説明

破壊装置及び破壊方法

【課題】不揮発性メモリチップ内のシリコンチップを破壊する際の作業負担を軽減する。
【解決手段】破壊装置1は、不揮発性メモリチップ2に対して超音波振動を伝達するホーン12と、超音波振動による不揮発性メモリチップ2内のモールド樹脂2B又はシリコンチップ2Aの破壊時に発生する弾性波を検出するAEセンサ14とを有する。破壊装置1は、弾性波の周波数応答から特定周波数帯の高調波成分の応答出力を取得する取得部21と、取得された応答出力が第1の閾値X1以下になったか否かを判定する第1の判定部22とを有する。破壊装置1は、応答出力が第1の閾値以下になった後、取得された応答出力が第2の閾値X2以上になったか否かを判定する第2の判定部23を有する。更に、破壊装置1は、取得された応答出力が第2の閾値以上になった場合に、超音波振動の出力を停止すべく、ホーン12を制御する制御部24を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、破壊装置及び破壊方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のコンピュータでは、処理するデータやソフトウェアが年々増え、これらデータやソフトウェアを記憶する記憶媒体に対して高速な処理が求められている。従って、近年では、HDD(Hard Disk Drive)に代わり、より高速な処理が可能なSSD(Solid State Drive)が普及しつつある。
【0003】
また、記憶媒体の普及に伴って、記憶媒体に記憶された情報の取扱を重視し、その情報の漏洩を防ぐ様々な対策が求められている。そこで、このような対策の一つとして、例えば、SSDを廃却する場合、SSDから情報が読み取られないようにSSD自体を破壊する方法がある。この方法の場合、SSDの廃却を請け負う業者は、SSDの破壊完了後に、その依頼人に対して破壊完了の証拠を提示又は報告することが求められている。
【0004】
SSDは、複数の不揮発性メモリチップが搭載された基板を有している。不揮発性メモリチップは、情報を記録したシリコンチップ全体をモールド樹脂で封止して構成される。
このような構成のSSDに対して、上記依頼人の要求を満たすには、複数の不揮発性メモリチップを個々に破壊し、SSDに搭載された全ての不揮発性メモリチップが物理的に破壊されたことを依頼人が確認できるようにしなければならない。
【0005】
そこで、物理的な破壊方法には、ドリルを使用して不揮発性メモリチップに貫通孔を開けることで不揮発性メモリチップを破壊する技術がある。また、超音波振動を使用して不揮発性メモリチップに貫通孔を開ける技術もある。超音波振動を使用する場合、シリンダ先端に取り付けたホーンに超音波振動子を連結し、ホーンのシリンダによる推力エネルギ及び超音波振動によるエネルギで不揮発性メモリチップに貫通孔を開ける。
【0006】
従って、物理的な破壊方法では、ドリル若しくはホーンを使用して不揮発性メモリチップ、すなわち、不揮発性メモリチップ表面側のモールド樹脂、不揮発性メモリチップ内部のシリコンチップ及び、不揮発性メモリチップ裏面側のモールド樹脂を順次穿孔する。そして、ドリル若しくはホーンは、不揮発性メモリチップ内の表面と裏面との間にあるモールド樹脂及びシリコンチップを貫く貫通孔を不揮発性メモリチップに開ける。その結果、不揮発性メモリチップ内のシリコンチップが破壊され、不揮発性メモリチップが破壊されたことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−57696号公報
【特許文献2】特開2006−43804号公報
【特許文献3】特開平5−115846号公報
【特許文献4】特公平7−32613号公報
【特許文献5】特開平10−315334号公報
【特許文献6】特開2006−88135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
不揮発性メモリチップに記録された情報を破壊するには、不揮発性メモリチップ内のシリコンチップが破壊できればよい。したがって、不揮発性メモリチップ裏面側のモールド樹脂を穿孔する必要はない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの態様では、樹脂材料で封止されたシリコンチップを破壊する超音波振動を出力する出力部と、前記超音波振動による前記樹脂材料又は前記シリコンチップの破壊時に発生する弾性波を検出する検出部とを有する。更に、本態様では、検出された前記弾性波の周波数応答から、前記樹脂材料及び前記シリコンチップが共振する特定周波数帯の高調波成分の応答出力を取得する取得部を有する。更に、本態様では、前記取得部によって取得された前記応答出力と、前記超音波振動による前記シリコンチップの破壊時に生じる前記特定周波数帯の高調波成分の応答出力となる第1の閾値とを比較、判定する第1の判定部を有する。更に、本態様では、前記第1の判定部が、前記特定周波数帯の高調波成分の応答出力が前記第1の閾値以下であると判定した後、前記取得部によって取得された前記応答出力と、前記超音波振動による前記樹脂材料の破壊時に生じる前記特定周波数帯の高調波成分の応答出力となる第2の閾値とを比較、判定する第2の判定部を有する。更に、本態様では、前記第2の判定部が、前記特定周波数帯の高調波成分の応答出力が前記第2の閾値以上であると判定した後、前記出力部の前記超音波振動を停止させる制御部を有する。
【発明の効果】
【0010】
不揮発性メモリチップ表面側のモールド樹脂を穿孔し、続いてシリコンチップを穿孔し、不揮発性メモリチップ裏面側のモールド樹脂に達した段階で、穿孔作業を停止すれば、貫通孔の生成による破壊よりも、より短い時間で確実に上記要求を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本実施例の破壊装置の一例を示すブロック図である。
【図2】図2は、プロセス制御部の一例を示すブロック図である。
【図3】図3は、不揮発性メモリチップ内のモールド樹脂及びシリコンチップ破壊時の周波数応答特性の一例を示す説明図である。
【図4】図4は、不揮発性メモリチップ破壊処理に関わるAEセンサの検出出力の一例を示す説明図である。
【図5】図5は、不揮発性メモリチップ破壊処理に関わる周波数応答出力の一例を示す説明図である。
【図6】図6は、不揮発性メモリチップ破壊処理に関わる特定周波数帯の周波数応答出力と時間変化との関係の一例を示す説明図である。
【図7】図7は、不揮発性メモリチップ破壊処理に関わる特定周波数帯の周波数応答出力の移動平均値と時間変化との関係の一例を示す説明図である。
【図8】図8は、不揮発性メモリチップ破壊処理に関わる基準閾値の設定方法の一例を示す説明図である。
【図9】図9は、不揮発性メモリチップ破壊処理に関わる基準閾値、第1の閾値及び第2の閾値の関係を示す説明図である。
【図10】図10は、不揮発性メモリチップ破壊処理に関わる破壊装置のプロセス制御部の処理動作の一例を示すフローチャートである。
【図11】図11は、不揮発性メモリチップ破壊処理に関わる破壊装置の動作の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて、本願の開示する破壊装置及び破壊方法の実施例を詳細に説明する。尚、本実施例により、開示技術が限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
図1は、本実施例の破壊装置の一例を示すブロック図である。図1に示す破壊装置1は、ダイ11と、ホーン12と、アクチュエータ13と、アコスティックエミッション(AE:Acoustics Emission)センサ14とを有する。更に、破壊装置1は、プリアンプ15と、ディスクリミネータ16と、パルス発振器17と、ストローク制御部18と、プロセス制御部19とを有する。ダイ11は、不揮発性メモリチップ2を搭載した基板3を載置する作業盤である。基板3は、不揮発性メモリチップの部材の1つである。アクチュエータ13は、ストローク制御部18の制御信号に応じて、ホーン12をストローク方向に駆動する駆動機構である。尚、ストローク方向は、ダイ11に対して鉛直な方向、すなわちダイ11に対してホーン12が移動する方向である。ホーン12は、ダイ11上に載置された基板3上の不揮発性メモリチップ2に超音波振動を伝達して不揮発性メモリチップ2を破壊する部位である。尚、ホーン12は、アクチュエータ13の作動に応じてストローク方向に移動するシリンダ12Aと、シリンダ12Aの先端部に連結した超音波振動子12Bと、超音波振動子12Bと連結するホーン本体12Cとを有する。尚、ホーン本体12Cの先端部は、ダイ11上に載置した不揮発性メモリチップ2の表面に当接し、当該不揮発性メモリチップ2に超音波振動を伝達するものである。
【0014】
AEセンサ14は、破壊対象となる不揮発性メモリチップ2と接触し、ホーン12の超音波振動で不揮発性メモリチップ2を破壊する際に生じる弾性波を検出する。尚、AEセンサ14は、例えば、100kHz〜250kHzの周波数帯の高調波成分の弾性波を検出する広帯域型のセンサである。プリアンプ15は、AEセンサ14の検出出力を増幅する。ディスクリミネータ16は、増幅された検出出力を弁別して解析に必要なフィルタリング処理を実行する。パルス発振器17は、ホーン12の超音波振動子12Bを駆動制御する、例えば、28kHzの駆動パルスを発振する。ストローク制御部18は、ホーン12のストローク方向の移動動作を調整すべく、アクチュエータ13を制御する。
【0015】
不揮発性メモリチップ2は、情報を記憶するシリコンチップ2Aと、シリコンチップ2Aを封止するモールド樹脂2Bとを有する。破壊装置1のホーン12は、超音波振動で、不揮発性メモリチップ2表面側のモールド樹脂2Bやシリコンチップ2Aを破壊するものである。
【0016】
図2は、プロセス制御部19の一例を示すブロック図である。図2に示すプロセス制御部19は、取得部21と、第1の判定部22と、第2の判定部23と、制御部24と、設定部25と、記憶部26とを有する。取得部21は、AEセンサ14の検出出力の周波数応答演算、例えば、フーリエ解析して周波数応答出力を得る。更に、取得部21は、周波数応答出力から不揮発性メモリチップ2内のモールド樹脂2B及びシリコンチップ2Aが共振する特定周波数帯の高調波成分の応答出力を取得する。尚、図3は、不揮発性メモリチップ2内のモールド樹脂2B及びシリコンチップ2A破壊時の周波数応答特性の一例を示す説明図である。不揮発性メモリチップ2内のモールド樹脂2Bの破壊深さを0.1mm、不揮発性メモリチップ2内のシリコンチップ2Aの破壊深さを0.6mmとする。尚、破壊深さとは、不揮発性メモリチップ2内のモールド樹脂2Bやシリコンチップ2Aに施す穿孔の深度をいう。そして、図3の周波数応答特性に着目した場合、モールド樹脂2Bの破壊時の周波数応答出力は150kHz以上で高く、シリコンチップ2Aの破壊時の周波数応答出力は150kHz以下で高い。そこで、モールド樹脂2B及びシリコンチップ2Aが共振する周波数帯の内、モールド樹脂2Bの破壊時及びシリコンチップ2Aの破壊時に発生する周波数応答出力が共に高く、周波数応答出力の差が最大となる、例えば224kHzの特定周波数帯を選択する。
【0017】
図4は、不揮発性メモリチップ破壊処理に関わるAEセンサ14の検出出力の一例を示す説明図である。尚、図4に示すAEセンサ14の検出出力は、縦軸が振幅、横軸が周波数である。図5は、不揮発性メモリチップ破壊処理に関わる周波数応答出力の一例を示す説明図である。尚、図5は、縦軸が振幅、横軸が周波数である。取得部21は、図4に示すAEセンサ14の検出出力を0.001秒毎にフーリエ解析し、そのフーリエ解析結果に基づき図5に示す高調波成分の周波数応答出力を得る。
【0018】
図6は、不揮発性メモリチップ破壊処理に関わる特定周波数帯の周波数応答出力と時間変化との関係の一例を示す説明図である。図7は、不揮発性メモリチップ破壊処理に関わる特定周波数帯の周波数応答出力の移動平均値と時間変化との関係の一例を示す説明図である。尚、図中の点線は周波数応答出力、実線は周波数応答出力の移動平均値である。取得部21は、図5に示す不揮発性メモリチップ破壊処理に関わる周波数応答出力の内、モールド樹脂2B及びシリコンチップ2Aの破壊時の特定周波数帯である224kHz付近の8次高調波成分の周波数応答出力を抽出する。更に、取得部21は、抽出された特定周波数帯の高調波成分の周波数応答出力(図6参照)を得る。更に、取得部21は、0.01秒分、すなわち直近10回分の0.001秒毎の周波数応答出力に基づき、図7に示す特定周波数帯の高調波成分の0.01秒分の周波数応答出力に関わる移動平均値を取得する。
【0019】
図8は、不揮発性メモリチップ破壊処理に関わる基準閾値の設定方法の一例を示す説明図である。設定部25は、不揮発性メモリチップ破壊開始から0.01秒分の特定周波数帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値を基準閾値Xに設定する。設定部25は、基準閾値Xを記憶部26に記憶する。尚、基準閾値Xは、不揮発性メモリチップ破壊開始から0.01秒分の特定周波数帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値、すなわち、ホーン12による不揮発性メモリチップ2表面側のモジュール樹脂2Bの破壊開始直後の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値である。
【0020】
図9は、不揮発性メモリチップ破壊処理に関わる基準閾値X、第1の閾値及び第2の閾値の関係を示す説明図である。更に、設定部25は、基準閾値Xの第1の所定比率、例えば、50%に基づき第1の閾値X1を算出し、この第1の閾値X1を第1の判定部22に設定する。尚、第1の閾値X1は、図9に示すように、ホーン12によるシリコンチップ2A破壊時の特定周波数帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値である。更に、設定部25は、基準閾値Xの第2の所定比率、例えば、90%に基づき第2の閾値X2を算出し、この第2の閾値X2を第2の判定部23に設定する。尚、第2の閾値X2は、図9に示すように、ホーン12によるモールド樹脂2B破壊時の特定周波数帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値である。
【0021】
第1の判定部22は、特定周波数帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値が第1の閾値X1以下になったか否かを判定する。尚、第1の判定部22は、移動平均値が第1の閾値X1以下になった場合、移動平均値の大幅低下に基づき、不揮発性メモリチップ2表面側のモールド樹脂2Bの破壊が完了してシリコンチップ2Aの破壊が開始されたものと認識する。
【0022】
第2の判定部23は、特定周波数帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値が第1の閾値X1以下になった後、特定周波数帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値が第2の閾値X2以上になったか否かを判定する。尚、第2の判定部23は、移動平均値が第2の閾値X2以上になった場合、移動平均値の再度の大幅上昇に基づき、不揮発性メモリチップ2内部のシリコンチップ2Aの破壊が完了して不揮発性メモリチップ裏面側のモールド樹脂2Bの破壊が開始されたものと認識する。
【0023】
制御部24は、特定周波数帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値が第2の閾値X2以上になった場合、ホーン12に対するパルス出力を停止すべく、パルス発振部17を制御する。更に、制御部24は、不揮発性メモリチップ2の表面上からホーン12を退避させるべく、ホーン12をストローク方向に上昇させるように、ストローク制御部18を制御する。
【0024】
次に、本実施例の破壊装置1の動作について説明する。図10は、不揮発性メモリチップ破壊処理に関わる破壊装置1のプロセス制御部19の処理動作の一例を示すフローチャートである。図11は、不揮発性メモリチップ破壊処理に関わる破壊装置1の動作の一例を示す説明図である。図10に示す不揮発性メモリチップ破壊処理は、超音波振動で不揮発性メモリチップ2の内、短時間でシリコンチップ2Aを確実に破壊する処理である。
【0025】
図10においてプロセス制御部19は、カットオフ周波数としてハイパスフィルタを100kHz、ローパスフィルタを500kHzに設定する(ステップS11)。プロセス制御部19は、ストローク制御部18を通じてホーン12のストローク速度を設定する(ステップS12)。プロセス制御部19の制御部24は、パルス発振部17のパルス発振動作及びストローク制御部18のアクチュエータ駆動動作を開始する(ステップS13)。図11の(A)に示す破壊装置1は、ホーン12をダイ11上の不揮発性メモリチップ2上に降下させる。そして、図11の(B)に示す破壊装置1は、ホーン12の超音波振動を不揮発性メモリチップ2表面に伝達することで不揮発性メモリチップ2表面のモジュール樹脂2B及びシリコンチップ2Aの順に破壊する。この際、AEセンサ14は、超音波振動による不揮発性メモリチップ2の破壊動作に応じて破壊時に生じた弾性波を順次検出することになる。
【0026】
プロセス制御部19の取得部21は、AEセンサ14の検出出力に応じて0.001秒毎にフーリエ解析し(ステップS14)、図4に示す検出出力から図5に示す周波数応答出力を取得する。更に、取得部21は、10回分のフーリエ解析結果を取得したか否かを判定する(ステップS15)。取得部21は、10回分のフーリエ解析結果を取得していない場合(ステップS15否定)、次のフーリエ解析結果を取得すべく、ステップS14に移行する。
【0027】
更に、取得部21は、10回分のフーリエ解析結果を取得した場合(ステップS15肯定)、10回分のフーリエ解析結果、すなわち、0.01秒分のフーリエ解析結果の内、224kHz帯の周波数応答出力を取得する。更に、取得部21は、10回分の224kHz帯の高調波成分の周波数応答出力を取得すると、10回分の224kHz帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値を算出する(ステップS16)。つまり、取得部21は、10回分の224kHz帯の高調波成分の周波数応答出力、すなわち0.01秒分の周波数応答出力を取得する。
【0028】
設定部25は、10回分の224kHz帯の高調波成分の周波数応答出力の移動平均値を算出すると、移動平均値、すなわち不揮発性メモリチップ破壊開始0.01秒分の移動平均値を基準閾値Xとして設定する(ステップS17)。尚、設定部25は、基準閾値Xを記憶部26に記憶する。取得部21は、AEセンサ14の検出出力に応じて0.001秒毎にフーリエ解析する(ステップS18)。取得部21は、フーリエ解析から直近10回分のフーリエ解析結果に基づき、224kHz帯の高調波成分の周波数応答出力の移動平均値を算出する(ステップS19)。
【0029】
プロセス制御部19内の第1の判定部22は、直近10回分の224kHz帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値を算出すると、移動平均値が基準閾値Xの50%、すなわち第1の閾値X1以下であるか否かを判定する(ステップS20)。プロセス制御部19内の第2の判定部23は、移動平均値が第1の閾値X1以下である場合(ステップS20肯定)、不揮発性メモリチップ2表面側のモールド樹脂2Bの破壊が完了してシリコンチップ2Aの破壊が開始されたものと認識できる。
【0030】
取得部21は、直近10回分の224kHz帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値が第1の閾値X1以下になった後(ステップS20肯定)、AEセンサ14の検出出力に応じて0.001秒毎にフーリエ解析する(ステップS21)。取得部21は、直近10回分のフーリエ解析結果に基づき、224kHz帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値を算出する(ステップS22)。更に、第2の判定部23は、直近10回分の周波数応答出力に関わる移動平均値を算出すると、直近10回分の周波数応答出力に関わる移動平均値が基準閾値Xの90%、すなわち第2の閾値X2以上であるか否かを判定する(ステップS23)。
【0031】
制御部24は、直近10回分の周波数応答出力の移動平均値が第2の閾値X2以上である場合(ステップS23肯定)、超音波振動によるシリコンチップ2Aの破壊が完了して不揮発性メモリチップ2裏面側のモールド樹脂2Bの破壊が開始されたものと認識できる。つまり、制御部24は、不揮発性メモリチップ2内部のシリコンチップ2Aが完全に破壊されたものと認識できる。そして、制御部24は、直近10回分の周波数応答出力の移動平均値が第2の閾値X2以上である場合(ステップS23肯定)、超音波振動を停止すべく、パルス発振部17及びストローク制御部18を制御し(ステップS24)、図10に示す処理動作を終了する。尚、制御部24は、超音波振動子12Bに対する発振パルスの出力を停止すべく、パルス発振部17を制御する。更に、制御部24は、図11の(C)に示すように、不揮発性メモリチップ2の表面からホーン12を退避させるべく、ホーン12をストローク方向に上昇させるようにストローク制御部18を制御する。その結果、制御部24は、不揮発性メモリチップ2に対する超音波振動を停止したことになる。
【0032】
第1の判定部22は、移動平均値が第1の閾値X1以下でない場合(ステップS20否定)、超音波振動による不揮発性メモリチップ2表面側のモールド樹脂2Bの破壊動作が継続していると判断し、0.001秒のフーリエ解析結果を取得すべく、ステップS18に移行する。
【0033】
第2の判定部23は、移動平均値が第2の閾値X2以上でない場合(ステップS23否定)、超音波振動による不揮発性メモリチップ2内部のシリコンチップ2Aの破壊動作が継続していると判断し、0.001秒のフーリエ解析結果を取得すべく、ステップS21に移行する。
【0034】
図10に示す不揮発性メモリチップ破壊処理では、特定周波数帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値が第1の閾値X1以下になった場合、不揮発性メモリチップ2内の表面側のモールド樹脂2Bの破壊が完了してシリコンチップ2Aの破壊が開始されたことを認識できる。
【0035】
更に、不揮発性メモリチップ破壊処理では、特定周波数帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値が第1の閾値X1以下になった後、その移動平均値が再度第2の閾値X2以上になった場合、不揮発性メモリチップ2内のシリコンチップ2Aの破壊が完了したことを認識できる。
【0036】
更に、不揮発性メモリチップ破壊処理では、不揮発性メモリチップ2を破壊する都度、不揮発性メモリチップ破壊開始直後の特定周波数帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値を基準閾値Xに設定するので、不揮発性メモリチップ2の材質成分に変更が生じた場合にも柔軟に対応できる。
【0037】
本実施例の破壊装置1は、特定周波数帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値が第1の閾値X1以下になった後、その移動平均値が再度第2の閾値X2以上となると、超音波振動で不揮発性メモリチップ2内部のシリコンチップ2Aの破壊が完了したものと認識する。そして、破壊装置1は、超音波振動を停止する。その結果、本実施例の破壊装置1では、不揮発性メモリチップ2表面側のモールド樹脂2B及びシリコンチップ2Aを穿孔してシリコンチップ2Aを確実に破壊できる。更に、本実施例の破壊装置1では、シリコンチップ2Aを破壊するのに不揮発性メモリチップ2に貫通孔を開ける必要はないため、その破壊に要する作業負担が軽減できる。しかも、シリコンチップ2Aを物理的に破壊しているため、破壊完了の証拠を残すことができ、依頼人に対する、その証拠の提示及び報告が可能になる。
【0038】
また、本実施例では、不揮発性メモリチップ2内部のモールド樹脂2Bやシリコンチップ2A等の厚みがバラバラで不揮発性メモリチップ2内部のシリコンチップ2Aの位置にバラツキが生じたとしても、短時間でシリコンチップ2Aを確実に破壊できる。
【0039】
また、本実施例では、不揮発性メモリチップ2の破壊開始直後に発生した特定周波数帯の高調波成分の周波数応答出力を基準閾値Xとして設定し、基準閾値Xの50%で第1の閾値X1を算出し、第1の閾値X1を第1の判定部22に設定する。更に、本実施例では、基準閾値Xの90%で第2の閾値X2を算出し、第2の閾値X2を第2の判定部23に設定する。その結果、不揮発性メモリチップ2を破壊する都度、基準閾値Xを設定することになるため、異なる材質の不揮発性メモリチップ2の破壊に柔軟に対応できる。
【0040】
また、本実施例では、特定周波数帯を、超音波振動による不揮発性メモリチップ2内のモールド樹脂2B及びシリコンチップ2Aの破壊時の各周波数応答出力の差が最大となる周波数帯とした。その結果、第1の判定部22及び第2の判定部23の閾値判定動作がし易くなるため、その判定精度の向上が図れる。
【0041】
また、本実施例では、特定周波数帯の高調波成分の周波数応答出力の移動平均値を使用して第1の判定部22及び第2の判定部23の閾値判定動作を実行するようにしたので、弾性波に生じるノイズの影響が抑制できる。
【0042】
尚、上記実施例では、第1の閾値X1を算出する第1の所定比率を50%としたが、約40%〜約60%としても良い。更に、第1の閾値X1は、基準閾値Xを利用しなくても、不揮発性メモリチップ2内のシリコンチップ2A破壊時に関わる特定周波数帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値等としても良い。
【0043】
また、上記実施例では、第2の閾値X2を算出する第2の所定比率を90%としたが、約80%〜約90%としても良い。更に、第2の閾値X2は、基準閾値Xを利用しなくても、不揮発性メモリチップ2内のモールド樹脂2B破壊時に関わる特定周波数帯の高調波成分の周波数応答出力に関わる移動平均値等としても良い。
【0044】
また、上記実施例では、不揮発性メモリチップ2内のモールド樹脂2B及びシリコンチップ2A破壊時の特定周波数帯として224kHzを採用したが、この周波数帯に限定されるものではない。
【0045】
また、上記実施例では、超音波振動で不揮発性メモリチップ2を破壊する都度、基準閾値Xを設定するようにしたが、不揮発性メモリチップ2のモールド樹脂2B及びシリコンチップ2Aの材質に変動がない場合には基準閾値Xを固定値として予め設定するようにしても良い。
【0046】
また、上記実施例では、シリコンチップ2A全体をモールド樹脂2Bで封止された不揮発性メモリチップ2を例に挙げて説明したが、シリコンチップをモールド樹脂で封止された電子部品等にも対応可能である。また、上記実施例では、具体的な数値を例示したが、これら数値に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0047】
1 破壊装置
2 不揮発性メモリチップ
2A シリコンチップ
2B モールド樹脂
12 ホーン
14 AEセンサ
17 パルス発振器
18 ストローク制御部
19 プロセス制御部
21 取得部
22 第1の判定部
23 第2の判定部
24 制御部
25 設定部
26 記憶部
X 基準閾値
X1 第1の閾値
X2 第2の閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料で封止されたシリコンチップを破壊する超音波振動を出力する出力部と、
前記超音波振動による前記樹脂材料又は前記シリコンチップの破壊時に発生する弾性波を検出する検出部と、
検出された前記弾性波の周波数応答から、前記樹脂材料及び前記シリコンチップが共振する特定周波数帯の高調波成分の応答出力を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された前記応答出力と、前記超音波振動による前記シリコンチップの破壊時に生じる前記特定周波数帯の高調波成分の応答出力となる第1の閾値とを比較、判定する第1の判定部と、
前記第1の判定部が、前記特定周波数帯の高調波成分の応答出力が前記第1の閾値以下であると判定した後、前記取得部によって取得された前記応答出力と、前記超音波振動による前記樹脂材料の破壊時に生じる前記特定周波数帯の高調波成分の応答出力となる第2の閾値とを比較、判定する第2の判定部と、
前記第2の判定部が、前記特定周波数帯の高調波成分の応答出力が前記第2の閾値以上であると判定した後、前記出力部の前記超音波振動を停止させる制御部と
を有することを特徴とする破壊装置。
【請求項2】
前記超音波振動による前記樹脂材料の破壊開始時点に発生した前記特定周波数帯の高調波成分の応答出力の基準閾値から前記第1の閾値、および前記第2の閾値を算出する設定部を有することを特徴とする請求項1に記載の破壊装置。
【請求項3】
前記特定周波数帯は、
前記樹脂材料及び前記シリコンチップが共振する周波数帯の内、前記超音波振動による前記樹脂材料の破壊時に発生する前記弾性波に関わる高調波成分の応答出力と、前記超音波振動による前記シリコンチップの破壊時に発生する前記弾性波に関わる高調波成分の応答出力との差が最大となる周波数帯であることを特徴とする請求項1又は2に記載の破壊装置。
【請求項4】
前記取得部は、
抽出された前記特定周波数帯の高調波成分の応答出力に関わる移動平均値を前記特定周波数帯の高調波成分の応答出力として取得することを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の破壊装置。
【請求項5】
樹脂材料で封止されたシリコンチップを超音波振動で破壊する破壊装置による破壊方法であって、
前記破壊装置は、
前記樹脂材料又は前記シリコンチップに対して超音波振動を出力し、
前記超音波振動による前記樹脂材料又は前記シリコンチップの破壊時に発生する弾性波を検出し、
検出された前記弾性波の周波数応答から、前記樹脂材料及び前記シリコンチップが共振する特定周波数帯の高調波成分の応答出力を取得し、
取得された前記特定周波数帯の高調波成分の応答出力と、前記超音波振動による前記シリコンチップの破壊時に生じる前記特定周波数帯の高調波成分の応答出力となる第1の閾値とを比較、判定し、
前記特定周波数帯の高調波成分の応答出力が前記第1の閾値以下になった後、前記特定周波数帯の高調波成分の応答出力と、前記超音波振動による前記樹脂材料の破壊時に生じる前記特定周波数帯の高調波成分の応答出力となる第2の閾値とを比較、判定し、
前記特定周波数帯の高調波成分の応答出力が前記第2の閾値以上になった場合に、前記超音波振動の出力を停止する
各処理を実行させることを特徴とする破壊方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−27956(P2013−27956A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165666(P2011−165666)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】