説明

硫黄含有電気ニッケルの製造方法

【課題】電解廃液中のClを真空脱ガス法のみにより除去し、活性炭により吸着除去することなく、繰り返して用い、Clを吸着した活性炭廃棄物を発生させない安価な硫黄含有電気ニッケルの製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】塩化ニッケル溶液と電解廃液とを混合して混合溶液を得、これにチオ硫酸ナトリウムを添加して電解給液を得、隔膜電解法を用いて硫黄含有電気ニッケルを得るに際して、混合溶液中のClを還元するに足る量のチオ硫酸ナトリウムを式1にて求め、この量と電解給液中のチオ硫酸ナトリウム濃度を0.006〜0.012g/Lとするための量との合量を混合溶液に添加する。
[式1]
0.0555×X−1.59≦Y≦0.0675×X−1.815−−−式1
ここにおいて、X(g/L)は電解給液液中のニッケル濃度であり、Y(mg)は前記(イ)に繰り返される電解廃液1lに含まれるClを還元するのに必要とされるチオ硫酸ナトリウム量である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄含有電気ニッケルの製造に関し、より詳しくは主として塩化ニッケル溶液(以下、単に「塩化ニッケル溶液」と記す場合もある。)と電解廃液とを混合し、これにチオ硫酸ナトリウムを添加して電解給液を得、これを用いて硫黄含有電気ニッケルを得る方法において、電解廃液中のClを真空脱ガス法のみにより除去し、活性炭により吸着除去することなく、繰り返して用い、Clを吸着した活性炭廃棄物を発生させない安価な硫黄含有電気ニッケルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、玩具等のニッケルめっきに陽極として用いられる電気ニッケルとしては、例えば、0.010〜0.025重量%の硫黄を含有する硫黄含有電気ニッケルが用いられる。この理由は、硫黄が含まれていることにより、不働態化による局所的溶解という現象が起きず、均一に溶解するためである。これにより、順調に溶解してチタンバスケット等の陽極保持具に順次に硫黄含有電気ニッケルを供給できる。また、溶解初期の電圧が低く、ニッケルメッキの操業電圧も低いのでガスの発生も少なく、電力が節約できること、種々のめっき浴組成、電流密度を選定しても、陽極として活性が高いこと、溶解残渣が少ないこと等の利点があるからである。
【0003】
ところで、硫黄含有電気ニッケル製造用の硫黄源としては、チオシアン酸カリウム等のチオシアネートや、チオ硫酸ナトリウムやチオ硫酸カリウム等のチオ硫酸塩が知られている。電解液として塩化ニッケル溶液を用いた場合、チオシアネートはチオ硫酸塩よりも分解されがたく、取り扱いやすいとされている。例えば、硫黄源としてClに分解されにくいチオシアン酸カリウム等のチオシアネートを用い、陽極で発生したClの陰極側への拡散を防止するようにした方法が記載されている(特許文献1 特開昭56−93886号公報 第1頁参照)。
この方法においては、隔膜電解法を用い、アノードボックス内に不溶性陽極を挿入し、アノードボックス内を負圧としてアノードボックス内液面をカソードボックス内液面よりも高くし、かつアノードボックス内の液を、電解によりアノード表面で発生するClとともに系外に抜き出し、チオシアネートを添加した新たな電解液をカソードボックスに給液する。
たしかに、塩化ニッケル溶液を電解液として用いる場合、チオシアネートはチオ硫酸塩より安定である。しかしながら、チオシアネートはシアン系化合物であり、廃液処理において確実に有害なシアンを分解しなければならないという問題がある。このため、環境問題の厳しい昨今では、このチオシアネートを硫黄源として用いる方法は現実的なものではなくなってきている。
【0004】
一方、チオ硫酸塩は、塩化ニッケル溶液中で分解しやすいものの、安価で、かつ無害であることから、近年では、硫黄含有電気ニッケル製造用の硫黄源として多用されている。例えば、隔膜電解法を用い、隔膜を施したアノードボックスには不溶性陽極を、隔膜を施したカソードボックスには陰極を挿入し、チオ硫酸ナトリウムを含む主として塩化物よりなるニッケル電解液をカソードボックスに給液し、カソードボックス内の液面を電解槽内の液面よりも5mm以上高く保持し、アノードボックスからは該ボックス内で発生する塩素ガスをアノードボックス内の電解液と共にアノードボックス外に排出しつつ、アノードボックス内の液面を電解槽内の液面よりも10mm以上低く保って電解する硫黄含有電気ニッケルの製造方法が記載されている(特許文献2 特開平06−322575号公報 第2頁参照)。
この方法では、カソードボックスに給液された電解液は、カソードボックスの隔膜を介して電解槽に移行し、一部はアノードボックスに入り、その後アノードボックス内で発生するClと共に電解廃液として系外に払い出され、残部は電解槽から電解廃液として系外に払い出される。このようにして系外に払い出された電解廃液は合一された後、電解廃液に含まれるClを除去するため、まず、真空脱ガス法で大部分のClを除去し、その後残存するClを活性炭に吸着させて除去している。
【0005】
ところで、近年ニッケルマットやニッケル・コバルト混合硫化物などといったニッケル原料を塩素浸出して塩素浸出液を得、これを精製して塩化ニッケル溶液を得、これに硫黄源を添加して電解液始液を得てカソードボックスに供給し、電解して硫黄含有電気ニッケルを得ることが行われている。この方法では、硫黄源としてアルカリ金属のチオ硫酸塩、例えばチオ硫酸ナトリウムなどを用いている。
例えば、複数の隔膜を施したアノードボックスと複数の隔膜を施したカソードボックスとを交互に配設した電解槽を用い、アノードボックスに不溶性陽極を挿入し、カソードボックスに陰極を挿入し、温度60〜70℃、ニッケル濃度40〜90g/L、そしてチオ硫酸ナトリウム濃度0.006〜0.012g/Lの組成の電解給液を電解槽内のカソードボックスに供給している。
そして、カソードボックス内の液面は電解槽の液面より5〜20mm高く、アノードボックス内の液面は電解槽の液面より10〜15mm低く保持され、アノードボックス内の液面はカソードボックス内の液面より15〜35mm低く維持して通電する。
この方法により、硫黄含有率0.010〜0.025重量%の硫黄分布が均一な硫黄含有電気ニッケルが得られる。
【0006】
こうした方法では、電解終了後の電解液中には電解時にアノードで発生するClが0.001g/L以上含まれているため、真空脱ガス法によりClを除去し、さらに活性炭処理して残存するClを除去して電解廃液として系外に払い出している。この電解廃液の一部は前記塩化ニッケル溶液と混合してチオ硫酸ナトリウムを添加し、電解給液として繰り返し使用し、残部は、例えば炭酸ニッケル等としてニッケルを回収した後、回収終液を排水処理している。
電解廃液中のClを真空脱ガスし、次いで活性炭処理して除去する理由は、前記したように電解廃液と塩化ニッケル溶液とを混合し、得た混合溶液にチオ硫酸ナトリウムを添加して電解給液を得るが、添加したチオ硫酸ナトリウムがClによって分解され、電解時の硫黄源が不足し、電気ニッケル中の硫黄含有率が上述の目的とする値に到達しなくなってしまうのを防ぐためである。
【0007】
ところで、上記活性炭は高価なものであるにもかかわらず、Clを吸着した後は、その再生は難しく、使用後は廃棄処分とされているものの、現実的には吸着されたClにより廃棄処分も困難になっている。
【0008】
こうした問題を解決する試みとして、活性炭によりCl除去を行うことなく、チオ硫酸ナトリウムで代替させる、即ち、真空脱ガス法によりClを除去された電解廃液を繰り返して使用するさいに、繰り返す電解廃液中のCl濃度を求め、電解廃液中のClを還元するに見合う量のチオ硫酸ナトリウムを、前記電解始液中のチオ硫酸ナトリウム濃度を0.006〜0.012g/Lとするために添加する量に上積みして添加する方法である。
本発明者らはこの方法の有効性を確認すべく、実操業の電解廃液にチオ硫酸ナトリウム溶液を添加したときの分解率を調査した。その方法としては、真空脱ガス後、活性炭塔への通液を行う前の電解廃液を、採取し、15.0g/Lの濃度に調製したチオ硫酸ナトリウム溶液1mlを添加して、電解廃液で全量を1lとして混合液を得、この混合液のチオ硫酸ナトリウム濃度を測定し、チオ硫酸ナトリウムの分解率を求めるものである。午前と午後で上記調査を行ったところ、35.8%の分解率と、14.8%の分解率とが得られた。この結果は、電解廃液中に残存するCl濃度は一定でなく、常に変動していることを示している。
【0009】
したがって、前記した真空脱ガス法によりClを除去された電解廃液を繰り返して使用するさいに、繰り返す電解廃液中のCl濃度を求め、電解廃液中のClを還元するに見合う量のチオ硫酸ナトリウムを、前記電解給液中のチオ硫酸ナトリウム濃度を0.006〜0.012g/Lとするために添加する量に上積みする方法を採用しようとすると、真空脱ガス法によりClが除去された電解廃液を定期的かつかなりの頻度でサンプリングしてCl濃度を定量分析し、得た値に基づきチオ硫酸ナトリウム消費量を求めることが必要となる。
しかしながら、電解廃液中のClを定量分析するのに要される時間は、その結果を操業にフィードバックすることを考慮すると、長すぎ、電解廃液のCl濃度変動に対応できないという問題がある。また、分析結果がフィードバックされる間に電解廃液中のClが変動した場合には、電解給液中のチオ硫酸ナトリウム量に過不足を招くという危険性もあり、こうした危険性が顕在化した場合には、得られる硫黄含有電気ニッケル中の硫黄含有率が0.010〜0.025重量%というスペックを満たさなくなることも考えられる。
【0010】
したがって、電解廃液中のClを真空脱ガス法のみにより除去し、活性炭により吸着除去することなく、繰り返して使用するために、電解廃液中のCl濃度を求め、電解廃液中のClを還元するのに見合う量のチオ硫酸ナトリウムを、前記電解給液のチオ硫酸ナトリウム濃度を0.006〜0.012g/Lとするために添加する量に上積みして添加するという方法は、実現困難といえる。
以上のことから、電解廃液と塩化ニッケル溶液とを混合し、これに所定量のチオ硫酸ナトリウムを添加して電解給液を得、これを用いて電解して硫黄含有電気ニッケルを得る方法において、電解廃液中のClを真空脱ガス法のみにより除去し、活性炭により吸着除去することなく、繰り返して用い、Clを吸着した活性炭廃棄物を発生させない安価な硫黄含有電気ニッケルの製造方法は未だに求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭56−093886号公報 第1頁参照
【特許文献2】特開平06−322575号公報 第2頁参照
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、電解廃液と塩化ニッケル溶液とを混合し、これに所定量のチオ硫酸ナトリウムを添加して電解給液を得、これを用いて電解して硫黄含有電気ニッケルを得る方法において、電解廃液中のClを真空脱ガス法のみにより除去し、活性炭により吸着除去することなく、繰り返して用い、Clを吸着した活性炭廃棄物を発生させない安価な硫黄含有電気ニッケルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決すべく種々検討した結果、電解給液中のニッケル濃度と真空脱ガス法によりClを除去された電解廃液中に残存するCl濃度との間に比例関係があることを見いだして、本発明を完成した。
即ち、本発明の第1の発明によれば、
隔膜電解法を用い、チオ硫酸ナトリウムを含む電解給液をカソードボックスに給液して電解して硫黄含有電気ニッケルを連続的に製造するプロセスにおいて、
下記(イ)〜(ヘ)の工程を含み、その際、(ロ)の工程におけるチオ硫酸ナトリウムの添加量は、電解給液中のチオ硫酸ナトリウム濃度を0.006〜0.012g/Lとするに必要な量以外に、(イ)の工程で得られた混合溶液中に残存するClを還元するに足る量だけ、過剰にすることを特徴とする硫黄含有電気ニッケルの製造方法が提供される。
(イ)主として塩化物よりなるニッケル溶液と電解廃液とを混合する。
(ロ)(イ)で得られた混合溶液にチオ硫酸ナトリウムを添加する。
(ハ)(ロ)で得られた電解給液をカソードボックス内に給液し、電解によってカソードボックス内で硫黄含有電気ニッケルを得る。
(ニ)一方、アノードボックスから該ボックス内で発生する塩素ガスをアノードボックス内の電解液と共にアノードボックス外に排出する。
(ホ)(ニ)で得られたアノード排出液と、電解槽から排出される余剰の電解液とを合一して真空脱ガスしてClを除去して電解廃液を得る。
(ヘ)(ホ)で得られた電解廃液の一部を上記(イ)の電解廃液として使用する。
【0014】
また、本発明の第2の発明によれば、前記第1の発明において、前記(イ)の工程で得られた混合溶液中に残存するClを還元するに足る量は、下記の式1にて決定されることを特徴とする請求項1記載の硫黄含有電気ニッケルの製造方法が提供される。
[式1]
0.0555×X−1.59≦Y≦0.0675×X−1.815−−−式1
(式中、X(g/L)は電解給液液中のニッケル濃度であり、Y(mg)は前記(イ)に繰り返される電解廃液1lに含まれるClを還元するのに必要とされるチオ硫酸ナトリウム量である。)
【0015】
また、本発明の第3の発明によれば、前記第1または第2の発明において、電解給液中のニッケル濃度が40〜90g/Lであることを特徴とする硫黄含有電気ニッケルの製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第4の発明によれば、前記第1〜3のいずれか一つに記載された発明において、得られる硫黄含有電気ニッケルの硫黄含有率が0.01〜0.025重量%であることを特徴とする硫黄含有電気ニッケルの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、隔膜電解法を用い、チオ硫酸ナトリウムを含む電解給液をカソードボックスに給液して電解して硫黄含有電気ニッケルを連続的に製造するプロセスにおいて、
下記(イ)〜(ヘ)の工程を含み、その際、(ロ)の工程におけるチオ硫酸ナトリウムの添加量は、電解給液中のチオ硫酸ナトリウム濃度を0.006〜0.012g/Lとするに必要な量以外に、(イ)の工程で得られた混合溶液中に残存するClを還元するに足る量だけ、過剰にする。
(イ)主として塩化物よりなるニッケル溶液と電解廃液とを混合する。
(ロ)(イ)で得られた混合溶液にチオ硫酸ナトリウムを添加する。
(ハ)(ロ)で得られた電解給液をカソードボックス内に給液し、電解によってカソードボックス内で硫黄含有電気ニッケルを得る。
(ニ)一方、アノードボックスから該ボックス内で発生する塩素ガスをアノードボックス内の電解液と共にアノードボックス外に排出する。
(ホ)(ニ)で得られたアノード排出液と、電解槽から排出される余剰の電解液とを合一して真空脱ガスしてClを除去して電解廃液を得る。
(ヘ)(ホ)で得られた電解廃液の一部を上記(イ)の電解廃液として使用する。
そして、前記(イ)の工程で得られた混合溶液中に残存するClを還元するに足る量は、下記の式1にて決定される。
[式1]
0.0555×X−1.59≦Y≦0.0675×X−1.815−−−式1
(式中、X(g/L)は電解給液液中のニッケル濃度であり、Y(mg)は前記(イ)に繰り返される電解廃液1lに含まれるClを還元するのに必要とされるチオ硫酸ナトリウム量である。)
これにより、硫黄含有率0.01〜0.025重量%の硫黄含有電気ニッケルを得る。
従って、本発明の方法に依れば、繰り返す電解廃液中のClを高価な活性炭を用いて吸着除去しないので、低コストで硫黄含有電気ニッケルを得ることができるばかりか、廃棄処理困難なClを含む使用済み活性炭の発生もない。そのため、本発明の方法の工業的価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例で得られた結果を示した図であり、電解給液中のニッケル濃度(g/L)と電解廃液1lに含まれるClを還元するのに必要とされるチオ硫酸ナトリウム量(mg)との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明では、隔膜電解法を用い、チオ硫酸ナトリウムを含む電解給液をカソードボックスに給液して電解して硫黄含有電気ニッケルを連続的に製造するプロセスにおいて、
下記(イ)〜(ヘ)の工程を含み、その際、(ロ)の工程におけるチオ硫酸ナトリウムの添加量は、電解給液中のチオ硫酸ナトリウム濃度を0.006〜0.012g/Lとするに必要な量以外に、(イ)の工程で得られた混合溶液中に残存するClを還元するに足る量だけ、過剰にする。
(イ)主として塩化物よりなるニッケル溶液と電解廃液とを混合する。
(ロ)(イ)で得られた混合溶液にチオ硫酸ナトリウムを添加する。
(ハ)(ロ)で得られた電解給液をカソードボックス内に給液し、電解によってカソードボックス内で硫黄含有電気ニッケルを得る。
(ニ)一方、アノードボックスから該ボックス内で発生する塩素ガスをアノードボックス内の電解液と共にアノードボックス外に排出する。
(ホ)(ニ)で得られたアノード排出液と、電解槽から排出される余剰の電解液とを合一して真空脱ガスしてClを除去して電解廃液を得る。
(ヘ)(ホ)で得られた電解廃液の一部を上記(イ)の電解廃液として使用する。
そして、前記(イ)の工程で得られた混合溶液中に残存するClを還元するに足る量を、下記の式1にて決定する。
[式1]
0.0555×X−1.59≦Y≦0.0675×X−1.815−−−式1
(式中、X(g/L)は電解給液液中のニッケル濃度であり、Y(mg)は前記(イ)に繰り返される電解廃液1lに含まれるClを還元するのに必要とされるチオ硫酸ナトリウム量である。)
【0020】
以下、隔膜電解法、電解給液、塩化ニッケル液、チオ硫酸ナトリウムの添加方法、チオ硫酸ナトリウムの添加量、そして硫黄含有電気ニッケルと項立てして本発明を詳細に説明する。
1. 隔膜電解法
本発明では、電解法として隔膜電解法を用いるが、この隔膜電解法では、複数の隔膜を施したアノードボックスと、複数の隔膜を施したカソードボックスとを交互に電解槽内に配置し、アノードボックスに不溶性陽極を挿入し、カソードボックスに、例えば、ニッケル板、ステンレス板、またはチタン板等を陰極として挿入する。そして、カソードボックス内に電解給液を供給する。
隔膜電解法では、カソードボックスに給液された電解給液は、カソードボックスの隔膜を介して電解槽に移行し、一部はアノードボックスに入り、その後アノードボックスから電解廃液として系外に払い出され、一部は電解槽から電解廃液として系外に払い出される。このように、カソードボックスに電解給液を供給するため、アノードボックスにて発生した不純物イオンは陰極表面に電析しがたく、高純度の電気ニッケルを得ることができる。
電解給液として塩化ニッケル溶液を用いた場合には、アノード表面でClが発生する。このClがカソードボックス内に浸入しないようにするために、電解中は、カソードボックス内の液面は電解槽内の液面よりも5mm以上高く保持し、アノードボックス内の液面は電解槽内の液面よりも10mm以上低く保って電解する。これによりアノード表面で発生したClが、カソードボックス内で添加物を破壊したり、陰極表面の電着物に混入したりすることを防止している。
なお、電解給液中のNi濃度は産出される電気ニッケルの性状を決定する重要な要因であるため、電解操業管理においてNi濃度の測定は必須であり、各勤1回(約8時間毎)必ず電解給液と電解廃液とのNi濃度を簡易分析してその結果を操業にフィードバックしている。
【0021】
2. 電解給液
本発明では、電解給液を、塩化ニッケル溶液と電解廃液とを調合して得た混合溶液にチオ硫酸ナトリウムを添加して得る。電解廃液中には、少なからずClが含まれている。このため、調合に先立ち、真空脱ガスして電解廃液中のClを除去する。
本発明では、真空脱ガスして脱Clされた電解廃液を、従前のように活性炭により残部のClを吸着除去することなく、そのまま塩化ニッケル溶液と混合し組成調合して均一化し、その後これにチオ硫酸ナトリウムを添加して、電解給液を得る。
電解給液のニッケル濃度は40〜90g/Lに調整される。これはニッケル濃度が低いと電解時に陰極表面で濃度分極が発生し、電着不良を起こし、逆に高くなり過ぎると、電着応力が過大となり、陰極が歪み、カソードボックスの破壊や短絡を発生するからである。
また、電解給液の温度は60〜70℃、pHは1.0〜1.5、そしてチオ硫酸ナトリウム濃度は0.006〜0.012g/Lに調整される。
チオ硫酸ナトリウムの添加濃度を0.006〜0.012g/Lとするのは、この範囲を外れると、得られる硫黄含有電気ニッケル中の硫黄含有率が0.01〜0.025重量%とならず、めっき用として良好な製品とならないからである。硫黄含有率が低いと、めっきの際に陽極として用いたときに均一溶解性が悪く、硫黄含有率が高いと、スライム率が増加し、かつ均一溶解性も悪化する。
電解給液の温度を60〜70℃とするのは、電解温度が低いとチオ硫酸ナトリウムの添加効果で電着応力が増加し、歪みが発生するからであり、高すぎると作業環境を悪くするからである。
また、pHを1.0〜1.5とするのは、これよりpH低いと、電析する硫黄含有電気ニッケルの電着応力が増加すると共に、硫黄含有電気ニッケルが脆くなり、割れが発生するからである。一方、pHがこれより高いと、硫黄が異常析出し、陰極表面に粒状析出物を増加させ、良好な硫黄含有電気ニッケルが得られないからである。このpHの調整は、塩化ニッケル溶液を得るための下記浸出液から不純物を除去する際の最終段階でおこなうことが操業効率上望ましいが、pH調整槽を設け、カソードボックスに給液する直前にpHしても支障はない。pH調整剤としては塩酸または炭酸ニッケルを用いることが好ましい。
カソードボックスに給液された電解液は、カソードボックスの隔膜を介して電解槽に移行し、一部はアノードボックスに入り、その後電解排液として系外に払い出され、一部は電解槽から電解排液として系外に払い出される。
【0022】
3. 塩化ニッケル溶液
本発明の方法で用いる塩化ニッケル溶液は、ニッケルマットやニッケル・コバルト混合硫化物を塩素浸出して浸出液を得、得られた浸出液中のニッケル以外の金属を不純物として除去して得たものである。
ニッケルマットやニッケル・コバルト混合硫化物にはニッケル以外にコバルト、亜鉛、そして鉄などが不純物として含まれており、塩素浸出した際にニッケルと同様に浸出液中に溶解する。また、硫黄の一部も硫酸イオンとして溶解する。こうして得られた浸出液中の不純物を除去するには、例えば、まずコバルトを溶媒抽出して除去し、次いで酸化中和法により残留するコバルトおよび鉄等を三価の水酸化物として沈殿除去し、その後亜鉛を陰イオン交換樹脂で吸着除去することにより行う。
【0023】
4. チオ硫酸ナトリウムの添加方法
本発明では、硫黄源としてチオ硫酸ナトリウムを用いる。チオ硫酸ナトリウムは、安価で無害であり、かつ分解し易いからである。特に、チオ硫酸ナトリウムは不溶性陽極で発生する塩素により分解され、電解液中に蓄積される危険が少なく、蓄積物による障害発生の危険が少ない点が評価される。
添加方法は、通常、給液配管途中にチオ硫酸ナトリウムを添加し、配管中の液の移動によって均一に混合させるが、給液配管の途中に添加槽を設け、添加槽にて塩化ニッケル溶液と電解廃液との混合溶液に添加しても差し支えない。
チオ硫酸ナトリウムの添加位置をカソードボックスからあまりに離れた位置とすると、電解給液がカソードボックス中に供給される前にチオ硫酸ナトリウムが分解してしまい、陰極に電析するニッケル中に取り込まれる量が減少するので好ましくなく、余りカソードボックスに近い位置で添加すると、均一に混合されない。最適な添加位置は、専ら用いる装置に依存するので、用いる装置により最適添加位置を求めておくことが好ましい。
【0024】
5. チオ硫酸ナトリウムの添加量
5−1 電解廃液中のClを還元するための量
前記したように、真空脱ガスしたとはいえ、繰り返される電解廃液中には、なにがしかの量のClが含まれている。本発明では、このClをチオ硫酸ナトリウムで還元し、無害化する。電解廃液1l中のClを還元するために必要とされるチオ硫酸ナトリウム量は、実施例1にて詳細に説明するが、電解廃液1l中のClを還元するのに必要なチオ硫酸ナトリウム量をY(mg)とし、電解給液中のニッケル濃度をX(g/L)とした時に下記式1にて求められる量である。
[式1]
0.0555×X−1.59≦Y≦0.0675×X−1.815−−−式1
なお、電解給液中のニッケル濃度Xと電解廃液中に残存するClを還元するために消費されるチオ硫酸ナトリウム量Yとが上記関係を有する理由については、必ずしも明確ではないが、本発明者らは、この理由を以下のように推定している。
電解給液中のニッケル濃度Xが高い操業を行う際は、これに伴ってClの濃度も比例的に高くなるが、所定の電解が終了した後で、真空脱ガス前(電解直後)の電解廃液においても、同様に残存するClの濃度は比例的に高くなる。
その後、所定の条件によって真空脱ガスによる脱Clを行っても、この比例的な傾向が保たれるので、同様に電解廃液中(真空脱ガス後)に残存するClは、電解給液中のニッケル濃度Xに比例的な関係を保つものと推測している。
従って、この残存するClを消費するためのチオ硫酸ナトリウム量Yとの間にも比例的な関係を保たれるので、上記式1の関係を有するものと考えている。
【0025】
5−2 電解給液中のチオ硫酸ナトリウム量
前記したように、電解給液中のチオ硫酸ナトリウム濃度は0.006〜0.012g/Lに調整される。この範囲を外れると、得られる硫黄含有電気ニッケル中の硫黄含有率が0.010〜0.025重量%とならず、めっき用として良好な製品とならないからである。硫黄含有率が低いと、めっきの際に陽極として用いたときに均一溶解性が悪く、硫黄含有率が高いと、スライム率が増加し、かつ均一溶解性も悪化する。
【0026】
6. 硫黄含有電気ニッケル。
本発明の方法で得られる硫黄含有電気ニッケル中の硫黄含有率は、0.010〜0.025重量%である。前記したように、この範囲より硫黄含有率が低いと、ニッケルめっきの際に陽極として用いたときに均一溶解性が悪くなる。また、この範囲より硫黄含有率が高いと、ニッケルめっきの際にスライム率が増加し、かつ均一溶解性も悪化し、円滑なニッケルめっき操業に支障を来す。
【0027】
以下に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
実操業の工程において、電解給液と、真空脱ガス後、活性炭塔への通液を行う前の電解廃液とを同時にサンプリングし、電解給液中のニッケル濃度を求めた。
次に、1lのメスフラスコに15.0g/Lの濃度に調製したチオ硫酸ナトリウム溶液1mlを添加し、サンプリングした電解廃液をメスフラスコに入れ、電解廃液でメニスカスを合わせ、全量を1lとした。ついで、メスフラスコから分析用サンプルを採取し、分析して電解廃液中のチオ硫酸ナトリウム濃度を求めた。
これを、日と時間を変えて全部で9回行い、その結果を図1に示した。図1の縦軸は電解廃液1lに含まれるClを還元するのに必要とされたチオ硫酸ナトリウム量(mg)であり、横軸は電解給液中のニッケル濃度(g/L)である。
図1より、電解給液中のNi濃度と電解廃液1l中のClにより消費されるチオ硫酸ナトリウムの量との間に一定の比例関係があることがわかる。即ち、電解廃液1l中のClを還元するのに必要とされるチオ硫酸ナトリウムの量をY(mg)とし、電解給液中のニッケル濃度をX(g/L)とした時に、YとXとの間には下記式1の関係があることがわかる。
[式1]
0.0555×X−1.59≦Y≦0.0675×X−1.815−−−式1
【0029】
(実施例2)
容量7mの電解槽内に53枚の不溶性陽極と、52枚の陰極とをそれぞれカソードボックスとアノードボックスに入れて配置した。陰極は800×1000mm、厚さ1mmの電気ニッケル板を用い、陽極としてはTi板の表面に酸化イリジウムを被覆した740×945mmの不溶性電極を用いた。
塩化ニッケル溶液と真空脱ガスしたのみで活性炭塔を通さない電解廃液とを混合し、Ni濃度65g/L、Co、Cu、Feがそれぞれ0.001g/L以下、塩素イオン濃度が90g/L、pH1.3の64〜65℃の混合溶液を得た。この混合溶液のNi濃度より、電解廃液1l当たりのClを還元するのに必要とされるチオ硫酸ナトリウムを前記式1で求めたところ、2.02〜2.57mgとなった。そこで、中間値となる2.3mgを繰り返し使用される電解廃液1l中のClを還元するのに必要な量として上積みし、上記混合溶液1l当たり152.3mgのチオ硫酸ナトリウムを電解液供給配管の途中に加えて電解給液を得、これを各カソードボックスに均等に給液した。給液量は1カソードボックス当たり0.8l/minである。
次に、カソードボックスに供給されている電解給液をサンプリングしてそのチオ硫酸濃度を分析した。結果を表1に示した。
そして、電解液がアノードボックスの排液管に達したとき陰極電流密度が1.35A/dmとなるように通電し、アノードボックスの排液管より真空吸引により発生したClと電解廃液を槽外に排出した。
電解廃液については、本発明に基づき、真空脱ガス後に活性炭塔通液をすることなく塩化ニッケル溶液と混合し、この状態で8日間通電してめっき用硫黄含有電気ニッケルを得た。
尚、操業時のカソードボックス内の液面は電解槽の液面より5〜20mm高く、アノードボックス内の液面は電解槽の液面より10〜15mm低く保持され、アノードボックス内の液面はカソードボックス内の液面より15〜35mm低く維持された。
通電終了後、カソードを引き上げ、洗浄して硫黄含有電気ニッケルを得た。得られた硫黄含有電気ニッケルを切断機で100mm角に切断し、得られたピースの内から任意に選んだ16ピースをサンプルとして分析し、その硫黄含有率を求めた。結果を表1に示した。
更に、任意に選んだ5ピースをアノードとして用いて溶解テストを行った。溶解テストは、Ni濃度81.8g/L、pH4.0、硼酸濃度30g/Lのスルファミン酸浴を用い、上記試験片をそれぞれ陽極とし、ステンレス板を陰極とし、陽極電流密度2A/dm、電解液温度50〜55℃、通電時間96時間で電解を行い、陽極の電流効率、陽極スライム発生率を求め、陽極溶解後の表面状態を観察して製品としての適否を判定した。得られた結果を表1に示した。
【0030】
(実施例3)
塩化ニッケル溶液と真空脱ガスしたのみで活性炭塔を通さない電解廃液とを混合してえる塩化ニッケル溶液のNi濃度を40g/L、pHを1.0とした以外は実施例2と同様にして8日間の操業を行った。
なお、このNi濃度より求められる電解廃液1l当たりのClを還元するのに必要とされるチオ硫酸ナトリウムを前記式1で求めたところ、0.63〜0.89mgとなった。そこで、0.85mgを繰り返し使用される電解廃液1l中のCl還元用として上積みし、上記塩化ニッケル溶液1l当たり50.85mgのチオ硫酸ナトリウムを電解液供給配管の途中に加え、電解給液を得、これを実施例2と同様に各カソードボックスに給液した。
また、カソードボックスに供給されている電解給液をサンプリングしてそのチオ硫酸濃度を分析した。得られた結果を表1に示した。
得られた硫黄含有電気ニッケルを切断機で100mm角に切断し、得られたピースの内から任意に選んだ16ピースをサンプルとして分析し、その硫黄含有率を求めた。得られた結果を表1に示した。
更に、実施例2と同様にして溶解試験をし、陽極の電流効率、陽極スライム発生率を求め、陽極溶解後の表面状態を観察して製品としての適否を判定した。得られた結果を表1に示した。
【0031】
(実施例4)
塩化ニッケル溶液と真空脱ガスしたのみで活性炭塔を通さない電解廃液とを混合してえる塩化ニッケル溶液のNi濃度を90g/L、pHを1.5とした以外は実施例2と同様にして8日間の操業を行った。
なお、このNi濃度より求められる電解廃液1l当たりのClを還元するのに必要とされるチオ硫酸ナトリウムを前記式1で求めたところ、3.41〜4.26mgとなった。そこで、3.83mgを繰り返し使用される電解廃液1l中のCl還元用として上積みし、上記塩化ニッケル溶液1l当たり253.83mgのチオ硫酸ナトリウムを電解液供給配管の途中に加え、電解給液を得、これを実施例2と同様に各カソードボックスに給液した。
また、カソードボックスに供給されている電解給液をサンプリングしてそのチオ硫酸濃度を分析した。得られた結果を表1に示した。
得られた硫黄含有電気ニッケルを切断機で100mm角に切断し、得られたピースの内から任意に選んだ16ピースをサンプルとして分析し、その硫黄含有率を求めた。得られた結果を表1に示した。
更に、実施例2と同様にして溶解試験をし、陽極の電流効率、陽極スライム発生率を求め、陽極溶解後の表面状態を観察して製品としての適否を判定した。得られた結果を表1に示した。
【0032】
(比較例1)
1.50mgを繰り返し使用される電解廃液1l中のCl還元用として上積みし、上記塩化ニッケル溶液1l当たり151.5mgのチオ硫酸ナトリウムを電解液供給配管の途中に加え、電解給液を得た以外は実施例2と同様にして8日間の操業をおこなった。
なお、カソードボックスに供給されている電解給液をサンプリングしてそのチオ硫酸濃度を分析した。得られた結果を表1に示した。
得られた硫黄含有電気ニッケルを切断機で100mm角に切断し、得られたピースの内から任意に選んだ16ピースをサンプルとして分析し、その硫黄含有率を求めた。得られた結果を表1に示した。
更に、実施例2と同様にして溶解試験をし、陽極の電流効率、陽極スライム発生率を求め、陽極溶解後の表面状態を観察して製品としての適否を判定した。得られた結果を表1に示した。
【0033】
(比較例2)
2.70mgを繰り返し使用される電解廃液1l中のCl還元用として上積みし、上記塩化ニッケル溶液1l当たり152.7mgのチオ硫酸ナトリウムを電解液供給配管の途中に加え、電解給液を得た以外は実施例2と同様にして8日間の操業をおこなった。
なお、カソードボックスに供給されている電解給液をサンプリングしてそのチオ硫酸濃度を分析した。得られた結果を表1に示した。
得られた硫黄含有電気ニッケルを切断機で100mm角に切断し、得られたピースの内から任意に選んだ16ピースをサンプルとして分析し、その硫黄含有率を求めた。得られた結果を表1に示した。
更に、実施例2と同様にして溶解試験をし、陽極の電流効率、陽極スライム発生率を求め、陽極溶解後の表面状態を観察して製品としての適否を判定した。得られた結果を表1に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1より、本発明の式1、および条件に従った実施例2〜4では、得られた硫黄含有電気ニッケルでは、硫黄量も0.010〜0.025重量%の範囲内となり、スルファミン酸浴中でアノードとして用いた溶解特性も、良好な陽極電流効率とスライム発生率とが得られ、溶解後の表面状態も良好であった。
これに対して、本発明の条件に従わない比較例で得られた硫黄含有電気ニッケルでは、硫黄量は0.010〜0.025重量%の範囲内とならず、スルファミン酸浴中でアノードとして用いた溶解特性も、比較例1で得られたものは、スライム発生率は0.75〜2.61重量%で、溶解表面も簾状となり、比較例2で得られたものは、スライム発生率は0.35〜0.52重量%と高く、溶解表面も黒ずみ、簾状となり、共にニッケルめっき用に適したものとならなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の方法では、真空脱ガスした後の電解廃液中のClを活性炭により吸着除去することなく塩化ニッケル溶液と混合し、得た混合液に、チオ硫酸ナトリウムを添加し、電解廃液中に存在するClを還元すると共に、得られる電解給液中のチオ硫酸ナトリウム濃度を0.006〜0.012g/Lとする。うすることにより、安定的に硫黄含有率0.01〜0.025重量%の硫黄含有電気ニッケルを得ることができる。
従って、本発明の方法に依れば、繰り返す電解廃液中のClを高価な活性炭を用いて吸着除去しないので、低コストで硫黄含有電気ニッケルを得ることができるばかりか、廃棄処理困難なClを含む使用済み活性炭の発生もない。そのため、本発明の方法の工業的価値は高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔膜電解法を用い、チオ硫酸ナトリウムを含む電解給液をカソードボックスに給液して電解して硫黄含有電気ニッケルを連続的に製造するプロセスにおいて、
下記(イ)〜(ヘ)の工程を含み、その際、(ロ)の工程におけるチオ硫酸ナトリウムの添加量は、電解給液中のチオ硫酸ナトリウム濃度を0.006〜0.012g/Lとするに必要な量以外に、(イ)の工程で得られた混合溶液中に残存するClを還元するに足る量だけ、過剰にすることを特徴とする硫黄含有電気ニッケルの製造方法。
(イ)主として塩化物よりなるニッケル溶液と電解廃液とを混合する。
(ロ)(イ)で得られた混合溶液にチオ硫酸ナトリウムを添加する。
(ハ)(ロ)で得られた電解給液をカソードボックス内に給液し、電解によってカソードボックス内で硫黄含有電気ニッケルを得る。
(ニ)一方、アノードボックスから該ボックス内で発生する塩素ガスをアノードボックス内の電解液と共にアノードボックス外に排出する。
(ホ)(ニ)で得られたアノード排出液と、電解槽から排出される余剰の電解液とを合一して真空脱ガスしてClを除去して電解廃液を得る。
(ヘ)(ホ)で得られた電解廃液の一部を上記(イ)の電解廃液として使用する。
【請求項2】
前記(イ)の工程で得られた混合溶液中に残存するClを還元するに足る量は、下記の式1にて決定されることを特徴とする請求項1記載の硫黄含有電気ニッケルの製造方法。
[式1]
0.0555×X−1.59≦Y≦0.0675×X−1.815−−−式1
(式中、X(g/L)は電解給液液中のニッケル濃度であり、Y(mg)は前記(イ)に繰り返される電解廃液1lに含まれるClを還元するのに必要とされるチオ硫酸ナトリウム量である。)
【請求項3】
電解給液中のニッケル濃度が40〜90g/Lであることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の硫黄含有電気ニッケルの製造方法。
【請求項4】
得られる硫黄含有電気ニッケルの硫黄含有率が0.01〜0.025重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の硫黄含有電気ニッケルの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−42820(P2011−42820A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190678(P2009−190678)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】