説明

硫化リチウムの製造方法、及び硫化リチウムの製造装置

【課題】反応槽への硫化リチウムの付着を低減し、回収率を向上できる硫化リチウムの製造方法、及び硫化リチウムの製造装置を提供する。
【解決手段】炭化水素系有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを反応させる硫化リチウムの製造方法であって、水分量が10重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒を補充する工程を含む方法としてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化リチウムの製造方法、及び硫化リチウムの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の硫化リチウムの製造方法として、特許文献1は、水酸化リチウムと非プロトン性有機溶媒からなるスラリー中に硫化水素を吹き込み、水硫化リチウム製造後、脱水・脱硫化水素することにより無水硫化リチウムを製造する方法と、硫化水素を連続して吹き込み、直接無水硫化リチウムを製造する方法を開示する。
また、特許文献2は、粒径を0.1mm〜1.5mmに制御した固体状の水酸化リチウムに、水素ガスと硫黄ガスを同時に、又は硫化水素を吹き込み、130℃〜445℃の温度で硫化リチウムを製造する方法を開示する。
【0003】
アルカリ金属硫化物の製造方法として、特許文献3は、含水アルカリ水硫化物とアルカリ金属水酸化物水溶液を反応させて得られるアルカリ金属硫化物水溶液を、非水溶性の分散媒と接触させ脱水する製造方法を開示する。
【0004】
上記の製造方法等を用いて製造される硫化リチウムは、ポリアリーレンスルフィドの原料として知られているが、近年では、リチウム電池用硫化物系固体電解質の原料として用いられる場合が増えている。
【0005】
硫化物系固体電解質について、特許文献4には10−4S/cm台のイオン伝導性を有する固体電解質が開示されている。同様に、特許文献5にはLiSとPから合成された固体電解質であって、10−4/cm台のイオン伝導性を有する固体電解質が開示されている。
また、特許文献6にはLiSとPを68〜74モル%:26〜32モル%の比率で合成した硫化物系結晶化ガラスが開示されている。この固体電解質では10−3S/cm台のイオン伝導性を実現している。
【0006】
特許文献1及び特許文献7に開示されている硫化リチウムの製造方法では、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を代表とする極性溶媒が通常使用されている。しかしながら、NMPを使用した場合、不純物としてNMPと水酸化リチウムが反応したN−メチルアミノ酪酸リチウム(LMAB)が生成する。また、例えば、極性溶媒として一般的なジメチルホルムアミド(DMF)やアルコール類として1−オクチルアルコールを溶媒として使用した場合も、水酸化リチウムや硫化水素と反応して不純物を生じて、反応液が高粘度となる。
このように、水酸化リチウムと硫化水素から硫化リチウムを製造するために極性溶媒を使用すると、何らかの不純物を生じて原料のロスや反応の進行が妨げられるという問題があった。
【0007】
上記に加えて、従来の極性溶媒を使用した硫化リチウム製造方法では、反応中間体である水硫化リチウムの脱硫化水素を進めるために、150℃以上の高温が必要であった。しかしながら、反応温度を150℃以上とするためには、150℃以上の高沸点を有する極性溶媒が望ましいが、得られる硫化リチウムを電解質原料として使用するためには極性溶媒や不純物を除去する必要があり、高沸点溶媒を除去するための乾燥工程が必須となる問題があった。
【0008】
水硫化リチウムは通常、極性溶媒に溶解するため、原料である水酸化リチウムの仕込みを増加すると水硫化リチウム溶液の粘度が急激に上昇し、反応速度の低下や水酸化リチウムが残留する等の不具合があった。
また、水硫化リチウム製造後や硫化リチウム製造中に、反応温度を昇温して反応生成水を留去しており、この際、水分共存下で硫化リチウムの結晶が成長するため、内部が詰まった立方体形状のLiSが得られていた。このLiSは、内部が詰まった構造であるため比表面積が1.0m/gに満たないものであるのが実情であった。
【0009】
特許文献8は、炭化水素系有機溶媒中で硫化リチウムを合成する方法を開示する。特許文献8では、系内の水分が実質的に無くなった後に硫化水素の吹込みを止めると開示するが、系内の水分除去に伴い留出する炭化水素系有機溶媒を反応槽に戻す又は新たに加えたりする場合、炭化水素系有機溶媒に含まれる水分が反応槽内に供給されることになる。
この方法で合成される硫化リチウムは比表面積が大きく、固体電解質原料に適することが示されている。しかしながら、本方法で硫化リチウムを合成した場合、反応槽の接液部、攪拌翼軸部等に付着が発生し、製品への不純物のコンタミの原因となり、また、回収率が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−330312号公報
【特許文献2】特開平9−278423号公報
【特許文献3】特開2006−16281号公報
【特許文献4】特開平4−202024号公報
【特許文献5】特開2002−109955号公報
【特許文献6】特開2005−228570号公報
【特許文献7】国際公開第04/106232号パンフレット
【特許文献8】特開2010-163356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、反応槽への硫化リチウムの付着を低減し、回収率を向上できる硫化リチウムの製造方法、及び硫化リチウムの製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、以下の硫化リチウムの製造方法等が提供される。
本発明の硫化リチウムの製造方法は、炭化水素系有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを反応させる硫化リチウムの製造方法であって、水分量が10重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒を補充する工程を含む方法としてある。
また、好ましくは、補充する炭化水素系有機溶媒の水分量を常に10重量ppm以下としてもよい。
また、好ましくは、密閉型反応容器の内部に硫化水素を吹き込むことにより、密閉型反応容器の内部で前記水酸化リチウムと硫化水素との反応を生じさせ、前記反応中に密閉型反応容器の内部で生じる混合気体を密閉型反応容器の外部へ排出するとともに、密閉型反応容器の内部に炭化水素系有機溶媒を補充してもよい。
また、好ましくは、補充する炭化水素系有機溶媒が、前記混合気体から得られる炭化水素系有機溶媒であってもよい。
また、好ましくは、前記炭化水素系有機溶媒が、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン及びドデカンから選ばれる1種又は2種以上からなってもよい。
【0013】
また、本発明の硫化リチウムの製造装置は、炭化水素系有機溶媒及び水酸化リチウムの封入される密閉型の反応容器と、この反応容器を加温する加温手段と、反応容器の内部を撹拌する撹拌手段と、反応容器の内部に硫化水素を吹き込む吹込手段と、反応中に反応容器の内部で生じる混合気体を反応容器の外部へ排出する排出手段と、反応容器の内部に炭化水素系有機溶媒を補充する補充手段と、水酸化リチウムと硫化水素との反応状態を検出する検出手段と、この検出手段からの検出信号にもとづいて、水分量が10重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒を補充するように、補充手段を制御する補充用制御手段と、を備えた構成としてある。
また、好ましくは、前記補充手段が脱水手段を有してもよい。
また、好ましくは、前記補充手段が、排出される前記混合気体から前記炭化水素系有機溶媒を回収する回収手段を有してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、反応槽への硫化リチウムの付着を低減し、回収率を向上できる硫化リチウムの製造方法、及び硫化リチウムの製造装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施形態にかかる硫化リチウムの製造装置を説明するための概略図を示している。
【図2】図2は、本発明の一実施形態にかかる硫化リチウムの製造装置の動作を説明するための概略フローチャート図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の硫化リチウムの製造方法は、炭化水素系有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを反応させる硫化リチウムの製造方法であり、水分量が10重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒を補充する工程を含む。
一定の場合に、補充する炭化水素系有機溶媒に含まれる水分量が10重量ppmを超えると硫化リチウムの変性を引き起こし、反応槽に付着する原因物質を生成する。本発明では、水分量が10重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒を補充する工程を含むことにより、得られる硫化リチウムの反応槽への付着が解消され、回収率を向上させることができるだけでなく、反応槽の洗浄作業が不要となるので製造コストの削減ができる。
また、炭化水素系有機溶媒を用いることにより、NMP等の極性溶媒を用いる場合に比べて、不純物の生成が抑制できることで原料である水酸化リチウムのロスを低減でき、且つ比較的低温で反応を実施できるため、製造コストを削減できる。
【0017】
補充する炭化水素系有機溶媒の水分量は、好ましくは8重量ppm以下であり、さらに好ましくは5重量ppm以下である。
本発明では、水酸化リチウムと硫化水素の反応開始から完結するまでの間に、水分量が10重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒を補充すればよく、補充する炭化水素系有機溶媒の全てが、水分量が10重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒でなくともよい。
ここで、遅くとも一定の場合になった以降、補充する炭化水素系有機溶媒の水分量を10重量ppm以下にし、反応が完了するまで補充する炭化水素系有機溶媒の水分量を10重量ppm以下にし続けることが好ましい。
また、水分量を切り替えるという工程を省くことができるという観点から、炭化水素系有機溶媒を補充する場合には、水分量が常に10重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒を補充するとしてもよい。
さらに、製造コストの観点から、遅くとも反応転化率が所定の値になった以降については、水分量が10重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒を補充するとしてもよい。
【0018】
ここで、上記の「反応転化率が所定の値」になるとは、例えば、反応転化率が80%になることや、反応転化率が90%になることを意味する。
反応転化率は下記方法により求める。
容器内部のスラリー中の水酸化リチウムを測定し、仕込んだ水酸化リチウムの量の20重量%になったときに反応転化率が80%になったとする。
また、容器内部のスラリー中の水酸化リチウムを測定し、仕込んだ水酸化リチウムの量の10重量%になったときに反応転化率が90%になったとする。
上記の反応転化率は、例えば次のように求める。容器内部のスラリーを一部抜き出し、水を加え固形分を溶解する。水相を塩酸、硝酸銀滴定を行うことにより固形分中のLi量と固形分中のLiOH量を測定する。固形分中のLiは、全て仕込んだ水酸化リチウム由来のものであるので、ここから転化率を算出する。
【0019】
また、容器内部で生じる水分を含む混合気体を、コンデンサにより凝縮した際、遅くとも目視により水相が無くなった以降、補充する炭化水素系有機溶媒の水分量を10重量ppm以下にしても良い。
【0020】
炭化水素系有機溶媒は、強アルカリである水酸化リチウム、及び酸である硫化水素との反応性が低く、不純物をほとんど生成しない。そのため、不純物を除去するための精製工程が不要となり、大幅な製造プロセスの簡素化が図れる。
本発明で用いられる炭化水素系有機溶媒は、1種で使用してもよく、2種以上の混合溶媒で使用してもよい。沸点が100℃未満の炭化系有機溶媒であっても、沸点が100℃以上の炭化系有機溶媒であってもよい。具体的には、ベンゼン(沸点80℃)、トルエン(沸点111℃)、キシレン(沸点:p−体、138℃,m−体、139℃,o−体、144℃)、エチルベンゼン(沸点136℃)及びドデカン(沸点215℃)から選ばれる1種又はこれらの混合物が好適に用いられる。
【0021】
使用する水酸化リチウムは、特に制限はなく、工業的に市販されている水酸化リチウムが使用できる。高純度な硫化リチウムを得ることができるため、不純物含有量の少ない水酸化リチウムを使用することが好ましい。
使用する硫化水素にも特に制限はないが、高純度の硫化リチウムを得ることができることから、二酸化炭素やアンモニアガス等の不純物含有量の少ない硫化水素を使用することが好ましい。
【0022】
本発明の硫化リチウムの製造方法は、好ましくは硫化水素を密閉型反応容器(例えばセパラブルフラスコ)の内部に吹き込むことにより、密閉型反応容器内のスラリー中の水酸化リチウムと硫化水素とを密閉型反応容器の内部で反応させる。
尚、上記スラリーは、水酸化リチウム粒子が炭化水素系有機溶媒に分散しているスラリーである。
【0023】
出発溶媒は、水分量が10重量ppm超の炭化水素系有機溶媒であってもよいし、水分量が10重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒であってもよい。
好ましい出発溶媒は、補充する炭化水素系有機溶媒と同様である。
【0024】
水酸化リチウムと炭化水素系有機溶媒からなるスラリーの水酸化リチウムの仕込み量は、特に制限はなく、取り扱いや輸送を考慮して適切な濃度とすればよい。例えば、スラリーにおける水酸化リチウムの量は30重量%以下であることが望ましい。
また、硫化水素の吹き込み速度は、反応系の規模や反応条件等により適宜調整すればよい。
【0025】
本発明の製造方法では、好ましくは水酸化リチウムと硫化水素の反応により生じる水を反応容器の内部から除去しながら反応を継続的に行う。具体的には、反応中に反応容器の内部で生じる水は、炭化水素系有機溶媒の気体等と混合気体になるため、この混合気体を反応容器の外部に排出する。
また、反応容器の外部に排出した混合気体をコンデンサ等で凝縮して炭化水素系有機溶媒から水分を除き、この水分が除かれた炭化水素系有機溶媒を反応容器に戻しても良い。
上記排出により反応系に実質的に水分が存在しないため、硫化リチウムの結晶成長が進まず、比表面積の大きい硫化リチウムを得ることができる。得られる硫化リチウムは、固体電解質の製造原料として好適である。
【0026】
上記排出の際に、溶媒に用いている炭化水素系有機溶媒が水と共に混合気体として反応系外へ継続的に除去されるため、除去された量の炭化水素系有機溶媒を継続的に反応系に補充する必要が生じる。
炭化水素系有機溶媒の補充は、新たな炭化水素系有機溶媒の投入でもよいが、上記のように排出した混合気体をコンデンサ等で凝縮し、脱水して得られる炭化水素系有機溶媒を補充してもよい。
炭化水素系有機溶媒を補充することでスラリー濃度を調整することもできる。
【0027】
炭化水素系有機溶媒の水分量を10重量ppm以下にする脱水処理方法としては、モレキュラーシーブス、アルミナ等の乾燥剤を充填したカラムに炭化水素系有機溶媒を通ずる方法を用いてもよいし、貯蔵タンクに炭化水素系有機溶媒を一旦保持し、ここで脱水剤の添加やガスのバブリング等を行う方法でもよい。
【0028】
反応時の圧力は、常圧であっても加圧であってもいずれでもよい。
加圧することにより反応速度を大きくすることができ、使用する硫化水素量を低減することができる。加圧する場合の圧力は0.2〜3.0MPaが好ましい。
【0029】
反応時の温度は、用いる炭化水素系有機溶媒の沸点と硫化水素の溶解度、反応時の圧力により異なるが、炭化水素系有機溶媒が水の沸点以上の温度で、反応時の圧力下における炭化水素系有機溶媒の沸点以下であることが好ましい。反応時の温度は、100℃以上300℃以下がさらに好ましく、100℃以上250℃以下がより好ましい。
加熱下で反応させることにより、反応により生じた水をスラリー内から除去することができる。特に、上述した水の沸点以上の温度とすることにより、スラリー内から水を効率よく除去することができる。反応系から速やかに水分を除去することにより、反応系に水分が実質的に存在しない状態とすることができるため、硫化リチウムの結晶成長が進まず、比表面積の大きい硫化リチウムを得ることができる。
【0030】
反応が進行し、スラリー中から原料である水酸化リチウムが消失すると、水の発生が止まる。本発明において、系内の水分が実質的に無くなった後とは、反応系から蒸発する水分が観測されなくなった状態を意味する。水の発生が止まった後、硫化水素の吹き込みを止め、不活性ガスを吹き込む。この不活性ガスの吹き込みにより系内の残留する硫化水素を取り除くことも可能である。
なお上記した「反応が完了する」とは、スラリー中から原料である水酸化リチウムが消失した時点を意味する。
また「スラリー中から原料である水酸化リチウムが消失した時点」で炭化水素系有機溶媒の補充を完了させることが好ましい。
さらに、本実施形態では、上述したように、反応系から蒸発する水分量の推移にもとづいて、水酸化リチウムが消失したものと判断しているが、これに限定されるものではない。たとえば、反応転化率が98%以上になると、水酸化リチウムが消失したものと判断してもよい。
【0031】
脱硫化水素後、スラリーの固体成分と有機溶媒を分離し、乾燥することにより、硫化リチウムを回収できる。尚、後述するように、スラリーの状態で固体電解質の製造工程に使用してもよい。
【0032】
本発明の製造方法で得られる硫化リチウムは、比表面積が大きいものである。具体的に、比表面積が1.0m/g以上とすることができる。比表面積が1.0m/gに満たない場合、硫化リチウムを用いて固体電解質ガラスを製造する際にガラス化処理の時間が長くなる場合がある。
硫化リチウムの比表面積は、好ましくは1.5m/g以上であり、より好ましくは10m/g以上、100m/g以上である。
【0033】
尚、比表面積はBET法により、例えばQuantachrome INSTRUMENTS製のSurface Area and Pore Size Analyzerを用いて測定する。具体的には、例えばQuantachrome INSTRUMENTS製AUTOSORB6を用いて測定する。窒素ガスを用いた窒素法の測定下限は1.0m/gであるため、窒素法の測定下限以下の場合には、クリプトンガスを用いて測定することができる。
炭化水素系有機溶媒中の水分量は、MITSUBISHI CHEMICAL CORPORATION製カールフィッシャー水分測定装置を用いて測定することができる。
【0034】
以下、本発明の硫化リチウムの製造方法を実施できる装置について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる硫化リチウムの製造装置を説明するための概略図を示している。
図1において、硫化リチウムの製造装置1は、反応容器2、加温手段21、撹拌手段22、硫化水素ボンベ3、排出用弁40、溶媒用タンク5、脱水手段53、回収手段6、検出手段7、補充用制御手段8、及び、窒素ボンベ9などを備えている。この硫化リチウムの製造装置1は、炭化水素系有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを反応させ、硫化リチウムを製造する。
【0035】
反応容器2は、密閉型の容器であり、炭化水素系有機溶媒及び水酸化リチウムが封入される。また、反応容器2は、通常、加圧状態でも反応を行えるように、圧力容器としてある。
なお、反応容器2内の圧力は、適宜公知の加圧方法により、上記した圧力とすることができる。
この反応容器2は、胴部及び底部に、電気ヒータなどの加温手段21が取り付けられており、加温される。なお、加温手段21は、特に限定されるものではなく、容器内部を所定の温度に加温できるものであれればよく、たとえば、容器内部に設けられる加熱用の熱交換器やオイルバスなどでもよい。
なお、加温手段21により反応容器2を加熱し、反応容器2中のスラリーの温度を、上記した好ましい反応温度になるようにする。
また、反応容器2は、容器の内部を撹拌する撹拌手段22が取り付けられている。なお、本実施形態では、下段及び中段に撹拌翼を有する一軸の反応容器2としてあるが、撹拌翼の形状や数量、及び撹拌軸の数量などは、特に限定されるものではない。
さらに、反応容器2は、蓋部に水酸化リチウムを供給する供給口23が設けられ、底部に硫化リチウムを取り出す取り出し口24が設けられている。
なお、図示してないが、反応容器2は、圧力センサ、温度センサ、液面計などを有している。
【0036】
本実施形態では、反応容器2の内部に硫化水素を吹き込む吹込手段として、硫化水素ボンベ3を備えている。硫化水素ボンベ3は、弁31及び配管などを介して反応容器2と接続されており、反応容器2の内部においては、上記配管と連通するパイプ32と接続されている。このパイプ32は、先端が反応容器2の下部に位置しており、炭化水素系有機溶媒及び水酸化リチウムを有するスラリーの下方に、硫化水素が吹き出る構成としてある。これにより、硫化水素が水酸化リチウムと接触する時間が増え、反応が終了するまでの時間を短縮することができる。
ここで、好ましくは、図示してないが、パイプ32の先端をとぐろ状に延長し、延長した部分に複数の吹き出し孔を形成してもよい。このようにすると、硫化水素の細かい気泡が、スラリーの下方から全体的に上昇するので、硫化水素が水酸化リチウムと接触する面積も増え、反応が終了するまでの時間をさらに短縮することができる。
【0037】
排出用弁40は、一方が配管などを介して反応容器2の蓋部と接続されており、他方が配管41などを介して回収手段6の凝縮器61と接続されている。この排出用弁40は、反応中に反応容器2の内部で生じる混合気体を反応容器2の外部へ排出する排出手段として機能する。
ここで、反応容器2の内部では、以下の反応式(1)及び反応式(2)の反応により、硫化リチウムが製造される。
LiOH+HS→LiSH+HO 反応式(1)
2LiSH→LiS+HS 反応式(2)
したがって、上記の混合気体は、水、炭化水素系有機溶媒及び硫化水素を含んでいる。
なお、排出用弁40は、通常、圧力制御弁などであり、反応容器2の内部を所定の圧力に維持する。
【0038】
本実施形態では、反応容器2の内部に炭化水素系有機溶媒を補充する補充手段として、溶媒用タンク5、脱水手段53及び回収手段6などを備えている。なお、この補充手段は、最初に炭化水素系有機溶媒を反応容器2の内部に仕込む際、炭化水素系有機溶媒を供給してもよい。
溶媒用タンク5は、脱水処理を施していない炭化水素系有機溶媒(含有する水分量は、通常、約40〜50重量ppmである。)が貯留されている。この溶媒用タンク5は、ポンプ、弁51及び配管などを介して反応容器2と接続されており、反応容器2の内部においては、上記配管と連通するパイプ54と接続されている。このパイプ54は、先端が反応容器2の中段部に位置している。これにより、脱水処理を施していない炭化水素系有機溶媒を反応容器2に供給することができる。
【0039】
また、溶媒用タンク5は、ポンプ、弁52、脱水手段53及び配管などを介して反応容器2と接続されており、反応容器2の内部においては、上記配管と連通するパイプ54と接続されている。
脱水手段53は、図示してないが、モレキュラーシーブス、アルミナ等の乾燥剤を充填したカラムを有しており、脱水処理を施していない炭化水素系有機溶媒がカラムを通ることにより、炭化水素系有機溶媒の水分量を10重量ppm以下とする。なお、脱水手段53の構成は、上記に限定されるものではなく、たとえば、図示してないが、貯蔵タンクに脱水処理を施していない炭化水素系有機溶媒を一旦貯留し、ここで脱水剤の添加やガスのバブリング等を行うことにより、炭化水素系有機溶媒の水分量を10重量ppm以下とする構成としてもよい。
このようにすると、弁51及び弁52を制御することにより、水分量が10重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒を反応容器2に供給することができ、又は、脱水処理を施していない炭化水素系有機溶媒を反応容器2に供給することができる。
なお、本実施形態では、弁51及び弁52などを有する構成としてあるが、これに限定されるものではなく、たとえば、三方弁(図示せず)などを用いる構成としてもよい。
【0040】
回収手段6は、凝縮器61及び回収槽62などを有しており、反応容器2から排出される混合気体から炭化水素系有機溶媒を回収する。
凝縮器61は、配管41から供給される混合気体を冷却し、液化した水及び炭化水素系有機溶媒を回収槽62に供給する。
回収槽62は、凝縮器61から供給される水及び炭化水素系有機溶媒が貯留され、密度の違いによって、水(下層)と炭化水素系有機溶媒(上層)が分離される。この回収槽62は、下部に弁63などが接続されており、回収した水などを排出する。また、回収槽62は、上部にポンプ、弁64及び配管などが直列に接続され、配管の端部が二つに分岐されている。分岐された一方は、弁66などを介して脱水手段53と接続されている。これにより、脱水手段53は、回収槽62から供給される脱水処理を施していない炭化水素系有機溶媒の水分量を10重量ppm以下とする。また、分岐された他方は、弁65などを介して、脱水手段53と反応容器2とをつなぐ配管と接続されている。
このようにすると、弁66及び弁65などを制御することにより、回収槽62に回収された炭化水素系有機溶媒を、水分量が10重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒として反応容器2に供給することができ、又は、脱水処理を施していない炭化水素系有機溶媒として反応容器2に供給することができる。また、炭化水素系有機溶媒を回収し再利用することにより、装置の小型化などを図ることができる。
【0041】
また、硫化リチウムの製造装置1は、必要に応じて、図示してないが、硫化水素の回収装置が設けられており、この回収装置と回収槽62の上部が配管等で接続されている。これにより、回収槽62の上部に、水に溶けきれなかった硫化水素が溜まり続けるといった不具合を回避する。また、この回収装置を介して、反応容器2の内部を大気圧に保持する。
ここで、回収手段6は、図示してないが、温度計、液面計、加温用の熱交換器などを有しており、回収した炭化水素系有機溶媒の量が少ない場合、溶媒用タンク5から炭化水素系有機溶媒を反応容器2に補充したり、また、回収した炭化水素系有機溶媒の温度が低い場合、加温した後に反応容器2に補充することにより、反応容器2の温度の安定化することができる。
【0042】
なお、本実施形態では、補充手段として、溶媒用タンク5、脱水手段53及び回収手段6などを備える構成としてあるが、これに限定されるものではない。
たとえば、水分量が10重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒をあらかじめ用意し、溶媒用タンク5に貯留しておき、この貯留した炭化水素系有機溶媒のみを使用する場合、脱水手段53などを設けない構成としてもよい。
また、脱水手段53などを使用して、水分量が10重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒を常に使用する場合、弁51及び弁65などを設けない構成としてもよい。
【0043】
検出手段7は、ガスクロマトグラフ質量分析計であり、凝縮器61から回収槽62に供給される液体(水及び炭化水素系有機溶媒)の水分量を検出し、水酸化リチウムと硫化水素との反応状態を検出する。すなわち、検出手段7は、反応中に反応容器2から排出される混合気体中の水分量を検出し、検出信号を補充用制御手段8へ出力する。
なお、本実施形態では、検出手段7として、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いているが、これに限定されるものではなく、たとえば、比重計などを用いてもよい。
さらに、本実施形態では、排出される混合気体中の水分量に基づき、補充する炭化水素系有機溶媒の水分量を10重量ppm以下にすべきか否か判断しているが、これに限定されるものではない。
たとえば、上述したように、反応容器2内の反応転化率が80%になった時点や90%になった時点としてもよい。
なお、混合気体を凝縮器61により凝縮した際の、水相の有無を、反応状態のパラメータとしてもよい。ここで、水相の有無を判断する方法として、凝縮器61内の液層を画像化し、画像処理ソフトにより水層の有無を判断しても良い。
言い換えると、反応転化率に着目し、反応容器2内のLiOHの濃度、LiSHの濃度、LISの濃度などを検出してもよい。また、反応容器2内のスラリーの特性に着目し、スラリーの色や粘度などを検出してもよい。さらに、反応条件に着目し、反応開始からの時間や反応温度の変化を検出してもよい。
【0044】
補充用制御手段8は、コンピュータなどの情報処理装置であり、図示してないが、検出手段7、弁51、52、64、65、66やポンプなどと電気的に接続されており、検出手段7からの検出信号にもとづいて、水分量が10重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒を補充するように、上述した補充手段を制御する。これにより、硫化リチウムの製造装置1は、たとえば遅くとも反応転化率が一定以上になった以降は、水分量が10重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒を補充することができ、製造原価のコストダウンを図ることができる。
また、硫化リチウムの製造装置1は、通常、装置全体を制御する制御手段(図示せず)を有しており、この制御手段が、補充用制御手段8を含む構成としてもよい。
【0045】
窒素ボンベ9は、弁91及び配管などを介して反応容器2と接続されており、反応容器2の内部においては、上記配管と連通するパイプ32と接続されている。この窒素ボンベ9は、反応の終了段階などにおいて、不活性ガスとして窒素ガスを反応容器2の内部に供給する。
【0046】
上記構成の硫化リチウムの製造装置1の動作や効果などについて、図面を参照して説明する。
図2は、本発明の一実施形態にかかる硫化リチウムの製造装置の動作を説明するための概略フローチャート図を示している。
図2において、硫化リチウムの製造装置1は、まず、弁91及び排出用弁40が開かれ、窒素ボンベ9から窒素ガスが注入され、反応容器2内部の空気などが排出され、その後、弁91が閉じられる。
次に、反応容器2に炭化水素系有機溶媒と水酸化リチウムを供給する(ステップS1)。すなわち、供給口23から所定量の水酸化リチウムが反応容器2に供給され、また、弁51が開かれ、溶媒用タンク5から所定量の炭化水素系有機溶媒(トルエン、キシレン、エチルベンゼンやドデカンなど)が供給される。この炭化水素系有機溶媒は、上述したように、脱水処理を施していない炭化水素系有機溶媒(含有する水分量は、通常、約40〜50重量ppmである。)である。
なお、硫化リチウムの製造装置1は、脱水処理を施していない炭化水素系有機溶媒を供給する代わりに、弁52を開き、脱水手段53により水分量を10重量ppm以下に脱水した炭化水素系有機溶媒を供給してもよい。
【0047】
次に、加温手段21及び撹拌手段22が作動し、炭化水素系有機溶媒と水酸化リチウムを所定の温度に加熱するとともに、ほぼ均一に混合する(ステップS2)。
なお、所定の温度は、使用する炭化水素系有機溶媒に応じて設定され、また、許容される範囲で反応中に制御される。また、撹拌翼の回転数も、許容される範囲で反応中に制御される。
【0048】
次に、弁31が開かれ、硫化水素が反応容器2の内部に供給され、反応を開始する(ステップS3)。すなわち、反応容器2の内部では、上述した反応式(1)及び反応式(2)の反応が進行し、硫化リチウムが生成されるとともに、水及び硫化水素が発生する。
ここで、炭化水素系有機溶媒と水酸化リチウムは、所定の温度に加熱されているので、発生した水、脱水処理を施していない炭化水素系有機溶媒に含まれていた水、及び、炭化水素系有機溶媒は、蒸発し、気相の状態で、硫化水素とともに反応容器2から排出される(ステップS4)。この排出は、排出用弁40及び配管41などを介して行われ、反応容器2の内部の圧力は、排出用弁40により所定の圧力に制御される。
【0049】
排出された水、炭化水素系有機溶媒及び硫化水素は、凝縮器61に供給され、気相の状態の水及び炭化水素系有機溶媒が液相の状態となり(凝縮され)、回収槽62に供給され、貯留される(ステップS5)。
なお、気相の状態の硫化水素は、この凝縮器61及び回収槽62において、ほぼ水に溶ける。
また、回収槽62に貯留された水及び炭化水素系有機溶媒は、分離される。
【0050】
ここで、凝縮器61から排出された水及び炭化水素系有機溶媒は、一部が検出手段7に供給され、検出手段7は、凝縮器61から回収槽62に供給される液体(水及び炭化水素系有機溶媒)の水分量を所定のサイクルで検出し、検出信号を補充用制御手段8へ出力する。
なお、検出手段7は、通常、反応容器2に硫化水素が供給されるとともに、検出を開始し、反応が終了した段階で、検出を停止する。
また、図示してないが、検出される水分量と反応時間との関係は、硫化水素の供給量をほぼ一定とし、かつ、補充される炭化水素系有機溶媒に含まれる水分量がほぼ一定とすると、反応開始とともに、反応により生成される水によって水分量は増加し、その後、ほぼ一定の値で推移し、その後、原料である水酸化リチウムの減少によって減少し、減少が止まりほぼ一定の値で推移する。
【0051】
補充用制御手段8は、検出手段7から検出信号を入力すると、入力時間及び検出信号を記録し、水分量が増加し始めると、弁66を開き(弁65は閉じられている。)、弁51を閉じる(弁52は閉じられている。)。これにより、制御手段は、反応容器2の炭化水素系有機溶媒の液面が低下した旨の信号を入力すると、回収槽62から脱水手段53に炭化水素系有機溶媒を供給し、液面が所定の高さに復帰した旨の信号を入力すると、炭化水素系有機溶媒の供給を停止する。
すなわち、硫化リチウムの製造装置1は、炭化水素系有機溶媒を補充する際、回収され、かつ、脱水手段53により水分量を10重量ppm以下に脱水した炭化水素系有機溶媒を補充する(ステップS6)。
このようにすると、反応系の水分量を低減できるため、硫化リチウムの結晶成長が進まず、比表面積の大きい硫化リチウムを得ることができる。また、反応容器2の接液部、撹拌手段22の攪拌翼や軸部等に付着物(ほぼ硫化リチウムからなる付着物)が発生し、製品への不純物のコンタミの原因となり、また、回収率が低下するといった不具合を回避することができる。さらに、回収した炭化水素系有機溶媒を再利用するので、製造原価のコストダウンを図ることができる。
【0052】
なお、補充用制御手段8は、上記の制御に限定されるものではなく、たとえば、水分量が増加し、ほぼ一定の値で推移し、その後、減少し始めるまで、弁65を開き(弁66は閉じられている。)、弁51を閉じる(弁52は閉じられている。)ように制御し、続いて、弁66を開き、弁65を閉じる(弁51及び弁52は閉じられている。)ように制御してもよい。これにより、反応容器2の接液部、撹拌手段22の攪拌翼や軸部等に付着物(ほぼ硫化リチウムからなる付着物)が発生し、製品への不純物のコンタミの原因となり、また、回収率が低下するといった不具合を低減あるいは回避することができる。さらに、回収した炭化水素系有機溶媒を再利用するので、製造原価のコストダウンを図ることができる。
【0053】
次に、補充用制御手段8は、水分量が増加し、ほぼ一定の値で推移し、その後、減少し、この減少が止まりほぼ一定の値で推移し始めると、水酸化リチウムが無くなったものとして、弁31を閉じ、硫化水素の供給を停止し、炭化水素系有機溶媒の補充を停止する(ステップS7)。
続いて、補充用制御手段8は、検出手段7が水分量を検出できなくなった旨の信号を入力すると、水分が無くなったものとして加温手段21を停止し、弁91を開き、反応容器2に窒素ガスを吹き込み、硫化水素を排出し、生成された硫化リチウム及び炭化水素系有機溶媒を取り出し口24から取り出し、次工程に供給する(ステップS8)。
また、本実施形態では、硫化リチウム及び炭化水素系有機溶媒を次工程に供給しているが、これに限定されるものではなく、たとえば、炭化水素系有機溶媒を蒸発させ、硫化リチウムだけを取り出してもよい。
【0054】
以上説明したように、本実施形態の硫化リチウムの製造装置1によれば、反応系の水分量を低減できるため、硫化リチウムの結晶成長が進まず、比表面積の大きい硫化リチウムを得ることができる。また、反応容器2の接液部、撹拌手段22の攪拌翼や軸部等に付着物(ほぼ硫化リチウムからなる付着物)が発生し、製品への不純物のコンタミの原因となり、また、回収率が低下するといった不具合を回避することができる。さらに、回収した炭化水素系有機溶媒を再利用するので、製造原価のコストダウンを図ることができる。
【実施例】
【0055】
実施例1
窒素気流下で非水溶性媒体としてパラキシレン(広島和光製試薬)270gを600mlセパラブルフラスコに加え、続いて水酸化リチウム30g(本荘ケミカル製)を投入し、フルゾーン撹拌翼300rpmで撹拌しながら、110℃に保持した。
スラリー中に硫化水素(巴商会製)を300ml/分の供給速度で吹き込みながら120℃まで昇温した。セパラブルフラスコからは、水とパラキシレンの混合ガスを連続的に排出した。この混合ガスを、系外のコンデンサで凝縮させることにより脱水した。この間、留出するパラキシレンと同量の水分量5重量ppmの脱水パラキシレンを連続的に追加補充し、反応液レベルを一定に保持した。
凝縮液中の水分量は徐々に減少し、硫化水素導入後6時間で水の留出は認められなくなった(水分量は総量で22mlであった)。尚、反応の間は、パラキシレン中に固体が分散して撹拌された状態であり、パラキシレンから分層した水分は無かった。
この後、硫化水素を窒素に切り替え300ml/分で1時間流通した。
【0056】
セパラブルフラスコ及び攪拌翼への付着物はほとんど見られなかった。
得られた固形分をろ過・乾燥して白色粉末である硫化リチウムを得た。この粉末を分析したところ(塩酸滴定及び硝酸銀滴定)、硫化リチウムの純度は99.7%で、回収量は28.1g(回収率96%)であった。X線回折測定したところ、硫化リチウムの結晶パターン以外のピークが検出されないことを確認した。得られた硫化リチウムの比表面積を窒素ガスによるBET法で、AUTOSORB6を用いて測定した結果、15.1m/gであった。結果を表1に示す。
また、生成固体のイオンクロマト分析や反応後のパラキシレンのガスクロ分析等を行ったが、不純物は確認されなかった。
【0057】
実施例2
非水溶性媒体としてトルエン(広島和光製試薬)270gを用い、追加補充する溶媒を水分量6重量ppmの脱水トルエンに、硫化水素吹き込み前の温度を95℃、吹き込み中及び後を104℃とした他は実施例1と同様にして硫化リチウムを製造した。
反応終了後、セパラブルフラスコ及び攪拌翼への付着物はほとんど見られなかった。
得られた固形分をろ過・乾燥して得た白色粉末を分析したところ(塩酸滴定及び硝酸銀滴定)、硫化リチウムの純度は99.4%で、回収量は28.3gあった(回収率96%)。X線回折測定したところ、硫化リチウムの結晶パターン以外のピークが検出されないことを確認した。得られた硫化リチウムの比表面積を窒素ガスによるBET法で、AUTOSORB6を用いて測定した結果、13.2m/gであった。結果を表1に示す。
【0058】
実施例3
脱水トルエンを追加補充する代わりに、混合ガスを冷却、分液したトルエン(上層)を連続的にモレキュラーシーブス3A 200gを充填した脱水カラムを通じてセパラブルフラスコに戻した他は、実施例2と同様にして硫化リチウムを得た。尚、脱水カラム出口から脱水処理したトルエンをサンプリングし、水分量を測定した結果、水分量は8重量ppmであった。
反応終了後、セパラブルフラスコ及び攪拌翼への付着物はほとんど見られなかった。
得られた固形分をろ過・乾燥して得た白色粉末を分析したところ(塩酸滴定及び硝酸銀滴定)、硫化リチウムの純度は99.6%で、回収量は27.7gあった(回収率94%)。X線回折測定したところ、硫化リチウムの結晶パターン以外のピークが検出されないことを確認した。得られた硫化リチウムの比表面積を窒素ガスによるBET法で、AUTOSORB6を用いて測定した結果、12.5m/gであった。結果を表1に示す。
【0059】
実施例4
実施例1のセパラブルフラスコの代わりにオートクレーブを用い、圧力制御弁により系内を加圧状態に保ち反応を行った。
窒素気流下で非水溶性媒体としてパラキシレン(広島和光製試薬)270gを600mlオートクレーブに加え、続いて水酸化リチウム30g(本荘ケミカル製)を投入した。窒素ガスにより圧力を0.85MPaまで加圧し、この圧力に保持した。フルゾーン撹拌翼300rpmで撹拌しながら、200℃に保持した。
【0060】
スラリー中に硫化水素(巴商会製)を300ml/分の供給速度で吹き込みながら210℃まで昇温した。オートクレーブからは、水とパラキシレンの混合ガスが連続的に排出された。この混合ガスを、系外のコンデンサで凝縮させることにより脱水した。この間、留出するパラキシレンと同量の水分量5重量ppmの脱水パラキシレンを連続的に追加補充した。
【0061】
凝縮液中の水分量は徐々に減少し、硫化水素導入後3時間で水の留出は認められなくなった(水分量は総量で22mlであった)。尚、反応の間は、パラキシレン中に固体が分散して撹拌された状態であり、パラキシレンから分層した水分は無かった。
この後、硫化水素の供給を停止し、オートクレーブを脱圧し、窒素ガスを300ml/分で1時間流通した。
【0062】
反応終了後、オートクレーブ及び攪拌翼への付着物はほとんど見られなかった。
得られた固形分をろ過・乾燥して白色粉末である硫化リチウムを得た。この粉末を分析したところ(塩酸滴定及び硝酸銀滴定)、硫化リチウムの純度は99.6%で、回収量は28.2gあった(回収率96%)。X線回折測定したところ、硫化リチウムの結晶パターン以外のピークが検出されないことを確認した。得られた硫化リチウムの比表面積を窒素ガスによるBET法で、AUTOSORB6を用いて測定した結果、16.1m/gであった。結果を表1に示す。
また、生成固体のイオンクロマト分析や反応後のパラキシレンのガスクロ分析等を行ったが、不純物は確認されなかった。
【0063】
実施例5
非水溶性媒体としてトルエン(広島和光製試薬)270gを用い、追加補充するトルエンを水分量6重量ppmの脱水トルエンに代えた他は、実施例4と同様にして硫化リチウムを得た。
反応終了後、オートクレーブ及び攪拌翼への付着物はほとんど見られなかった。
得られた固形分をろ過・乾燥して得た白色粉末を分析したところ(塩酸滴定及び硝酸銀滴定)、硫化リチウムの純度は99.4%で、回収量は28.2gであった(回収率96%)。X線回折測定したところ、硫化リチウムの結晶パターン以外のピークが検出されないことを確認した。得られた硫化リチウムの比表面積を窒素ガスによるBET法で、AUTOSORB6を用いて測定した結果、12.2m/gであった。結果を表1に示す。
【0064】
比較例1
脱水パラキシレンの代わりに水分量が45重量ppmである未処理のパラキシレンを追加補充した他は、実施例1と同様にして硫化リチウムを得た。
反応終了後、セパラブルフラスコ及び攪拌翼の接液部に付着物の析出が見られた。
付着物以外の部分から回収した固形分をろ過・乾燥して得た白色粉末を分析したところ(塩酸滴定及び硝酸銀滴定)、硫化リチウムの純度は99.5%で、回収量は26.1gであった(回収率89%)。X線回折測定したところ、硫化リチウムの結晶パターン以外のピークが検出されないことを確認した。得られた硫化リチウムの比表面積を窒素ガスによるBET法で、AUTOSORB6を用いて測定した結果、14.6m/gであった。結果を表1に示す。
【0065】
比較例2
脱水トルエンの代わりに水分量が48重量ppmの未処理トルエンを追加補充した他は、実施例2と同様にして硫化リチウムを得た。
反応終了後、セパラブルフラスコ及び攪拌翼の接液部への付着物の析出が見られた。
付着物以外の部分から回収した固形分をろ過・乾燥して得た白色粉末を分析したところ(塩酸滴定及び硝酸銀滴定)、硫化リチウムの純度は99.4%で、回収量は25.7gであった(回収率87%)。X線回折測定したところ、硫化リチウムの結晶パターン以外のピークが検出されないことを確認した。得られた硫化リチウムの比表面積を窒素ガスによるBET法で、AUTOSORB6を用いて測定した結果、12.6m/gであった。結果を表1に示す。
【0066】
比較例3
分液したトルエンを脱水カラムに通じずにそのままセパラブルフラスコに戻した他は実施例3と同様にして硫化リチウムを得た。尚、分液したトルエンをサンプリングし、水分量を測定した結果、水分量は3300重量ppmであった。
反応終了後、セパラブルフラスコ及び攪拌翼の接液部及び溶媒回収部への付着物の析出が見られた。
付着物以外の部分から回収した固形分をろ過・乾燥して得た白色粉末を分析したところ(塩酸滴定及び硝酸銀滴定)、硫化リチウムの純度は99.4%で、回収量は22.3gであった(回収率76%)。X線回折測定したところ、硫化リチウムの結晶パターン以外のピークが検出されないことを確認した。得られた硫化リチウムの比表面積を窒素ガスによるBET法で、AUTOSORB6を用いて測定した結果、10.5m/gであった。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
以上、本発明の硫化リチウムの製造方法、及び硫化リチウムの製造装置について、好ましい実施形態などを示して説明したが、本発明に係る硫化リチウムの製造方法、及び硫化リチウムの製造装置は、上述した実施形態などにのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、反応系の水分量をより迅速に反応系から排除するために、反応容器の形状をほぼ板状に近い形状としたり、あるいは、反応の進行状況に応じて、反応容器内の温度や撹拌状況を制御してもよい。これにより、硫化リチウムの結晶成長が進まず、比表面積の大きい品質の優れた硫化リチウムを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の硫化リチウムの製造方法、及び硫化リチウムの製造装置により、微小粒径の硫化リチウムを効率よく製造できる。また、本発明の製造方法により得られる硫化リチウムは、硫化物系固体電解質の原料として好適である。
【符号の説明】
【0070】
1 硫化リチウムの製造装置
2 反応容器
3 硫化水素ボンベ
5 溶媒用タンク
6 回収手段
7 検出手段
8 補充用制御手段
9 窒素ボンベ
21 加温手段
22 撹拌手段
23 供給口
24 取り出し口
31 弁
40 排出用弁
41 配管
51 弁
52 弁
53 脱水手段
54 パイプ
61 凝縮器
62 回収槽
63 弁
64 弁
65 弁
66 弁
91 弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを反応させる硫化リチウムの製造方法であって、
水分量が10重量ppm以下の炭化水素系有機溶媒を補充する工程を含む硫化リチウムの製造方法。
【請求項2】
補充する炭化水素系有機溶媒の水分量を常に10重量ppm以下とする請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項3】
密閉型反応容器の内部に硫化水素を吹き込むことにより、密閉型反応容器の内部で前記水酸化リチウムと硫化水素との反応を生じさせ、
前記反応中に密閉型反応容器の内部で生じる混合気体を密閉型反応容器の外部へ排出するとともに、密閉型反応容器の内部に炭化水素系有機溶媒を補充する請求項1又は2に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項4】
補充する炭化水素系有機溶媒が、前記混合気体から得られる炭化水素系有機溶媒である請求項3に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記炭化水素系有機溶媒が、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン及びドデカンから選ばれる1種又は2種以上からなる請求項1〜4のいずれかに記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項6】
炭化水素系有機溶媒及び水酸化リチウムの封入される密閉型の反応容器と、
この反応容器を加温する加温手段と、
前記反応容器の内部を撹拌する撹拌手段と、
前記反応容器の内部に硫化水素を吹き込む吹込手段と、
反応中に前記反応容器の内部で生じる混合気体を前記反応容器の外部へ排出する排出手段と、
前記反応容器の内部に炭化水素系有機溶媒を補充する補充手段と、
前記水酸化リチウムと前記硫化水素との反応状態を検出する検出手段と、
この検出手段からの検出信号にもとづいて、水分量が10重量ppm以下の前記炭化水素系有機溶媒を補充するように、前記補充手段を制御する補充用制御手段と
を備えた硫化リチウムの製造装置。
【請求項7】
前記補充手段が脱水手段を有することを特徴とする請求項6に記載の硫化リチウムの製造装置。
【請求項8】
前記補充手段が、排出される前記混合気体から前記炭化水素系有機溶媒を回収する回収手段を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の硫化リチウムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−140261(P2012−140261A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292659(P2010−292659)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】