説明

硬化性樹脂組成物

【課題】無機粒子の使用量が少なくても表面硬度に優れ、硬化皮膜の割れや反りが少なく、生産性にも優れた硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】分子内にシラノ−ル基または加水分解によってシラノ−ル基を生成する基および求核性基を有する化合物(a1)と、分子内に2以上の重合性不飽和基を有する化合物(a2)とを反応させることによって得られる化合物(A)と、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモンならびにセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物粒子(B)とを反応させることによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重合性基含有化合物と無機粒子を複合化させた硬化性樹脂組成物の表面硬度の改良および生産性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックに硬度や耐擦傷性を付与するためのハードコート剤として、(メタ)アクリレート化合物を主成分とする活性エネルギー線硬化型組成物が用いられている。特に多官能(メタ)アクリレート化合物を用いたものは架橋密度が高く、優れた物理特性を付与することができる。また、表面硬度をさらに向上させるため、無機粒子と複合化させた多官能(メタ)アクリレート化合物を用いたハードコート剤が検討されている。
【0003】
無機粒子と多官能(メタ)アクリレート化合物を複合化させる手法は種々検討されているものの、あまり表面硬度が向上しないケースや、無機粒子の使用割合を増加させると透明性が低下したり、硬化皮膜が剛直になるため割れたり、樹脂を塗工したフィルムが反るなどの問題が発生するケースが多く、改良の必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1には多官能性(メタ)アクリル化合物および重合性不飽和基を有する金属酸化物粒子を含有する液状硬化性樹脂組成物が開示されているが、無機粒子と多官能(メタ)アクリレート化合物を複合化させる工程が複雑であるため工業的に不利である点や、表面硬度を向上させるためには無機粒子を多量に用いなければならない点において、改良の余地がある。
【特許文献1】特開2000-143924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、無機粒子の使用量が少なくても表面硬度に優れ、硬化皮膜の割れや反りが少なく、生産性にも優れた硬化性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、分子内にシラノ−ル基または加水分解によってシラノ−ル基を生成する基および求核性基を有する化合物(a1)と、分子内に2以上の重合性不飽和基を有する化合物(a2)とを反応させることによって得られる化合物(A)と、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモンならびにセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物粒子(B)とを反応させることによって得られる樹脂を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の硬化性樹脂組成物は無機粒子の使用量が少なくても表面硬度に優れ、硬化皮膜の割れや反りが少ない。また、汎用原料から2工程で硬化性樹脂を合成可能なため、生産性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明では分子内にシラノ−ル基または加水分解によってシラノ−ル基を生成する基および求核性基を有する化合物(a1)を用いる。求核性基としてはチオール基やアミノ基のように非共有電子対を有し、求核性が高い官能基が挙げられる。化合物(a1)の具体例として、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0009】
分子内に2以上の重合性不飽和基を有する化合物(a2)を前記化合物(a1)と反応させることにより、化合物(a1)の求核性基が化合物(a2)の重合性不飽和基にマイケル付加し、化合物(A)が得られる。すなわち、化合物(A)は分子内に重合性不飽和基と、シラノ−ル基または加水分解によってシラノ−ル基を生成する基を有する。この反応の際、錫化合物などの触媒を用いてもよい。化合物(A)が分子内に2以上の重合性不飽和基を有する場合、得られる硬化性樹脂組成物の硬化皮膜の硬度が向上するため、化合物(a2)としては分子内に3以上の重合性不飽和基を有することが好ましい。このような化合物(a2)の具体例として、公知の各種多官能(メタ)アクリレート化合物などを例示できるが、硬度や反りのバランスなどの点において3官能(メタ)アクリレート化合物が好ましく、中でもトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0010】
ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモンならびにセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物粒子(B)と、前記化合物(A)を反応させることによって重合性不飽和基含有樹脂に対して無機粒子を複合化できる。酸化物粒子(B)はシラノール基を介して前記化合物(A)と複合化させるため、水酸基を含有していることが好ましい。具体的にはコロイダルシリカや、各種溶媒分散ゾルなどが好ましい。
化合物(A)と酸化物粒子(B)を反応させる際、未反応の酸化物粒子(B)が過剰に存在すると、硬化皮膜の透明性が低下したり、皮膜が割れやすくなるため、モル比を適宜調整することが好ましい。
【0011】
本発明の硬化性樹脂組成物には前記複合化樹脂に加えて、分子内に2以上の重合性不飽和基を有する化合物(C)を配合することが好ましい。化合物(C)として公知の各種多官能(メタ)アクリレート化合物などを例示できるが、表面硬度を向上させるため官能基数が大きいものが好ましく、具体的にはジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートなどが挙げられる。
【0012】
本発明の硬化性樹脂組成物は、電子線や紫外線などの活性エネルギー線の照射によって硬化可能であるが、光重合開始剤を添加することによって感度良く紫外線硬化させることが可能となる。光重合開始剤は、例えば、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、などのカルボニル化合物、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、テトラメチルチウラムジスルフィドなどの硫黄化合物などを用いることができる。これらの光重合開始剤の市販品としてはIrgacure184、369、651、500、LucirinLR8728、Darocure1116、1173(以上、BASF社製)、ユベクリルP36(UCB社製)などが挙げられる。
【0013】
本発明で用いる硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂等の各種樹脂や、シラン系やチタネート系などのカップリング剤、殺菌剤、防腐剤、可塑剤、希釈溶剤、流動調整剤、帯電防止剤、増粘剤、pH調整剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、着色顔料、防錆顔料等の配合材料を添加してもよい。また、耐候性向上を目的に老化防止剤や紫外線吸収剤を添加しても良い。
【0014】
本発明の硬化性樹脂組成物は基材上に直接塗布、硬化させることによって硬化皮膜を形成する用途に用いてもよいが、フィルムに塗布、硬化させることによってハードコートフィルムとして用いることができる。フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッソ樹脂フィルム、ナイロンフィルム、アクリル樹脂フィルムなどを挙げることができる。
【0015】
本発明の硬化性樹脂組成物を塗布する方法は特に制限はなく、公知のスプレーコート、ディッピング、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコート、ワイヤーバーなどの塗工法またはグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷法により形成できる。硬化後の樹脂層の厚さは、1μm〜40μmが好ましい。樹脂層の厚みが1μm未満であると、十分な硬度を得ることが難しく、40μmを越えるとクラックが発生しやすくなる。
【0016】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。
【実施例】
【0017】
化合物A1の合成
トリメチロールプロパントリアクリレート10.6重量部、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン5.9重量部および触媒として錫化合物であるビス(2−エチルヘキサン酸)錫(II)(日東化成社製、商品名U−28)0.07重量部を反応容器に仕込み、60℃で2時間攪拌することにより、1工程で化合物A1を得た。
【0018】
化合物A2の合成
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン3重量部および触媒として錫化合物であるジブチル錫オキシラウレート(日東化成社製、商品名U−130)0.04重量部を反応容器に仕込み、イソシアネート化合物であるイソホロンジイソシアネート(住化バイエルウレタン社製、商品名デスモジュールI)1.76重量部を50℃で1時間かけて添加後、60℃で3時間攪拌した。さらにトリメチロールプロパントリアクリレート2.37重量部を30℃で1時間かけて添加後、60℃で3時間攪拌することにより、2工程で化合物A2を得た。
【0019】
複合化樹脂1の合成
前記化合物A1を3重量部、メタノールを分散媒としたコロイダルシリカ(日産化学社製、商品名メタノールシリカゾル)33.6重量部、イオン交換水0.04重量部を反応容器に仕込み、60℃で3時間攪拌後、オルトギ酸トリメチル0.48重量部およびメチルエチルケトン15.3重量部を添加し、さらに60℃で1時間攪拌することにより、複合化樹脂1を得た。
【0020】
複合化樹脂2の合成
複合化樹脂1の合成において、化合物A1の代わりに化合物A2を3重量部用いた他は同様に行い、複合化樹脂2を得た。
【0021】
複合化樹脂3の合成
複合化樹脂1の合成において、化合物A1の代わりに3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名KBM-503)を3重量部用いた他は同様に行い、複合化樹脂3を得た。
【0022】
実施例1
複合化樹脂1を50重量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)50重量部、重合開始剤としてIrgacure184(BASF社製、商品名)0.05重量部を混合することによって、実施例1の硬化性樹脂組成物を得た。
【0023】
実施例2、3、比較例1〜3
表1記載の配合(重量部)にて、各成分を混合することによって、同様に実施例2、3、比較例1〜3の各硬化性樹脂組成物を得た。
【0024】
#14バーコーターを用いて乾燥後の膜厚が約5μmとなるように易接着処理PETフィルムであるルミラー125U46(東レ社製、商品名)に各硬化性樹脂組成物を塗布し、80℃で1分間加熱乾燥後、紫外線照射機を用いて160mJ/cmの条件で紫外線硬化を行うことによりハードコートフィルムを得た。以下の方法で評価を行った。
【0025】
反り
ハードコートフィルムの中心部分を10cm×10cmの大きさに裁断し、ハードコート面を上にしてガラス板に載せた。四隅の浮き高さを定規で測定し、平均値を反りとした。
【0026】
鉛筆硬度
JIS K 5600−5−4の規定に基づいて鉛筆硬度を測定した。測定装置は、株式会社東洋精機製作所製の鉛筆引掻塗膜硬さ試験機(形式P)を用いた。
【0027】
耐SW性
スチールウールとして#0000を用い、ハードコート層への接触面が概ね1cm四方の正方形となるようにセットする。ハードコート面に所定の荷重をかけながらスチールウールをを4〜5cm移動させた後、逆方向に移動させて最初の位置に戻ったときに1往復とする。10往復が終わった後、ハードコート面を観察して傷の有無を確認する。荷重は0.5kgfから始めて0.5kgfずつ増加させていき、HC面に傷が入らない最大荷重を記録した。
【0028】
密着性
JIS K 5400に基づいて評価を行った。試験結果は、セロハンテープ剥離後に100マスのうちでハードコート層の剥がれていないマスの数をnとし、n/100と表記した。また、セロハンテープとしてCT-24(ニチバン社製、商品名)を使用した。
【0029】
【表1】

【0030】
実施例の各硬化性樹脂組成物を用いて製造されたハードコートフィルムは、表面硬度に優れ、反りも小さかった。一方、多官能アクリレート化合物のみを用いた比較例1は反りが大きく、他の複合化樹脂を用いた比較例2、3では表面硬度が十分ではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にシラノ−ル基または加水分解によってシラノ−ル基を生成する基および求核性基を有する化合物(a1)と、分子内に2以上の重合性不飽和基を有する化合物(a2)とを反応させることによって得られる化合物(A)と、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモンならびにセリウムよりなる群から選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物粒子(B)とを反応させることによって得られる樹脂を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記化合物(A)が、分子内に2以上の重合性不飽和基を有することを特徴とする請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに分子内に2以上の重合性不飽和基を有する化合物(C)を含有することを特徴とする請求項1または2記載の硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−77252(P2012−77252A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226026(P2010−226026)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】