説明

硬化性樹脂組成物及びそれを用いた立体造形物

【課題】 サポートを必要とせず、高弾性率かつ耐衝撃性に優れた造形物を得ることができる光学的立体造形法用硬化性樹脂組成物およびそれを用いた立体造形物を提供する。
【解決手段】 アイソタクチシティが80%以上のメタクリル酸メチル重合体、側鎖に重合可能なエチレン性二重結合を有し、かつシンジオタクチシティが40%以上であるメタクリル酸エステル共重合体、および光重合可能なエチレン性不飽和化合物を特定の割合で含有する光学造形用硬化性樹脂組成物、並びに該組成物を硬化させてなる立体造形物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物に関するものであり、より詳しくはサポートを必要とせず、かつ硬化物の弾性率および耐衝撃性に優れた造形物を得ることができる光学的立体造形法用硬化性樹脂組成物およびそれを用いた立体造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
光造形法は三次元CADなどのデータから直接立体造形物が短時間で得られる造形技術であり、金型作成期間の短縮や、頭蓋骨モデルなど複雑な造形物の作成に適しており近年ラピッドプロトタイピングの1つとして注目されている立体造形技術である。
【0003】
造形時間を短縮するためにサポートを必要とせず、かつ冷却も必要としない光造形法として特許文献1に提案されている方法がある。具体的にはゾルゲル転移を利用した光硬化性樹脂の活用であり、高温下(例えば100℃程度)ではゾル状態であり、低温下(例えば25℃程度)ではゲル状態を呈する光硬化性樹脂を利用したものであり、優れた成形サイクルを実現することができる。
しかし、特許文献1で示されている樹脂組成物はウレタンアクリレート系紫外線硬化樹脂、シンジオタクチックポリメチルメタクリレートおよびアイソタクチックポリメチルメタクリレートの混合物であり、この樹脂組成物で得られる硬化物は一般的に弾性率は高いものの耐衝撃性が低く、造形物を実機にはめ込んで実用物性を評価すると割れやすく、実装試験に用いることは困難である。
【0004】
一方、力学特性に優れた光学的立体造形用硬化性樹脂を得る方法として窒素原子含有ビニル単量体を添加した樹脂組成物や、当該単量体を単独重合して得られるホモポリマーのガラス転移温度Tgが50℃以上のビニル単量体を添加した樹脂組成物(特許文献2、3および4参照)などが提案されている。しかしいずれの提案も、組成物中の紫外線硬化樹脂を単に置き換えるだけでは、弾性率は高くなるものの耐衝撃性が低い硬化物しか得られないため、本用途に用いることはできない。
【0005】
そこで、サポートを必要としない光学的立体造形法に用いることが可能であり、かつ硬化物の弾性率および耐衝撃性に優れた造形物を得ることができる光学的立体造形法用硬化性樹脂組成物が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開2001-049129号公報
【特許文献2】特開平8−59759号公報
【特許文献3】特開平9−217004号公報
【特許文献4】特開2001−302744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、サポートを必要とせず、高弾性率かつ耐衝撃性に優れた造形物を得ることができる光学的立体造形法用硬化性樹脂組成物およびそれを用いた立体造形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決するために検討を重ねた結果、本発明の光学造形用硬化性樹脂組成物を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、
成分(A):アイソタクチシティが80%以上のメタクリル酸メチル重合体;
成分(B):側鎖に重合可能なエチレン性二重結合を1分子あたり3〜20モル%有し、かつシンジオタクチシティが40%以上であるメタクリル酸エステル共重合体;
成分(C):光重合可能なエチレン性不飽和化合物;
を含有し、成分(A)が成分(A)および成分(B)の合計に対し10〜50質量%であり、成分(C)が成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計に対し60〜95質量%であることを特徴とする光学造形用硬化性樹脂組成物である。
【0010】
また本発明は、
光学造形法であって、以下の工程(1)〜(6);
工程(1):所望の立体形状を3次元CADで設計し、水平スライスデータとする。
工程(2):上記の硬化性樹脂組成物を加熱し、ゾル状態で一定の膜厚に流延する。
工程(3):冷却し、硬化性樹脂組成物をゲル化させる。
工程(4):工程(1)で得られたスライスデータ状に露光する。
工程(5):工程(2)〜(4)を所望の形状ができるまで繰り返す。
工程(6):未硬化状態の光硬化性樹脂を除去する;
を含む光学造形法である。
【0011】
さらに本発明は、上記の光学造形用硬化性樹脂組成物を硬化させてなる立体造形物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂組成物は、サポートを必要とせず、高弾性率かつ耐衝撃性に優れた硬化物を得ることができる光学造形用硬化性樹脂組成物であるため、サポートを必要としない光学的立体造形法において高弾性率かつ耐衝撃性に優れた実用試験可能な立体造形物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の硬化性樹脂組成物は、以下の成分(A)〜(C)即ち;
成分(A):アイソタクチシティが80%以上のメタクリル酸メチル重合体;
成分(B):側鎖に重合可能なエチレン性二重結合を1分子あたり3〜20モル%有し、かつシンジオタクチシティが40%以上のメタクリル酸エステル共重合体;
成分(C):光重合可能なエチレン性不飽和化合物;
を含有する。
【0015】
成分(A)のアイソタクチシティが80%以上のメタクリル酸メチル重合体、および成分(B)の側鎖に重合可能なエチレン性二重結合を1分子あたり3〜20モル%有し、かつシンジオタクチシティが40%以上であるメタクリル酸エステル共重合体は、アイソタクチックな重合体とシンジオタクチックな重合体とからなるステレオコンプレックスの形成により、硬化性樹脂組成物を未硬化でゲル状態とするために必要な成分である。本発明におけるタクチシティーは、H−NMRによって測定した3組の隣接する単量体単位(トリアド)の立体規則性含量を表す。即ち、アイソタクチックとはアイソタクチックトリアドを表し、シンジオタクチックとはシンジオタクチックトリアドを表す。
【0016】
成分(A)のメタクリル酸メチル重合体は、アイソタクチシティが80%以上であることにより未硬化状態での硬化性樹脂組成物のゲル強度が優れたものとなる。該メタクリル酸メチル重合体のアイソタクチシティーは、90%以上であるのが好ましい。成分(A)のメタクリル酸メチル重合体は公知の重合法によって得ることができるが、高いアイソタクチシティーを得ることのできるアニオン重合法によるのが好ましい。成分(A)の製造には、少量であればメタクリル酸メチルと共に、後述する成分(B)の製造に用いることのできるような他の共重合性単量体を用いてもよい。該共重合性単量体は、成分(A)の製造に用いる全単量体の20質量%以下であるのが好ましく、10質量%以下であるのがより好ましい。成分(A)のメタクリル酸メチル重合体の重量平均分子量(Mw)は、1万〜100万であるのが好ましく、3万〜20万であるのがより好ましい。
【0017】
成分(B)の、側鎖に重合可能なエチレン性二重結合を1分子あたり3〜20モル%有し、かつシンジオタクチシティが40%以上であるメタクリル酸エステル共重合体は、側鎖に重合可能なエチレン性二重結合を有することによって、成分(C)のエチレン性不飽和化合物と共重合して高弾性率かつ耐衝撃性に優れた造形物を得ることができる。成分(B)の側鎖に有する重合可能なエチレン性二重結合が分子中に3モル%以下である場合は耐衝撃性が下がり、20モル%を超える場合は液の保存安定性が低下する。重合可能なエチレン性二重結合は、1分子あたり5〜10モル%であるのが好ましい。
【0018】
重合可能なエチレン性二重結合を重合体中に導入する方法としては公知の方法を利用することができる。例えばカルボキシル基とエポキシ基との反応、イソシアネート基と水酸基との反応、イソシアネート基とアミノ基との反応などが挙げられるが、反応率の観点からイソシアネート基と水酸基との反応による方法により重合可能なエチレン性二重結合を重合体中に導入するのが好ましい。イソシアネート基と水酸基との反応を利用する場合は、例えばイソシアネート基を有する共重合体とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとを反応させる方法や、水酸基を有する共重合体とアクリロイルオキシアルキルイソシアネートとを反応させる方法などが挙げられる。重合体に重合可能なエチレン性二重結合を導入するときは、反応率向上の観点から錫触媒などの反応促進剤を添加することが好ましい。その際には、重合可能なエチレン性二重結合が重合しないようにメトキシキノンやヒドロキノンなどの重合禁止剤を反応液中に添加して重合反応を防止することが好ましい。
【0019】
成分(B)のメタクリル酸エステル共重合体のシンジオタクチシティーは、40%未満であるとゲル強度が不足してゲルを積層できなくなる。また、ゾルゲル転移温度、特にゲルがゾル化する温度が高くなり過ぎず適切となるため、40〜80%であるのが好ましい。該メタクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量は、小さすぎるとゲル強度が小さくなり、大きすぎるとゾル粘度が高くなりすぎるため、2万〜20万であるのが好ましく、3万〜10万であるのがより好ましい。
【0020】
本発明において、高分子鎖同士の疑似架橋を起こりやすくさせ未硬化状態でゾルゲル転移性を発現させるために、成分(A)の質量比は、成分(A)および成分(B)の合計に対し10〜50質量%であり、25〜40質量%であるのが好ましい。
【0021】
成分(C)の光重合可能なエチレン性不飽和化合物は、分子内に少なくとも1個のエチレン性二重結合を有する光重合可能なエチレン性不飽和化合物であれば特に制限はない。具体例としては(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、2−ジシクロペンテノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ビフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ビフェノキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、フェニルエポキシ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、N−[2−(メタ)アクリロイルエチル]−1,2−シクロヘキサンジカルボイミド、N−[2−(メタ)アクリロイルエチル]−1,2−シクロヘキサンジカルボイミド−1−エン、N−[2−(メタ)アクリロイルエチル]−1,2−シクロヘキサンジカルボイミド−4−エン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、N−メチル−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド等の単官能性(メタ)アクリレート系モノマー;N−ビニルピロリドン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルアセトアミド、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、酢酸アリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニルなどのビニル系モノマー;1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノール−A−ジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノール−A−ジエポキシジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールのエチレンオキサイド変性ジアクリレート、ジンクジ(メタ)アクリレート、ビス(4−(メタ)アクリルチオフェニル)スルフィドなどの2官能性(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加トリメチロールプロパンのトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンのテトラ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加トリメチロールプロパンのトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンのテトラ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ペンタエリスリトールのテトラ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加ペンタエリスリトールのテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールのペンタ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールのペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールのヘキサ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールのヘキサ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルホルマール、1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−s−ヒドラジンなどの3官能以上の多官能性モノマー;ウレタンアクリレート、エステルアクリレートなどのオリゴアクリレートが挙げられる。高弾性率の立体造形物を所望する場合は、少なくとも1種類のアミド基を有しかつ分子内に少なくとも1個のエチレン性二重結合を有する光重合可能なエチレン性不飽和化合物を含有することが好ましく、具体的にはN−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカプロラクタムなどが挙げられ、アクリロイルモルホリンが特に好ましい。
【0022】
成分(C)の光重合可能なエチレン性不飽和化合物は、硬化物の耐衝撃性の観点から、成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計に対し60〜95質量%であり、適度なゾル粘度を得るためには70〜90質量%であるのが好ましい。
【0023】
光重合可能なエチレン性不飽和化合物がアミド基を有するものを含有する場合、アミド基を有するエチレン性不飽和化合物は、成分(C)の全量に対して35〜75質量%であるのが好ましい。
【0024】
本発明の硬化性樹脂組成物には、得られる立体造形物により高い耐衝撃性が必要な場合、成分(D)として可塑剤を添加してもよい。成分(D)の可塑剤は、室温で液体状または固体状のものであってもよく、重合体であってもよい。可塑剤の具体例としては、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジベンジルフタレート、アルキルホスフェート、ポリアルキレングリコール、グリセロール、ポリ(エチレンオキサイド)、ヒドロキシエチル化アルキルフェノール、トリクレシルホスフェート、トリエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールカプレート、ジオクチルフタレートおよびポリエステル系可塑剤などを挙げることができる。中でも、硬化性樹脂組成物との相溶性の観点から、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジベンジルフタレート等の芳香族系可塑剤がより好ましい。成分(D)の可塑剤は、多すぎる場合は得られる立体造形物の物理物性を損ねる可能性があるため、組成物の合計質量に対し20質量%以下であるのが好ましく、1〜20質量%であるのがより好ましく、5〜15質量%であるのがさらに好ましい。
【0025】
より耐衝撃性の高い立体造形物が必要な場合は、また、成分(E)として架橋ポリマー微粒子を添加してもよい。成分(E)の架橋ポリマー微粒子としては特に制限されないものの、直径5μm以下の粒子であるのが好ましく、より少量の添加量で高い効果を発現させるためには直径0.01〜1μmであるのがより好ましく、0.1〜1μmであるのがさらに好ましい。成分(E)の架橋ポリマー微粒子の材質は、具体的にはアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂等の公知のものがいずれも使用可能である。成分(E)の架橋ポリマー微粒子は、複層構造であってもよく、連続的に層構成が変化する構造であってもよい。より高い耐衝撃性が必要な場合は、外側の層を構成するポリマーのガラス転移温度が、内側の層を構成するポリマーのガラス転移温度よりも高い2層構造の架橋ポリマー微粒子であることが好ましい。また、微粒子の表面をアクリロイル基など硬化時にマトリックスと反応性のある官能基で修飾させることも耐衝撃性向上に効果がある。成分(E)の架橋ポリマー微粒子は、多すぎると得られる立体造形物の物理物性を損ねる可能性があるため、組成物の合計質量に対し10質量%以下であるのが好ましく、0.1〜10質量%であるのがより好ましく、1〜5質量%であるのがさらに好ましい。
【0026】
また、エチレン性二重結合を有さない化合物として、必要に応じて、活性エネルギー線で重合可能なエポキシ系またはオキセタン系の化合物等を、成分(C) の分子内に少なくとも1個のエチレン性二重結合を有する光重合可能なエチレン性不飽和化合物と共に使用してもよい。
【0027】
上記エポキシ系化合物の具体例としては、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、フェノールノボラックのグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0028】
また、オキセタン化合物の具体例としては3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタンなどが挙げられる。
【0029】
成分(C)の光重合可能なエチレン性不飽和化合物の光重合には、光重合開始剤を用いるのが好ましい。光重合開始剤の具体例としては、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、キサントフルオレノン、ベンズアルデヒド、アントラキノン、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−オキサントン、カンファーキノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン等が挙げられる。また、分子内に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する光重合開始剤も用いることができる。
【0030】
光重合開始剤の硬化性樹脂組成物中の含有量は、0.1〜10質量%であるのが好ましく、3〜6質量%であるのがより好ましい。
【0031】
本発明において、光重合を促進させるために光重合開始剤と共に光増感剤を使用してもよい。光増感剤の具体例としては、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等を挙げることができる。
【0032】
また、本発明においては、光重合を促進させるために光重合開始剤と共に光促進剤を使用してもよい。光促進剤の具体例としては、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p−ジメチルアミノ安息香酸2−n−ブトキシエチル、安息香酸2−ジメチルアミノエチルなどを挙げることができる。
【0033】
その他本発明の効果を損ねない範囲内においてUV吸収剤、重合禁止剤、無機フィラー、染料、顔料等を所望の用途に合わせて含有してもよい。
【0034】
本発明における光学造形法は、本発明の光学造形用硬化性樹脂組成物を用いてゾルゲル転移を利用した光学造形法であれば特に制限はないが、通常以下のような工程によって行う。
【0035】
工程(1):所望の形状を3次元CADで設計し、水平スライスデータとする。
工程(2):本発明の硬化性樹脂組成物を加熱し、ゾル状態で一定の膜厚に流延する。
工程(3):冷却し、硬化性樹脂組成物をゲル化させる。
工程(4):工程(1)で得られたスライスデータ状に露光する。
工程(5):工程(2)〜(4)を所望の形状ができるまで繰り返す。
工程(6):未硬化状態の光硬化性樹脂を除去する。
【0036】
工程(2)において、本発明の硬化性樹脂組成物を加熱する場合、温度が高すぎると熱重合が起こってしまい、温度が低すぎると硬化性樹脂組成物がゾル化しないので、加熱温度は60℃以上120℃以下であるのが好ましく、70℃以上100℃以下であるのがより好ましい。流延する一定の膜厚とは、薄すぎると精度が上がる反面造形時間がかかり、厚すぎると造形精度が下がりかつ完全硬化させることが困難になるため、工程(1)の水平スライスデータのスライス間隔以上であって、かつ0.1〜3mmであるのが好ましく、0.2〜0.5mmであるのがより好ましい。
【0037】
工程(3)において、冷却方法は、例えば25℃程度の室温で放冷する方法や、冷却ファンなどによって送風する方法や冷気を当てる方法などが好ましく挙げられる。また、室温で放冷する方法では0.5〜5分程度放冷することでゲル化が可能である。
【0038】
工程(4)の露光において照射する光源としては、レーザー光や紫外線などが挙げられるが、安価に入手可能である紫外線がより好ましい。紫外線発生装置としては高圧水銀灯や、メタルハライドランプなどが挙げられる。また、スライスデータ状に部分露光する方法としては非露光部分にマスクを介して、一括露光する方法や、点描画する方法など公知の露光方法が挙げられる。非露光部分の上に露光部分が位置する場合は、点描画する光線を収束光として硬化させたい深度のみで光線が焦点を結ぶように光源やレンズ等との間隔を調整する方法などを挙げることができる。
【0039】
工程(6)において未硬化樹脂を除去する方法としては、直接未露光部分を剥離することも可能であるが、細部が入り組んだ形状を造形した場合などは、一旦立体造形物を80℃程度に加温させ、未露光部分をゾル化させ除去する方法や、未露光樹脂の溶解が可能なイソプロパノールなどの溶剤に浸漬させた後乾燥させる方法も有効である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
(合成例1)アイソタクチックポリメチルメタクリレート(成分A)の合成
300ml三つ口フラスコを窒素置換し、トルエン24g、シクロヘキサン87g、フェニルマグネシウムブロマイド(エーテル溶液0.77M)7.4mlを加えた後10℃に冷却した。メチルメタクリレート28gを90分間かけて滴下し、その後6時間攪拌した後メタノール0.4gを加え反応を停止させた。反応液をろ過後、残渣をメタノールで洗い、乾燥させiso-PMMAを得た。GPC測定の結果Mwは5万であった。NMR測定の結果アイソタクチシチィーは93%であった。
【0042】
(合成例2)反応性基含有ポリメチルメタクリレート(成分B)の合成
300ml三つ口フラスコを窒素置換し、トルエン155g、アクリロイロイルオキシエチルイソシアネート(商品名カレンズMOI 昭和電工社製)2g、メチルメタクリレート18g、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(商品名パーオクタO 日本油脂社製)60mgを加え80℃に昇温後6時間攪拌した。反応液にN,N-ジメチルパラトルイジン10mg、2−メトキシヒドロキノン100mgを加え80℃にて30分攪拌後、ジブチルチンジラウレート10mg、2−ヒドロキシエチルメタクリレート1.5gを加え80℃にて3時間攪拌し反応液が得られた。反応液をヘキサン(2L)に投入し得られた沈殿物を真空乾燥機にて60℃で1晩乾燥した。GPC測定の結果Mwは4万であった。Mw/Mnは3.42であった。
【0043】
(合成例3)ブチルメタクリレート共重合ポリメチルメタクリレートの合成
300ml三つ口フラスコを窒素置換し、トルエン155g、メチルメタクリレート16g、ブチルメタクリレート4gを加えさらにアゾビスイソブチロニトリル20mgを加え80℃に昇温後6時間攪拌した。
反応液をヘキサン(2L)に投入し得られた沈殿物を真空乾燥機にて60℃で1晩乾燥した。
GPC測定の結果Mwは14.5万であった。
【0044】
<実施例1〜5>、<比較例1および2>
表1に示す成分(C)、(D)、(E)の混合溶液をホットプレート付マグネチックスターラー上で100℃に加熱、攪拌後、成分(A)を添加し完全に溶解するまで攪拌した。更に成分(B)を添加し完全に溶解するまで攪拌し液温が60℃以下になった状態で開始剤(ダロキュア1173)を組成物の全体量に対し5wt%添加し冷却後、ゲル状光硬化性樹脂組成物を得た。
得られたゲル状光硬化性樹脂組成物を100℃で加熱し、ゾル状態にした後、各試験形状に合わせた容器内に流延し、室温にて1分間冷却後、UV照射機(商品名トスキュア401 東芝社製)にて1分硬化させ、更に反対面を1分間照射し硬化物を得、曲弾性率測定、耐衝撃試験に供した。
【0045】
1.曲弾性率測定
サンプル:縦50mm横10mm厚さ1mmのサンプルを荷重速度2mm/min、荷重点間36mmにて曲げ試験を行い(装置名:AUTO GRAPH AG−2000B 島津製作所社製)、測定した最大応力を荷重(F)とし、以下の式にて算出した。
曲げ弾性率;σ=3FL/(2bh)(MPa)
F;荷重(N)、L;支点間距離(mm)、b;試験片幅(mm)、h;試験片厚み(mm)
2.耐衝撃試験(Izod試験):JIS K7110に準じて行った。
【0046】
結果を表1に記す。
【0047】
【表1】

【0048】
*1:アイソタクチックポリメチルメタクリレート、合成例1参照
*2:反応性基含有ポリメチルメタクリレート、合成例2参照
*3:ポリメチルメタクリレート 商品名:パラペットLW1000、クラレ社製
*4:ブチルメタクリレート共重合ポリメチルメタクリレート、合成例3参照
*5:N−アクリロイルモルホリン 商品名:ACMO、興人社製
*6:ダイアセトンアクリルアミド 昭和電工社製
*7:ポリエチレングリコールジアクリレート 商品名:ライトアクリレート9EG−A 共栄社化学製
*8:ジブチルフタレート 和光純薬工業社製
*9:商品名:スタフィロイドAC-4030、ガンツ化成社製
【0049】
<実施例6>
厚み2mmのガラス基板上に実施例4記載の樹脂組成物を加熱し、ゾル状態で縦10cm×横10cm×厚み0.2mmの形状に流延し、10秒間放冷し樹脂組成物をゲル化させた。得られたゲル状樹脂組成物に図1に示す縦10cm×横10cm×厚み0.1mmの形状のマスクを介してメタルハライドランプ(商品名:トスキュア401 東芝社製)を用いて照射強度10mW/cmにて20秒間UV露光し、部分硬化物を得た。
得られた部分硬化物状にさらに以下の工程(2)〜(4)を10回繰り返し部分硬化物の積層体を得た。
工程(2)実施例4記載の樹脂組成物を加熱し、ゾル状態で縦10cm×横10cm×厚み0.2mmの形状に流延する。
工程(3)10秒間放冷し、該樹脂組成物をゲル化させる。
工程(4) 黒色PETフィルムを用いて作成した、図1に示す形状のマスクを介して照射強度10mW/cmにて20秒間UV露光する。
得られた部分硬化物から未硬化部分を除去し、H字型の造形物を得ることができた。
【0050】
表1の結果、特に実施例1〜5の結果から分かるように、反応性基含有ポリメチルメタクリレートを含む光硬化性樹脂組成物は優れた弾性率と耐衝撃性を兼ね備えた硬化物を得ることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例6に用いたマスクの図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):アイソタクチシティが80%以上のメタクリル酸メチル重合体;
成分(B):側鎖に重合可能なエチレン性二重結合を1分子あたり3〜20モル%有し、かつシンジオタクチシティが40%以上であるメタクリル酸エステル共重合体;
成分(C):光重合可能なエチレン性不飽和化合物;
を含有し、成分(A)が成分(A)および成分(B)の合計に対し10〜50質量%であり、成分(C)が成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計に対し60〜95質量%であることを特徴とする光学造形用硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
成分(C)の光重合可能なエチレン性不飽和化合物が、アミド基を有するものを含有する請求項1に記載の光学造形用硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
アミド基を有する光重合可能なエチレン性不飽和化合物が、4−アクリロイルモルホリンである請求項2に記載の光学造形用硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに成分(D)として可塑剤を組成物全体に対し20質量%以下含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学造形用硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
さらに成分(E)として架橋ポリマー微粒子を組成物全体に対し10質量%以下含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学造形用硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
光学造形法であって、以下の工程(1)〜(6);
工程(1):所望の立体形状を3次元CADで設計し、水平スライスデータとする。
工程(2):請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を加熱し、ゾル状態で一定の膜厚に流延する。
工程(3):冷却し、硬化性樹脂組成物をゲル化させる。
工程(4):工程(1)で得られたスライスデータ状に露光する。
工程(5):工程(2)〜(4)を所望の形状ができるまで繰り返す。
工程(6):未硬化状態の光硬化性樹脂を除去する;
を含む光学造形法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学造形用硬化性樹脂組成物を硬化させてなる立体造形物。


【図1】
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【公開番号】特開2006−282702(P2006−282702A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100886(P2005−100886)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】