説明

研削モニタ装置

【課題】研削状態の把握や研削時のトラブルシューティングを作業経験や知識を必要とせずにできるようにする。
【解決手段】研削装置のワーク寸法を描画用データに変換し、砥石駆動モータの電流を描画用データに変換する。さらに、前記研削装置の砥石テーブルの移動量を描画用データに変換して、その変換した描画データを、ワークの測定寸法と砥石駆動モータの電流及び砥石テーブルの移動量をY軸とし、X軸を時間軸としてディスプレイの同一画面上に折れ線グラフ80、81、82として順次プロットする。こうすることで、そのグラフ80、81、82の変化を見れば、作業経験や知識が無くとも研削状態の把握や異常研削時のトラブルシューティングができるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
研削加工の生産技術の向上や設備開発に役立つ研削モニタ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
研削加工を行なう研削盤などの研削装置では、PLC(プログラマブルコントローラ)によるシーケンス制御が用いられている。このような研削装置では、例えば、加工中のワーク寸法をインプロセスゲージ(ゲージディテクタ)で検出し、その検出値に基づいて、PLCが研削砥石の切り込み送りを制御するようにしている。
【0003】
ところで、このようなシーケンス制御では、インプロセスゲージによるワーク寸法の検出から実際に砥石の切り込み送りが切り換わるまでにタイムラグを起こしてしまう。しかも、その際、ワークの寸法生成速度は、砥石の切れ味などによって変動するため、加工進行寸法にもバラツキを生じてしまう。そのため、研削状態の把握や異常研削時のトラブルシューティングには、作業者に充分な作業経験や知識が必要であるという問題がある。
【0004】
この問題を解決する一つの方法として、例えば、(特許文献1)に示すようなロギング装置を使用することが考えられる。このロギング装置は、図5に示すように、PLCバスインターフェース1、入力制御部2、トリガ検知部3、記録条件設定部4、データ編集部5、一次ファイル記億部6、ログファイル記録部7、ログ転送部8及びログ加工表示部9とで構成されており、PLCバスインターフェース1は、PLC内部のCPUバスやI/Oバスと接続してバススヌープ(監視)を行なう。こうすることで、CPUバスからPLCのCPUユニット上の時計データを取得する。また、I/Oバスから、ロギング対象のPLCのI/O接点データを収集して、入力制御部2の指示に従って一次ファイル記憶部6に転送し格納したのち、ディスプレイ10に表示する。したがって、このデータを解析すれば、少なくとも研削状態の把握や異常研削時のトラブルシューティングができると考えられる。
【0005】
【特許文献1】特開2000−235412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のロギング装置では、収集するデータがCPUユニットの時計データとPLCのI/O接点データなので、このような接点の「オン・オフ」データがディスプレイに表示されても研削装置やPLCのプログラムに精通していないと、表示された「オン・オフ」のデータから研削状態を把握したり、異常研削時のトラブルシューティングをしたりするのは難しい問題がある。
【0007】
そこで、この発明の課題は、作業経験や知識を必要とせず、しかも研削装置やPLCに精通していなくても、研削状態の把握や異常研削時のトラブルシューティングができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、この発明では、研削装置のワーク寸法を描画用データに変換して、前記研削装置の砥石駆動モータの電流を描画用データに変換し、さらに、前記研削装置の砥石テーブルの移動量を描画用データに変換し、その変換した描画データを、ワークの測定寸法と砥石駆動モータの電流及び砥石テーブルの移動量をY軸とし、X軸を時間軸としてディスプレイの同一画面上に折れ線グラフとして順次プロットするという構成を採用したのである。
【0009】
このような構成を採用することにより、研削テーブル、ゲージ、動力の検出出力がリアルタイムで、しかも、同時に、同じ画面上に、折れ線グラフで順次連続して表示されるので、そのグラフの変化を見れば、作業経験や知識が無くとも、また、研削装置やPLCに精通していなくても、容易に装置の状態を把握したり、異常研削時のトラブルシューティングをしたりすることができる。
【0010】
このとき、処理手段をPLC(プログラマブルコントローラ)とし、ディスプレイを前記PLCと通信インターフェースで接続されたタッチパネルディスプレイとした構成を採用することができる。
【0011】
このような構成を採用することにより、操作や設定用のタッチパネルディスプレイを使用して、研削テーブル、ゲージ、動力の検出出力がリアルタイムで、しかも、同時に同じ画面上に順次連続してグラフ表示させることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、以上のように構成したことにより、作業経験や知識を必要とせず、しかも研削装置やPLCに精通していなくても、研削状態の把握や異常研削時のトラブルシューティングができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
この形態は、図1に示すように、研削装置20、PLC(プログラマブルコントローラ)21及びタッチパルネディスプレイ22とで構成されており、研削設備の1つの制御ユニットを示すものである。すなわち、本来は、主制御盤に配置されたPLC21によって、複数の研削装置20を制御するのであるが、理解を容易にするため、ここでは1ユニットについて述べる。
【0015】
研削装置20は、砥石23と砥石駆動モータ24を載置した砥石テーブル25をステージ26上に設け、そのステージ26上の砥石テーブル25を切り込み送り駆動部27で移動させる構成となっている。そのため、切り込み送り駆動部27は駆動用モータを備えており、駆動用モータにロータリーエンコーダ28を取付けて、移動位置を検出できるようにしてある。また、砥石23で外径研削されているワーク30には、ゲージディテクタ(インプロセスゲージ)31を取付けて、研削中のワーク30の寸法を検出できるようにしてある。さらに、砥石駆動モータ24に電流トランス(CT)32を取付けて、モータ電流を検出できるようにしてある。このゲージディテクタ31、電流トランス32、ロータリーエンコーダ28の各センサ出力は、増幅器などを介し(ロータリーエンコーダ28の場合は、後述のモーションコントロール50を介し)、PLC21と接続して入力するようにしてある。
【0016】
PLC21は、図2のように、マイクロコンピュータ(例えば、ワンチップマイコンなど)40やメモリ41を備えたもので、入力回路42と接続したセンサやスイッチなどからの信号に基づき、予め設定されたプログラムを実行して出力回路43に接続されたモータやアクチュエータのオン・オフを制御する。この形態では、PLC21は、出力回路43を介して砥石駆動モータ24と接続し、前記モータ24を直接制御する。一方、PLC21は、切り込み送り駆動部27とモーションコントロール50を介して接続し、モーションコントロール50とPLCとをフィールドバスで接続してある。そのため、PLC21のマイクロコンピュータからモーションコントロール50へダイレクトに位置コマンドを送信できるようにしてある。
【0017】
モーションコントロール50は、図1に示すように、モーションコントローラ51、モーションドライバ52、モーションデバイス(切り込み送り駆動部27)で構成され、モーションコントローラ51に、前記切り込み送り駆動部27のロータリーエンコーダ28の検出出力を入力してある。そのため、この検出出力が入力されたモーションコントローラ51では、ロータリーエンコーダ28の検出出力と、前記PLC21からの位置コマンドとの偏差がゼロとなるようにモーションドライバを制御して切り込み送り駆動部27の駆動用モータ(モーションデバイス)を制御(サーボ制御)する。また、このとき、モーションコントロール51は、ロータリーエンコーダ28の検出出力から算出した座標データ(例えば、偏差を算出するのに使用したもの)を、逐次PLC21へ送信する。
【0018】
タッチパネルディスプレイ22は、透明なシート状のセンサを表示画面に取り付け、その透明シートのセンサを介して画面に表示されたボタンなどにタッチすることで、表示だけではなくて制御盤のPLC21を操作するための入力デバイスとして使用するものである。そのため、タッチパネルディスプレイ22は、主制御盤の操作盤に設置して、PLC21と高速なバス通信で接続してある。
【0019】
また、前記タッチパネルディスプレイ22は、画像処理用のグラフィクチップ、マイクロコンピュータ、メモリなどを備えており、パソコン60とのデータの送受を行なうための通信インターフェースも備えている。そして、その通信インターフェースを介してパソコン60と接続することにより、パソコン60上のソフトでタッチパネルディスプレイ22に表示するデータの作成や変更ができるようになっている。さらに、このタッチパネルディスプレイ22は、複数の画面(ページ)を登録できるようになっているため、用途に応じた画面を準備して切り換えて使用できるようになっている。さらに、また、このタッチパネルディスプレイ22には、メモリカードスロット61が設けられており、前記スロット61に挿入したメモリカード(CFカード、SDカードなど)を介してデータの授受ができるようになっている。
【0020】
この形態は、上記のように構成されており、タッチパネルディスプレイ22の表示画面を、図3のように設計した。すなわち、表示画面は、パソコン60上でソフトウェアを使用して作成した。具体的には、図3のように、ワーク30の測定寸法と砥石駆動モータ24の電流及び砥石テーブル25の移動量をY軸とし、経過時間をX軸とした。このX軸とY軸で囲まれた描画エリアに各センサ28、31、32の描画データを順次プロットして折れ線グラフを表示するようにしてある。
【0021】
一方、X軸とY軸で囲まれた描画エリアの外側には、スケール(目盛)70を設け、スイッチ71と表示窓72を配置してある。スケール70は、切り込み位置、ゲージ寸法、研削電力の目盛と時間スケールである。また、スイッチ71は、動力(10KW、5.5KW、2.5KW)の3タイプに合わせてY軸のスケールを切り換えるためのものと、グラフ表示を高速、低速に切り換えてX軸のスケールを変更できるようにしたもの及びメインメニューを選択してページ(画面)を切り換えるためのものを設けている。また、表示窓72は、荒削りから仕上げまでの経過時間を表示するものと、各センサ28、31、32による切り込み量、ゲージ寸法、使用動力量などのリアルタイムの測定値をデジタル表示するものなどを設けている。
【0022】
このような表示画面で研削加工を開始すると、各センサ28、31、32からの検出値が、図4に示すようなフローに基づいてPLC21へ入力し、入力した検出値はPLC21で描画データに変換され、タッチパネルディスプレイ22へ送信される。
【0023】
無論、それまでに、パソコン60からタッチパネルディスプレイ22へ表示データを送信して画面表示ができるようにしておく必要がある。また、研削装置20へシーケンス制御するためのラダープログラムやモーションコントロール50を制御するためのプログラムも転送しておく必要がある。準備ができるとワーク30を装着して研削加工を開始する。
【0024】
すなわち、図4に示すように、ゲージディテクタ31がワーク30の寸法を検出すると(処理100:以下「処理」省略)、検出した出力はプリアンプ及びアナログ出力ユニット(図示はしていないがPLC21内に設けてある)で増幅し(110)、PLC21のA/D変換器(マイクロコンピュータ)でデジタル信号に変換したのち(120)、PLC21でタッチパネルディスプレイ22の表示データ用の描画データに変換する(130)。ここで、A/D変換器のサンプリング周期を、例えば、表示間隔に合わせれば、サンプリングしたデータを、PLC21がグラフィックメモリのアドレスを1スパン分シフトして書き込むと(140)、オンゲージの折れ線グラフ80の最新データとして更新した点として画面にプロットし、表示させることができる。
【0025】
砥石駆動モータ24に設けた研磨動力測定用の電流トランス32の検出出力も先のゲージディテクタ31の場合と同様に、電流トランス32が砥石駆動モータ24の電流を検出すると(200)、プリアンプ及びアナログ出力ユニットで増幅し(210)、PLC21のA/D変換器(マイクロコンピュータ)でデジタル信号に変換して(120)、PLC21でタッチパネルディスプレイ22の表示データに合わせた描画データに変換する(130)。そして、PLC21でグラフィックメモリのアドレスを1スパン分シフトして書き込むと(140)、研削電力の折れ線グラフ81の最新のデータとして更新した点を画面にプロットし、表示させることができる。
【0026】
このとき、切り込み送り駆動部27のロータリーエンコーダ28が砥石テーブル25の移動によってエンコード出力を出力すると(300)、モーションコントロール50が、座標データを算出する(310)。このエンコード出力は、インクリメンタル型の場合、例えば、2相パルスの位相差をプログラム処理から検出し、基準点からの出力をカウンタなどで加減算することにより移動量を算出できるので、移動量から座標データを算出できる。算出した座標データはPLC21へ出力する。PLC21では、グラフィックメモリのアドレスを1スパン分シフトして書き込むと(140)、切り込み位置の折れ線グラフ82の最新のデータとして更新した点を画面にプロットし、表示させることができる。
【0027】
また、この画面全体は、図1のように、例えば、SDメモリやコンパクトフラッシュメモリなどの固体メモリ62をスロット61に挿入してビットマップ形式などで定期的に保存する。
【0028】
このように、表示された切り込み位置、ゲージ寸法、研削電力の3本の折れ線グラフ80〜82は、同じ時間軸でプロットした時系列グラフで表示しているので、例えば、異常がなければ、各グラフ80〜82の変化量や変化スピードは決まった動きをする筈である。そのため、その傾向を見るだけで正常に作動していることが理解できる。また、トラブルが発生した場合は、トラブルに関連するグラフ80〜82が特異な動きをする筈なので、トラブルシューティングができる。
【0029】
すなわち、研削装置20の「切り込み位置」、「ゲージ寸法」、「研削電力」の3つの主要な特性を、連続した折れ線グラフ80〜82として表示させることで、それらの変化量や変化スピードなどをリアルタイムで視認することができる。そのため、その視認に基づいて研削状態を容易に把握することができる。その結果、経験や感に頼らずに研削状態を容易に、かつ、確実に把握できる。また、同様に、異常研削も視覚的に理解できる。そのため、トラブルシューティングも容易にできる。
【0030】
したがって、タッチパネルディスプレイ22に「切り込み位置」、「ゲージ寸法」、「研削電力」の3つの要素を連続した折れ線グラフ80〜82として表示させたことにより、作業者が設備の状態を知るのに専用の測定器を用いる必要が無く、簡単に設備の研削状態が分かる。また、砥石テーブルの移動量、ゲージ寸法、動力特性が同時に、リアルタイムで表示と記録ができるため、例えば、研削条件変更時の調整やメンテナンス後の研削状態の確認あるいは機械間の状態比較などを簡単に行なうことができ、研削加工の生産技術の向上や設備開発に役立てることができる。
【0031】
さらに、これらを有効に活用することにより、設備の知識や作業経験が少ない作業者でも簡単に設備の状態を把握できる。また、不具合の発生直後の状態を知ることで、トラブルシューティングが短時間でできるようになる。加えて、表示画面を電子ファイルとして取り込むことで、遠隔地にある専門の部署などでの分析や状態の把握などもスピーディに行なえる。
【0032】
なお、この形態では、タッチパネルディスプレイ22の表示は、Y軸(動力)のフルスケールを3段階に変化させられるようしたが、このようにすれば、複数の研削装置に同じ画面を用いることもできる。また、X軸の時間軸も2段階に変化させられるようにしたことで、複数の隣り合った研削結果を表示できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施形態のブロック図
【図2】実施形態のブロック図
【図3】実施形態の表示画面の正面図
【図4】実施形態のフロー図
【図5】従来例のブロック図
【符号の説明】
【0034】
20 研削装置
21 PLC
22 タッチパネルディスプレイ
23 砥石
24 砥石駆動モータ
25 砥石テーブル
27 切り込み送り駆動部
28 ロータリーエンコーダ
30 ワーク
31 ゲージディテクタ
32 電流トランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削装置のワーク寸法をゲージディテクタで検出し、その検出出力をA/D変換器を介し処理手段へ入力して、描画用データに変換し、
一方、前記研削装置の砥石駆動モータの電流を電流検出手段で検出し、その検出出力をA/D変換器を介し処理手段へ入力して描画用データに変換し、
さらに、前記研削装置の砥石テーブルの移動量を位置検出用エンコーダで検出し、そのエンコーダ出力を処理手段へ入力して描画用データに変換し、かつ、前記処理手段で変換した描画データを、ワークの測定寸法と砥石駆動モータの電流及び砥石テーブルの移動量をY軸とし、X軸を時間軸としてディスプレイの同一画面上に折れ線グラフとして順次プロットする研削モニタ装置。
【請求項2】
上記処理手段をPLC(プログラマブルコントローラ)とし、ディスプレイを前記PLCと通信インターフェースで接続されたタッチパネルディスプレイとした請求項1に記載の研削モニタ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−44074(P2008−44074A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222617(P2006−222617)
【出願日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.コンパクトフラッシュ
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】