説明

硫化物蛍光体

【課題】 カラーフィルターで青色、緑色、赤色に分離する際に緑の発光スペクトルの半値幅を狭くすることで赤色蛍光体の発光ピーク波長を適正な値にする可視光で効率よく励起される緑色蛍光体を提供する。
【解決手段】 一般式 M(Ga1−xEu3+yで表され、0<x<0.2、Mはアルカリ土類金属元素のCa、Sr、Baの少なくとも1種からなり、0<y<0.5である硫化物蛍光体で、可視光による励起時に、540〜550nmの緑色領域に、発光ピーク波長を有し、且つ発光スペクトルの半値幅が、47nm以下である硫化物蛍光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光で励起可能な緑色蛍光体に関し、更に詳しくは白色発光素子に好適に使用することができる、可視光で励起可能であり高輝度の緑色光を発光する硫化物蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、青色LEDや近紫外LEDの開発に伴い、LEDと蛍光体を組み合わせて白色光を得る、白色発光素子の開発が進んでいる。
この青色LEDを用いて白色発光素子を作製する場合、特許文献1、2、3に記載されるように、青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせた白色発光素子が開発されている。これらの白色発光素子は、照明用や液晶ディスプレイのバックライト光源としての利用が進んでいる。
【0003】
しかしながら、このような青色とその補色とから構成された白色は、色再現性が悪く、演色性が低いため、3波長型と称される白色発光素子が開発されている。
3波長型の白色発光素子としては、
(1)青色を発光する発光素子と、発光素子の青色の発光を受けて、緑色光を発光する蛍光体及び赤色光を発光する蛍光体を用いた白色発光素子(特許文献1参照)、
(2)紫外線を発光する発光素子と、この発光素子の紫外線の発光を受けて、青色光を発光する蛍光体、緑色光を発光する蛍光体及び赤色光を発光する蛍光体を用いた白色発光素子、
の開発が進められている。
【0004】
一般に、緑色光を発光する蛍光体としては(Ba、Sr)SiO:Eu(非特許文献1)やEu添加βサイアロン(特許文献2)などが知られている。(Ba、Sr)SiO:EuはBaとSrの比率を変えることで発光波長を調整することが可能であることが開示されている。
また、(Ba、Sr)SiO:Euは、発光強度は強いが発光スペクトルの形状における半値幅が80から100nmと広く、一方、Eu添加βサイアロンは、発光スペクトルの形状における半値幅が55nmとシャープであるが発光強度が弱い。
【0005】
ところで、液晶ディスプレイのバックライト光源は白色光をカラーフィルターで青色、緑色、赤色に分離しているが、その際、発光スペクトルの半値幅が狭く形状がシャープであるほど色の分離がよく、色再現性が向上すると言われている。
そこで最近になってEu添加BaSi12(BSON、特許文献3)が開発された。これは発光スペクトルの半値幅が68nmと狭いが、発光ピーク波長が525nmであり、RGBテレビの理想である緑色の発光ピーク波長の544nmと比べると少し短波長側にずれている。
【0006】
一方、緑色蛍光体としては、チオガレート蛍光体が知られている。代表的なチオガレート蛍光体としては、組成式が(Sr、Ca、Ba)1−xEuGaで示され、アルカリ土類金属の組成比を変えることで発光波長を変えることが可能で、発光ピーク波長が544nm、発光スペクトルの半値幅が50nm程度の特性が得られている(非特許文献2)。
【0007】
またEu添加Gaも緑色の発光を示すことが知られている(非特許文献3)。しかしながら、この蛍光体は2価のEuが3価のGa格子位置を置換し、電荷を補償するためGaの格子欠陥が発生する。そのため発光輝度を大きくすることが難しいといえる。
これらの蛍光体材料は青色LED(発光波長440〜470nm)で励起して緑色の蛍光を得ることが可能であり、単色のLEDランプや白色LED用蛍光体として有用である。
【0008】
しかしながらディスプレイ用に使用する場合には、カラーフィルターでの色分離のため発光スペクトルの半値幅はより狭いこと、そして青色LEDの波長変化に対して輝度変化が小さな蛍光体が必要である。特に青色励起の赤色蛍光体は発光スペクトルの半値幅が広いブロードな発光を示すものしかないのが実情である。そこで色の混合を抑制するため赤色の発光ピーク波長を長波長側にシフトさせる。ところが、長波長側にシフトさせると視感度が低いため画面の輝度が維持できないという問題が生じる。そこで、上記の問題が生じないように、緑の発光スペクトルの半値幅を狭くすることで赤色蛍光体の発光ピーク波長を適正な値にすることが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−244021号公報
【特許文献2】特開2005−255895号公報
【特許文献3】特開2008−138156号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】G.BLASS et.Al.、Philips Res. Report、1968、Vol.23,No.2、p.189
【非特許文献2】T.E.Peters J.A.Baglio、J.Electrochem.Soc.、1972、vol.119、p.230
【非特許文献3】Askerov I.M., et.al.、Sov.Phys.-Semicond.(Enggl.Transl.)、1991、Vol.25、p.1230
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記問題の解決を目的とし、可視光で効率よく励起される緑色蛍光体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、係る技術的課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、Gaにアルカリ土類金属(Ca、Sr、Baなど)を加えて、硫化物とし、Ga位置をEu2+で置換することで、これらの技術課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
本発明の第1の発明は、硫化物蛍光体は、一般式 M(Ga1−xEu3+yで表される硫化物蛍光体であって、Mはアルカリ土類金属元素、特にCa、Sr、Baの少なくとも1種からなり、0<x<0.2、0<y<0.5であることを特徴とするものである。
また、Ga位置の組成を化学量論組成より10%以下と少なくしてもよい。
【0013】
さらに、本発明の第2の発明は、第1の発明の硫化物蛍光体が、可視光で励起されたときに、540から550nmの緑色領域に発光ピーク波長を有し、且つ発光スペクトルの半値幅が47nm以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の硫化物蛍光体は、一般式 M(Ga1−xEu3+yで表され、0<x<0.2、Mはアルカリ土類金属元素のCa、Sr、Baの少なくとも1種からなり、0<y<0.5であることを特徴とし、Ga位置の組成を化学量論組成より10%以下、少なくすると可視光で効率よく励起され、540から550nmの緑色領域に発光ピーク波長を有すると共に、その発光スペクトルの半値幅が47nm以下である高輝度の緑色蛍光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1、2と比較例1、2、3を460nmの光で励起した発光スペクトルを示す図である。
【図2】実施例1、2と比較例1、2、3を460nmの光で励起した発光をピーク強度で規格化して半値幅を比較した結果を示す図である。
【図3】実施例1、2と比較例1、2、3のそれぞれのピーク波長で励起波長依存性を示す図である。
【図4】実施例1のXRDパターンを示す図である。
【図5】比較例1のXRDパターンを示す図である。
【図6】比較例2のXRDパターンを示す図である。
【図7】比較例3のXRDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の硫化物蛍光体は、一般式 M(Ga1−xEu3+yで表され、0<x<0.2、Mはアルカリ土類金属元素のCa、Sr、Baの少なくとも1種からなり、0<y<0.5であることを特徴とし、Ga位置の組成を化学量論組成より10%以下、少なくすると可視光で効率よく励起され、540から550nmの緑色領域に発光ピーク波長を有すると共に発光スペクトルの半値幅が47nm以下の緑色蛍光体を提供できる。
【0017】
一般にガリウムのようなイオン半径の小さな原子位置を、ユーロピウムのようなイオン半径の大きな元素で置換することは難しい。また、Gaは、Gaサイトを置換したEuとGa空孔が複合欠陥を構成すると言われている。
そこで、発明者らはGaにアルカリ土類金属を加えたAGa3+y、A=Ca、Sr、Baの少なくとも1種とすることで3価のEuの発光強度が増加することを見出した。このようなEuが、Ga位置を置換している酸化物前駆体を還元硫化することで、EuがGa位置に置換した硫化物が形成可能であることを見出した。
【0018】
この酸化物前駆体であるアルカリ土類金属とGaの複合酸化物は、固相法あるいは液相法で酸化物前駆体を作製し、その後大気雰囲気で焼成することで形成できるもので、例えば固相法では、アルカリ土類金属炭酸塩、酸化Gaと酸化ユーロピウムを混合し、この混合物を大気中で700℃から1300℃で大気雰囲気中での焼成により形成可能である。その焼成温度は、700℃より低いとアルカリ土類金属炭酸塩が分解できないため複合酸化物を得ることが難しい。また焼成温度が1300℃より高いとGaが揮発するため、複合酸化物が熔融するため好ましくない。
【0019】
さらに、液相法である錯体重合法を用いて、酸化物前駆体を形成する場合、以下の方法により製造することができる。まずはじめに、アルカリ土類金属炭酸塩をアルカリ土類金属元素の3から6倍モルのクエン酸水溶液に溶解させる。その水溶液に硝酸Gaと硝酸Eu水溶液を加え、50℃から120℃で1時間から8時間程度攪拌して錯化する。その錯化した液に、アルカリ土類金属元素の8から12倍モルのアルコールを加えて加熱し、エステル化反応でポリエステルを作製する。このポリエステルを450℃で加熱分解し、さらに550℃から600℃の大気雰囲気中で焼成して酸化物前駆体を作製する。ここで、用いるアルコールとしては、プロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコールが好ましい。
【0020】
この液相法で作製した酸化物前駆体についても、大気雰囲気中で700℃から1300℃で焼成することで作製可能である。焼成温度が700℃より低いと有機物の分解やアルカリ土類金属炭酸塩が分解できないために複合酸化物を得ることが難しい。また焼成温度が1300℃より高いとGaが揮発する、複合酸化物が熔融するため好ましくない。
【0021】
一般に、Gaは800℃以上で昇華が著しくなるので、酸化物前駆体を一旦800℃以下で焼成して複合酸化物を形成し、その後1000℃以上の温度の大気雰囲気中で焼成することにより、Gaの揮発ロスすることなく酸化物前駆体を得ることができる。このようにして、EuがGa位置を置換している酸化物前駆体を得ることができる。
【0022】
最後に硫化工程は、前記工程で得られた酸化物前駆体を還元して硫化するため、硫化水素や二硫化炭素を用いて還元硫化する。その硫化温度は、EuがGaの格子位置を置換し、発光中心を形成する800℃以上、より好ましくは900℃以上が良い。特に、Gaは揮発しやすいため1100℃以下、好ましくは1000℃以下で硫化することが好ましい。さらに、より低温で還元硫化するためには、還元力が強い二硫化炭素を用いることが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
0.3モルのクエン酸を100ccの水に溶解し、これに炭酸ストロンチウム0.05モルを加えて0.5M/LのSrクエン酸溶液を作製した。このSrクエン酸溶液と硝酸Ga(1M/L)と硝酸Eu(0.1M/L)を金属モル比で1.0:10.8:1.2になるようにビーカーに入れて混合し、80℃のホットプレート上で1時間攪拌し、この溶液にプロピレングリコールを全金属モル数の10倍量加えて更に8時間攪拌してゲル体を作製した。さらに、ゲル体から硝酸を蒸発させるため180℃で2時間加熱した。
【0025】
この硝酸を蒸発させたゲル体を、450℃に設定したマントルヒーターで2時間大気中で焼成し、更にボックス炉で大気中で550℃2時間保持し、更に750℃に昇温して2時間保持、焼成して酸化物前駆体を作製した。
得られた酸化物前駆体を、グラファイト製の容器に入れ、管状型電気炉を用い、二硫化炭素を含むArガス中で950℃1時間の再焼成を行い、還元硫化することによって、Sr(Ga1−xEu3+y (x=0.1、y=1/12、SrGa1219:Eu)硫化物蛍光体を作製した。
【実施例2】
【0026】
酸化物前駆体を1000℃で再焼成した以外は実施例1と同様の方法でSr(Ga1−xEu3+y (x=0.1、y=1/6、SrGa1219:Eu)蛍光体を作製した。
【0027】
(比較例1)
Sr:Ga:Eu組成比を、0:1.8:0.2にした以外は実施例1と同様の方法でGa:Euを作製した。
【0028】
(比較例2)
Sr:Ga:Eu組成比を、0.98:1.96:0.06にした以外は実施例1と同様の方法で(Sr0.98Eu0.02)Ga+(Ga0.98Eu0.023+y蛍光体を作製した。
【0029】
(比較例3)
Sr:Ga:Eu組成比を、1:3.6:0.4にした以外は実施例1と同様の方法でSr(Ga1−xEu3+y (x=0.1、y=0.5、SrGa:Eu)蛍光体を作製した。
【0030】
[特性評価]
本発明にかかる硫化物蛍光体の特性評価として、これらの蛍光体の蛍光特性を評価することにより行なった。具体的には、蛍光分光光度計FP−6500(日本分光)を用いて、励起、発光スペクトルの測定を行い、市販のYAG:Ce(化成オプトニクス製P46)のピーク強度を1として比較した。
【0031】
実施例1、2と比較例1、2、3の発光スペクトル強度を、YAG:Ce(p46)で規格化した結果を図1に示す。実施例1、2と比較例1のピーク波長が544nmであり、比較例2、3のピーク波長は537nmと短波長であることが分かる。また図1から比較例に比べて実施例1、2は発光強度が極めて強いことが分かる。
【0032】
さらに、発光スペクトルをピーク波長で規格化して発光スペクトルの半値幅を求めた。その結果を図2に示す。また、これらの蛍光体の励起特性を図3に示す。
図3から実施例1、2は、400nmから500nmの幅広い範囲で平坦なピーク波長を持ち良好な励起特性を示しているが、比較例1は400nmから500nmの幅広い範囲で平坦なピーク波長を持つが発光強度が低いことが見られた。また、比較例2、3は、350〜450nmの幅広い範囲で平坦なピーク波長を持つがやはり発光強度が低いことが見られた。
【0033】
以上の測定結果を表1に纏めて示す。
実施例1、2は、比較例2、3より発光強度が強く、且つ発光スペクトルの半値幅も狭く、また励起特性も良好であり、また比較例1よりも発光強度がはるかに強いことが分かる。
【0034】
【表1】

【0035】
図4に実施例1のXRD測定結果を示す。XRDパターン解析の結果、実施例1はGa相、EuGa相とSrGa相が含まれていることが分かった。但し、EuGa相はSrGa相とほぼ同じXRDパターンとなるため明確な相の定量は難しい。実施例2のXRDパタンーンも同様な結果であった。
【0036】
次に図5に比較例1のXRD測定結果を示す。組成とXRDパターン解析からGa相、EuGa相が含まれていることが分かった。
また、図6に比較例2のXRD測定結果を示す。SrGa相と未同定の相から構成されていると思われる。
さらに図7に比較例3のXRD測定結果を示す。SrGa相と未同定の相から構成されていると思われる。
【0037】
以上の結果から半値幅の狭い発光を示す実施例1、2と比較例1からはGa相とEuGa相が検出された。これらの相からのEuの発光が重要と思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式 M(Ga1−xEu3+yで表され、0<x<0.2、Mはアルカリ土類金属元素のCa、Sr、Baの少なくとも1種からなり、0<y<0.5であることを特徴とする硫化物蛍光体。
【請求項2】
前記硫化物蛍光体の可視光による励起時に、
540から550nmの緑色領域に、発光ピーク波長を有し、
且つ発光スペクトルの半値幅が、47nm以下である請求項1に記載の硫化物蛍光体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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