説明

硫化リチウム銅及びその製造方法

【解決課題】単一相であり、且つ、一般式LiCuSで表わされる硫化リチウム銅を提供すること及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】銅元素の含有量に対するリチウム元素の含有量のモル比(Li/Cu)が1.0±0.1であり且つ銅元素の含有量に対する硫黄元素の含有量のモル比(S/Cu)が1.0±0.1であり、XRD分析において、2θ=14.2±0.3°、17.6±0.3°、27.0±0.3°、31.8±0.3°、34.0±0.3°、41.8±0.3°、44.3±0.3°、45.7±0.3°及び47.2±0.3°に回折ピークを有することを特徴とする硫化リチウム銅。硫化リチウムと、硫化第一銅と、を混合して、硫化リチウム及び硫化第一銅の混合物を得る原料混合工程と、該硫化リチウム及び硫化第一銅の混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成することにより、硫化リチウム銅を得る焼成工程と、を有することを特徴とする硫化リチウム銅の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池用の正極活物質として用いられる硫化リチウム銅及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は携帯電話やノートパソコンの電源として多く使用されている。そのリチウムイオン二次電池の正極活物質としては、酸化物系や硫化物系の材料が知られている。酸化物系の材料としてはLiCoO、LiMnO、LiNiOなどが代表的なものであり、現在広範囲に使用されている。一方、硫化物系の材料としてはLiTiS、LiMoS、LiNbS、LiFeSなどが挙げられる。硫化物系の材料は、高容量の二次電池が得られることから、酸化物系に代わる材料として研究が進められている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
最近では、硫化物系の材料に関する研究のうち、硫化物と銅の組み合わせによる研究が進められている。例えば特許文献4には、硫黄を室温で正極活物質として機能させるために、金属銅、硫化銅などの電極触媒および炭素系導電材を添加し複合化させた正極合剤を用いたリチウム二次電池が開示されている。また、特許文献5には、リチウム電池の安全性を確保する方法として、正極合材用として好適な硫化物系固体電解質が開示され、該硫化物系固体電解質と混合する正極材の一例として硫化銅が例示されている。
【0004】
特許文献6には、リチウム二次電池を構成する正極活物質の一例として、リチウム遷移金属硫化物が挙げられ、該遷移金属として主に第一遷移系列金属のTi,V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuを使用することが記載されている。さらに特許文献7では、非水電解液電池の正極活物質としてLixCuySzで表され、y=1のとき、0.5≦x≦2.0、1.5≦z≦2.0である硫化リチウム銅が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−208782号公報
【特許文献2】特開2003−22808号公報
【特許文献3】特開平11−297358号公報
【特許文献4】特開2004−95243号公報
【特許文献5】特開2008−103193号公報
【特許文献6】特開平8−124568号公報
【特許文献7】特開平2−270260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
硫化リチウム銅は、リチウムイオン二次電池用の正極活物質として、酸化物系に代わる材料として期待される。しかしながら、上記特許文献には、単一相であり、且つ、一般式LiCuSで表される硫化リチウム銅に関する具体的な記載はない。
【0007】
従って、本発明の課題は、単一相であり、且つ、一般式LiCuSで表される硫化リチウム銅を提供すること及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明(1)は、銅元素の含有量に対するリチウム元素の含有量のモル比(Li/Cu)が1.0±0.1であり且つ銅元素の含有量に対する硫黄元素の含有量のモル比(S/Cu)が1.0±0.1であり、
線源としてCu−Kα線を用いてX線回折分析をしたときに、2θ=14.2±0.3°、17.6±0.3°、27.0±0.3°、31.8±0.3°、34.0±0.3°、41.8±0.3°、44.3±0.3°、45.7±0.3°及び47.2±0.3°に回折ピークを有すること
を特徴とする硫化リチウム銅を提供することにある。
【0009】
また、本発明(2)は、硫化リチウムと、硫化第一銅と、を混合して、硫化リチウム及び硫化第一銅の混合物を得る原料混合工程と、該硫化リチウム及び硫化第一銅の混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成することにより、硫化リチウム銅を得る焼成工程と、を有することを特徴とする硫化リチウム銅の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、単一相であり、且つ、一般式LiCuSで表される硫化リチウム銅を提供すること及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明の硫化リチウム銅は、銅元素の含有量に対するリチウム元素の含有量のモル比(Li/Cu)が1.0±0.1であり且つ銅元素の含有量に対する硫黄元素の含有量のモル比(S/Cu)が1.0±0.1であり、
線源としてCu−Kα線を用いてX線回折分析(XRD分析)をしたときに、2θ=14.2±0.3°、17.6±0.3°、27.0±0.3°、31.8±0.3°、34.0±0.3°、41.8±0.3°、44.3±0.3°、45.7±0.3°及び47.2±0.3°に回折ピークを有する硫化リチウム銅である。
【0012】
本発明の硫化リチウム銅とは、LiCuSで表わされるリチウムと銅の複合硫化物であり、単一相であることを特徴とする。
【0013】
本発明の硫化リチウム銅は、銅元素の含有量に対するリチウム元素の含有量のモル比(Li/Cu)が1.0±0.1であり且つ銅元素の含有量に対する硫黄元素の含有量のモル比(S/Cu)が1.0±0.1であるが、本発明では、銅元素の含有量に対するリチウム元素の含有量のモル比(Li/Cu)及び銅元素の含有量に対する硫黄元素の含有量のモル比(S/Cu)は、ICP発光分光分析結果より得られるリチウム元素、銅元素及び硫黄元素の質量%から各元素のモル数を算出し、リチウム元素のモル数/銅元素のモル数及び硫黄元素のモル数/銅元素のモル数により求められる値である。
【0014】
本発明の硫化リチウム銅は、線源としてCu−Kα線を用いてX線回折分析をしたときに、2θ=14.2±0.3°、17.6±0.3°、27.0±0.3°、31.8±0.3°、34.0±0.3°、41.8±0.3°、44.3±0.3°、45.7±0.3°及び47.2±0.3°に回折ピークを有する。2θ=14.2±0.3°、17.6±0.3°、27.0±0.3°、31.8±0.3°、34.0±0.3°、41.8±0.3°、44.3±0.3°、45.7±0.3°及び47.2±0.3°に回折ピークを有する硫化リチウム銅、すなわち、本発明の硫化リチウム銅は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として、優れた性能を有する。
【0015】
本発明の硫化リチウム銅は、X線回折分析において、硫化リチウム(LiS)及び硫化第一銅(CuS)の回折ピークを実質的に有さない。硫化リチウム(LiS)は、X線回折分析において、2θ=31.2±0.1°、44.8±0.1°及び53.1±0.1°に回折ピークを有するが、硫化リチウム(LiS)の回折ピークを実質的に有さないとは、これらの回折ピークが見られないことを指す。なお、硫化リチウム(LiS)は、2θ=27.0±0.1°にも回折ピークを有するが、ピーク位置が本発明の硫化リチウム銅と重なる部分があるため、本発明では、硫化リチウム(LiS)の回折ピークを実質的に有さないことについては、27.0±0.1°以外の31.2±0.1°、44.8±0.1°及び53.1±0.1°の回折ピークが見られるか否かで判断する。また、硫化第一銅(CuS)は、X線回折分析において、2θ=32.8±0.1°、37.4±0.1°及び48.4±0.1°に回折ピークを有するが、硫化第一銅(CuS)の回折ピークを実質的に有さないとは、これらの回折ピークが見られないことを指す。なお、硫化第一銅(CuS)は、2θ=27.2±0.1°及び45.9±0.1°にも回折ピークを有するが、ピーク位置が本発明の硫化リチウム銅と重なる部分があるため、本発明では、硫化第一銅(CuS)の回折ピークを実質的に有さないことについては、27.2±0.1°及び45.9±0.1°以外の32.8±0.1°、37.4±0.1°及び48.4±0.1°の回折ピークが見られるか否かで判断する。
【0016】
本発明の硫化リチウム銅の製造方法は、硫化リチウムと、硫化第一銅と、を混合して、硫化リチウム及び硫化第一銅の混合物を得る原料混合工程と、該硫化リチウム及び硫化第一銅の混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成することにより、硫化リチウム銅を得る焼成工程と、を有する硫化リチウム銅の製造方法である。
【0017】
原料混合工程は、硫化リチウムと硫化第一銅とを混合して、硫化リチウム及び硫化第一銅の混合物を得る工程である。
【0018】
原料混合工程に係る硫化リチウムは、LiSの組成を有する。原料混合工程に係る硫化リチウムとしては、特に制限されず、市販品であってもよい。原料混合工程に係る硫化リチウム中の硫黄元素の含有量に対するリチウム元素の含有量のモル比(Li/S)は、1.90〜2.10、好ましくは1.95〜2.05である。原料混合工程に係る硫化リチウム中の硫黄元素の含有量に対するリチウム元素の含有量のモル比が、上記範囲にあることより、単一相の硫化リチウム銅(LiCuS)が得やすくなる。なお、原料混合工程に係る硫化リチウム中の硫黄元素の含有量に対するリチウム元素の含有量のモル比は、ICP発光分光分析、中和滴定法、沈殿重量法等により得られる硫化リチウム中のリチウム元素及び硫黄元素の質量%から各元素のモル数を算出し、リチウム元素のモル数/硫黄元素のモル数により求められる値である。原料混合工程に係る硫化リチウムの平均粒子径は、好ましくは20〜100μm、特に好ましくは30〜80μmである。原料混合工程に係る硫化リチウムの平均粒子径が、上記範囲であることにより、焼成工程での硫化第一銅と硫化リチウムとの反応性が高くなる。また、原料混合工程に係る硫化リチウムは、粒子径が200μmを超える粗粒子の含有量が10質量%以下、好ましくは5質量%以下であることにより、焼成工程での硫化第一銅と硫化リチウムとの反応性が高くなる。なお、本発明において、粗粒子の含有量は、レーザー散乱粒度分布測定により求められるものであり、また、平均粒子径は、レーザー散乱粒度分布測定により求められる平均粒子径(D50)である。
【0019】
原料混合工程に係る硫化第一銅は、CuSの組成を有する。原料混合工程に係る硫化第一銅としては、特に制限されず、市販品であってもよい。原料混合工程に係る硫化第一銅中の硫黄元素の含有量に対する銅元素の含有量のモル比(Cu/S)は、1.90〜2.10、好ましくは1.95〜2.05である。原料混合工程に係る硫化第一銅中の銅元素の含有量に対する硫黄元素の含有量のモル比が、上記範囲にあることより、単一相の硫化リチウム銅(LiCuS)が得やすくなる。なお、原料混合工程に係る硫化第一銅中の銅元素の含有量に対する硫黄元素の含有量のモル比は、ICP発光分光分析、キレート滴定、重量沈殿法等により得られる硫化第一銅中の銅元素及び硫黄元素の質量%から各元素のモル数を算出し、銅元素のモル数/硫黄元素のモル数により求められる値である。原料混合工程に係る硫化第一銅の平均粒子径は、好ましくは20〜100μm、特に好ましくは20〜70μmである。原料混合工程に係る硫化第一銅の平均粒子径が、上記範囲であることにより、焼成工程での硫化第一銅と硫化リチウムとの反応性が高くなる。原料混合工程に係る硫化第一銅は、粒子径が300μmを超える粗粒子の含有量が10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。原料混合工程に係る硫化第一銅中の粗粒子の含有量が、上記範囲であることにより、焼成工程での硫化第一銅と硫化リチウムとの反応性が高くなる。なお、本発明において、粗粒子の含有量は、レーザー散乱粒度分布測定により求められるものであり、また、平均粒子径は、レーザー散乱粒度分布測定により求められる平均粒子径(D50)である。
【0020】
原料混合工程に係る硫化第一銅において、市販品以外のものを用いることもできる。例えば硫化第二銅(CuS)と、硫黄と、を反応させて、硫化第二銅中の銅元素を還元することにより得られたものであることが好ましい。
【0021】
硫化第二銅と硫黄とを反応させて、硫化第一銅を得る方法としては、例えば、硫化第二銅及び硫黄を混合し、不活性ガス雰囲気下で、600〜1200℃で焼成する方法が挙げられる。なお、このような硫化第一銅を得る方法に係る不活性ガス雰囲気下とは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下のことである。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましく、また、水分の接触を避けるために、露点が−50℃以下であることが好ましく、−60℃以下であることが特に好ましい。反応系内への不活性ガスの導入方法としては、反応系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば、特に制限されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法が挙げられる。
【0022】
そして、原料混合工程では、硫化リチウムと硫化第一銅とを混合して、硫化リチウム及び硫化第一銅の混合物を得るが、このとき、硫化リチウム及び硫化第一銅の混合物中の銅元素の含有量に対する硫黄元素の含有量のモル比(S/Cu)が、0.90〜1.10となるように硫化リチウムと硫化第一銅とを混合することが好ましく、0.95〜1.05となるように硫化リチウムと硫化第一銅とを混合することが特に好ましい。なお、本発明では、硫化リチウム及び硫化第一銅の混合物中の銅元素の含有量に対する硫黄元素の含有量のモル比(S/Cu)は、ICP発光分光分析法、キレート滴定、重量沈殿法等の結果から求められる硫化リチウムの硫黄元素の含有モル数及びリチウム元素の含有モル数と、硫化第一銅の硫黄元素の含有モル数及び銅元素の含有モル数とから算出される値である。
【0023】
原料混合工程において、硫化リチウムと硫化第一銅とを混合する際の混合方法としては、硫化リチウムと硫化第一銅とが均一に混合できる混合方法であれば、特に制限されないが、非活性雰囲気下で、撹拌又はメカノケミカル処理により行うこと好ましい。
【0024】
原料混合工程において、非活性雰囲気下とは、1〜10−5Paの真空雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下のことである。原料混合工程に係る非活性雰囲気下では、水分の接触を避けるために露点が−50℃以下であることが好ましく、−60℃以下であることが特に好ましい。原料混合工程に係る不活性ガス雰囲気下とは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下のことである。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましい。反応系内への不活性ガスの導入方法としては、反応系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば、特に制限されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法が挙げられる。
【0025】
原料混合工程に係るメカノケミカル処理による混合方法とは、混合対象である粉体に、せん断力、衝突力又は遠心力のような機械的エネルギーを加えつつ混合する混合方法である。原料混合工程に係るメカノケミカル処理による混合方法を行う機器としては、遊星型ボールミルが好ましいものの、その他に例えば、ビーズミル、振動ミル等の粉砕機器が挙げられる。つまり、混合対象である粉体中に粒状媒体を存在させて、それらを高速で流動させる機器が挙げられる。そして、それらを高速で流動させることで、粒状媒体により、混合対象である粉体に、機械的エネルギーが加えられる。
【0026】
原料混合工程に係るメカノケミカル処理において、硫化リチウム及び硫化第一銅の混合物に加えられる重力加速度は、5〜40G、好ましくは8〜30Gである。また、ボールミルを用いる場合、粒状媒体の粒径は、1〜20mm、好ましくは5〜15mmであり、粒状媒体の充填率は、10〜50%、好ましくは20〜40%である。
【0027】
焼成工程では、硫化リチウム及び硫化第一銅の混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、硫化リチウム銅を得る。
【0028】
焼成工程に係る不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が挙げられる。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましく、また、水分の接触を避けるために、露点が−50℃以下であることが好ましく、−60℃以下であることが特に好ましい。反応系への不活性ガスの導入方法としては、反応系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば、特に制限されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法が挙げられる。
【0029】
焼成工程において、硫化リチウム及び硫化第一銅の混合物を焼成する際の焼成温度は、好ましくは300〜1500℃、特に好ましくは400〜800℃である。また、焼成工程において、硫化リチウム及び硫化第一銅の混合物を焼成する際の焼成時間は、好ましくは1〜24時間、特に好ましくは2〜18時間である。
【0030】
このようにして、本発明の硫化リチウム銅の製造方法を行うことにより、本発明の硫化リチウム銅を得ることができる。
【0031】
本発明の硫化リチウム銅の製造方法を行い得られる硫化リチウム銅を、必要に応じて、粉砕、分級することができる。必要に応じて行われる粉砕としては、特に制限されず、乳鉢、回転ミル、コーヒーミル等を用いる公知の粉砕方法が挙げられる。また、必要に応じて行われる分級としては、特に制限されず、篩等を用いる公知の方法が挙げられる。これらの粉砕や分級を、不活性ガス雰囲気下又は真空雰囲気下で行うことが、空気中の水分との接触を防ぐことができる点で好ましい。必要に応じて粉砕、分級する硫化リチウム銅の平均粒子径は、好ましくは0.5〜50μm、さらに好ましくは1〜40μmである。
【0032】
本発明の硫化リチウム銅及び本発明の硫化リチウム銅の製造方法を行い得られる硫化リチウム銅は、リチウムイオン伝導体として有用であり、リチウムイオン二次電池の正極活物質、特に全固体リチウム電池或いは全固体リチウム二次電池の正極活物質として、好適に用いられる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
(1)ICP発光分光分析
ICP発光分光分析装置(バリアン社製、LibertySeriesII)を用いて、ICP発光分光分析法により測定し、各元素の質量%を求め、それに基づいて、モル比を計算した。
【0035】
(2)最大粒子径、平均粒子径及び粗粒子の含有量
粒度分布測定装置(日機装社製、マイクロトラックX−100)を用いて、レーザー散乱粒度分布測定法により求めた。
【0036】
(3)X線回折分析
X線回折装置(ブルカー社製、D8 ADVANCE)を用いて、X線回折分析法により求めた。
【0037】
(実施例1)
(原料混合工程)
グローブボックス内で、混合容器に、最大粒子径が200μm(200μmを超える粗粒子の含有量が0質量%)、平均粒子径(D50)が70μmの硫化リチウム(日本化学工業社製)0.45gと、最大粒子径が300μm(300μmを超える粗粒子の含有量が0質量%)、平均粒子径(D50)が50μmの硫化第一銅(三津和化学薬品社製)1.55gを秤量して加え、更に、ジルコニアボール(10mmφ)を10個入れ、混合容器を密閉した。次いで、混合容器を、遊星ボールミル(フリッチュジャパン社製、P−7)にセットして、500回転/分で、40時間処理を行い、混合物を得た。このとき、ジルコニアボールの充填率は30%、加えられる重力加速度は17.0Gであった。
【0038】
(焼成工程)
次いで、得られた混合物を、アルミナ製焼成容器に入れ、窒素雰囲気下、500℃で12時間焼成した。焼成後、室温まで冷却し、硫化リチウム銅を得た。得られた硫化リチウム銅は乳鉢により粉砕し、目開き100μmの篩により分級して、平均粒子径10μmの硫化リチウム銅を得た。
【0039】
(分析)
得られた硫化リチウム銅のX線回折分析を行った。得られた回折チャートを図1に示すが、2θ=14.2°、17.6°、27.0°、31.8°、34.0°、41.8°、44.3°、45.7°及び47.2°に回折ピークが見られた。また、原料として用いた硫化リチウムのX線回折チャートを図2に、硫化第一銅のX線回折チャートを図3に示すが、図1の回折チャートには、図2に示す硫化リチウムの回折ピーク及び図3に示す硫化第一銅の回折ピークのいずれも見られないことがわかった。これらから、新しい結晶相が出現していることがわかった。
また、得られた硫化リチウム銅のICP発光分光分析を行ったところ、Liが6.85質量%、Cuが62.28質量%、Sが30.87質量%であった。このとき、Li/Cuモル比は1.01であり、S/Cuモル比は0.99であった。
【0040】
<電池性能試験>
本発明の硫化リチウム銅を正極活物質として使用した正極により試験セルを作製して、電池性能試験を行った。
(1)試験セルの作製
実施例1で得られた硫化リチウム銅を25質量%と、導電剤としてのアセチレンブラックを37.5質量%と、固体電解質としての硫化リチウム(LiS)−五硫化二リン(P)セラミックスを37.5質量%とを混合した後、プレス成型を行い、正極板を作製した。
また、インジウム金属板を所定のサイズに切り取ることにより負極板とし、硫化リチウムと五硫化二リンとを70:30のモル比でメカニカルミリング混合したものを固体電解質とした。
上記で得られた正極板、固体電解質及び負極板をこの順で積層させ、400MPaの圧力を印加することによって三層構造のペレットを作成した。得られたペレットに集電板、取り付け金具、外部端子等の各部材を組み合わせることにより試験セルAを作製した。
【0041】
(2)性能評価
作成した試験セルAにおいて、充電電流0.01mA/cmで充電終止電位5.0Vまで充電した後、放電電流0.01mA/cmで、放電終止電位0.8Vまで放電させる条件で充放電を行った。
この充放電により、試験セルAの1サイクル目における放電容量(初期放電容量)と充放電効率(初期充放電効率)とを評価した。その結果を表1に、また、試験セルAの充放電曲線を図4に示す。
これらの結果から分かるように、本発明の硫化リチウム銅は正極活物質として使用することが可能であることが分かった。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池の正極材として好適に用いられる硫化リチウム銅を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1で得られた硫化リチウム銅のXRDチャートである。
【図2】実施例1で原料として用いた硫化リチウムのXRDチャートである。
【図3】実施例1で原料として用いた硫化第一銅のXRDチャートである。
【図4】試験セルAの充放電曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅元素の含有量に対するリチウム元素の含有量のモル比(Li/Cu)が1.0±0.1であり且つ銅元素の含有量に対する硫黄元素の含有量のモル比(S/Cu)が1.0±0.1であり、
線源としてCu−Kα線を用いてX線回折分析をしたときに、2θ=14.2±0.3°、17.6±0.3°、27.0±0.3°、31.8±0.3°、34.0±0.3°、41.8±0.3°、44.3±0.3°、45.7±0.3°及び47.2±0.3°に回折ピークを有すること
を特徴とする硫化リチウム銅。
【請求項2】
前記X線回折分析において、硫化リチウム及び硫化第一銅の回折ピークを実質的に有さないことを特徴とする請求項1記載の硫化リチウム銅。
【請求項3】
硫化リチウムと、硫化第一銅と、を混合して、硫化リチウム及び硫化第一銅の混合物を得る原料混合工程と、該硫化リチウム及び硫化第一銅の混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成することにより、硫化リチウム銅を得る焼成工程と、を有することを特徴とする硫化リチウム銅の製造方法。
【請求項4】
前記原料混合工程において、硫化リチウムと硫化第一銅との混合を、非活性雰囲気下で、撹拌又はメカノケミカル処理により行うことを特徴とする請求項3記載の硫化リチウム銅の製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程において、前記硫化リチウム及び硫化第一銅の混合物を、300〜1500℃で焼成することを特徴とする請求項3又は4いずれか1項記載の硫化リチウム銅の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−100500(P2010−100500A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275522(P2008−275522)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】