説明

研磨パッド

【課題】仕上げ加工用として長寿命化を図り、被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供する。
【解決手段】研磨パッド10は、湿式成膜法によりポリウレタン樹脂で形成されたウレタンシート2を有している。ウレタンシート2には、研磨面P側の表面に、緻密な微小気泡6が形成された表面層4が2.0μm以上にわたり形成されている。表面層4より厚さ方向の内側に連続して配された多孔層7では微小気泡6より大きい気泡径のセル3が厚さ方向と交差する方向に連続状に形成されている。ウレタンシート2の研磨面Pの反対側に両面テープ5bが張り合わされている。研磨加工時に表面層4の2.0μm以上の厚さ分で摩耗が許容される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドに係り、特に、湿式成膜法により作製され被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する樹脂シートを備えた研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ、平行平面板、反射ミラー等の光学材料、ハードディスク用基板、シリコンウエハ、液晶ディスプレイ用ガラス基板等の材料(被研磨物)では、高精度に平坦性が要求されるため、研磨パッドを使用した研磨加工が行われている。このような被研磨物の研磨加工では、平坦性の向上を図るために一度研磨加工(一次研磨)した後に仕上げ加工(二次研磨)が広く行われている。研磨加工時には、被研磨物および研磨パッド間に研磨粒子を含む研磨液が供給される。
【0003】
一般に、軟質研磨パッドには、湿式成膜法で形成されたポリウレタン樹脂製の樹脂シートが使用されている。湿式成膜法では、樹脂を水混和性の有機溶媒に溶解させた樹脂溶液をシート状の成膜基材に塗布後、水系凝固液中で樹脂を凝固再生させる。製造された樹脂シートの表面には緻密な微小気泡が形成された厚さ0.5μm程度の表面層が形成されている。表面層では緻密に形成された微小気泡が形成されているため、表面層の表面はミクロな平坦性を有している。このため、表面層側が被研磨物の仕上げ加工に好適に使用されている。
【0004】
ところが、湿式成膜法では、樹脂溶液が粘性を有するため、成膜基材への塗布時に厚みバラツキが生じると共に、凝固再生時の有機溶媒と水系凝固液との置換により厚みバラツキが生じやすい。このため、樹脂シート自体の表面のマクロな平坦性が損なわれ大きく波打った表面となる。厚みバラツキが生じた樹脂シートを使用した研磨パッドで被研磨物の研磨加工を行うと、樹脂シートの厚みの大きな部分で被研磨物にかかる圧力が大きくなるため、当該部分の加工面が大きく研磨されて平坦性を損なうこととなる。更に、ミクロな平坦性を有する表面層は厚さ0.5μm程度の薄膜であるため、研磨加工により短時間で摩耗してしまう。また、凝固再生された状態の樹脂シートでは表面層の表面が平滑性も有している。このため、研磨加工時に研磨液保持性が不十分となり、研磨効率を損なうこととなる。従って、被研磨物の平坦性を向上させるためには、仕上げ加工に好適な表面層のミクロな平坦性を残したまま樹脂シート自体の厚みバラツキを減少させてマクロな平坦性を向上させると共に、研磨液の保持性を改善することが重要である。
【0005】
湿式成膜法で作製された樹脂シートの厚さのバラツキを減少させてマクロな平坦性を向上させ、研磨液の保持性を向上させるため、樹脂シートの製造後に表面層に種々の加工が施されている。例えば、樹脂シートの多孔層のセルが開孔しないように表面層のミクロな平坦性を残して微細に表面バフ処理した研磨パッドが開示されている(特許文献1参照)。また、仕上げ研磨による摩擦を低減するため表面層が部分的に除去された研磨パッドが開示されている(特許文献2参照)。更に、表面層に条痕を施し多孔層のセルと外部と通気させた研磨パッドが開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−62704号公報
【特許文献2】特開2002−264006号公報
【特許文献3】特開2004−136432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の研磨パッドでは、表面バフ処理で表面層の厚さが薄くなるため、仕上げ加工中に短時間で表面層が摩耗して開孔が大きくなり、研磨パッドの表面粗さが悪化する。また、特許文献2の技術では、表面層が部分的に除去されることにより、研磨時の摩擦が低減されるものの、表面層を除去した部分の平坦性は悪化する。また、表面層が完全に取り除かれる部分があるため、仕上げ加工用としては寿命が短くなる。特許文献3の技術では、表面層に条痕を施すことで研磨液保持性を高めることができるが、元々薄膜の表面層の厚さが変わらないため、表面層の仕上げ加工用としての寿命が十分とはいえない。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、仕上げ加工用として長寿命化を図り、被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、湿式成膜法により作製され被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する樹脂シートを備えた研磨パッドにおいて、前記樹脂シートは、
前記研磨面からの厚さが2.0μm以上にわたり微小気泡が形成された表面層と、前記表面層より厚さ方向の内側に連続して配され、前記表面層に形成された微小気泡より大きな気泡径のセルが前記厚さ方向と交差する方向に連続状に形成された多孔層と、を有することを特徴とする。
【0010】
この場合において、樹脂シートを、有機溶媒に樹脂を溶解させた樹脂溶液の少なくとも表層に含まれる有機溶媒の一部が気化され、水を主成分とする凝固液中で凝固されたものとすることができる。このとき、有機溶媒の一部が50℃〜80℃の範囲の雰囲気下で気化されていてもよい。樹脂シートの厚さを0.4mm〜1.0mmの範囲としてもよい。多孔層に形成されたセルの平均気泡径は100μm〜200μmの範囲であることが好適である。また、樹脂シートをポリウレタン樹脂製とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微小気泡が形成された表面層の研磨面からの厚さが2.0μm以上にわたるため、従来表面層の厚さが0.5μm程度であったことと比べて、研磨加工に伴う摩耗の許容量が大きくなるので、表面層を仕上げ加工用として長く使用することができ、多孔層に表面層の微小気泡より大きな気泡径のセルが厚さ方向と交差する方向に連続状に形成されたことで、クッション性が発揮され被研磨物が略均等に押圧されるので、被研磨物の平坦性向上を図ることができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨パッドを模式的に示す断面図である。
【図2】実施形態の研磨パッドの製造工程の概略を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
【0014】
(構成)
図1に示すように、本実施形態の研磨パッド10は、被研磨物を研磨加工するための研磨面Pを有する樹脂シートとしてのウレタンシート2を備えている。
【0015】
ウレタンシート2は、湿式成膜法によりポリウレタン樹脂でシート状に形成されており、厚さが0.4mm〜1.0mmの範囲である。ウレタンシート2は、研磨面P側に、緻密な微小気泡6を有する表面層4が形成されており、ミクロな平坦性を有している。表面層4の厚さは2.0μm以上である。ウレタンシート2の表面層4より厚さ方向の内側には、多孔層7が連続して形成されている。多孔層7には、ウレタンシート2の厚さ方向に沿って丸みを帯びた断面三角状のセル3が略均等に分散した状態で、厚さ方向と交差する方向に連続状に形成されている。セル3は、研磨面P側の気泡径が研磨面Pと反対の面側より小さく形成されている。すなわち、セル3は研磨面P側で縮径されている。セル3の間のポリウレタン樹脂中には、図示を省略したセルが形成されている。セル3及び図示を省略したセルの平均気泡径は、微小気泡6より大きく、100μm〜200μmの範囲である。ウレタンシート2のセル3、微小気泡6及び図示を省略したセルは、不図示の連通孔で網目状に連通されている。すなわち、ウレタンシート2は、連続状のセル構造を有している。なお、図1では、説明をわかりやすくするため、微小気泡6の大きさ及び表面層4の厚さを誇張して模式的に示している。
【0016】
また、研磨パッド10は、ウレタンシート2の研磨面Pの反対面側(図1の下面側)に基材5aを有している。基材5aには、少なくともポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製フィルム等の可撓性フィルム、不織布及び織布等から選択される1種が用いられており、ウレタンシート2の製造時に成膜基材として使用されたものである。本例では、基材5aにはPET製フィルムが用いられている。基材5aの下面側(ウレタンシート2と反対側)には、研磨機に研磨パッド10を装着するための両面テープ5bが貼り合わされている。両面テープ5bの下面側(最下面側)が図示しない剥離紙で覆われている。
【0017】
(製造)
研磨パッド10は、図2に示すように、ポリウレタン樹脂を溶解させた樹脂溶液を準備する準備工程、樹脂溶液を成膜基材に連続的に塗布する塗布工程、加熱雰囲気下で有機溶媒の一部を気化させる気化工程、水系凝固液中で樹脂溶液を凝固させる凝固工程、凝固により再生したポリウレタン樹脂を洗浄・乾燥させる洗浄・乾燥工程、ポリウレタン樹脂と両面テープとを貼り合わせるラミネート加工工程を経て作製される。以下、工程順に説明する。
【0018】
準備工程では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒のN、N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)及び添加剤を混合してポリウレタン樹脂を溶解させる。ポリウレタン樹脂には、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から選択して用い、例えば、ポリウレタン樹脂が30重量%となるようにDMFに溶解させ、粘度が50〜300cPの範囲となるようにする。これは、塗布工程においてポリウレタン樹脂溶液を成膜基材に均一塗布する際に適度な流動性を必要とするためである。添加剤としては、セル3の大きさや数量(個数)を制御するため、カーボンブラック等の顔料、セルの形成を促進させる親水性活性剤及びポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。得られた溶液を減圧下で脱泡してポリウレタン樹脂溶液を得る。
【0019】
塗布工程では、準備工程で調製されたウレタン樹脂溶液が常温下でナイフコータ等の塗布装置により帯状の成膜基材に略均一に塗布される。このとき、ナイフコータと成膜基材との間隙を調整することで、ウレタン樹脂溶液の塗布厚み(塗布量)が調整される。本例では、ウレタンシート2の厚さが0.4mm〜1.0mmの範囲となるように塗布量が調整されている。成膜基材には、可撓性フィルム、不織布、織布等を用いることができる。不織布、織布を用いる場合は、ウレタン樹脂溶液の塗布時に成膜基材内部へのウレタン樹脂溶液の浸透を抑制するため、予め水またはDMF水溶液(DMFと水との混合液)等に浸漬する前処理(目止め)が行われる。成膜基材としてPET樹脂等の可撓性フィルムを用いる場合は、液体の浸透性を有していないため、前処理が不要となる。以下、本例では、成膜基材をPET製フィルムとして説明する。
【0020】
気化工程では、塗布工程で成膜基材に塗布されたポリウレタン樹脂溶液を、50℃〜80℃の加熱雰囲気下に案内し、10分〜60分間熱処理を施す。これにより、ポリウレタン樹脂溶液の表層部に含まれる有機溶媒の一部が気化される。表面層4の厚さは、気化工程での熱処理条件により決定される。換言すれば、気化工程での熱処理条件を変えることにより、被研磨物に合わせて表面層4の厚さを調整することができる。
【0021】
凝固工程では、ポリウレタン樹脂溶液が塗布された成膜基材が、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液(水系凝固液)に案内される。凝固液中では、まず、塗布されたウレタン樹脂溶液の表面側に微小気泡6を有し研磨面Pからの厚さが2.0μm以上にわたり表面層4が形成される。その後、ポリウレタン樹脂溶液中のDMFと凝固液との置換の進行によりポリウレタン樹脂が成膜基材の片面にシート状に凝固再生する。DMFがウレタン樹脂溶液から脱溶媒し、DMFと凝固液とが置換することで、表面層4より厚さ方向の内側に連続して多孔層7が形成される。すなわち、多孔層7には、微小気泡6より大きな気泡径のセル3及び図示しないセルが、厚さ方向と交差する方向に形成される。更に、セル3、微小気泡6及び図示しないセルを網目状に連通する不図示の連通孔が形成される。このとき、成膜基材のPET製フィルムが水を浸透させないため、ウレタン樹脂溶液の表面側で脱溶媒が生じて成膜基材側が表面側より大きなセル3が形成される。
【0022】
洗浄・乾燥工程では、凝固工程で凝固再生したシート状のポリウレタン樹脂が成膜基材と共に、水等の洗浄液中で洗浄されてポリウレタン樹脂中に残留するDMFが除去される。洗浄後、ポリウレタン樹脂を乾燥させることで、PET製フィルム上に形成されたウレタンシート2が得られる。すなわち、成膜基材に用いたPET製フィルムが基材5aとなる。
【0023】
ラミネート加工工程では、基材5aのウレタンシート2と反対側の面に両面テープ5bを貼り合わせる。そして、キズや汚れ、異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、研磨パッド10を完成させる。
【0024】
(作用)
次に、本実施形態の研磨パッド10の作用等について説明する。
【0025】
本実施形態の研磨パッド10を構成するウレタンシート2では、製造時の気化工程で熱処理が施されることにより成膜基材に塗布されたポリウレタン樹脂溶液の表層部分の樹脂濃度が上昇する。樹脂濃度が上昇した表層部分の厚さ分でミクロな平坦性を有する表面層4が形成される。これにより、従来表面層の厚さが0.5μm程度の薄膜であったことに比べ、表面層4が厚さ2.0μm以上にわたり形成されるため、仕上げ研磨加工に伴う摩耗の許容量が大きくなる。従って、得られる研磨パッド10では、表面層4を仕上げ加工用として長く使用することができる。
【0026】
また、本実施形態の研磨パッド10では、緻密な微小気泡6が形成された表面層4の厚さが2.0μm以上にわたり形成される。そのため、表面層4を仕上げ加工用として従来よりも長く使用できる。通常、湿式成膜法では、表面層の表面が平滑に形成されるため、研磨加工前には、研磨液保持性を改善するためにドレス処理が必要となる。従来の研磨パッドでは、このドレス処理により表面層が部分的に消失してしまうことがある。これに対して、研磨パッド10では、表面層4の厚さが大きく形成されたことで均一なドレス処理を行うことができる。
【0027】
更に、本実施形態の研磨パッド10を構成するウレタンシート2では、製造時の気化工程で、成膜基材に塗布されたポリウレタン樹脂溶液に50℃〜80℃の範囲の雰囲気下で10分〜60分間の範囲で熱処理が施される。熱処理で少なくともポリウレタン樹脂溶液の表層部に含まれるDMFの一部が気化することにより、表層部の樹脂濃度が上昇する。そのため、凝固工程で樹脂溶液内の樹脂濃度が上昇した表層側に、緻密な微小気泡6が形成される。このとき、気化工程で熱処理を施す条件を変えることにより、表面層4の厚さを被研磨物に合わせて調整することが可能である。本実施形態の研磨パッド10では、50℃〜80℃の範囲の雰囲気下で10分〜60分間の範囲で熱処理を施すことで、樹脂シートの厚さ0.4mm〜1.0mmのうち、表面層の厚さを2.0μm〜5.0μmの範囲に調整することができる。
【0028】
また更に、本実施形態の研磨パッド10では、表面層4に微小気泡6が形成されており、多孔層7に微小気泡6より大きなセル3が形成されている。すなわち、表面層4より厚さ方向の内側に連続して配された多孔層7に、平均気泡径が100μm〜200μmの範囲のセル3及び図示を省略したセルが厚さ方向と交差する方向に連続状に形成されている。そのため、研磨加工時にクッション性が発揮され被研磨物が略均等に押圧されるので、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0029】
なお、本実施形態では、樹脂シートとしてポリウレタン樹脂製のウレタンシート2を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の樹脂を使用してもよい。例えば、ポリエスエル樹脂等を使用してもよい。ポリウレタン樹脂を用いるようにすれば、湿式成膜法により連続状のセル構造を容易に形成することができる。
【0030】
更に、本実施形態では、ウレタンシート2の作製時の成膜基材をそのまま基材5aとする例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない。例えば、ポリウレタン樹脂を凝固再生させた後、成膜基材を剥離して、ポリプロピレン(PP)やポリ塩化ビニル(PVC)等の別の基材を基材5aとして貼り合わせてもよい。
【実施例】
【0031】
以下、本実施形態に従い製造した研磨パッド10の実施例について説明する。なお、比較のため製造した比較例の研磨パッドについても併記する。
【0032】
(実施例1)
実施例1では、ウレタンシート2の作製にポリウレタン樹脂として、ポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)ポリウレタン樹脂を用いた。このポリウレタン樹脂を溶解させた30重量%の溶液100部に対して、溶媒のDMFの45部、顔料としてカーボンブラックの30重量%を含むDMF分散液の40部を添加し混合してポリウレタン樹脂溶液を調製した。ポリウレタン樹脂溶液の粘度は100cPであった。得られたポリウレタン樹脂溶液を成膜基材に塗布した後、60℃の雰囲気下で20分間熱処理を施し、凝固液中でシート状のポリウレタン樹脂溶液を凝固再生させた。洗浄・乾燥させた後、両面テープ5bを貼り合わせ、実施例1の研磨パッド10を製造した。
【0033】
(比較例1)
比較例1では、凝固再生前に熱処理を施さないこと以外は実施例1と同様にして比較例1の研磨パッドを製造した。すなわち、従来の研磨パッドである。
【0034】
(比較例2)
比較例2では、凝固再生前に、90℃の雰囲気下で5分間熱処理を施し、凝固液中でシート状のポリウレタン樹脂溶液を凝固再生させた。それ以外は実施例1と同様にして比較例2の研磨パッドを製造した。
【0035】
(評価)
実施例1、比較例1及び比較例2について、湿式成膜後のウレタンシートの断面を電子顕微鏡にて観察することにより、表面層の厚さを測定した。
【0036】
(研磨加工)
また、実施例1、比較例1及び比較例2の研磨パッドを用いて、研磨機に研磨パッドを貼り付け、ドレッサーを用いて研磨パッドの表面の平坦化を行った。以下の研磨条件でアルミニウム基板の研磨加工を行い、うねりにより研磨性能を評価した。うねりの測定では、研磨加工後の被研磨物について単位面積当たりの表面像のうねり量をオングストローム(Å)単位で求めた。うねりの試験評価機としては、New View 5022(Zygo社製)を用いた。また、研磨後のアルミニウム基板について、目視でアルミニウム基板の表面に対するキズ発生の有無を外観評価した。表面層の厚さ及びうねりの評価結果を下表1に示す。
(研磨条件)
使用研磨機:スピードファム社製、9B−5Pポリッシングマシン
研磨速度(回転数):30rpm
加工圧力:90g/cm
スラリ:コロイダルシリカスラリ(平均粒子径:0.8μm)
スラリ供給量:100cc/min
被研磨物:95mmφハードディスク用アルミニウム基板
研磨時間:300秒
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すように、比較例1の研磨パッドでは、表面層の厚さが0.5μmであった。これに対して、比較例2の研磨パッドでは、表面層の厚さが20μmであり、実施例1の研磨パッド10では、表面層の厚さは3.5μmであった。比較例1の従来の研磨パッドの表面層と比較し、熱処理を施した比較例2の研磨パッドの表面層と、本発明で得られた実施例1の研磨パッド10の表面層4の厚さが大きいため、研磨加工に伴う摩耗の許容量が大きくなる。従って、凝固再生前に熱処理を施すことにより、表面層の厚さが大きくなり、表面層を仕上げ加工用として、長く使用できることが期待できる。
【0039】
また、比較例1の研磨パッドでは、研磨によるアルミニウム基板の表面でのうねりが2.2Åであった。比較例2の研磨パッドでは、研磨によるアルミニウム基板の表面でのうねりが2.8Åであった。これに対して、実施例1の研磨パッド10では、うねりが2.0Åであり、平坦性に優れるアルミニウム基板を得ることができた。これは、実施例1の研磨パッド10では、多孔層7に表面層4に形成された微小気泡6より大きな気泡径のセル3が厚さ方向と交差する方向に連続状に形成されているため、クッション性が発揮され被研磨物が略均等に押圧されるので、被研磨物の平坦性が向上したためと考えられる。
【0040】
更に、実施例1、比較例1の研磨パッドによる研磨加工では、いずれもアルミニウム基板の表面にキズは認められなかった。比較例2の研磨パッドによる研磨加工では、基板表面にキズが見られた。これは、凝固再生前の熱処理を、実施例1と比べて高い温度で短時間に行ったことから、表面層の厚さは大きくなるものの、比較例2の研磨パッドの多孔層のセルの平均孔径が50μmであり、実施例1や比較例1のセルと比較して小さく、セルが偏在しているため、クッション性に劣るためと考えられる。従って、実施例1では、うねりが改善され高い研磨性能が得られることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、仕上げ加工用として長寿命化を図り、被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供するものであるため、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0042】
2 ウレタンシート(樹脂シート)
3 セル
4 表面層
6 微小気泡
7 多孔層
10 研磨パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式成膜法により作製され被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する樹脂シートを備えた研磨パッドにおいて、前記樹脂シートは、
前記研磨面からの厚さが2.0μm以上にわたり微小気泡が形成された表面層と、
前記表面層より厚さ方向の内側に連続して配され、前記表面層に形成された微小気泡より大きな気泡径のセルが前記厚さ方向と交差する方向に連続状に形成された多孔層と、
を有することを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記樹脂シートは、有機溶媒に樹脂を溶解させた樹脂溶液の少なくとも表層に含まれる前記有機溶媒の一部が気化され、水を主成分とする凝固液中で凝固されたものであることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記樹脂シートは、前記有機溶媒の一部が50℃〜80℃の範囲の雰囲気下で気化されたことを特徴とする請求項2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記樹脂シートは、厚さが0.4mm〜1.0mmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記樹脂シートは、前記多孔層に形成されたセルの平均気泡径が100μm〜200μmの範囲であることを特徴とする請求項4に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記樹脂シートはポリウレタン樹脂製であることを特徴とする請求項5に記載の研磨パッド。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−228075(P2010−228075A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80988(P2009−80988)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】