説明

砥石加工方法及び同装置

【課題】放電加工を利用した砥石の加工(目立て)を大気圧下において安定的に、しかも簡単かつ安価な構成で実施する。
【解決手段】砥石加工装置は、テーブル10上に支持した砥石Sと本電極22との間に高周波電源30により電圧を印加してコロナ放電を発生させることにより砥石Sを加工する。この装置は、ダミー砥石Sdに対向する予備電極24と、本電極22に流れる電流の値を検出する電流計38と、予備電極24と高周波電源30との導通状態を切替えるスイッチ36と、電流計38の検出値に基づきスイッチ36を切替え制御する制御装置34とを有する。制御装置34は、電流計38の検出値がアーク放電発生レベルよりも低い所定の電流値に達すると予備電極24と高周波電源30とを導通状態とし、それまでは予備電極24と高周波電源30とを非導通状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電現象を利用して砥石を加工する方法及び同装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記のような加工装置の一例として、例えば特許文献1に砥石の目立て(ドレッシング)装置が開示されている。この装置は、メタルボンド砥石の砥石面に近接配置した電極と前記砥石面との間にコロナ放電を発生させることによりプラズマを生成し、これにより砥石面のメタルボンドの部分を溶融除去するものである。この装置では、加工中、砥石と電極との間に加圧ミスト(導電性水溶液と圧縮空気との混合体)を供給することにより砥石と電極の間の電流ルートを安定化させ、これによってコロナ放電を安定的に発生させて加工精度を高めるようにしている。
【特許文献1】特開2000−246634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
大気圧下での放電加工は作業環境(雰囲気温度、湿度、風の流れ等)の影響を受け易く、コロナ放電の電流が意図せずに増加してアーク放電に遷移し、その結果、砥石面の粒砥が除去されたり、砥石面に大きな窪みが形成される等の目立て不良を招く場合がる。この点、特許文献1の装置によると、コロナ放電を比較的安定的に発生させることが可能となるため、上記のような目立て不良の発生を回避する上で有効と考えられる。
【0004】
しかし、特許文献1の装置では、加工中、常時加圧ミストを供給する必要があるため、複雑で高価な設備が必要となり、又ランニングコストも嵩むといった課題がある。
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みて成されたものであり、放電加工を利用した砥石の加工を大気圧下において安定的に、しかも簡単かつ安価に実施し得るようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、導電性を有する砥石に対向するように放電電極を近接配置した状態で前記砥石と放電電極との間に加工電圧を印加することによりコロナ放電を発生させて前記砥石を加工する方法であって、前記砥石の加工中に前記放電電極に供給される電流値を監視しながらその電流値が予め設定された値であってアーク放電発生レベルよりも低い所定の電流値に達すると、前記コロナ放電を発生させ得る範囲内で前記加工電圧を降下させるようにしたものである。
【0007】
この方法によると、作業環境の変化等、何らかの要因で放電電極に供給される電流の値が前記所定の電流値に達すると、コロナ放電を発生させ得る範囲内で前記加工電圧を強制的に降下(低下)させるので、放電電極に供給される電流の値がアーク放電発生レベルまで上昇してしまうことがなく、従って、砥石の加工中、放電電極において生成されるコロナ放電が意図せずにアーク放電に遷移することが有効に防止される。
【0008】
より具体的には、前記放電電極を本電極としてこれとは別の予備電極を所定の被放電物に近接させて設けておき、前記本電極に供給される電流値が前記所定の電流値に達すると、前記加工電圧を印加するための電源に対して前記予備電極を前記本電極と並列に接続することにより前記予備電極から電流を放電させるようにしたものである。
【0009】
この方法によると、予備電極が電源に接続されると当該予備電極から被放電物に電流が放電され、これによって前記電源にその内部抵抗(出力インピーダンス)による電圧降下が発生し、前記加工電圧が瞬時に低下することとなる。そのため、簡単な手法で、本電極に流れる電流の値の上昇を速やかに抑えることができる。
【0010】
この場合には、被加工物である砥石に前記本電極と前記予備電極とを同時に対向させ、この砥石を前記被放電物として当該砥石に予備電極から電流を放電させるのが好適である。
【0011】
この方法によると、予備電極に流れる電流を本電極側と同様に砥石に放電させるため、本電極側および予備電極側の各通電経路の通電条件を等しくすることができ、従って、本電極側に流れる電流の値が大きく変動して本電極側で生成されるコロナ放電の安定性が損なわれるという不都合を未然に回避することができる。
【0012】
なお、上記方法においては、被加工物である砥石と同じ抵抗値を有するダミー部材を前記被放電物として当該ダミー部材に前記予備電極を対向させ、この予備電極から前記ダミー部材に電流を放電させるようにしてもよく、この場合には、前記ダミー部材として被加工物と同質の砥石を用いるのが好適である。
【0013】
このような方法によっても、理論上は本電極側および予備電極側の各通電経路の通電条件を等しくすることが可能であり、従って、上記方法と同様に、本電極側に流れる電流の値が大きく変動して本電極側で生成されるコロナ放電の安定性が損なわれるという不都合を未然に回避することができる。
【0014】
なお、予備電極を用いる上記方法においては、前記所定の電流値を上限値とすると共にこの上限値よりも低い所定の電流値を下限値として予め設定しておき、前記本電極に供給される電流値が前記上限値に達すると前記電源に対して予備電極を接続し、その後に前記電流値が下限値未満となるまで前記接続状態を保持するのが好適である。
【0015】
すなわち、アーク放電発生レベルよりも低い所定の電流値を閾値として予備電極と電源との接続状態を切替えるようにしてもよいが、この場合には、電流の値が閾値近傍で変動すると、予備電極と電源との接続状態を頻繁に切替える必要が生じ、その結果、加工電圧が不安定化する等して本電極で生成されるコロナ放電に悪影響を与えることが考えられる。この点、上記の構成によれば、一旦、予備電極と電源とが導通状態となると(本電極の電流値が上限値に達すると)、その後、該電流値が下限値未満となるまで前記導通状態が保持されるので、上記のような不都合を回避して本電極で生成されるコロナ放電の安定性を高めることができる。
【0016】
一方、本発明に係る砥石加工装置は、放電電極を有し、導電性を有する砥石に対向するように前記放電電極を近接配置した状態で前記砥石と前記放電電極との間に加工電圧を印加することによりコロナ放電を発生させて前記砥石を加工する砥石加工装置において、前記砥石を支持すると共に当該砥石をアースに接続する支持手段と、この支持手段に支持される砥石に対向するように配置されかつ当該砥石に対して相対的に移動可能に設けられる前記放電電極と、前記砥石と前記放電電極との間に前記加工電圧を印加する電源と、前記放電電極に供給される電流の値を検出する検出手段と、この検出手段による検出値がアーク放電発生レベルよりも低い所定の電流値に達すると、前記コロナ放電を発生させ得る範囲内で前記加工電圧を降下させる電圧降下手段と、を備えているものである。
【0017】
この装置によれば、支持手段に支持された砥石と放電電極との間に加工電圧が印加されることにより当該砥石と放電電極との間にコロナ放電が発生し、この放電現象により砥石が加工される。その際、放電電極に供給される電流の値が前記所定の電流値を超えるまでは、放電電極と電源との間に所定の上記加工電圧が印加され、作業環境の変化等、何らかの要因で放電電極に供給される電流の値が前記所定の電流値に達すると、電圧降下手段により前記加工電圧が強制的に降下(低下)させられ、これによって放電電極に供給される電流の値がアーク放電発生レベルまで上昇することが防止される。従って、砥石の加工中、放電電極において生成されるコロナ放電が意図せずにアーク放電に遷移することが有効に防止される。
【0018】
より具体的には、前記電圧降下手段は、前記放電電極を本電極としたときにこれとは別に設けられかつ前記電源に対して本電極と並列に接続される予備電極と、この予備電極と前記電源との導通状態を切替えるスイッチ手段とを含み、このスイッチ手段は、前記検出手段による検出値が前記所定の電流値に達すると前記予備電極と電源とを導通状態とし、それまでは前記予備電極と電源とを非導通状態とするように構成される。
【0019】
この構成では、スイッチ手段の作動により予備電極と電源の導通状態が切替えられる。そして、予備電極と電源とが導通状態となると、当該予備電極と砥石との間に電圧が印加されて予備電極と砥石との間に放電現象が発生し、このように予備電極に電流が流れることによって、前記電源にその内部抵抗(出力インピーダンス)による電圧降下が発生し、加工電圧が瞬時に低下することとなる。そのため、簡単な構成で、放電電極に流れる電流の値の上昇を速やかに抑えることができる。
【0020】
この構成においては、前記本電極および予備電極は、前記支持手段に支持される砥石に対向し得る位置であって当該砥石との間に放電が可能となる所定間隔を隔てた位置に配置されているのが好適である。
【0021】
この構成によれば、予備電極に流れる電流を本電極側と同様に砥石に放電させることができるため、本電極側および予備電極側の各通電経路の通電条件を等しくすることができる。従って、スイッチ手段の作動により予備電極と電源とが導通状態に切替えられた際に、本電極側に流れる電流の値が大きく変動して本電極側で生成されるコロナ放電の安定性が損なわれるという不都合を未然に回避することができる。
【0022】
また、上記構成においては、前記支持手段は、前記電極の相対移動方向と直交する方向に並ぶ第1支持部及び第2支持部を有しており、前記本電極は、第1支持部に対応するように配置され、前記予備電極は、前記第2支持部に対応するように配置されているものであってもよい。
【0023】
この構成によれば、第1支持部に、被加工物である砥石を、第2支持部に、被加工物である砥石と同じ抵抗値を有するダミー部材を支持させた状態で前記砥石を加工することにより、予備電極からダミー部材に電流を放電させる上記した砥石加工方法を実施することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
上記の通り、本発明の砥石加工方法および装置は、放電電極に供給される電流の値を検出し、作業環境の変化等、何らかの要因で上記電流値が所定の値を超えると、加工電圧を強制的に低下させて放電電極に供給される電流値の上昇を抑制するようにしたので、コロナ放電を利用して大気圧下で砥石を放電加工しながらも、アーク放電の発生を未然に防止しつつ安定的に砥石に対して放電加工を施すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の好ましい実施の形態について図面を用いて説明する。
【0026】
図1及び図2は、本発明に係る砥石加工装置(本発明に係る砥石加工方法が実施される砥石加工装置)の一例を示しており、図1は正面図で、図2は側面図でそれぞれ砥石加工装置を概略的に示している。
【0027】
同図に示す砥石加工装置(以下、加工装置と略す)は、導電性を有する砥石、具体的には導電性を有するメタルボンドを結合剤として所定の割合でダイヤモンド砥粒を支持したメタルボンド砥石をワークとし、大気圧下において放電現象を利用して砥石面に目立て(ドレッシング)を施すものである。
【0028】
加工装置は、ベース12と、このベース12上に移動可能に支持されるテーブル10(本発明の支持手段に相当する)と、このテーブル10を駆動する駆動機構と、前記テーブル10の上方に配置される加工用のヘッド20等とを備えており、前記テーブル10上に被加工物である砥石Sを支持した状態で、前記ヘッド20に対して当該テーブル10と共に砥石Sを移動させながら(加工送りしながら)、前記ヘッド20により砥石Sを加工するように構成されている。
【0029】
上記駆動機構は、ベース12上に固定されるレール14,14と、これらレール14,14と平行に延びかつ前記テーブル10に設けられたナット部分10aに螺合挿入されるねじ軸18と、このねじ軸18の一端に連結されるモータ16等とを有しており、当該モータ16によりねじ軸18を回転駆動することにより前記テーブル10をレール14,14に沿って移動させる(加工送り)ように構成されている。
【0030】
前記テーブル10は、その一辺が前記加工送り方向(X方向)と平行な平面視矩形の形状を有しており、その上面には、前記加工送り方向と直交する方向(Y方向)に並ぶ2つの砥石支持部11a,11bが設けられている。各支持部11a,11bは、図示を省略しているがチャック機構(図示省略)を各々備えており、個別に砥石を位置決めして固定できるように構成されている。
【0031】
なお、後述するが、これら支持部11a,11bのうち一方側(図2では左側)の支持部11a(第1支持部11aという)はワークとしての砥石Sを支持するものであり、他方側の支持部11b(第2支持部11bという)はダミー砥石Sdを支持するものである。
【0032】
前記ヘッド20は、テーブル10の可動領域内であって当該テーブル10の上方に配置されている。ヘッド20は、テーブル10をその幅方向(Y方向)に横断するように設けられており、コラム21に対して昇降可能に支持されかつねじ送り機構等からなる図外の駆動機構により駆動されるようになっている。
【0033】
前記ヘッド20のうち第1支持部11aに対向する位置には、砥石加工用の複数本の放電電極22(本電極22という;便宜上3つだけ図示する)が下向きにかつY方向に所定の間隔で一列に配置されており、また、ヘッド20のうち第2支持部11bに対向する位置には、砥石加工用の本電極22とは別に予備電極24が一つ下向きに配置されている。
【0034】
各電極22,24は各々同一の電線からなる同一の構成を有している。具体的には、図3に示すように、各電極22,24は、複数本の導体が絶縁層により一体に被覆された被覆電線からなり、当該被覆電線の被覆の一部が除去されることにより当該電線の先端部分に導体が露出され、さらにこれら導体のうち一本を残して他の導体が除去された構成となっている。当実施形態では、各電極22,24は、外径4mm、内径(導体の総径)3mmの3.5SQ線から構成されている。なお、各電極22,24の先端(下端)の高さ位置は互いに等しく、又各支持部11a,11bの砥石支持面の高さ位置は互いに等しい。従って、第1支持部11aの砥石支持面と本電極22先端との間隔、及び第2支持部11bの砥石支持面と予備電極24先端との間隔は互いに等しくなっている。
【0035】
各電極22,24は、図2に示すように、電線32を介して互いに並列接続で高周波電源30(本発明の電源に相当する)に接続されている。また、前記テーブル10は、電線31を介して接地されており、各支持部11a,11bに支持される砥石S,Sdを各々接地するようになっている。この構成により、各支持部11a,11bに支持される砥石S,Sdと前記電極22,24との間に加工電圧を印加し得るようになっている。
【0036】
なお、予備電極24と高周波電源30との間には、当該予備電極24と高周波電源30とを導通状態と非導通状態とに切替えるスイッチ36が介設されており、このスイッチ36が制御装置34により切替え制御されるようになっている。この制御装置34は、砥石加工装置を統括的に制御する例えばNC装置等からなり、本電極22(何れか一つ)に供給される電流の値を検出する電流計38の検出電流値に基づきスイッチ36を切替え制御する。なお、当実施形態では、予備電極24、電線32、スイッチ36及び制御装置34等が本発明の電圧降下手段に相当し、そのうちスイッチ36及び制御装置34が本発明のスイッチ手段に相当する。
【0037】
次に、制御装置34の制御に基づく上記砥石加工装置の砥石Sの加工(目立て)動作について、図4のフローチャートを参照しつつその作用効果と共に説明する。
【0038】
作業の開示に先立ち、まず、被加工物である砥石Sを第1支持部11aに、ダミー砥石Sd(以下、ダミーSdという)を第2支持部11bにそれぞれ位置決め固定する。ここで、砥石Sは、上記の通りメタルボンドを結合剤として所定の割合でダイヤモンド砥粒を支持したメタルボンド砥石であり、一定の厚み寸法を有した平面視矩形のものである。又ダミーSdは、砥石Sと同じ材質のダイヤモンド砥石からなり、幅(Y方向寸法)が砥石Sよりも狭い以外は、その厚み及び長さ寸法(X方向寸法)は何れも砥石Sと同じ寸法に形成されている。
【0039】
これら砥石S及びダミーSdを、図1,2に示すように、砥石Sについてはその被加工面(砥石面)が上向きになる状態で、ダミーSdについはその上面が砥石Sの被加工面と等しくなるように各々支持部11a,11bに固定する。
【0040】
この作業が完了すると図外の開始スイッチの操作に基づき砥石Sの加工を開始する。開始スイッチを操作すると、まずテーブル10が駆動され、送り開始位置、すなわち砥石Sの一端(加工送り方向における一端)がヘッド20(本電極22)に対向する位置に砥石Sが配置される共に、ヘッド20が駆動され、本電極22と砥石S(砥石面)とのギャップh(図3参照)が所定寸法に調整される。当実施形態では、当該ギャップhがほぼ4.2mmに調整される。なお、このようにテーブル10及びヘッド20が駆動されることにより、ダミーSdも同様にその一端が予備電極24に対向する位置に配置され、また、ダミーSdと予備電極24とのギャップhが上記所定寸法に調整される。
【0041】
その後、高周波電源30により本電極22と砥石Sとの間に加工電圧が印加されると共にテーブル10が一定の送り速度で駆動される。これにより砥石Sの加工が開始され(ステップS1)、また、本電極22に供給される電流の値の検出が開始される(ステップS3)。なお、この時点ではスイッチ36はオフ、すなわち予備電極24と高周波電源30とは非導通状態とされており、従って、予備電極24とダミーSdとの間に電圧は印加されていない。
【0042】
上記のように本電極22と砥石S(砥石面)との間に加工電圧が印加されると、当該本電極22と砥石Sとの間にコロナ放電が発生し、これによりプラズマが生成されて砥石面のうち主にボンド部分が除去される。つまり、砥石Sの目立てが行われる。そして、このように本電極22と砥石Sとの間に電圧が印加される一方で、テーブル10の駆動により砥石Sが本電極22に対して加工送りされることによって、砥石Sの一端側から順にその砥石面に対して加工が(目立て)が施されることとなる。
【0043】
砥石Sの加工が開始されると、制御装置34は、電流計38の検出値が予め定められた上限値より低いか否かを判断する(ステップS5)。この上限値は、本電極22と砥石Sとの間にアーク放電が発生するレベル(コロナ放電がアーク放電に遷移するレベル)の電流値より若干低い値に設定されている。
【0044】
ここで、YESと判断した場合には、制御装置34は所定の加工時間が経過したか否か、つまり、ヘッド20に対して砥石Sがその末端まで加工送りされたか否かを判断し(ステップS7)、ここでYESと判断した場合には、高周波電源30を停止すると共にテーブル10の駆動を停止し、これにより一連の砥石Sの加工を終了する。
【0045】
これに対してステップS5でNOと判断した場合、すなわち、過電流が生じ電流計38の検出値が上限値に達したと判断した場合には、制御装置34は、スイッチ36をオフからオンに切換えることにより予備電極24と高周波電源30とを導通状態に切換える(ステップS9;予備電極オン)。予備電極24と高周波電源30とが導通状態に切換えられると、本電極22に対して並列に接続された予備電極24とダミー砥石Sdとの間にも電圧が印加され、これにより予備電極24に電流が流れて当該予備電極24とダミーSdとの間にコロナ放電が発生する。つまり、予備電極24に電流が流れることにより高周波電源30にその内部抵抗30a(出力インピーダンス;図1に示す)による電圧降下が発生し、その結果、本電極22と砥石Sとの間に印加される加工電圧が瞬時に低下して本電極22に流れる電流の値の上昇が抑えられる。そしてこのように電極22に供給される電流値の上昇が抑制されることにより、本電極22と砥石Sとの間に生成されるコロナ放電が意図せずアーク放電へと遷移することが防止される。
【0046】
次いで、制御装置34は、電流計38による検出値が所定の下限値よりも低い値まで低下したか否かを判断する(ステップS11)。この下限値は、前記コロナ放電を発生させ得る電流値であって前記上限値よりも低い値に設定されている。ここでNOと判断した場合には、制御装置34は、スイッチ36をオンからオフに切換え(ステップS15;予備電極オン)、これによって予備電極24と高周波電源30とを非導通状態に切替えてステップS5に移行する。
【0047】
これに対してステップS11でYESと判断した場合には、制御装置34は、ヘッド20に対して砥石Sがその末端まで加工送りされたか否かを判断し(ステップS13)、ここでYESと判断した場合には、高周波電源30を停止すると共にテーブル10の駆動を停止し、これにより一連の砥石Sの加工を終了する。
【0048】
以上のように、本発明にかかる砥石加工装置では、本電極22に供給される電流の値を電流計38により監視し、過電流が生じてその検出値が所定の上限値に達すると、予備電極24と高周波電源30とを導通状態とすることにより加工電圧を瞬時に低下させ、これによって電極22に供給される電流値の上昇を抑制するようにしているので、作業環境の変化等により本電極22と砥石Sとの間に生成されるコロナ放電が意図せずアーク放電へと遷移するといった事態の発生を有効に防止することができる。従って、大気圧下で放電現象を利用して砥石Sを加工(目立て)しながらも安定的にコロナ放電を発生させて当該加工を行うことができる。
【0049】
しかも、この砥石加工装置では、ヘッド20に予備電極24を設け、電流計38の検出値に基づいて前記予備電極24と高周波電源30との接続状態を切換えるだけの非常に簡単な構成であるため、加工ミストの供給設備といった高価で複雑な設備を要する従来のこの種の装置と比較すると、大気圧下で放電現象を利用して砥石Sを加工(目立て)しながらも、より簡単かつ安価な構成で砥石Sを加工することできる。
【0050】
また、この砥石加工装置では、本電極22と砥石Sとの間にアーク放電が発生するレベル(コロナ放電がアーク放電に遷移するレベル)の電流値より若干低い値を上限値、この上限値よりも低い値を下限値として定め、電流計38の検出値が上限値を超えると予備電極24と高周波電源30との間を導通状態とし、その後、前記検出値が下限値未満となるまで前記導通状態を保持するように構成されているので、本電極22に印加される加工電圧が不安定化してコロナ放電に影響が出るとった弊害を良好に回避することができる。すなわち、前記の上限値を閾値として電流計38の検出値が当該閾値を超えている場合にのみ予備電極24と高周波電源30とを導通状態とし、それ以外(電流計38の検出値が閾値以下の場合)には予備電極24と高周波電源30とを非導通状態とすることも考えられるが、この場合には、電流値が閾値近傍で変動すると予備電極24と高周波電源30との導通状態が頻繁に切替わり、その結果、本電極22に印加される加工電圧が不安定化する等して当該本電極22で生成されるコロナ放電に影響を与えることが考えられる。これに対して上記実施形態の構成によれば、一旦、電流値が上限値を超えても、その後、当該電流値が下限値未満となるまでは予備電極24と高周波電源30との導通状態が保持されるので、上記のような不都合を回避することができるという利点がある。
【0051】
ところで、上述した砥石加工装置は、本発明に係る砥石加工装置(本発明に係る砥石加工方法を実施可能な砥石加工装置)の一例であって、その具体的な構成等は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0052】
例えば、上記実施形態では、テーブル10上に第1、第2の2つの支持部11a,11bを設け、第1支持部11aに対向するように本電極22を配置する一方で、第2支持部11bに対向するように予備電極24をそれぞれ配置し、加工時には、第1支持部11aに砥石Sを、第2支持部11bにダミー砥石Sdをそれぞれ固定した状態で前記砥石Sの加工を行うようにしているが、これは予備電極24から被加工物である砥石Sへの放電によって必要以上の加工が砥石Sに施されるのを回避する一方で、砥石Sと同質の砥石からなるダミー砥石Sdに予備電極24から放電を行うことによって本電極22側と予備電極24側との通電条件(主に抵抗値)を等しくして両電極22,24に流れる電流バランスを保つため、すなわち当該バランスが崩れて本電極22における放電状態が悪化するのを防止するためである。従って、ダミー砥石Sd以外に、被加工物である砥石Sと同じ抵抗値を有するダミー部材を第2支持部11bに固定して作業を行うようにしてもよい。これによっても同様の作用効果を享受することができる。また、予備電極24から砥石Sへの放電が特に問題とならないような場合には、第2支持部11bを省略し、被加工物である砥石Sに対して同時に対応し得るように本電極22及び予備電極24を配置することによって予備電極24からの放電を被加工物である砥石Sに行わせるようにしてもよい。この構成によれば、共通の砥石Sに放電を行うこととなるため、本電極22側と予備電極24側との通電条件をより等しくすることができ、本電極22における放電状態をより良好に保つことが可能となる。
【0053】
なお、本電極22に過電流が生じた際に加工電圧を低下させるための具体的な構成(本発明に係る電圧降下手段の構成)は、上記のように予備電極24を設ける以外に、例えば本電極22から砥石S及びテーブル10を通じて接地(アース)に至る本電極22側の通電経路と同等の抵抗値を有し、かつ高周波電源30に対して本電極22と並列に接続されるアース回路のようなものを設けてもよい。この構成によっても理論的には上記実施形態と同様の効果を享受することができる。但し、本電極22側の通電経路においては砥石Sの個体差や作業環境(温度、湿度等)の変化によりその抵抗値が変動することが考えられるため、本電極22側と電圧降下手段側との電流バランスを良好に保つ上では、上記のように予備電極24を設ける構成が簡単で又信頼性も高い。
【0054】
また、上記実施形態では、板状の砥石Sを加工するための砥石加工装置について説明したが、例えば砥石Sとして砥石車を加工(目立て)する場合には、砥石Sの支持手段としてモータ駆動の主軸を設け、この主軸に砥石S及びダミー砥石Sdを軸方向に並べた状態で固定すると共に砥石Sの砥石面に本電極22が、ダミー砥石Sdの砥石面に予備電極24がそれぞれ対向するように両電極22,24を配置し、主軸と砥石S等とを一体に回転駆動しながら本電極22により放電加工を行う一方で、過電流が発生した場合には予備電極24からダミー砥石Sdに放電を行うことにより加工電圧を低下させるように構成してもよい。例えば内面研削盤や円筒研削盤に対して本発明に係る砥石加工装置を組込むような場合には、当該構成を採用することができる。この場合には、ダミー砥石Sd及び予備電極24を基台上等に固定的に配置するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る砥石加工装置を示す正面略図である。
【図2】放電加を制御するための電気系統の図を含む砥石加工装置の側面略図である。
【図3】電極の構成を示すヘッドの要部拡大略図である。
【図4】制御装置による電流制御の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0056】
10 テーブル
20 ヘッド
22 本電極
24 予備電極
30 高周波電源
34 制御装置
36 スイッチ
38 電流計
S 砥石
Sd ダミー砥石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する砥石に対向するように放電電極を近接配置した状態で前記砥石と放電電極との間に加工電圧を印加することによりコロナ放電を発生させて前記砥石を加工する方法であって、
前記砥石の加工中に前記放電電極に供給される電流値を監視しながらその電流値が予め設定された値であってアーク放電発生レベルよりも低い所定の電流値に達すると、前記コロナ放電を発生させ得る範囲内で前記加工電圧を降下させることを特徴とする砥石加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の砥石加工方法において、
前記放電電極を本電極としてこれとは別の予備電極を所定の被放電物に近接させておき、前記本電極に供給される電流値が前記所定の電流値に達すると、前記加工電圧を印加するための電源に対して前記予備電極を前記本電極と並列に接続することにより前記予備電極から電流を放電させることを特徴とする砥石加工方法。
【請求項3】
請求項2に記載の砥石加工方法において、
被加工物である砥石に前記本電極と前記予備電極とを同時に対向させ、この砥石を前記被放電物として当該砥石に前記予備電極から電流を放電させることを特徴とする砥石加工方法。
【請求項4】
請求項2に記載の砥石加工方法において、
被加工物である砥石と同じ抵抗値を有するダミー部材を前記被放電物として当該ダミー部材に前記予備電極を対向させ、この予備電極から前記ダミー部材に電流を放電させることを特徴とする砥石加工方法。
【請求項5】
請求項4に記載の砥石加工方法において、
前記ダミー部材として被加工物と同質の砥石を用いることを特徴とする砥石加工方法。
【請求項6】
請求項2乃至5に記載の砥石加工方法において、
前記所定の電流値を上限値とすると共にこの上限値よりも低い所定の電流値を下限値として予め設定しておき、前記本電極に供給される電流値が前記上限値に達すると前記電源に対して予備電極を接続し、その後に前記電流値が下限値未満となるまで前記接続状態を保持することを特徴とする砥石加工方法。
【請求項7】
放電電極を有し、導電性を有する砥石に対向するように前記放電電極を近接配置した状態で前記砥石と前記放電電極との間に加工電圧を印加することによりコロナ放電を発生させて前記砥石を加工する砥石加工装置において、
前記砥石を支持すると共に当該砥石をアースに接続する支持手段と、
この支持手段に支持される砥石に対向するように配置されかつ当該砥石に対して相対的に移動可能に設けられる前記放電電極と、
前記砥石と前記放電電極との間に前記加工電圧を印加する電源と、
前記放電電極に供給される電流の値を検出する検出手段と、
この検出手段による検出値がアーク放電発生レベルよりも低い所定の電流値に達すると、前記コロナ放電を発生させ得る範囲内で前記加工電圧を降下させる電圧降下手段と、を備えていることを特徴とする砥石加工装置。
【請求項8】
請求項7に記載の砥石加工装置において、
前記電圧降下手段は、前記放電電極を本電極としたときにこれとは別に設けられかつ前記電源に対して本電極と並列に接続される予備電極と、この予備電極と前記電源との導通状態を切替えるスイッチ手段とを含み、このスイッチ手段は、前記検出手段による検出値が前記所定の電流値に達すると前記予備電極と電源とを導通状態とし、それまでは前記予備電極と電源とを非導通状態とすることを特徴とする砥石加工装置。
【請求項9】
請求項8に記載の砥石加工装置において、
前記本電極および予備電極は、前記支持手段に支持される砥石に対向し得る位置であって当該砥石との間に放電が可能となる所定間隔を隔てた位置に配置されていることを特徴とする砥石加工装置。
【請求項10】
請求項8に記載の砥石加工装置において、
前記支持手段は、前記電極の相対移動方向と直交する方向に並ぶ第1支持部及び第2支持部を有しており、前記本電極は、第1支持部に対応するように配置され、前記予備電極は、前記第2支持部に対応するように配置されていることを特徴とする砥石加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−69544(P2010−69544A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236457(P2008−236457)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】