説明

破損した排水トラップの再生方法

【課題】寸法の異なる排水トラップに対応できる補修部材を用いた排水トラップの再生方法を提供する。
【解決手段】排水が流入する排水口2及び排水を排出する排出口3を備え、排出口3に連通する排出開口部4を備えたトラップ本体1と、トラップ本体1と組み合わせて封水部を形成し、排水口2よりも下流側からの逆流を防止する封水部材と、からなる排水トラップにおいて、トラップ本体1から封水部材を取り外し、有底筒状にして平面視排水口2よりも小さく排出開口部4よりも大きな形状を成すワン部材7と、ワン部材7上に備えたトラップ部10と、から成る補修部材6を用い、排出開口部4を補修部材6のワン部材7の開口側にて覆い、ワン部材7の開口とトラップ本体1の内面とを水密的に接続することにより、破損した排水トラップを再生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は使用により排水を生じる機器(以下「排水機器」と呼ぶ)の排水を処理する排水配管に関するものであって、更に詳しくは、排水配管の途中に、臭気や害虫類の、下水側からの逆流を防止する排水トラップ備えた排水配管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、洗面台、流し台、浴槽や浴室など、他にも厨房や屋外の施設など水に濡れる機会がある床面などには、 生じた排水を下水側の配管に排出するために、排水配管が備えられている。これらのうち、特に下水側から臭気や害虫類が屋内側に逆流することを防止するために、排水トラップと呼ばれる部材を備えた配管を、排水トラップ配管と呼ぶ。
排水トラップとしては、流路の途中に壁を設け、排水が流路において満水状態にて溜まるようにし、臭気などの逆流を防止する排水トラップ等が知られている。
以下に排水トラップを備えた排水配管の従来例を、図2を参照しつつ説明する。
【0003】
図2に図示した、排水トラップを備えた排水配管は、トラップ本体、防臭オワン、排水管、その他の部材より構成されてなる。尚、以下の部材の内、トラップ本体また防臭オワンは鋳鉄によって構成されてなる。
トラップ本体は以下に記載した本体上部及び本体下部から構成される。
本体上部は、略円筒状の部材であって、上端は床面上に配置されると共に、下端は本体下部の開口に水密的に接続されてなる。また、上端部分の開口に、目皿部材を載置する載置部を備えた排水口を有してなる。
本体下部は、有底円筒状を成す部材であって、上方に排水口を開口すると共に、底面下方中央に円形の排出口を備えてなる。また、この底面に、排出口に連通する円筒状の防臭筒部を垂立するようにして設けてなる。
防臭オワンは、有底筒状を成す部材であって、開口を下方に向け、内部に上記防臭筒部を収納するようにしてトラップ本体内に配置される。
排水管は排出口に接続される管状の部材で、この排水管を介して、排水口が下水側の配管に配管接続される。
目皿部材は円盤状の平板に、通水用のスリットを複数開口した部材である。
排水管は円筒形状の管体であって、上流側の端部はトラップ本体の排出口に、下流側の端部は下水側の配管に、それぞれ接続される。
【0004】
上記のように構成した排水配管の各部材は、以下のようにして、床面上に取り付けられる。
まず、本体上部と下部を接続してトラップ本体とする。次に、下水側の配管に排水管を接続した上で、トラップ本体の排出口に排水管を接続する。更にトラップ本体の側面方向にコンクリート等を打込み、床面を形成する。
更に、排水トラップ内に防臭オワンを配置し、排水口の載置部に目皿部材を載置して、排水トラップの施工が完了する。
【0005】
上記のように構成した排水トラップは、以下のようにして使用される。
排水トラップが設置された床面上に排水が生じた場合、排水は、目皿部材のスリットを介して排水口からトラップ内部に流れ込み、防臭オワン側面を流下した後、防臭オワン内部を通過して、防臭筒部上端の位置まで水位が上昇する。更に防臭筒部上端を排水が超えて防臭筒部内部に流れ込み、排出口、排水管を通過し、下水側に排出される。
また、上記のようにして、トラップ本体内部を排水が通過すると、排水時また排水終了後に、防臭オワンの側面とトラップ本体内部の一部、排水が溜まっている部分の流路が常に満水状態となる。下水側から臭気や害虫類が配管内を逆流しても、この満水部分を通過することができないため、臭気や害虫類が下水側から屋内側に逆流することが防止される。
このように、臭気や害虫類などが下水側から屋内側に逆流することを防止する機能を「トラップ機能」、またこのトラップ内に溜まって臭気や害虫類の逆流を防止する排水溜まりを「封水」と呼ぶ。また、このような、封水によって下流側からの臭気や害虫類の逆流を防止する排水トラップを、「封水式排水トラップ」と呼ぶ。
【0006】
このように構成された排水トラップの問題点として、トラップ本体やオワン部材を鋳物など金属で製造する場合、常に封水部に水が存在しているため、封水に触れている部分が錆びる等して、図3に示したように、腐食する場合があった。特に排水には洗剤などの薬剤が含まれている場合が多く、上水に触れている金属と比べてもこれら薬剤の含まれている排水に触れている金属の方が錆等による腐食が生じやすくなる傾向にあった。
また合成樹脂でトラップ本体などを製造した場合、上記のような腐食を防ぐことはできるが、合成樹脂製トラップは金属製トラップに比べて強度の点で劣るため、屋内の浴室やキッチンの排水トラップに利用するのであればともかく、屋外や業務用厨房など比較的強い衝撃が加えられる可能性のある場所に採用すると、使用時に排水トラップそれ自体が破損する可能性があった。
【0007】
上記のような問題点を解決するため、特許文献1に記載の発明においては、排水トラップが腐食などにより破損してしまい、トラップ機能を喪失した場合に、図10に示したように、防臭筒部に内接及び/又は外接する円筒状の補修部材を備え、この円筒状の補修部材を防臭筒部に水密的に接続させた上で、逆流防止弁をこの補修部材に水密的に取り付け、排水トラップを再生する方法を提案している。この方法によれば、上述したように、錆などの腐食により破損した排水トラップのトラップ機能を再生させることができる。
【0008】
【特許文献1】特開2011−157813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来例のような排水トラップの再生方法においては、以下のような問題を有していた。
上記従来例の排水トラップの再生方法においては、補修部材を防臭筒部に内接及び/又は外接させた上で水密的に接続させる。このため、排水トラップの防臭筒部の内径及び/又は外径を正確に採寸し、それに合致する補修部材を用意する必要がある。
しかし、排水トラップは製造メーカー毎に当然仕様や形状・寸法が異なるし、また同じメーカーであっても、目的に応じ大型のもの、小型のもの等、やはり仕様や形状・寸法が異なる製品を複数種類提供しているものである。また、排水トラップは何年にも渡って長期間使用されるものであり、その間にメーカーでも仕様変更を行うことで、やはり形状・寸法が変化してゆく。
このように、多種多様な排水トラップが提供されており、更に排水トラップの破損のタイミングも当然まちまちであるため、補修の対称となる排水トラップはほぼ毎回形状・寸法が全く異なるものとなる。
実際にはトラップ本体の内側面の大きさや、排出開口部の大きさは、ある程度の範囲の中に収まるように設計されている。何故なら、排水口と排出口の大きさ、正確には排水口を成す部材が取り付けられる取り付け口の大きさや、排出口に接続される排水配管のパイプの外径は、通常規格化されており、一定の寸法に設定されている。これに対応して、トラップ本体の内側面の大きさは排水口の大きさに、防臭筒部の大きさはトラップ本体の内径の大きさや防臭筒部が連通している排出口の大きさに、それぞれ合わせて設計されるため、トラップ本体の内側面の大きさや、排出開口部の大きさは、ある程度の範囲の中に収まる。例えば、規格としての排水口を成す部材を取り付ける取り付け口の内径が160ミリメートルであれば、トラップ本体の内側面の大きさ(内径)は130乃至150ミリメートルである、というように、ある程度の範囲内に収まる。また、防臭筒部の場合、防臭オワン外側面とトラップ本体内側面の間、防臭オワン内側面と防臭筒部外側面の間、及び防臭筒部内部に排水の流路を形成する必要があるため、いずれかの流路だけが他の流路に比べて極端に広く、又は狭くなることが無いよう、また、連通している排出口とのバランスを取るようにして防臭筒部や防臭オワンの大きさを設計している。このため、同じ場所で同じ目的(例えば浴室の排水口等)に用いられる排水トラップであれば、メーカーや製造時期が異なるとしても、防臭筒部の大きさ(外径)の差異が極端に異なる、という事はない。とはいえ、これは、排水口の大きさ(内径)が150ミリメートル程度の排水トラップに対して、防臭筒部の外径が、例えば最小35ミリメートルから最大55ミリメートルの間に収まる、と言った程度のものでしかない。上記の事例では、トラップ本体の内側面の大きさ(内径)や、防臭筒部の外側面の大きさ(外径)は、20ミリメートル程の幅のずれがあり、従来例の補修方法では、単一の補修部材を利用するのであれば対応することができない。
このため、従来例の方法で排水トラップを補修する場合、補修を行う作業者が、まず一度設置されている排水トラップの設置場所に出向き、各部寸法、特に防臭筒部の内径と外径を測定し、適宜寸法の捕集部材を調達した後、再度排水トラップの設置場所に出向いて補修作業を行う必要があり、効率が大変に悪かった。排水トラップの形状・寸法がどの様であっても対応できるよう、多種多様の捕集部材を用意した上で、排水トラップの設置場所に出向くという方法も不可能ではないが、この場合、大量の捕集部材を用意し、移動し、使用しなかった捕集部材を保管又は処分する必要があるなど、極めて無駄が多く、部材管理のコストが増加してしまう、という問題がある。
近年はインターネットなどの普及もあり、補修の依頼者がある程度補修の対象となる排水トラップの情報を画像などで補修作業者に送る事も容易ではあるが、従来例の方法で補修を行う場合、補修部材を防臭筒部に内接及び/又は外接させる関係上、防臭筒部の内径及び/又は外径の値を、1ミリメートル以下の単位で正確に把握しておく必要がある。補修の依頼者が部材の寸法を採寸する技能や機材を持っていることは希であるし、更に防臭筒部の内径及び/又は外径を単純な定規などで正確に採寸することも困難である(通常の定規では1ミリメートル以下の寸法についてはおおよその目分量でしか寸法を確認できない上、正確な採寸の為定規を防臭筒部に当てるには、トラップ本体の開口より小さな長さの定規を用意し、床面に設置された排水トラップ内部をかがんでのぞき込む必要がある)。
更に、破損の補修に用いられる部材である関係上、例えば排水トラップの生産個数が年間10万台に対して、補修部材は年間100台に過ぎない、というように、補修部材は決して大量に必要とされる部材ではない。従来例の方法では、この年間100台の補修部材も、補修対象となる排水トラップ毎に異なるため、実質上、「毎年100種類の補修部材を1台ずつ」用意する必要がある。このように補修部材は極端な多品種・小ロットな生産を行う必要がある為、工業製品として補修部材を生産することも困難であり、実際の補修作業としては、対象の排水トラップを確認後、必要に応じて既製のパイプなどから寸法の合うものを利用し、場合によっては手作業による加工を行って対応する、という方法を採用せざるを得ず、補修部材それ自体を作る手間も掛かる、と言った問題があった。
本発明は上記問題点に鑑みて成されたものであって、排水トラップについて、排水トラップが破損した場合に、排水トラップを補修する方法に関し、補修部材の共有化により、部材の無駄を無くしつつ、排水トラップのトラップ機能を復活させる、破損した排水トラップの再生方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の本発明は、破損した排水トラップの再生方法であって、排水が流入する排水口2及び排水を排出する排出口3を備え、内部に排出口3に連通する排出開口部4を備えたトラップ本体1と、トラップ本体1と組み合わせて封水部Sを形成し、排水口2よりも下流側からの逆流を防止する封水部材と、からなる排水トラップにおいて、
有底筒状にして平面視排水口2よりも小さく排出開口部4よりも大きな形状を成すワン部材7と、該ワン部材7上に備えたトラップ部と、から成る補修部材6を用い、トラップ本体1から封水部材を取り外し、排出開口部4を補修部材6のワン部材7の開口側にて覆い、ワン部材7の開口とトラップ本体1の内面とを水密的に接続する特徴とする、破損した排水トラップの再生方法である。
【0011】
請求項2に記載の本発明は、上記破損した排水トラップの再生方法において、
再生する排水トラップを、有底筒状にして、上方に排水口2を開口すると共に、底面より垂立する、内部に排出口3と連通する排水流路を形成した防臭筒部8を備えたトラップ本体1と、有底筒状を成す部材であって、開口を下方に向け、内部に上記防臭筒部8を収納するようにしてトラップ本体1内に配置されて封水部Sを形成する、封水部材としての防臭オワン5と、から構成することを特徴とする、上記段落0010に記載の破損した排水トラップの再生方法である。
【0012】
請求項3に記載の本発明は、上記破損した排水トラップの再生方法において、
トラップ本体1の外壁以外の、封水部Sを形成する構成の一部または全部を削除した上で、補修部材6を取り付けることを特徴とする、上記段落0010又は段落0011に記載の破損した排水トラップの再生方法である。
【0013】
請求項4に記載の本発明は、上記破損した排水トラップの再生方法において、
トラップ本体1の内面と補修部材6との間にコーキング用充填剤9を充填した事を特徴とする、上記段落0010乃至段落0012のいずれか1つに記載の破損した排水トラップの再生方法である。
【0014】
請求項5に記載の本発明は、上記破損した排水トラップの再生方法において、
少なくともトラップ本体1が金属製であることを特徴とする、上記段落0010乃至段落0013のいずれか1つに記載の破損した排水トラップの再生方法である。
【0015】
請求項6に記載の本発明は、上記破損した排水トラップの再生方法において、
トラップ部を、軟質素材の筒状の部材であって、上流側端部は円筒形状を成し、下流側端部は対向する面同士が当接することによって閉塞される、自封トラップ10にて構成したことを特徴とする、上記段落0010乃至段落0014のいずれか1つに記載の破損した排水トラップの再生方法である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の本発明は、封水式排水トラップが破損した場合に、排水トラップの封水部材を取り外し、排出口側開口部に、トラップ部を有するワン部材から成る補修部材を被せることで、破損した排水トラップに、再度トラップ機能を付加することができる。
更に請求項1に記載の発明の補修部材は、様々な寸法の排水トラップに対応する事が可能である。例えば、外径100ミリメートル、内径94ミリメートルのワン部材からなる補修部材を用意すれば、従来例に示したようなトラップ本体の内側面の大きさ(内径)が130乃至150ミリメートル、防臭筒部の大きさ(外径)が35乃至55ミリメートルの要件を満たす全ての排水トラップに対応することが可能となる。このように、様々な寸法を有する排水トラップの補修を、単一の形状・寸法からなる補修部材によって行うことが可能となるため、部材管理や部材の製造、部材の用意が極めて容易にできるようになった。
請求項2に記載の本発明では、補修される排水トラップの構成を具体的に明示できる。
請求項3に記載の本発明は、封水部の一部又は全部を削除することで、トラップ本体内部に排水が溜まることを防止、または封水部に溜まる溜まり水の量を減少させることができる。
請求項4に記載の本発明は、トラップ本体の内面と補修部材の間にコーキング用充填剤を充填することで、水密性を向上させ、下水側からの臭気の逆流をより一層確実に防ぐと共に、トラップ本体内部に排水が溜まることを防止し、または溜まり水の量を減少させることができる。
請求項5に記載の本発明では、トラップ本体の素材を明確化できる。
請求項6に記載の本発明では、トラップ部の構成を具体的に明示できる。特に、ここで記載した自封トラップは、構成上単純な構造のため、充分な排水性能を確保しつつ、その大きさをコンパクトなものとできるため、本発明のように、トラップ本体内部にトラップ部を配置する補修部材において好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施例の再生が完了した排水トラップを示す断面図である。
【図2】本実施例の破損を生じていない状態の排水トラップを示す断面図である。
【図3】本実施例の破損を生じた状態の排水トラップを示す断面図である。
【図4】本実施例の補修作業中の排水トラップを示す断面図である。
【図5】本実施例の補修部材を示す断面図である。
【図6】本実施例の補修作業中の排水トラップを示す断面図である。
【図7】本実施例の再生が完了した排水トラップの、排水状態を示す断面図である。
【図8】本発明の他の実施例を示す断面図である。
【図9】本発明の再生方法が、様々な形状の排水トラップに対応可能であることを示す参考図である。
【図10】従来の排水トラップの再生方法を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の実施例を、図面を参照しつつ説明する。
図1、参考図4乃至図7に示した、本発明の実施例の排水配管は、以下に記載した、トラップ本体1、防臭オワン5、排水管11、補修部材6、その他の部材より構成されてなる。尚、以下の部材の内、トラップ本体1また防臭オワン5は鋳鉄によって構成されてなる。
トラップ本体1は以下に記載した本体上部1a及び本体下部1bから構成される。
本体上部1aは、略円筒状の部材であって、上端は床面F上に配置されると共に、下端は本体下部1bの開口に水密的に接続されてなる。また、上端部分の開口に、目皿部材12を載置する載置部13を備えた排水口2を有してなる。
本体下部1bは、有底円筒状を成す部材であって、上方に排水口2を開口すると共に、底面下方中央に円形の排出口3を備えてなる。また、この底面に、排出口3に連通する筒状の防臭筒部8を垂立するようにして設けてなる。この排出口3に連通する防臭筒部8内部が排出開口部4となる。
防臭オワン5は、有底筒状を成す部材であって、開口を下方に向け、内部に上記防臭筒部8を収納するようにしてトラップ本体1内に配置される。
排水管11は排出口3に接続される管状の部材で、この排水管11を介して、排水口2が下水側の配管に配管接続される。
目皿部材12は、円盤状の平板に、通水用のスリットを複数開口した部材である。
排水管11は円筒形状の管体であって、上流側の端部はトラップ本体1の排出口3に、下流側の端部は下水側の配管に、それぞれ接続される。
補修部材6は、図5に示したような、以下に記載した、ワン部材7と、トラップ部としての自封トラップ10と、から成る。
ワン部材7は、有底筒状にして平面視排水口2よりも小さく排出開口部4よりも大きな形状を備えてなる。該ワン部材7は補修作業の完了時、開口を下方に向けて配置され、上方の天井部分に、トラップ部としての自封トラップ10を備えてなる。
自封トラップ10は、軟質素材の筒体部分を備えた部材であって、筒体部分の上流側端部は円筒形状を成し、下流側端部は対向する面同士が当接することによって閉塞されてなる。また、自封トラップ10の上端部分から側面方向に向かう突出部10aを備え、この突出部10a下面がワン部材7の上面に当接した状態で水密的に固定されてなる。
自封トラップ10は、上流側から排水が流れ込むと、軟質な素材によって成型されていることと、内部に加わった水圧によって、下流側端部は可撓して内部から押し広げられ、開口して内部の排水を排出する。それ以外の、内部に排水など液体の無い状態では、下端の開口は閉塞しているため、下流側からの臭気や害虫類の上流側への逆流を防止することができる。
【0019】
上記のように構成した排水配管の内、補修部材6以外の各部材は、以下のようにして、床面F上に取り付けられる。
まず、本体上部1aと下部を接続してトラップ本体1とする。次に、下水側の配管に排水管11を接続した上で、トラップ本体1の排出口3に排水管11を接続する。更にトラップ本体1の側面方向にコンクリート等を打込み、床面Fを形成する。
更に、排水トラップ内に防臭オワン5を配置し、排水口2の載置部13に目皿部材12を載置して、図2に示したように、排水トラップの施工が完了する。
【0020】
上記のように構成した排水トラップは、以下のようにして使用される。
排水トラップが設置された床面F上に排水が生じた場合、排水は、目皿部材12のスリットを介して排水口2からトラップ本体1内部に流れ込み、防臭オワン5側面を流下した後、防臭オワン5内部を通過して、防臭筒部8上端の位置まで水位が上昇する。更に防臭筒部8上端を排水が超えて防臭筒部8内部に流れ込み、排出口3、排水管11を通過し、下水側に排出される。
また、上記のようにして、トラップ本体1内部を排水が通過すると、排水時また排水終了後に、防臭オワン5の側面とトラップ本体1内部の封水部Sに封水が形成され、下水側から屋内側に、臭気や害虫類が逆流することが防止される。
【0021】
段落0018乃至0020に記載した排水トラップを、長期間に渡って使用すると、長期間排水に晒されること、また排水にとけ込んだ洗剤などの薬剤の成分などにより、鋳鉄により製造されたトラップ本体1、特に常時封水に晒される防臭筒部8の先端や根元部分等が錆などで腐食し、図3に示したように、穴が開くなどして破損してトラップ機能を喪失する場合がある。
このような場合に、補修部材6を利用し、排水トラップのトラップ機能を再生させる。
具体的には、図4に示したように、排水トラップから目皿部材12及び防臭オワン5を取り外し、更に防臭筒部8を電動の冶具等を利用し削除する。この時、排出開口部4はトラップ本体1の底面上に形成される。その後、図6に示したように、排出開口部4を覆うようにして、排出開口部4を補修部材6のワン部材7の開口側にて覆い、ワン部材7の開口とトラップ本体1の内面とを水密的に接続する。接着剤やパテ、コーキング剤等でトラップ本体1内面とワン部材7下端の当接部分を水密的に接続した後、更にトラップ本体1内面とワン部材7の間に、防水性を備えたコーキング用の充填剤を充填させてなる。尚、ここで言うコーキング用充填剤9とは、非水溶性で、また水や有機溶媒などにある程度耐性があり、充填時には形状を自在に変形させることができ、排水トラップの使用時には排水の流れに流されることが無いような素材を意味するものであって、シリコーン系接着剤や、特に排水に流されなければ、油粘土などでも構わない。このコーキング用充填剤9を利用することにより、ワン部材7をトラップ本体1に強固に固定すると共に、トラップ本体1とワン部材7との接続の水密性を高めるように構成してなる。尚、本実施例ではコーキング用充填剤9はワン部材7の上縁以上の高さまで盛り上げられて成り、これにより、排水口2から流入した、トラップ本体1内部の排水は、全て自封トラップ10内部に流れ込み、コーキング用充填剤9上面等に残ることはない。
最後に、再度排水口2の載置部13に目皿部材12を載置して、本実施例の排水トラップの再生が完了する。
【0022】
このようにして再生した排水トラップは、以下のようにして使用される。
排水トラップが設置された床面F上に排水が生じた場合、排水は、目皿部材12のスリットを介して排水口2からトラップ本体1内部に流れ込み、トラップ部である自封トラップ10の上端の位置まで水位が上昇する。更に自封トラップ10上端を排水が超えて自封トラップ10内部に流れ込むと、自封トラップ10内部にある程度排水が溜まった時点で、自封トラップ10内部に加わった水圧によって、下流側端部は可撓して内部から押し広げられ、図7に示したような状態となり、開口して内部の排水を排出し、更に、排出口3、排水管11を通過し、下水側に排出される。
それ以外の、自封トラップ10内部に排水など液体の無い状態では、図1に示したように、下端の開口は閉塞しているため、下流側からの臭気や害虫類の上流側への逆流を防止することができる。
【0023】
上記のように構成し、再生した排水トラップにおいて、排水トラップ内部に溜まる排水は、自封トラップ10内部に溜まる排水のみである。これは、自封トラップ10を開口させることができない程水量が少ないものであり、また排水トラップに排水が流されれば順次新しい排水に入れ替わってゆくため、衛生的に問題が生じることはほとんど無い。再生後に溜まる溜まり水は、水量的には補修前の排水トラップの封水よりも少量であるため、補修前より衛生的であると言える。
【0024】
本発明の他の実施例として、図8に示したように、コーキング用充填剤9を充填することなく、また防臭筒部8を残したまま、トラップ本体1とワン部材7の間を水密的に接続するだけでも、本発明の目的である、排水トラップへのトラップ機能の再生を行うことができる。但し、コーキング用充填剤9を充填しなかった場合、ワン部外周面とトラップ本体1との間に排水溜まりができ、不衛生であることから、トラップ本体1とワン部材7の間をコーキング剤にて埋めた方が良好な排水トラップであると言うことができる。
また、トラップ本体1の防臭筒部8とワン部材7やトラップ部が干渉する場合は、やはり防臭筒部8を削除する必要がある。
また、防臭筒部8を削除しなかった場合、ワン部材7内周面と防臭筒部8外周面との間に排水溜まりができ、不衛生であることから、防臭筒部8を削除した方が良好な排水トラップであると言うことができる。
【0025】
上記した、本発明の排水トラップの再生方法では、従来例の補修部材6を防臭筒部8に当接させるのとは違い、防臭筒部8に補修部材6のワン部材7を当接させる必要がない。むしろワン部材7を防臭筒部8やトラップ本体1内部には当接しないように、若干の隙間を有している方が好適である。
そして、本発明の排水トラップの再生方法では、同一形状・寸法の補修部材6を、複数種類の、形状/寸法の異なる排水トラップの補修に利用することができる。例えば、外径100ミリメートル、内径94ミリメートルのワン部材7を採用した補修部材6を用いる場合、トラップ本体1の内径が100ミリメートル以上且つ防臭筒部8の外径が94ミリメートル以下であれば、全ての排水トラップの補修に利用することができる。つまり、段落0009に記載した従来例の排水トラップのように、トラップ本体1の内径が130乃至150ミリメートル、防臭筒部8の外径が35乃至55ミリメートルの排水トラップであれば、全て利用することができる。前述のように、排水トラップの取り付け口や接続するパイプの規格の関係から、排水口2や防臭筒部8の大きさは「ある程度の範囲」に収束するものであり、本発明の補修部材6は、その「ある程度の範囲」のほぼ全てを、単一の形状・寸法のワン部材7にて対応する事が可能とすることができる。
図9に示した参考図はその一例で、中心線の左右にて防臭筒部8の外径またトラップ本体1の内径がそれぞれ異なるが、補修部材6のワン部材7については左右とも同じ内径・外径を有しており、この補修部材6によって支障無く排水トラップを再生した状態となっている。
尚、上記した構成は、トラップ本体1の内径や防臭筒部8の外径等、排水トラップの水平方向の要素に対して補修部材6が対応可能であることを説明しているが、鉛直方向に対しても、防臭筒部8内などにトラップ部が収納可能であれば特に支障無く補修部材6が対応可能であるし、もし防臭筒部8にトラップ部が干渉するようであっても、防臭筒部8を上記実施例の用に電動の冶具などを用い、削除することで、防臭筒部8にトラップ部が干渉すること無いようにすることができ、鉛直方向の要素に対しても、支障無く対応することができる。
このように、様々な形状・寸法の排水トラップの補修作業を単一形状・寸法の補修部材6で対応することができるようになったため、補修作業者が、事前に現場を訪問して採寸などを行う必要はほぼ無くなった。もちろん、修理というイレギュラーな問題への対応のため、事前に不備がないかを確認する方が好適であるが、本発明では、対応可能な排水トラップの形状・寸法の幅が広いため、事前に補修の依頼者が、定規を排水口2に載せた状態の画像、及びトラップ本体1の内部を撮影し、インターネット回線などを利用し補修の作業者に送信すれば、補修の作業者が補修作業の対象となる排水トラップの概略の寸法や本体内部の形状を把握でき、誤差を考慮しても、共通の補修部材6で補修を行うことに支障がないことを確認できれば、補修作業者が、事前に現場を訪問して採寸などを行う必要は無い(例外的に、画像等を通じ、共通の補修部材6で補修を行うことに支障があると判断された場合は、事前に補修対象の排水トラップを、補修作業者が確認し、対応を検討する必要がある)。
また、ほぼ全ての補修作業を単一形状・寸法のワン部材7で対応することから、例えば補修作業が年間100台に過ぎない場合でも、この100台のほぼ全てを同一の形状・寸法の補修部材6で対応することができることとなった。
このため、ワン部材7を含む補修部材6を工業的に生産しても、少数生産の工業製品としてコスト的に引き合うような数量を確保できるようになるなど、部材の単一化によるメリットを得ることもできるようになった。
【0026】
本発明の実施例は以上のようであるが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、主旨を変更しない範囲において自由に変更が可能である。
例えば、上記実施例では、トラップ本体1を鋳鉄にて構成してなるが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、トラップ本体1や関連部材を樹脂材料にて構成するようにしても構わない。
【符号の説明】
【0027】
1 トラップ本体 1a 本体上部
1b 本体下部 2 排水口
3 排出口 4 排出開口部
5 防臭オワン 6 補修部材
7 ワン部材 8 防臭筒部
9 コーキング用充填剤 10 自封トラップ
10a 突出部 11 排水管
12 目皿部材 13 載置部
B 破損個所 F 床面
S 封水部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
破損した排水トラップの再生方法であって、
排水が流入する排水口2及び排水を排出する排出口3を備え、内部に排出口3に連通する排出開口部4を備えたトラップ本体1と、
トラップ本体1と組み合わせて封水部Sを形成し、排水口2よりも下流側からの逆流を防止する封水部材と、
からなる排水トラップにおいて、
有底筒状にして平面視排水口2よりも小さく排出開口部4よりも大きな形状を成すワン部材7と、
該ワン部材7上に備えたトラップ部と、
から成る補修部材6を用い、
トラップ本体1から封水部材を取り外し、
排出開口部4を補修部材6のワン部材7の開口側にて覆い、ワン部材7の開口とトラップ本体1の内面とを水密的に接続する特徴とする、
破損した排水トラップの再生方法。
【請求項2】
上記破損した排水トラップの再生方法において、
再生する排水トラップを、
有底筒状にして、上方に排水口2を開口すると共に、底面より垂立する、内部に排出口3と連通する排水流路を形成した防臭筒部8を備えたトラップ本体1と、
有底筒状を成す部材であって、開口を下方に向け、内部に上記防臭筒部8を収納するようにしてトラップ本体1内に配置されて封水部Sを形成する、封水部材としての防臭オワン5と、
から構成することを特徴とする、上記請求項1に記載の破損した排水トラップの再生方法。
【請求項3】
上記破損した排水トラップの再生方法において、
トラップ本体1の外壁以外の、封水部Sを形成する構成の一部または全部を削除した上で、補修部材6を取り付けることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の破損した排水トラップの再生方法。
【請求項4】
上記破損した排水トラップの再生方法において、
トラップ本体1の内面と補修部材6との間にコーキング用充填剤9を充填した事を特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の破損した排水トラップの再生方法。
【請求項5】
上記破損した排水トラップの再生方法において、
少なくともトラップ本体1が金属製であることを特徴とする、
上記請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の破損した排水トラップの再生方法。
【請求項6】
上記破損した排水トラップの再生方法において、
トラップ部を、
軟質素材の筒状の部材であって、上流側端部は円筒形状を成し、下流側端部は対向する面同士が当接することによって閉塞される、自封トラップ10にて構成したことを特徴とする、
上記請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の破損した排水トラップの再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−87459(P2013−87459A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227490(P2011−227490)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000157212)丸一株式会社 (158)
【Fターム(参考)】