説明

硫化水素および二酸化硫黄を含有する気体を処理するための改良された方法

【課題】洗浄の頻度を低減させ、かつ処理されるべき副生成物の量を低減させ得る硫化水素および二酸化硫黄を含有する気体流出物の処理方法を提供する。
【解決手段】硫化水素(HS)および二酸化硫黄(SO)を含有する気体の処理方法であって、該気体が、適切な温度で、少なくとも1種の可溶性の触媒系を含む有機溶媒と接触させられ、該触媒系は、カルボン酸基からなる少なくとも1つの官能基Aと、少なくとも1つの窒素原子を含み、かつ、該方法の操作条件下に少なくとも1つの官能基Aと酸−塩基タイプの反応を実行し得る少なくとも1つの官能基Bとを含む少なくとも1種の化合物を含み;実質的に硫化水素および二酸化硫黄が除かれた気体状の流出物が、液−液デカンテーションにより溶媒から分離された液状の硫黄と共に回収され、採用される該触媒系は、ゆっくりとした副生成物形成を示す、方法が記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素および二酸化硫黄を含有する気体状の流出物の処理に関する。
【0002】
本発明は、処理中に副生成物形成を遅らせ得る触媒系を含む有機溶媒を用いて硫化水素および二酸化硫黄を含有する気体状の流出物を処理する方法に関する。
【0003】
本発明はまた、この方法において用いられる触媒系に関する。
【0004】
本発明の方法は、例えば、クラウス法からの流出物を処理するために用いられ得る。しかしながら、より一般的には、硫化水素および二酸化硫黄を含有するあらゆる気体にそれは適用可能である。HSおよび/またはSOが気体の形態で入れられることは必ずしも必要ではなく、該気体の一方若しくは該気体の双方すらが、初期において、本発明の触媒系を含有する溶媒に溶解した状態で存在してよい。
【0005】
クラウス法は、特には精油所において(水素化脱硫装置または接触分解装置の下流)、天然ガスの処理用に、硫化水素を含有する気体状の原料油から単体硫黄(elemental sulfur)を回収するために広く用いられる。しかしながら、クラウスの装置によって放出される流出物は、数回の接触工程の後であってさえ、無視することのできない量の酸性のガス、主としてHSおよびSOを含む。このため、大部分の毒性の化合物、主としてHSおよびSOを除去し、環境汚染防止規制を満たすようにクラウスの装置からのこのような流出物を処理することが必要である。
【背景技術】
【0006】
クラウスの装置から存在する約95重量%の硫黄を回収することが知られている。CLAUSPOL(登録商標)装置(工業的方法の商標)を用いるクラウス装置からの流出物の処理は、概して、下記の発熱性のクラウス反応により99.8重量%の硫黄を回収し得る。
【0007】
【化1】

【0008】
特許文献1には、クラウス装置からの流出物の処理が記載されており、ここでは、1種の有機溶媒と、有機酸のアルカリまたはアルカリ土類塩を含む少なくとも1種の触媒とによって構成される反応媒体が用いられている。
【0009】
処理されるべきガスと触媒を含有する有機溶媒との接触は、接触要素、すなわち、張り出し状(bulk)または構造化されたタイプの充填物(packing)、モノリス(monolith)、たな板(column plate)、金属製発泡体またはセラミック製発泡体または気体から液体への物体の変化を促進する任意の他の構成を備える気−液反応器−接触器(contactor)においてなされる。反応器中の温度は、熱交換器に溶媒を通過させることによって、固体状の硫黄の形成を避けつつ考えられ得る最高の硫黄への転換度を助長するように制御される。
【0010】
当該タイプの装置では、単体硫黄を溶解させるために一定の溶解能を有する溶媒が、フリーな液状の単体硫黄での飽和状態を超えて装入され、単体硫黄は、次いで、単純なデカンテーションによって溶媒から分離され得る。この液状の硫黄−溶媒のデカンテーションは、例えば、反応器−接触器の底部に置かれてよい液−液デカンテーション帯域において行われる。
【0011】
このような装置の操作は、非特許文献1〜2に記載されている。
【0012】
脱飽和ループにおいて硫黄について溶媒を脱飽和することによって当該タイプの装置の脱硫度が向上させられ得ることも知られている。このためには、例えば、本出願人の特許(特許文献2)に記載された方法が用いられる。当該場合には、反応器−接触器の端部から抽出された溶媒および硫黄の液−液溶液(liquid-liquid solution)の一部は、硫黄を結晶化するように冷却される。
【0013】
次いで、結晶化された硫黄は、種々の固−液分離手段、例えば、ろ過、デカンテーションまたは遠心分離によって溶媒から分離される。硫黄が除かれた溶媒が得られてもよく、これは、反応器−接触器に再循環されてもよく、また、固体の硫黄に富む懸濁液が得られてもよく、これは、再加熱により硫黄を溶融し、次いで、液状の硫黄が回収される液−液の溶媒−硫黄デカンテーション帯域に送られてもよい。
【0014】
しかしながら、このような方法は、その適用において制限され得る。実際に、二次的な反応が、概して、反応器−接触器において起こり、この反応によって、副生成物が形成される。副生成物は、主として、例えば、ゆっくりとした触媒の分解に由来するアルカリ金属またはアルカリ土類金属の硫酸塩またはチオ硫酸塩等の塩である。
【0015】
これらの副生成物は接触要素の表面上で増大する傾向があり、これによって、液状硫黄のデカンテーションが困難になり、反応器−接触器を通じての圧力降下が大きくなる。こうした理由のために、洗浄によりこれらの塩を除去するために定期的に装置を停止させることが必要になり得る。
【0016】
例えば、特許文献3に記載された方法を用いて、当該タイプの装置からの固体状の副生成物が除去され得ることも知られている。当該方法は、下記の特徴的な工程を包含する:
・固体状の副生成物を含む溶媒のフラクションを除去する工程;
・該フラクションを処理工程に送る工程;および、
・最後に、大部分の副生成物を含む少なくとも1つの流れと、実質的に副生成物をほぼ含まない溶媒からなる流れを回収する工程。
【0017】
特許文献4では、副生成物を除去するための工程は、これらの副生成物の結晶の形成および成長が可能な温度で行われる。
【0018】
特許文献5および6に記載された方法は、該方法を行う装置を停止させることなく副生成物を除去することができる。しかしながら、形成される副生成物の量は、特許文献1に記載された処理に対して変化していない。
【0019】
これらの副生成物は本質的には触媒の遅い分解に由来するので、本発明の背景にある概念は、副生成物の形成速度を低減させ、これにより、所与の操作期間中の形成される副生成物の量を低減させ得る別のタイプの触媒系を使用することにある。
【0020】
驚くべきことに、使用により副生成物の形成を大きく低減させる触媒系が発見された。
【0021】
概して、特許文献5および6に記載された反応器−接触器または除去工程のいずれにおいても、これらの副生成物は、水により洗浄することによって除去されるので、本発明は、本方法に関連する水処理系において、洗浄の頻度を低減させ、かつ処理されるべき副生成物の量を低減させ得、これは、操作者にとっての大きな費用節約を表している。
【特許文献1】仏国特許第1592092号明細書
【特許文献2】仏国特許第2753396号明細書
【特許文献3】仏国特許第2784370号明細書
【特許文献4】仏国特許第2786111号明細書
【特許文献5】仏国特許第2784370号明細書
【特許文献6】仏国特許第2786111号明細書
【非特許文献1】ワイ・バーテル(Y Barthel)およびエイチ・グルイア(H Gruhier)著,「ジ・IFP クラウスポール 1500 プロセス(The IFP Clauspol 1500 Process):エイト・イヤーズ・オフ・インダストリアル・エクスペリエンス(Eight Years of Industrial Experience)」,ケム・イング・モノグル(Chem Eng Monogr),10(ラージ・ケム・プラント(Large Chem Plants)),1979,p69-86
【非特許文献2】ヘニコ・エイ(Hennico A)、バーセル・ワイ(Barthel Y)、ベナヨウン・ディー(Benayoun D)およびデザエル・シー(Dezael C)著,「クラウスポール 300(Clauspol 300):ザ・ニュー・IFP TGT プロセス(The New IFP TGT Process)」,AlChE サマー・ナショナル・ミーティング(AlChE Summer National Meeting)での発表,デンバー(Denver)(コロラド(Colorado)),8月14−17,1994年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、洗浄の頻度を低減させ、かつ処理されるべき副生成物の量を低減させ、大きな費用節約の効果を得ることのできる硫化水素(HS)および二酸化硫黄(SO)を含有する気体の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
したがって、本発明は、硫化水素(HS)および二酸化硫黄(SO)を含有する気体の処理方法であって、該気体が、適切な温度、一般的には20〜160℃で、有機溶媒に可溶な少なくとも1種の触媒系を含有する有機溶媒と接触させられ、硫化水素および二酸化硫黄が除かれた気体状の流出物が、液−液デカンテーションにより該溶媒から分離される液体状の硫黄と共に回収される方法であって、該触媒系は、カルボン酸基からなる少なくとも1つの官能基Aと、少なくとも1つの窒素原子を含み、該方法の実施条件の下に少なくとも1つの官能基Aと酸−塩基タイプの反応を行い得る少なくとも1つの官能基Bとを含む少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0024】
本発明の主題はまた、触媒系自体の配合を包含する。
【0025】
本発明は、硫化水素(HS)および二酸化硫黄(SO)を含有する気体の処理方法であって、該気体は、有機溶媒に可溶な触媒系を含有する有機溶媒と接触させられ、硫化水素および二酸化硫黄が除かれた気体状の流出物が、液−液デカンテーションにより該溶媒から分離された液状の硫黄と共に回収される方法であって、該触媒系は、カルボン酸基からなる少なくとも1つの官能基Aを含む少なくとも1種の化合物と、少なくとも1つの窒素原子を含み、かつ、本方法の実施条件下に少なくとも1つの官能基Aと酸−塩基タイプの反応を実行し得る少なくとも1つの官能基Bを含む少なくとも1種の化合物とを含み、後者の化合物は前者の化合物と別個であってもなくてもよいことを特徴とするものである。
【0026】
上記本発明の方法において、溶媒は、アルキレングリコール、アルキレングリコールのエーテルおよび/またはエステル、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールのエーテルおよび/またはエステルによって形成される群から選択されることが好ましい。
【0027】
上記本発明の方法において、官能基Aを含む少なくとも1種の化合物は、前記溶媒が少なくとも1つのアルコール基を含む場合に、前記溶媒によるポリ酸または酸無水物の部分エステル化によって得られることが好ましい。
【0028】
上記本発明の方法において、前記触媒系は、少なくとも1つの官能基Aを含む少なくとも1種の化合物と、少なくとも1つの官能基Bを含む少なくとも1種の化合物を含むことが好ましい。
【0029】
上記本発明の方法において、少なくとも1つの官能基Aを有する1種または複数種の化合物は、ヘキサン酸、アジピン酸、酒石酸、クエン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、サリチル酸、3−ヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸およびニコチン酸から選択されることが好ましい。
【0030】
上記本発明の方法において、少なくとも1つの官能基Bを有する1種または複数種の化合物は、アルカノールアミン、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、アニリン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、ピコリン、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、イソオキサゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、テトラゾール、チアジアゾール、チアジン、グアニジンおよびそれらの誘導体から選択されることが好ましい。
【0031】
上記本発明の方法において、少なくとも1つの官能基Bを有する化合物は、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシ、アルキル、アルコキシ、フェニル、ベンジル、ヒドロキシアルキル、フェノール、アミノアルキル、アルキルアミノ、アルキレングリコールおよびポリアルキレングリコールから選択される少なくとも1つの官能基を含むことが好ましい。
【0032】
上記本発明の方法において、官能基Bを有する化合物は、ジエタノールアミン、2−メチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾールまたは2−エチル−4−メチルイミダゾールであることが好ましい。
【0033】
上記本発明の方法において、官能基Aおよび官能基Bを同時に有する1種または複数種の化合物は、アントラニル酸、ピコリン酸、シトラジン酸、イソシンコメロン酸、4−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、4−(アミノメチル)安息香酸、3−(ジメチルアミノ)安息香酸、5−アミノイソフタル酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2−フェニルグリシン、2,6−ピリジンジカルボン酸、2,4,6−ピリジントリカルボン酸、2,3−ピラジンジカルボン酸、4−アミノフェニル酢酸、N−フェニルグリシン、チロシン、N−フェニルアラニン、4−(2−アミノエチル)安息香酸、2−カルボキシピロール、プロリン、トリオニン、グルタミン酸、ピペコリン酸、4−ヒドロキシ−3−(モルホリノメチル)安息香酸、アスパラギン酸およびそれらの誘導体から選択されることが好ましい。
【0034】
上記本発明の方法において、官能基Aおよび官能基Bを同時に有する化合物は、3−アミノ安息香酸または5−アミノイソフタル酸であることが好ましい。
【0035】
上記本発明の方法において、触媒系の全体に含まれる官能基Aの官能基Bに対するモル比が0.1〜100であることが好ましい。
【0036】
上記本発明の方法において、前記モル比は0.5〜10であることが好ましい。
【0037】
上記本発明の方法において、前記モル比は1〜5であることが好ましい。
【0038】
上記本発明の方法において、溶媒中の触媒系の比率が0.1〜20重量%であることが好ましい。
【0039】
上記本発明の方法において、前記比率は0.5〜10重量%であることが好ましい。
【0040】
上記本発明の方法において、処理されるべき気体の、触媒系を含む溶媒との接触温度が20〜160℃であることが好ましい。
【0041】
上記本発明の方法において、前記温度は115〜160℃であることが好ましい。
【0042】
上記本発明の方法において、気−液混合物がモノリスまたはセラミック製もしくは金属製の発泡体の内部を移動させられることが好ましい。
【0043】
また、本発明は、上記本発明の方法の、クラウス装置からの流出物の処理への適用に関するものである。
【0044】
また、本発明の触媒系は、カルボン酸基からなる少なくとも1つの官能基Aを含む少なくとも1種の化合物と、少なくとも1つの窒素原子を含み、かつ、少なくとも1つの官能基Aと酸−塩基タイプの反応を実行し得る少なくとも1つの官能基Bを含む少なくとも1種の、前記化合物と別個であってもなくてもよい化合物とを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0045】
本発明は、硫化水素(HS)および二酸化硫黄(SO)を含有する気体の処理方法であって、
・該気体が、適切な温度で、少なくとも1種の可溶性の触媒系を含む有機溶媒と接触させられ、該触媒系は、カルボン酸基からなる少なくとも1つの官能基Aと、少なくとも1つの窒素原子を含み、かつ、該方法の操作条件下に少なくとも1つの官能基Aと酸−塩基タイプの反応を実行し得る少なくとも1つの官能基Bとを含む少なくとも1種の化合物を含み;
・実質的に硫化水素および二酸化硫黄が除かれた気体状の流出物が、液−液デカンテーションにより溶媒から分離された液状の硫黄と共に回収され、採用される該触媒系は、ゆっくりとした副生成物形成を示す、方法である。
【0046】
本発明の硫化水素(HS)および二酸化硫黄(SO)を含有する気体の処理方法は、上記気体と接触させられる有機溶媒に溶解させられた触媒系が、カルボン酸基からなる少なくとも1つの官能基Aを含む少なくとも1種の化合物と、少なくとも1つの窒素原子を含み、かつ、本方法の実施条件下に少なくとも1つの官能基Aと酸−塩基タイプの反応を実行し得る少なくとも1つの官能基Bを含む少なくとも1種の化合物とを含む(後者の化合物は前者の化合物と別個であってもなくてもよい)ので、洗浄の頻度を低減させ、かつ処理されるべき副生成物の量を低減させ、大きな費用節約の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
用いられる有機溶媒は、本発明の方法の操作条件の下に安定な多くの有機溶媒から選択され得る。好ましくは、用いられる溶媒は、仏国特許第1592092号(特許文献1)に記載される溶媒から選択される1以上の有機溶媒によって構成されてよい。
【0048】
スルホラン、リン酸エステル、アルコールまたは重質ポリオール(例えば12〜20個の炭素原子を含む)、アルコールまたはポリオールのエステル、好ましくは、アルキレングリコール、アルキレングリコールのエーテルおよび/またはエステル、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールのエーテルおよび/またはエーテルによって形成される群に属する溶媒が特に挙げられてよい。
【0049】
挙げられてよい好ましい群に属する溶媒の例は、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール ジメチルエーテル、デカエチレングリコール エチルエーテル、200g/モルの分子量を有するポリエチレングリコール、400g/モルの平均分子量を有するポリエチレングリコールおよびジプロピレングリコールである。
【0050】
溶媒は、0〜90重量%の水を含んでもよく、好ましくは0〜50重量%、理想的には0〜20重量%である。水は、溶媒に添加されても、本発明にしたがって処理される気体に存在し得るあらゆる水の吸収に由来していてもよく、これらを合わせたものであってもよい。
【0051】
本発明の触媒系は、少なくとも1つの官能基Aを含む少なくとも1種の化合物と、少なくとも1つの官能基Bを含む少なくとも1種の化合物とを含んでもよい。本発明の触媒系は、2タイプの官能基AおよびBを同時に含む少なくとも1種の化合物によって構成されてもよい。
【0052】
触媒系を構成する1種または複数種の化合物はまた、基AおよびBとは異なるタイプの少なくとも1つの官能基を含んでもよく、必須の特徴は、全体としての触媒系が常時少なくとも1種の基Aおよび少なくとも1種の基Bを有する状態を維持していることである。
【0053】
上記のように、本発明の触媒系は、少なくとも1つの官能基Aを含む少なくとも1種の化合物と、少なくとも1つの官能基Bを含む少なくとも1種の化合物とを含んでもよい。
【0054】
この場合、官能基Aを有する化合物は、好ましくは、仏国特許第1592092号(特許文献1)に記載された酸またはポリ酸から選択される化合物であってもよい。したがって、挙げられてよい無制限の例は、ヘキサン酸、アジピン酸、酒石酸、クエン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、サリチル酸、3−ヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸およびニコチン酸である。
【0055】
本発明の変形では、溶媒が少なくとも1つのアルコール基を含む場合には、官能基Aを有する化合物は、本発明の溶媒によるポリ酸または酸無水物の部分エステル化によって得られる化合物であってもよい。このタイプの化合物は、例えば、仏国特許第2115721号に記載されている。挙げられてよいこのカテゴリーの例は、400の平均分子量を有するポリエチレングリコールによってフタル酸をモノエステル化して得られたものである。
【0056】
官能基Bは、本発明の方法の実施条件の下に少なくとも1つの官能基Aと酸−塩基型の反応を実行し得る窒素原子を含む全ての官能基を示す。
【0057】
官能基Bの無制限の例は、第1級、第2級または第3級アミン基、芳香族アミンまたは少なくとも1つの窒素原子を含む飽和もしくは不飽和の芳香族もしくは非芳香族の複素環である。
【0058】
官能基Bを含む化合物の例は、アルカノールアミン、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、アニリン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、ピコリン、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、イソオキサゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、テトラゾール、チアジアゾール、チアジン、グアニジンおよびそれらの誘導体である。
【0059】
上記化合物は、例えば、かつ無制限の意味で、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシ、アルキル、アルコキシ、フェニル、ベンジル、ヒドロキシアルキル、フェノール、アミノアルキル、アルキルアミノ、アルキレングリコールおよびポリアルキレングリコールから選択される官能基を含んでもよい。これらの化合物の全ては、官能基Bの定義に矛盾しない。
【0060】
例として挙げられてよい、本発明において用いられ得る少なくとも1つの官能基Bを含む好ましい化合物は、ジエタノールアミン、2−メチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾールおよび2−エチル−4−メチルイミダゾールである。
【0061】
本発明の触媒系はまた、2タイプの官能基AおよびBを同時に含む少なくとも1種の化合物によって構成されてもよい。
【0062】
この場合、少なくとも1つの官能基Aと少なくとも1つの官能基Bとを同一分子上に含む化合物の無制限の例は、アントラニル酸、ピコリン酸、シトラジン酸、イソシンコメロン酸、4−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、4−(アミノメチル)安息香酸、3−(ジメチルアミノ)安息香酸、5−アミノイソフタル酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2−フェニルグリシン、2,6−ピリジンジカルボン酸、2,4,6−ピリジントリカルボン酸、2,3−ピラジンジカルボン酸、4−アミノフェニル酢酸、N−フェニルグリシン、チロシン、N−フェニルアラニン、4−(2−アミノエチル)安息香酸、2−カルボキシピロール、プロリン、トレオニン、グルタミン酸、ピペコリン酸、4−ヒドロキシ−3−(モルホリノメチル)安息香酸、アスパラギン酸およびそれらの誘導体から選択されてよい。
【0063】
挙げられてよい、官能基AおよびBを同時に同一分子上に含む好ましい化合物は、3−アミノ安息香酸および5−アミノイソフタル酸である。
【0064】
全ての場合において、触媒系の全官能基Aの全官能基Bに対するモル比は、好ましくは0.1〜100、より好ましくは0.5〜10、より一層好ましくは1〜5である。
【0065】
溶媒中の触媒系の濃度は、有利には0.1〜20重量%、より有利には0.5〜10重量%の範囲である。
【0066】
処理されるべき気体の、本発明の触媒系を含む溶媒との接触の温度は、好ましくは115〜160℃にされる。
【0067】
本発明の方法は、酸性気体(HS+SO)の含有量が、特に良好には0.1〜100容積%である気体、より特定的には酸性気体(HS+SO)の含有量が低い気体、例えば0.1〜50容積%、より一層特定的には、0.5〜5容積%の処理に適合される。
【0068】
Sおよび/またはSOが気体の形態で入れられることは必ずしも必要ではなく、これらの気体の少なくとも一方は、本発明の溶媒の一つにおいて生じさせられた溶液の形態で存在してもよい。
【0069】
本方法の実施に関しては、気体を液体と接触させる、すなわち、気相から液相への物質の変化を促進するためのあらゆる従来の技術が用いられてよい。挙げられてよい従来の技術は、張り出しタイプまたは構造化されたタイプの充填物またはたな板である。
【0070】
好ましい変形において、内部において気−液混合物が移動するモノリスまたはセラミック製もしくは金属製の発泡体を採用する技術が用いられてよい。モノリスは、内側において気体および液体が移動する数平方ミリメータのオーダーの典型的な断面を有する平行かつ同一のチャネルの集合体として定義される。このようなモノリスおよび発泡体の利点は、気−液系の流れが完全に画定されることをそれらが可能にし、存在する相間での物質の変化を促進することにある。
【0071】
(実施例)
下記の3つの実施例は、従来技術の触媒(実施例1)を超える本発明の触媒系(実施例2および3)の利点を説明する。
【0072】
下記の3つの実施例において、処理されるべき気体は、以下の特徴を有している:
S:2Nl/h(標準リットル/時);
SO:1Nl/h;
O:30Nl/h;
:67Nl/h。
【0073】
圧力は、大気圧であった。
【0074】
気体は、ミシン目のある板状タイプの接触要素を備えた直径3cmのガラスカラム中125℃で溶媒と接触させられた。溶媒は、触媒系を含有する平均分子量が400g/モルであるポリエチレングリコール(PEG400)500mlによって構成された。
【0075】
精製された気体のクロマトグラフィー分析により、硫黄含有ガス(HSおよびSO)の硫黄への転化収率をモニタリングすることが可能であった。
【0076】
化学反応によって形成された硫黄は液体であった。それは、簡単なデカンテーションによってカラムの底部において溶媒から分離した。
【0077】
3つの実施例では、実験の継続時間は300時間であった。
【0078】
(実施例1:従来技術による)
触媒系は、100mmol/kgの濃度のサリチル酸ナトリウムであった。
【0079】
この実施例では、触媒系の分解により、PEG400に溶解性が高いわけではない(溶解性:125℃で1.2mmol/kg)NaSOが形成された。
【0080】
このため、塩が形成された時にその塩が析出した。時間の関数としての形成された塩の量は、PEG400に溶解している残りのナトリウムイオンの含有量測定によって測定された。
【0081】
この含有量測定のために採用された技術は、キャピラリー電気泳動であった。析出によるナトリウムイオン損失の量と転化されたHSの量の間に直線関係が存在する。
【0082】
この実施例では、転化されたHSのモル当たり1.5mmolのNaが析出させられた、すなわち、転化されたHSのモル当たり0.75mmolのNaSOが形成された。
【0083】
(実施例2:本発明による)
触媒系は、100mmol/kgのサリチル酸(官能基Aを有する化合物)と100mmol/kgのジエタノールアミン(官能基Bを有する化合物)とによって構成された。
【0084】
この実施例では、触媒系の分解により、プロトネートされたジエタノールアミン硫酸塩が形成された。この塩は、NaSOよりもPEG400に溶解性が高く、実験期間中溶媒の飽和に達しなかった。
【0085】
これらのプロトネートされたジエタノールアミン硫酸塩の形成に次いで、PEG400に溶解した硫酸イオン含有量の測定がなされた。この含有量測定のために採用された技術は、キャピラリー電気泳動であった。実施例1と同様に、形成されたナトリウムイオンの量と転化されたHS量との間に直線関係が存在する。
【0086】
次の結果が得られた:転化されたHSのモル当たり0.088mmolのプロトネートされたジエタノールアミン硫酸塩が形成された。
【0087】
この実施例では、硫酸塩タイプの塩の形成が、従来技術の触媒系(実施例1)よりも8.5倍も低かった。
【0088】
(実施例3:本発明による)
触媒系は、100mmol/kgのサリチル酸および100mmol/kgの2−メチルイミダゾールによって構成された。
【0089】
この実施例では、触媒系の分解によって、プロトネートされた2−メチルイミダゾール硫酸塩が形成される。この塩は、NaSOよりPEG400に溶解性が高く、実験期間中溶媒の飽和に達しなかった。したがって、これらのプロトネートされた2−メチルイミダゾール硫酸塩の形成に次いで、PEG400に溶解した硫酸イオンの含有量の測定がなされた。この含有量測定ために採用された技術は、キャピラリー電気泳動であった。実施例1および2と同様に、形成されたナトリウムイオンの量と転化されたHS量との間に直線関係が存在した。
【0090】
次の結果が得られた:転化されたHSのモル当たり0.096mmolのプロトネートされた2−メチルイミダゾール硫酸塩が形成された。
【0091】
この実施例では、硫酸塩タイプの塩の形成は、従来技術の触媒系を用いた場合(実施例1)より約7.8倍低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化水素(HS)および二酸化硫黄(SO)を含有する気体の処理方法であって、該気体は、有機溶媒に可溶な触媒系を含有する有機溶媒と接触させられ、硫化水素および二酸化硫黄が除かれた気体状の流出物が、液−液デカンテーションにより該溶媒から分離された液状の硫黄と共に回収される方法であって、
該触媒系は、カルボン酸基からなる少なくとも1つの官能基Aを含む少なくとも1種の化合物と、少なくとも1つの窒素原子を含み、かつ、本方法の実施条件下に少なくとも1つの官能基Aと酸−塩基タイプの反応を実行し得る少なくとも1つの官能基Bを含む少なくとも1種の化合物とを含み、後者の化合物は前者の化合物と別個であってもなくてもよいことを特徴とする方法。
【請求項2】
溶媒は、アルキレングリコール、アルキレングリコールのエーテルおよび/またはエステル、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールのエーテルおよび/またはエステルによって形成される群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
官能基Aを含む少なくとも1種の化合物は、前記溶媒が少なくとも1つのアルコール基を含む場合に、前記溶媒によるポリ酸または酸無水物の部分エステル化によって得られることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒系は、少なくとも1つの官能基Aを含む少なくとも1種の化合物と、少なくとも1つの官能基Bを含む少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの官能基Aを有する1種または複数種の化合物は、ヘキサン酸、アジピン酸、酒石酸、クエン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、サリチル酸、3−ヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸およびニコチン酸から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの官能基Bを有する1種または複数種の化合物は、アルカノールアミン、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、アニリン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、ピコリン、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、イソオキサゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、テトラゾール、チアジアゾール、チアジン、グアニジンおよびそれらの誘導体から選択されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの官能基Bを有する化合物は、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシ、アルキル、アルコキシ、フェニル、ベンジル、ヒドロキシアルキル、フェノール、アミノアルキル、アルキルアミノ、アルキレングリコールおよびポリアルキレングリコールから選択される少なくとも1つの官能基を含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
官能基Bを有する化合物は、ジエタノールアミン、2−メチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾールまたは2−エチル−4−メチルイミダゾールであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
官能基Aおよび官能基Bを同時に有する1種または複数種の化合物は、アントラニル酸、ピコリン酸、シトラジン酸、イソシンコメロン酸、4−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、4−(アミノメチル)安息香酸、3−(ジメチルアミノ)安息香酸、5−アミノイソフタル酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2−フェニルグリシン、2,6−ピリジンジカルボン酸、2,4,6−ピリジントリカルボン酸、2,3−ピラジンジカルボン酸、4−アミノフェニル酢酸、N−フェニルグリシン、チロシン、N−フェニルアラニン、4−(2−アミノエチル)安息香酸、2−カルボキシピロール、プロリン、トリオニン、グルタミン酸、ピペコリン酸、4−ヒドロキシ−3−(モルホリノメチル)安息香酸、アスパラギン酸およびそれらの誘導体から選択されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
官能基Aおよび官能基Bを同時に有する化合物は、3−アミノ安息香酸または5−アミノイソフタル酸であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
触媒系の全体に含まれる官能基Aの官能基Bに対するモル比が0.1〜100であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
前記モル比は0.5〜10であることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記モル比は1〜5であることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
溶媒中の触媒系の比率が0.1〜20重量%であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
前記比率は0.5〜10重量%であることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
処理されるべき気体の、触媒系を含む溶媒との接触温度が20〜160℃であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
前記温度は115〜160℃であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
気−液混合物がモノリスまたはセラミック製もしくは金属製の発泡体の内部を移動させられる特徴とする請求項1〜17のいずれか1つに記載の方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1つに記載の方法の、クラウス装置からの流出物の処理への適用。
【請求項20】
・カルボン酸基からなる少なくとも1つの官能基Aを含む少なくとも1種の化合物と、
・少なくとも1つの窒素原子を含み、かつ、少なくとも1つの官能基Aと酸−塩基タイプの反応を実行し得る少なくとも1つの官能基Bを含む少なくとも1種の、前記化合物と別個であってもなくてもよい化合物と
を含むことを特徴とする触媒系。


【公開番号】特開2006−247651(P2006−247651A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63478(P2006−63478)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(591007826)アンスティテュ フランセ デュ ペトロール (261)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT FRANCAIS DU PETROL
【Fターム(参考)】