説明

硫化亜鉛カドミウムナノケーブルとその製造方法

【課題】 一次元のナノ構造物は、色々なナノデバイスを作製するのに有用であるため、その研究は年々、活発になってきている。しかし、一次元の硫化亜鉛カドミウムナノ構造物に関しては、まだ知られていない。本発明は、一次元のカドミウム内含硫化亜鉛カドミウムナノケーブルおよび硫化亜鉛カドミウムナノチューブの製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【解決手段】 発明1の硫化亜鉛カドミウムナノチューブは、チューブ状に形成された六方晶構造の、化学組成が亜鉛、カドミウム、硫黄からなる単結晶硫化亜鉛カドミウムからなることを特徴とする構成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三成分系の半導体材料であるカドミウム内含硫化亜鉛カドミウムナノケーブルおよび硫化亜鉛カドミウムナノチューブとその製造方法に関する。さらに詳しくは、太陽電池、低電圧陰極線ルミネッセンス、高密度光記録材料、青色あるいは紫外線レーザーダイオードなどの分野で広く応用されている硫化亜鉛カドミウム系ナノ構造物の製造方法に関する。
【従来の技術】
【0002】
二次元の硫化亜鉛カドミウムの薄膜は、CVD法、分子線エピタキシー、ゾル−ゲル法、加熱蒸発法などの種々の方法によって製造されている(たとえば、非特許文献1〜4参照。)。また、ゼロ次元の硫化亜鉛ナノ粒子は、高温反応や化学的還元法等により製造されている(たとえば、非特許文献5、6参照。)。
【非特許文献1】「A.M.Salem,アプライド・フィジックスA」(Appl.Phys.A)74巻、205頁、2002年
【非特許文献2】J.Torres,ほか、「シン・ソリッド・フィルムス」(Thin Solid Films)207巻、231頁、1992年
【非特許文献3】D.S.Boyle,ほか、「ジャーナル・オブ・マテリアル・ケミストリー」(J.Mater.Chem.)10巻、2439頁、2000年
【非特許文献4】T.Edamura,ほか、「ジャーナル・オブ・マテリアル・サイエンス・レターズ」(J.Mater.Sci.Lett.)14巻、889頁、1995年
【非特許文献5】P.J.Sebastian,ほか、「シン・ソリッド・フィルムス」(Thin Solid Films)287巻、130頁、1996年
【非特許文献6】W.Wang,ほか、「ケミストリー・オブ・マテリアルズ」(Chem.Mater.)14巻、3028頁、2002年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一次元のナノ構造物は、色々なナノデバイスを作製するのに有用であるため、その研究は年々、活発になってきている。しかし、一次元の硫化亜鉛カドミウムナノ構造物に関しては、まだ知られていない。本発明は、一次元のカドミウム内含硫化亜鉛カドミウムナノケーブルおよび硫化亜鉛カドミウムナノチューブの製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1の硫化亜鉛カドミウムナノチューブは、チューブ状に形成された六方晶構造の、化学組成が亜鉛、カドミウム、硫黄からなる単結晶硫化亜鉛カドミウムからなることを特徴とする構成を有する。
発明2の硫化亜鉛カドミウムナノチューブは、前記発明1に記載のカドミウム内含硫化亜鉛カドミウムナノケーブルにおいて、その内部にコアを構成する六方晶構造の単結晶カドミウムを内包してなることを特徴とする構成を有する。
発明3は、前記発明1又は2の硫化亜鉛カドミウムナノチューブの製造方法であって、グラファイト粉末とグラファイト繊維を第一るつぼに入れ、硫化亜鉛粉末と硫化カドミウム粉末の混合物を前記第一るつぼとは別の第二るつぼに入れ、前記第一るつぼの上方に第二るつぼが位置するように高周波誘導加熱炉中に配置し、蒸留水に窒素ガスを吹き込むことにより生じる水蒸気を含んだ窒素ガス気流を通じながら、前記第一るつぼを1300〜1700℃に、前記第二るつぼを1000〜1300℃に加熱することを特徴とする構成を採用した。
発明4の硫化亜鉛カドミウムナノチューブの製造方法は、前記発明3において、加熱時間が0.5〜3時間であることを特徴とする構成を採用した。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、太陽電池、陰極線ルミネッセンス、高密度光記録材料、レーザーダイオードなどへの応用が期待されるカドミウム内含硫化亜鉛カドミウムナノケーブルおよび硫化亜鉛カドミウムナノチューブを提供することができ、またその製造が可能となった。
【発明の実施の形態】
【0006】
グラファイト粉末とグラファイト繊維を、蒸留水に窒素ガスを吹き込んで生じる窒素ガスと水蒸気の混合気流中で、1300〜1700℃に加熱する。このとき、流量は窒素ガスが、1.5L/minで、水蒸気は0.3L/min程度である。一方、硫化亜鉛粉末と硫化カドミウム粉末の混合物を1000〜1300℃に加熱する。上記の化合物の加熱温度は、上記記載の範囲が好ましい。これ以上の温度に上げても反応速度の著しい向上はない。また、これ以下の温度では、反応が十分に進行しない。反応時間は0.5〜3時間が望ましい。反応性の点からこれ以上の時間は必要ない。30分以下だと、反応が完結しない。
【0007】
上記原料であるグラファイト粉末とグラファイト繊維の重量比は1:1〜2:1程度であり、硫化亜鉛粉末と硫化カドミウム粉末の重量比は1:1〜1:2程度である。硫化カドミウムの重量が硫化亜鉛と同じかあるいは多く用いる理由は硫化カドミウムのほうが硫化亜鉛よりも蒸発速度が早いためである。上記の反応は高周波誘導加熱炉の中で行われるが、生成物は石英管壁に灰色の粉末として堆積する。
【実施例】
【0008】
次に、実施例を示して、さらに詳しく本発明について説明する。
和光純薬(株)製のグラファイト粉末(純度99.99%)1.0gと同社製のグラファイト繊維(純度99.99%)1.0gをグラファイト製のるつぼに入れ、グラファイト製のサセプターに取り付けて、高周波誘導加熱炉中に設置した。
一方、シグマ・アルドリッチ社製の硫化亜鉛粉末(純度99.9%)0.5gと同社製の硫化カドミウム(純度99.9%)0.5gの混合物をグラファイト製のるつぼに入れて、上記のグラファイト粉末とグラファイト繊維の入ったるつぼの上方に離して配置した。
蒸留水に窒素ガスを吹き込むことにより生じる水蒸気を含んだ窒素ガス気流を1.5L/minの流速で、グラファイト粉末およびグラファイト繊維に通じた。
グラファイト粉末とグラファイト繊維を1600℃に、硫化亜鉛粉末と硫化カドミウム粉末の混合物を1200℃に加熱した。この温度で2時間加熱を続けた後、室温に冷却した。生成物として石英管壁に灰色の粉末が堆積した。
【0009】
図1aに、生成物のうちの1本を透過型電子顕微鏡を用いて観察した写真を示した。生成したナノケーブルは長さが数マイクロメートルで、直径が約100ナノメートルで、そのうちのコアの直径は約90ナノメートルで、鞘の厚さは約8ナノメートルであることが確認された。
【0010】
図1bに、ナノケーブルの半径方向の中心部を測定したX線エネルギー拡散スペクトルを示したが、その化学組成はカドミウムからなることが分かった。なお、この図で亜鉛と硫黄のピークが少量見られるが、これは外側の鞘の部分からのピークに由来している。図1bの挿入図には、ナノケーブルの鞘の部分のX線エネルギー拡散スペクトルを示したが、その化学組成は亜鉛、カドミウム、硫黄からなることが分かった。
【0011】
ナノケーブルの高分解能透過型電子顕微鏡像と電子線回折パターンを調べた結果、コアを構成するカドミウムも、鞘を構成する硫化亜鉛カドミウムもいずれも単結晶であり、コアの部分は、格子定数a=0.30nm、c=0.56nmを有する六方晶であった。また、鞘の部分の格子定数はa=0.39nm、c=0.64nmで、同じく六方晶構造であり、その化学組成の原子比は、Zn0.78Cd0.22Sからなっていることが確認された。
【0012】
生成物の一端が開口しているチューブ状物の透過型電子顕微鏡像を調べた結果、直径が約80ナノメートルで、壁の厚さが約8ナノメートルであることが分かった。このナノチューブは、カドミウム内含硫化亜鉛カドミウムナノケーブルからコアの構成成分であるカドミウムが蒸発して形成されたものと考えられる。このナノチューブは電子線回折パターンから六方晶系のZn0.78Cd0.22Sであることが分かった。
【0013】
このカドミウム内含硫化亜鉛カドミウムナノケーブルの陰極線ルミネッセンスを20Kで測定した結果を図2に示した。この結果から、このナノケーブルは約490nmに発光ピークがあることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1aは、カドミウム内含硫化亜鉛カドミウムナノケーブルの透過型電子顕微鏡像の図面代用写真である。図1bは、カドミウム内含硫化亜鉛カドミウムナノケーブルのコア部のカドミウムのX線エネルギー拡散スペクトルの図である。図1bの挿入図は、カドミウム内含硫化亜鉛カドミウムナノケーブルの鞘の部分の硫化亜鉛カドミウムのX線エネルギー拡散スペクトルの図である。
【図2】カドミウム内含硫化亜鉛カドミウムナノケーブルの陰極線ルミネッセンスを測定した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ状に形成された六方晶構造の、化学組成が亜鉛、カドミウム、硫黄からなる単結晶硫化亜鉛カドミウムからなることを特徴とする硫化亜鉛カドミウムナノチューブ。
【請求項2】
請求項1に記載のカドミウム内含硫化亜鉛カドミウムナノケーブルにおいて、その内部にコアを構成する六方晶構造の単結晶カドミウムを内包してなることを特徴とする硫化亜鉛カドミウムナノケーブル。
【請求項3】
グラファイト粉末とグラファイト繊維を第一るつぼに入れ、硫化亜鉛粉末と硫化カドミウム粉末の混合物を前記第一るつぼとは別の第二るつぼに入れ、前記第一るつぼの上方に第二るつぼが位置するように高周波誘導加熱炉中に配置し、蒸留水に窒素ガスを吹き込むことにより生じる水蒸気を含んだ窒素ガス気流を通じながら、前記第一るつぼを1300〜1700℃に、前記第二るつぼを1000〜1300℃に加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の硫化亜鉛カドミウムナノケーブルの製造方法。
【請求項4】
加熱時間が0.5〜3時間であることを特徴とする請求項3に記載の硫化亜鉛カドミウムナノケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−347877(P2006−347877A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200651(P2006−200651)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【分割の表示】特願2003−203818(P2003−203818)の分割
【原出願日】平成15年7月30日(2003.7.30)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】