説明

破骨細胞分化誘導抑制剤および破骨細胞分化誘導抑制方法

【課題】骨破壊を伴う疾患の治療方法、治療剤を提供する。
【解決手段】ヒトインターロイキン−4のDNAが組み込まれた改変アデノ随伴ウイルスにより、破骨細胞の前駆細胞である単球にIL−4の破骨分化抑制作用を直接に作用させることで、骨破壊を抑制する。
本発明の破骨分化抑制剤は、慢性関節リウマチ、歯周病、骨粗鬆症などの治療剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトインターロイキン−4遺伝子が組み込まれた改変アデノ随伴ウイルスからなる破骨細胞分化誘導抑制剤およびヒトインターロイキン−4遺伝子が組み込まれた改変アデノ随伴ウイルスを用いる破骨細胞分化誘導抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチ(rheumatoid arthritis、以下、RAと称する。)は、多発性の関節炎を主症状とする進行性炎症性疾患であり、関節の滑膜細胞が異常増殖し周囲の軟骨、骨が侵され、関節の変形と拘縮に至る。RAの骨の病変には破骨細胞が関与している。
骨を破壊する機能を担う破骨細胞は、単球・マクロファージ系の前駆細胞から分化する多核の巨細胞である。そして、破骨細胞の分化に関与するサイトカインは、マクロファージコロニー刺激因子(macrophage colony stimulating factor:M-CSF)およびRANKL(receptor activator of NF-κB ligand)である(非特許文献1)。
RAにおいて血清および関節液中の種々の炎症性サイトカインの上昇が認められている。炎症性サイトカインの代表であるインターロイキン−1(IL-1)が、滑膜繊維芽細胞のRANKLの発現を上昇させ、破骨細胞分化を間接的に促進し、また、破骨細胞に直接作用してその機能を亢進させていると考えられている(非特許文献2)。
一方、Th2型の抗炎症性サイトカインであるインターロイキン−4(IL-4)および インターロイキン−10(IL-10)は、破骨細胞分化を抑制する(非特許文献3)。
【0003】
ところで、RA治療の一つとして、遺伝子治療に関する検討が行われている。IL−4を利用したもの関しては、例えば、慢性関節リウマチの病態モデルであるコラーゲン誘発関節炎動物において、IL−4遺伝子を組み込んだ組み換えアデノウイルスにより炎症性サイトカインのIL−17の産生が抑制され、骨びらんが防げること(非特許文献4)やIL−4遺伝子を担持するアデノ随伴ウイルスをマウス足根部に注射しすることで関節炎が改善すること(非特許文献5)が報告されている。
【0004】
【非特許文献1】Nippon Rinsho Vol.63, No.9, 1511-1516, 2005
【非特許文献2】Nippon Rinsho Vol.63, Suppl 1, 84-86, 2005
【非特許文献3】Nippon Rinsho Vol.63, No.9, 1529-1532, 2005
【非特許文献4】J. Clin. Invest. 105, 1697-1710, 2000
【非特許文献5】Gene Ther., 22(7), 1930-1939, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献4および5に記載されているように、抗炎症サイトカインであるIL−4遺伝子をウイルスベクターに担持し、関節近傍の組織で発現させ関節炎を治療させる試みがなされている。しかし、RAは、炎症サイトカインにより単球・マクロファージ系の前駆細胞から破骨細胞への分化の亢進した状態にあり、単に、IL−4を関節近傍の組織に発現させただけでは、その効果は不十分である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ヒトIL−4のDNAが組み込まれた改変アデノ随伴ウイルスにより、破骨細胞の前駆細胞である単球にIL−4の破骨分化抑制作用を直接に作用させるものである。
本発明によれば、ヒトIL−4のDNAが組み込まれた改変アデノ随伴ウイルスからなる破骨細胞誘導抑制剤が得られ、ヒトIL−4のDNAが組み込まれた改変アデノ随伴ウイルスを単球に感染させることにより単球由来の破骨細胞分化誘導を抑制する方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、関節リウマチの炎症部位にIL−4の破骨分化抑制作用を効果的に発揮させることができ、関節リウマチの骨破壊を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に使用する改変アデノ随伴ウィルスは、IL−4をコードするDNAを機能しうる形で含んでおり、これによりIL−4を発現することができる。ここで「機能しうる形で含んでいる」とは、適切な調節エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、転写ターミネーターなど)の制御下に、導入遺伝子(DNA)の発現を可能にする様式で、そのベクター中に該導入遺伝子が挿入されていることを意味する。
【0009】
本発明で使用されるIL−4をコードするDNAとしては、cDNAであってもゲノムDNAであってもよい。IL−4cDNAおよびIL−4ゲノムDNAについては、例えば、特表平63-501401に配列が開示されている。
IL−4cDNAおよびIL−4ゲノムDNAは、上記の開示されている配列情報を基にオリゴヌクレオチド(通常、15〜50塩基)を合成し、これをプライマーとして、IL−4が発現している組織または細胞由来のcDNAを鋳型にポリメラーゼ連鎖反応を行なうことにより増幅し、調製することができる。また、上記の開示されている配列の一部を有するDNA断片をプローブとして、プラークハイブリダイゼーション法やコロニーハイブリダイゼーション法により、cDNAライブラリーやゲノムライブラリーをスクリーニングすることによってもIL−4cDNAおよびIL−4ゲノムDNAを調製することができる。cDNAライブラリーとしては、例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83:5894-5898, 1986に記載のものが挙げられる。
【0010】
ポリメラーゼ連鎖反応やハイブリダイゼーション法は、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning (Cold Spring Harbor Lab.Press)等の実験書に記載されている一般的な方法に従って行なうことができる。ポリメラーゼ連鎖反応により増幅したDNA断片やハイブリダイゼーション法によりスクリーニングされたDNA断片は、適当なプラスミドDNAなどにサブクローニングし、発現実験などに用いることができる。
【0011】
さらに、本発明の改変アデノ随伴ウイルスは、ヒトIL−4を効率よく発現させるための調節エレメント、例えば、プロモーター、エンハンサー、転写ターミネーターなどを含んでいてもよく、必要に応じて、DNAに翻訳開始コドン、翻訳終止コドンなどを挿入してもよい。
【0012】
本発明による改変アデノ随伴ウィルスは、当技術分野で周知となっている標準的方法により調製することができる。例えば、米国特許第5858351号およびそこに引用される参考文献には、遺伝子治療における使用に適切な種々の組換えアデノ随伴ウィルス、ならびにそれらのベクターの作製方法および増殖方法が記載されている(例えば、Kotin(1994)Human Gene Therapy 5:793〜801、またはBerns「Parvoviridae and their Replication」Fundamental Virology、第2版、Fields&Knipe編など)。
【0013】
改変アデノ随伴ウィルスを作製するための好ましい方法は、例えば、野生型アデノ随伴ウィルスの両端のITRを残し、その間に目的の遺伝子を挿入することによりプラスミドを作製する(AAVベクタープラスミド)。一方、Rep遺伝子(複製蛋白をコードする遺伝子)およびCap遺伝子(ウイルスの頭殻蛋白をコードする遺伝子)を発現するプラスミド、ならびにアデノウイルス遺伝子であるE2A、E4、およびVAの各遺伝子を発現するプラスミドを用意する。次いで、これら3種のプラスミドを、E1遺伝子を発現するパッケージング細胞、例えばHEK293細胞に同時トランスフェクションし、この細胞を培養する。これにより、哺乳動物細胞対して高い感染能力を持つアデノ随伴ウィルス粒子を産生することができる。このような方法は、AAV−Helper−Free System(Stratagene)などの市販のキットを用いて容易に行なうことができる。
【0014】
本発明の破骨細胞誘導抑制剤は、有効成分であるヒトIL−4のDNAが組み込まれた改変アデノ随伴ウィルスを単球に感染させることにより単球由来の破骨細胞分化を抑制することができ、関節リウマチ等、骨破壊を伴う疾患の治療に用いることができる。
【0015】
本発明の破骨細胞誘導抑制剤の投与方法は、遺伝子治療の分野において使用可能な方法、例えば、腹腔内注入、気管内注入、気管支内注入および直接的な気管支内滴注、皮下注入、経皮輸送、動脈内注入、静脈内注入等(FlotteおよびCarter,Gene Therapy 2:357-362(1995)参照)と同様の方法が挙げられる。
【0016】
破骨細胞誘導抑制剤の投与量は治療上有効量であればよく、このような量は遺伝子治療分野の当業者であれば容易に決定することができる。また、投与量は、被験者の病態の重篤度、性別、年齢、体重、習慣等によって調整することが好ましいが、このような投与量の調整は、医師によって適宜行なわれる。
【0017】
本発明の破骨細胞誘導抑制剤を医薬組成物とする場合、例えば、注射剤の剤型であれば、希釈剤、保存剤等を含むことができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例および試験例によってより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
実施例1
[ヒトIL−4のcDNAを発現する改変アデノ随伴ウィルスの構築]
アデノ随伴ウィルス(Stratagene社製:pAAV−MCS)にヒトインターロイキン−4(IL−4)遺伝子のcDNAを組み込んだpAAV−IL−4を作成した。
ヒトIL−4のcDNAは、文献(Proc Natl Acad Sci U S A. 83:5894-5898, 1986)に記載のcDNAライブラリーより選択したものを用いた。
次に、アデノ随伴ウィルスを作製するためpAAV−IRES−GFP (Stratagene社製)またはpAAV−IL−4の2種類のプラスミドDNAおよびパッケージングプラスミド(pAAV−RC plasmid、pHelper plasmid:Stratagene社製)をリン酸カルシウム法によりHEK293細胞(ATCC CRL1573)に遺伝子導入した。遺伝子導入して72時間後に細胞上清を回収し2種類のウイルス粒子(AAV−GFP,AAV−IL−4) を得た。AAV−GFPとAAV−IL−4のウイルス粒子の力価はAAV Titration ELISA kit(PROGEN)により測定した。
【0020】
実施例2
[ヒト末梢血単球の分離]
健常成人よりヘパリン採血にて末梢血採取を行い、Ficoll−Paque Plus(Amersham社製)による比重遠心法により末梢血単核球を得た。末梢血単球は、human Monocyte Isolation KitII(Miltenvi Biotec社製)を使用し、Magnetic cell sorting(MACS)法により上記の末梢血単核球中の非単球(Tリンパ球,Bリンパ球,NK細胞,樹状細胞,好塩基球)を除去することにより末梢血単球を精製した。
【0021】
実施例3
[破骨細胞の分化誘導]
上記MACS法により得られたヒト末梢血単球を細胞調整し96穴プレート(1×10/well)および24穴プレート(6×10/well)で培養した。単球から破骨細胞に分化誘導するためにM−CSF(Macrophage−colony stimulating factor)およびRANKL(Receptor activator of NF κB)を添加し5日間37℃、5%CO環境下で培養した。培養後,酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ染色(TRAP染色)を行いTRAP染色で染色され3核以上の多核巨細胞を破骨細胞とした。
【0022】
実施例4
[AAV−IL−4による破骨細胞分化誘導の抑制]
末梢血単球培養系に一定の濃度のAAV−IL−4ウィルス溶液を加えて, RANKLによる破骨細胞分化誘導に対するIL−4遺伝子導入の効果を検討した。
AAV−IL−4はヒト末梢血単球に効率よく感染すること、さらにIL−4の産生を誘導し、その結果RANKL刺激による破骨細胞の誘導を強く抑制することを確認した。(図1)
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明に係るインターロイキン−4遺伝子が組み込まれた改変アデノ随伴ウィルスからなる破骨細胞分化誘導抑制剤は、慢性関節リウマチ、歯周病、骨粗鬆症などの治療剤として有用である。また,インターロイキン−4遺伝子が組み込まれた改変アデノ随伴ウィルスを用いる破骨細胞分化誘導抑制方法は、関節リウマチ、歯周病、骨粗鬆症などの治療剤方法として有用である
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ染色(TRAP染色)で染色され3核以上の多核巨細胞(破骨細胞)の数と感染させたウイルスの数に関する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトインターロイキン−4のDNAが組み込まれた改変アデノ随伴ウイルスからなる破骨細胞誘導抑制剤。
【請求項2】
ヒトインターロイキン−4のDNAが組み込まれた改変アデノ随伴ウイルスを単球に感染させることにより単球由来の破骨細胞分化誘導を抑制する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−91623(P2007−91623A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−281831(P2005−281831)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第49回日本リウマチ学会総会・学術集会抄録集 発送日:平成17年3月28日
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】