー12Aに対応する部位のみならず、キャビティ10に対応する部位(キャビティ形成面11A及び11B)にも形成されている。割型1Aにおける複数のスリット13は、それぞれ、キャビティ形成面11A又はランナー形成面から該割型1Aの背面まで略水平に延びている。割型1Bにおける複数のスリット13は、それぞれ、キャビティ形成面11Bから該割型1Bの背面まで略水平に延びている。スリット13は、後述するように、成形型1内で溶融石鹸を固化させて固形石鹸とした後に該成形型1を型開する際に利用されるもので、固形石鹸の一方の割型への吸引や空気の吹き出しに用いられる。スリット13の幅は、好ましくは10〜100μmである。
【0018】
割型1Aのパーティング面PL上の少なくともキャビティ形成面11Aを介してランナー12Aに対向する位置にはエアベント(図示せず)が設けられている。該エアベントは、キャビティに溶融石鹸を充填するときに該キャビティの空気を外部に排出するための脱気孔として機能する。該エアベントは割型1Aに限らず、割型1Bに設置することもでき、また両割型1A,1Bに設置することもできる。また図示していないが、両割型1A,1Bを構成するブロックには冷却水の循環路が設けられている。
【0019】
成形型1は、金型ユニット2に取り付けられる。具体的には、成形型1における割型1Bはその下部が、ベースプレート20から立設された支持板21に取り付けられており、固定型となっている。一方割型1Aはその背面が、サーボモーター22に送りねじ23を介して接続された可動板24に取り付けられている。サーボモーター22は、送りねじ23が可動板24と直交する方向に摺動するように、ベースプレート20から立設された支持板25に取り付けられている。従って、割型1Aは水平方向に移動可能な移動型となっている。成形型1は、各供給路12が各キャビティ10の下側に位置するように固定されている。これによって、溶融石鹸はキャビティ10の下部から上方へ向かって充填される。
【0020】
成形型1の型締めやキャビティ10の圧力制御を行うサーボモーター22は、図示しない制御装置と電気的に接続されている。該数値制御装置は、サーボモーター22をはじめとする製造装置5全体を実質的に制御するマイクロコンピュータ等のCPUと、該CPUにより実行される制御プログラムや各種データ等の必要な固定情報を格納したROMと、該CPUによる処理の実行時におけるワークエリアとして使用されるRAMと、該数値制御装置のオペレーター用入力装置などを備えている。
【0021】
割型1Bの背面側には、図1に示すように溶融石鹸の注入装置3が配されている。注入装置3は、複数の供給路12それぞれに対応する複数(本実施形態では12個)の溶融石鹸の注入部39を備えている。複数の注入部39は、成形型1の上下方向X及び左右方向Yそれぞれに所定間隔を置いて列をなすように配されており、成形型1を構成する割型1Bにおける複数(12個)のスプール12Bの開孔部に1対1で対応している。
【0022】
複数の注入部39は、それぞれ、一端が後述する循環装置4の循環管路42に接続されている供給管30を備えている。供給管30の他端は、溶融石鹸の液溜まり部31となっており、その液溜まり部31に注入ノズル32が突設されている。ノズル32内には、該ノズル32の内形状と同形状の外形を有する押し込みプラグ33が配されている。プラグ33は、その後端に取り付けられているエアーシリンダ38によってノズル32内を進退する。プラグ33が後退することでノズル32とプラグ33との間に空隙が生じ、この空隙を通じて溶融石鹸が成形型1へ供給される。一方、プラグ33が前進するとノズル32とプラグ33とが嵌り合って、両者間には空隙が無くなり溶融石鹸の供給が停止される。つまり、プラグ33の進退によって、溶融石鹸が供給され、またその供給が遮断されるようになっている。
【0023】
供給管30における、溶融石鹸の流動方向(図1中矢印Aで示す方向)に関して注入ノズル32よりも上流側の位置には、定容量供給装置の一例であるシリンダ34及びピストン36が取り付けられている。シリンダ34は、供給管30と交差するように設けられている。シリンダ34内には、該シリンダ34を境として供給管30の上流側又は下流側とシリンダ34とを択一的に連通させる切り替え用のロータリーバルブ35が配されている。これと共にシリンダ34内には、該シリンダ内を進退可能になっているピストン36が配されている。そして、シリンダ34とピストン36とによって、溶融石鹸の定容量供給装置が構成されている。ピストン36の進退は、その後端に取り付けられているサーボモーター37によって精密に制御されている。ピストン36が後退することで、シリンダ34内には、溶融石鹸を収容するための空間が形成される。この空間に溶融石鹸が充填されたのち、ピストン36を押し込むことで、成形型1のキャビティ10へ溶融石鹸が加圧下に充填される。キャビティ10への溶融石鹸の供給体積は、ピストン36の後退距離又は押し込み距離によって決定される。具体的には、1)後退前のピストン36の位置を原点としてピストン36の後退距離で供給体積を決定する方法、又は2)後退後のピストン36の位置を原点としてピストン36の押し込み距離で供給体積を決定する方法がある。計量される溶融石鹸が気泡入りである場合、これは圧縮性の流体であるので、前記1)の方法において、ピストン36の原点の位置でシリンダ34内に溶融石鹸ができるだけ残らないように原点を決めることが、製品重量の精度を高める点から好ましい。
【0024】
複数の注入部39は、ベースプレート60から立設された枠体61に取り付けられている。ベースプレート60は、台座62上に摺動自在に配されたスライダー63の上に載置固定されている。スライダー63は、台座62上に載置されたサーボモーター64に送りねじ65を介して接続されており、サーボモーター64の動作によって台座62上を摺動する。これによって、複数の注入部39が、金型ユニット2に取り付けられた成形型1に対して接離可能になっている。
【0025】
溶融石鹸の循環装置4は、図4に示すように、貯蔵タンク41、該貯蔵タンク41に接続され且つ該貯蔵タンク41内を経由するループを形成する循環管路42、該循環管路42の途中に介在された循環ポンプ43を備えている。また貯蔵タンク41には、発泡部(図示せず)において発泡された溶融石鹸の供給管路44が接続されている。更に貯蔵タンク41内には撹拌翼45が設置されている。撹拌翼45はモータ46によって所定方向に回転する。循環管路42には、上述した溶融石鹸の複数の注入部39が、循環管路42と開閉可能に連通するように接続されている。尚、図4では、各注入部39が循環管路42に直列に接続されているように記載されているが、両者の接続は必ずしもこのようになっているわけではない。貯蔵タンク41及び循環管路42を含む循環装置4並びに注入部39には、何れも温水及びヒータなどの保温装置が取り付けられており、所定温度に保たれている。
【0026】
以上の構成を有する製造装置5を用いた気泡入り石鹸の製造方法について説明する。先ず循環装置4による溶融石鹸の循環について図4を参照しながら説明すると、図示しない発泡部において発泡されて、無数の気泡が分散含有されている溶融石鹸は、供給管路44を通じて貯蔵タンク41内に貯えられる。貯蔵タンク41内において溶融石鹸は、撹拌翼45によって撹拌されて、気泡の分散状態が均一に保たれる。溶融石鹸の一部は、循環ポンプ43によって循環管路42内に送り込まれる。その結果、貯蔵タンク41内に貯えられている溶融石鹸は、貯蔵タンク41を経由して循環管路42内を循環する。この循環によって、たとえ何らかのトラブルが発生して気泡入り石鹸製造の作業が停止しても、溶融石鹸が配管系内で停滞することがなくなり、溶融石鹸に剪断力が常に加わった状態が維持され、気泡と液体分とが分離状態となることが防止される。特に、本実施態様においては、溶融石鹸を循環させることで剪断力を加えるので、例えば溶融石鹸の流速を制御して溶融石鹸に剪断力を加える時間を制御できるという利点がある。つまり気泡を含む溶融石鹸のような保存安定性の低い圧縮性流体に長時間剪断力を加え続けることで気泡の状態を保持させることができる。一方、剪断力を加えないと、気泡の合一や気液の分離が起こることが避けられない。このように、溶融石鹸を循環させる場合に、剪断力を加える時間を制御することで、溶融石鹸に効果的に剪断力を加えることができ、その結果、貯蔵タンク41内の気泡入り石鹸における気泡の分散状態を良好にすることができ、且つその良好な状態を長時間保つことができる。貯蔵タンク41における撹拌翼45による撹拌によっても、気泡と液体分との分離はある程度防止できるが十分とはいえない。撹拌翼45によって気液分離や気泡の合一が発生しないように溶融石鹸を撹拌すると、溶融石鹸が気泡を巻き込みその比重が変動してしまう。従って、貯蔵タンク41内では気泡を混入させない緩やかな撹拌を行い、気泡と液体分との分離防止は、循環管路42内の循環によって行うことが好ましい。
【0027】
無数の気泡を分散含有する溶融石鹸の調製方法としては、例えば本出願人の先に出願に係る特開平11−43699号公報の第2欄15行〜第5欄1行に記載されている方法を用いることができる。溶融石鹸の発泡には各種気体を用いることができる。特に、不活性気体、とりわけ窒素ガス等の非酸化性の不活性ガスを用いることで、溶融石鹸の加熱に起因して、その配合成分が酸化分解することで発生する異臭等を効果的に防止することができる。発泡に不活性気体を用いることは、気泡入り石鹸の配合成分として、酸化分解し易い香料成分が配合されている場合に特に有効である。
【0028】
成形開始前に、金型ユニット2のサーボモーター22を動作させて送りねじ23を押し出して、図5に示すように割型1Aと割型1Bとを型閉する。両割型には、前述した冷却水の循環路に水を循環させておく。また、成形型1における割型1Bの背面側に注入装置3を配置し、該注入装置3のサーボモーター64を動作させてスライダー63を摺動させて、図5に示すように複数の注入部39それぞれにおける注入ノズル32の先端と、割型1Bにおける複数のスプール12Bそれぞれの開孔部とを1対1で接続する。
【0029】
図5に示す状態においては、各注入部39におけるシリンダ34と循環管路42との連通が、ロータリーバルブ35によって遮断されている。シリンダ34内に配されているピストン36は所定の位置に留まっている。またこの状態においては、図6に示すように、各注入部39における押し込みプラグ33はノズル32内に完全に挿入されており、溶融石鹸が供給されないようになっている。
【0030】
この状態下に、循環管路42を循環する溶融石鹸は、その一部が、各注入部39へ送り込まれる。溶融石鹸を各注入部39へ送り込むには、ロータリーバルブ35を所定角度回転させてシリンダ34と循環管路42とを連通させる。これと共にサーボモーター37を作動させてピストン36を後退させる。これによってシリンダ34内に空間が形成され、その空間内に溶融石鹸が流入する。ピストン36の後退は、所定量の溶融石鹸がシリンダ34内に充填されるまで続けられる。
【0031】
所定量の溶融石鹸がシリンダ34内に充填されたら、サーボモーター37の作動を停止し、ピストン36の後退を停止する。次に、ロータリーバルブ35を所定角度反転させてシリンダ34と循環管路42との連通を遮断し且つシリンダ34とノズル32とを連通させる。引き続き、エアーシリンダ38を作動させてノズル32内からプラグ33を引き抜き、両者間に空隙を形成する。この状態を図7に示す。これによって、シリンダ34、供給管30、液溜まり部31及びノズル32並びにスプール12B、ランナー12A及びキャビティ10からなる溶融石鹸の供給路が形成される。この状態下にサーボモーター37を作動させてシリンダ34内のピストン36を押し込む。これによって、シリンダ34内に充填されていた溶融石鹸が前記供給路を通じて成形型1のキャビティ10に加圧注入される。溶融石鹸の供給量がピストン34のストローク量で決定されることは前述の通りであるが、そのストローク量はサーボモーター37によって精密に制御される。このような溶融石鹸の注入操作は、複数のキャビティ10それぞれにおいて略同時になされる。各キャビティ10に溶融石鹸が満たされるにつれて、キャビティ10の空気は前記エアベント(図示せず)から外部に排出され、溶融石鹸に置換されていく。成形型1において、溶融石鹸は供給路12(ランナー12A及びスプール12B)を通じてキャビティ10の下部から上方へ向かって充填されるため、溶融石鹸の脱泡がより確実に行われる。
【0032】
本実施態様においては、図8に示すように、溶融石鹸はキャビティ10のみならずこれに通ずる供給路12(ランナー12A及びスプール12B)にも充填される。最終的に製品とされるのはキャビティ10に充填された溶融石鹸のみであるが、このように溶融石鹸の注入量をキャビティ10の容積よりも多くして供給路12内にも溶融石鹸を充填することにより、その固化に際しての収縮やひけの発生が防止されると共に、特許文献1及び2に記載の如きゲートピン方式の製造方法において問題になっていた、石鹸の歪みや汚れの発生が防止され、高品質の石鹸が得られるようになる。
【0033】
各キャビティ10及び各供給路12への所定量の溶融石鹸の注入が完了したら、再び各注入部39における押し込みプラグ33をノズル32内に完全に挿入する(図6参照)。そして、この状態下に成形型1内の溶融石鹸を冷却固化させる。上述した通り割型1A,1Bは冷却水の循環によって所定温度に冷却されており、これによって各キャビティ10及び各供給路12内の溶融石鹸の冷却固化が促進される。
【0034】
各キャビティ10に充填された溶融石鹸にかかる圧力は特に制限されないが、好ましくは0.2MPa以下である。前記圧力は、例えばキャビティ10に公知の圧力センサーを設けることで測定される。一般に、前記圧力が高くなると、溶融石鹸の固化速度が速まるため生産性は向上するが、溶融石鹸の固化に際して収縮やひけが発生し、所望の形状が得られなくなる場合がある。また、製造する石鹸の種類によっては前記圧力が低い方が好ましい場合があり、例えば本実施態様のように気泡入りの石鹸を製造する場合には、冷却固化後の成形型の型開時における石鹸の爆発の回避等の観点から、前記圧力を前記範囲に調整することが好ましい。
【0035】
溶融石鹸が固化したら、図9に示すように、金型ユニット2を後退(図9中、右側に移動)させ、注入装置3を割型1Bから取り外すと共に、サーボモーター22を動作させて送りねじ23を引き込み、両割型1A,1Bを型開する。このとき、割型1Aのキャビティ形成面11A及び前記ランナー形成面に形成されているスリット13(図3参照)を通じて吸引を行う。これと共に割型1Bのキャビティ形成面11Bに形成されているスリット13を通じて該キャビティ形成面11Bから固形石鹸Sに向けて空気を吹き付け、該キャビティ形成面11Bからの固形石鹸Sの離型を促進させる。これらの操作によって、各固形石鹸Sを割型1Aのキャビティ形成面11A及び前記ランナー形成面に保持させる。
【0036】
尚、溶融石鹸の冷却固化後に成形型を型開する時期に特に制限はないが、石鹸の内部までが固化してから型開するよりも、もっと早い段階、例えば石鹸の表層部は固化しているが内部は未固化の状態で型開する方が、石鹸は確実に割型1A側に保持される。
【0037】
引き続き、割型1Aに保持されている各固形石鹸Sを所定の把持手段(図示せず)によって取り出す。このとき、割型1Aに形成されているスリット13を通じてキャビティ形成面11A及び前記ランナー形成面から固形石鹸Sに向けて空気を吹き付け、割型1Aからの固形石鹸Sの離型を促進させる。こうして、固形石鹸Sが複数(本実施態様では12個)同時に得られる。その後、割型1Aと割型1Bとを型閉して図5に示す状態に復帰させ、これまでに述べた操作を繰り返す。
【0038】
このようにして成形型1から取り出された固形石鹸Sは、図10に示すように、キャビティ10内で溶融石鹸が固化された部分S1と、供給路12(ランナー12A及びスプール12B)内で溶融石鹸が固化された部分S2とを含んでいる。これに対し、特許文献1及び2に記載の如きゲートピン方式の製造方法においては、溶融石鹸の冷却固化を開始する時点で既に供給路(ゲート)内の溶融石鹸はゲートピンによってキャビティ内に押し出されているため、成形型から取り出される固形石鹸は部分S1のみからなり、部分S2を含んでいない。このようなゲートピン方式で得られる石鹸は、上述したゲートピンによる残存溶融石鹸の押し出し操作に起因して、ゲート(ランナー)の周辺に位置していた部位に、歪みやゲート内面の磨耗等による汚れが発生しやすいという問題がある。本実施態様においては、成形型1から取り出される固形石鹸Sに部分S2を具備させることで、ゲートピン方式におけるこのような問題を解消している。
【0039】
成形型1から固形石鹸Sを取り出した後、その部分S1と部分S2との境界部を所定の切断手段(図示せず)によって切断し、部分S1を最終製品とする。部分S2は回収して新たな石鹸の製造に利用することができる。
【0040】
本実施形態の石鹸の製造装置5によれば、ひけや歪みや汚れが少なく均質に成形された高品質の気泡入り石鹸を、効率良く低コストで製造することができる。また、本実施形態の製造装置5は、従来の製造装置では必須とされていたゲートピンやその摺動装置を具備していないため、一度に多数個の石鹸を製造可能なものでありながら比較的コンパクトであり、設置スペースを確保しやすい。
【0041】
気泡入りの石鹸を構成する配合成分としては、例えば、脂肪酸石鹸、非イオン系界面活性剤、無機塩、ポリオール類、非石鹸系のアニオン界面活性剤、遊離脂肪酸、香料、水等が挙げられる。更に、抗菌剤、顔料、染料、油剤、植物エキス等の添加物を必要に応じて適宜配合してもよい。
【0042】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、成形型1における複数のキャビティ10の数及び配列は前記実施形態に制限されず、適宜設定することができる。また、前記実施形態では固形石鹸の一方の割型への吸引や空気の吹き出し用にスリット13を形成していたが、このようなスリットは形成しなくても良く、またスリット13に代えて、あるいはスリット13と共に、前記キャビティ形成面及び前記ランナー形成面に微小孔を形成しても良い。
【0043】
また、固形石鹸Sを一方の割型1Aにより確実に保持させるために、割型1Aにおけるキャビティ形成面11Aの表面積を、割型1Bにおけるキャビティ形成面11Bの表面積よりも大きくしても良い。両者の表面積に差を設ける方法としては、例えば両者で表面粗さを異ならせる方法が挙げられる。
【0044】
また、前記実施形態は気泡入り石鹸の製造方法に係るものであったが、本発明はこれ以外の石鹸の製造にも同様に適用できることは言うまでもない。尤も、本発明は、気泡入り石鹸の製造に特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、本発明の石鹸の製造装置の一実施形態における成形型、金型ユニット及び注入装置を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示す製造装置における成形型の型開状態を模式的に示す斜視図である。
【図3】図3は、図2に示す成形型の割型を組み付けた状態で模式的に示す側面図である。
【図4】図4は、図1に示す製造装置における溶融石鹸の循環装置を示す模式図である。
【図5】図5は、図1に示す製造装置の成形開始時の状態を示す模式図である。
【図6】図6は、図5の要部拡大図である。
【図7】図7は、成形型の内部に溶融石鹸を注入する状態を模式的に示す図6相当図である。
【図8】図8は、図1に示す製造装置において成形型の内部への溶融石鹸の充填が完了した状態を示す模式図である。
【図9】図9は、図1に示す製造装置において成形型を型開した状態を示す模式図である。
【図10】図10は、図1に示す製造装置を用いて製造された石鹸を模式的に示す側面図である。
【図11】図11は、従来の石鹸の製造装置の要部を示す模式図である。
【符号の説明】
【0046】
1 成形型
1A,1B 割型
2 金型ユニット
3 注入装置
4 循環装置
5 製造装置
10 キャビティ
12 供給路
12A ランナー
12B スプール
13 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一組の割型が組み付けられて内部に成形用のキャビティが複数形成される石鹸の成形型であって、
前記一組の割型を組み付けた状態において、複数の前記キャビティが前記成形型の上下方向に所定間隔を置いて列をなすように配されており、且つ複数の該キャビティそれぞれの下部に該キャビティに通ずる溶融石鹸の供給路が配され、該溶融石鹸が該供給路を通じて該キャビティの該下部から上方へ向かって充填されるようになしてあり、
前記供給路が、前記キャビティの前記下部から下方に延びるランナーと、該ランナーと直交し且つ前記一組の割型を組み付けるときの組み付け方向に延びるスプールとを有している石鹸の成形型。
【請求項2】
前記一組の割型を組み付けた状態において、複数の前記キャビティが前記上下方向及び該上下方向と直交する左右方向それぞれに所定間隔を置いて列をなすように配されている請求項1記載の石鹸の成形型。
【請求項3】
前記ランナーが形成されている割型をそのパーティング面と反対側に位置する背面から見たときに、該ランナーに対応する部位に、該背面から該ランナーに達する微細幅のスリット及び/又は微小孔が形成されている請求項1又は2記載の石鹸の成形型。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の成形型と、該成形型の前記キャビティに溶融石鹸を注入する注入装置とを備えている石鹸の製造装置。
【請求項5】
前記注入装置が、複数の前記供給路それぞれに対応する複数の溶融石鹸の注入部を備えており、複数の該注入部が、前記成形型の上下方向に所定間隔を置いて列をなすように配されている請求項4記載の石鹸の製造装置。
【請求項6】
請求項1〜3の何れかに記載の成形型を用いた石鹸の製造方法であって、
複数の前記キャビティそれぞれに前記供給路を通じて溶融石鹸を充填して固化させる工程を備え、該キャビティに充填された溶融石鹸にかかる圧力が0.2MPa以下である石鹸の製造方法。
【請求項7】
前記溶融石鹸を固化させて固形石鹸とした後、前記成形型を型開して該固形石鹸を取り出す工程を備え、該成形型から取り出される固形石鹸が、前記供給路内で該溶融石鹸が固化された部分を含んでいる請求項6記載の石鹸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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