説明

硬化性組成物及びそれを接着に用いた構造体

【課題】有機溶剤を使用することなく、従来の酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤と同等以上の接着性能を有し、さらに使用後の容器が廃棄物とならない硬化性組成物や、それを接着に用いた構造体を提供する。
【解決手段】セメント100重量部に対してアクリル系再乳化樹脂粉末30〜100重量部を含有することを特徴とする硬化性組成物を用いる。従来の酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤と同等以上の性能を有しながら、産業廃棄物の発生や有機溶剤使用の問題が発生することないため、モルタルなどのアルカリ性無機下地へ木れんがなどの木質材料系被着体を施工する際に好適に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にアルカリ性無機下地に木質材料などの被着体を接着する際に有用な硬化性組成物及び該硬化性組成物によって、アルカリ性無機下地に被着体が接着されている構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤は酢酸ビニル樹脂をメタノールなどの有機溶剤に溶解させたものであり、垂れにくい、初期の納まりが良い、肉厚に塗布できるため不陸調整ができるなどの特徴を有している。そこで、例えば建築現場において垂直なモルタル面に木れんがを施工する際の接着剤として利用されてきた。
【0003】
一方、溶剤系接着剤は引火性や人体への有害性などの点から、保管や取扱いの際には一定の設備や対策が必要であったり、施工後に有機溶剤を放散することがいわゆるシックハウス症候群の一因となる場合があるため、特に住宅への使用は避けられるようになり、各分野において溶剤型接着剤から水系接着剤への転換が図られてきた。
【0004】
ところが、木れんがを施工する際に水系のエマルション形接着剤を用いると、内部乾燥に多大な時間を要するため肉厚に塗布できず、不陸調整が十分にできないという問題が発生する。また、酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤及びアクリル樹脂系エマルション形接着剤の両者に共通する問題として、使用後に樹脂が付着した金属容器が産業廃棄物となってしまうという点が挙げられる。
【0005】
特許文献1には水性マスチック型接着剤組成物が開示されているが、性状を考慮すると該組成物は金属容器で供給されると考えられる。したがって、使用後の容器は産業廃棄物となってしまう。
【0006】
特許文献2には変成シリコーン系接着剤が提案されており、酢酸ビニル溶剤系接着剤よりも各種基材への接着性が優れているとの記載がされている。一方、変成シリコーン樹脂は耐アルカリ性が十分ではなく、基材がコンクリートやモルタルなどのアルカリ性無機材料の場合は耐久性が十分ではない。
【0007】
特許文献3には、セメント、細骨材、再乳化型粉末樹脂、減水剤および水溶性ポリアクリルアミド系ポリマーからなるセメント系下地調整用組成物が開示されており、旧表面層が軟質であっても仕上げ性、付着強度に優れるものである。しかしながら、木れんがの接着性能は十分ではなかった。
【特許文献1】特開2002−265921号公報
【特許文献2】特開2000−239645号公報
【特許文献3】特開平9−286653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は有機溶剤を使用することなく、従来の酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤と同等以上の接着性能を有し、さらに使用後の容器が廃棄物とならない梱包形態が可能な硬化性組成物や、それを接着に用いた構造体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らはセメントに再乳化樹脂粉末や各種骨材を配合したモルタルに基づいて検討を行ったが、常態強度や耐水強度が十分ではなかった。さらに本発明者らが鋭意検討を行ったところ、モルタルでは種々の再乳化粉末が使用されているのに対して、本用途においては特定の組成を有する再乳化樹脂粉末のみが適することが判明した。また、再乳化樹脂粉末の使用量についても、モルタル用途においては過剰と考えられるほど使用する必要があることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明はセメント100重量部に対してアクリル系再乳化樹脂粉末30〜100重量部を含有することを特徴とする硬化性組成物および該硬化性組成物によって、アルカリ性無機下地に被着体が接着されていることを特徴とする構造体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硬化性組成物は有機溶剤を使用していないため、保管が容易で作業時も安全である他、施工後に有機溶剤を放散しないため住宅にも安心して使用できる。さらに、本発明の硬化性組成物を構成する各材料は紙袋形態で供給され、セメントの調合と同じような作業で調製できるため、使用後には紙袋が出るのみで樹脂が付着した金属やプラスチックのような産業廃棄物が発生しない。また、優れた不陸調整力や耐アルカリ性を有するため、特にアルカリ性無機下地に木れんがなどの木質材料系の被着体を施工する接着剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の硬化性組成物に用いるセメントは、建設業界において広く使用されており容易に入手することができる。セメントの種類は特に限定されないが、通常はポルトランドセメントを用いればよく、必要に応じて早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメントなど適切なセメントを選択する。
【0012】
再乳化粉末樹脂は、乳化重合により得られる各種樹脂エマルジョンの水分を噴霧乾燥することにより粉末化して得られる樹脂である。再乳化粉末樹脂は種々知られているが、本発明に適するのはアクリル系樹脂粉末である。アクリル系樹脂粉末とは、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類やこれらと共重合可能な公知の単量体を乳化重合して得られたアクリル系樹脂エマルジョンを粉末化したものである。再乳化樹脂粉末の使用量は、セメント100重量部に対して30〜100重量部であると木れんがへの接着性に優れるため好ましく、40〜80重量部がより好ましい。モルタル用途と比較すると再乳化樹脂粉末の使用量が非常に多いが、それぞれにおいて再乳化樹脂粉末の役割が異なるためと考えられる。
【0013】
硬化性組成物には、前記各材料の他、通常モルタルを調製する際に用いられる、硅砂、石膏などの各種骨材や、炭酸カルシウムなどの充填材、消泡剤、ケイ酸ソーダなどの硬化促進剤、メチルセルロースなどの増粘剤などを配合することができる。
【0014】
硬化性組成物は、前記各材料および水を混合することにより得られる。混合方法は特に制限はなく、ハンドミキサーやコテなどを使用し、均一になるまで充分に攪拌すればよい。
【0015】
本発明の硬化性組成物は、従来、酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤が使用されていたような各種用途に使用することができる。また、優れた不陸調整力や耐アルカリ性を有するため、特にモルタルなどのアルカリ性無機下地へ木れんがなどの木質材料を施工する接着剤として有用である。
【0016】
以下に、実施例、比較例により本発明について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
普通ポルトランドセメント100重量部、アクリル系再乳化粉末樹脂(ニチゴー・モビニール株式会社製、商品名LDM7000P、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合樹脂)40重量部、珪砂100重量部、水40重量部を混合し、実施例1の硬化性組成物を得た。
【0018】
表1記載の配合に基づき、同様に各実施例、比較例の硬化性組成物を調製した。なお、実施例1で用いた配合材料の他、アクリル系再乳化樹脂粉末であるLDM7100P(ニチゴー・モビニール株式会社製、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合樹脂)、非アクリル系再乳化樹脂粉末であるLDM1650P(ニチゴー・モビニール株式会社製、酢酸ビニルベオバ−エチレン酢酸ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂)、FX2700(日本エヌ・エス・シー株式会社製、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂)を用いた。また、比較例4として水性アクリル樹脂系接着剤を用い、比較例5として酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤を用いた。
【0019】
試験体作製方法
各硬化性組成物をモルタルブロック(JIS R5201準拠)に塗布量300g/m2となるよう塗布し、幅40mm、長さ40mm、高さ10mmのヒノキ材を接着し(接着面積1600mm2)、7日間養生することによって試験体を作製した。
常態強度
各試験体について平面引張り試験を実施し、常態強度を測定した。
耐水強度
各試験体について23℃水中に24時間浸せき後、平面引張試験を実施し、耐水強度を測定した。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例の各硬化性組成物を用いた場合、常態強度、耐水強度とも酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤と同等以上に優れていた。適切な再乳化樹脂粉末を用いなかった比較例1〜3においては、常態強度、耐水強度ともに劣っていた。従来から知られた水系接着剤を用いた比較例4では、常態強度、耐水強度とも大きくに劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント100重量部に対してアクリル系再乳化樹脂粉末30〜100重量部を含有することを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
請求項1記載の硬化性組成物によって、アルカリ性無機下地に被着体が接着されていることを特徴とする構造体。
【請求項3】
前記被着体が木質材料であることを特徴とする請求項2記載の構造体。

【公開番号】特開2009−234814(P2009−234814A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79825(P2008−79825)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】