説明

硫化鉄粒子含有溶液、その製造方法、及びそれを用いた重金属処理剤並びに重金属の処理方法

【課題】 従来の硫化鉄粒子含有スラリーでは、共存塩の影響によって腐食性、悪臭があり、さらに共存塩の影響によって硫化鉄が沈降するため、重金属を含む廃棄物の重金属固定化処理剤として用いるには、安全性及び操作性に問題があった。
【解決手段】 2価の鉄塩の水溶液と硫黄イオンを含む水溶液とを一定のpH範囲を保つように混合して硫化鉄を含むスラリーを得、当該スラリーを濾過・洗浄して共存塩を除去した硫化鉄ケーキを水で再分散処理した硫化鉄粒子含有溶液では、共存塩の影響がなく、腐食性、悪臭の問題がなく、高い硫化鉄濃度において沈降がなく、操作性が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灰や土壌、或いは排水中に含まれる重金属を固定化することによる無害化処理用に用いるのに適した硫化鉄粒子含有溶液、その製造方法、及びそれを用いた重金属処理剤、並びに当該重金属処理剤を用いた重金属固定化(無害化)処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化鉄粒子を含有する溶液としては、硫化鉄粒子が水等の分散媒体中に安定に分散して沈降分離しない溶液は硫化鉄コロイド溶液、静置しておくと硫化鉄が沈降分離する硫化鉄スラリーとがある。硫化鉄粒子が水等の分散媒に分散している硫化鉄粒子含有溶液は、重金属で汚染された土壌、焼却灰等に混合し易く、重金属処理剤として便利なものである。
【0003】
従来、これらの硫化鉄粒子含有溶液は、2価の鉄塩水溶液と、硫黄イオンを含む水溶液を混合することにより得られるが、直ぐに沈降するものしかなく、極めて希薄なものとしなければ硫化鉄粒子が沈降しないコロイド溶液とはならなかった。例えば硫化鉄濃度がパーセントオーダーになると、2価鉄塩と硫黄化合物の反応の際に副生する共存塩による凝集作用のため、硫化鉄粒子が凝集し、沈降分離を生じる硫化鉄スラリーとなった。この様に沈降分離した硫化鉄スラリーでは、スラリー中の硫化鉄を均一にすることが難しく、その様なスラリーを重金属処理剤として用いると、処理物に均一に添加することができないという問題があった。
【0004】
硫化鉄を重金属汚染物と混合し、各種重金属を固定化(無害化)処理することは広く知られており、例えば工業用硫化鉄(ピロータイト構造)を用いて水溶液中のPb、Cd、Cr、Hg、As等の有害な重金属が処理されている。また鉄(II)イオンを含んだ溶液と硫黄イオンを含んだ溶液を同時に、あるいはこれらの溶液を混合して得られたマキナワイト構造の硫化鉄スラリーを用いて有害な重金属を処理する方法も知られている。(例えば特許文献1〜3参照)しかし、従来の硫化鉄スラリーは、腐食性や悪臭のある共存塩が存在したため、重金属処理剤として用いるには問題があった。通常、硫黄イオンを含んだ溶液は価格および工業的な入手のしやすさから硫化ナトリウムまたは水硫化ナトリウム水溶液が主に用いられ、それらの有害性、腐食性、悪臭等のため熟練者が操作を行なう必要があり、取り扱いは非常に困難であった。これらの共存塩は濾過・洗浄により取り除ければ良いが、従来の硫化鉄スラリーの濾過性は極めて悪いため、硫化鉄スラリー中に共存する塩を濾過・洗浄で除去することが困難であった。
【0005】
さらに従来の硫化鉄スラリーは、一定の流動性を維持するために硫化鉄の濃度が高められず、その濃度は10重量%程度が限界であり、その程度の濃度でもすぐに硫化鉄が沈降した。硫化鉄の沈降を抑えた低濃度の硫化鉄スラリーでは、輸送コストが高くつき、さらに常に攪拌、あるいは使用前に十分に攪拌しなければならないという問題があった。
一方、本発明者等は、鉄(II)イオンを含んだ溶液と硫黄イオンを含んだ溶液から製造したマキナワイト構造の硫化鉄粉末では、重金属の固定化能力が特に優れていることを報告している。(例えば特許文献4参照)マキナワイト構造の硫化鉄は重金属固定化能力は高いが、酸化され易く、粉末として取出した場合、大気中で重金属固定化能力の低い水酸化鉄と硫黄に分解するという問題があったが、本発明者等は酸化を防止するために、酸化防止用添加剤(例えばCa塩等)等を加えることにより、高い活性を維持できることを報告している。しかしこの様な添加物を加えた硫化鉄では、水溶液中で硫化鉄が凝集沈殿するため、硫化鉄粒子を水媒体中に沈降しない形で安定に分散した溶液、スラリーとして得ることは出来ていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開昭52−126685号公報
【特許文献2】特開昭52−148473号公報
【特許文献3】特開2001−121130号公報
【特許文献4】特開2002−326819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで、重金属固定化能の高い硫化鉄粒子含有溶液で、特に重金属固定能に優れたマキナワイト構造の硫化鉄粒子を、共存塩がなく、なおかつ水中で長期にわたって沈降せずに安定に分散した高濃度溶液で得ることはできていなかった。
【0008】
本発明の目的は、高濃度で、硫化鉄の沈降がなく、腐食性等の問題が無く、取り扱いが容易な、重金属処理特性に優れた硫化鉄粒子含有溶液、特に高濃度で安定な硫化鉄コロイド溶液を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、硫化鉄粒子含有溶液の硫化鉄濃度の増大、共存塩の低減、硫化鉄粒子の沈降防止について鋭意検討した結果、高濃度で、腐食性のある共存塩の問題が無く、なおかつ長期間にわたって沈降しない均一な硫化鉄粒子含有溶液、高濃度硫化鉄コロイド溶液を見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の硫化鉄粒子含有溶液は、硫化鉄の濃度が1wt%以上、50wt%以下のものである。硫化鉄濃度が1wt%未満では、重金属処理剤として用いる際に大量に使用する必要があり、また輸送や貯蔵のコストが多大なものとなる。硫化鉄濃度は高いほど好ましく、5wt%以上、更に10wt%以上であることが好ましい。一方、硫化鉄濃度が50wt%を超えた場合、硫化鉄の分散安定性が低下し、さらに硫化鉄粒子含有溶液の粘度が高くなるため、ハンドリングが困難となる。そのため、硫化鉄粒子含有溶液の硫化鉄濃度は40wt%以下、更に30wt%以下が好ましい。
【0012】
本発明の硫化鉄含有粒子含有溶液は、硫化鉄に対する共存塩の濃度が1wt%以下、特に0.5wt%以下、さらには0.1重量%以下であることが好ましい。硫化鉄に対する共存塩とは、硫化鉄を晶析させる際に副生、或いは残存する塩等のことであり、硫化鉄粒子の凝集の原因となり、また腐食性、悪臭等の問題があるものである。その様な共存塩としては、例えば、硫化鉄を晶析させる際に用いる、鉄塩の鉄の対イオンと、硫黄化合物の硫黄に対する対イオンにより形成される塩で、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム等が例示される。さらに未反応の硫化ナトリウム等も共存塩に該当する。共存塩の含有量は通常の化学組成分析、例えばICPによる分析や、塩分計による分析によれば良い。
【0013】
次に、硫化鉄粒子含有溶液の硫化鉄の結晶構造はマキナワイト構造であることが特に好ましい。硫化鉄粒子を湿式微粉砕することにより硫化鉄粒子含有溶液とすることも可能であるが、粉砕する硫化鉄の結晶形態としては、ピロータイト構造よりもマキナワイト構造の方が粉砕し易く、さらにマキナワイト構造の硫化鉄の方が重金属固定化能が高いため、本発明の目的である重金属処理剤としての用途に特に適している。
【0014】
共存塩の濃度は、硫化鉄粒子含有溶液の導電率と相関し、本発明の硫化鉄粒子含有溶液の導電率は10mS/cm以下であることが好ましい。導電率が10mS/cmよりも大きい場合、硫化鉄粒子の凝集が生じ易く安定な硫化鉄粒子含有溶液となり難く、さらに容器や装置の腐食が生じ易くなるためである。また、導電率が低いほど硫化鉄粒子含有溶液の安定性は増すが、導電率が5mS/cm以下、さらには3mS/cm以下であることが好ましい。
【0015】
硫化鉄粒子含有溶液中の硫化鉄粒子の平均粒子径は、0.05μm以上3μm以下であることが好ましい。ここでいう粒子径とは硫化鉄粒子の凝集粒子径であり、例えばレーザー回折法により測定することができる。従来の硫化鉄スラリー中の硫化鉄粒子、例えば鉄(II)イオンを含んだ溶液と硫黄イオンを含んだ溶液を混合して生成する硫化鉄粒子は、共存塩の影響によって、平均粒径は5〜10nmと大きく凝集したものとなり、スラリーを静置すると直ぐに沈降するものとなった。一方、硫化鉄粒子の平均粒径が0.05μmよりも小さい場合、硫化鉄粒子含有溶液の粘度が上がるためハンドリングが困難となり好ましくない。本発明の硫化鉄粒子含有溶液における硫化鉄の平均粒径のより好ましい範囲は、平均粒子径が0.1μm以上2μm以下であり、さらに好ましくは平均粒子径が1μm以下である。
【0016】
本発明の硫化鉄粒子含有溶液はコロイド溶液、即ちゾル状態であることが好ましく、その粘度は1000mPa・s以下であることが好ましい。低粘度であることにより、移液等の操作が容易となる。また、本発明の硫化鉄粒子含有溶液は、長期保存することによりゲル状態となることもあるが、攪拌等の操作により容易にゾル状態に戻り、流動性を回復することが出来る。粘度の測定には通常用いられる簡易型の回転式粘度計を用いれば良い。
【0017】
次に本発明の硫化鉄粒子含有溶液の製造方法について説明する。
【0018】
本発明の硫化鉄粒子含有溶液は、2価の鉄塩水溶液と硫黄イオンを含む水溶液とを一定のpH範囲を保つように混合して硫化鉄を含むスラリーとし、当該スラリーを濾過、洗浄後、硫化鉄ケーキを水等の分散媒で再分散処理することにより製造することができる。
【0019】
本発明の方法で用いる2価の鉄塩は、水溶性であれば特に限定されず、例えば塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、硫酸鉄(II)酢酸鉄(II)等を例示することができる。この中で、特に塩化鉄(II)は、溶解度が高いために高濃度の溶液とすることができ、また工業的にも入手が容易で、安価なために好ましい。また、鉄屑等を塩酸で溶解した溶液や、鉄板を塩酸で洗浄した後の廃液等も用いることができる。
【0020】
2価の鉄塩水溶液の濃度は特に限定されないが、濃度が薄すぎると得られる硫化鉄スラリーの濾過性が悪くなり、共存塩の洗浄が難しくなる。一方、濃度が濃すぎると、共存塩の析出量が多くなり、また硫化鉄スラリーの粘度が高くなりやはり洗浄が困難になる。そのため2価の鉄塩の濃度としては、鉄換算で1〜25wt%、より好ましくは3〜20wt%の範囲を用いることが好ましい。
【0021】
本発明の方法で用いる硫黄イオンを含む溶液は、硫黄イオンを含むものであれば特に限定されず、アルカリ金属塩の硫化物や水硫化物、アンモニウム塩の硫化物や水硫化物、アルカリ土類金属の硫化物や水硫化物を水に溶解したものが例示できる。中でも硫化ナトリウムや水硫化ナトリウムが、工業的に入手が容易で安価なために特に好ましい。また石油の脱硫工程で得られる硫化水素を水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液に吸収させた溶液等も用いることができる。
【0022】
硫黄イオンを含む溶液の濃度も特に限定されないが、2価の鉄塩の濃度と同様の理由により、硫黄イオンの濃度としては、硫黄換算で1〜15wt%、より好ましくは2〜10wt%の範囲を用いることが好ましい。
【0023】
2価の鉄塩水溶液と硫黄イオンを含む水溶液との混合割合は特に限定されないが、硫黄イオンが過剰の場合、原料コストが高くなるだけでなく、未反応の硫黄イオンが母液中に残存して問題がある。一方、硫黄イオンが少ない場合、過剰の鉄分が水酸化鉄として沈澱し、濾過性の低下や、最終的に得られる硫化鉄粒子含有溶液の安定性低下の問題がある。そのため、鉄と硫黄の原子比は、1:0.7〜1.5、より好ましくは1:0.8〜1.3、更に好ましくは1:0.9〜1.1の範囲になるように混合することが好ましい。
【0024】
次に本発明では、2価の鉄塩水溶液と硫黄イオンを含む水溶液を混合して反応させる際に、一定のpH範囲を保つようにして析出硫化鉄粒子の凝集状態を制御した硫化鉄スラリーとする。この場合のpH範囲は7以上12以下、より好ましくは8以上11以下、更には9以上10以下の範囲とすることが好ましい。pHの変動範囲は±1.0、より好ましくは±0.5の範囲に制御することが好ましい。
【0025】
pH範囲を一定に保つ混合方法としては、例えばpHを調整する成分を半回分法または連続添加法で添加する方法を用いることができ、特に連続添加法が好ましい。例えば原料の2価鉄塩の水溶液と硫黄イオンを含む水溶液とを同時に反応器に添加し、生成する硫化鉄スラリーをオーバーフロー口あるいはポンプを用い一定速度で取り出す方法において、反応槽内部のpHが一定となるように酸あるいはアルカリを別途添加する方法や、前もって原料の2価の鉄塩水溶液と硫黄イオンを含む水溶液のどちらかに酸あるいはアルカリを加えておき、どちらかの溶液の添加速度を反応槽内のpH範囲が一定となるようにする方法が例示できる。
【0026】
混合時の温度は特に限定されず、例えば10〜90℃の温度が例示できる。また混合時には撹拌し、硫化鉄スラリーの滞留が生じないような撹拌強度とすることが好ましい。
【0027】
混合速度も特に限定されないが、混合が遅いと生産性が低下し、速すぎるとpH調整が困難となるだけでなく局部的な滞留や粘度の上昇が起きる場合がある。例えば半回分式の場合反応時間が10〜240分の添加速度、また連続法では原料の添加速度を平均滞留時間が10〜240分、より好ましくは15〜120分が例示できる。
【0028】
以上の方法により得られた硫化鉄スラリーは、従来の方法によって得られるスラリーに比べて濾過性が高く、洗浄によって共存塩を洗浄除去することができる。当該スラリーは濾過によって洗浄し、共存塩を十分に洗浄除去して硫化鉄濾過ケーキとする。濾過、洗浄の方法は特に限定されないが、例えばヌッチェを用いた減圧濾過法や、より工業的にはフィルタープレスやベルトフィルター等が例示できる。ケーキの洗浄が不十分で共存塩が残存している場合、本発明の硫化鉄粒子含有溶液が得られない。
【0029】
洗浄水量は硫化鉄スラリー中に含まれる硫化鉄量により変化するため、スラリー量に対する洗浄水量を一概に示すことはできないが、例えば硫化鉄スラリー量に対して0.2倍から5倍の洗浄水量を例示することができる。
【0030】
本発明の硫化鉄粒子含有溶液に用いる洗浄硫化鉄ケーキの洗浄度は、ろ過、洗浄液の着色を観察することによって判断することが出来る。洗浄が十分に行われて、共存塩が本発明の範囲まで洗浄されると、凝集していた硫化鉄粒子の解膠が始まり、洗浄水自身が透明から黒色に変化する。本発明では、洗浄の終点をこの硫化鉄の解膠が始まるまでとすることにより、必要に応じて水を加え再分散した時に沈降しない安定なコロイド状態の硫化鉄粒子含有溶液とできる。その様な硫化鉄粒子含有溶液では、共存塩が1重量%以下となり、導電率が10mS/cm以下となる。
【0031】
洗浄後の硫化鉄ケーキは、水で再分散処理することにより硫化鉄粒子含有溶液とする。分散処理方法は特に限定されず、例えばリパルプ槽での機械的分散処理、超音波分散、湿式粉砕機による分散処理等を例示することができる。また、微小セラミックスビーズ又は微小ガラスビーズを用いた媒体攪拌型粉砕機による分散処理も用いることができる。
【0032】
分散処理は、硫化鉄粒子の平均粒子径が3μm以下まで行うことが好ましく、より好ましくは2μm以下、更に好ましくは1μm以下とする。分散処理が不十分な場合、硫化鉄粒子が時間とともに凝集し、沈降が生じ易い。一方、過度の分散処理により硫化鉄の平均粒子径が0.05μm未満となった場合、分散に必要な時間が多大となり工業的に不利となるだけでなく、硫化鉄粒子含有溶液の粘度が上がりやすく、ハンドリングが困難となるため好ましくない。
【0033】
次に本発明の硫化鉄粒子含有溶液を用いた重金属処理について説明する。
【0034】
本発明の硫化鉄粒子含有溶液は重金属類処理剤として用いることができる。本発明の硫化鉄粒子含有溶液を含んでなる重金属処理剤(以下、「本発明の重金属処理剤」と表記)は、種々の有害な重金属の固定化(不溶化)に効果があり、特にCr、Hg、As、Seの処理に対して有効である。重金属をそれぞれ単独に処理するだけでなく、これら複数が含まれたものを処理することも可能である。
【0035】
本発明の重金属処理剤は、硫化鉄粒子含有溶液の他にPbやCdと反応する有機キレート剤と混合して使用してもよい。中でもPb、Cr及びAsで複合汚染されたような廃棄物に対しては、本発明の硫化鉄粒子含有溶液に有機キレート剤を添加することが効果的である。
【0036】
本発明の重金属処理剤で処理する対象物としては、重金属を含んだごみ焼却灰や飛灰が例示できる。ごみ焼却灰や飛灰中には、各種ごみに含まれている重金属類が濃縮されており、無害化処理(重金属の不溶化処理)が必要である。飛灰や溶融飛灰は焼却炉の構造や運転方法の違いにより、アルカリ性飛灰、中性飛灰、アルカリ性溶融飛灰、中性溶融飛灰等の種類があり、また、焼却するごみの種類によって含まれる重金属類の種類と含有量は大きく異なるが、本発明の重金属処理剤は、どのような灰にも用いることができる。
【0037】
本発明の重金属処理剤の添加量は、ごみ焼却灰や飛灰に含まれる重金属の種類と総量により異なるため一概に規定できないが、通常はごみ焼却灰や飛灰の量に対して、0.1〜50wt%、好ましくは0.5〜30wt%が例示できる。さらに、予めごみ焼却灰や飛灰をサンプリングしてラボテストで最小添加量を求め、ごみ焼却灰や飛灰に含まれる重金属量の変動幅を考慮して最適添加量を求めておくことが好ましい。ここで、本発明の重金属処理剤を過剰添加しても、水銀(Hg)が多硫化物となることはない。
【0038】
本発明の重金属処理剤への水の添加量はごみ焼却灰や飛灰の性質により異なるが、通常、ごみ焼却灰や飛灰の量に対して、10〜40wt%を例示することができる。混練の方法、時間は特に限定されず、従来から行われている条件でよい。
【0039】
本発明の重金属処理剤は、重金属を含んだ土壌の処理にも有効である。重金属を含んだ土壌に対して、本発明の重金属処理剤及び、必要に応じて水を添加し、混練する。
【0040】
土壌に対する本発明の重金属処理剤の添加量も、土壌に含まれる重金属の総量により異なるため一概に規定できないが、例えば処理すべき土壌の量に対して0.1〜20wt%を例示することができる。さらに、予め土壌をサンプリングしてラボテストで最小添加量を求め、安全を見込んで若干過剰となる量を添加することが好ましい。土壌に含まれる水分が少ない場合は、土壌の種類によっても異なるが、必要に応じて水を添加し、土壌に含まれる水分の量が通常10〜60wt%となるようにすることが好ましい。混練の方法、時間は特に限定されず従来から知られている方法を用いることができる。
【0041】
本発明の重金属処理剤は、重金属を含んだ排水の処理にも適用可能である。排水に対する重金属処理剤の添加量も、排水に含まれる重金属の総量により異なるため一概に規定できないが、予め排水をサンプリングしてラボテストで最小添加量を求め、安全を見込んで若干過剰量を添加することが好ましい。この時に、排水のpHが低いと硫化鉄が分解して硫化水素が発生する場合があるため、排水のpHを前もって調整しておくことが好ましく、その場合には排水のpHは3.0以上、より好ましくは6.0以上となるようにすることが好ましい。混合の方法、時間は特に限定されず従来から知られている方法を用いることができる。また、通常、凝集沈澱処理の際に使用される無機系凝集沈澱剤、例えば塩化第2鉄、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド等を併用し、あるいは凝集速度を速める高分子凝集剤等を併用することも可能である。
【発明の効果】
【0042】
本発明の硫化鉄粒子含有溶液は、共存塩を含まない高い硫化鉄濃度でも沈降せず、また共存塩に起因する腐食性等の問題が無い。そのため焼却灰、土壌、排水等の重金属処理(不溶化処理)における操作性に優れ、また重金属の固定化能力が高い。
【実施例】
【0043】
以下、実施例において本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0044】
実施例1
実効内容積750mLで上部にオーバーフロー口を有したステンレス製連続反応容器を70℃に保ち、攪拌しながら塩化鉄(II)水溶液(35.0wt%)を600g/hで、水硫化ナトリウム水溶液(10.0wt%)を880g/hで連続的に添加し、反応槽のスラリーpHが9.5±0.5を保つように水酸化ナトリウム水溶液(48.0wt%)を流量制御しながら連続的に添加した。生成した硫化鉄スラリーはオーバーフロー口より回収した。
【0045】
得られた硫化鉄スラリーをヌッチェで濾過・洗浄した。洗浄は、硫化鉄ケーキの一部が解膠し洗浄液が黒色化した時点を終了点とした。この場合の洗浄水量はスラリー1000gに対し600gであった。次に濾過洗浄後の硫化鉄ケーキをポリエチレン製容器に入れ、水を加えて固形分濃度を15wt%となる様に攪拌リパルプした後、0.8mmのジルコニアビーズを用いた媒体攪拌型の湿式粉砕機で分散処理を行い、硫化鉄粒子含有溶液とした。得られた溶液はコロイド溶液であった。
【0046】
得られた硫化鉄粒子含有溶液は、固形分濃度が15wt%、共存塩の含有量が0.1重量%、レーザー回折法で測定した硫化鉄の平均粒子径は0.9μm、簡易導電率で測定した硫化鉄粒子含有溶液の導電率は2.4mS/cmであった。また、B型粘度計で測定した調製直後の粘度は20mPa・Sであり、流動性は良好であった。
【0047】
硫化鉄粒子含有溶液(コロイド溶液)を1日放置した後、沈降物の有無を確認したが沈降物は確認されなかった。さらに1ヶ月静置保存すると溶液全体が緩やかにゲル化したが、ペイントーシェーカーで3分間振盪を行うと溶液は再流動性し、粘度は60mPa・Sとなり良好な流動性が復元した。
【0048】
比較例1
2Lのガラス製反応容器に水硫化ナトリウム水溶液1.6mol、水酸化ナトリウム1.76mol、水770gを入れ、攪拌溶解した。この溶液を攪拌しながら、35%塩化鉄(II)水溶液1.6molを30分かけて特にpH制御をせずに添加し、得られた硫化鉄を含む溶液をそのままで硫化鉄粒子含有溶液とした。反応におけるスラリーのpH変化は、初期pH14であったが、反応終期にはpH9まで変化した。
【0049】
当該硫化鉄粒子含有溶液の物性を実施例1と同様の方法で評価した結果、硫化鉄濃度9wt%、硫化鉄の平均粒子径は11μm、導電率は153mS/cmであった。また調製直後の硫化鉄粒子含有溶液の粘度は490mPa・Sであり、硫化鉄濃度が低いにもかかわらず高粘度であった。また当該硫化鉄粒子含有溶液は1日放置すると沈降が生じ、液上部に水層が生成し、硫化鉄粒子が沈降した。
【0050】
比較例2
比較例1で得た硫化鉄スラリーをヌッチェで濾過・洗浄したが、濾紙が目詰まりを生じ、濾過・洗浄はできなかった。当該硫化鉄ケーキを水に分散し、実施例1と同様の分散処理を試みたが、クリーム状となり、分散できなかった。
【0051】
比較例3
原料水溶液の濃度を比較例1の100分の1まで希釈した他は、比較例1と同様の操作を行った。
【0052】
得られた硫化鉄粒子含有溶液の物性を測定した結果、硫化鉄濃度0.09wt%、硫化鉄の平均粒子径は2.5μm、導電率は1.72mS/cm、直後の粘度は1mPa・Sであった。硫化鉄粒子含有溶液は、コロイド状で安定であったが、硫化鉄濃度は0.09wt%と希薄なもので、重金属処理剤として用いるには希薄すぎるものであった。
【0053】
実施例2
実施例1、比較例1〜3の硫化鉄粒子含有溶液を用い、六価クロムを含有したアルカリ性飛灰における重金属固定化処理特性の評価を行なった。アルカリ性飛灰100重量部に対し、実施例1及び比較例1〜3の硫化鉄粒子含有溶液を加え、硫化鉄粒子含有溶液と希釈水の総量が、アルカリ性飛灰に対して40重量部となるように加え、混練した。処理後のアルカリ性飛灰は、環境庁(現在環境省)告示第13号溶出試験(1973年)を行なった。六価Crはジフェニルカルバジド法で、トータルCrはICP発光分析法で測定した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

表1の結果より明らかなように、本発明の硫化鉄粒子含有溶液は、単位重量当りに安定に存在する硫化鉄含有量が高いため、より少ない添加量でCrの処理が可能である。
実施例3
水銀1ppmを含む溶液、六価のクロム10ppmを含む溶液、三価の砒素10ppmを含む溶液、四価のセレン10ppmを含む溶液の4種類の排水に対し、実施例1で調製した硫化鉄粒子含有溶液を0.2重量部添加し、重金属の処理特性の検討を行なった。排水に硫化鉄を加えた後、30分混合し、ガラス濾紙(アドバンテック東洋製GS−25)で濾過後、濾液中に含まれている各成分の量を測定した。その結果を表6に示した。
【0055】
【表2】

表2の結果から明らかなように、本発明における硫化鉄粒子含有溶液は水銀、六価クロム、砒素、セレンを排水基準以下まで処理することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化鉄濃度が1wt%以上、50wt%以下、硫化鉄に対する共存塩濃度が1wt%未満である硫化鉄粒子含有溶液。
【請求項2】
硫化鉄粒子の結晶構造がマキナワイト構造である請求項1に記載の硫化鉄粒子含有溶液。
【請求項3】
導電率が10mS/cm以下である請求項1〜2に記載の硫化鉄粒子含有溶液。
【請求項4】
硫化鉄粒子の平均粒子径が0.05μm以上3μm以下である請求項1〜3に記載の硫化鉄粒子含有溶液。
【請求項5】
硫化鉄粒子含有溶液がコロイド溶液である請求項1〜4に記載の硫化鉄含有溶液。
【請求項6】
2価の鉄塩水溶液と、硫黄イオン含有水溶液とを一定範囲のpHに保って混合し、硫化鉄粒子を晶析、濾過、洗浄後、当該硫化鉄を分散媒中に分散処理する請求項1〜5に記載の硫化鉄粒子含有溶液の製造方法。
【請求項7】
混合時のpHが7以上12以下の範囲で一定に制御された請求項6に記載の硫化鉄粒子含有溶液の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5に記載の硫化鉄粒子含有溶液を含んでなる重金属処理剤。
【請求項9】
重金属が、Cr、Hg、As、Seの群より選択される少なくとも1種以上である請求項8に記載の重金属処理剤。
【請求項10】
ごみ焼却灰、飛灰及び重金属含有土壌のいずれかに請求項8に記載の重金属処理剤を添加、混練することを特徴とする重金属固定化処理方法。
【請求項11】
重金属を含んだ排水に対して、請求項8に記載の重金属処理剤を添加、混合することを特徴とする排水中の重金属固定化処理方法。

【公開番号】特開2006−160542(P2006−160542A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351079(P2004−351079)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】