説明

硬化性材料

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は重合硬化性材料に関するものである。本発明は特に、医療用および歯科用、例えば骨格セメント(Knochenzement)としての添加剤用の、および歯科用充填剤、クラウン、ブリッジ、被覆物(Verblendung)、インレイ、義歯及び柔らかい義歯裏ライニングの製造のための、重合硬化性材料(重合により硬化され得る材料)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】重合性歯科材料は、既に長年知られている。最初の材料としては、単量体と高分子メチルメタクリレートの混合物からなるものであり、これは触媒、又は触媒と促進剤からなる系の添加により、室温(低温重合)でまたは高められた温度(高温重合)で硬化される。
【0003】硬化生成物の機械的性質の改良は石英又はアルミニウムシリケートのような小さな充填剤を付加的に含有する歯科材料により達成され、美的な作用の改良は変色を引き起こさない新触媒系の開発により達成され、そして重合収縮の減少はメチルメタクリレートと共に又はそれに変えて高級アルコールのメタクリル酸エステルの使用により達成される。
【0004】この分野においては、Rafael L. Bowen が、それまで使用されていたメチルメタクリレートに代えて、長鎖低分子ジメタクリレート・・・・ビスフェノールA及びその誘導体とグリシジルメタクリレート、特にいわゆるBis−GMA、との反応生成物・・・・を石英粉末の合成樹脂マトリックスの強化のために導入したように、重合により硬化された歯科充填材料は大きな進歩を示している(US3,066,112A)。
【0005】有機単量体と共に微細な無機充填剤を含有する歯科材料である広範なコンポジットの例は米国特許第3,539,533号明細書に記載されている。この重合性結合剤はBis−GMA、ビスフェノールA−ジメチルアクリレート、希釈性単量体、特にトリエチレングリコールジメタクリレートおよび場合により、少量のメタクリル酸からなる混合物であり、約65〜75重量%の無機充填剤、例えば二酸化珪素、ガラス、酸化アルミニウム又は石英が一緒に使用される。無機充填剤は約2〜85ミクロンの粒径であることができる。合成樹脂/充填剤結合の改良のために、シラン、例えば3−メタクロイロキシプロピルトリメトキシシランで処理される。
【0006】0.01〜0.4ミクロンの平均粒径を有する微細な(ミクロ)無機充填剤は、自然歯に似た、高い光沢磨き性及び透明性を有する改良された美しい歯科用合成樹脂製品に導く(DE 24 03 211C3)。
【0007】合成樹脂を基材とする歯科材料の開発における更なる進展は、微細な充填剤のみならず慣用の充填剤(マクロ充填剤)をも含有する、いわゆるハイブリッド材料である。この種の歯科材料は、例えばDE24 05 578C3により公知である。この材料は、0.07ミクロンの最大粒径を有する炎熱分解で製造された非晶性珪酸(熱分解二酸化珪素)と、5ミクロンまでの粒径を有する細かいガラス、好ましくは硼珪酸ガラス、バリウム又はランタンオキシド含有ガラスまたはリチウムアルミニウムシリケートガラスとからなる混合物30〜80重量%を含有するものである。
【0008】また、ハイブリッド材料として、EP382033A2に記載の歯科用素材があり、これは重合性アクリレート又はメタクリレートおよび光重合用触媒(光活性剤)と共に、0.1〜10ミクロンの平均粒径を有するシラン化ガラス又はシラン化ガラスセラミック5〜80重量%および表面処理されたミクロ充填剤2〜10重量%を含有するものである。
【0009】新しい歯科材料の開発の目標の一つは、重合中の収縮を減ずることにある。EP02 35 826B1には、収縮の少ない重合性歯科用素材として、アルコール残基(メタ)アクロイロキシ基中のトリグリコール酸ジエステルが提案されている。この単量体を用いて、充填剤含量が少ない場合でも、高含量に相当する収縮特性を有する歯科材料が製造される。
【0010】ラジカル重合性二重結合を有する単量体、特にアクリル酸エステル及びメタクリル酸エステル15〜60重量%、繊維状無機充填剤8〜40重量%、非繊維状充填剤15〜60重量%および補助剤0〜10重量%を含有する重合性素材はDE38 19 777A1から公知である。この素材は(室温、高められた温度、光の作用)の重合により成形体に硬化され、工芸用、医療用及び歯科用への使用に適している。硬化中、僅かな重合収縮が現れるにすぎない。
【0011】アクリル酸及び/又はメタクリル酸のエステル単量体又はビニルエーテルおよびそれに可溶な重合体からなる重合収縮の小さな混合物は、DE40 01 977C2及びDE 40 01 978C2により製造される。特に歯科用に適した混合物の重合は低温重合、高温重合および光重合で行われる。
【0012】今まで使用されていたセメントに対して、改良された機械的特性を示す、収縮の少ない重合性歯科材料及び骨格セメントはDE42 29 947A1に記載されている。該セメントは、ビニルジカルボン酸無水物のオリゴマー及び/又はポリマー、及び/又は他のビニル化合物とのコポリマー、反応性モノ−及び/又はオリゴ−及び/又はポリ−官能性化合物の開環によるコポリマーを含有し、なお開環の際遊離のカルボキシル基により反応することができる反応性無機充填剤、例えば硬化剤を有することができる。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、重合性化合物の収縮の少ない重合硬化性材料への使用を見いだすことにある。重合性化合物は特に、重合により硬化され得る、医療用及び歯科用を目的とする使用に適したものであるべきである。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明の課題は、下記一般式で表される重合性化合物、そのカチオン性重合開始剤、少なくとも1種のメタクリル酸エステルおよびフリーラジカル重合開始剤を含有する、医療用又は歯科用硬化性材料の提供により解決される。
【0015】
【化4】


【0016】
【化5】


【0017】
【化6】


【0018】本発明に使用される重合性化合物は、オキセタン−、例えばオキサシクロブタン−誘導体の公知のグループに属し、例えば J. Am. Chem. Soc.79(1957) 3455〜3456 および J. Macromol. Sci. A29 (10) 915-930(1992) 及び A30 (2&3)189-206 (1993)に記載されている。このものの製造は、上記文献に記載の方法に対応して行うことができる。
【0019】オキセタンの重合は、酸、ルイス酸により開始され、そのためには、例えば、トリフルオロ酢酸、硫酸および三弗化硼素が使用される。
【0020】オキセタンの光重合は、カチオン重合開始剤として、オニウム化合物の存在下に行われる。特に、その際スルホニウム塩、ヨードニウム塩、イソキノリニウム塩及びシクロペンタジエニル鉄(I)塩が適切である。特に、ビス−[4−(ジフェニルスルホノ]−フェニル]−スルフィド−ビス−ヘキサフルオロホスフェートおよび(4−ペンタデシルオキシフェニル)−フェニルヨードニウム−ヘキサフルオロホスフェートが好ましい。
【0021】ペリレン、フェナンソレンキノン又は樟脳キノンのような増感剤により、開始剤系のスペクトル感度を長波長範囲に広げることができる。光重合の際に、ラジカル重合開始剤、例えばアシルホスフィンオキシド(DE28 30 927A1、DE30 20 092A1参照)、ベンゾインエーテル、α−ヒドロキシアルキルフェノン、並びにベンジルジメチルケタールの併用は特に有利であることがわかった。
【0022】驚くべきことに、本発明のオキセタンの使用により、メタクリル酸エステルによる重合性材料が得られ、このものは重合中にほんの僅かしか収縮しない。多くの利点は、酸素に対して、メタクリル酸エステルに比べ重合反応が比較的非感受性であることである。
【0023】オキセタンを含有する重合性材料は、モノオール、ジオール及び/又はポリオールとメタクリル酸の種々のエステル単量体を加えることができることがわかった。このようなメタクリル酸エステルは、例えば、メチルメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート及びBis−GMAである。
【0024】本材料には、細かい有機及び/又は無機充填剤、例えばポリアルキルメタクリレート及び/又は石英も含有することができる。医療用及び歯科用の目的の材料に適するようにしたいならば、該材料における物理的、化学的、外観工芸的及び美学的要求が満される成形成分を選択すべきである。このような材料の形成は当業者には知られている。
【0025】
【実施例】本発明を詳しく説明するために、本発明に使用される3種のオキセタンの及び比較のために公知のメタクリル酸エステルの重合中における収縮の測定(実施例1)、およびオキセタンを含有する2種の重合硬化性材料及びその重合(実施例2及び3)について、以下に記載する。
【0026】
実施例1重合中の収縮の測定:3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(オキセタン I)、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン−ベンジルエーテル(オキセタン II)および3,3−(p−キシリレンジオキシ−)−ビス−(メチル−3−エチルオキセタン)(オキセタン III)の重合を Heraeus Kulzer GmbH社の照射装置「Unilux AC」中で行った。その際、二枚の石英板の間に、慣用の家庭用接着剤で1mm厚さのテフロンリングを接着させた。ついで、暗いフラスコの中に光開始剤(Degacure KI 85)と共に保持された単量体を該リングへ射出することにより分裂させた。この際、この工程ではリング中に気泡が生じないようにすることが重要である。そのようにして調製された石英板をIR装置のホルダーに固定し、光源装置テーブル上に置いた。ついで、20照射単位をかけて重合を行わせた。
【0027】単量体の密度は、デジタル密度測定装置により20℃で測定した。その際、測定は電気周波数又は振動時間測定により追跡した。重合体の密度は懸濁法により測定した。この測定は、後重合を完了させるために、適当な重合の4週間後に実施された。再現可能な結果が得られるように、そのつど、異なるグレードの3種の重合体を使用した。ついで、エアロメーターにより塩溶液の密度を測定した。この操作を何度も繰り返し、平均値を計算した。収縮は下記の式により計算した。
【0028】
【数1】


【0029】そのようにして測定された、3種のオキセタン及び2種のメタクリル酸エステルの重合体収縮(S)、分子量(MG)及び分子量に対する収縮の割合(S/MG)を表に示した。
【0030】
【表1】


【0031】
実施例2

を、光学装置 Dentacolor XS (Heraeus Kulzer GmbH)中で90秒以内照射して光重合により硬化させた。
*1:ビス−[4−(ジフェニルスルホノ)−フェニル]−スルフィド−ビス−ヘキサフルオロホスフェート*2:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド
【0032】実施例3下記の硬化性材料:

を、光学装置 Dentacolor XS (Heraeus Kulzer GmbH)中で90秒以内照射して光重合により硬化させた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記一般式で表される重合性化合物、そのカチオン重合開始剤、少なくとも1種のメタクリル酸エステルおよびそのラジカル重合開始剤を含有する、医療用又は歯科用硬化性材料。
【化1】


【化2】


、または
【化3】


【請求項2】 前記硬化性材料がカチオン重合開始剤としてスルホニウム塩を含有する請求項1記載の硬化性材料。
【請求項3】 前記重合硬化性材料がカチオン重合開始剤としてヨードニウム塩を含有する請求項1または2記載の硬化性材料。
【請求項4】 前記ラジカル重合開始剤がアシルホスフィンオキシドまたはα−ヒドロキシアルキルフェノンである請求項1記載の硬化性材料。
【請求項5】 前記重合硬化性材料が、さらに無機充填剤を含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の硬化性材料。
【請求項6】 前記重合硬化性材料が、さらにポリアルキルメタクリレートを含有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の硬化性材料

【特許番号】第2880446号
【登録日】平成11年(1999)1月29日
【発行日】平成11年(1999)4月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−33920
【出願日】平成8年(1996)2月21日
【公開番号】特開平8−245783
【公開日】平成8年(1996)9月24日
【審査請求日】平成8年(1996)4月8日
【前置審査】 前置審査
【出願人】(591237858)ヘレウス・クルツァ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (3)
【氏名又は名称原語表記】HERAEUS KULZER GESELLSCHAFT MIT BESCHRANKTER HAFTUNG
【住所又は居所原語表記】HERAEUSSTRASSE 12−14,63450 HANAU,GERMANY
【参考文献】
【文献】特開 平6−16804(JP,A)
【文献】特開 平7−17958(JP,A)
【文献】特開 平8−208832(JP,A)
【文献】特開 平7−173279(JP,A)
【文献】特開 平7−53711(JP,A)
【文献】H.Sasaki,J.V.Crivello,Journal of Macromolecular Science−Pure and Applied Chemistry,A29(10),915−930,(1992)
【文献】J.V.Crivello,H.Sasaki,Journal of Macromolecular Science−Pure and Applied Chemistry,A30(2&3),189−206,(1993)
【文献】J.V.Crivello,H.Sasaki,Journal of Macromolecular Science−Pure and Applied Chemistry,A30(2&3),173−187,(1993)